ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

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アポロン「zzz…ベルきゅん…zzz…早く任務を…zzz」
今、作中は夜中。
アポロンは何か変な表情で夢を見ているようだ。


そして報告。
今週更新できるか怪しい。どうしよ…。
来週は出来ると思うけど。


洞窟の戦い……

 フィン達が船に辿り着いた頃。

 

 洞窟、および海蝕洞内。

 

 闘争を行っているティオナとバーチェの戦いをカーリーと多くのアマゾネス、そして囚われているレフィーヤとルルネが見ていた。

 

 もはやその戦いはどちらが不利か一目瞭然だった。

 

 

「Lv.6に至って、私の『魔法』は威力も範囲も強まったぞ、ティオナ!」

 

 

 ティオナが一時期押したと思いきや、今度はバーチェが右拳どころか全身に魔法が包み込み、ティオナはその光景に攻めあぐね、心が折られそうになっていた。

 

 攻撃を喰らってしまったら毒をもらい、攻撃をしても毒をもらう。

 

 どうしようもない事実にティオナの心を絶望という毒が蝕んでいく。

 

 そこ隙にバーチェがティオナの全身に連続で叩き、さらにそこに付与された毒撃が加わったことで、徐々にティオナの体は朽ち果てていく。

 

 

「…、…!!」

 

「私は確信していた、お前は強くなると。そして、強くなったお前を殺し、私は更なる高みに上り詰めれると」

 

 

 ティオナがもがき苦しんでいる所に打ち明け、そしてバーチェの瞳が一瞬、恐怖の光を浴びる。

 

 

「私はアルガナを姉だと思っていない。あれは化物で、捕食者だ。私はあれに喰われたくない。死にたくない」

 

 

 バーチェが口を閉ざし、表情を消す様になったのは全身に蝕む恐怖を解き放たないようにするためである。

 

 テルスキュアから逃げ出したとしても、アルガナに追われる運命であるとバーチェ自身も理解しており、バーチェは縋るべき真理を悟ることになった。

 

 

「強さだ。何も奪われることのない力が、強さが必要だ。私はお前達を殺し、アルガナを殺し、『最強の戦士』になる」

 

 

 その真理によって、生存本能と闘争本能に支配された、もっとも純粋な戦士が誕生したのであった。

 

 バーチェが冷酷で残忍な、強さを貪り喰う戦士が、蟲毒の王になろうとしている光景を、カーリーはとても面白そうに、レフィーヤとルルネは青ざめた表情で見ている。

 

 それと対峙しているティオナは体を蝕まれ、もう一人の姉だと慕っていた人物から告げられた残酷な告白に心も亀裂が入り、意識が遠のいていく。

 

 暗い心の中で幼き日のティオナが泣いている。

 

 

(ティオネ、ティオネ…!)

 

 

 ティオナは『戦士』の道を踏み外した。

 

 その原因はテルスキュアで拾った紙切れから、『冒険譚』の物語に触れたからか。

 

 否。答えはティオネであった。

 

 半身でもあり、泣き崩れ、ボロボロになったティオネの心を守るために、

 

 あの泣き崩れたティオネの姿を見なければ、ティオナは笑顔で返り血を浴び、殺戮を行う無垢な狂戦士になっていたかもしれない。

 

 それくらい紙一重であり、繋ぎ止めたのは姉の存在であった。

 

 ティオナにとって、ティオネは月だった。

 

 どこへ行けばいいかわからずに立ちつくしていたティオナに、月明かりのように道を示してくれた。

 

 そして、不思議とティオナが好きな、あの物語の台詞を思い出した。

 

 『アルゴノゥト』。英雄になりたいと願うただの青年の物語。その青年の言葉。

 

 

『僕は笑うよ。どんなに馬鹿にされたって、どんなに笑われたって、口を曲げてやるんだ。じゃなきゃ精霊だって、運命の女神様だって、微笑んじゃくれないよ』

 

 

 ティオナはその言葉を思い出し、そして、笑いながら立ち上がった。

 

 

「あたし、負けないもんね! 笑って、辛いことなんて吹き飛ばしちゃうもんね! 誰かが嬉しそうに笑ってくれるまで、あたし、笑うよ!」

 

 

 その場にいた全員は唖然としている。この状況でなお余裕ぶっているティオナに。

 

