ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか 作:七篠ロキ
明後日からまた再開します。
あと、今回の話も長いです。
夜。
メレンの港町内にある食人花のありかを探るため、僕とカサンドラさんはその共犯者の1人であるマードック家を見張っていた。
そうして見張り続けていると、遂にマードック家のボルクさんが部屋の床から何か袋を取り出す光景を窓越しに見えた。
僕らはすぐに家の中に強行でも入ろうとすると、ボルクさんの方から、家から出てきた。
僕達は慌てて身を隠し、様子を見ると、ボルクさんは家の外にある倉庫に向かっている。
それに尾行していると、ボルクさんは倉庫の鍵を開け、中から同じよう麻袋が出てきた。
僕らはそれを見て飛び出し、ボルクさんの所に走り、問い詰める。
「それ、漁師たちに持たせている粉が入っていますよね…」
「…!? くっ…!」
ボルクさんは慌てて隠そうとするも、既に遅いと悟ったのか、すぐに観念してくれた。
「まさか見張られていたとはな…」
「ほ、他にも教えてください! 予備の食人花は何処に…!」
僕は食人花のありかを知るため、ボルクさんに何度も問い詰めたが、そこまでは知らなかったようだ。
「いや、それは知らん。俺はこの粉の方しかやっていないからな」
「…と、とりあえず、それは証拠品として押収します…」
そうしてカサンドラさんがボルクさんから粉の入っている袋をいくつか取り上げ、証拠品として押収する。
そして、ここははずれだったため、他の人の所に僕達は向かうのだった。
一方、フィンとアイズは【カーリー・ファミリア】が乗ってきた船が港から離れているのを見て、すぐにそれに乗り込もうと走っていた。
しかし、その途中で何か騒ぎ声が聞こえ、そして行く手を阻まれる。
「…! 食人花!?」
「やはり妨害してきたか…。速攻で倒すぞ、アイズ!」
「了解、フィン」
そう言い、すぐに切り倒していくが、食人花の数が非常に多く、またメレンの街の人達の避難もあり、対処に手間取ってしまっている。
しかも、新たな妨害が入ってきた。
「お前の相手はアタイさぁ~、【剣姫】~!」
「…ッ!?」
大戦斧の攻撃を緊急回避し、すぐに距離をとるアイズ。
相手をよく見ると、全身金属鎧で覆われた者が対峙しており、何か光の粒が立ち上がっているように見えた。
(こんな時に…!)
「ゲゲゲゲゲッ、良く避けたねぇ。だが、今日でもう終わりだよぉ。ここでぶっ潰してやるからさぁ!」
「っっ!?」
直後、鎧をまとった巨女は両手に持った大戦斧を振り上げ突進し、アイズの予想を裏切るほど速く、圧倒的だった。
何とか間一髪で防いでみせたアイズの武器が、あまりの衝撃にピリピリと剣先を震わせている。
(重い!!)
