ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

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報告。

 皆さんお久しぶりです。そしてお待たせいたしました。
 まさか利き手をけがしてしまって、完治するのにここまで時間がかかるとは…。
 
 そして更新が約1ヶ月振り…。
 このペースはやばい。
 ダンまち3期が終わるまでに新章に入れる気がしない!


ソーマ

 時は少しだけ遡り、ベル達がカジノに入った頃。

 

 ルアンは三日月と盃のエンブレムを持つ【ソーマ・ファミリア】の団員、リリルカ・アーデと密会をしていた。

 

 内容は【ヘルメス・ファミリア】の団員であるルルネの安否であり、【ソーマ・ファミリア】に囚われていないかとルアンはリリに尋ねる。

 

 が、そんな事が起きていたこと自体知らなかったリリは首を横に振り、結局情報は得られなかった。

 

 そしてルアンはその場を離れようとすると、突然【ソーマ・ファミリア】の団員達がルアンとリリを取り囲んだ。

 

 

「おい、どういう事だよこれは!?」

 

「い、いえ、リリにもさっぱりです!?」

 

 

 リリの仕業かと思ったルアンは怒鳴りつけるが、リリも困惑した表情であったため、「じゃあどうして!?」と思った直後、ザニスが前に現れる。

 

 

「さてお前ら、よくもやってくれたな。ただで済むと思うなよ!」

 

「はぁ!? 何の話だ!?」

 

「とぼけても無駄だ。今さっき、脱出されたルルネ・ルーイの話をしていたのは何処のどいつだ?」

 

「…!」

 

 

(やべぇ! こいつらマジの目をしている! オイラ達の話を聞かれちまったし! つーかあの犬人、もう脱出していたのかよ!? そうだとするともう…)

 

 

 密会の話を密かに聴かれていたルアンは直観的にそんな思いをし、そして一瞬だけリリの方を見る。

 

 

(…?)

 

 

 リリはルアンがこちらの方に視線を向け、尚且つ覚悟を決めたような顔をしていたため、「何か案があるですか?」と小声で聞こうとする前にルアンがザニスの方に向き直して、声を発した。

 

 ただ、その内容が思いがけないものであったが。

 

 

「アーデごと「やいやい、何か悪事をやっている【ファミリア】がいるらしいな!」…!」

 

「「「「!!?」」」」

 

(な、何考えているんですか、この人!?)

 

 

 【ソーマ・ファミリア】の人達は眉間が動き、リリはルアンの自殺行為を行っている事に顔を青ざめる。

 

 

「団長とやらは他人を誘拐しているらしいし、まるで『闇派閥』の連中と手を組んでいるみたいだな!」

 

「お前…!」

 

 

 ザニスは声を荒げるが、ルアンの挑発は止まらない。

 

 

「その仲間も後ろめたい事をやっているみたいだし、随分と真っ黒な【ファミリア】みたいじゃねえか! その団長は一体何やってんだ? ああ、そういえば窃盗とかやっているかもな! Lv.2になったのもそんな冒険をしたからなったんだろうな!」

 

「…! どうやら死にたいみたいだな!」

 

 

 もうルアンの事しか眼中にないザニスは武器を振り上げ、今にも襲い掛かろうとしていた。それでもルアンは止まらない。

 

 

「他の奴らも一緒だ! 金銭どころか他の問題ばっかり起こしている事は嫌でも聞いているぜ! お前らの神はどうしてんだ!? 酒を造っている以外に全然話は聞かないけどよ!」

 

「おい、こいつぶち殺そうぜ!」

 

「簡単に死ねると思うなよ?」

 

 

 挑発を続けるルアンに【ソーマ・ファミリア】の怒りが集中し、その場にいたリリの事は完全に蚊帳の外に置いている。

 

 

「話は拷問した後に聞く! お前等、やれ! こいつの本職はサポーターだ! 遠慮なくぶちのめせ!」

 

 

 ザニスは号令をかけ、それを聞いた【ソーマ・ファミリア】の団員達はルアンに襲い掛かった。

 

 本職がサポーターであるルアンはなすすべもなく殴られ蹴られ、そして【ソーマ・ファミリア】の酒蔵へと運ばれていく。

 

 

「見つけたのはお前だ、カヌゥ。後はお前に任せるぞ。こいつは我々の事を嗅ぎまわっている可能性が高い。口が開いたら後は好きにやれ」

 

「へい、任せて下さい。ザニスの旦那」

 

 

 ザニス達はそのまま帰って行き、その光景をリリは茫然としながら見ていた。

 

 

(…ルアン様。まさかとは思いますけど、私を庇ったのですか?)

