ハイスクールD×D~ベルの魔王が死んだとき   作:山寺獄寺

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この小説はハイスクールD×Dとデビルサバイバーを混ぜたら面白そうという、作者の妄想を元に作られています。

今回、初戦闘及びスキルが何種類か出てきます。解説はあとがきで。


魔人、転生する

意識のみ連れ去られた俺は、どこかよく解らない場所にいた。

 

上も、下も、左も、右もなく。暑くも、寒くもない。

 

どこまでも真っ暗な闇が広がっていた。

 

「どこだよ、ココは――」

 

気付けば、意識だけだと思っていた俺に体が出来ていた。ついさっきまでと同じ、寸分変わらぬ自分の体。けれども、魔王の気配はまったくない。

そして、自分の体の大きな変化を感じていた。

 

魔力に溢れていた。

 

人間でも悪魔での天使でもないような、そんな力だった。

 

少し考えたが、答えは出ない。だから、ココに連れて来た本人に訊くとしよう。

 

「ニャルさん、いるんだろ?」

 

〈おっと。バレバレ? ならなら仕方ないなー〉

 

目の前の空間が歪むと同時に、闇の密度が増していく。

 

「あいやしばらくゥ~。主の望みに応じて、我参上ッ!! 我は〈這い寄る混沌〉ニャルラトホテプさんでごぜ~ます。どうも、ご主人様」

 

闇が集まって姿を現したのは、可愛らしい女の子だった。北欧系の透き通った肌に、血のように紅のカチューシャをつけたブロンドの長い髪。紺に近い黒のワンピースを身に着けていた。白のハイソックスに革靴。

一目見れば決して忘れないような美少女だった。

 

そんな彼女――ニャルさんは俺に向かって小さくお辞儀すると、小さな口を三日月形にニンマリと歪めた。

 

気づけば、まわりの景色がどこまでも続いているような白一色の世界に変わっていた。単色なため、どれぐらいの大きさの空間かすらわからない。

 

「どうもニャルさん。んで? どうして俺はアンタのなかにいるのかな?」

 

「ご主人様は早漏過ぎますよ~。あれですか? セッ○ス後はタバコ吸ってさっさと寝ちゃうダメ男君ですか? もう少し奴隷との会話を楽しんでみてもイイじゃん? 今なら我の大人バージョンが快楽の園に連れて行ってくれますよ~」

 

「時間があるならお誘いに乗ってもいいんだけど、このままココにいたら混沌に飲み込まれそうだし止めとくよ。あと、俺は童貞だからヤッたあとのことなんて解んないな」

 

そう言って、俺が先を促すと、ニャルさんは舌をペロッと出して自分の下唇を舐めた。姿形は無垢な少女だが、こういった行動の端々から妖艶な魅力を感じさせた。

 

「残念、このまま私と一緒に享楽ライフを過ごさせようと思ってたのに~。それにしても、不能さんですか? ご主様なら女なんていくらでも手に入ったでしょうにねぇ。ハル、ユズ、マリに、アマネって巫女さんも。皆、好き好きオーラ全開だったじゃないですか~。仲魔にも誘惑されまくりだったし」

 

「なんとなく、俺はそのうち死ぬんだなって予感があった。彼女たちの思いに答えてあげることは出来なかったよ。あと、仲魔たちは誘惑して精を搾ろうって連中ばっかだったし」

 

ニャルさんの言った人たちの顔を一人ずつ思い浮かべる。

 

どうしているんだろうか?

 

東京はどうなっているだろうか?

 

俺は間違いなく死んだ。そして、新たなベルの王が生まれた。それによって東京封鎖は解かれることになるのだろうか。

 

平和な日常を送ることが出来ているだろうか……。

 

もう死んでしまった自分が、こんなことを考えるのも意味のないことだろう。後のことは、そこに生きる人間たちが決めることだ。ただ、人間はそれ以外の存在を知ってしまった。

 

悪魔――。

 

神――。

 

そうである以上、今まで通りということはありえない。

 

いや、それよりも――俺はどうなってしまうのだろうか。

 

俺の考えていることが解ったのか、ニャルさんはクスリとイタズラを成功させた子供のように笑んで、

 

「パンパカパーンッ!! ご主人様はレベルアップぅ! 

