ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか 作:七篠ロキ
前話の前書きに書き忘れてしまいましたが、少し投稿ペースが遅れますのでご了承ください。
そして、あと2~4話で都市に戻れる…と思うよ。(多分)
一方、港から出港したガオレン船上。
そこで、【カーリー・ファミリア】のアマゾネス達に囲まれながら、闘争を繰り広げているティオネとアルガナ。
だが、その状況はティオネの劣勢であった。
「てめぇっ!」
「ははは! 折角ワタシと同じ、『蛇』となったのに、この様子じゃ、やはりお前はテルスキュアに残るべきだったな!」
「うごぉ…!?」
アルガナの挑発に尽く乗ってしまい、ダメージを蓄積しているティオネ。その状態はもはや瀕死寸前であり、スキル【噴化招乱】と【大反攻】は発動しているが、それでも押されている。
アルガナは余裕の状態なのか、ティオネの返り血を啜っている。
「やはりお前の血は美味いなぁ、ティオネ?」
「このっ…!」
それを見たティオネは、より怒りの表情を見せる。
怒号の乱打がティオネとアルガナの両者の体に打ち込まれ、乱打戦となっていた。過去に繰り返された命がけの鍛錬がより痛烈な闘争に成り果て、現在に復活する。
「「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」
原始の戦いを彷彿させる程の鋭い技や駆け引きが織り交ぜていき、その状況を察知したのかモンスターがガオレン船に恐れをなして逃げていく程である。
「くっ!?」
アルガナの爪がティオネの右肩を掠め、血を散らした。
再びアルガナはその返り血を吸う。
怒りと激痛にまみれた幼少の記憶が蘇り、スキル【噴化招乱】が己に『力』を付与し、幼き日の屈辱を拳に乗せた。
だが、それをアルガナはあっさり躱す。
(こいつ…! いくらLv.が1つ違うからって、さっきから血を啜って余裕ぶりやがって! 威力も何か強くなりやがって……、いや待って。いくら何でもそれはおかしい! )
スキル【噴化招乱】でティオネの『力』が上がるように、相手の動きもまた強く、そして速く――――。
(そういや、あの糞狼とアルガナがやり合っていた時も、アルガナは血を啜って…!)
その考えに行きついた瞬間、ティオネはアルガナの強さの秘密に気づく。
「…! てめぇ、まさか!?」
「ようやく気がついたか。そうだ、ワタシは血を啜って強くなっている」
テルスキュアでも幾度とみた光景。
対戦相手の悲鳴もお構いなしに血を啜り、唇を血化粧する女戦士。
その吸血行為は恣意行動もしくは自己暗示の類ではなく、別の意味があったのだ。
「ワタシのは『呪詛』であり、名は【カーリマー】。お前の推測通り、『恩恵』を得た者の血を吸った分だけアビリティは上昇する。これを知っているのは主神とバーチェだけ……お前の鍛錬の時は切っていたからなぁ、気づかないのも無理はない」
「血を啜れば際限なく強くなれるってのか…!? 反則のようなもんじゃねえか!」
「そうでもない。解除すればアビリティは元に戻るし、ちょっと吸ったところで強さはそこまで上がらない。それに、アビリティの中で『耐久』だけが激減する」
条件を満たせば『耐久』を著しく失うも、ステイタスに天井知らずの増幅をかける事が出来る、『魔法』の使い手以上に稀な『呪詛』の中でも『希少呪詛』。
血を生贄としてささげることで力を得る、アルガナだけの能力である。
「カーリーも望んでいる。ワタシ達が『最強の戦士』になることを。だからティオネ、お前の血肉も喰らってやる。そうすれば、お前が死んでもワタシの中の強さの糧となり、ワタシ達の血は溶け合い、ずっと一緒なのだから!!」
「クソッタレ……!」
テルスキュアが産んだ怪物は歓喜を叫び、その双眼を爛々と輝かせ、ティオネは歯を食いしばる。
そして、アルガナは更に挑発する。
「もしバーチェが負けていたら、ティオナもワタシが殺してやるぞ」
その瞬間、ティオネの中でかつてないほど切れる音が鳴り、視界が真っ赤に燃え上がる。
