ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか 作:七篠ロキ
『闇派閥』アジト内。
少し薄暗い空間の中で、一人の女が誰かを探していた。
「たくっ…、あいつはどこに行きやがったんだ?」
「んん? 誰かお探しか?」
周りを見渡している女―――ヴァレッタに、ゴーグルをかけた男が現れる。
「何だ、お前か。…なあ、
「ああ、あいつか…。あいつなら、数日前にここを出たばっかりだぜ。何処だったっけな…。確か、城跡にいる奴らと話をしに行くとか言っていたが。何でも、ラキアの連中が財政難で来れなくなったから、その使者と会いに行くとか」
ヴァレッタの質問に、ゴーグルをかけた男―――ディックス・ペルディクスが答えた。
ただし、その返答内容で騒ぎが大きくなるが。
「はぁ、マジかよ!? よりにもよって、そこが『戦争遊戯』をする場所になっちまったんだよ!」
「…おいおい、何でそうなったんだ? あそこは俺らが外のアジトの一つ―――取引場所として使っているんだぞ? どっかの奴が密告しやがったのか?」
事実、ベル達がカジノで勝ちまくり、お金を返して貰った富豪の一人がこの情報を知っていたため、ギルドにその場所を密告していた。
だが、この二人にその事を知る由もない。
「その場所が【ガネーシャ・ファミリア】に行かれてもう使えないから、あいつにも相談したかったが…」
「まぁ、あいつなら大丈夫だろ。前に【ガネーシャ・ファミリア】の連中を返り討ちにしたと聞いているぜ?」
「だけどあいつ、気に入ったやつが二人以上いたら、その場にいた奴ら誰も殺さないんだよー! 少し前に【アポロン・ファミリア】ごと【ガネーシャ・ファミリア】の主軸メンバーを殺していたら、もう少しまともに動けたのに!」
「ンなこと俺に言ってもしょうがねえだろ! ここでも仮面を付けて、しかも黒いフードや手袋までして肌を全く見せないあいつに直接言え!」
『闇派閥』にとっての問題児の一人の事で声が荒くなり始め、何人かの部下がここを通るが、皆すぐさま逃げていった。
喧嘩腰になりかける二人に、騒ぎを聞いた一人の神――――タナトスも現れる。
「何喧嘩してるのぉ? こっちまで騒ぎ声が聞こえてきたんだけどぉ?」
「ああ、タナトス様。ちょっとあの自称エインの事で…」
「そういえば、ヴァレッタちゃんの作戦ってどうなっているのぉ? 何か予定が延長しまくりだって聞いているんだけどぉ?」
話題を転換させてこの場を治めようとするタナトス。ディックスもまたそれについて聞きたくて来たのだ。
「そうだなー。とりあえず、オラリオの警戒令が解かれるまでは大人しくする事だな。あ、そうそう。あの眼鏡に、今回の『戦争遊戯』に力を貸してほしい、って言われたが…」
「あ、そうなの? 俺の所にも来てね、とりあえず機嫌がメッチャ悪かったイシュタルの所に顔を見させたよ」
「…おいおい、そいつ大丈夫なのか? 俺の所で協力してもらおうかと考えていたんだが」
タナトスによって、とんでもない所に行かされたザニスの事を流石に同情するディックス。
壊されてなけりゃあいいが、と、そんな感じですぐに忘れるが。
だが、タナトスはここから興奮気味で話してきた。
「普通なら見捨てる所なんだけどね…。でも、ちょっとやべーもんがあったから、賭けに【ソーマ・ファミリア】の方に金をぶち込むことにしちゃった」
「「はぁ!?」」
タナトスのとんでもない独断に、珍しく息が合ってしまったディックスとヴァレッタ。
「いやいや、ヤベーんだって。そんなのがオラリオにあるの!? ってやつだから。マジで。見せたお礼にこっちはアレを渡しちゃった」
「…とりあえず、どんなのだったんだ?」
タナトスにそれを説明される二人。
熱弁するが、二人は信じなかった。
「ハァ…。どうせ嘘だろ? そんなもんがある訳ねぇだろ」
「いやいやほんとだって!」
「そんな神の冗談に付き纏われるこっちの身にもなってくれ」
ディックスはタナトスの話に全く相手にせず、ヴァレッタも同じだった。
遂にタナトスの事をスルーし始めて、二人で話を進めてしまう。
