ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか 作:七篠ロキ
それは、【ヴィーザル・ファミリア】に在住時であり、弱者だった頃のベートの二つ名。
いつもは、誰かが『弱者の咆哮』をあげるのを待つばかりだった。
だが今晩だけ、ベート自身も『弱者の咆哮』をあげる決心をする。
「今晩だけ、【凶狼(ヴァルナガント)】じゃなく、【灰狼(フェンリス)】を名乗って戦ってやる。『殺生石』を探して、お前に届けてやる」
「ベート、その二つ名は…!」
「言うな。これは、俺のけじめでもあるんだ」
「…そうか。お前が良いというのなら、それでいい。いつかお前の『牙』は、別の意味を持つことがあるかもな」
「……何にせよ、俺はもう行くぞ。『殺生石』がメレンから持ち出されたらキリがねえ。俺が先に【イシュタル・ファミリア】の所に行って倒しておくから、時間短縮という意味で、そこの女…、ダフネ、つったか。ヴィーザルをリアカーか何かに乗せて、俺の近くまで来い」
ベートはそう言い、さっきから少し話に入りづらそうにしていたダフネに命令し、ダフネはまさか指名されるとは思わず、催促の声を上げる。
「ちょっ、私が連れて行くの!?」
「リアカーぐらいすぐその辺にあるだろ。荷物の持ち運びとかメレンでは日常茶飯事だからな」
「いや、こういうのは普通男がやるもんでしょう!?」
「知らん。とにかく、俺はもう行く。フィン達がやべぇかもしれねえしな」
ベートはその場から抜けて宿を出て、外で騒ぎ声が聞こえる所に駆けて行った。
ヴィーザルはその光景を平然と、ダフネは唖然とながら見送る。
「……どういう事? 【凶狼】って、あんな奴だっけ? 何か少し変わってない? いつも弱そうなやつを見下ろしていなかった?」
「…ベートはああ見えて、不器用だからな。昔もそうだったが、今も変わらないな」
ベートの変容に戸惑いを隠せないままリアカーを探しているダフネに対して、ヴィーザルはベートが向かった方を見ながら、逆に懐かしさを感じている。
「そうだな。ベートが次に入団した【ロキ・ファミリア】に影響されたのか、それとも考え方が変わりつつあるのか。そうだとしたら、まだまだ青いな、ベートは」
ヴィーザルはそう口に出しながら、ベートに対して心の中でエールを送る。
(…頑張れよ、ベート)
一方、【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦や食人花と戦っているベル、カサンドラ、ルアン、アスフィ、フィンは苦戦していた。
食人花の数が非常に多く、また戦闘娼婦達もオラリオの冒険者であって一人一人が強く、一向に形勢がベル達に傾かない。
ガオレン船はもう遠くに行ってしまっている。ここから追い付くのは絶望的である。
アイズもまた魔法が使えず、フリュネ相手に非常に押されている。
(まずいな…。このままでは、ティオナやティオネの所に向かうことが出来ない…!)
この場から切り抜けだすことが出来ず、徐々に焦りが見えてくるフィンに戦闘娼婦達は手を緩めない。
「このまま食人花を中心にやっちまえ!」
「挙句の果てには【勇者】を弱らせて、そのまま捕まえて、私達が食っちまえ!」
「よっしゃあ! そういうことの一番は、私がもらうぜ!」
「いや、私よ!」
【イシュタル・ファミリア】はこちらに分があるためか、余裕すら見せてくる。
ついに情事の事についてまで話し始め、そちらの方に口論していた。
そして、【イシュタル・ファミリア】の姉貴分である、長脚の美脚を持つアイシャ・ベルカがその話に乗ってくる。
「それなら、向こうで戦っているお年頃の白髪の坊やは私がもらおうか。ついでに春姫の土産として。あいつも初だしな」
「あ、アイシャずるい! 私がつまみ食いしようと思っていたのに!」
「それだったら、サポーターっぽい小人族の奴がいるだろ」
「あれは何か、やだ」
そんな話をして、マードック家から押収した粉をばら撒いて、食人花の行動を制限して上手く戦っている僕らにもアマゾネス達が襲い掛かってきた。特に僕の方に。
「うわああああ!?」
「ベル、逃げろ!」
「私達も危ないっ!? …て、あれ?」
「…というより、全員ベル・クラネルの方に襲い掛かっていますね」
「うわー、ベル君ご愁傷さまー」
アマゾネス達が僕の方に押し寄せ、ルアンは逃げるように促し、カサンドラさんは自分に攻撃を仕掛けて来ないことに疑問を持ち、僕らの中では一番食人花を倒しているアスフィさんは少し遠い目を見ながら戦場を見渡し、ヘルメス様は戦場から離れて僕らの光景を見ており、僕に対して同情をしていた。
【イシュタル・ファミリア】のアマゾネス達が食人花を巻き添えに、僕の方に次々と飛び込んでくる。
「いただき!」
「最初は私!」
「睨めっこなしの早い者勝ちだ! フリュネが【剣姫】を相手取っているから、そいつに悟らせないように!」
「ひぃいいいいいい!?」
僕はその光景を見て、恐怖が全身に襲い掛かり、背を見せ、なりふり構わずその場から逃げ出した。
捕まってしまったら、僕の中で何かが終わる!