アイズの驚愕は止まらない。
朝で事前に報告にも上がっていたことから、相手は恐らく【イシュタル・ファミリア】の【男殺し】フリュネ・ジャミールだと容易に予測できるが、彼女はLv.5である筈である。
にも関わらず、Lv.6の【剣姫】と互角に及ぼうかという力と速度で渡り合っている。
攻撃の威力、動作の速度、知覚範囲、すべてを考慮してもLv.5のものではなかった。
(【ランクアップ】したの? この人もLv.6に…!? でも、この違和感は…)
「ゲゲゲゲッ、間抜けぇ!」
「ぐっっ!?」
途方もない威力によってアイズの体勢が揺らぎ、さらにそこから連撃で真正面から大戦斧を振り下ろされ、剣で受け止める格好となってしまい、アイズの膝が沈み、地面に亀裂が走る。
そして、唇を裂いたフリュネは更に大声で叫んだ。
「今だよぉ! やりなぁ!」
声を放った先は戦場の外であり、そこに潜んでいたアマゾネスが予定調和かのようにアイズに向け、何かを唱えた。
「~~~~~~!?」
直後、高周波のような何かを浴びせられるアイズ。
しまったと思い、堪らず受け止めている大戦斧を振り払い、その場から緊急離脱する。
それらがすぐに止むと、体には傷もなく、異常も見られなかった。
しかし、相手が追撃せず、何か面白そうにこちらに窺っている。
まさかと思い、アイズは魔法を起動させようにも、上手くできない。
「…これは…」
「ゲゲゲゲゲッ!! 成功したようだねぇ! そうさ、『呪詛』だよぉ~! 【勇者】の方にも浴びせようかと思ったけど、距離が少し離れちまったからもったいなかったが、魔法が使えない今のお前ではアタイには勝てないさ~!」
『呪詛』は純粋な『魔法』とは異なり、発動者に代償を与える代わりに、『魔法』にはない呪術的な効果を発揮し、それは発展アビリティである『耐異常』の類も無意味であり、限られた方法でなければ防御も解呪もできない。
術者を倒せば『呪詛』は解呪することが可能だが、既に行方をくらませてしまっている。
魔法が使えなくなったアイズに、Lv.6の力を持つフリュネが襲い掛かる。
フィンはそこに援護しに行こうにも、大量の食人花とアマゾネス達に阻まれている。
ガオレン船が沖から離れていき、もはや泳がなければ追い付けない所に行ってしまっている。
フィン達はそれを見て、歯を食いしばりながら戦いに身を投じる。
その様子を、アイズと同じ金の長髪を持つ獣人が見て、様々な感情が去来していた。
一方、ルアンは何かを探しているのか慎重に行動している【ニョルズ・ファミリア】団長のロッドの後をつけていた。
神ニョルズを見張っていたが、ルアンは一瞬騒ぎ声がした方に目を向けてしまい、いつの間にかニョルズがいなくなってしまっていた。慌てたルアンだが、その前にロッドが何かを見つけたかのようにどこかに向かって行くのを見て、ルアンは挽回の機会だといわんばかりにつけている。
(それにしてもこんな海蝕洞の奥地まで来ているし、オイラ、無事に元の出口に戻れるかな…?)
ロッドが海蝕洞の中に入り組んでいる道を迷うことなく進み、ルアンもそれについて行く。そして、ロッドが何かを見つけたかのように、息を殺した。
「…っ」
ルアンもまた慎重にそれが何かを遠目で見ると、複数置いてある黒檻の中で、小型の食人花がいて、また地面には大量の檻が外に運び込まれてしまったであろう跡があった。
ルアンはそれを見て、思わず声を上げてしまう。
「うげっ!? オイラの方が当たりかよ!」
「っ!? 誰だ!?」
ロッドは慌てて振り返り、ルアンはかなり焦り、言い訳を行う。
「あ、ちょっ、待て。オイラは今ここに来たばっかりだ! 実は食人花という今檻の中に囚われているモンスターが隠されている場所を探っていて…」
「…ま、参ったなぁ。俺を追跡されていたのか…。気づきもしなかったぜ…」
「いや、お前が犯人じゃないのはわかっているから。オイラはニョルズ様の方を見張っていたし。そういう意味じゃ二重尾行だな、これは」
