ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

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前回のあらすじ

ベル「『神酒』に耐えられました!」
ソーマ「何…だと!?」

リリ「……ふざけないで下さい…」


試合規則

 翌日。

 

『戦争遊戯』が開催されるという知らせが、神々によって瞬く間に広まった。

 

 朝から都市中がこの話題で持ちきりで、お祭り騒ぎとなっている。

 

 そして、昨日僕らは、オラリオ帰還からカジノに、そして【ソーマ・ファミリア】に行ったりと、かなり動いて、特に僕とダフネさんはヘトヘトだった。

 

 そのせいで目覚めるのが遅れて、今日から始まる、クロエさん達と約束していた朝の鍛錬に遅れかけてしまった。

 

 その場には既に、クロエさん、リューさん、ルノアさん、アミッドさん、カサンドラさんにダフネさんまでいる。

 

 

「遅いニャー! 初日からいきなり遅刻寸前ってどういう事ニャー!」

 

「すみませんでした!」

 

「まあこれで揃いましたから、早速始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分後。

 

 

「攻撃に怯えるな! セイッ!」

 

「ゴフッ!?」

 

 

 ルノアの攻撃をもろに食らったベルは壁にぶつかるほど吹き飛ばされ、崩れ去る。

 

 その隣にはリューによって目を回しているカサンドラが並んでいる。

 

 

「せいニャー!」

 

「この…!」

 

 

 ダフネはクロエの攻撃に何とか防御しており、【ファミリア】の幹部としての意地を見せる。

 

 が、それも束の間であっさり攻撃を喰らう。

 

 

「これでどうニャ!」

 

「グゥ!?」

 

 

 クロエから蹴りを喰らい、ベルの所に吹き飛ばされる。が、気絶まではせず、立ち上がるダフネ。

 

 

「ハァ、ハァ…もう一本お願い!」

 

「ぼ…、僕もお願いします!」

 

「あ、立ち上がった」

 

「根性入っているニャー」

 

 

 アミッドが治癒魔法をかけた直後にベルも立ち上がり、再びルノア達に立向かっていく。

 

 それをあっさり返り討ちにするルノア達だが、リューは加減を間違えて気絶までさせてしまったカサンドラにちょっとだけ早く目を覚ましてほしいと心の中でエールを送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、アドバイスをもらいつつ、カサンドラとダフネの取得している【スキル】や【魔法】も解禁され、どのような効果があるのか、またそれを使ってチーム戦での戦闘も行ったが、全く歯が立たなかった。

 

 ベルが気絶している時に、ベルに対してのカサンドラとアミッドの膝枕のやり合いがあったが。その隙にクロエがベルのお尻を狙っていたこともあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間が流れ、修行の終了時間になった。

 

 カサンドラ達はヘトヘトとなり、息が荒れている。

 

 

「ハァ、ハァ…。まだ一日が始まったばっかりなのに、もう疲れた気がする…!」

 

「ぼ、僕もです…!」

 

「最近、ウチラ動きまくっているからね…。この数日後には『戦争遊戯』もあるし…」

 

 

 形式次第ではあるけどね、とダフネさんは一言挟む。

 

 でも『戦争遊戯』の試合内容次第では、僕らも参加して【ソーマ・ファミリア】の人達と戦わなくてはならない。ザニスさんはともかく、チャンドラさんやリリにも…。

 

 僕は少し思いふけっていると、ダフネさんに肘で小突かれてしまう。

 

 

「ベル。『戦争遊戯』になったら、相手の事は考えずに戦いなさい。さもないと、それが命取りになるわよ」

 

「……はい、わかりました」

 

 

 ダフネさんの言う通りだ。一瞬の油断が命取りとなって、皆の足手まといになってしまう。最悪1 vs 1となってしまう可能性もあるから、いくら団員数や練度もこちらが総合的に上で、戦ったらまず間違いなく勝てると皆言ってるけど、油断できない。

 

そう思っていると、リューさん達がこっちに合流してきた。

 

 今回の模擬戦闘の総評が下される。

 

 

「まずこちらで話し合ってみたのですが…。ラウロスさんは技と駆け引きは十分ですが、少し『敏捷』に頼る場面が多いです。完全に避けるだけじゃなく、出来るだけ攻撃を逸らすという事も増やしてみてください」

 

「…わかったわ」

 

 

 ダフネは無意識にそのような傾向に陥っていた事を反省し、出来るだけ気を付けるようにと心の中で注意する。

 

