ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

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 誤字報告ありがとうございます。


 そして、『怪物祭』編はこの話で終わりです。

 後書きに新章予告があります。


修理完了!

 『怪物祭』から7日後。

 

 あの館の騒動から13日が経った。

 

 つまり、館の修理が完了し、アミッドさんの部屋からチェックアウトする日である。

 

 僕が少し早く目を覚ましたら、何か体が重く感じて、そちらの方を見ると、7日前からいつものようにアミッドさんが僕に抱き付いたまま寝ていた。

 

 僕はアミッドさんを起こさないようにゆっくり動かして、そのままベッドから脱出した。

 

 アミッドさんは何かぬくもりを探しているのか、腕が僅かに動きそうになったけど、昨日まで患者の手当てをしていて、今日も仕事があるらしいため、それまでアミッドさんをこのまま寝かせてあげようと机の上に置いてあった兎のぬいぐるみを持たせたら、そのまま熟睡した。

 

 

 

 この7日間、アミッドさんは仕事が終わるとこの部屋に戻っていた。

 

 朝起きて、一緒に朝御飯を食べたり、晩御飯も食べたりして談笑したり、夜もまた寝る前に、僕が読んだ所までの『英雄伝吟遊詩人』の続きを読み聞かせをしてもらった。僕が座っているところにアミッドさんがこちらに肩を寄り添ったり抱き付いたりくるときもあった。多分仕事が疲れているのだろうと思い、僕は自然に受け入れている。

 

さらにアミッドさんに頼まれたけど、アミッドさんが仕事で出かけるときに「いってらっしゃい」を言ったことや、僕が晩御飯を外で食べてアミッドさんの帰りの方が早かった時は「おかえりなさいあなた」と言われたこともあったけど。

 

 また、昼間アミッドさんが仕事でいない時に、アミッドさんの分も含めた朝御飯と晩御飯の食材の方も買っていて、洗濯も行っている。ちなみに、僕の装備と服は既に買い揃えている。

 

そして料理はお互い交代で作っている。僕は簡単なものしか作れないけど、アミッドさんの料理はおいしく、『豊饒の女主人』に出てくる料理の方が一枚上手であるが、それでも十分店に出しても良いレベルであった。

 

 アミッドさんは部屋にいるときは笑顔が多く、特に僕と御飯を食べている時が一番多い。

僕の料理、アミッドさんほどうまくはないと思うんだけどな…。

 

 さらに、同時に僕の経過観察を行っており、僕の体の調子や傷の具合などを見てもらっている。今のところは何も問題はない。

 

 

 

 あと、アミッドさんが1日中休暇だった時が1回あって、いつも通り朝御飯を食べた後、歯を磨いたけど、その時危うく僕がアミッドさんの歯ブラシを使いそうになり、歯に付ける直前で気が付いた。アミッドさんも逆に僕の歯ブラシを使いそうになって、こちらも直前に気が付いた。お互い横に並んでいたため、お互いが顔を赤く染め、合わせ辛かった。

 

 その後、どうにか雑談してそれを意識しなくなり、外に出かけようかと思ったけど、アミッドさん曰く僕の体が相当凝っているらしく、僕の体をマッサージすることになった。上半身の服を脱がないとやりにくいらしく、僕は上だけ服を脱いでうつ伏せになった。僕の背中や肩に指や掌が押し込まれ、相当揉まれていることから、どうやら僕の体はアミッドさんの想定通りだったらしい。

 

 その後、丸々3時間を使ってようやくほぐれ、立ち上がろうとすると、「今度は脚の方です」と言われ、タオルを渡された。「ここまでやらないと逆効果になります」と言われ、医療を通じているアミッドさんが言うならそうだろうと思い、下の下着だけ残し、そこにタオルを巻き、再びうつ伏せになった。そして、僕の背中や肩にやったことと同じように指や掌が僕の脚に押し込まれた。一回一回やることに痛みがあるから、こちらも相当凝っていたみたいだった。