力がカンストした。

魔力がカンストした。

体力がカンストした。

速さがカンストした。

ご主人様は人間から『魔人』に進化した」

 

あたりからファンファーレが鳴り響き、クラッカーが破裂する。そして、ニャルさんは手から紅白の紙吹雪を生み出し、天に撒く。

 

「……はぁ!?」

 

意味が解らなかった。

 

「いやいや、下僕としてワタシも鼻が高いですね~」

 

などと、ニャルさんは恍惚の表情を浮かべていた。

 

「悪い。意味が解らん」

 

そんな俺に、彼女は「仕方ないですねぇ」ともったいぶって、

 

「魔王となって、魔王を生み出したご主人様ですよ? 普通に死ねるわけがないでしょう。本来なら、魔王の一柱としての魔界の一部を統治することすらありえる話です。ですが、貴方はあくまで『人間』であることを望んでいます」

 

「ああ。俺はどこまでいっても人間だ」

 

だからこそ、俺はあそこで死ぬことに満足したんだから。

 

「ま~、ワタシもそんなご主人様だから今まで憑き従ってきたんですけどねぇ。きゃぁぁぁ、カッコいい、ご主人様」

 

頬を真っ赤にして手の平を頬に当てて、腰をくねらせるニャルさん。

 

いや、だからその幼女の格好でそんなことしてると、かなり違和感が……。

 

「んで?」

 

「説明が面倒なんでザックリ言うけど、このまま死ぬと輪廻の輪が崩壊します。ご主人様の魔王としての魂の大きさが大きすぎますから。ですんで、輪廻の輪を通ることなく、人間でありながら魔の頂点に到った『魔人』として別の世界へ渡ってもらいます。ですが――」

 

「……ですが?」

 

なんだか嫌な予感がする。聞いてはいけないことを聞いてしまうような。

 

「ご主人様と一緒に生きたいという仲魔が多くてですね~。困ってるんですよね。モテモテですね~。天然ジゴロってヤツですか」

 

ぶつぶつ呟くニャルさん。微かに、「全員敵だから、殺してしまったほうが……いや、でも……」なんて聞こえてしまうから性質が悪い。

 

「てか、普通に考えても連れて行くのはマズイだろ」

 

悪魔が何体も世界に渡るのは明らかに良くない気がするんだが。

 

けれども、ニャルさんは、それに関しては「まったく問題ないんですよ」と、きっぱり否定した。

 

「そもそも、ワタシたちは正確には『悪魔』ではありません。ご主人様も薄々は解ってるでしょう?」

 

「それは……」

 

それはなんとなく理解していた。悪魔召喚プログラムで呼び出される悪魔は、あまりにも悪魔とは呼べない者が多かった。

 

一番解りやすいのは、クルースニクとノルン。クルースニクはスロベニアに住んでいたスラブ人の伝承に出てくる吸血鬼ハンターだ。

彼はあくまで人間として生まれている。その彼の偉業が語り継がれることで英雄化することはあっても、悪魔では決してありえない。

そしてノルンは北欧神話に登場する運命を司る女神だ。

 

そんな彼らが悪魔として呼び出されていることには違和感があった。

 

オーディンもそうだし、天使までも当たり前のように召喚できていた。

 

よくよく考えると、悪魔召喚プログラムというのは、どこか別の世界とこの世界を繋げる門のようなものなのではないのか。

 

「大正解!! 大当たりのご主人様には、ワタシの愛をプレゼントなんてね」

 

ウインクしながらの投げキッスをいただいた。魔力を使ってハートマークの魔力弾まで作って俺のほうまで飛ばしてくるという無駄なサービスまでしてくれた。

 

「でねでね、問題はその門がどこに繋がっているのかっていう話な訳ですよ。はっきり言って、あんな機械で天界と魔界のそれぞれに門を作るなんて不可能ですしねー。そう意味ではご主人様のいとこは天才かも。なんせ人間の『集合意識』に門を開いちゃうんだから」

 

「集合意識――」

 

「そうそう、『集合精神』とも言うけどねー。細かい説明はメンドーですんで省いちゃうけど、ひとつの種の複数の精神はどこかでひとつに繋がっているってヤツです。この場合は人間の精神ってのは無意識な部分で、繋がっているんだーね」

 

さっき飛ばしてきたハートマークがようやく俺の近くまで飛んできた。そして、俺の目の前でパンッと弾ける。

 