だから走れ! 走るんだベル・クラネル!
僕は恐らく『ミノタウロス』に追われた時とほぼ同等の走りが、この場で起きた。
「ほぉあああああああ!!」
「あっ、逃げた!」
「追え! あの兎っぽい奴を逃がすな!」
「包囲網を作れ! 駆け出しっぽいからそう遠くまで逃げられないはずだ!」
「いい子だからこっちにおいでぇ!」
僕の後ろでアマゾネス達が大量に追いかけてくる。
もしかしたら、この場にいたアマゾネスの半分が僕の方に追いかけてきているかもしれない。
皆の負担が軽減できているかもしれないけど、僕が捕まってしまったら僕自身には意味がない。
一瞬後ろを見たら、やはりアマゾネス達が追って来ている。
そして、さらにその後ろ、カサンドラさんが懸命にアマゾネスの一人の足を引っ張って僕を少しでも助けている、もっと後ろ。
ベートさんがこちらに向かっている姿が見えた。
ベートは遠くから足止めされているフィン達の様子を見て、足が止め、躊躇なく詠唱を始める。
「【戒められし、悪狼の王――】」
ベートは『平行詠唱』などできない。
『魔力』などちっとも極めていない。
それは、ベートは元より使うつもりのない物に労力を割いていないから。
「【―――癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りと憎悪、汝の脆弱と汝の劣化――――】」
ベートはこの魔法が嫌いだった。
『魔法』は詠唱分を含め、本人の資質、そして心に持っている想いを反映する。
この呪文はベートの『弱さ』を知らしめ、目を背け続けている『傷』に気づかせてしまうから。
「【――――傷を牙に、慟哭を猛哮に―――喪いし血肉を共に――――】」
詠唱が、加速していく。
戒められた獣が静かに封印を破るかのように。
普段なら、『魔法』を使うことはない。
【ロキ・ファミリア】の時でもわずかに一度だけ使用したことがあるぐらいしか使っていない。
「【―――その炎牙をもって―――平らげろ】」
だが、今は【凶狼(ヴァルナガント)】ではなく、【灰狼(フェンリス)】である。
【凶狼】が自らつけた枷なんか知ったことではない。
そして、【凶狼】がつけた自我の鎖に戒められた『弱者の咆哮』を解き放つ。
「【ハティ】」
その瞬間、凄まじい熱光が放たれた。
光が放たれ、その中心を皆一斉に見る。
未だに戦っているアイズとフリュネを除き、フィン、カサンドラや対峙しているアマゾネス達、追われているベル、戦場から離れているヘルメスまでが。
そこには、右手、左手、右足、左足の部位に発現した紅蓮の炎を纏っているベートの姿があった。
「来るのが遅いぞ、ベート」
「あれって…!?」
「【凶狼】!?」
「しかも、ベート・ローガが魔法を纏っている!?」
「…あいつ、付与魔法が使えたのか…!」
「へえ、これは驚きだね」
「べ、ベートさぁあああん!」
皆がその光景を、一部を除いて驚いている中、ベートは駆け足で戦場に突っ込み、食人花の一体を一瞬で消し炭にした。
「…はぁ!?」
ルアンがそれを見て唖然としている間にも、さらに数体燃やし尽くしている。
食人花が襲い掛かろうとするも、すぐに炎の破片となって砕け散った。
食人花を次々と瞬殺していき、圧倒的な数があった食人花がみるみるうちに数を減らしていく。
拳で食人花のツタを灰に変え、踵落としで縦断して焼き尽くす。
舞散る激量の火の粉や炎の尾を引き連れて放たれる拳と蹴撃の軌跡が描かれる。
圧倒的な蹂躙風景に、皆がそれを見ていた。
ましてや、満月ではないが、今日も月が出ており、月の光が差し込んで、ベートが『獣化』していく。
