1単位から始める魔法学園生活   作:山城京@カクヨム

5 / 10
第5話 友達を助けるために

 煮え切らない何かを抱えたまま寮に戻った俺は、それからしばらくしても眠りにつくことができなかった。そのせいで、若干睡眠不足感は否めないが、いよいよ今日から講義開始だ。気合を入れるためにも、朝入念に冷水で顔を洗って準備してきた。

 

 同室のフレッドを伴って、一回生必修の基礎魔法学が行われる教室に着くと、すでに半数くらいの学生が席に座っていた。その中から、アイシャの姿を見つけて隣に着席した。

 

「エルにしては結構早かったじゃん」

 

「初日だからな、俺だって気合入ってるさ」

 

「おろ? お二人は知り合いさんなの?」

 

「あ、そうか、フレッドにはまだ言ってなかったな。幼馴染のアイシャだ」

 

「私にも言ってないよー。アイシャ・ティアーヌです。よろしくね」

 

「俺はフレッド・デューイ。フレッドって呼んでくれ。しかしエルも隅に置けねえなあ。こんな可愛子ちゃんが幼馴染だなんて、まったく羨まけしからん」

 

「フレッド君はお世辞が上手いねえ」

 

「いやいやマジ可愛いって。サラサラの金髪ロングヘアー、スラリと伸びた色白の手足に目鼻立ちのはっきりとした愛嬌のある顔。胸は、まあ、頑張ろう――ぬぐわ!」

 

 途中まで気分よくフレッドの言葉を聞いていたアイシャだったが、最後の胸への言及で綺麗な右ストレートがフレッドの頬に吸い込まれた。

 

 アイシャは幼馴染という贔屓目を抜きに可愛い方なのだが、悲しいかな胸に女性らしい母性がかけらもないのだ。

 

 本人も気にしているようで、度々胸の大きい女の子に相談しているらしい。その度に牛乳を飲んだりマッサージをしたりと努力をしているようなのだが、残念ながら実っていないようだ。

 

 一度そのことを聞いてみたのだが、どう見ても変わっていないのに「少しは大きくなったもん」とは本人の言である。

 

「出会って3分で右ストレート。アイシャちゃん、いいキャラしてるじゃないの」

 

「フレッド君のキャラもよーく理解したよ。今後は口の利き方に気をつけることだね」

 

「フレッド、女を怒らせてはいけない」

 

「な、なんだよ急に。なんか苦い思い出でもあんのかよ」

 

「俺にもいろいろあったんだよ……」

 

 そう、アイリを怒らせて「お兄ちゃんなんて大嫌い」と言われたこととかな。あの時はショックで自殺しようかとまで思ったくらいだった。

 

 なんて、3人でくだらない話しをしていると、教員が教壇に立っていた。

 

「こんにちは、皆さんにとっては今日が初めての講義ですね。まずは自己紹介をしましょう。私はリーゼ・マイトナーと申します。専攻は紋章学ですが、基礎魔法学と被る部分が多くありますので、例年私が担当しています。以後、よろしくお願い致します」

 

 黒髪ショートのどんぐり眼の童顔という、なんとも教員らしくない教員だった。

 

「本講義の評価基準ですが、基礎中の基礎ということで、皆さんの中にはこれからお話しする内容なんてもう知ってるよ、という人も大勢いらっしゃると思います。ですので、出席は取りません。最後の講義で行われる試験の内容100%での評価とします」

 

 出席、かあ。そういう単語を聞くと、いよいよ自分は普通の学園じゃないところに入学したんだなあって実感する。

 

「通常、初回の講義はガイダンスを行いますが、本講義の内容を説明するには時間が足りないので、ガイダンスなしでこのまま講義を始めていきます。黒板を使って説明していきますので、各自必要と思われる点は板書をノートに写してください」

 

 浮ついた気持ちはこの辺で抑えて、真面目モードに切り替えよう。さて、ノートノートっと……あら? 

 

 カバンの中をどれだけ漁ってもノートが出てこなかった。

 

「やっちまった」

 

「ん? どうしたの?」

 

「ノート忘れた」

 

「えー私予備のノート持ってないよ」

 

「悪いが俺も持ってないぞ」

 

 しょうがない。後でアイシャにノートを写させてもらおう、なんて思っていると、前の席に座っていた女の子がルーズリーフを差し出してきてくれた。

 

「よかったら使ってください」

 

「え、いいのか?」

 

「はい。まだたくさん持っているので、足りなかったら言ってくださいね」

 