 

 その後、こちらでも丸々2時間使ってようやくほぐれ、立ち上がると体がすごく軽かった。入念なトレーニングをしているけど、それでも体に疲労がたまるらしい。そして部屋で昼御飯を食べて、装備も服も買った後なのでこれからどうしようかなと考えていると、「私の方もマッサージしてください」と言われた。

 

 こればかりはいくら僕でも無理なので断ったら、「指示しますから」と言われ、そして目を離したすきに先程の僕と同じ状態となっていて準備が終わっていた。結局アミッドさんに押されてしまい、アミッドさんにマッサージをすることになった。アミッドさんの指示通りにやり、押す場所や力加減にも気をつけながら行い、結局脚の方も行うことになって、計6時間かかってしまった。

 

 上手く成功したのかわからないけど、何やら上機嫌だったので、恐らくうまくいったのだろう。

 

 そして晩御飯を食べて、風呂も交代で入り、あの本の読み聞かせをしてもらって、談笑し後、再び寝ることになった。抱き枕になっていたけど。

 

 

 

 と、とにかく、僕は完全にこの生活に慣れきってしまっていた。

 

 でも、いつまでも泊まる訳にはいかないので、この生活も今日で最後になるのかなと僕は思っている。

 

 

 

 そしてアミッドさんが寝ているところから、僕はそっとその場を離れ、今日はもう部屋を出る日なので、『英雄伝吟遊詩人』の本を手に取り、続きを読んだ。

 

 丁度昨日で僕が『冒険譚』で読んだ『アルゴノゥト』の所の話が終わったため、いよいよ完全にその次の話となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてページを開いたら、「最終章」と書かれており、「そして道化であり、英雄となったアルゴノゥトと別れ、次に向かった場所が、リュールゥが最後に訪れた街となった」という文が最初にあった。

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 僕は唖然とした。

 

人生を唄のおかげで楽しく過ごしており、またアルゴノゥトという本物の英雄と出会って、これから先もまた話が長くなると思っていたけど、そんなすぐに…。

 

 本の厚さも確認したら、もうほとんどなかったため、本当にここで話が終わるのだと認識した。

 

「な、何があったんだ…。とにかく読もう」

 

 

 

 

 

 

 

―――― 本物の英雄に出会ったリュールゥが次に向かったところは、「ラキス」という街であり、港もあった。

 

―――― リュールゥはいつも通りに詩を読み、唄を歌い、少年たちを含めた街の人々から注目を集めた。

 

―――― また、新しい唄として、アルゴノゥトの話も伝えた。

 

―――― 人々はその話を大変興味を持ち、面白がっていた。

 

―――― そしてリュールゥはこの街にアルゴノゥトのような英雄がいないかと街を歩いた。

 

―――― すると、川の近くで明らかに街から隔離されている家の団地があった。

 

―――― 街の人達から事情を聞くと、その家の団地全員は病気にかかっていると聞いた。

 

―――― ただ、何の病気かはわからず、ただ単に何かうめき声をあげるだけのものらしかった。

 

―――― リュールゥはその団地の人達にも活気つけるため、唄をうたった。

 

―――― しかし、その団地に住むものは全く反応せず、何かうめき声をあげるのみだった。

 

―――― リュールゥは、原因は何かと聞いてみるが、街の人は何も知らなかった。

 

―――― どうにか街の人全員が笑顔になることを望んだリュールゥは、治す方法はないのかと尋ねた。

 

―――― すると、この街言い伝えでは、万病に効く薬が港に現れるという話があった。

 

―――― リュールゥは早速港に行くと、少年らもいたが、人が待ちより少なくなっていることが目についた。

 

―――― 最初は漁をしている者がここにいないと思っていたが、どうやらそうではなかった。

 

―――― あの症状が発病した場所が、全員港に近い所に出たということだった。

 

―――― これを知り、もしや港にあの病気をかからせるようなものがあるとリュールゥは考えた。

 