「ま、とにかくノープランという事はわかったから、俺は好きにしてもらうぜ?」
「あんな趣味に走るのはほどほどにしとけよ」
「別にいいだろ、趣味だから」
軽く手を振ってその場を後にしようとするディックス。
ヴァレッタもまた、しばらくは情報収集に動こうとする。
二人に信じてもらえず、一人残されるタナトス。
「あーあ。あの自称エインちゃんと言い、女癖がヤバい奴と言い、あの子達の内、一人でも7年前の戦いにちゃんと参加していたらなぁ。絶対にこっちが勝っていたのになぁ」
タナトスはそんな事を愚痴に出し、扉を閉める前にギリギリ話が聞こえたディックスやヴァレッタもまた、「そうだなぁ」と頷くのだった。
翌日の朝。
僕ら【アポロン・ファミリア】は先発、後発と別れて出発することになった。
少しでも『戦争遊戯』に向けて体力を残しておきたいという事で、移動は馬車である。
ちなみに、ヒュアキントスさん、ダフネさんは先発組に。僕、カサンドラさん、ルアンにリッソスさんは後発組に入っている。
「それじゃあ、先に行ってるね」
「アポロン様、我々は出発致します。活躍を是非、ご覧になって下さい」
「うむ! 皆の衆頑張るのだぞ!」
アポロン様や僕らに見送られながら、そのまま先発組の人達は先に『シュリーム城』へと向かって行く。
一時間後に、僕らも出発する。
「オイラはどうせ、列の一番後ろだろー?」
「僕もそうだから…」
ベルとルアンはそう言いながら最後尾の荷物をまとめ、次々と馬車の荷車に乗せていく。
ふと、ルアンは疑問に思っていたことをベルに口にする。
「……そういや、メレンにいる【ニョルズ・ファミリア】達にカサンドラ達が見つかったって報告したのか?」
「うん。昨日ミィシャさんと座学をする前に手紙を書いて送るようにしたから、多分今頃ぐらいに届いていると思う」
ルアンとそんなやり取りがあったけど、そのまま出発の準備を進めた。
リッソスさんとカサンドラさんは後発組の最前列として出発する予定で、今も最前列にて馬車を引く御者の人達と話して出発準備を進めている。
アポロン様は団員の一人一人に声をかけて、意気込みとかやる気とかを注いでいる。
ルアンと喋りながら準備を進めているけど、ただ時々、荷物を取る僕の手が震えていて、内心『戦争遊戯』の事で考え事していた。
(まだ3日あるのにな…)
僕自身、明らかに緊張している。
緊張が解けるようにと自分に言い聞かせるも、むしろ逆効果で手が震える回数が増えていく。
何とか僕らは運ぶ荷物をまとめ終わり、あとは出発するまで待機となった。
そこに、御者の人達と話し終えたリッソスさんがやって来る。
「二人共、調子はどうだ?」
「あ、リッソスさん! もう体調の方は大丈夫ですか?」
「ああ。昨日で経過観察が終わったから、ようやく体を動かせる」
腕を回して大丈夫である事をベル達に見せつけるリッソス。
「今回の『戦争遊戯』で小隊長を務めることに問題はない」と自信満々に言い、ベル達もまたリッソスの事を頼もしいと思い始める。
城の人員配置に関しては現地で言い渡されると伝えられ、その後はリラックスがてらに談笑していた。
ルアンはいつも通り喋り、場を盛り上げてくれる。
メレンでの様子を聞かれたけど、とりあえず個人的な事情に関しては話していない。カジノの方も以下同文。ルアンが口を滑りそうになった時は慌てて誤魔化して口を塞がしたけど。
リッソスさんはおすすめの店とか紹介してくれた。エルフの男性が好きそうな正装の服屋とか静かな料理店とかが主にメインだったけど。中にはかなり味がこっているという店もあるらしく、ルアンもおいしいという評判を聞いたことがあるらしい。ただし、食べるためには条件があるとか。
「そのためには作法というものを学んでくれ。特にルアン」
「何でだよ!?」
…どうやらその店は作法がなってないと叩き出されるらしい。僕も危うい。
その後、魔法道具の話となり、リッソスさんが聞いた噂にはオラリオでも簡単には手に入らない物を並べるという店があるらしい。魔法大国アルテナにもないような品物もあるとか。どんな店だ。
「その店は何代にもわたって経営している、という話も聞いた事があるな」