「この『集合意識』ってのは、要は人間の無意識の集まり。「悪魔ってこんな形してんのかなぁ」とか、「天使ってこういう性格してそう」とかのイメージが自然と集まってるわけなんですよ。そこに門開いて悪魔呼んじゃう訳だから、当然人間の妄想満点の悪魔や天使が

 

出てきちゃうんだなーこれが。だから、神話体系もバラバラ。好き勝手にポンポンと、人間のイメージが出てくるんだから仕方ないねー」

 

 

「だから、呼びだした人間に対してある程度友好的です」とニャルさんは締めくくった。

 

頭がパンクしそうだった。

 

つまりCOMP(コンプ)は人間の無意識と現実を繋ぐ門の役割をしてる。

 

あくまで人間の無意識から呼び出してるので種族の括りが関係なく呼び出される。

 

だから、そこから呼び出された悪魔や天使なんかの存在は人間のイメージを反映するからある程度人間に友好的になる、と。

 

そこまで考えてみたところで、ふと気付いた。

 

「それが、俺に着いていくこととどう関係があるんだ?」

 

集合意識の海に帰るだけじゃないのか?

 

「ここで問題なのは、人間の無意識から呼び出されていても神魔の性質は持っているってことなんですよー。呼び出されたワタシたちとご主人様は契約で結ばれてます。運命の赤い糸ってヤツですねー。ゴホンッ、ちょっと長話になりますんで座りましょうか――」

 

そう言ってニャルさんが手をかざすと赤いソファーがひとつ現れる。

 

彼女に言われるままに腰掛けると、ニャルさんが俺の上に勢いよく飛び込んできて座ってきた。俺と向き合う形で。

 

「おッ、と」

 

なんとか受け止めると、吹き上がってきた空気から、芳醇な花実のような女性特有の柔らかな匂いが鼻をくすぐってきた。

 

「ん~、戦ってたころはこんなこと出来ませんでしたからー。スキンシップってヤツですね。他のお邪魔虫も出てきませんし……」

 

そう言って頬を俺の胸に押し付け、気持ち良さそうに表情を緩める。

 

「あったかいですねー。細い体に秘められた鋼のような筋肉。クールに見えて熱い思いに満ちた魂。このままご飯三杯いけちゃいそうです。ねーご主人様、ほんとうにワタシとひとつになりませんか? 目くるめく快楽の混沌に沈んでみませんか?」

 

「勘弁してくれ……。それより話の続きを頼むよ」

 

すぐに話が横道にそれるせいで話が進まない。

いやニャルさんの場合は横道のほうが本線なのか。

 

若干辟易しながら先に進めようとすると、ニャルさんは名残惜しそうに顔を胸から離した。

 

「煩悩退散ってヤツですか? まぁ、ワタシの今の体じゃご主人様の熱い情欲は受け止められないですし。仕方ないですねー。契約の話までしましたよね。集合意識から現れているので、当然ご主人様の意識の一部もその形成をになっているわけです。

そうして、契約者が死んだら、その神魔もまた集合意識に戻るんですが。

ここで、イレギュラーがふたつ発生しちゃったわけです。

ひとつは、ご主人様が死ななかったこと。正確には肉体はないので中途半端な生存ですが。それによって契約自体が履行不能、正確には保留というようなかたちになってます。死んでないから集合意識に戻れない。けれど、ご主人様の肉体はこの世には存在しないって感じですね。

もうひとつが、ご主人様が『魔人』になっちゃったことですねー」

 

長々と話しながら、俺の鳩尾あたりに手を当ててくる。

 

「人間の魂(精神)の大きさは人それぞれです。その大きさによって悪魔との親和度が変わります。たしかマリさんでしたっけ、クルースニクを内に秘めてたのは。あれと同じようなことがご主人様もできます。とはいえ、ご主人様の器の大きさは『魔人』となったことで

 

かなりの大きさになってます。どれぐらいかっていうと――」

 

「どれぐらいかっていうと?」

 

「今まで呼び出したことある悪魔全員を内に秘めてもっていけまーす」

 

「チートじゃん」

 

唖然。というか、呆然。『魔人』になったと言われた時点でかなりの力を手に入れた気はしていたが、こうやって告げられると、自分の人外さをまじまじと見せ付けられている気がして気が滅入る。

 

人間でありたかったはずなのに。

自分の思いを貫き続けたはずなのに。

 

「ご主人様が人間でありたいという思いは理解しています」

 