 続けて、ベルに総評が言い渡される。

 

 

「続けてクラネルさんですが、やはり技と駆け引きがイマイチです。ルノアのように拳の踏み込み方も2回に1回は隙だらけです。ただ、短刀の捌き方は私やクロエを見て学んでいるのか、始まった時よりも上達しています。蹴りを入れているのもいいですが、そこを狙われてしまう事もありますので、注意してください」

 

「…はい」

 

 

 僕の中で何処か浮かれていたかもしれない。戦闘スタイルを多少修正をいれるよう言い渡され、落ち込む。

 

 ベルがしょんぼりしていた後も、カサンドラに総評が言われる。

 

 

「イリオンさんは…、その、回復がメインですので、もう少し自分の防衛に専念しておいた方がよろしいかと思います。万が一、強引ではありますが、味方が大ダメージをもらいそうで、自分が近い位置にいたときは、味方にタックルして、自分もその勢いに乗ってその攻撃から逃れるようなやり方をお勧めします」

 

「…わかりました」

 

 

 カサンドラもまたダメ出しを喰らい、落ち込んでしまう。

 

 ただし、これだけでは終わらなかった。

 

 カサンドラに、アミッドからのアドバイスが加わる。

 

 

「カサンドラさん。少し私からもアドバイスさせてください」

 

「は、はい?」

 

「誰かを魔法で回復させる時なんですけど、カサンドラさんは慌ててそれを行う傾向があります。魔法は精神面によって効果は異なる事がよくありますので、慌てずに、何か心の底から治したいと思えば効果は段違いになると思います」

 

「…そう、ですか…」

 

 

 オラリオ一の治療師の助言に、カサンドラは気を付けるよう心掛ける。

 

 

「それに、カサンドラさんの魔法…【キュア・エフィアルティス】の効果なのですが、『解毒』効果のみと思っているかもしれませんが、その魔法、『解呪』効果も含まれているように思えます」

 

「…え!?」

 

「あくまで私の感覚なのですけれど…」

 

 

 実際にカサンドラがアミッドに向けて【キュア・エフィアルティス】を唱えて、アミッドは効果が『解呪』効果もあるような感覚を覚えたことに、カサンドラは驚愕する。

 

 今まで使っていた自分の魔法に関して、まだ底をみせていなかったことに気づいていなかった。

 

 その事実が、カサンドラを唖然とさせている。

 

 

「ただ、こちらの効果も同様に限界があるみたいです。前に話していた、メレンでティオナさんがバーチェさんという者にやられた毒を完全には癒せなかったようなものです。あまり過信をしてはならないです」

 

「あ、はい」

 

 

 アミッドの忠告を聞き入れ、カサンドラは納得する。

 

 戦争遊戯の内容次第では明日から数日は来れない可能性も伝え、そのまま本日の修行は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオの中央、バベル30階。

 

 

「あら、ヘスティアじゃない」

 

「あ、ヘファイストス! それにミアハやタケも!」

 

「うむ。迷子にはならなかったようだな」

 

「最近ヘスティアがいる所の売り上げが良いみたいだなぁ。クソー、やっぱり売り子がいると大分違うなー」

 

「へへん! どんなもんだい!」

 

「お陰様で私の所も売れ行きが最近好調……だったけど、昨日盗みが入ったのよね。しかもヘスティアがいる所に」

 

「あれは本当だって! 物が突然僕の目の前で消えたんだ! きっと透明人間の仕業に違いない!」

 

「いや流石にそれはないだろ……て、言いたいところだけど、ヘスティアが言うからな…」

 

「…しかし、やはり都市中のほとんどの神がここに来ているな」

 

 

 円卓が一つ配置されている大広間に、現在多くの神々が集められている。戦争遊戯のルールや形式の打ち合わせは、対戦派閥である主神の合意の元、他神達の意見が織り交ぜられ、最高の娯楽とするために、この神会で決められるのだ。

 

 

「まさか、引きこもりのソーマが、こうして大勢の前に現れるとはな~」

 

「マジであいつの顔を見たの、久しぶりの気がするぜ」

 

 

 また、ソーマが久しぶりに外の顔を出すという事で、それを見ようとする一部の神々もいた。

 

 そして、ソーマとアポロンの戦争遊戯は間もなく、承認される事となる。

 

 

「役者もそろったようだし、早速始めようじゃないか」

 

 

 打ち合わせが始めり、アポロンとソーマ、両者必要な書類のサインや手続きを周囲の監修のもと済ませていく。

 