 

 

 ザニスは最初リリごとルアンを仕留める勢いであったため、ルアンもそれを察して自分のみになるよう、わざと挑発した。

 

 その事にリリは疑うが、「いえ、いくらなんでもそれはない…ですよね」とすぐに首を振り、内心自嘲しながら酒蔵に入って行く。その背中は小人族だからなのか、とても小さく見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてルアン達の様子を見ていたのは、【ヘルメス・ファミリア】主神ヘルメス、団長アスフィ、そして団員ルルネ。

 

 実は【ソーマ・ファミリア】のホームとは別、酒蔵の地下牢屋に囚われていたルルネだったが、『漆黒兜(ハデス・ヘッド)』をかぶったアスフィが救出して脱出し、後はその事をルアンに連絡するのみだった。だがこの事態に気づいたザニス達に一歩遅れてしまい、ルアン達が攫われるのを黙って見守っていた。

 

 

「ヘルメス様、よろしかったのですか?」

 

「本当は駄目だけどね、ルアン君には申し訳ないけど。とりあえず【アポロン・ファミリア】にこの事をすぐに連絡してくれ」

 

「…了解!」

 

 

 そしてすぐにルルネが【アポロン・ファミリア】の館に訪れ、その場にいたヒュアキントスとアポロンにこのことを伝え、今に至る。

 

 

「さて、俺らもこの事を他の神の連中らに伝達しに行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カジノ等から帰って来た僕達は、ルアンが【ソーマ・ファミリア】に連れ込まれたと情報を聞き、一足先に飛び出したヒュアキントスさんとアポロン様を追うのだった。

 

 僕らはそれぞれ武器を持って【ソーマ・ファミリア】のホームに向かっていたら、その道先の途中でアポロン様を発見した。手を膝について休憩しているように見えたけど。

 

 

「ゼェー、ゼェー…、ヒュ、ヒュアキントスの…、ペースには…、流石に、ついて行けない! ……ん?」

 

「あ、いた! アポロン様ー!」

 

「あれ!? もう既に息が上がっているじゃねえか!?」

 

「体力無さすぎでしょ…」

 

「おお、皆! ルアンの事が心配で…! 帰ったら私が慰めをしようではないか!」

 

「「「「いや、それは止めてあげて」」」」

 

 

 アポロンに追いつき、早く面倒事を終わらせて酒を飲みに行きたい団員達だが、アポロンは感激する。アポロンからの褒美は流石に団員達は止めるが。

 

 そしてベルはアポロンと一緒にいたはずの人物がいないことに気づく。

 

 

「あれ、そういえばヒュアキントスさんは何処に?」

 

「あ、ベルきゅん! ヒュアキントスはもうソーマの所に行ったぞ! ヘルメスの所の子が案内してて、今頃着いたんじゃないかな?」

 

「じゃ、じゃあ私達も早く行かないと! 事が余計に大きくなってしまうかもしれないから!」

 

「ん? え!? カ、カサンドラ!? 捕まったのではないのか!?」

 

「ベルとダフネちゃんに助けられました」

 

 

 アポロンはカサンドラがこの場にいる事に目を疑うが、ベル達の活躍によって救出したことに納得する。

 

 

「おお! 流石ベルきゅんとダフネ! ならば私からの報酬として、これが終わった後まずはホテルにブヘッ!?」

 

「蹴るわよ流石に!」

 

「いや、もう蹴ってますから!?」

 

 

 余裕が出てきたアポロンに蹴りをかますダフネと、その暴走を止めるベル。

 

 そして、ヒュアキントスがもう【ソーマ・ファミリア】の所に行ったのではないかと思い始め、そのまま皆で【ソーマ・ファミリア】の元に向かうのだった。疲れ切ったアポロンは団員の一人に担がれているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその頃、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵。

 

 そこでは隠れアジトかのように【ソーマ・ファミリア】の団員達は利用していたが、既に事が始まっていた。

 

 

「まだ撫でただけだぞ?」

 

 