狼人は最も迷宮探索に向いていない種族であり、『獣化』によって獣性と力が解放される条件は、月の光を浴びることである。
その力が解放され、食人花の群れを一瞬で八つ裂き、及び消し炭にしてゆき、とうとうフィンもまた自由に動けやすくなった。
戦闘娼婦達が阻止しようにも、食人花がすぐに燃やし尽くされて跡形もなく消えてゆく様を見て、足がすくみ動けなかった。
それでも何人か動いてベートに襲おうにも、ベートは熱波を出す。
「あっつぅ!?」
「あ、熱い! み、水を早く! あ、湖に飛び込めば!」
襲い掛かってきた戦闘娼婦達が余りの熱波にすぐに後退し、ベートの所には辿り着けていない。むしろ、戦闘娼婦達の体の一部が火傷をしていた。
ベートはそれらに歩み寄り、『殺生石』の在り処を聞く。
「おい、てめぇら…。『殺生石』、つーのはどこにある?」
「い、言うから!? 助けて!?」
「春姫の所にあるから!」
「むこうの建物の近くにあるから!」
あっけなく自白してきたアマゾネス達はすぐさま逃げ、ベートは言われた建物の方に目を向ける。
そしてそのまま視線を戦っているアイズとフリュネに向けながら、近づいてくるフィンに提案してきた。
「フィン、ここは俺に任せろ。すぐにこいつらを片づけさせてやる」
「そうだね。ここは君に任せるとするよ。僕らはティオナやティオネの方を探す」
「ああ、わかった」
ベートはフィンにそっけなく返し、フィンはベートの精神的な変化に少し戸惑いを見せたが、すぐに状況を理解する。
そして、アマゾネス達が唖然としてベートを見ている間に、ちゃっかりカサンドラ達に合流していたベルの所にフィンはそこに加わり、役割分担を決めた。
「僕とルアン・エスペルはアスフィ・アンドロメダに船の所まで運んでもらって、そこにいるティオナかティオネを助け出す。ベル・クラネル、カサンドラ・イリオンはアイズと一緒にもう片割れの方を探してくれ」
「「「「了解((しました))!」」」」
「よし、ならすぐに行動だ!」
フィンさん、ルアン、アスフィさんはそのまま湖の方に走り去った。
僕とカサンドラさんも今フリュネさんと戦っているアイズさんとすぐに合流しようと、走り去った。
「ぬぅおおおおおっ!」
「ッッ!」
銀の剣と双頭の大戦斧が凄まじい戦舞を繰り広げていた。
フリュネの剛撃をことこどくはじき返すアイズは、カウンターで斬閃の乱打を見舞わせる。その斬撃から鎧をつけた巨女はかろうじて防いでいる。
フリュネの自慢の鎧は傷だらけとなっており、アイズはLv.が並ばれようと、魔法が封じられようと、少女は【剣姫】であり、技と駆け引きで仮初の力を押し返し始めている。
「このぉ、不細工がぁあああ! アタイの自慢の鎧をぉ…!」
「ハァーッ、ハァーッ!」
激昂したフリュネの渾身の一撃が、息切れをしているアイズに襲い掛かる。
アイズはそれを往なしてカウンターで深い回転切りを行おうとすると、フリュネの一撃が地面に向かった。
「ッ!?」
アイズはそれによって体勢が崩れ、フリュネは切り上げでアイズを仕留めようとしたが、咄嗟にアイズが剣で防御するが、踏ん張れずに吹き飛ばされる。
フリュネはそのまま追撃しようとすると、そこでベートが入れ替わるように立ち塞がった。
「…あ? 何だ、そりゃ…?」
ベートが炎の付与魔法をしていることに戸惑うフリュネ。
また、ベートが別のように見えた。
上顎と下顎という、敵を食い殺そうとする4つの『牙』。
太陽も、月も、全てを喰らおうと大きな獣が口を開いているかのように。
アイズもまた、ベートが魔法を使っている事に気づき驚いていた。