 

「我々が勝ったら、そちらの犯した団員一人一人の罪を、洗いざらい言い、罪の大きさに従ってこちらの取り決めで償ってもらう。ソーマが勝者になった暁には何でも呑もう」

 

「異議なし」

 

 

 己が勝つことを微塵にも疑っていないアポロンの報酬に、ソーマは同意する。会議の記録を取る書記係となった神へ明文化させる。

 

 やがて、戦争遊戯の勝負形式に関して話が及んだ。

 

 

「…同じ人数勝負にする形式にしようじゃないか」

 

 

 ソーマが対面にいるアポロンを見据えながら発現する。

 

 

「同じ人数なら、公平さが増して、どちらがより優れたパーティーなのか、わかりやすいだろう? 勿論人数が足りなかったら、他の【ファミリア】から補充となるが」

 

「だってさ、アポロン。どうする~?」

 

「ソーマの奴、明らかにそこ目的だぜ~」

 

「……」

 

 

 円卓に座っている神々はニヤニヤと笑い、黙るアポロンの反応を楽しんでいた。

 

 

「【ファミリア】の管理をしてこなかったそちらの泣き言に、こちらが合わせる道理はないな」

 

「…まあ、そうなるか」

 

 

 派閥を率いる主神としての責任を説くアポロンに、ソーマはあっさりと言い分をひっこめる。

 

 

「ここは公平に、くじで決めようじゃないか」

 

 

 アポロンの提案は認められ、準備の良い神が箱を取り出し、円卓に置く。

 

 その場にいる神が一柱一枚『戦争遊戯』の方法を羊皮紙に書き、集められていく。

 

 アポロンは少し悩んだ末、こちらの勝率が一番高いと思われる『一騎打ち』を記し、対するソーマは『旗取り(フラッグ)戦』を記して箱の中に入れた。

 

 くじが完成すると誰が引くかとなるが、二神は円卓を見回し、とある神の顔に止まった。

 

 

「「ヘスティア」」

 

「え!? ちょっ、僕が引くのかい!?」

 

「頼んだぞ、ヘスティア」

 

「我が妻よ、君に全てを委ねよう!」

 

「そして相変わらず全力で偽るなこの変態!」

 

 

 アポロン達は同時にその女神の名を呼ぶ。

 

 抜擢されたヘスティアは「参ったなー」と観念して箱に歩み寄る。眼帯の女神や糸目の悪神、褐色の美神などが見守る中、「ええい、ままよ!」とツインテールが思いっきり揺れるほどくじを引く。

 

 そして引いた紙に書かれていたのは―――――――『攻城戦』。

 

 攻めるにしても守るにしても多大な兵力を必要とする大人数戦闘。ある意味、兵数の差はあるものの、両方条件が整っている公平なものであった。その兵の質の差は目を瞑るが。「流石ヘスティア」「ある意味持ってるわー」と他の神々が口々に言う。

 

 アポロンとソーマはくじの結果に少し険しい表情をしたが、続けて攻防する方を決めることになる。

 

 「また僕が引くのかよ!?」とばかりヘスティアが続けてくじを引き、その結果、ソーマが攻める側となった。

 

 

「…どうやら、私が防衛のようだな」

 

「……」

 

 

 防衛側となったアポロンはまあいいか、といわんばかりにそれで承諾しようとしたが、横やりが入った。

 

 

「アポロン、少しいいか?」

 

「…どうした、イシュタル?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()。出来勝負何て見ていて萎えるから、先程ソーマが述べた助っ人制度を設けるのはどうだ?」

 

「……はぁ!?」

 

 

 そこまでこっちが有利か!? といわんばかりにアポロンが身を乗り出そうとした所で、他の一部の男神達がイシュタルに味方し、一気に協力者制度に肯定的になる。神会が一瞬で揺らめいた。

 

 それでもアポロンは断固して拒否する。

 

 

「……戦争遊戯に参加する戦士は【ファミリア】入団者のみ、これは絶対だ。他の派閥の子の存在は、神の代理戦争の名に傷つける」

 

「ああ、そうかもしれないね」

 

「極端な話、第一級冒険者に近しいものがソーマ側に加担した場合、我々の身が危うくなるだろう。例えば、イシュタルの所とかな」

 

 

 『協力者制度を付ける』不平さを告げるアポロンは受け入れがたいと主張して円卓の者達を見回す。

 

