最期には夢を   作:黒犬51

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夢を追って

良い人であれ、優しい人であれ、それはきっと素晴らしい事だ。そう信じて生きていきた。けれどその正義は、その優しさは

 

「やめておきなさい」

 

明らかに嫌な顔をしながら少年は少女をを見据える。

 

「だれ?」

 

「知ってるでしょう?それに貴方はそれ以外も色々と知っているはず」

 

「そうだね、古明地 さとり」

 

ルーミアだけが取り残されていた。名前を明かしてもいないのに突然名前を当てる少年。同じ物を見るように哀れんだ目を向ける古明地さとり。そして無表情の少年。

 

「貴方は歪みすぎです」

 

「それをさとり妖怪の君が言うんだ。俺たちは結構似た物同士だと思うんだけど?」

 

目を細め、こちらを少し見て笑うさとり。手を広げ、にっこりと笑いかける少年。どちらも笑顔という表情なのにも関わらず、そこに楽しさは感じられない。

 

「それもそうですね。未来を感じる貴方と、相手の心を読む私。人が次に起こす行動とその結果が大まかにわかってしまう。何故そんなことをするのか。失敗するのに。そうなると他人が愚かに見えるんですよね」

 

「そういうこと。と言うことで似た物同士仲良くやろう。別に俺は敵意とかは無いし、正直女性にもあんまり興味ない。君の危惧するようなことは起きないし、起こさないように注意してるよ。わかってはいると思うけど。行こうかルーミア」

 

「う、うん」

 

話を半ば無理やり切り上げ、村の中央部分にある橋へと向かって歩く彼らを見送り、少女は身を翻して村の外へと向かった。

すれ違う人間からはあまり良い感情は読めない。これ以上ここにいても良いことはないだろうし、彼が何かを話してくれるとは思えない。

村の門を出た後にどこからともなくまるで影のように紫が現れた。

 

「問題ないと思いますよ。それに彼はどうやら夢を追っているだけのようですし。もう終わりも近いですしね」

 

「あら...最後は幸福かしら?」

 

「私が見れるのは心であって、未来ではないですよ」

 

「そんなことはわかっているわ。でも彼の見た未来は見たんでしょう?」

 

「...そうですね。あれを幸福と言えるほど私もまだ歪んでいませんよ」

 

さとりは去っていく。その背を賢者が止める事はなかった。

 

「ここのこと、知ってるの?」

 

金髪の少女は警戒していた。彼がどこまで知っているのかを。

さっきの地底の妖怪とのエンカウントの際、この少年は知りすぎていた。未来が見えていると言ってもあそこまで見える物なのだろうか。流石に、知っていたとしか思えない。

 

「有名だからね。あんまり思い出したくはなかったけど」

 

幻想郷、それは忘れられた妖怪たちの理想郷。

妖怪は人々の畏れでもって存在を残していける。だが、人間は発展しすぎた。闇を照らし、科学で謎を解いていく。そうなれば、彼らは消えていくことしかできない。

だからこそ、このような発展していない人間の村を作り、定期的に襲い恐怖を与え、自らの存在を残し続けていく。

 

「ちょっと村の外に出よう」

 

飛び去る少女の後を追う。村の上空まで行き、遠くに見える社を指差す。

 

「了解」

 

見えている範囲だ、そこまで遠くはない。すぐに着くことになった。

 

「ルーミア?その人間は?」

 

「匿って」

 

そこで境内の掃除をしていた巫女服を着た日本人らしい黒髪の巫女と何かを話すと巫女はテキパキと動き始めた。

地面に札を張り何かを呟きながら少年たちの周囲を四角を描くように囲む。

 

「これでいいわよ」

 

「ありがとう」

 

それだけ言い残し、ルーミアは彼の肩を掴む。少女とは思えない力だった。肩揉みとは違う意味で痛い。その苦痛に思わず若干顔が歪む。

 

「わたしにも教えて、貴方はここでどうなるの?」

 

「本当に何も知らないで俺を案内してたのか...。俺は多分ここでここの為に殺されるか死ぬかする。あくまでもそんな気がするってだけだけどね」

 

その内容の通り行くならば彼の命は終わっていた。それが幸福であるか凄惨であるかはさて置き、そこに死があった。命、人生という旅路、その終着点。それを少年は笑顔で伝えた。あくまで想像という言葉こそあったもののそれは正気の沙汰ではない。

 

「怖くないの?」

 

「怖いよ。でもみんなに愛されるここが残るために命が無くなるって言うなら悪くない」

 

「まだ大学生なんでしょ!やりたいこともあるんじゃないの?」

 

「あるね。でも、俺以外でもここは救えるのかな。八雲 紫」

 

「無理ね」

 

結界の中に裂け目が現れたかと思うとその中から1人の女性が現れた。金髪が腰まで伸び、白のドレスに紫の前掛けをかけたような独特な服装の女性だった。

 

「未来を感じれる貴方の命が必要なの」

 

少年は両手を広げてほらね。と言わんばかりにルーミアに笑いかける。

 

「別に死ぬのは構わないから。何個かお願いを聞いてもらっても?」

 

現れた女性に動じる事もなく少年は交渉を始めた。

 

「ええ、わたしにできる範囲ならするわよ。英雄の為ですもの」

 

「ありがたいね。まず一個目は俺という存在の記憶を外の世界って言えばいい?」

 

「家族、友人からということかしら?」

 

「いや、もっと根本的に」

 

ふむ。と女性は考える。数秒してなにかを諦めたかのように話し始めた。

 

「全部は無理よ。記憶に矛盾が生まれてしまうもの。ただ、記憶の奥底の二度と出てこない位置に置いたりすることは出来るわ」

 

「じゃあそれで。あと二個くらい」

 

どうぞ、と女性は応じる。

 

「猶予があるならそれまで観光したい。一応ここに来るの夢だったから」

 

「1日あるわ」

 

「じゃあその間は観光する。で、最後。どう死ぬのか分からないけど可能な限り苦しくないようにお願い。辛いの嫌だから」

 

「それは勿論よ」

 

「待って、本当に良いの?死ぬんだよ」

 

ルーミアが会話に割って入った。

 

「俺しか出来ない事らしいしね。嘘かもしれないけど嘘と俺が知らないで死ねばそれは俺にとって真実。だから別に良いんだよ。君が優しいってことはよく分かった。予想外でもあったけどね」

 

結界の外では中にいる八雲紫の姿を見て溜息をつく巫女の姿と、その巫女に意地悪そうな笑みを浮かべる八雲紫。ルーミアは未だに心配そうに少年を見ている。

 

「じゃあ観光するか。紫さんのスキマ使っても良い?」

 

「勿論よ」

 

やった、と無邪気に笑う少年。

少年にとって最後の1日。

嬉しそうに笑う少年とそれを何も言わず見る八雲紫。一連の話を聞いていた巫女服の女性も気まずそうに地面を見ていた。その中でルーミアだけが少年を説得しようとしていた。

 

「ねぇ、死ぬんだよ!」

 

「わかってるよ。綺麗事並べるのもあれだから本音を言うね。俺1人の命と、俺の家族とここの住民の命。どう足掻いたって俺の命の価値はそこまで大きくならない。だから俺が犠牲になるの。それにもし拒否したところで俺は八雲紫からは逃げられない。家族も人質になってる。もう詰んでるんだよ」

 

淡々と語られた真実。間違いのない現実。

未来が読めたところで身体強化が起きたわけでもなんでもない。力は人間のまま。見えたところで瞬発力や身体能力で回避不可であれば躱す事はできない。

彼の笑顔の奥に咲いていたのは諦観から来る絶望だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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