「………え?」
ルアンがそう言い、ロッドがその言葉を聞いて唖然していると、その話を聞いていたのか、神ニョルズがロッドよりさらに前の方から沈痛な表情で現れた。
ロッドはこの光景を見て、咄嗟に自分のせいにしようと主神を庇おうとしたのだ。
彼に対する信頼と敬愛がそう行動させようとしたが、ルアンは事情を知っているため、すぐに見破られてしまった。
ニョルズは眷属に自分の罪を押し付けかけた事で、後悔たる思いに染まっている。
「ニョルズ様、嘘でしょう!? こんな化け物を湖に放してたなんて…!」
「いや、何も間違ってねえよ、ロッド。俺はお前たちが思っているほど、立派な神様じゃねえってことさ」
何も否定しない主神にロッドは泣き出してしまう。
彼と目線を合わせないニョルズは、ルアンとその背後にいるもう1つの影の方に見やった。
「悪いな、ヘルメス。これは俺が…」
「もう隠し事はなしだぜ、ニョルズ。他の所にも行かせているし、事情も推測できている」
「えっ!? ヘルメス様、いつの間に!? ギルド支部の方は…!?」
「アスフィが速攻で終わらせて、こっちに来たのさ。ルアン君の後姿が見えたから、俺もそれに尾行したのさ」
「オ、オイラ達、三重尾行になってたんだ…」
ヘルメスが背後についてきていたことに気づかなかったルアンは、驚嘆している。
「まあギルド支部の方は、ルバート1人だけだったからな。都市への信号機を持ち出していたり、他にも何か怪しい資料も回収していたからわかりやすかったからな。さて、ニョルズ。早速聞きたいことがあるが、どうやってこの食人花を知ったんだ?」
「…7年。いや、6年前か? オラリオの排水路からこいつが流れてきてな。ロログ湖に飛び出してきたことがあったんだが、その時は旅の【ファミリア】に殲滅してもらった。で、無断で都市の地下水路を探っていたら、変なヒューマンに会った」
「そいつの特徴は?」
「そうだなぁ、前髪で目を隠していて、白くて不健康そうな男だったな。それでそいつと話していたら、交渉が持ちかけられた。「食人花を湖に放つ代わりに、港町からの密輸の融通を図ってくれ」と」
「そしてそれを承諾して、ギルド支部と街の長であるボルクを巻き込んだという事か」
「あぁ、その通りだ」
ルバート、ボルク、ニョルズ。
この3人の共犯関係はなるべくしてなり、彼らの行いは数年間も続けてきたのである。
漁と海、そしてそこに関わる下界の住人を愛した男神ニョルズの末路に、ヘルメスは溜息をこぼす。
「一応確認するけど、その怪しいヒューマンとは取引相手なだけなのか?」
「ああ、そうだが…」
「…ここに運んでおいて、港近くに食人花を放したのは誰だ?」
ヘルメスの質問にニョルズは声を詰まらすが、正直に白状した。
「えー、あー、………【イシュタル・ファミリア】だ」
「やっぱりか…」
出現した食人花に目を疑い、ニョルズ自身がここに来る原因となった【イシュタル・ファミリア】。それが今動いているという事は、決闘が行われている。
完全に後手に回っており、ヘルメスは状況が悪化していることに頭を抱えた。
また、別の疑問も尋ねる。
「そういえば、取引相手の密輸ってのは何を運んでいるんだ?」
「いや、俺も中身を見てないが、何か箱がガタガタ揺れていたから、生き物かもな。とにかく金が必要とか言っていたな」
「金、か…」
『闇派閥』の活動資金が非常に困っている状態であると推測したヘルメスはすぐにこの話を切り、今の現状の事に考えた。
(【勇者】も【剣姫】も足止めされていたのを見えたから、残りの戦力はアスフィ、ベル君、カサンドラちゃん、今ここにいるルアン君となるな…。後はベート君の動き次第という形だな。そうなると…)
一方、ベートは少ない人数である宿の見張りをすぐに気絶させ、宿の中に入って行った。
(昨日の昼間に戦ったやつは宿から何処かに行っちまいやがったし、早いとこあいつを探して…!)
