1単位から始める魔法学園生活   作:山城京@カクヨム

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第4話 決意新たに?

 プレートから浮かび上がって表示されている学内マップ片手に、アイシャと学生街へと向かった。そこでは、学生達が自分のお店で学生相手に商売を行っていた。

 

「すごいな。学園の中に街があるみたいだ」

 

 

「実際そうみたいだよ。経営者も一部を除いてほとんど学生みたいだし、ほぼ全てを学生が取り仕切ってるみたい。まさに学生が自治する学内の街って感じ」

 

「ふーん。なんでアイシャがそんなこと知ってるんだ?」

 

「プレートに書いてあるよ」

 

 そう言って、アイシャは学生街に関する記述のページが開かれたままのプレートを渡してきた。

 

「なんでもかんでも学生がやってるのか。学生が自治するっていっても、普通ここまではやらないよな」

 

「優秀な人材を世に多く出すって学園理念があってこそって感じだよね。魔法技能だけじゃなくて、普通に働くにあたっても有利になるように学園側が上手く設定してるよ」

 

「ここまでいくと学園というか、もう国みたいなものだな。ゲッ、タクシー業まであるぞ」

 

「そう聞くとなんか学園としてそれでいいのかなって気もしてくるけどね……」

 

「まあ、最悪卒業すればタクシーの運転手としてやっていけるだろうし……」

 

「まあねえ。あっ私あそこ行ってみたい!」

 

 アイシャが指差す先には一つのカフェがあった。「カフェ・ショコラ」という名前で、どうやら今日からオープンしているらしかった。

 

 入店し、テラス席に座った俺達は、それぞれコーヒーとアイスティーを注文した。

 

 取り留めのない会話をしながら注文の品を待っていると、「アルバイト募集中!」の張り紙が目に入った。

 

「新入生大歓迎だって。私達も応募してみる?」

 

「つってもなあ……」

 

 アイシャから目を離し、周囲で忙しなく働くウェイトレスの格好に目をやる。

 

 どうやらここは、カフェといってもコンセプトカフェに近いお店らしく、従業員が着ている制服が可愛らしいものだった。

 

 制服の自由度が高いらしくある程度の差異はあれど、ベースとなっているのは学園系であったりメイド系のものだった。

 

 男が着ている制服もバーテンダーのようなものだし、そうなってくると当然働く学生達のルックスも上がってくる。つまり、美男美女ばかりだ。

 

「俺はパス。こういう雰囲気のとこで働こうとは思えない。客として来る分にはいいけどな。それに、他にもいろいろ働ける場所はあるわけだし、すぐに決める必要もないだろ」

 

 口を「ぶー」と尖らせるアイシャに適当な言葉をかけていると、注文の品が届いた。

 

 コンセプトカフェで提供されている飲食物は安物が多いような印象を持っていたけど、コーヒーを飲んだ感じ、ここはそんなことはないらしい。アイスティーを飲んでいるアイシャの反応を見るに、軽食などにも期待できそうだ。

 

「さて、飲み物も来たところでまずは俺の話しを聞いてくれ」

 

「ん? ガイダンスよりも先に? まあいいけど」

 

「さっきトラブルに巻き込まれてたって言ったろ? 実はガイダンス抜けてた間に上級生と単位争奪戦してたんだ」

 

「ええ! 入学初日にいきなり? なんでそんなことになったのさ?」

 

「トイレから戻る途中道に迷ってクロエって先輩に案内してもらうことになったんだけど、その時に単位争奪戦を持ちかけられてさ。他の学生よりも一歩進めるって言われて飛びついちまった」

 

 そこまで聞いてアイシャは頭を抱えて大きなため息をついた。

 

 

 

「まさか幼馴染が新入生狩りにあっているなんて……信じらんない……」

 

「新入生狩り?」

 

「ちょうどエルが抜けてた時に話されたことなんだよ。例年右も左も分からない新入生が言葉巧みに上級生に騙されて単位を奪われるって」

 