―――― リュールゥは一度港の周りを見回ったが、それらしきものの様子や面影はなかった。

 

―――― 詩を読み、唄を歌っても、特に何も出てくる様子はなかった。

 

―――― リュールゥは一旦街の方に戻り、一晩宿に泊まった。

 

―――― その夜、外の方から悲鳴が聞こえた。

 

―――― 悲鳴を聞いたリュールゥが外の様子を見ると、先程の症状がかかっていた人が全員暴れていた。

 

―――― 街の人は殴られ、傷つき、嘆き、涙を流していた。

 

―――― 中には恋人同士だったものが争っている様子も見られた。

 

―――― 見かねたリュールゥはこの争いを止めるため、楽器を持ち、唄をうたった。

 

―――― しかし、あまり効果がなかった。

 

―――― 石を投げつけられながらも唄をうたったが、それでも変化はなく、患者たちは暴れていた。

 

―――― 一度唄をやめ、何がきっかけに暴れだしたのだと考え始めたが、急に患者たちの動きが止まった。

 

―――― すると、先程のうめき声をあげる状態に戻っていった。

 

―――― リュールゥは何がきっかけにこうなったのだと考えた。

 

―――― 朝が来て、一度港の方に様子を見に行ったら、同じ症状になっていた人がいた。

 

―――― リュールゥは過去にもこのような件はなかったのかと聞いたら、何回かあったという話を聞いた。

 

―――― リュールゥは港に何かがあって、あの暴動が起きたと考えた。

 

―――― その晩、リュールゥは港に行き、何かないかと探したら、唄が聞こえてきた。

 

―――― とても美しい音色で、何度でも聞きたくなるような音色だった。

 

―――― リュールゥはたまたま足を滑らせ、壁に頭をぶつけたとき、その音色は聞こえなくなっていた。

 

―――― その次の日、朝になると再びあの症状になっていた者がいた。

 

―――― また、街の方でも暴動が起きたという話も聞いた。

 

―――― 恋人同士で争っていた人達は両方亡くなっていた。

 

―――― リュールゥは昨日の晩に聞いた唄が関係あると考えた。

 

―――― その日の晩、リュールゥは昨日唄が聞こえた所に見張りをしていた。

 

―――― すると、再びあの歌が聞こえてきた。

 

―――― リュールゥは唄の方に行こうと決意していたが、余りにも美しい音色であったため、体の調子が悪くなり、向かおうとしている足がふらついていた。

 

―――― その向かった先は海だった。

 

―――― そして唄が止まり、体が正常に動き始め、何かないかと探していたが、何も出て来なかった。

 

―――― 朝になると、再び症状になっていた者がいた。

 

―――― 街の方でも再び暴動が起きて、さらに犠牲者が出てしまった。

 

―――― 街の人達から、リュールゥが来てから暴動が活発になったため、リュールゥが首謀者だという話が出てしまった。

 

―――― リュールゥは論理的に否定したが、それでも疑惑は晴らされなかった。

 

―――― その晩、リュールゥは海の方に見張りをしていた。

 

―――― 昨日海の方から唄が聞こえたと突き止めたため、唄が聞こえるまでじっとしていた。

 

―――― そして、唄が聞こえた。

 

―――― 体が動きにくくなったが、リュールゥは海を見ると、水面に何かがいた。

 

―――― 当たりは夜で暗かったが、良く目を凝らすと、それは人の形をしていた。

 

―――― しかし、その下半身が、明らかに人ではなかった。

 

―――― 下半身の形が、魚の尻尾の形をしていた。

 

―――― 唄の正体は『マーメイド』であった。

 

―――― 症状の正体は『魅了』であり、『マーメイド』の唄を聞いて暴動が起きたのだ。

 

―――― リュールゥはどうにか攻撃しようにも、海にいる相手にはどうあがいても届かない。

 

―――― せめて石でも投げて唄をやめさせようとするも、体がまともに動かなくなった。

 