「そんな年月が経っている店なら、何でオラリオ中で話題になっていないんだよ!?」
「もしかして、簡単には行けない場所にあるのかな…?」
【魔法】をメインに使う人達はその店を探しているらしく、大雑把な位置情報だけでも価値があるらしい。
他にも遊び道具とかの話にもなり、昔おじいちゃんと遊んだなー、と懐かしい物の話題にもなった。古今東西のテーブルゲームとかを並べる店とかがあるとか。
「って、そこ『怪物祭』の時に大会開いていた店じゃん!?」
「あ、そういえばそうだね。何か聞いたことがある店だなと思ったら…」
「む。そういえばその大会でベル達は優勝したと聞いたな」
「やるじゃないか」「いや、でもあれ勝った気がしなかったですけど…」と話は続き、笑いあって完全に緊張というものはなくなっていた。
その後、ベルは出発時間が近くなるまでルアンやリッソスと談笑していた。
「リッソスさん、そろそろ…」
「そうだな、そろそろ出発だ。最後尾だからといって、遅れるなよ」
ベル達は準備を既に終えており、いつでも出発できる。
リッソスはベル達の元から離れ、最前列の所へ向かおうとした時。
そこでカサンドラもこっちまで来ており、リッソスと同じく後発組の先頭として出発するため、リッソスを呼ぼうとしていたのだ。
だが、カサンドラの顔色の悪さにベルは不審に思い始める。
「あれ…? カサンドラさん、どうかしたのですか? 何か顔色が悪いように見えるんですけど…?」
「あ……、う、ううん! 何でもない、大丈夫だよ! リッソスさん、そろそろ出発だから!」
「あ、ああ。わかっている」
「ベルが言っていたが、本当に大丈夫なのか?」「本当に何でもないから!」と、そのまま離れるカサンドラとリッソス。
そして二人と入れ替わるような形でアポロンがベル達の元へやってきた。
「やあ、ルアン! ベルきゅん! 君達の方はどうだい!?」
「とりあえず、もう出発できる状態です」
「はい、こっちも準備万端です!」
ベル達の言葉に偽りなしとアポロンは判断し、力強く頷く。
「ならよし! 『戦争遊戯』の活躍は『鏡』越しで目に焼き付けるから、しっかり頑張ってくれ!」
「はい! ……ん? 鏡?」
「あれ? ベルきゅんは知らないのか?」
今回の『戦争遊戯』が初参加どころか行われること自体初めて見るベルは、遠くを見れる『鏡』なる物を見たことがなかった。
神が下界で行使が許されている『神の力』―――『神の鏡』。千里眼の能力を有して、離れた土地においても一部始終を見ることが出来る。企画される下界の催しを神々が楽しむために認められた、『神の力』が使える唯一の特例であった。
ミィシャの説明不足でその話を聞いていないベルは、首を傾げている。
「その『鏡』は『戦争遊戯』の時のみ使えて、オラリオからかけ離れた場所を映し出せるんだ! 子供たちとも一緒に観戦できる反面、こちら側の方は見られなくて、声も聞こえないけどね!」
「そうなんですか…」
すごい便利な鏡だ…。何処の場所でも見れるなんて…あれ? という事は…。
「あの…、今思ったんですけど、その力があったらカサンドラさん達をすぐに見つけられたんじゃ…。事情を言えば何とかなるのでは…」
「いやいやベルきゅん、私もまたこの下界というルールを楽しんでいるのさ!『戦争遊戯』の時はあくまで特例!『神の力』を使って楽しようとしたら、他の神が勘付いて天界送りにされてしまうし。「そんな事したいなら天界に戻ってやれば?」というスタンスだから。そういうのがなし、という本当の実力でどこまでやれるのかが神にとっての最高の娯楽だからね!」
「まあ神がいつもそんな事したら、オイラ達はたまったもんじゃないしな」
アポロン様が説明して、ルアンも頭の後ろの手を組んで同意しており、僕は当たり前の事を聞いてしまったと自覚してしまう。
「……すみません、失言でした!」
「いや、これを機に学んだのなら大丈夫! その分『戦争遊戯』を頑張っておくれ!」
「はい、わかりました!」
「あ、もう出発だぞ」
ルアンの一言で、僕達は馬車に乗り込む。
そして出発し、アポロン様は「君達が凱旋するのを、ここで待っているぞー!」と言いながら僕らを見送ってくれるのだった。