ベートが宿の中を探索していると、あまり時間をかけずに、地下に通じる扉を発見する。
ベートはその扉を開け、奥へと進んでいく。
薄暗い道を進み、奥に辿り着くと、そこにも見張りはいたが、すぐに倒す。
そして、そこには鎖で縛られている神ヴィーザルとダフネの姿があった。
「…! ベート!? ここに来ていたのか!?」
「【凶狼】!?」
「…耳にはしていたが、本当にお前が来ていたとはな、ヴィーザル」
「……」
ベートの出現で、囚われていた者たちは驚愕の顔を出し、そしてヴィーザルはすぐに沈痛な顔をした。
「さて、折角だから聞かせてもらおうか。お前らがオラリオから出た後、何があった? 他の【ファミリア】の連中はどうした?」
「…全員、【カーリー・ファミリア】に足を掬われ、命を落とした」
「……ッ!?」
ベートは【ヴィーザル・ファミリア】の人達の末路を聞き、顔に動揺が走る。
ダフネはそれをベートに聞かされてしまい、この後どうなるのか想像したくなかった。
「お前ら……! 何故逃げ出さなかったんだ!! 戦力差ぐらい理解できるはずだぞ!! あいつらはそこまで…!!」
「……すまない、ベート…」
「あの時と同じく、お前が謝るんじゃねえ!! 一体何があったんだ!? 【カーリー・ファミリア】の連中がそこまで執拗に追ってきたのか!?」
「…それも、あるが……」
「はっきり言いやがれ! 俺がお前らをオラリオから出して、その後は何があったんだ!」
「……………わかった、そこまで気になるなら話そう。実は―――――」
一方、ルアンとヘルメスは、ニョルズとき止んだロッドを連れて海蝕洞から出ていた。
そして、急いでルアン達が元にいた場所に戻り、そこで待っていたアスフィと合流すると、丁度そこにベルやカサンドラも到着する。
「あ、ルアン、ヘルメス様! そっちはどうでしたか!?」
「ああ、丁度終わったところだ。俺達は証拠品も押収したし、ルアン君が食人花のありかを突き止めて終わらせたし、そこから今戻ってきたところだ」
「…本当に、俺達全員を見張ってたんだな…」
「当たり前さ、ニョルズ。さて、これでもう食人花から手を切る様に。『闇派閥』」関連の物もだ」
「ニョルズ様。今度からは、ニョルズ様が思いつめて変なことに手を出さないように、俺達もしっかりします」
「ロッド…ありがとう」
「…いい子供を持ったな、ニョルズ」
「ああ、まったくだ。これからロッドとボルク達と一緒に、コツコツと頑張って、あのモンスターを使わないようにする」
「よし。それならメレン街の食人花に関しては、これにて一件落着だな!」
「あの、ギルド支部の方は…?」
「他にも汚職していたことが発覚しましたので、その証拠品の資料をギルド本部に提出させます」
どうやらギルド支部長のルバートと言う人が他にも手を出しており、本当に黒であったことが発覚したため、厳重に処罰が下されるだろうと話していた。
それを聞いたニョルズ様は悪い事をしたと思い、こう提案する。
「あいつには悪いことをしてしまったから、職を失ったら俺達【ニョルズ・ファミリア】の漁師として加えるよ」
「いや待てニョルズ、鬼かお前は。事務畑の奴を肉体の戦場に放り出すとか…」
「でもよ、巻き込んじまった俺はこれくらいしか罪滅ぼしが…」
「大丈夫ですよニョルズ様。俺達がちゃんと可愛がってやりますので」
「ならよし!」
「ヘルメス様も鬼ですね…」
意図を超えて好き勝手やっていたルバートに、鬱憤を溜まっていたロッドたちに囲まれる姿が容易に想像できたアスフィは苦笑いを浮かべた。
だが、何はともあれ、メレン街の今後の方針も纏まったため、今度こそメレン街に出現した食人花の事に関しては解決したと僕達は結論する。
そして今度は【カーリー・ファミリア】の方だと言わんばかりに、先程から騒ぎ声が聞こえる方にニョルズ様とロッドさんを残して皆で向かい、今の現状に対処しようと考えていると、ヴィーザル様が囚われていることで、僕は疑念に思っていたことを口にした。
「そういえばヘルメス様。どうしてベートさんは【ヴィーザル・ファミリア】に入団したんですか?」
「ん…? こればかりは本人から聞かないと分からないが、そうだなぁ…。【ヴィーザル・ファミリア】は獣人が多く、探索系の【ファミリア】だったから、多分ベート君も居心地は良いんじゃないかと思ったのかな?」
「そうだったんですか!? てっきり【ヴィーザル・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】のような異種族混合な【ファミリア】かと…」
「大抵は同じ種族が多いところに入団するからね。それからめきめきと力をつけていって、ベート君がその【ファミリア】の中で一番強くなって、信頼も勝ち取ることもできてリーダーになったんだよ。他の団員たちも昇格し始めて、弱小だった【ヴィーザル・ファミリア】は、中堅派閥の仲間入りを果たしたんだ。この時は、ベート君はまだ【凶狼】ではなく、そう呼ばれる前の二つ名だった【灰狼(フェンリス)】と呼ばれていたんだ」
【ヴィーザル・ファミリア】の事についてあまり知らなかった僕は驚嘆した。
話を聞いている限り、ベートさんと他の団員たちとは余り仲が悪かったとは思えなかったのだ。
ならなぜ、【ヴィーザル・ファミリア】はベートさんを残して、オラリオから出てしまったんだ…?