―――― すると、唄は止まり、『マーメイド』は海の深くに帰って行った。

 

―――― 体が動くようになったリュールゥは直ちにこの事実を伝えようと街に行った。

 

―――― しかし、街は暴動が起きてもはや壊滅状態であった。

 

―――― リュールゥは事実を伝えようにも、体の傷が深く、まともに聴けず、それどころか無事だった人から首謀者扱いされた。

 

―――― リュールゥはそれでも伝えようとしたが、ついには聞く耳を誰も持たなかった。

 

―――― これはもう一人でどうにかするしかないと考えたリュールゥは、その晩、再び海を見張った。

 

―――― 『マーメイド』は現れ、唄をうたった。

 

―――― リュールゥはすぐに耳栓をして、エルフの森にいたときに習った弓矢でどうにかしようと考えたが、簡単に避けられ、一向に当たらない。

 

―――― 唄の美声が大きくなる。

 

―――― それは港どころか街全体にまで聞こえるほどだった。

 

―――― 港にいた少年たちも例外ではなく、街全体が暴徒化した。

 

―――― リュールゥも暴徒化した街の人に襲われる。

 

―――― リュールゥはこれをあしらうも、少年たちが傷つけられるところを目撃する。

 

―――― リュールゥは少年たちをすぐにかばうが、傷を付けられていく。

 

―――― それでも少年たちをかばおうとするが、今度は何人かが海の方に歩いていくのを見た。

 

―――― 『マーメイド』は、街の人数を見積もり、自分の限界まで食べられる量まで街の人を間引いていたのだ。

 

―――― 続々と海に入る人々。

 

―――― 中には頭まで完全に海に浸かっても、なお歩こうとしている。

 

―――― リュールゥがかばった少年たちも例外ではない。

 

―――― 今度は海に入ろうとする少年たちを引っ張ろうとしても、少年たちはそれを全力で抗っている。

 

―――― リュールゥはすぐに少年たちに耳栓をさせた。

 

―――― 正常に戻ったことを確認したリュールゥは、帽子と楽器を浜に置き、海に浸かり、『マーメイド』を直接叩こうとした。

 

―――― しかし、『マーメイド』は水中では早く動けるため、簡単に捕まらない。

 

―――― それどころか、大きな唄声で耳栓越しにリュールゥを『魅了』しようとしてくる。

 

―――― リュールゥは必死で抗うが、体の傷もあり、精神が持たなくなり始めた。

 

―――― ついにはもう動かなくなった。

 

―――― これを見た『マーメイド』はすぐにリュールゥを捕まえ、溺れさせようとする。

 

―――― しかし、隠し持っていた武器で、『マーメイド』を貫き、魔石を破壊した。

 

―――― 『マーメイド』は灰になり、これで終わりかと思い、急いで浜に戻ろうとしたが、人々は未だに争っている。

 

―――― 人々の『魅了』は解けていない。

 

―――― どういうことだと戸惑ったリュールゥの足に、何かが捕まった。

 

―――― それは『マーメイド』であり、なんと別にもう1体いたのだ。

 

―――― リュールゥは不意打ちで水中に引っ張られ、息がすぐに限界に近づく。

 

―――― そして、その影響で耳栓がはずれ、海底にまで引っ張られながら、唄が直接至近距離で聞かされる。

 

―――― 魅了されていくリュールゥ。

 

―――― 次第に頭が白くなっていき、最後に残ったのは―――――

 

 

 

 

 

 

 

―――― 「嘆きと絶望の時代は終わった! これより始まるは、英雄の時代! 神々よ、ご照覧あれ! 私が、アルゴノゥトだ!!」―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― 道化から英雄に昇華した者のあの言葉だった。

 

―――― 精神を持ちなおしたリュールゥは再び武器を『マーメイド』に振るう。

 

―――― 『マーメイド』はまさかの復活に驚き、傷を付けられたが、リュールゥ自身も体の傷が多くあり、水中でもあって、振るうスピードが遅かったため、そこまでだった。

 