目を閉じていた俺の頬にそっと暖かな感触が広がった。俺のなかの苦しみを和らげるかのようにその暖かさがじんわりと胸に伝わってくる。

 

そっと、目を開くと、ニャルさんの透き通るような肌と、ダイヤのように輝く蒼い瞳が映る。

 

「ですが、ワタシたちもまたご主人様とともにありたいと願っています。八日間という短い契約でしたが――それでも、ワタシたちはアナタとともに生きたいんです」

 

さっきまでのふざけた言葉が嘘のような真剣な思い。今、それをはっきりと感じた。

 

「――解った。一緒に行こうか。多分長い道のりになるだろうけど、一緒に来てくれるか?」

 

フッと思わず笑みが零れた。

 

何を勘違いしていたんだろう。

今の自分がどうであれ、俺は自分が人間だと思っている。

他人が俺をどう評価しようと関係ない。俺は俺の思いを貫いてきたんだから。

 

そして、俺とともに地獄のような八日間を生きてきてくれた仲魔(コイツラ)も、また俺にとってはかけがえのない仲間なんだ。

 

「ありがとう、ございます」

 

彼女の瞳から一筋の涙が零れる。

 

それを俺は手の平で拭ってやる。

 

ニャルさんはなすがままにされながらも、

 

「COMP(コンプ)はもっていけないから、代わりとなるものを用意しなければなりません。とはいえ単純に呼び出すための魔法陣としての機能しか必要ないですが」

 

魔法陣か……。

 

魔導書?

腕輪?

ネックレス?

 

いろいろ考えたが、あまりグッとくる物がない。

 

と、いうより――。

 

「なぁ、ニャルさん。俺らが今から行く新世界ってのは戦いがあるの?」

 

ずっと思ってたことがある。

COMP(コンプ)を持ち歩きながら戦闘をするのは、かなり大変だってことだ。

どれだけ力を持っていても、COMP(コンプ)を破壊されれば戦闘不能になるのだから。

 

俺の問いに対してニャルさんは曖昧に肯定した。なんというか彼女らしくない態度だった。

 

「出来るだけワタシたちの存在で、世界が歪んでしまわないようなトコロを選びますから戦闘は当然あるんじゃないのかなー。ワタシもある程度の選択は出来ますが、特定の世界を選んで渡るってのは出来ないんですよー。だから、〈天使〉〈堕天使〉〈悪魔〉〈妖精〉〈妖怪〉なんかがいる世界ってのをキーワードにしてます」

 

それだったらほぼ確実に戦闘があると思ったほうがいいのかな。

 

ってことは出来るだけ体から離れない物のほうがいいわけか。

 

そう考えて、ふとハルのことが頭に浮かんだ。彼女の左肩あたりにあったタトゥだ。

 

「魔力を通すと見えるようになるタトゥとかって出来る?」

 

さすがに四六時中見えるようなタトゥは入れたくない。

学校に通えるかは解らないが、それでも働いたり遊んだりはしたいからな。

 

「出来ますよー。いつもは見えないけど、魔力を解放すると現れる紋様みたいになりますねー。ただ、そうすると結構大きなタトゥになりますけどねッ」

 

少しずついつもの様子を取り戻した彼女の言葉はどこか気楽だった。

 

「んじゃ、それでお願い。デザインは任せるよ。期待してんね?」

 

元気な彼女に合わせるように俺も笑う。

 

「ん~、任されたよッ!! そこまで期待されちゃ、応えるのが奴隷の役目ってね。それじゃ、始めちゃうから、上着を脱いでくれるかなー」

 

言われた通りに、タイトな黒のボーダーシャツを脱ぐと、体のあちこちに傷が目立った。火傷のような痕もあれば、刃物で切り裂かれたような裂傷もある。出来るだけユズやアツロウを心配させたくないと隠していたが、こうして露になると悲しくもあり、誇らしくもある。

 

「始めますねー。とりあえず右手を前に突き出してもらえますか~?」

 

上着をソファーの背もたれに乗せて、腕を前に突き出す。

 

すると、ニャルさんは自分の両手の平に魔力を集中させながら、そっと俺の右手首に手の平を当てた。

 

「痛みはないですかー?」

 

手の平がギリギリ触れないぐらいの距離を保ったまま、撫で回すように俺の腕を手首から肩のほうへと進んでいく。

 

「痛くは、ない、けど、くすぐったいな」

 