「だが、ここら辺はよく事情を知らないから言えたことじゃないが、ベート君が一時的にオラリオから出て行ったことがあるんだ」
「え…?」
「そして、その間に団員が1人、ダンジョンで亡くなってしまった事があって、帰ってきたベート君と喧嘩別れしてしまったと聞いているぜ」
「…!? もしかして、それが原因でオラリオから出てしまったんですか!?」
「まあ、そういう事になるな。俺の推測では、ベート君がダンジョンから遠ざけるように感じるけどね」
ベートさんが派閥のリーダーとなり、派閥の人達に対して、何かしらのあり方を示したはずが一気にそれが瓦解して、【ヴィーザル・ファミリア】は表舞台から去ってしまった。
もしベートさんが、ダンジョンから遠ざけて助けるつもりだった元仲間だった眷属達が全滅したことを知って、ヴィーザル様と出会ったら、どんな思いを抱いてしまうんだ…?
『殺生石』も必死に守ったのに、結局奪われてしまって…。
「…あれ? そもそも、全滅する原因になってしまった『殺生石』は、どうして【ヴィーザル・ファミリア】が持っていたんですか?」
「…さてな。こればかりは、俺にも推測しようもない。何せ、最後にあった情報は5年半ぐらい前だから、団員もどうなっていたのかもわからないからね」
ヘルメス様もそこは気にしていなかったのか、僕と同じように走りながら考え始めた。
一方、とある洞窟内。
【カーリー・ファミリア】に囚われてしまっているレフィーヤとルルネは、目の前でティオナとバーチェが戦闘を繰り広げている光景を、神カーリーと多くのアマゾネス達と一緒に目の当たりしている。
最初、ティオナはバーチェとの戦闘を拒否していたが、カーリーは戦わないと人質を殺すと言い、バーチェもまた魔法を唱えた。
「【食い殺せ、ヴェルグス】」
それは付与魔法であり、超短文詠唱である、バーチェ唯一無二の魔法を発動させる。
属性は『猛毒』で、テルスキュアの『儀式』と呼ばれる戦闘の中で多くの同胞を葬ってきた、防御不可能の毒牙である。
アルガナを『蛇』だとするならば、バーチェはこの魔法により、『毒蟲』に例えられる、まさに『蟲毒の王』と名乗るにふさわしい武器だ。
魔法の発動によりバーチェの拳に禍々しい光が纏い、周囲のアマゾネス達が一斉に足を踏み鳴らし、闘技場の『儀式』を再現するかのように、洞窟内が熱狂に満ちた。
ティオナは襲い掛かってくるバーチェと対峙して、拳を構え、戦闘に至ってしまう。
その様子を見ているカーリーは、喜んでいた。
「かかか! やはりこっちの方を見に来てよかったのお!」
バーチェの魔法を纏った拳が、ティオナが躱して地面につき刺さり、その地面から異臭と煙が立った。
それを見た囚われのレフィーヤとルルネが戦慄する。
「な、なんですか、あの魔法…!?」
「あ、あの魔法の毒、下手したら『ポイズン・ウェルミス』の劇毒よりやばいんじゃ…!」
「かかか! あの魔法を食らった【ヴィーザル・ファミリア】の彼奴らも、お主たちと同じように戦慄していたのぉ!」
「「……!?」」
ダンジョンに出現する『ポイズン・ウェルミス』ですら、『耐異常』がそれなりに高くなければ、苦しんで、特効薬なしでは下手したら死に至る。
【ヴィーザル・ファミリア】の人達は、あの魔法を喰らって…!?