―――― 息が出来ず、意識が薄れ始めるリュールゥ。

 

―――― その隙に『マーメイド』はお返しとばかりリュールゥの首を絞め、喉をつぶした。

 

―――― 悶え苦しむリュールゥ。

 

―――― それでもこいつを倒すと考えたリュールゥは必死で『マーメイド』の腕をつかんで引っ張り、そのまま武器を力いっぱい『マーメイド』の胸に突き刺した。

 

―――― 魔石にひびが入り、割れて灰になる『マーメイド』。

 

―――― どうにか倒したリュールゥであったが、水中で息が出来ず、体も傷だらけとなっていて、もう動けなかった。

 

―――― そのままリュールゥは、光が見えなくなり、静かに瞳を閉じて、海の中に沈んでいった…。

 

 

 

 

―――― 誰か、教えください…。私は、私自身も、「英雄」になれたでしょうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――― その5日後、ラキスの街の様子がおかしかったので、オルナとエルミナが様子を見に来ていた。

 

―――― そこには、殺し合いをしたかのような傷を受け、失血死した死体が多く転がっており、建物ももはや残骸しかなかった。

 

―――― そこに取り残されていたのは、飢餓寸前の子供たちとリュールゥが浜に残した帽子と楽器があった……。

 

―――― END ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 読み終わった僕は唖然としたまま本を閉じた。

 

 まさか、リュールゥがあの後、こんなことに陥っていた何て…。

 

「そんな……。この本は、一体だれが書いたんだ…」

 

「……あの、ベルさん」

 

「うわぁ!? アミッドさん!? いつの間に起きていたのですか!?」

 

「つい先程。それより、朝御飯にしましょう。今は体を少しでも良くなることを優先させなさい」

 

「……は、はい…」

 

 そう言い、アミッドさんはすぐに料理を作り始めた。

 

 そう言われても、僕の気が晴れなかった。

 

 でも、どうしてこんな…。

 

 アミッドさんも、この結末を読んで知って、医療の道を選んだのか…。

 

 アミッドさんが作った料理を出されても、口にはあまり通らなかった。

 

 僕の様子を見たアミッドさんは、僕を励ました。

 

「ベルさん。あの本を読んで、落ち込むのはわかります。私も初めて読んだときはベルさんの時と一緒でしたから」

 

「……」

 

「ですが、そこで立ち止まってはいけません。それでは何も報われません。今の時代は、多くの先駆者たちが残してくれたものの積み重ねをして、こうして生活しているのです。この前の『怪物祭』の事や、私が学んでいる医療方法、今あなたの前に出ている料理の調理法だってそうです」

 

「で、ですけど…」

 

「これは私の持論ですが、何かを成しえて、それを後世にも伝え、ちゃんと形として残してくれた者。それが英雄だと私は思います」

 

「ア、アミッドさん…」

 

 確かに、館の騒動の時だって、ハシャーナさんがやったことを模倣して食人花や巨大花の倒し方を思いついたし、『怪物祭』の時だって、実際に【ガネーシャ・ファミリア】が調教したモンスターを事前にショーとして見せてもらえなければ、あんな方法は思いつかなかった。

 

 それらがなければ、僕は今こうして生活できていなかった。

 

「ベルさんが読んだ本の結末は確かに悲劇的なものでした。ですが、ちゃんと形として残してくれました。この本の古さと内容から考えて、初めて世の中に『魅了』に対して、新たな解決法を提示してくれたものだと私は思います」

 

 その言葉で、心の中のモヤモヤ感が薄れて行った。

 

「そのきっかけとなったのが、アルゴノゥトと出会った事であり、リュールゥさんもまた成しえました。そして私達は、悲劇で終わることを繰り返さないように、前を向いて進むのです。」

 

 僕の心の中のモヤモヤ感が完全に消えた。どうやら、僕自身で決着がついたようだ。

 

「……ありがとうございます、アミッドさん」

 