 ヒュアキントスはこの場所を突き止めていた【ヘルメス・ファミリア】の団員達の案内で単独突入を果たし、そして何人かを殴り飛ばした。

 

 いきなりの登場により、【ソーマ・ファミリア】の団員達は驚愕する。

 

 

「なっ、【太陽の光寵童】かよ…!? Lv.3が何故ここに!?」

 

「分かり切った事を…。貴様らが我々の団員をいじめたのではないか。その報復として来てもおかしくないだろ?」

 

「ちっ。お前等、やっちまえ! 相手はLv.3とはいえ、一人だけだ!」

 

 

 カヌゥからの号令で【ソーマ・ファミリア】の団員達は武器を持ち、一斉にヒュアキントスに襲い掛かる。

 

 が、ヒュアキントスはすぐに返り討ちにする。

 

 

「フン!」

 

「がはっ!?」「ぐっ!?」「アバッ!?」

 

 

 あっという間に叩きのめし、ヒュアキントスは襲い掛かる者達を殴り飛ばしながら奥へと進んでいく。

 

 

「ここの団長は何処だ? そして私らの団員もだ」

 

「あ、あのガキはここの地下牢屋に…。ザ、ザニスの旦那はついさっき何処かに行ってしまいました…ガベェ!?」

 

 

 ヒュアキントスはカヌゥから情報を聞きだした後、顔面に一発殴り、その後地下通路を探すのだった。

 

 そして地下通路を発見し、そのまま進んでいくと、地下の牢屋に囚われているボコボコにされたルアンを発見する。

 

 

「…ルアン!?」

 

「……ヒュ、ヒュアキントス…か……?」

 

 

 ヒュアキントスは看守を一瞬で倒し、鍵を奪取してルアンを解放する。

 

 ルアンの意識は朦朧としており、ヒュアキントスはポーションをかけ、すぐに引き上げる

 

ルアンに訳を聞こうとしたら、傷が完全に癒えておらず、既に意識を手放し気絶していた。

 

 ヒュアキントスは呆れていたが、そのままルアンを背負う。

 

そして酒蔵の外に出ようとした所で、丁度アポロン達が到着したようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ソーマ・ファミリア】の酒蔵に辿り着いたアポロン達はすぐに突入し、ヒュアキントスとルアンがいないか探そうとするが、中にいた団員達は軒並み気絶しており、まともに話せる状態ではなかった。

 

 そのため、皆で中を探索しようとした所で、ヒュアキントスさんがルアンを担ぎながら出て来た。

 

 

「あ、ヒュアキントスさん! それにルアンも…!?」

 

「なっ、ルアンがボロボロじゃないか!? カサンドラ! 早く癒してくれ!?」

 

「はっ、はい!」

 

 

 アポロンの命令により、カサンドラは直ぐに魔法をかけてルアンの傷を癒す。

 

 そしてその効果が終わった後、ルアンはぐっすり寝ており、皆して安堵の息が出た。

 

 

「ここまで我が【ファミリア】をコケにしてくれるとは…おのれ、許さんぞソーマ!」

 

「しかしアポロン様、これ以上報復したら…」

 

「いや、まだだ」

 

 

 アポロンは憤怒の表情をしたが、リッソスは流石にやりすぎになりかねないという所で、ヒュアキントスは食い気味で否定する。

 

 肝心な人物に報復していないことで、ヒュアキントスはまだ溜飲が下がっていなかったのだ。

 

 

「確執の発端となった、こいつらの団長のザニス・ルストラをまだ見かけていない。最悪、このまま雲隠れされる可能性が高い」

 

「え、じゃあどうするのですか? またこういう事が起きかねないんじゃ…」

 

「大丈夫だベルきゅん! それだったら、簡単な話だ!」

 

 

 ヒュアキントスの報復から逃れたザニスを引っ張り出すため、ベルは何か方法はないのかと思案していたところに、アポロンは丁度いいとばかりにどこかに足を向ける。

 

 

「お待ちくださいアポロン様。一体何処に…?」

 

「何、ソーマの所に行くだけだ! 恐らくここの何処かに酒でも造っている…筈だ!」

 

 

 そしてアポロンはソーマがいるであろう部屋を探しに行く。ヒュアキントスを始め、【アポロン・ファミリア】の他の団員達も後に続くのだった。

 

 

「…う、ううん…? …うお!? 何だ何だ!? って、痛えぇ!」

 