痛みはまったくないのだが、手の平の熱を感じているのか魔力に触れているからかで、じんわりと暖かさを感じていた。

そのせいで微かに触れる肌の感触が妙に敏感に感じられた。

 

「クフフッ、少しイタズラしたいところですけど、マジメにしてるんで我慢してくださーい。あと五分ぐらいはこのままなんで」

 

指先が艶かしく蠢きながら、そっと俺の肌を撫でていく。そのたびに俺の体が反応して肩や背中がピクリと震えてしまう。それが解っているのか、ニャルさんは唇を舌で舐めながらニヤリと笑んだ。

 

痛みには慣れたんだけどなぁ。

 

痛みとは別系統の刺激だから仕方ないことだ。

しかも、性質の悪いことに、さっきからずっとニャルさんは座っている俺の上に腰を下ろしている。

 

そのまま、彼女は俺の腕に手の平を当てているので少し無理な体勢をしているのだ。時々意表をついて彼女が腰を浮かしたり、捻ったりしてくる。

 

そのたびに俺の太ももあたりに彼女の柔らかな感触が伝わってきて、なかなかに刺激が強い。

 

それを解ってやってるんだから、なかなかに悪女だ。

 

とはいえ、今は彼女も俺のために魔法を使ってくれているのだから、我慢しよう。

 

目を閉じて、俺はさっさと時間が過ぎてくれることを切に願った。

 

しばらく、待ってみたものの、一向に終わる気配がない。

 

あれからどれだけ時間が経っているのか解らないが、もう終わっている気がする。

 

なぜか腕を触れていた手が、少しずつ胴体のほうにまで伸びてきたりしているし、なんというか彼女の息遣いが荒くなってきている。

 

「終わってるだろ」

 

「そ、そんなことは――な、ななないんですよー?」

 

バレバレだった。上擦っているとかいうレベルじゃなかった。ここまでうろたえてくれるとむしろ確信犯じゃないかと思う。

 

目を開けて彼女の腰を掴んで放り投げた。

 

腕の力だけだったのだが、小さな彼女の体は二、三メートルほど宙を舞って、

 

「女の子を投げるなんて鬼畜ですッ! 鬼畜罪で逮捕ですッ! アッ、でも鬼畜なご主人様も素敵です。ハァ、ハァ――」

 

クルリと一回転して、何事もなかったかのように着地した。そして、スカートの裾をパンパンと払う。

 

以前の自分では決して出来なかった力技に一瞬呆けてしまった。

 

いや、それよりもまずは確認しなきゃな。

 

俺は自分の右腕に視線を動かす。

特に変わった様子はない。いつもどおりの自分の腕だ。

 

「魔力を流すんだったな――」

 

軽く右腕に魔力を通してみると、薄っすらと右腕に、黒く紋様が奔る。

 

きちんとした魔法陣を見たことはないのでこれがどういった意味を成すものか解らないが、形としては、植物のツタだろうか。それが腕に巻きつくように手首から肘にかけて広がり、重なり合ったりしながら伸びている。

 

ところが良くみると、手の甲辺りから肘の関節辺りまで一直線に何も描かれてない部分があった。

 

「イメージは生命の系譜ですよ。一つの原初から数多の種へ。混ざり合い絡み合い、先へ進む命の進歩です。まー、魔法陣はそれで完成ですが、あくまでそれは陣の役割しかありません。そこに必要なのはご主人様の魔力と血ですー。陣の空いているところにご主人様の血液で線を引いて呼びたい仲魔を呼んでください。そうしたら出てきますんでー」

 

言われた通りに左手の親指を噛んで血を流す。そして、親指で一直線にラインを引きながら、

 

「来いッ!」

 

ドクンッと心臓が跳ねた。そこから吐き出されたように一際大きな魔力が血潮のように脈動する。

 

ドクン――ッ。

 

魔力がタトゥの先のほうから根元のほうに、まるで川の本流に流れ込むように一つに集まっていく。

 

そして、魔力が充分に魔法陣に流れたのを見計らって、俺は――。

 

「来い――ッ! 【魔王】ヘカーテ!!」

 

名を呼んだ。

 

 

右手から魔力が溢れ、眩い輝きを放つ。その光が収まると、そこには、

 

「さっそくアタシの出番かい。何の用だい? 主さんよ」

 

ライオンの顔が不敵に笑った。

【魔王】ヘカーテ。ギリシャ神話に登場する黄泉の国の女王だ。特徴的なのは、その風貌だろう。

 