 そして、バーチェは呟いた。

 

 

「…変わらないな、ティオナ。お前がテルスキュアの中で一番馬鹿で、一番猛獣だった」

 

「―――だっははははははははは!!! その通りじゃあ! 全く変わっておらぬ! ここにいるエルフの話では実の姉も恋する乙女に変貌して変わっているのに、こやつは馬鹿のまんまじゃあ! だが面白い! やはりここを見る方に選んで正解じゃったわ!!」

 

 

 カーリーは笑いながら共感し、自らの勘の良さに喜んでいる。

 

 

「わ、私の知っているいつものティオナさんですね…。やっぱり」

 

「なあ、あの【大切断】って、いつもああなの!? はやく私達を助けて!?」

 

 

 未だ囚われているレフィーヤとルルネは呆れているが、少し希望を見出したのか顔色が少し良くなっている。しかし、状況は刻一刻とティオナの体に毒が蝕んでおり、煙が立ち上っている。

 

 そして、ティオナは一気に勝負を決めに来た。

 

 バーチェの正面から突っ込み、蹴りや拳が繰り広げられる。

 

 ティオナの体がさらに毒に冒されて蝕んでいき、もはやレフィーヤとルルネには見るのも耐えられない程の惨状になっていく。

 

 それでもティオナは止めず、それどころか徐々にスピードや威力が上がってきている。

 

 ティオナのスキル【大熱闘】。その効果は瀕死時における全アビリティの高補正。

 

 ダメージを負う度、攻撃力が上昇する【狂化招乱】を経た先に発動するスキルで一気に威力が上がり、その攻撃を喰らわせて、先程まで優勢だったはずのバーチェは遂に焦りが見え始める。

 

 そのスキルの効果により、攻守ともに毒に浸される戦いのはずが、攻守ともに攻撃力が上がる戦いへと変貌することになった。

 

 怒涛の連撃がバーチェに叩き込まれ、随所から血を吐き出していた。

 

 ティオナの瞳は霞んでいる。毒の痛みにより、命の灯が尽きようとしている証拠だ。

 

 だが、攻撃を止めず、それどころか笑みも消えていない。

 

 代わりに、バーチェの元に死の気配が這い寄ってきている。

 

 

「う、あああああああああああああ!?」

 

 

 死の恐怖を吹き飛ばすため、バーチェは遂に大声をあげる。

 

 ティオナが絶命するのが先か、バーチェが倒れるのが先か。

 

 二人の拳の乱打と蹴りの応酬が互いの体を捉え、大熱闘を燃え盛る。

 

 

「はははははははははは!! これぞっ、これぞ命を賭した『儀式』!! まさに妾が待ち望んでいた闘争よ!!」

 

 

 カーリーは開いた眼を爛々とさせている傍ら、鎖に縛られているレフィーヤとルルネはその熱気に冷や汗を流し、闘争の行方を見守っている。

 

 

「ティオナァ!! 今も笑えるか!?」

 

「笑えるよ!! 痛い事もつらい事も全部、誰かの分まで笑い飛ばしてやるんだ!!」

 

 

 毒の鎧をまとうバーチェに回し蹴りを炸裂させ、蹴り飛ばし、両者の距離が空く。

 

 交わる視線。放たれるだろう最後の一撃。

 

 周囲の者達は皆その決着をかたずをのんで見守る。

 

 バーチェの拳に、毒の光全てを収束され、ティオナは拳を握る。

 

 

「ティオナアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「いっっくよおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 

 

 そして、同時に両者が地面を蹴って、驀進する。

 

 両者の拳が相手の顔面に迫り、最初に届いたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティオナだった。

 

 

「がぁっっ!?」

 

 

 凄まじい威力を秘めたティオナの右拳が炸裂し、バーチェの体は後方へと吹っ飛び、岩壁に激突する。

 

 自身を死の一歩手前まで追い込み、【大熱闘】の効果で威力を最大限まで引き上げた、ティオナ最大威力の一撃であった。

 

 カーリー含め、その一撃が炸裂したことで、誰もがティオナの勝利だと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、バーチェは岩壁から引き剥がれ、よろめいて倒れるかと思ったら、そのまま倒れず、息を乱し、血を口から吐き出しながらティオナを見据えている。

 