「ベートさん…!」
「おい、アイズ。お前はトマト野郎、もとい白髪野郎、じゃなく、つーと…べ、ベル…いや、ベラ? …まあ、何でもいい! 兎野郎の奴らと一緒にあのアマゾネスコンビを探しに行け! 俺が行くよりはお前の方がまだましだろ!」
「…わかりました」
アイズは魔法が使えなかったため、ベートの方が良いと考え、戦いを任せることとなった。
そして、その場を去って行く。
「待ちなぁ、【剣姫】ぃ!」
「待つのはてめーだ」
離脱するアイズに怒り狂って追おうとするフリュネに、ベートは飛び蹴りを仕掛けてきた。
『獣化』も相まって、その速度は速く、Lv.6になっているフリュネがギリギリ大戦斧で防御するのがやっとの程。
「っ!?」
「ちっ、防御されたか」
後退させられ、フリュネはアイズの事を諦め、ベートと対峙する。
しかし、炎が不気味で中々攻め込むことが出来ないフリュネ。
「てめぇ、さっきからその炎は何なんだよぉ!?」
「てめぇに教えても無駄だ」
フリュネの言葉をスルーし、蹴りでフリュネの鎧を破壊する。さらに、蹴りに付与されている炎で熱する。
「ぎゃあああああああ!? あっちゃあああああ!?」
破壊されたところから光の粒があふれ出し、火傷を負った。
「ふ、ふざけんじゃないよぉ…! こんなの、【剣姫】より…!?」
「戦いづらいってか? だが、まだまだ序の口だぜ!」
ベートはそう言い、さらにフリュネに対して攻撃を続ける。
金属の破壊音が鳴り響き、そして何かが焼ける音も聞こえる。
「がっ、ああああぁあ…!?」
無数の金属片が飛び散り、鎧の多くが穴ぼこになっていく。
蛙の顔が焦燥に滲ませ歯を鳴らす。
(時間切れまで少ししか時間がない! それまでに…!)
そして、フリュネが賭けに出た。
フリュネは突進し、渾身の一撃で斧を振り下ろす。
光粒を宿しながら放たれた一撃を、目にもとまらぬ速さで蹴り上げた炎を纏う金属靴と衝突する。
そして、大戦斧が砕かれ、鎧と同じ末路を迎えた。
そして、同時に体に宿っていた光の粒子が消失する。
「なあっ、じ、時間切れぇ!? まだ、少し早いんじゃ…!?」
そんな声を上げるフリュネに、ベートの一撃が迫る。
そしてそのまま、巨大な胴体に炎の襲撃が叩き込まれた。
「ぐぎゃああああああ!?」
腹に火傷を負いながら遥か後方まで吹き飛ばされ、ロログ湖に盛大な水飛沫をあげながら着水する。
その光景を見た戦闘娼婦達は逃げに徹し始めた。
「ア、アイシャ…!?」
「早くずらかるよ! 春姫、こっちだ!」
折角手に入れた『殺生石』を落とさないように、戦闘娼婦達はその場を離れ始める。
だが、ベートはそれを逃すつもりはなかった。
「逃がすかよ!」
「ッ、来たっ!?」
戦闘娼婦達はすぐに身構えるが、ベートは炎を拳や足に纏いながらそれらの集団に突っ込んだ。
そして、戦闘娼婦達に火傷を負わせながらなぎ倒していく。
「ふぐぇ!?」
「レナ! ちぃっ!?」
そして、その集団の奥の方に巫女のような恰好をした少女を発見し、さらにその近くに箱を持ち運んでいるアマゾネスも見つけた。
「そこか」
「やべ、こっちと目があった! アイシャ、何とかしてくれ!?」
『殺生石』の箱を持っていたサミラがアイシャにそう言い、何とかすぐに離脱しようにも、ベートの敏捷の方が圧倒的に速かった。
その間にいたアマゾネス達をなぎ飛ばし、瞬く間に追いつき、ベートは魔法を解いて、箱を奪った。
「あっ……!?」
「どうやら、当たりのようだな」
そして、再び箱を取り戻そうとアマゾネス達が襲い掛かるも、ベートはすぐにその場を離脱した。