 

 そのおまけに、気絶したルアンもまた意識を取り戻し、どういう状況なのか困惑し、そして拷問を受けた傷に痛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベル達はその後、ソーマがいる部屋を割とあっさり見つけた。

 

 その部屋には窓が開いており、そこから月の光が差し込んでいて、ソーマは乳棒をぐりぐりとすり鉢の上で何かをすりつぶしていた。

 

 大きい木箱や棚もあったが、アポロンはその部屋にづかづかと入り、(その後にも眷属達が続くが)酒を造っているソーマの目の前に立ち、ソーマもまたアポロンに一瞬だけ目を向ける。

 

 

「……私に何の用だ? ザニスはどうした? 雑事はすべてあいつに任せて…」

 

「こちらもその団長に用があったけど…どうやらいなかったからな。それでここまで来た」

 

 

 ソーマが何か話をつけようとする前に、アポロンは最初からみなまで言わせず、発言を被せてきた。

 

 

「君の子に私の子は重傷を負わされた。代償をもらい受けたい」

 

 

 ソーマにそう要求し、極めつけによろよろとアポロンの側に歩み寄るルアン。「あぁ、ルアン!」とアポロンは傷だらけのルアンに嘆き、ルアンもまた受けた傷に本気で痛がっていた。

 

 

「痛えぇ、痛えよぉ~」

 

「…いきなり入ってくるなりで、それか」

 

 

 ソーマは呆れたといわんばかりの声を出し、止まりかけた酒造りの手を進める。

 

 

「帰れ。そんな戯言に付き合ってやる義理はない」

 

「団員を傷つけられた以上、大人しく引き下がる訳にはいかない。【ファミリア】の面子にも関わる………ソーマ、主神である君はどうあっても罪を認めないつもりか?」

 

「そんなもの、認めん」

 

 

 言い分に対して興味ないかのようにはねのけるソーマに、アポロンの顔が――――醜悪に歪んだ。

 

 

「ならば仕方がない。ソーマ! 君に『戦争遊戯』を申し込む!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――『戦争遊戯』。

 

 対戦する【ファミリア】同士の間で規則を定めて行われる、派閥同士の決闘。眷属を駒に見立てたボードゲームかのごとく、対立する神と神が己の神意を通すためにぶつかり合う総力戦。

 

 言わば、神の『代理戦争』

 

 勝利をもぎ取った神は敗北した神から全てを奪う、命令を課す殺生与奪の権を得る。通常ならば、団員を含めた派閥の資材をすべて奪う事が通例だ。

 

 僕はミィシャさんに教えられた内容を思い出しながら歩いている。

 

 だが今回の目的は、僕ら【アポロン・ファミリア】に対する仕打ちの仕返し。

 

 ザニスさんを引きずり出し、お互いに禍根を残さないように、ここで決着をつけようとするものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「受けない」

 

 

 それをソーマはあっさり拒否した。

 

 アポロンはそうなるだろうと思い、考えていた挑発を繰り出す。

 

 

「いいのかぁ、ソーマ? もうお前の【ファミリア】はもうほとんど我が【ファミリア】によってやられてしまったぞぉ? 酒造りのための材料も簡単には手に入らなくなるぞぉ?」

 

「知ってる。だが断る」

 

「ッ…! だ、だったらここから先、お前の酒造りを徹底的に邪魔するぞ!」

 

「他にもアジトがあるから、隠れてやり過ごす」

 

「わ、我々が勝ったらお前等はソーマ含めて、今まで犯した犯罪行為の罪を話し、その重さに合わせて罰を受けてもらおう! 勿論君の子の団長も例外ではない! だが我々が負けたら、そちらの要求を何でも飲もう!」

 

「別にいい」

 

 

 ソーマはアポロンの挑発をのらりくらりとかわし、酒造りの手を止めない。

 

 『戦争遊戯』を本当の意味で成立させるには、集会、言わば神会の場所で双方の神がギルド職員含めて多くの神の目前で書類や勝負の取り決めなどを行い、ギルドに申請しなければならない。

 

 だが、ソーマは引きこもりであり、まず滅多に外に出ないことが有名であった。

 

 仮にこの場で口だけ言わせても、ソーマ自身が集会の日に来なければ意味がない。

 

 アポロンもその事を理解しており、歯がゆい思いをしていた。

 