 バーチェの執念が、ティオナの攻撃に耐えたのだ。

 

 

「ゼェ、ハァ……!! 強く、なったな、ティオナ……!!」

 

 

 バーチェは心の底からティオナを称賛する。

 

 Lv.5が、Lv.6を追い詰めたのだから。

 

 ティオナはその言葉を聞き、笑顔のまま遂に膝が折れ、そのまま倒れ、立ち上がれなかった。

 

 勝者は、バーチェであった。

 

 

「見事、見事じゃ、バーチェ」

 

 

 カーリーは仮面の下で笑みを出し、勝利を得たバーチェを祝福する。

 

 

「お主が『儀式』の勝者じゃ。さぁ、ティオナを殺せ。それで、『儀式』は完遂される」

 

「…………」

 

 

 もはや動くのもやっとであるバーチェは神意に従い、一歩ずつ、ゆっくりとティオナに近づいていく。

 

 

「立ってください、ティオナさん!! そうでないと、あなたが…!!」

 

 

 レフィーヤはティオナの死を確定させないため、必死に声をあげるが、それでも瞳を閉じているティオナは動かなかった。

 

 ルルネもまた、隠し持っていた特注品のやすりで実は少しずつ鎖を削っていたが、それも間に合いそうにない。

 

 そして、レフィーヤは一か八かの賭けに出る。

 

 

「【解き放つ一条の光】!!」

 

 

 魔法を詠唱し始めた。

 

 巨大な『魔法円』が光を放ちながら展開し、カーリー含めた周囲の人々が思わずそちらに目を向け、瞳を焼く。

 

 周囲の人達が一瞬動きを止めた後、すぐにレフィーヤは詠唱を続行しようとしたが、すぐさまアマゾネス達が飛びかかる。

 

 レフィーヤはそれでも怯まずに消さず、この魔法円の光が空洞の外に漏れ、アイズ達が見つけてくれるよう祈った。

 

 

(アイズさんっ、アイズさんっ、アイズさん!!)

 

 

 レフィーヤが迫りくる刃物の中でも必死に心の中で憧憬の少女の名を呼んでいると、一歩手前ぐらいの天井の岩が崩れる。

 

 天井の岩が崩落してきて、アマゾネス達はそれを回避するため一斉にレフィーヤから下がり、そして天井の方を見る。

 

 レフィーヤとルルネ達もそれを見て、そこから人影らしきものが飛び込んでくる。

 

 

(アイズさん!!)

 

 

 レフィーヤが希望を抱き、そして地上から人影が岩盤を砕き、落ちてきて正体を現したため、視線を向ける。

 

 そこにいたのは、細身で金髪の可憐な女戦士―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではなく、白髪で赤目をしている華奢な体格をした冒険者の少年。

 

 

「いいいいいいいいいいいいいいっ!?」

 

 

 ベルである。レフィーヤとルルネの目の前に落ちてきた。

 

 しゅん、とレフィーヤの魔法円の光が消失した。

 

 

「……ど、どうしてあなたなんですかっ!? そこはアイズさんでしょ、普通!! というより、アイズさんは!?」

 

「いっつぅ…、ア、アイズさんは来ると思います、多分…」

 

「おい、一緒じゃないのか!?」

 

「はい…」

 

「きゃあああああああああ!?」

 

「ぐはぁ!?」

 

 

 そこにカサンドラも落ちてきて、ベルの上に着地する形となる。

 

 ここに、Lv.1とLv.2の二人が参戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少しだけさかのぼる。

 

 僕、カサンドラさん、アイズさんでこの港に取り残されているヒュリテ姉妹のどちらかを探している所、ヘルメス様も合流し、そこに加わる事になった。

 

 

「それじゃ、二手に分かれよう! 俺とベル君とカサンドラちゃん、アイズちゃんで探そう! 俺達は向こうの岩盤の方を見に行ってみるから、アイズちゃんは別の所を探してくれ」

 

「ん、わかりました」

 

「見つけたらこの赤の狼煙をあげるという事で、じゃあ早速いこう、ベル君、カサンドラちゃん!」

 

「はい!」「わかりました…」

 

 

 こうして別れ、僕とヘルメス様は岩盤のところを見に行ってきた。

 

 しかし、人影は見つからず、途方に暮れていた。

 