「いえいえ、とんでもございません。ベルさんが今日で私の部屋から出てしまわれるのに、落ち込んだ顔で出られては、泊まらせた私もたまったものではありませんから」

 

「…すみません」

 

「ですが、こうして晴れた表情なら、大丈夫でしょう。今は朝ご飯を食べて、体を鍛えなさい」

 

「わかりました」

 

 そう言い、僕は勢いよく朝御飯を食べた。やはりアミッドさんが作る料理はおいしい。

 

 僕の様子を見たアミッドさんも上機嫌だった。

 

「さて、ベルさん。歯を磨いた後、荷物をまとめましょう。私も手伝いますから」

 

 そうして、僕は荷物をまとめ、部屋を出る準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、部屋を出る前、アミッドさんに「抱き付いたら優しく頭を撫でてください」と言われ、何故!?と思ったけど口にはしなかった。

 

 そうして、ドアの前にアミッドさんに抱き付かれ、頭を優しくなでて、僕は「大丈夫です。僕は修理した館に帰るぐらいなので! これからも(友好関係的な意味で)よろしくお願いします!」と言い、部屋を出た。

 

 何故かアミッドさんがとても嬉しそうな顔をしていたけど、縁がもうなくなるというわけじゃないし、軽い挨拶な感じでもこれからも会えるだろうと僕は思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、修復された館の前に来た。

 

 同じ【アポロン・ファミリア】の団員たちで、すでに到着している人がいる。

 

「うわあ、初めて来た時よりもやっぱり綺麗なってるなぁ。あ、アポロン様像は取り除かれたんだね」

 

「お、来た! おーい、ベル! こっちだぞー!」

 

「や、ベル!」

 

「あ、ルアン! ダフネさんも!」

 

「べ、ベル…」

 

「カサンドラさんも! もうみんな来てたんだ!」

 

「まあ、確かには来るのは早い方けどね」

 

「館がどうなったのか気になって早めに来たんだよ」

 

「荷物の事もあるしな!」

 

「フン。貴様らも着ていたのか」

 

「あ、ヒュアキントスさん!」

 

「アンタが一番乗りだけどね」

 

「なんだー。ヒュアキントスも気になっていたじゃねえか」

 

「当たり前だ! 私はここの団長だからな!」

 

「それ関係ある?」

 

 そうやって皆と談笑していると、アポロン様がやってきた。

 

「やあやあ、皆ずいぶん早いじゃないか!」

 

「アポロン様も!」

 

「アポロン様だ」

 

「アポロン様ね」

 

「アポロン様…」

 

「アポロン様、このヒュアキントス、今度は館の方も守護して見せます」

 

「何か一部を除いて反応が微妙だな!?」

 

 あまりいいリアクションを取ってなかったのか、アポロン様は不満したが、それはそれ。

 

「さて、まずは皆で部屋を決めないといけないしな!」

 

「え、前とは違うんですか?」

 

「今度から男女共同も可とした!」

 

「「「「……ええええ!?」」」」

 

「あの、アポロン様。このヒュアキントス、やはりそれは考え直すべきだと思っているのですが…」

 

「あ、もちろん更衣室と風呂は別だよ?」

 

「いや、そういう意味ではなく」

 

「勿論私と団長であるヒュアキントスは個室だ」

 

「いえ、私の事ではなくてですね」

 

 ヒュアキントスさんがこの案について苦言しようとすると、懐かしの人物で再開した。

 

「おお、皆もう着いていたのか。私が先について驚かそうと思ったのだが」

 

「「「「リッソス!?」」」」

 

「「リッソスさん!?」」

 

「え、リッソス、アンタいつ退院したの?」

 

「今日だ」

 

「今さっきなんだ…」

 

「リッソスさんの経過観察はいつぐらいなんですか?」

 

「1ヶ月だ」

 

「良く退院できたな…」

 

「なんか治療員がやけに上機嫌で頑張っていた結果らしい」

 

「えっ」

 