レフィーヤはカーリーに感情的になって質問した。
「ど、どうしてそんな事を…!?」
「ん? ああ、お主たちには伝えてなかったな。実は、とある依頼で、あるものを手に入れるためだったんじゃが、その時に【ヴィーザル・ファミリア】が抵抗されてしもうてな。それで仕方なくな」
「そ、そんなに【イシュタル・ファミリア】からの依頼が重要だったんですか!?」
「報酬が、わしらにとってはまたとない機会だったのじゃからな。何せ、【フレイヤ・ファミリア】と戦えるからな」
「そのために殺してまで『殺生石』を奪って…!」
「………ああ、なるほどなるほど。お主の言い分がわかった。そして、少し勘違いしているぞ」
「………え?」
宿にいるベートと囚われのダフネ、神ヴィーザルが対峙しており、ベートは【ヴィーザル・ファミリア】のオラリオ後の行動を聞いていた。
「そこまで気になるなら話そう。実はオラリオに出てから、私ら【ヴィーザル・ファミリア】の眷属達は皆ずっとそのまま残っていたのだ。そんなある日、獣人の種族である女の狐人が我らの派閥に加入を申し込んできたんだ。最初は断ったが、それでも食い下がってきて、理由を聞くと、どうにも住んでいた村が洪水によって沈んでしまって1人となってしまい、たまたま近くにいた私らに加入したいと事で、眷属達みんなと相談し、受け入れたんだ」
「……はっ、お前らはまだそんなことをしていたのか。まだ何か諦めていなかったのか。で、それで?」
「その狐人は2年間ぐらい我らと共に過ごしてな。そして、どこの派閥にも所属していない同じ種族である男の狐人と恋に落ちたんだ。丁度ベートが昔、そうしていた風にな」
「……ッ!? てめぇ、蹴り殺されたいのか! つーか、あの時のを見てやがったのか!?」
「そしてそのままその2人は結婚して、月日が流れて、子供が生まれたんだ」
「スルーすんな!! 俺の方の問いに答えろ!!」
「そして、その時は今から丁度2年前で、私ら【ヴィーザル・ファミリア】総員でそのことを祝福し、その2人と赤ん坊を含め、盛大に宴をしていたんだ」
「おいっ!! てめぇの耳はついに腐っちまったのか!!」
ベートの言い分を完全にスルーして話を続ける神ヴィーザルに、すぐ傍にいるダフネはこの場の場違い感に少しどうにかしてほしいと思っていた時、ヴィーザルの声のトーンが落ち始める。
「その時だったんだ。【カーリー・ファミリア】の奴らが乗り込んできたのは」
「「…!?」」
「私らは最初、何事かと穏便に対処しようとしていたんだが、向こうは一方的に蹂躙してきた。私らはそれでも抵抗しようとしたが、眷属達は皆、奴らに殺されてしまったのだ」
「………」
そして、神ヴィーザルはそのまま捕まり、今に至る。
【ヴィーザル・ファミリア】のあっけない結末を聞かされ、ベートは佇んでいた。
世界で最も危険なダンジョンから遠ざけても、弱肉強食の世界に飲まれ、皆最後にその牙に食い荒らされてしまったのだ。
そして、その話を聞いていたダフネはあるものが話に出てきていないことに気づく。
「ねぇ、ちょっと待って。割り込んできて悪いんだけど、質問しても良い?」
「ああぁ?」「何だ?」
ベートの不機嫌な返事をヴィーザルはスルーして、ダフネの質問を聞く。
「『殺生石』はどうしたの? ウチらの方の情報には、アンタの【ファミリア】がそれを持っていたから、【カーリー・ファミリア】が【イシュタル・ファミリア】の依頼で、殴り込んできたような話を聞いているんだけど」
「あ? 『殺生石』? なんだそりゃ?」
「狐人専用の負の魔道具の事よ。【イシュタル・ファミリア】はそれを欲しがっていたの。てっきり今の話から、【ヴィーザル・ファミリア】の誰か、もしくは狐人の2人のどちらかが持っているものだと思っていたけど、違うの?」