 

「ヘルメス様、やっぱりここにはいないのでは…」

 

「いや、カサンドラちゃん。向こうの目的は決闘だ。そして、それを邪魔されたくないという事は、それなりに予想外の所、もしくは絶対に部外者が介入できないところで行うという事だ」

 

「それでここ何ですか? でも本当に何処にも……あれ!? 今何か、近くで岩盤に衝突したような音が聞こえませんでしたか!?」

 

「どうやら、当たりのようだな」

 

 

 僕達は周囲を必死に探してみたが、やはり何処にも見つからなかった。

 

 気のせいかな…と思い始めた時、岩盤の下からわずかに光が見えた。

 

 

「ヘルメス様! ここに光が漏れています!」

 

「という事は、ここの下だな」

 

「…え、でもどうやって行くのですか? 僕、魔法を習得していないですし……ここの岩盤をこじ開けるようなことは…」

 

「まあ、その辺は俺に任せろ。これでも俺は、道具開発系の【ファミリア】の主神だからな。さてと、ここに『火炎石』を設置してっと。ベル君、少し離れていてくれ。そう、その辺で」

 

 

 そう言われ、僕達は少し離れた所で様子を見守っていた。

 

 ヘルメス様が『火炎石』をいくつか取り出し、そしてそれらを離れた所で引火させ、爆破させた。威力は大きく、爆破音も大きかったため、岩盤も砕けただろう。

 

 

「よし、これで……おや?」

 

「…少しひびが入っているくらいですね…。ここの岩盤って、結構硬い…」

 

 

 しかし、岩盤がかなり硬かったのか、日々が少しは行ったくらいしか効果が発揮していなかった。

 

 ヘルメス様が手持ちの『火炎石』をすべて取り出し、もう一回やろうとしていた時、僕達の足場から「ピシッ」と、何か割れたような音がした。

 

 

「「へ?」」

 

 

 下を見ると、何か脆くなっていたのか、罅が入り、そしてそこの部分だけ一気に崩壊した。

 

 

「いいいいいいいいいいいいいいっ!?」

 

「ベルーー!?」

 

「ベルくーーーーーーーーん!?」

 

 

 ヘルメス様の叫び声もむなしく、僕は重力に耐え切れず、岩盤から落下してしまった。

 

 その後すぐに、カサンドラさんも耐えきれず落下してしまう。

 

 そして、今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はあっけなくアマゾネス達に囲まれ、大ピンチとなっている。

 

 

「あなたって人は! 早くどうにかして下さい!!」

 

「せ、せめて私達の鎖を外して!?」

 

「わ、わかりました!!」

 

 

 ベルはすぐに鍵穴の部分に短刀を突き刺し、二人を鎖から解放する。

 

 それと同時に、アマゾネス達はベルらに襲い掛かる。

 

 万事休す、かと思われた時、レフィーヤさんとルルネさんが何とか踏ん張り、それらを押し返す。

 

 

「…ええ!?」

 

「一応私、これでもLv.3ですので」

 

「わ、私も…ギルドに報告していないから内緒だけど」

 

 

 カサンドラさんが魔法をかけ、自由になったレフィーヤさんとルルネさんを癒し、アマゾネス達と対峙させ、緊張の状態は続く。

 

 ベルはその隙にあと二歩ぐらいでバーチェが辿り着いてしまうため、倒れているティオナの方にダッシュで近づく。

 

 後方でベルを抑えようと飛びかかる気配を無視し、それでも前に進むと、バーチェがベルの方に視線を向ける。

 

 

「…邪魔をするな!」

 

 

 声を叫び、僕の方に向けて裏拳を放とうとしている。

 

 その裏拳は早く、Lv.1の僕では全く見えなかった。

 

 だが、奇跡が起きた。

 

 偶然飛びかかってきたアマゾネスの一人が僕の足に絡み、僕が前にこけて、屈むような形となった。

 

 その上に、裏拳が通り過ぎる。

 

 

「何!?」

 

「うわああああ!?」

 

「ッ!?」

 

 

 僕はやけくそになり、アマゾネスを振りほどき、そのままバーチェさんに突っ込む。

 

 バーチェさんは僕が躱してそのまま突っ込むとは予測していなかったのか、それとも体力の限界なのか、体を硬直させている。

 