攻撃を浴びたときより、トラウマとともに屈辱で身を焼かれたときよりも怒気を凌ぐほどの怒りだった。
「ブッ殺す……!! あいつを殺しやがったら、てめぇを絶対にブッ殺す!! あの馬鹿に指一本触れてみろ!! てめぇを絶対に許さねぇ!!」
あの笑顔を憎んだ時があった。あの笑顔に救われた時もあった。
やることは決まっている。あれは自分の半身で、たった一人の妹なのだから、守るのだ。
太陽のように照らしてくれたティオナを、静かに守ってきた。そして、これからも。
そんな覚悟を決めたティオネに、アルガナは余興とばかりに告げる。
「…お前等は本当に変わり者だな」
「あぁ?」
「お前は何も知らないだろうから教えてやる。お前はティオナに守られていた」
「…!? ……ふざけやがって!」
アルガナの言葉でティオネは悟った。
恐らく妹の方も同じことをやっていたのだろう。
その点についての考え方はどちらも一緒だ。自分の半身なのだから。
ティオナとティオネは背中合わせで守っていた事を知らされたティオネは、赤く染まった息吹を吐き出す。
「アルガナ、てめぇを殺す!! その事には、変わりはねぇからな!!」
「…いい眼だ。『戦士』に戻っているみたいだぞ、ティオネ」
そして、二人は再び激突し、殺し合いが激化した。
お互いの拳がお互いの大量の吐血を吐き出してゆく。
攻撃がお互いの命を削ろうとも、血まみれの手足を繰り出すのを止めない。
ティオネはもはや意識が飛ぶ寸前であり、アルガナも昨日のベートとの戦いの傷も完全に癒えてない分もあり、激減する防御力によって死地に近づいていた。
たった一撃がアルガナの首を断ち切る剣になりえることは承知の上で、アルガナは決して『呪詛』を解除しようとせず、『最強の戦士』になるため、撃ち合い続ける。
歓喜と憤怒が交ざりあい、カーリーが望む終幕に近づいていく。
そして遂に、ティオネの膝が崩れることになる。
「が、はぁ…!!」
「どうやら、ワタシの勝ちのようだな、ティオネ」
アルガナ自身も限界にかなり近かったが、ティオネの方が先に限界に辿り着いてしまった。
Lv.の差を大きく感じるかのように、ティオネはアルガナに蹴り飛ばされ、後ろの甲板に叩き付けられる。
「お前がワタシと同じLv.6になっていたら、この結果は違っていたかもな」
アルガナはティオネに賛美しつつ、トドメを刺そうと近づいていく。
そして、もはや立てないと思われていたティオネが動き、立ち上がる。
しかし、その顔はもはや血で赤く染まっており、意識もあるのか疑わしく思われるほどであった。
まさか立てると思わなかったアルガナはその足を止めてしまったが、すぐにもう虫の息であると気付く。
そしてティオネの前に立ち、かなり弱弱しい拳を振るってきたが、『儀式』を終わらせようとトドメとして強烈な一撃をティオネに打ち込もうとし、その拳がティオネに到達する直前、船が揺れた。
「…!? 何だ!?」
思わずバランスを崩し、空振りになってしまったアルガナは状況を確認しようとあたりを見回すと、そこには二人の小人族が立っていた。
「そこまでにしてもらおうか」
「な、何とか【勇者】のおかげで着地できた…。…おい! 昨日のオイラ達のような小人族に向けた侮辱の借りを返させてもらうぜ! ……【勇者】がな!」
「…お前等は、昨日の!? 馬鹿な、どうやってここに…!?」
沖からもう遠く離れていたにもかかわらず出現した小人族2人に驚き、アルガナは船の周りを見渡すと、薄暗い夜の空に何かが飛んでいるのを見えた。
それをよく観察すると、そこにはアスフィが装備者に飛行能力を与えることが出来る『飛翔靴(タラリア)』を装備して、空を飛んでいる。
「……!? 何だと!? 空を飛べるのか!?」
まさかの登場方法を悟り、アルガナを含むアマゾネス達が驚いている間に、ルアンが船を止めるために舵のある場所を探し、フィンは一瞬でティオネを抱え、船の中央まで運び、持って来てあるアイテムの中から単価50万ヴァリスをする万能薬をかける。
アルガナがその一連の行動に驚愕している間にもティオネの傷が回復し、意識を取り戻すことになった。