ダフネとベートはヴィーザルの方に視線を向け、ヴィーザルが答えを言うのを待っていた。
そして、口を開く。
「………いや、我らの派閥や狐人2人も両方『殺生石』は持っていない。そもそも、あの宴の場にそんなものはない。私が『殺生石』を見たのは、昨日が初めてだ」
レフィーヤの質問に、カーリーはそもそも勘違いをしていたことに気づき、そこを指摘した。
その事で、レフィーヤと傍で聞いていたルルネは困惑する。
「少し勘違いしている…? どういう事ですか!?」
「お主らは、妾達が『殺生石』を奪おうと【ヴィーザル・ファミリア】を主神残して皆殺しにしたと思っておるじゃろ。だが、それだと微妙に依頼内容とは異なっておるのじゃ」
「…? じゃ、じゃあ、どんな依頼内容だったの? 私達の主神であるヘルメス様も『殺生石』を狙って起こしたものだと思っていたけど…」
「そこじゃ。そこが微妙に違うのじゃ」
「どこだよ!? どこが違うんだよ!?」
ルルネはどこら辺が違うのかわからず、催促の声を上げるが、レフィーヤは改めて質問した。
「……じゃ、じゃあ、【イシュタル・ファミリア】からもらった依頼内容は、何だったのですか?」
その問に、カーリーは待っていたとばかりに答える。
「依頼内容はこうじゃ。『そちらの準備が整っていたら、メレンに来てもらいたいのだが、今はこちらの方の問題が残っている。あるものを決戦で使いたいが、いまだ完成しておらず、その材料であるは『鳥羽の石』があるが、もう片方がない。そのため、アルベラ商会から教えられる場所で調達してきて欲しい。調達したら、指定の場所まで運んでもらいたい。それを使って加工して、完成するまで1年半はかかるが、その加工が終わったら取り来てもらい、【フレイヤ・ファミリア】との決戦前の準備のため、メレンに来てほしい。その時に加工してもらったやつも運んできてほしい』とな」
一方、僕達はフィンさん達が戦っている所の前まで来た。
【ヴィーザル・ファミリア】が『殺生石』を持っていた来歴が考えても出て来ず、僕とヘルメス様、そしてその話を聞いていたアスフィさんは悩んでいる。
そして、不意にあることをアスフィさんに聞いた。
「そういえば、朝の報告会の時に、『殺生石』の材料について一瞬だけ触れたじゃないですか。その材料って一体何でしたっけ?」
「『殺生石』の材料は『玉藻の石』と『鳥羽の石』です。『鳥羽の石』の原料はルナティック・ライトと呼ばれるもので、月の光を浴びることで色を変え、光を放ち、魔力も帯びる特殊な鉱石です。地下に潜るダンジョンには縁がなく、オラリオには出回ってはいません」
「…『玉藻の石』は?」
『玉藻の石』について聞いてみると、アスフィさんは少し苦い顔をしたけど、すぐに教えてくれた。
「…心して聞いてください。『玉藻の石』の原料は、狐人の子供の遺骨です」
「…えっ!?」
「『玉藻の石』は本来、狐人の魔法、『妖術』の効果を跳ね上げる物として使われています。そして、その2つを加工する事で『殺生石』ができます。今日から3日後に現れるような満月の時に悪魔の石に変わるのも、この2つの原料の性質によって起こるのです」
『殺生石』の効果の恐ろしさは聞いてはいたのに、まずその原料から非人道的なことが行われていることに僕は衝撃を隠せなかった。
そしてちゃっかり聞いていたルアンとカサンドラさんもまた、衝撃を隠せず、走りながらこちらの方を見ている。
だけど、そんな衝撃を味わっている暇はないかのように、現実は襲ってくる。
僕らはついにフィンさん達が戦っている所に辿り着いた。
「…!? 食人花がこんなに!? 急いで手助けないと!」