 そして、カウンターという形で僕の右拳がバーチェさんの腹に打ち込まれる。

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

 丁度みぞおちに入り、ベルの攻撃でもバーチェは苦しむ。

 

 ましてや激闘の後でもあったため、体が余り言うことを聞いてくれなかったこともあった。

 

 さらにそこからベルはもう一発拳を打ち込む。バーチェもまた負けじと拳をふるうが、そのスピードは非常に遅かった。

 

 

「「あああ!!」」

 

 

 拳が交差して、お互いの顔に届く。

 

 届いた時、ベルは思いっきり後方に吹っ飛び、岩壁に激突する。

 

 バーチェはカウンターという形で決められ、もはや歩くだけで精一杯だったためか、少しよろめき、ベルが吹っ飛んだ方に視線を向けて、少し顔が笑った後、倒れる。

 

 そして、立ち上がる事はなかった。

 

 アマゾネス達は全員その光景に呆然としている。

 

 壁に激突しているベルを引き剥がし、魔法で癒し、ベルの意識が何とか保っていたため、レフィーヤ達全員ベルを抱えたまま倒れているティオナの元に行き、カサンドラの【魔法】やフィンから別れるときに密かに預かっていた万能薬をかけ、呼吸の乱れが収まるようになっていく。

 

 皆安堵して、ルルネとカサンドラに任せ、ベルとレフィーヤはカーリーの方を見る。

 

 

「……おい、バーチェ…?」

 

 

 一方、カーリーはまさかバーチェが倒れるという事態に信じることは出来なかった。

 

 珍しく取り乱している、そんなカーリーに言葉をかける者がいた。

 

 

「やあ、カーリー。天界で会う時以来かな? とりあえず、これで終わりだ。船の方も決着がついたみたいだからね」

 

 

 ヘルメスが天井の岩壁から上手く飛び降り、ベル達と一緒にカーリーの前に立ちはだかる。

 

 

「…! お主、ヘルメスじゃな! よくも『儀式』の邪魔を…!」

 

「それに関しては、こちらの方に危害を加えたという事でお相子さ。まあ、大体もうそっちの事情はほとんど知っているから、もう聞き出す情報はほとんどないけど、一応念のため。イシュタルに関して何か知っている情報はあるか? 主にフレイヤ打倒の他の計画とか、イシュタル達がここに来た経路とか」

 

「そんなもん、妾は知らん!」

 

「……そうか、まあそうだろうと思っていたけどさ…」

 

 

 ヘルメスは少しがっかりした表情を見せ、カーリーは余計イラついていく。

 

 下手をしたらこのまま戦闘は続行になるような神意を出しかねないので、レフィーヤはすぐにヘルメスに進言する。

 

 

「あの、ヘルメス様、どうにかこの場を修めてください。決着も着いたみたいなので…」

 

「ん? ああ、そうだな。じゃあ、ここは俺ヘルメスがここ宣言……ッ!?」

 

「ヘルメス様? …!?」

 

 

 ヘルメス様が後ろを向いた瞬間、驚愕の顔を見せる。

 

 つられて僕達も後ろを向け、カーリー様もまたヘルメス様に集中していたのか、そちらの方に顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、この場にいる僕らを除いて全員倒れていた。

 

 ましてや、ティオナさんが倒れているのに、カサンドラさんとルルネさんの姿がなかった。

 

 

「これは、一体なんじゃ…!?」

 

 

 カーリー様もまた予想をしていなかった出来事が目の前に起きて、仮面の下からでも驚愕の顔を見せているのがひしひしと伝わってくる。

 

 そして、ヘルメス様はすぐに異常の状況の正体に気づく。

 

 

「……!? 皆、これを吸うな! 恐らく、睡眠ガスの類だ!」

 

「ええ!?」

 

 

 睡眠ガス!? こんな所で!? でも、確かによく見てみると、アマゾネス達は皆眠っているように見える。

 

 でも、どうしてこのタイミングで…!?