(…あの巫女の恰好をしていた奴、狐人だったな…。あいつが光の粒子の絡繰りの原因か…)
アイズも同様、ベートもフリュネの強さの秘密に勘づいていた。恐らく、付与魔法の一種だろうと。
ベートはそっちにも一発いれようかと思っていたが、長脚を持つアマゾネスがすぐに抱えて逃げ出し、ベートもまた箱の奪取の方を優先としていたため、それを見逃した。
(ヴィーザルとの約束があるからな…。『殺生石』が取れなかったら元も子もねぇしな)
ベートにアマゾネス達が追ってくる様子はなく、むしろ撤退していく。
メレンの港での戦場、その一つはここに終結した。
そして、ベートが向かった先は宿の方向。
その道の途中で、ヴィーザルをリアカーに乗せて引いているダフネの姿があった。
「むっ、あれはベートか?」
「え、嘘!? 早すぎない!?」
ベートがこちらに向かっていることにヴィーザルは気付き、ダフネもまたその姿を見て、驚嘆する。
そしてベートは脚を止め、ダフネ達に見せながら持ち抱えていた箱を開く。
「おい。これが『殺生石』か?」
「…そうだ、間違いない。昨日私が見たのは、確かにこれだ」
「こんな丸い形をしているのね…」
中を開けると、『殺生石』が入っていた。
ベートはそれを手に取り、ヴィーザルに渡す。
「ほらよ。約束はちゃんと守ったぞ」
「そうだな…」
受け取ったヴィーザルは、少し悲しげな表情をしていた。
当然だ。眷属の子の亡骸がこのような形になってしまったのだ。そして、それを悪用に使われようとしていた。良い思いをするわけがない。
そして、ヴィーザルは深々と『殺生石』を眺め、ベートに返そうとする。
「…あ? 何のつもりだ?」
「ベート、これを破壊してくれ」
ヴィーザルの力では『殺生石』を傷つけることが難しいためか、ベートにそれを頼んだ。
「はぁ? 何でまた、俺が?」
「そうよ。折角取り戻してくれたのに…」
「ベート、お前だからだ。【灰狼(フェンリス)】である今のお前なら、【ヴィーザル・ファミリア】の亡くなってしまった眷属達の元に、この赤ん坊の魂もそこに導いてくれると思ってな」
「…本当にいいのか?」
「ああ、いいぞ。最後に一目見れてよかったからな。それに、また悪用に利用しようと狙われたら堪ったものじゃないからな」
ヴィーザルはベートに『殺生石』を返し、ベートは最初から予感していたかのように、それをすんなり受け取った。ダフネはその光景を少し悲しげな表情で見ているが。
「…一応、できるだけ高いところで破壊してやるよ。それでいいな」
「ああ、やってくれ」
そして、ベートはそれを上に放り投げ、そしてベートも高々と飛び上がり、『殺生石』に金属靴を蹴り上げる。
その光景は丁度月に重なるかのように映し出され、『殺生石』は破壊され、塵となって消えていった。
「…部品にされた赤ん坊は、無事に親の所に行けたの…?」
「ああ、恐らくな。風向きも丁度、眷属達の墓があるの方向に向かっているからな」
ダフネが質問してヴィーザルが答え、場の雰囲気が少し落ち込み始めてうる。
「…おい、しんみりしているところあれだが、他にもやることがあるぜ。もうヴィーザルは放っておいても大丈夫だろうから、さっさとあのアマゾネスコンビを探しに行くぞ!」
「ちょっ、アンタ、デリカシーというものを覚えなさいよ。確かにそっちの方が重要だけど!」
「…そうだな。今を生きている子の方がもっと大事だからな」
「そういう事だ。さっさと行くぞ」
「…アンタら、本当は仲良いでしょ…」
ダフネが呟いた一言に、ベートはスルーして、神ヴィーザルは少し笑った顔をした。