 

「き、君や君の子のためにも言ってあるんだぞ!? こっちが手を出さなくても、君の【ファミリア】が崩壊…!」

 

「簡単に…酒に溺れる子供たちに、何の意味がある?」

 

「「「「「―――――――」」」」」

 

 

 アポロンを除き、起状の少ない声を聞いたベル達は言葉を失い、凍り付く。

 

 ぞっとするほどの神の視点で語るソーマの、その胸の内を悟ってしまった。

 

 ソーマは失望しているのだ。自身の派閥の団員に、下界の住人達に。

 

 僕はパーティーを組んでいるリリから聞いていた話では、【ソーマ・ファミリア】の壊れる原因となった『神酒』の報酬。派閥の起爆剤となればとソーマ様がもたらした褒美の酒に、眷属達は、ソーマ様の言う通りに溺れてしまったらしい。我先に得ようと躍起になり、挙句の果てに互いを蹴落とす醜い争いまで始めたと聞いている。

 

 ソーマ様本人からしてみれば、自身が支払ってやることのできる、自製の美味い酒を褒章としていただけかもしれない。でも、子供たちは逆に酒に飲まれ、愚かな行為を繰り返している。醜態を晒す人達にソーマ様は、幻滅に近い感情を抱いてしまったのだろう。

 

 ベル達が恐れているのが、―――ソーマには悪意がないこと。害意もない。そもそもベル達やリリ達に興味すらない、無関心。向けられる視線は失望の塊。

 

 哀れむほど愚かな行為を繰り返す下界の住人に見切りをつけたソーマは、『神酒』をひたすら求めてくる煩わしい者達に褒美を与え続け、利用するだけになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アポロン含め、その場に誰も動かなくなると、ソーマはゆっくり動いた。

 

 そして、ソーマは棚から白い酒瓶を取り出し、アポロンの前に盃を置き、その中に液体が注がれていく。

 

 

「アポロン。もしも、お前の眷属の誰か一人がこの酒を飲み干して、溺れなかったら考えてやる。そうならなかったら、こっちの被害額以上の賠償金を出して、帰れ」

 

「…う、あ……」

 

「酔う、酔わないの判別は簡単につく。酒に溺れる子供たちの声は…薄っぺらい」

 

 

 差し出されたのは酒、『神酒(ソーマ)』。

 

 最高品質の酒で、飲んだら酔うと言われている。

 

 だが、これを飲んで【ソーマ・ファミリア】の団員達の人生は狂い、暗い人生を歩ませた。

 

 僕らに散々迷惑をかけて、あまつさえ逃亡したザニスさんを面に引きずりだすためにも、誰かがこれを飲まなければならない。

 

 皆顔を引きつって目配せをしており、誰が行くかけん制し合っていた中、僕は目を瞑り、そして意を決して手を上げた。

 

 

「…僕が、飲みます!」

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

「べ、ベル。流石にそれは…」

 

「そうだって。こいつを飲んだら…」

 

「やります。止めないで下さい」

 

 

 カサンドラさんやルアンに止めるよう促されるが、僕は既に覚悟を決めている。

 

 リリは苛まれていて、ルルネさんやカサンドラさんは誘拐されて、ルアンもボロボロになった。

 

 そんな状況下に落ちいったその最初の原因の一つである『神酒(ソーマ)』を、どうしても許せなかった。

 

 その報いを受けさせる時が今、目の前にある。

 

 僕は周りを見渡しと、ヒュアキントスさんやリッソスさんも含めて、皆僕の事を見ていた。

 

 僕はその中で一人、アポロン様の前に置かれている盃を手に取る。

 

 飲み干して、僕が意識を保てれば、その事を聞いた【ソーマ・ファミリア】の人達は『神酒(ソーマ)』に対する恐怖が皆薄れ、何人かは自分の過ちに気づくことが出来る…かもしれない。

 

 本当に飲むのかと皆が注目している中、僕は『神酒(ソーマ)』を飲み込んだ。

 

 次の瞬間、世界がぐにゃりと曲がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――か、は」

 

 

 『神酒』を飲み干した後、ベルの手から盃が落ち、意識が混濁し始める。

 

 果てしない陶酔感。感動の絶頂。

 

 震える手脚。心身が溶けていく感覚。

 

 頬が上気し、視点が定まらない。

 

