皆様本当にありがとうございます!!
ここは、ナイトレイドアジトから帝都に行く途中に存在する森の中。
木々の隙間から零れた微かな陽光が二つのシルエットを写す。
片方は人間。それは分かる。体格からして男だろう。
しかし、もう片方、人間に追従しているのは・・・・・・獣?
四足歩行の動物が、男に首輪を引かれて進んでいる。
そういった感想が出てくるであろう光景だ。そして、草の屋根が晴れその姿があらわになったとき、またこういう感想が出てくるのだろう。
すなわち、
えぇ?(困惑)
と。
俺だって客観的に今の自分を見れば困惑する。
だって、レオーネ姐さんが四つん這いで着いてきてるんだもん。
四つん這いで、着いてきてるんだもん。四つん這いで・・・・・・。
しかも、その首には猛獣でも捕まえるのかという鉄製の首輪がはめられ、そこから鎖が俺の手まで伸びている。
半獣化はしていないものの、四足歩行の獣だった。
目が完全に飢えた獅子のそれだった。
「どうだタツミ!アタシの方がシェーレよりもペットっぽいだろう?」
獣が見せる独占欲と対抗心。手と膝を土で汚しながらも、レオーネ姐さんは嬉嬉として笑顔を浮かべる。
そう、何故レオーネ姐さんがこんなトチ狂った行動に出たかというと、今朝ホクホク顔で起床してきた首輪付きシェーレさんを見て、全てを悟った上謎の嫉妬を発動したからだ。
自分をペットにしてくれと
理由までトチ狂ってる。トチ狂いガールだ。
「もうあんな奴らと話しちゃダメだぞタツミ。タツミの要望は全部おねーさんが叶えてやるから」
花咲くような笑顔だが、如何せん瞳に輝きがないため恐怖以外の感情が湧かない。
くたびれながら足を前に出すと、爪先が盛り出た木の根っこに引っかかった。疲労が視野を狭くするとは事実のようだ。
「はぐぅ♡♡」
俺の身体が前によろければ、当然手に握った首輪も引っ張ってしまうわけで、レオーネ姐さんは唐突かつ乱暴に首を引かれることとなった。
「ご、ごめんレオーネ姐さん」
「た、タツミ♡♡すごい♡今のっ♡♡もっかい♡♡♡もっかい雑に引っ張って♡♡♡♡」
ダメだこりゃ。
足元に意識を集中させつつも、足を速める。
向かう先は帝都。買い出しである。
街にさえ着けば、流石にこの四つん這いプレイも終わりを迎えるだろう。
希望を胸に、森を急いだ。
あ、やべ、また根っこだ。
「ひゃぁぁ♡♡♡♡」
■■■
そんなこんなで帝都のスラム街。
イメージと反してここは活気づいていた。
「ふふん。タツミ、おねーさんがここを案内してやるぞ!」
四つん這いから直立二足歩行に進化したレオーネ姐さんが胸を張る。依然として彼女の首では鈍色がギラついているが。
なんでもスラム街は自分の街も同然なんだと。
というかレオーネ姐さんが胸を張ったことで、反動で二つのお饅頭が凄いことになっている。
すげえや。
「先ずはこっちだ!」
レオーネ姐さんに手を引かれる。
全力で幸せオーラを撒く姿を微笑ましく眺めている最中、肩に衝撃が走る。
「あ、すいません」
「・・・・・・いえ」
ぶつかってしまったのは、普通のおじさんだった。
咄嗟に謝りを入れるが、返ってきたのは品定めする様な視線と無愛想な返事だけ。
そのまま直ぐにおじさんは人混みに消えていく。
「?なんかしちゃったかな?まあいいか」
やけに足早に去って行ったことに疑問が湧くが、そういうことも有るだろうと割り捨てた。
「ほらタツミ、こっちだこっち!」
元気いっぱいなレオーネ姐さんがグイグイと引いてくるため慌てて着いていく。
そこでようやく異変に気づいた。
ポケットに感じるはずの重さが消えている。
まさかと思い手を突っ込むと、案の定財布が消えていた。
「・・・・・・今の奴か!?」
「ど、どうした?急に大声上げて」
「金、金取られた!」
「なに!?タツミのお金を盗むとは許せん!!」
え?それお前が言うの?