「マジかよ。俺以外にも被害にあった連中がいるってことか」

 

「結構な数ね。エル残り単位何個? まさか0とか言わないよね?」

 

「1。もともと8単位あったんだけどクロエ先輩に奪われちまった」

 

「よかった。1単位残してくれただけまだラッキーだよ。学園の規則で0単位になっちゃった学生は1週間単位0の状態が続くと強制的に退学になるから」

 

 だからガイダンスに戻った時青い顔した人がいたのか。彼らもきっと俺のように新入生狩りにあって入学早々単位をなくしてしまったのだろう。

 

「つまりマイナスからのスタートってわけだ。はあ、やっちまった……。なんも考えないで飛びついたのが悔やまれるな」

 

「でもまだ1単位は残ってるわけだから、地道に座学を受けて頑張ろう? スキル買ったりっていうのはそれからでも遅くはないよ」

 

「そうは言ってもなかなか切り替えれないものがあるっての。カナン戦で優勝しないといけないってのにマイナスからのスタートって……」

 

「ま、まあまあ。いつまでもくよくよしててもしょうがないよ。アイリちゃんのためにもここから諦めないで頑張ろう?」

 

 そうだな、アイシャの言うように、俺はアイリのためにもこんなところでくよくよしている暇はないんだ。

 

「よっしゃ! 当面はクロエ先輩に奪われた単位を取り戻すを目標にやっていこう!」

 

「そうそう、その調子!」

 

「うし! そうと決まれば明日に備えて今日はもう寮に戻るか!」

 

「そうしよっか。時間割だと、明日は基礎魔法学だね。一回生全員が取らなきゃいけない必修だから、落としたらまずいしね」

 

 その後、コーヒーを飲みながら軽い話しをしてアイシャと別れた。

 

 アルドヴィクトワール学園は全寮制だが、寮一つとっても成績に応じた格差というものが存在する。上は高級ホテルのような一室から、下は個室がない雑魚寝スタイルだ。

 

 流石に女子には最低でも個室が与えられるようだが、男子の最低は大部屋に5人で寝るような感じらしい。

 

 そんな中俺に与えられた寮はといえば……。

 

「よっす! 俺はフレッド・デューイ。フレッドって呼んでくれよな!」

 

 相部屋の寮だった。入学試験の結果が平均だった場合個室が与えられると書いてあったので、俺は平均よりもちょい下くらいだったのだろう。

 

「俺はエル。エル・グリント。エルでいいぜ」

 

「そっか、じゃあエルで! それにしても、明日からいよいよ講義開始だな。実際どうよ? やってける自信ある?」

 

「んー自信っていうか、俺はロードオブカナンで優勝しないといけないからなあ。まずは学園から成績優秀者に選ばれるように頑張るつもりではあるよ」

 

「カナン戦で優勝するってか? すげーなお前、ずいぶん高い目標持ってんだな」

 

「まあちょっち譲れない理由があってな。フレッドは? お前もなんか理由があって入ってきたんだろ?」

 

「俺かあ? 俺はお前みたいな目標があって入ったわけじゃねえよ。卒業したらいいところ入れるだろうし、そうしたらおふくろに楽させてやれるだろうしな。俺んち母子家庭でさ、親父がロクでなしだったんだよ」

 

「なんだよ、お前だって立派な目標があるじゃないか」

 

 俺の言葉にフレッドは鼻をこすりながら「よせよ」と照れくさそうに言った。

 

「それにさ、この学園ってめちゃくちゃ可愛子ちゃんが多いじゃん? 実はそれ目当てだったりして」

 

「違いない。その辺歩くだけで美人がゴロゴロしてるのなんてこの学園くらいじゃないか?」

 

「だな。普通学年に二、三人くらいしかいない美人がちょっと歩くだけで何人もいるんだもんな。この学園を卒業する頃には美人の彼女が一人や二人、果ては三人くらいできててもおかしくない」

 

「お前ハーレム願望あるのかよ」

 

「バカ野郎! 男なら皆ハーレムを目指すだろう!」

 