 アポロンの主張に神達が押し黙り始めるが、イシュタルはつっかかる。

 

 

「そうなるとアポロン。怖いのか?」

 

「…何だと?」

 

「相手が格下じゃないと勝負しないという事か?」

 

「馬鹿にするな…」

 

「なら、自分の子を信用していないのか? お前の子供たちへの『愛』はその程度なのか?」

 

 

 戦や愛など多くの神性を司る美神の言葉に、恋多き神はいたく教示を刺激され、苦虫をかみつぶした顔になる。再び神会が揺らめき始め、協力者制度が肯定的になり始める。

 

 ややあってアポロンもムキになり始め、制度の一部を受け入れようとした。

 

 

「チョイ待チ。流石にそれは却下や」

 

 

 だが、意外な神物からまさかの助け舟が出た。

 

 トリックスターのロキが、イシュタルの事を睨みながら牽制する。

 

 

「眷属が1人や二人しかおらんだったら話は別やけど、ソーマは何人も眷属がおるんや。他の派閥からの人手がなくても、十分勝負できる。むしろいたら、それこそ萎える」

 

「…そういう事だ。これは神聖な戦争遊戯。可能性というのはゼロじゃないからな」

 

「……チッ」

 

 

 最強派閥の一角である主神から反対され、アポロンもそれに便乗し、他の男神達は黙り、イシュタルもまた口出ししなくなった。

 

 

「適当な城を見繕わんといかんし、戦争遊戯の開催日はギルドと相談を兼ねてやな。じゃあ、解散するか」

 

 

 ロキの言葉を最後に神会は解散となる。「この後バイトだー」「俺もそうだな」「ヘスティア、私の所でもバイトをしないか? 最近赤字であってな…」と多くの神々が喋りながら去っていく。

 

 アポロンもまた去って行くソーマの事を一目見て、自分もまた部屋を出ようとした所でロキに言い止められた。

 

 

「あ、ちょい待ちアポロン。言っておかないといけない事があったわ」

 

「ん? 何かね?」

 

 

 ロキにちょいちょいと指を振られ、アポロンはロキに近づくと、腕で首をガッと捕まれ、屈まされる。

 

 

「な、何を…!?」

 

『シッ。静にしとけ』

 

 

 ロキは暴れだそうとするアポロンにジェスチャーして、静止させる。そして、誰にも聞こえないように小声で忠告する。

 

 

『気ぃつけや。ソーマ本人は知らんかもしれないが、その団長のザニスっちゅーもんは「闇派閥」と繋がっていた事が確定したんや。加えて、イシュタルもそうだった。戦争遊戯で何かやらかす可能性があるから、自分らの子に忠告しとけや』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修行を終えた後。

 

 僕はギルドに行き、ミィシャさんの所で座学を行っていた。

 

 そして、その今日の座学の時間も終わりとなった。

 

 

「はい、今日はここまで~。よく頑張ったね~」

 

「はい…。実感があまりないですけど、何か楽になってきたような…。問題の正答率も上がっていますし」

 

「何やかんや2ヶ月は経っているからね~。それとも、今度からエイナに頼んで厳しくしよっか?」

 

「それは勘弁してください!? スパルタ過ぎますから!?」

 

 

 ミィシャからのえげつない冗談に、ベルは悲鳴をあげる。

 

 一度お試しの気分で受けてみたけど、ミィシャさんの座学に甘えていたのか、ミノタウロスに追われた時ぐらいの気分になった。スパルタ教育を喰らい、あまりギャップに逃げ出しかけたけど、踏みとどまった。本当に何とか。

 

 もはやトラウマとなっている記憶を思い出し、僕は顔を青ざめていることに自覚している。

 

 

「冗談だって。…それと話は変わっちゃうけど、びっくりだね~。ベル君がもう大舞台に立たされる日がこんなに早い何て~」

 

「いや、まだ出るかどうかは内容次第ですので…」

 

 

 そう言いつつ個室から出ると、丁度戦争遊戯の詳細が公表された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【アポロン・ファミリア】 vs 【ソーマ・ファミリア】

 

 『攻城戦』。

 

 防衛:【アポロン・ファミリア】

 

 攻撃:【ソーマ・ファミリア】

 

 対象:【ファミリア】の眷属総員。

 

 決戦場はシュリーム城。オラリオから馬車で2日間かけて移動した所。

 

 期間は3日間。

 

 4日後から始まる。

 