「さっきの男だな?待っててくれ。直ぐに取り返してやる」
制止の暇もなく、レオーネ姐さんがスラムの街に飛び込んだ。
完全にアサシンの目で駆けていくが大丈夫だろうか。
見えなくなっていくレオーネ姐さんの背中に、先の男の無事を祈るばかりだった。
ん?あの店で売ってる串焼き美味そうだな。お、こっちもなかなか良さそうだ。
鼻腔を突き抜けるスパイシーな香りに、無意識のうちに足が動く。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・迷った。
あっちの屋台こっちの屋台と彷徨ううちに、帰り道が分からなくなってしまった。
スラム街で一人はそこそこに危機的状況なのではないだろうか。
しきりに辺りを警戒する。怖いアンちゃんには近づかないようにしなくては。
「──どうかしましたか?」
「ひいっ!?」
背後から声が掛かる。
反射的に驚いたが、振り返った先にいるのは女性だった。怖いアンちゃんじゃなかった。
脳が冷静を取り戻していく。
「す、すみません、そんなに驚くとは」
目を丸くする女性。
茶髪ツインテールの美人さんだ。
しかし注目すべきはその服装。軽装の鎧。
「その服は」
「帝都警備隊セリュー!正義の味方です!」
やはり、警備隊か。アカメ達から危険だから近づくなと口酸っぱく言われた相手だ。
つまりこの娘は、ナイトレイドの敵。
「きゅぅぅぅ〜」
平静を装いながら最大限の警戒を敷いていると、足元から形容しがたい鳴き声が聞こえた。
なんだこのちっこい生物。
ヘンテコな二足歩行の犬?的な謎生物が不機嫌そうにこちらを見てくる。
威嚇に小さく唸ってさえいた。
よく分かんないけどキレられてる・・・・・・。
「あのー、ソレは?」
ヘンテコ生物を指して尋ねる。指を向けられたことで更にジタバタ暴れてらっしゃる。
「帝具ヘカトンケイル!ご心配なく、悪以外には無害ですから!」
所謂、生物型帝具という物か。じゃあ俺とこの帝具の相性が悪いから嫌われてるのだろう。俺も初見ヘンテコって感想が出てきたし。
「ところで、お困りなのでは?」
下から刺さる敵意の視線とは真逆の親切百パー笑顔、敵ということも忘れて癒されそうだ。
「ああいや、道に迷ってしまって。もといた場所の名前は分かるんですが・・・・・・」
「それは大変!パトロールがてら、お送りしますよ!・・・・・・こっちです!はぐれないでくださいね!」
強引に手を取られる。
女の子らしい柔らかい手。
でも俺はドギマギしない。この程度のスキンシップ慣れっこなのだ。
・・・・・・ドギマギしない。
「きゅうううう〜〜!!」
は?別に意識してねえし。変な事言うなしヘカトンケイル。
下で騒ぐヘカトンケイルことコロを睨みつけたら、更に暴れ具合が上がる。
怒りボルテージの溜まったコロが、俺の足に体当たりを繰り返す。
しかしブヨブヨという感触だけで欠片も痛くない。
無視して歩くその
唐突に、
本当に唐突に、
心臓が大きく鼓動した。
「ぐっ──!?」
身体の中が煮え立つ。
湧き上がる力の本流は、瞬く間に肥大化し、最早抑えきれない程まで到達してしまった。
他の帝具に刺激されたのか、それとも唯の偶然か。
遂に限界を超えたその力は、体外へと解き放たれる。
カーマデーヴァが、暴発した。
「はぁ、はぁ、・・・・・・やばい」
全力で抵抗した影響により、酷く疲労感がのしかかるが、そんな事気にかけられる余裕も無い。
目の前で俺の手を引く体制のまま微動だにしないセリューを、固唾を飲んで見つめる。
本当にやばい。カーマデーヴァが暴走した。つまりそういうことだ。
ガクブルに震ていると、無言でセリューが歩き出した。
手を繋がれた状態なので着いていく他ない。
ただ無言で足音だけがいやに大きく響く。
先行するセリューの背中と、揺れるポニーテールが何故か不気味に感じられる。
暫く沈黙の間が続き、セリューはやがて路地を曲がった。
驚く程狭く暗い道に入る。左右を壁に阻まれた窮屈なそこは、分かりやすい程に路地裏だった。
「あ、あのー、セリューさん?」
「・・・・・・・・・・・・こっちの方が近道なんです」
だいぶ溜めた後に、セリューは短く呟いた。
絶対嘘だろ。
「俺、やっぱりこの辺で──」
引き攣った笑顔で緊急離脱を試みた瞬間、握られた手がえげつない力で締め付けられた。
いだだだだだだ!!折れる折れる!