「…団長…?」
「無事かい、ティオネ?」
「はい……て、そうじゃなくてですね、邪、邪魔をしないで下さい、団長! アルガナは私が倒します! 私がやらなきゃ、そいつらはずっと【ファミリア】に付き纏ってくる!」
大声をあげながらも、弱弱しい姿をさらすティオネに対し、フィンは責め立てる。
「…ティオネ。いつから僕達は君の守られなくてはならないほど脆弱になった? もし私怨で駆り立てたのならよくも振り回してくれたなと言っておこう」
「だ、団長……」
ティオネの瞳は制御を失いそうになり、怒りとは無縁の何かがこみ上げていた。そんな様子を見たフィンは、今度は槍の柄を肩に乗せ、苦笑いする。
「そして、いつからそんな駆け引きを覚えたんだい?」
「えっ…?」
「あまり心配かけさせないでくれよ、ティオネ。何より、無事でよかった」
フィンにそんな言葉をかけられたティオネは、すぐに言葉の意味を理解し、泣きそうな顔になる。そして、擦り切れた怒りの代わりの何かがティオネの心を埋めていった。
「ふざけるな! 何だそれは!? 立て、ティオネ! 『儀式』の続きを行え!」
腑抜けた顔をさらすティオネに我慢ならず、それまで黙っていたアルガナが吠え、怒りの形相を浮かべる。
闘争の決末を望むアルガナに、雌の顔をさらすティオネを許容できなかった。
「殺せ!」
アルガナは命令を下して、四方八方からアマゾネス達がとびかかり、フィンに襲い掛かる。
「そう来るなら容赦しない」
フィンは槍を軸にして蹴りをし、アマゾネス達を得物ごと弾き飛ばし、船の外へ落下させる。
完全に忘れ去られたのか、ルアンの方には誰一人として襲い掛かって来なかった。
そうしている内に、甲板に立っているのはフィンとティオネ、アルガナ、舵を見つけ、回しているルアンのみとなった。
「君は共通語を理解しているみたいだね。ティオネの代わりに『儀式』をやろう。僕が勝ったらティオネ達にはもう近づかないでくれ。約束を破ったら、君達の国を潰しに行く」
「男、小人族、ふざけるな…!! 死ね!」
フィンに闘争を申し立てられ、屈辱に燃えるアルガナは身構え、速攻で決着をつけようとする。
しかし、アルガナの体はティオネとの闘争で限界に近く、何より、知らなかった。
冒険者の強さを。世界の広さを。小人族の英雄的存在を。
「戦いの中で情けは侮辱だと聞いている。だから、僕も本気で戦う」
そして、目の前の男が『凶戦士』に変貌する事も。
「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て―――――ヘル・フィネガス】」
「っっ!?」
振り下ろされたアルガナの拳が、小さな左手に受け止められる。
そして、フィンは魔法により激上させたステイタスで力任せに引っ張り、動けないアルガナの顔に、血に飢えた顔で咆哮し、右拳を叩き込ませた。
「おおおおおおおおおおおお!!」
「がっっ!?」
アルガナの体は殴り飛ばされ、沖からかなり離れていたにもかかわらず、その方向に飛ばされて、その港街までいくつもの水飛沫を上げながら着弾する。
決着がついたことで、ティオネはフィンの様子を見ると、フィンは魔法を解き、ティオネに笑いかける。
「帰るぞ、ティオネ」
「…! だ、団長~~~~~! ありがとうございましゅ! そしてごめんなさい!」
「…やれやれ」
フィンの腰に縋りつき、ティオネは感極まっていた。
フィンは一先ずティオネが落ち着くまで、夜空に浮かぶ星空を見上げる。
そこにはアスフィの姿はなく、すでに沖の方に戻って行ったのだとフィンは考える。
ルアンはアルガナが殴り飛ばされたのを見て、相当根に持っていたのか、「ざまあみろ!」と歓喜していた。
そして、フィンが力いっぱい抱き付けられていることを見て、「やっぱり、アマゾネス達がオイラの方に来なくてよかった…! あのまま潰されている!」とつぶやきながら舵を取る。
船外に縄をつけた浮き輪をいくつも放り出し、アマゾネス達が戦意をなくしながらしがみついているのを確認し、船を港の方に戻していくのであった。