1単位から始める魔法学園生活   作:山城京@カクヨム

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第7話 VSフスコ戦

 たどり着いた校舎裏では、予想通りというか可哀想なことにソワソワと落ち着かない様子のフスコが立っていた。何度も読み返されただろうラブレターはくしゃくしゃになっていた。

 

 マジに可哀想だな。男が書いたとは知らずに、まだ見ぬ女学生へと思いを馳せていたのだろう。

 

「我ながら完璧なラブレターだったからなー。恥じらいと好意を上手いバランスで織り交ぜた渾身の一通だぜ。どんな奴でもイチコロだ」

 

「やだやだ。お前ふざけて俺にそんなもん送りつけんなよ?」

 

「エルちゃんの熱い眼差しに惚れちゃったのーってか?」

 

「うひー」

 

「バカ二人、いつまでもふざけてない。サーシャちゃんの単位を取り戻すんでしょ?」

 

「はいはい。二人はここで待っててくれ。全員で行って警戒されたくない。争奪戦は俺とサーシャの二人でやる。行くぞ、サーシャ」

 

「はい!」

 

「大丈夫なの?」

 

 アイシャのその質問に、俺は後ろ手に手のひらをフラフラさせることで答えた。

 

「せーんぱい。初めまして!」

 

「なんだ、お前……あっ! お前は!」

 

 俺の声にビクリと肩を震わせたフスコは、こちらを見るとがっかりした表情を見せた。しかし、俺の後ろにいたサーシャの姿を見て状況を察したようだった。

 

「先輩、サーシャのこと騙して単位取っていきましたよね? 返してください」

 

「フスコさん、私のことを騙したんですか? 違いますよね?」

 

「バカが! 騙される方が悪いんだよ! そんな無能はとっとと学園から去れ!」

 

「だってさ、サーシャ。やっぱり騙されてたろ? 世の中にはこういう奴もいるんだ」

 

「……信じたくありませんが、これが現実なんですよね」

 

 俯いたサーシャは、大きく深呼吸をした。そうして前を向いた時には、サーシャの瞳はこれまでの気弱なものとは一転して決意を抱いた瞳になっていた。

 

「フスコさん、私と単位争奪戦をしてください!」

 

「アホか? 単位争奪戦も何も、お前賭ける単位がないだろ?」

 

「ええ、ですから、私の退学を賭けます!」

 

「とんだ間抜けがいたものだな! 一回生が二回生に勝てるとでも思っているのか?」

 

「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困りますよ。俺もアンタに単位争奪戦を挑む。チーム戦だ。それならアンタに入る単位も多くなるだろ?」

 

「揃いも揃ってバカばかりだな! 雑魚がいくら束になったところで上級生には敵わないんだよ。いいだろう、受けてやるよ!」

 

 よっしゃ! 自然な流れでチーム戦まで持っていけた。後はルールを決める権利を獲得するだけだ。

 

「ルールはどうします? 普通にやるんじゃ先輩も面白くないでしょう?」

 

「どうせ俺が勝つんだから、ルールなんてどうでもいい。せめてもの情けだ、ルールはお前達に決めさせてやるよ」

 

 バカで助かった。余計な駆け引きの手間が省けた。

 これで条件は全てが揃った。後は俺達の根性とチームワークが勝敗を決する。

 

「ありがとうございます」

 これが、フスコに言う最初で最後の礼だ。

 

「勝利条件は、相手の背中を地面につけること。これでどうですか?」

 

「はーはっはっは! 少しは捻ったルールを提示してくるかと思ったら、まさか俺の得意なルールを提示してくるとはな! 俺は構わないが、本当にそれでいいのか?」

 

「はい。それでいきましょう。いいですね? 俺達と、『単位争奪戦』してください」

 

 懐からプレートを取り出し、魔力を通す。そうすることで、プレート側が勝手に頭の中のルールを読み取ってくれる。

 

「いいだろう!」

 

『単位争奪戦の同意が得られました。これより単位争奪戦を開始します』

 フスコが返事をすると同時に、手にしたプレートが機械音声を発した。

 

『ベッド単位数は合計16単位及び退学。勝利条件は相手の背中が地面に着いたと認められた場合となります。開始まで10秒、9、8』

 

「速攻で蹴散らしてやる」

 尊大に言うフスコをよそに、俺とサーシャは事前に打ち合わせていた内容をアイコンタクトで確認する。会って間もないが、それなりの信頼関係は築けたはずだ。

 

『開始』

 

「ブースト!」

 

 まず、開始の合図と同時にサーシャが俺にブーストという身体強化魔法をかける。これによって、俺は一時的にすべての身体能力が底上げされる。そして、予定では生まれたゴーレムを翻弄するのが俺の役割だったのだが、ここでまさかの不確定要素が割り込んできた。

 

 フスコは開始の合図と同時にいきなり腰に差していた剣を抜いた。たぶん、あれが講義で習った補助魔道具だ。フスコはその補助魔道具と思しき剣のつばにプレートを差し込み、最後にその剣を大地に突き立てた。

 

「アースゴーレム」

 

 そこまで準備して、フスコがスキル名を呼ぶと、剣が突き刺さった部分を中心に土が盛り上がり、徐々に人間大のゴーレムが出来上がった。多少不確定な要素が混ざったが、まだ修正は効く。