首から下は鍛えられた女性らしいメリハリのついた体躯をしている。その身には露出の多い黒のボンテージのような服を着ている。その肩や膝部分にはトゲのついたアーマーを装備していて、さらにその手には鞭。なんというか、魔王というより女王様といったほうがいい気がする。

 

さらに目に付くのは三つの頭部だ。首から普通に生えているライオンの頭部とは別に、肩と肩甲骨の間あたりからそれぞれ白い犬と馬の頭部がまるで背中合わせのように存在していた。

 

ライオンの顔に女性の体。現実にはありえないその風貌には不思議な色気があった。

 

「ご無沙汰だね、ヘカーテ。ちょっとお願いがあってさ――。そこにいるイタズラ娘なんだけどさ」

「へ?」

 

俺がニャルさんを指差すと、素っ頓狂な声を上げた。

 

「ちっとばかしイタズラが過ぎるから、お仕置きでもしてもらおうかと思ってさ――」

 

「そんなことでアタシを呼ぶんじゃないよ」

 

メンドくさそうに溜息をヘカーテは吐いた。

しかし、それも一瞬のことで、

 

「けど、そういうのは嫌いじゃないよ」

 

犬歯剥き出しの獰猛な笑みを浮かべた。

 

そして、鞭を持っていた右手が一瞬、翻(ひるがえ)ると、

 

「え、えッ、へぇぇぇぇえ!?」

 

鞭がニャルさんの体に巻きつくと、ヘカーテのほうへ引き寄せた。

 

べちゃっと音を立ててニャルさんがヘカーテの足元に落ちる。

 

「それじゃしばらく頼むよ。俺は少し離れて自分の体の状態確認してくるから」

 

 

無限の広がりをみせる混沌の世界。

 

彼女たちに背を向けてテクテクと歩き出した。

 

「ご主人様ーッ! ヘルプミー!!」

 

「お黙りッ!!」

 

パシッと乾いた音が響くと同時に、「ひぃぃぃぃーッ!!」と悲鳴が上がった。

 

無視、無視。

 

「あぁぁぁーん!」

 

「感じてんじゃないよッ」

 

無視、無視だ。

 

少しずつ遠くなっていく嬌声を手で耳を押さえて聞こえないようにしながら、俺はずっと歩き続けた。

それなりに時間が経った。とはいっても、俺は歩いていただけだ。これだけ歩いてようやく声が聞こえなくなったのだから、逆に驚きだった。

 

立ち止まって、息を大きく吸い込む。

 

「よし、始めるか――」

 

今まで俺は、速さと魔力を中心に鍛えてきた。

 

なぜなら、悪魔や天使からの攻撃を受けるのが怖かったからだ。

あの八日間の戦闘の相手は悪魔や天使なんかの強大な敵を相手にすることが多かった。だから、接近戦をするのにかなり抵抗があった。

 

だから、攻撃を出来るだけ避けられるように速さを鍛えたし、遠くからでも攻撃できるように魔法の威力を鍛えた。

 

アツロウやカイドーが悪魔相手に格闘戦を仕掛けているのを見て、正直、戦々恐々としたものだ。

 

けれども、今はかなり体力面でも向上してしまっている。

 

いままでのような魔法戦以外の接近戦をある程度できるようになったほうがいいはずだ。

 

だから――。

 

さっき噛んだ指先の傷を軽くいじって血を滲ませた上で、もう一度魔法陣にラインを引く。

 

「来い――ッ! 【闘鬼】ベルセルクッ!!」

 

先ほどのように光が溢れ、

 

「オレ……呼んだカ?」

 

たどたどしい言葉とともに現れたのは、豹の毛皮を身に纏った屈強な大男だった。その手には、身長の半分ほどはありそうな赤褐色の大剣。

 

毛皮が顔を覆っているせいで表情は良く見えないが、こちらに対して挑戦的な視線を送っている。

 

「相手になってくれるか?」

 

「お前、倒せば――オレ……魔王二なれ、る?」

 

「おう、俺を倒せればベル・セルクも夢じゃないんじゃないかな」

 

静かに構えを取る。正直、空手を習ったこともないし、格闘の経験もほとんどない。

 

けれど、あの地獄のなかで死線を乗り越えた数は誰にも負けない。

 

自然と体が動く。重心は少し後ろの方へ。右脚を軽く前に出し、両手を前に出す。拳は握らない。すぐに相手の動きに対応できるように

 

