執務室を出て、とりあえず食堂、と言うよりも厨房に向かった。勿論、電ちゃんも一緒に。
二分ほど歩いただろうか、先ほど紹介されたばっかの食堂兼厨房に着いた。こうみると本当に旧校舎なのだと思う。ある程度の人員を収容できるであろう広い食堂に、食事を受け取るための台や、返却口、完全に学食のあれだ。
俺は厨房に入り、食料庫の中を見てみた。
塩胡椒や味噌、醤油などの基本的な調味料は元から備わっていたのを目にしたが、食材はどうなのかが気になり、此処に来たのだ。今のところ二人しかいないとはいえ、食事は取らないといけない。早速、夕食のことを考えないといけない。
「どれどれ…ウィンナーにキャベツ、人参、ピーマン、あとビール…?」
いろいろ漁ってみると、肉類はウィンナーとベーコンの加工肉のみで、野菜全般はある。お米は今のところ十分なほどの量がある。パンは四角い食パンとフランスパンがあったが、米に比べたら少ない。他にも牛乳、卵は十分あった。なぜだかは知らないが、酒類がビール、焼酎、ウィスキー、ブランディー、コニャックと、以上なほどに備わっている。
さて、どうしたものかと、腕を組みながら考えていると、一緒についてきた電ちゃんが聞いてきた。
「司令官さん、何を考えているのですか?」
「うん?あぁ、今日の夕食の献立をね」
うん?そういえば、電ちゃんって、今まで此処で何を食べていたのだろうか。
「電ちゃん、俺がいなかった間は何を食べていたの?」
俺の問いに、電ちゃんは答えを口にした。
「今まではパンにジャムを塗って食べていたのです」
「それは、いつから?」
「…多分、三日前からなのです」
あぁ、三日前か。よかった。何ヶ月前とかだったら、多分、俺の心が砕け落ちていただろう。どうりでパンが比較的少なかったわけだ。
「よし、電ちゃん、好きな食べ物を言ってごらん」
俺は別に食べたいものが思い浮かんでないし、今日の夕食は電ちゃんの好物にしておこう。
「好きな食べ物は牛乳なのです!」
電ちゃんは握り拳を作りながら堂々とそう答えた。可愛い。でも牛乳か。うーん、どうしよう。
「そうだなぁ、その、好きな料理はどうかな?」
「電はなんでも好きです」
なんでも、か。なんでも、ねぇ。どうしよっかなぁ。こういうときは、いつもなら生姜焼きで済ませるんだけどなぁ、肉がねぇからな。しゃぁねぇか。あれを作ろう。あれなら電ちゃんも美味しく食べるだろう。
俺は卵とケチャップ、コメ、ウィンナー、マッシュルーム、バター、胡蝶、油を準備した。先ずは下準備としてご飯を炊き、同時にウィンナー、マッシュルームを輪切りに刻む。フラーパンも準備して、ご飯ができるまで待とう。
ご飯ができたらフライパンにバターで油を敷き、そこにケチャップ、適量の胡椒、刻んだウィンナーとマッシュルームを炒め、ある程度炒めたらご飯も入れちゃう。いい程度に炒められたらさらに盛っておく。
次に卵を解き、油を敷いたフライパンに注ぐ。とき卵はなるべく固まらないようにし、ギリギリ半熟の時に、さっき盛ったケチャップライスの上に乗っける。最後に卵の上に適当にケチャップをかけると、即席オムライスの完成だ。今回はラグビーボール状にはしなかった。なぜかって?面倒だからだっ。
因みに、台越しで俺の料理を見ながらおぉとか言いながらリアクションしていた電ちゃんが可愛かった。
「よし、夕食にしよっかね、電ちゃん」
「はい!」
電ちゃんがスプーンとコップ(片方は水、片方は牛乳)を準備してくれたテーブルにオムライス二皿を持って行った。牛乳が置いてある方はひと回り小さい方のオムライスを、水の方は並盛り程度のオムライスを置き、向かい合うように座る。
俺が手を合わせるのを見て電ちゃんも手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
俺の後を追っていただきますを言って、小さな食事会が始まる。
俺はスプーンを手に取るが、まだ食べない。電ちゃんが美味しいって感じてくれるかが気になる。即席で作ったものだし、何より7年ぶりに作ったちゃんとした料理なのだ。ちゃんとできているのかが気になる。
電ちゃんがスプーンを手に取り、オムライスを一かき、そして口に入れた。直後、スプーンを口に咥えたまま目を見開く。足もパタパタしている。どっちだ?どっちなんだ?
「電ちゃん、どうだい?口に合うかい?」
「…もいひいえす(美味しいです)!」
幸いにも、電ちゃんの口にあったようだ。安堵した俺もオムライスを食する。食するが、電ちゃんがオムライスを頬張る姿についつい目がいってしまう。何だか微笑ましい気分で、お腹一杯になりそうだ。
(子供、か)
最後に子供のこと、結婚のことを考えたのは大学の頃だった覚えがある。もし俺に子供がいたら、こんな感じになるのだろうか。もし、大学を卒業した後、下士官にならず、一年半の兵役を済ませた後、子供ができていたなら、もし、戦争に巻き込まれていなかったら、丁度電ちゃんくらいになっていただろう。
改めて、7年の歳月の長さを実感した。いや、初めて7年の歳月を実感したのかもしれない。7年もあれば、子供はこんなにかわいく育つ。7年もあれば、青年もおっさんになる。
想像もしていないところで7年の歳月の現実を突きつけられ、妙な気分になった。よく、心が抉られると言う表現があるが、今の俺は、抉られるまでにはいかないが、心の薄い膜の切れ端を焦ったく弄られる感覚というべきか、心許ない心の膜が剥がれそうというべきか、いまいち定まらない。あまり愉快な気分にはなれない。
「司令官さん、大丈夫ですか?」
寄り道したように考え込んでいると、電ちゃんが心配そうな声でそう聞いた。
「何がだい?」
「司令官さん、元気ない顔でしたので、心配で…」
どうやら、考え事が表情に漏れたらしい。
「そうか、そうか。そんな顔になっちゃっていたか。心配させちゃったね」
そう言いながら、電ちゃんの頭を優しく撫でた。
「ごめんね、大丈夫だよ。ちょっと、今まで考えたことないことを考えていたんだ。それで、ちょっと難しくなっちゃってね」
撫でながら、そう告げた。
「でも、大丈夫なんだ。電ちゃんて、優しいんだね。立派だ」
まさか褒められるとは思わなかったのか、慌てていたが、何とか頷いた。
ご飯を食べ終えた後、ビールを飲みたい欲望を抑え、寝室で眠りについた。
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