「_____、_____」
目覚まし時計の音がする。
バカみたいに大声で、必要以上に美声の目覚まし時計。
はたと意識が浮上し、はじめて感じる。
少し、肌寒い。
夏だというのに、この大陸の朝は冷えるようだ。
そも、周りすべてが自然だらけではヒートアイランド現象も起こらないから、なのか。
「ほら起きてください。私をアラームに使った人なんて指揮官が初めてですよ。」
次にやることと言えば、目を開けることだ。
ちなみに私はこの瞬間が大嫌いだ。
頭が痛くなるからな。光の刺激はかなりキツい。
目の前に現れるのが心臓に悪い程人に似た目覚まし時計なら尚更。
「だれが説教までしろって言った。目覚まし時計はリリリリって鳴いときゃいいんだぞ。」
「始めはちゃんとやりましたよ。でもこれはスヌーズの合間に勝手に私がキレてるだけなので。甘んじて受け入れて起きてください。」
「凄まじいトンでも論。はぁ、誰の言動を学習したのやら、お前にしては人間性モリモリだな、ZasM21。」
そうやってぼやきつつ上体を起こし、のそのそと鞄に手を伸ばす。
着替えをしなくてはならん。私の体は便利な人形と違って代謝があるから。あぁ、服を鞄から取り出すだけでも面倒だ。
衣擦れの音が響く。
取り出した衣類は、見慣れてしまった真紅に染まっていて、自分がどうなってもグリフィンの所属であることを思い出させてくる。
「誰のせいでしょうね?
まぁ非実用的ってだけで、実際には有るんだから仕方ないじゃないですか。」
言い訳をしているようにも聞こえるが、その口調は明らかに開き直っている。私は騙されんぞ。
「なら最適化しとけ。そういうアプデでもするか?」
寝巻きを脱ぎ捨て、先程広げた肌着達を雑にひっかぶっていく。
畳むことを考えると憂鬱だ。
ZasM21に触らせると何されるかわからんので私は自分でやる他ないのだ。
「やるとしてもここフリーWi-Fiなんか無いので高くつきますよ?」
肌着は着終わったので会話へとより意識を割きつつ、軽くコートを羽織る。
「そういうとこで私に駆け引きしかけてくるのほんとやめろ。」
ボタンを閉めてけば終わり。
「よし、私は完璧だ。」
「なんですそれ?ああ、最近入ってきたあの子の真似ですか。」
「中々面白いヤツだったからな。」
そう、よく覚えている。
そういえばアレどうしてるかな。
基地からこうやって飛び出てきて、随分遠くまで来てしまった。
地域内の鉄血を掃討して、やることなくなって、それで私たちの治める地域内に旅行に行こうとしたんだ。
なんと歩きで。
「この生活、前線基地任務を思い出しますね。」
「私は見てるだけだったが、そのときから自由に外に出れる君らが羨ましかったな。」
さて、また今日も歩かなければならない。
薄いテントの仕切りを潜って、外に出るんだ。
まだ外は明け方で、薄く青い光が遠くから漏れ出ていた。
「ジープでも借りてくればよかったのに。」
「文句を言うな。お前の足にジープって名前つけるぞ。歩くのは好きでも嫌いでもないが、これくらいのスピード感がちょうどいいんだ。」
「昼間クソ暑い......」
「夏だ、海だとか言いますけど夏に外でると人も人形も死ぬ。これ真理ですよね。やっぱり車両必要でしたよね。」
それわかる。ごめん死ぬ。真理。
いや挫折しそう。なにこれ。歩くとか歩かないとかそれ以前の問題で暑い。
次の町までどのくらい?これで遠かったらもう死ぬ。無理。
「あ、でも幸い近いみたいです。命拾いしましたね。私には命ないですけど。」
こういうとき戦術人形は便利だ。デカイスマホくらいの感覚。勝手についてきてくれるのなら確かに「携帯」だしな。
「金はかかるんだから命なくとも金くらいは拾っとけ......。それで、どんな町だ?」
「そこそこの環境、そこそこの人口。そして反人形団体の根城でもあります。」
「笑うしかないなそれ。まあ町があるだけマシだ。行くか。」
奴等は所詮、人形ごときに職を追われた先の時代の敗北者。
勝利者の私たちが配慮する必要もないよなぁ?
「指揮官ってたまーにデリカシー消失しますよね。町の人たちがかわいそう。」
「思ってもないことばかり言うなぁ。」
「まあ、他人事ですからね。」
私たち一人と一つの無駄口は減らない。
旅に出てから?鉄血と戦いだしてから?いいや、違う。
私がここの職場に来て、そして真っ先にコイツが納品されてから、ずっとだ。
大抵町と町との間、所謂街道というのは、人が生身で通っても大丈夫なくらい安全だ。例のアレの除去には相当費用がかかったんだろうな。
だから私たちは、車のタイヤ痕が幾重にも積み重なったボロボロの舗装道の端を、マイペースに歩いていく。
時折風が吹くけれど、揺れるものと言えば私とコイツの髪の毛くらい。
植物は疎らで、見渡す限りの広野にポツポツと生え散らかしている。スタンドアローン、とかっこよく言い表すこともできるが、彼らは特に不幸とも幸せとも思わず、気楽に種をばら蒔いているだけだろう。
「あ、ここ来たことあります。鉄血の斥候部隊が入り込んできたことが有ったんですよ。」
「へえ。なるほど。どこらへんに血飛沫撒き散らしてきたんだ?」
「ほら、あそこの地面の凹んだところ。榴弾を投射したんですよ。」
指差しされた先を眺めてみれば、なるほど確かに大きなクレーターが出来ている。
見に行ってみるか。
フラフラとそちらの方向に近寄っていく。
「うわっ、確かに派手にやってる。結構でかいな、穴。」
「私の榴弾は殺傷範囲の広さが売りなので。」
戦場の傷跡を直接見るのと、ドローンで見るのは大分違う。
熱量を感じる、と言えばいいのだろうか。
酷く抽象的だが、「当事者意識」が生まれるというのは確かだと思う。
「それにしても、この窪みだけ草が生い茂ってるな。」
「生体部品が幾つか埋まってたので、それじゃないですか?」
はは、なるほどな。
つまりこの緑は、実際のところ鉄血の死体から育ったと言えるのか。
贅沢な物だ、昔の兵器には有機的素材など欠片も使われいなかったと言うのに。
死んでも役に立つのは、流石人形だ、と改めて認識させられる。
コイツらは風が吹いても、窪みのせいで欠片も揺れていなかった。
まるで私たちと別の世界に住むみたいに、ずっとここに佇んでいるのだ。