「う、うん! 少しでもこの状況をどうにかしないと!」
「うげ!? よくよく考えたら、オイラって無理じゃね!? アマゾネス達もいっぱいいるし!」
「それでも戦いなさい。少なくとも【勇者】と【剣姫】のどちらかを自由にすれば、まだこの状況を取り返せるかもしれませんから」
そうして、僕らは食人花とアマゾネス達の群れに突っ込み、戦いに身をゆだねることになった。
一方、宿にいるベート、ダフネ、ヴィーザルは話の続きをしていた。
「あ? じゃあ、何でお前らが襲われたんだ? 『殺生石』つーのは、なかったんだろ?」
「ああ、なかった。完成された『殺生石』はな」
「…? どういう事?」
「『殺生石』の元となる原料があの場にあったんだ。生まれた狐人の赤ん坊がな」
「「……はぁ!?」」
狐人の赤ん坊が原料という事に衝撃を隠せず、ベートとダフネの声は重なった。
「あの時は理由が分からなかったが、奴らはやけにその赤ん坊を狙っていて、それに気づいた私らは必死に抵抗した。だが、ご覧の有様だ。皆殺されてしまって、私は囚われて、残った赤ん坊の亡骸を目の前で加工されてしまった。その時に『殺生石』の事を私は知った。」
「………その『殺生石』は、今何処に?」
「【イシュタル・ファミリア】の方に渡ってしまっている。まだこのメレンにあるかどうか…」
ヴィーザルはそう言い、しばらく場が沈痛な空気が流れていると、ベートがヴィーザルとダフネの鎖を解き、解放する。
そして、ベートは叫んだ。
「……たく、結局この世界はどこに行っても弱肉強食っていうのか! どいつもこいつも雑魚だったって言うのか!」
絶望と失望が渦巻くのをベートは止められなかった。
そして、『弱者』によって現実を見せられ、打ちのめされてきたベートは一つの解に辿り着いてしまっている。
いくら強くても、いくら守っても、『弱者』はあっさりベートの指の隙間からこぼれていく。
ならば、遠ざけるしかなかった。
罵って、嗤って、傷つけて、戦場に立っていいのは『弱者の咆哮』をあげられる者だけ。
それほどの気概がなければ、『雑魚』は屍を無為に積み上げる。
だから、ベートは戦場に立とうとする『雑魚』を蔑み、嗤い続ける。
昔の自分を見ているようで、視界に入れないように。
『弱者』を見放せず、本人も気づこうとしないほどの、叱咤激励をしているかのように。
吠えるベートに対して、ヴィーザルは尋ねる。
「ベート。昔、私はお前にこう言ったのを覚えているか?『ゆめゆめ、その牙ごと顎を引き裂かれないように』と。その意味は分かったか?」
「……ああ、わかってるぜ! もう、とっくの昔にな!」
そう、【ヴィーザル・ファミリア】がオラリオに出た後すぐに。
ベートの『牙』は、そのまま牙ではない。『傷』だ。
その『傷』は『弱さ』の証。その『牙』は『強者』の粉飾。
「傷だらけの狼」。それが、弱者を捨てたベートの正体だった。
弱者に吠えかかり、強者を食らう。その大顎を上下に引き裂かれるまで。
ベートは『弱者の咆哮』を待つことしかできなかった。
そして、不器用すぎる狼の、不器用な『願い』でもあった。
「……おい、ヴィーザル」
「なんだ、ベート」
「今夜だけだ」
ベートはある決意をした。
これはベートのわがままである。
それは自分自身の中に残っている僅かなけじめのためか。
その場にいたダフネが証人となり、ヴィーザルに対して宣言する。
「今夜だけ、【凶狼(ヴァルナガンド)】じゃなく、【灰狼(フェンリス)】を名乗って戦ってやる。『殺生石』を探して、お前に届けてやる」
それは、【ヴィーザル・ファミリア】の皆に対しての弔い合戦のため、在住時だった二つ名で挑むことを決意した表明だった。