 

 

「で、でも何で私達はまだ大丈夫なんですか!? ここは洞窟内の行き止まりですし、そこ以外は密閉空間の筈……あ」

 

 

 レフィーヤさんが、僕らがまだ睡眠ガスを吸っていない理由は何かとヘルメス様に聞いた瞬間、僕ら皆天井を見る。

 

 そこには僕とカサンドラさん、ヘルメス様が入ってきた穴が開いており、ちょうど僕らが立っているのもその真下であった。そのおかげで、風通しが良く、上手い具合に僕らの所だけまだ無事だったのだ。

 

 

「でも、僕らもすぐにやばいんじゃ…!?」

 

「ベル君達ならともかく俺やカーリーには厳しいし……出口まで息を止められるか…?」

 

「私やこの男はともかく、神様たちには厳しいです!」

 

「ええい、妾【カーリー・ファミリア】はこれで観念するから、お主等これを何とかせい!」

 

 

 とりあえず、すぐにレフィーヤさんがカーリー様が座っているところを土台としてジャンプし、その後すぐにロープを持ってくることに決定となった。

 

 

「では、いきます…!?」

 

 

 そうして、レフィーヤさんが飛ぼうとした時、天井の出口から風を吹かしながら誰かが飛びおりてきた。

 

 そこにいたのは、細身で金髪の可憐な女戦士の姿だった。

 

 

「…あれ? 皆、無事? 爆発みたいなのが見えたから来たけど、事は終わったの?」

 

 

 アイズさんが遅れて登場してきた。

 

 

「ア、アイズさん!?」

 

「皆、この状況は…?」

 

「あ、そうだ! アイズさん! アイズさんの風で睡眠ガスをここから吹き飛ばしてください!」

 

「よくわからないけど、わかった」

 

 

 レフィーヤさんの閃きによって、アイズさんはすぐに風を起こし、睡眠ガスを洞窟内から吹き飛ばしているように感じられる。

 

 そうして、すぐにティオナさんにアイズさんが持ってきていた万能薬をかけ、さらに様態が良くなって行くように見える。

 

 どうにかこれで一件落着…ではない。

 

 

「あの、アイズさん。カサンドラさんとルルネさんを見ませんでしたか?」

 

「…? 見てない。それに、洞窟内に誰か、いるような感じもしない」

 

「…え」

 

「……非常にまずいことになったかもしれない…!」

 

 

 アイズさんの風で窮地を脱出したが、ヘルメス様は顔を顰めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある場所。

 

 そこに、ガスマスクらしきものを外しているザニスとアルベラがいた。

 

 

「ふぅ…。流石はアルベラ商会の商品だな。あんな効果があるとはな!」

 

「そういうザニス様も、手際が良いですね!」

 

「まあ、これでも私はLv.2だからな。人を2人運ぶくらいまでならどうとでもなる」

 

 

 二人の傍には、丁度人が入れそうなくらいの大きさの袋が二つ置かれている。

 

 

「私の商品である『眠りの香』を使って、決着がつき、疲弊している所に海蝕洞内の一部分に睡眠ガスで充満させ、そこにザニス様が無効化してくれるガスマスクをつけて入り、眠っている敵を誘拐して、戦力を削る…。確かにこれは、『相手を削る』という意味では成功していますからな。まさか決着前ではなく後にするとは、誰でも思いませんよ」

 

「ふっ…、私は冒険者なのでね。ここを使う機会も多くありますから」

 

 

 ザニスは自分の頭に指をさし、トントンと軽く叩く。

 

 

「さて、肝心の山分けだ。私はこいつの方をもらう。もしかしたら他に、秘密の宝庫があるかもしれないからな」

 

「では、私の方は黒髪の女性ですな。こやつは【悲観者】ですな。Lv.2ですから、高値で売れそうですよ」

 

 

 そうして二人はそれぞれ袋を持ち、アルベラは隠してあった荷台に乗せ、伝手を利用するつもりかオラリオの外壁の方に向かおうと、ザニスは肩に乗せ、別の所に行こうとしている。

 

 

「ザニス様はそれがありますから、今回の作戦が成功しましたので、これからも御贔屓のお願いしますよ」

 

「ああ、そうさせてもらおう。何たってこの、装備者と意識がないモノを透明にさせることが出来る『兜』さえあれば、最早私は無敵だからなぁ!!」

 

 

 そうして別れ、ザニスの手には、ルルネが【カーリー・ファミリア】に囚われていた時に奪った、魔道具『漆黒兜(ハデス・ヘッド)』を握り、それを頭にかぶり、袋とともに姿を消した。

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