 目の前が白く濁り始め、そして走馬灯かのように今まで見た光景がフラッシュバックし、そして消え始める。

 

 嬉しかった事、怒った事、悲しかった事、楽しかった事。

 

 僕の中から全て忘れされていく。どんどん視界が白くなる。

 

 体の感覚も、意識も、心も。

 

 濁って、濁って、濁っていく。

 

 そして―――――――その光景は昔の僕に。

 

 おじいちゃんが僕の頭を撫でながら言った言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは、お前が選んだ道だ』

 

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 

 どうしてかはわからない。

 

 でも何故か、その言葉が胸に響き、視界が白く濁っていく現象は――――止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり駄目のようだな、アポロン」

 

「べ、ベルきゅぅうううううううん!!」

 

「あいつ、無茶しやがって…!」

 

「そんなに酒を飲んで、【戦場の聖女】の噂の件を忘れたかったのか?」

 

 

 ベルの動きが止まり、ソーマは見限って背を向け、アポロンは悲鳴を出す。

 

 【アポロン・ファミリア】の総員もまた動かないベルを見て顔を背け、あるいは意識を取り戻そうと駆け出す者もいた。

 

 その者達が動いた数瞬後。

 

 

「……て下さい」

 

「えっ?」

 

「…ッ!? まさか!?」

 

 

 アポロンが呆けた声を出し、ソーマは慌てて後ろを向く。

 

 ベルは再起して、そのまま言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「『戦争遊戯』を、受けて下さい!」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「耐えたーーー!?」

 

「「「「うおおおおおおお!?」」」」

 

 

 ソーマが唖然として口を開け、アポロンもまた自分の目と耳を疑い、他の団員達はベルが耐えた事で喜びを沸かす。

 

 ヒュアキントスも言葉を失いながらも口元がニヤリと笑い、リッソスやダフネ、カサンドラやルアンもベルの元に駆け寄り、笑いあっていた。

 

 そしてソーマはそのベル達の様子を見て少しの間黙りこくった後、手元から作業用の手袋を取り出す。

 

 その手袋を握り締め、ソーマは、アポロンの顔に目がけて渾身の力を投げつけた。

 

 

「…はっ! 今ならベルきゅんに抱き付けアブッ!?」

 

「「「!?」」」

 

 

 べちゃ! とアポロンの顔面に炸裂する手袋。

 

ベルとルアン、カサンドラはぎょっとし、アポロンは手袋をはがし、そしてソーマは声高らかに宣言した。

 

 

「良いだろう、受けてたつ。『戦争遊戯』を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 にぃっとアポロンは口端を引き裂く。

 

 

「…ここに神双方の合意はなった。諸君、『戦争遊戯』だ!」

 

 

 アポロンが両手を開いた瞬間、窓の外から一斉に歓声が聞こえた。

 

 

「「「「「いぇええええええええええええええええい!!」」」」」

 

 

 いつの間にか他の神様達が外にいっぱいいて、皆「祭りやー!」「待ってましたー!」「臨時の神会を開くぞ!」「ギルドに戦争遊戯を申請しろ!」とばかりはしゃいでいる。

 

 アポロン様やソーマ様も含んで皆驚いていて、夜中なのに外はお祭り騒ぎであった。

 

 ベル達が唖然とする中、アポロンとソーマは「「はっ!?」」として意識を目の前に戻す。

 

 

「…聞いての通りだ。試合の詳細は神会で決める。神会の日程はこの分だと明日となるだろう…楽しもうじゃないか、ソーマ?」

 

「…そうだな」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるアポロンと睨み付けるソーマ。

 

 アポロンは背を向けて部屋を出て、酒蔵の外へと去って行く。ベル達も慌てて外に出ていく。

 

 部屋に一人残されるソーマ。

 

 盃などを片づけ、そして木箱に向かって喋った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう事になった。リリルカ、他の団員達にもこの事を伝えろ。勝ったら全員漏れなく褒賞を与えることもな」

 

「…わかりました、ソーマ様」

 

 

 木箱からリリが出てきて、そしてヒュアキントスによって気絶した団員達を起こしに向かっていく。

 

 ただし、その雰囲気は先程までとは別の、何か執念じみていたとソーマは感じていた。

 

 

「認めてなるものですか。絶対に負けませんよ……ルアン様、ベル様!!」

 

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