「す、すごいなお前、まさかそこまでの熱意があったとは……」

 

 声のトーンも上がり、ものすごい熱量で俺にハーレムについて語ってくるフレッドに適当に相槌を打ってごまかした。

 

「とはいえ、実は俺いきなりピンチな状況なんだよな」

 

「ピンチ?」

 

「新入生狩りにあっちまってさ。黒髪のすげー美人な先輩だからフラフラついていっちまったんだよ。そのせいで、手元に残った単位は1だけなんだよ」

 

「お前もかよ。実は俺も新入生狩りにあってさ。残り1単位」

 

「まさかそんなところまで一緒だとは。いやーなんてーの? フィーリングってのかな? お前とはなんか上手くやってけそうな気がするよ」

 

「俺もそう思うよ。これからよろしくな」

 

 ガッチリと握手をする。クラスに一人は必ずいるお調子者だけど、だいたいそういう奴は根がいい奴だったりする。フレッドも間違いなくそうだ。家族のために頑張ろうって奴に悪い奴はいない。

 

「明日も早いし、そろそろ寝ようぜ」

 

 フレッドの言葉に「そうだな」と返し、学園から供給される魔力で灯っていた電灯のスイッチを押した。

 

 二段ベッドの上から、フレッドの「おやすみ」という声が聞こえた。

 

 しばらくベッドの中で目を閉じていたが、興奮からか今ひとつ眠気が訪れなかった。このままではいつまで経っても眠れないと思った俺は、夜散歩に出ることにした。

 

 昼間に見た学生街の記述では、夜遅く、中には24時間やっているお店もあるようなので、あまりそちらの方に行くと灯りが目についてしまうだろう。そうなると、余計目が冷めてしまうだろうから、人のいなさそうな場所をフラフラと歩くことにした。

 

 そうしてのんびりとしたペースで歩いていると、どこからか男女が言い争う声が聞こえてきた。

 

 カップルの痴話喧嘩とかだったら悪いなとは思いつつも、野次馬根性が出てきてしまった俺は声のする方へと近づいていった。

 

「――まで集めればいいの! もう言われた単位は集め終えたでしょう!」

 

 建物の影に隠れて覗いて見ると、薄暗くてよく見えないが、やはり男女が言い争っているようだった。

 

「何を言ってる。それはあくまで当初言われたものだけだろう。利子が日割りでつくと最初に説明したはずだが?」

 

「だとしてもよ! もう命じられた単位は集め終えたはず、早くアレを返して!」

 

「ダメだ。もっと単位を集めてくるんだ。次の回収日は来週だからな」

 

 男の方はそれだけ言って去って行った。

 

 どうも痴話喧嘩とかその類の話ではないっぽいな。聞かなかったことにした方がいいような内容な気がする。

 

「いつまでこんなことを繰り返せばいいの……」

 

 残された女の人がこっちに向かって歩いてきた。まずいな。どうあがいても聞き耳立てていたのがバレる位置だ。早いところズラかろう。そう思ったのだが、

 

 ガサ!

 

「っ! そこにいるのは誰!」

 

 思い切り草むらを踏み抜いてしまったせいで音が出てしまった。周囲に人がいないからはっきりと聞こえたみたいだ。

 

 しょうがないのでおずおずと顔を出すと、意外な人物がそこに立っていた。

 

「貴方は……」

 

「クロエ先輩?」

 

 入学早々俺を騙して単位を奪っていったクロエ先輩がそこにいた。

 

「今の話を聞いていたの?」

 

「あーいやーその、すんません。聞いてました」

 

 俺の言葉にクロエ先輩はため息をつくと、こう言った。

 

「どこから聞いていたのか知らないけれど、今日聞いたことは忘れなさい。貴方から奪った単位はいつか必ず返すから、それまで退学にならないよう頑張りなさい」

 

 それだけ言って、クロエ先輩は去っていた。その背中がどこか落ち込んでいるように見えたのは俺の気のせいだろうか。

 

 

 

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