踵は地面につけない。

 

傍からみると、合気道や古武道の構えに似ているかもしれない。

 

基本は待ちの姿勢。一瞬の一撃にかける。

 

「じゃあ……いく」

 

「――ッ、来い!!」

 

ベルセルクの言葉と同時に、殺気が溢れ出し、俺へと叩きつけられた。一瞬気圧されて息を呑んでしまう。けれど、負けるわけにはいかない。

 

俺たちの距離は四メートル弱。お互いに一歩踏み込めばそれだけで死地に落ちるような距離だ。

 

それをお構いなしにベルセルクは一歩駆けると、

 

「ゥおおおおぉぉぉォォォ!!」

 

振り上げていた大剣を担いでいた両腕の筋肉が一気に盛り上がる。剣の柄がギリギリと軋む。

 

そして、込められた力が解き放たれて一気に振り下ろされた。

 

空気を切り裂く音。そして、唸りを上げる大剣の圧力。それらが俺の体を強張らせる。

 

まるでスローモーションのように時間が間延びする。

 

 

脳裏に最悪の光景が浮かんだ。

 

 

 

ビビるなッ!

 

前へ出ろ――ッ!!

 

 

 

自分のなかの恐怖を振り払うために俺も、気合を入れて叫ぶ。

 

「おおおおおぉォォォォー!!」

 

両腕を上げているベルセルクの懐に飛び込むように一歩踏み込む。

 

しかし、恐怖に飲まれていた分、俺のほうがワンテンポ遅かった。このまま突っ込めば、赤褐色の大剣は俺の頭を唐竹割りにするのは確実だった。

 

だから俺は両手を上に振り上げてベルセルクの手首に添える。

 

踏み込んで前傾姿勢になってる俺にはベルセルクの力を受け止めることは出来ない。

 

そこで、円を描くように彼の大剣を逸らす。

真下に向かう力を阻まないように流れを斜めに変えてやる。

 

そして――、

 

右のほうに回した腕の反動を利用して、左脚でベルセルクの側頭部を蹴り抜く。

 

「さすが、けど……甘い、な」

 

たしかに左足には感触がある。けれど、俺が蹴ったのは、彼の右腕だった。俺の蹴りを察知して剣から片腕を離して防御にまわしたらしい。

それなりに力を込めたはずだったが、腕一本で防がれてしまった。

 

さすが力に特化した悪魔といったところだろうか。

 

「やっぱ強いな――ベルセルク」

 

力が均衡した状態で俺は笑う。

 

「お前、も強い。オレ……強くナりたい。お前を、守れルように。オレ、二番目でイい。けど、お前以外二負けたく、ナイ」

 

仲魔に恵まれたと正直に思う。

 

ここまでの気持ちを真正面からぶつけられて、嬉しくないわけない。

 

「いくぞ――」

 

振り上げていたままの脚から抵抗が突然消えた。グラリと上体がバランスを崩す。

ベルセルクは膝を曲げて正中線を軸に回転しながら、脚を刈り取るような低い軌跡で回転切りを放ってきた。

 

上体が傾いてしまっている俺がそれをかわすには、飛ぶしかない。

 

けれど、それは相手も理解しているはずだ。飛んだ俺に対しての追撃の手段を持ち合わせているはずだ。

 

だから――。

 

俺は、遠心力を含んでかなりのスピードになっている大剣の腹を、抵抗を失って宙ぶらりんになっていた左脚で踏みつけた。

 

「あ――?」

 

ベルセルクの口元が驚きで半開きになっている。

 

それも当然だ。一瞬でもタイミングがずれれば俺の足は断たれているのだから。

 

けれど、その賭けに俺は勝った。

 

無理矢理腰を捻ったせいで、腰が軋む。

 

まだだッ!!

 

体がクルリと後ろに向ける。そして、上体を地面に向かって傾ける。完全に倒れこむ寸前に両手をついて、バランスを取る。

その反動を利用して、馬が後ろ足を振り上げるような格好で右脚の踵でベルセルクの顎を蹴り上げた。

 

「あ、が――」

 

踵に感じる骨の硬さ。そして、ベルセルクの肺から漏れ出たようなうめき声を聞きながら、俺は両腕に力を込めて体を引き起こしながら体を反転させて前を向く。

 

ダメージを受けたベルセルクはたたらを踏んでいて、未だに俺に反応できていない。

 

 

ココで必殺の一撃を――!!