 

 さあ来いと意気込むも、一向にゴーレムが襲ってくる様子がなかった。不審に思って遠巻きにフスコの様子を伺うと、何やらゴーレムの後ろに回って剣を引き抜いていた。

 

「なんだか知らんけどいくぜ!」

「な、待て!」

「待てと言われて待つ奴はいない!」

 

 ブーストのスキルで強化された身体能力をフルに活用してフスコの操るアースゴーレムを翻弄する予定だったのだが、どれだけ接近してもフスコのアースゴーレムが動く気配はなかった。動いてくれないと翻弄できないからこっちが困るんだが……。

 

「ふぅ、間に合った。ゴーレム操作!」

 

 間に合っていないというツッコミは置いておくとして、読めたぞ。フスコの魔法はゴーレムをつくるのと操作で別々の魔法なんだ。だが、その操作スキルもおそまつなものだ。情報通り、単純な命令しかこなせないらしく動きが単調だ。これなら避けられる。

 

「ほらほら! 俺はこっちだぜ!」

 あっちへ逃げてはこっちに逃げてを繰り返す。鈍重な動きしかできないフスコのアースゴーレムでは、俺の姿を捉えることはできない。

「ちょこまかと! ええいうっとおしい! 薙ぎ払え、ゴーレム!」

 

 そうして、フスコが苛立って狙いが完全に俺になった頃合いを見計らって――。

 

「今だサーシャ!」

「はい!」

 

 サーシャは俺にかけていた身体強化を解いた後、即座に別の対象へと身体強化をかけた。その対象とは、フスコの操るアースゴーレム。

 

「な、なんだ? 急に動きが……!」

 

 命令に対して鈍重な動きで答えていたアースゴーレムが急に機敏になったことで操作系統に混乱をきたす。ここまで予定通り。サーシャは完璧な仕事をしてくれた。後は俺がヘマをしなければ勝てる!

 

「アッシュ!」

 

 思うように動かないアースゴーレムの足首にアッシュをかける。

 俺のスキルは土を灰に変える能力だ。まだ初級魔法だし、補助魔道具もないからあまり派手なことはできないけれど、それを補って余りあるほどフスコのスキルとは相性がいい。

 

 重要な一部分が灰になってしまったことでバランスを崩したアースゴーレムは、地に伏した。残るのは、もやし野郎ただ一人。

 

「歯ぁ食いしばれ!」

「ぐぼら!」

 俺の渾身の右ストレートを食らったフスコは綺麗に地面に倒れた。つまり、

 

『敗北が確認されました。勝者、エル・グリント、サーシャ・ブレッド。勝者には16単位及び学園からのインセンティブとして16単位が分割された後、移乗されます』

 

「よっしゃあ! 俺達の勝ちだ!」

「やりました!」

 

 プレートを確認すると、残り1単位だった部分が16単位になっている。合計32単位の二分割だから、サーシャも0単位だったのが16単位になっているはずだ。

 

「やったなエル! すげーパンチだったぜ、見てて爽快だった! サーシャちゃんもよく頑張ったな!」

 

「私なんて、何も……作戦からなにまで全部エルさんがやってくれましたし」

 

「そんなこと言わないの! サーシャちゃんだってちゃんと頑張ってたよ! ね、エル?」

 

「ああ、サーシャがいなかったらこの作戦は成立しなかったからな」

 

 サーシャ抜きで戦ったとしたら、いくら落ちこぼれとはいえアースゴーレムの足首を灰にした程度では勝てなかっただろう。サーシャがブーストでフスコのコントロールを混乱させてくれたからこその結果だ。

 

「そんなバカな……ありえない。この俺が一回生に負けるなんて……」

 

「先輩知ってるかー? そういうの三下のセリフって言うんすよ?」

 

 フレッドがニヤニヤとすでに死に体の先輩に言葉の暴力を被せていく。

 

「あと先輩、あのラブレターですけどね。大切そうに読んでましたよね?」

 

「そ、そうだ! 俺に一目惚れしたというサーフという子は!?」

 

「そんな子は最初からいませんよ。だってあのラブレター書いたの俺だし」

 

「ウソだああああああああああ」

 

 

 フスコは頭を抱えてイヤイヤをし始めた。なんか、俺達に負けた時よりもショックが大きいように見えるのは気のせいだろうか。

 

「フ、フレッド、その辺にしといてやれよ。泣きっ面に蜂だぞ」

 

「可愛子ちゃんを騙した報いだよーん。俺ちゃんそういう奴が一番嫌いなのよね。ま、エルが言うんなら、この辺にしといてやるか」

 

「せっかくだし、ショコラで祝勝会やろうぜ」

 

「さんせーい。私ケーキ食べたい!」

 

「あ、ケーキいいですね。私も食べようかなあ」

 

「やっぱ祝勝会っていったら肉だろー」

 

「まあまあ、着いたらノリで決めようぜ」

 

 こうして、俺達が初めて能動的に行った単位争奪戦は勝利に終わった。サーシャの退学も取り消されて、俺の単位も増えた。万々歳だ。

 俺達は笑顔のままショコラへと向かった。

 

 

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