「「「……まさか」」」

 

「「……?」」

 

「ところで、何の話をしていたんだ?」

 

「「「「男女共同化の話」」」」

 

「……食堂とかの話か?」

 

「いや、普通の私室の話だ」

 

「……は?」

 

 この話を聞いて、リッソスさんはとても混乱した。

 

 もの凄く気持ちはわかるけど…。

 

「はっはっは! これで大幅に私は動けやすくなるぞ!」

 

「「「「いや、駄目だから撤回!」」」」

 

「断る!」

 

「……」

 

「我が【アポロン・ファミリア】全員で協力して反論するしかない!」

 

「皆ー! こっちに来てこの話を反論してくれー!」

 

「人手が足りない!」

 

「ウチはこっちの方を呼ぶからカサンドラはそっちをお願い!」

 

「わかったよ、ダフネちゃん!」

 

「はっはっは! 我が【ファミリア】の一体感は、私が『怪物祭』で期待しようとしていた時以上だな!あの時は結局騒動で話が無くなってしまったけど!」

 

「笑い事じゃないわ!」

 

「これを採用したら逆に気まずくなる!」

 

「……」

 

「ん? そういえば結局、ベルきゅんは館が崩壊していた間、どこに泊まって「蹴る!」ゲファ!?」

 

「……ほっ」

 

「兎風情は私が後で殴る。結局、あの時は何やかんやそのまま分かれてしまったからな」

 

「……確かにアンタは殴っていいわ。何やかんやあの変態相手に裏で手を回していたし」

 

「ダフネさん!?」

 

「ダフネちゃん!?」

 

「ん? ベルはどこに泊まったんだ?」

 

「…………いや、流石にありえないな。いくら何でも他派閥だし」

 

「……いや、あの、僕今は経過観察中ですから」

 

「ベルってあと何日だっけ?」

 

「4日じゃね?」

 

「じゃあそれが解ける次の日の5日後なら問題ないな」

 

「あ……」

 

「なあベル、一体どこに泊まったんだ?」

 

「それは聞かない方が良いわ」

 

「嫉妬で焼かれちゃうね」

 

「は?」

 

「いてて……。ふむ、結局私の案は決定らしいな!」

 

「駄目!」「却下!」「否定します!」「変態!」「ムッツリ!」

 

「…え、えーと…」

 

「お前まさかの賛成派なのか!?」

 

「い、いや、その…」

 

「やはり今殴る!」

 

「うわあああ!?」

 

「あ、援軍が来たよ!」

 

 僕がヒュアキントスさんに殴られそうになると、そこには他の団員たちが来た。

 

今の僕にとってはこっちの方が救いの神に見えた。

 

「おい、いくら何でも男女共同はなしだ!」

 

「気まずくなるよ!」

 

「アポロン様、考え直してください!」

 

「ぬおおおおお!? 何故だー!?」

 

「フム、却下されたか…」

 

 そうヒュアキントスさんが呟き、僕の処遇については保留となった。

 

 よかった…。とりあえず免れることになったぞ…。

 

「だがそれはそれとして殴る!」

 

「何故!?」

 

こうして、僕はヒュアキントスさんに追われることになった。

 

 【アポロン・ファミリア】の団員は、アポロン様を囲み、部屋の事で大論争を起こしている。

 

 時に笑い、時に怒り、時に悲しみ、時に楽しく。

 

 太陽は、今日も照らし続ける。

 




新章予告

 ベル・クラネルが冒険者登録してから2ヶ月。
 未だLv.1でダンジョンに潜り、探索をしていた。
 都市は『怪物祭』の事があってから未だ警戒令を解かず、【ロキ・ファミリア】もまた遠征中止をギルドから言い渡された。

 そんな中、ある【ファミリア】がメレンにいるという情報が入る。
 
 果たして、その【ファミリア】の目的は!?
 そして、ベル・クラネルに訪れる新たな危機とは!?

次章
 戦争遊戯編 お楽しみに!
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