 

 

【スキル】エクストラチャージ発動ッ!

 

 

 

左脚で思い切り大地を踏み込み、右脚を畳む。そして、溜め込んだエネルギーを一気に解放するように、右脚を前に蹴りこむ。

 

「――〈最後の一撃〉ッ!!」

 

ドンッと火薬が爆発したような轟音が木霊した。一瞬遅れてメキッと嫌な音を足の裏越しに感じた。

 

これは骨が逝ったか――?

 

俺の一撃はベルセルクの無防備な鳩尾を蹴り抜き、そして、衝撃で彼は吹き飛んだ。

 

錐揉みしながら物凄いスピードで吹き飛んだ彼は受身も取れずに転がっていく。

 

「おーい、生きてるかー」

 

ようやく止まった彼はピクリとも動かない。

 

「ヤッバイ! やりすぎた。――サマリカームッ!!」

 

急いで駆け寄って回復魔法をかけると、ようやく彼は上体を思い動きで持ち上げた。

 

「――お前、やっパり強い。自信持て。お前、誰にモ負けナい」

 

「ありがとな。また手合わせしよう、ベルセルク――、いや未来のベルの一柱」

 

俺の言葉に一瞬、彼は目を見開き、そして嬉しそうに笑って俺のなかへと消えていった。

 

よく解らない感情が湧き上がった。高揚感のような、達成感のような、そんな不思議な感情だった。

 

パチパチパチ――。

 

そんな感情が胸を渦巻いていた俺の背後から拍手が一つ。

 

振り返ると、赤いソファーに座って手を叩くヘカーテ。そして、どこから持ってきたのか解らないロープでグルグル巻きになって倒れているニャルさんがいた。

 

どうやら観戦していたらしい。ココはニャルさんの世界だから距離なんてものは自由自在なのだろう。

 

「さすがだね」

 

「カッコよかったですー」

 

ヘカーテがニャルさんを踏んでいるのは気にしたら負けなのだろうか。

 

「チートだからこれぐらい出来ないとな。それよりヘカーテもありがとう。くだらないことで呼んじゃって悪かった。今度はちゃんとしたところで呼ぶよ」

 

「頼んだよ。アタシは何より戦いが好きなんだからね」

 

彼女は最後に獰猛に笑って消えた。と同時にニャルさんを縛っていたロープも消える。

 

ヘカーテの持ち物だったのか?

 

ニャルさんは立ち上がって服についた埃を叩く。

 

「準備は終わりましたかー」

 

「ああ、これなら負けないだろうさ」

 

覚悟は決まった。

 

俺は自分の思いを貫いて生きていく。

 

「じゃー、ワタシも戻りますねー。でわでわ、新たな世界でまた会いましょう、ご主人様」

 

ニャルさんの体が霧のようにぼやけていく。

 

そして、その姿が完全に消えてしまう寸前、

 

「それじゃ、フリーフォールッ!」

 

足元の感触が消えた。

 

「はぁ!?」

 

一瞬の浮遊感。

 

そして、重力に引かれて、俺は足元に空いた大穴のなかに落とされた。

 

「ぅおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」

 

視界は完全に闇。ただ、自分が落ちていっている感覚だけがあった。まるで、真っ暗なトンネルのなかを滑っているような気持ちだった。

 

アトラクションのように楽しめる要素は一切ないが……。

 

そして、足元のほうに光り輝く出口を見つけた。

 

その出口から飛び出たオレは、夕焼けに染まる真っ赤な町並みを見おろしていた。

 

上空約1000メートル地点。雲一つない夕焼け空にオレは投げ出された。




【スキル解説】
・エクストラチャージ
エクストラターン中の攻撃によるダメージを二倍にする。
エクストラターンはゲーム中におけるターン終了後の追加攻撃ターンのことですが、今作では相手がダメージを受けて動けなかったり等の状況において発動するという風にしています。

・最期の一撃
自分のHPを1にするかわりに、その分のダメージを相手に与える。
体力がカンストしている主人公がこれを放つと、確実にオーバーキル。いわゆるやり過ぎってヤツです。

・サマリカーム
死亡したキャラクターをHP全回復で復活させる。
死亡を復活させるのはさすがにマズイので、瀕死クラスのダメージを回復させる効果として設定しています。


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※なぜか改行が不適当になっていたので訂正

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