 防衛側の勝利条件:相手の『代表』を倒す、もしくは3日間『代表』を守り続けるか。

 

 攻撃側の勝利条件:3日以内に相手の『代表』を倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貼り出さた紙を見て、僕は唖然とする。

 

 正直言って、実は一番団員歴が短い僕が出る事は到底ないものだと考えていた。

 

 本当に、僕も出るんだ…。

 

 

「あ、ベル君『戦争遊戯』に出るの確定したじゃん~」

 

「……そう、ですね…」

 

「…? どうかしたの?」

 

「あ、いえ、何でもないです! では、僕はこれで! 皆にも知らせないといけませんし! ミィシャさんもお仕事頑張って下さい!」

 

「あ、そうだった! ひ~、大変大変~!」

 

 

 僕はギルド本部から離れ、ミィシャさんもまたすぐに仕事へと取り掛かり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルド本部はこれまでにない騒々しさに包まれ始める。

 

 羊皮紙を片手に持つ職員たちが、書類を詰め込んだ箱を抱える受付嬢が、周囲をあわただしく走り回っている。

 

 戦争遊戯が4日後に控えられ、彼らの目が回る多忙さは限界に辿り着こうとしていた。

 

 

「無理ぃ~。もう死んじゃうって~」

 

「ミィシャ、手を動かしなって…」

 

 

 多忙の中、ミィシャとエイナは書類作りに手を焼いていた。その内容は勧告書作り。

 

 作業机に何枚も広げられ、立ち入り禁止を促す戦場の詳細には――オラリオ東南『シュリーム古城跡地』と記されている。

 

 

「…思ったんだけど、この場所って……確か、盗賊が住み着いているんじゃなかった?」

 

「うん。【ガネーシャ・ファミリア】に要請して、先に討伐してもらってる。近隣の町や村からの冒険者依頼も貼り出されていたから……いい機会だから捕まえちゃうって」

 

 

 まさに一石二鳥のギルドのやり方にミィシャは感心を覚える。そして、ミィシャもまた手を動かそうとするとき、ある話の事を思い出した。

 

 

「…エイナ、これついさっき、上司たちが話していたのを聞こえちゃったんだけどさ…。そこの盗賊って、都市の『闇派閥』と繋がっているんじゃないかっていう話があったんだって。何でも、商人経由で連絡を取っていたとか…」

 

「まさかー。いくら何でもそれはないでしょ」

 

「そうなんだよねー。しかも今日の朝にその連絡が着て、それを連絡させたのが、どっかの富豪の人からとか…」

 

「それを聞いたら、余計信憑性がない気がする」

 

 

 あくまで上司が話していたことを聞いていただけで、しかも全部は聞いていなかったので、上司たちが冗談を言い合っていた時にミィシャが聞いたのだとエイナは考える。

 

 「そうかなー?」とミィシャは止めていた作業を進めようとすると、今度はエイナから話があった。何やら少し心配そうな顔で。

 

 

「…ねえ、ミィシャは担当の子とか、心配にならないの?」

 

 

 担当の子が、【ファミリア】の抗争に巻き込まれているんだよ、と。

 

 エイナが心配した声でした質問に、ミィシャが作業しようとしていた手を止めず、そのまま素直に答えた。

 

 

「ん? 心配だよ?」

 

「あ、そうなんだ…。でも、私達ってギルド職員だから……、どっちにも肩入れしちゃいけないんだよね…」

 

 

 絶対中立を名乗るギルドの職員として、立場を重んじているエイナは、無力感とやるせなさに身を染みている。

 

 そんな友人を見たミィシャは、明るく声を与える。

 

 

「うーん、と……でもさ? 心の中で応援するというのはいい……よね?」

 

「応援?」

 

「うん。頑張れー、て。ベル君に、担当をやった事があるカサンドラちゃんもいるから、私は自然にそうなっちゃう」

 

 

 そんな友人の考えに、エイナは顔を上げる。その表情は、晴れやかであった。

 

 

「うん…そうだね! ミィシャの言う通りだよ!」

 

 

 気分が晴れたエイナは再び作業を進める。

 

 その少しした後。

 

 

「…エイナ、ありがとね」

 

「ん? 何が?」

 

 

 突然友人からの感謝の言葉に、エイナは疑問の声を上げた。

 

 

「いや、だって…。私の担当の子の話なのに、エイナは心配になってくれているから…。この事を聞いたら、ベル君やカサンドラちゃんもきっと、頑張っちゃうと思うよ?」

 

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