「マジ助かった。ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 ぽわぽわした子だったなあ。どこかで見た顔なんだよなあ。内向きにカールした茶髪と、おっとりとした瞳に小柄な身長、果ては声も癒やし系だった。女性らしいソプラノなんだけど、どこかf分の1揺らぎを感じさせる、安心感を覚えさせる声だ。彼女の周囲だけマイナスイオンが発せられているように錯覚する。

 

 なにはともあれ、ルーズリーフをくれたし、後で改めて自己紹介と礼を言おう。

 

「基礎、ということなのでまずは魔素の説明から始めていきます。大気中には、魔素と呼ばれる魔力の元となるものが漂っています。人間には、もともと魔素を取り込み魔力へと変換する能力がありました。しかし、長らく魔力を変換し、外へと放出する術を持ちませんでした。そんな中、魔法学の祖であるアルド・ヴィクトワールが紋章学という学問を起こします」

 

 黒板に紋章学という言葉、そしてその隣にアルドヴィクトワール学園の紋章が描かれた。

 

「紋章学とは、簡単に説明すると描かれた紋章に魔力を送り、対応した魔法を起こす術のことを指します。アルド・ヴィクトワールは当初、人間が魔法を行使するためには対応した紋章が必須だと考え、様々な紋章を生み出していきました。しかし、その過程で、紋章にはある種の共通点があることに気づきます。それに気づいたアルド・ヴィクトワールは、汎用紋章という紋章を生み出しました。さて質問です。汎用紋章で出来ることとはなんでしょう?」

 

 リーゼ教員が教室を見渡し、まばらに上がった真面目な学生の内一人を指した。

 

「汎用紋章で行えるのは、地水火風雷の簡単な魔法しか行使できません」

 

「はい正解です。光や闇、召喚魔法などといった変化球の魔法は汎用紋章では行使できませんでした。しかし、汎用紋章に可能性を見出したアルド・ヴィクトワールは、魔法工学の祖、ノイン・フォーンに協力を持ちかけます。ノイン・フォーンが思い描いていた未来、誰もが魔法を使えるを念頭に研究に研究を重ねました。その結果生まれた物とはなんでしょう?」

 

 再びリーゼ教員が教室を見渡し、適当な学生を指す。

 

「プレートです」

 

「そうですね。プレートが生まれるまでは、一回一回描かれた紋章に魔力を送り、ようやっと魔法を発動するという状況でした。しかし、プレートが生まれたことにより、汎用魔法であれば、プレートがあれば誰でも好きな時に魔法が使えるようになりました。その結果、近代の魔法技術を利用した列車など、魔法工学黄金時代を迎えるわけですね。こちらは専門の方が別の教員でいらっしゃるので、興味のある方は講義を受けてみください」

 

 俺は面白い講義だと思いながら聞いていたが、周囲を見てみると退屈そうにしていたり、中には寝ている人もいた。隣に座るフレッドも爆睡していた。

 

「しかし、どんな魔法でも一つの紋章で行使できるようにしたいと考えていたアルド・ヴィクトワールは、汎用紋章の研究を始めます。先程言った光や闇、召喚魔法などの行使に必要な紋章は、汎用紋章とは共通点がありませんでした。ではなぜ今皆さんが持っているプレートに描かれた紋章を使えば、全ての魔法を行使できるのか? それを知りたい方は紋章学と私は専攻ではないので詳しくないですが、ノイン・フォーンについての講義を受講してください」

 

 ただの紋章だと思っていたものにそんな理由があったとは。二人の天才のおかげで今があるんだと思うと頭が下がる思いだ。

 

「さて、プレートを用いて魔力を行使する際のメカニズムについてお話ししていこうと思います。魔法を行使する際は、通常プレートを手に持ちスキル名を呼び魔力をプレートに送ります。そうすることで、魔法が発動します。しかし、プレート単体での魔法行使では、例えば初級魔法のファイヤなどを使う際、威力や速度などを任意の数値に決めることができません。その理由は、通常のプレートには変数を設定する機能がないからです。では、その変数を設定する、メジャーな方法とはなんでしょうか。それは」

 

 リーゼ教員が黒板に「補助魔導具」と書いた。

 

「補助魔道具は魔法の変数を設定する役割を持っています。例えば、銃タイプの魔導具であれば、魔法の弾速や着弾距離を伸ばしたりなんてことができますね。後日行われる模擬戦で、皆さんにオーソドックスな銃と剣タイプの魔導具をお渡しします。慣れてくると、どちらの魔導具の方が使いやすいなど出てくると思います。学園支給以外のものが欲しくなった方は購買や、技工科の学生に頼むなどして手に入れてください。では、今日の講義はここまで。ご苦労様でした。質問のある方は個別に対応します」

 