骨の軋む音が聞こえる程に強い力だ。
「大丈夫です!私に着いてくれば安全ですから!・・・・・・あ、ところでお名前はなんて言うんですか?」
決してこちらを振り返らずに声だけ飛ばしてくる。
「た、タツミだけど。辺境出身だから苗字はないよ」
「そうですか、・・・・・・タツミさん。タツミさん。タツミ・ユビキタス・・・・・・フフフ」
タツミには知りえないことだが、この時のセリュー――フルネームでセリュー・ユビキタス――は、瞳孔はカッ開いてるし、口端は異常なほど吊り上がってるしで、ドン引き必至の捕食者の顔、又はサイコパス顔だったため振り返れないのだ。
「きゅ〜〜」
先の険悪な振る舞いとは打って変わって、上機嫌に俺の足にコロがしがみつく。
コロまで懐いたんだけど、カーマデーヴァって異性の好感度上げるんだよな。人型の帝具以外に性別とか無いはずだけど。
「きゅっきゅっきゅ〜」
俺の足元で楽しそうにはしゃぐコロを見ていると、そこに含まれているのが、恋愛的感情ではなく信頼のようなものだと何となく分かった。
あんな生活を続けると否が応でも愛情には敏感になる。
無性相手には信頼度が上がるようにできてるのか?
・・・・・・ふむ、分からん。もう少し情報がないと断定しかねるな。
カーマデーヴァの能力考察は一旦諦め、この誘拐寸前の状況を打開する方に頭を回すほうが賢明だ。
まずはこの握り潰さんばかりの手から逃れる。全てはそこからだ。
手を軽く引いてみる。
凄まじい握力に磨きがかかってしまった。いたい。
・・・・・・・・・・・・これ無理じゃね?
最初の壁が果てしなくデカい。無理だ。諦めよう。
抵抗が無意味であると静かに悟り、俺はただセリューの後を追うだけとなる。
大人しく誘拐されようと腹を括ったその時、俺の目の前で轟音が炸裂した。同時に粉塵が舞う。
一瞬にして視界を遮られたかと思うと、俺の身体が強く後ろに引っ張られた。
唐突な出来事にセリューとの手が離れる。
俺は流れるようにその人に担がれ、入り組んだ路地裏を人外じみた速度で駆け抜けていった。
「れ、レオーネ姐さん?」
俺を担いで疾走しているのは、半獣化までしたレオーネ姐さんだった。
どうやらあの状況から俺を救出してくれたらしい。
「タツミ!大丈夫だったか!?警備隊の女に変なことされなかったか!?ごめんタツミ、アタシが離れたばっかりに」
酷く不安に染まった表情で、自分の不甲斐なさを嘆くレオーネ姐さん。
「別に何ともなかったから大丈夫だよ」
なるべく穏やかな笑顔を意識して言うが、レオーネ姐さんの不安は拭いきれていなかった。
「あの警備隊の女、確実にタツミに気があった。──チッ、色目使いやがって、アタシの許可無くタツミに触れるなんて許さない。次会ったら確実に殺す・・・・・・だいたいアカメ達もそうだ。タツミに必死で尻尾振って、本当に醜い。アタシなんだ。タツミのペットはアタシなんだ。なのにあの雌共、ことある毎に擦り寄って。ペットはアタシ一人だけなのに。ああ、腹立たしい・・・・・・」
不穏な言葉を並べ立てた小声の呟きを、俺は微かに聞いとる。
身震いしながら、俺はレオーネ姐さんに担がれて郊外まで駆けるのだった。
■■■
タツミが連れ戻された後、セリューは活気づくスラム街を鬼の形相で駆け回る。ちなみにコロは引きずられてる。
「クソクソクソクソッッ!!どこに行ったあの女!!私とタツミさんの逢瀬を邪魔しやがって!!本当なら今頃は私の家で愛を囁きあっているはずだったのに・・・・・・助けなきゃ。あの女の魔の手からタツミさんを助けなきゃ。そうだ、タツミさんだって私の助けを待っているはず。待っていてくださいタツミさん!直ぐにセリューが助けに向かいます。もしそれを邪魔するやつらがいたら
・・・・・・そいつらは悪だ。一人残らず殺してやる。
さあ、タツミさんに近寄る羽虫共を全て駆除するために、正義出動だ・・・・・・アハハ♡」
セリューちゃんと会うことで、エスデス様主催の例の大会に危険だからと出して貰えなくても、イェーガーズと接触する機会が作れるという。通称、全ての流れを変えるセリューちゃん