 学園での初めての講義が終わった。ワラワラと教室から学生達がいなくなっていく。

 

 俺はといえば、頭に詰め込むことが結構あったせいで、まだ最初の講義だってのに疲れ気味だ。入学前からこういうことを学んでる連中にとっては退屈な講義なんだろうけど、平民の俺にとっては何もかもが新しいことだ。新鮮でワクワクしてる。

 

「終わったーいやー疲れたぜー!」

 

「ウソつけお前、割と最初の方から爆睡してただろ」

 

「甘いな、俺は一見寝ているように見えてしっかりと講義を聞いていたんだよ」

 

「じゃあ今日の講義の内容教えて?」

 

 アイシャからの当然の質問にフレッドはヒューヒューと吹けていない口笛を吹いた。

 

「やっぱり聞いてないじゃん。ダメだよーちゃんと聞いてないと。フレッド君、定期試験の直前で焦って勉強するタイプでしょ」

 

「俺は今までそれでなんとかなってきたから、これからもそれでいくんだ!」

 

「なんの宣言だか……」

 

 フレッドに呆れていると、俺にルーズリーフを分けてくれた子が立ち上がったのが目に入った。いなくなる前に、もう一度礼を言わなきゃ。

 

「さっきはありがとうな、助かったよ。俺はエル・グリント。君の名前は?」

 

「ルーズリーフを一枚渡しただけで、そんなにお礼をしなくても大丈夫ですよ。私の名前は、サーシャ・ブレッドです」

 

「そっか、サーシャか。いい名前だな」

 

「あ、なになに! 新しいお友達の予感! 私はアイシャ・ティアーヌ。名前、ちょっと似てるね。仲良くしようよ!」

 

「俺はフレッドだ! 君みたいな可愛い子にはぜひ名前を覚えてもらいたいぜ!」

 

 俺との自己紹介が終わった途端に、アイシャとフレッドが割り込んできた。フレッドはともかく、アイシャはまだ同性の友達がいないみたいだからチャンスだと思ったんだろう。

 

「わっわっ! 皆さん幼馴染か何かですか?」

 

「エルと私は幼馴染だけど、お調子者のフレッド君は今日初めて会ったよ」

 

「んで、エルと俺は寮が同じ部屋なんだ」

 

「はーすごいですねえ。入学してまだ一日なのに、もうお友達がいるなんてすごいです。私はまだ誰ともお話ししたことがなかったので、お友達がいなかったんです」

 

「ならちょうどいいじゃないか。ここで皆まとめて友達になろうぜ!」

 

 俺としてはとてもいいことを言ったつもりだったんだが、俺の言葉を聞いたサーシャは一転して嬉しそうな顔を暗いものへと変化させた。

 

「どうしたんだ?」

 

「私も皆さんとお友達になりたいのは山々なんですが、実は単位が1個もないんです……。だから、後一週間しか皆さんとお友達でいられないのは辛いなあと」

 

「新入生狩りにあったのか?」

 

「いえ、単位がなくて進級できないと困っている上級生の方がいたもので、私がお手伝いできることならと、つい」

 

 いや、つい、じゃないよ。人それを新入生狩りと言うんだよ。

 

「せっかくお父さんとお母さんが頑張って学費を捻出してくれて、村のみんなも応援してくれたけど、人助けをして退学になったって言ったらきっと納得してくれると思うし、いいんです。私の代わりに誰かが進級できたわけですから」

 

 くそう、この子、相当周りから愛されて育ったんだな。穢れを知らなさすぎる。田舎出身で一生懸命勉強してこの学園に入学したのに一瞬で退学なんて、自業自得とはいえ可哀想過ぎる。俺にはこんな子を見捨てることなんてできない。

 

 アイシャとフレッドの顔を見ると、二人もどうやら同じことを考えているみたいだった。

 

「単位争奪戦をするぞ」

 

「で、ですから、私は単位がなくて……」

 

「退学を賭ければ単位争奪戦できるって昨日説明されただろ? それに、俺も協力する。チーム戦なら勝ち目はあるはずだ」

 

「でも、そんなことをしてもあなたの得にはなりませんよ……?」

 

「うるさい! これは俺の良心との戦いなんだ! わかったらお願いしますって言え!」

 

「え、ええ! そんな強引な……」

 

「俺も協力するぜ。困ってる可愛い子ちゃんを見逃すなんて俺にはできない」

 

「私も! せっかく友達になれそうなのに、いなくなっちゃうなんて寂しいもん!」

 

「み、皆さん……ありがとうございます。私のお手伝いをお願いします」

 

 こうして、入学2日目にして俺達は上級生相手に単位争奪戦を行うことになるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。