ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

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何かがなかったら、もしくは一つでも判断ミスしたらBADENDってきついなー。



まさかの再会

 後発組の僕達がオラリオから出発したしばらくした頃。

 

 オラリオの外壁は見えなくなっており、着実に『シュリーム城』へと進んでいる。

 

 昼もとっくに過ぎており、一旦馬を休ませるための休憩時間も終わり、再び移動している時であった。

 

 外の光景はもうすぐ見晴らしのいい草原から森林へ変わろうとしていた。

 

 ルアンはベルと会話しながら、退屈そうにしている。

 

 

「しっかし、移動が二日間かかるって結構つらいよなー。暇つぶしにできるもんがねえと、話する以外退屈だからなぁ。結構揺れるから2人用のテーブルゲームとかもやりにくいし」

 

「僕は外の光景見るだけでも十分だと思うけど…」

 

「ベルの場合はそこに行くこと自体初めてだからそうかもしれないけど、オイラはそこまでじゃないからなー。退屈だ~」

 

 

 欠伸が出ているルアンに苦笑いするベル。

 

 退屈だと言いながらも、ルアンも後にベルと交代して外の様子を見なければならないが。

 

 そして、ルアンが「オイラ達がもっと上位派閥だったらなー」と願望を口にした。

 

 

「『戦争遊戯』って【ファミリア】間の抗争をギルドからのペナルティなしで、明確にルール化してやるもんだけど、それが怖くない所だと、あっという間に潰しにかかるからな~」

 

「僕らの場合はそれが怖いからね。今回だと、ザニスさんを逃がさないというのもあるから」

 

「まあ『戦争遊戯』をやるにしても、その前に妨害行為して戦力を削ったり、急に人の数を増やしたりするのがしょっちゅうあるぞ」

 

「え…!?」

 

 

 ルアンの言葉に思わず僕は唖然としてしまったけど、すぐに「どこも妨害行為に関してはそれなりの対策をしてるぞ」とフォローを入れてくる。

 

 

「まあオイラ達はその対策の一つとして、こうやって二手に分けて列を短くして、それなりに対処できるようにしているけどな」

 

 

 ルアンがそう言い、ベルもまたリッソスに散々言われた発煙筒の注意事項などを思い出した。

 

 ルアン達が考えている対策は、先方組が待ち構えて妨害する戦力に当たって、最悪の場合、後方組のリッソス達が予備戦力として相手の士気を下げることも出来て、反撃もできる。

 

 逆に後方組の最後尾の後ろから不審なモノがついて来たら、ルアン達のすぐ側にある発煙筒で煙を上げて、前の人達に知らせるとかできる。

 

 一応そのほかにもあるが、圧倒的な個の力が襲ってこない限りは大丈夫、という事にはなっている。

 

 

「ま、そういうわけだ。何か話題切り替えて楽しい話にしようぜ。退屈で寝ようにも馬車が時々揺れて寝にくいし」

 

「僕も最初オラリオに来る途中、夜中で揺れて起きちゃったことがあるから」

 

「やっぱそうなるか。 あ、そーいや話変わるけどさ、リッソスが言ってた店に一回食いに行こうぜ! 作法が厳しいけど、何とかなるって! 味が美味いらしいし!」

 

「いやでも話聞く限り……」

 

 

 ベルが断ろうとするが、ルアンは頑なにベルも誘おうとする。

 

 その後も話題を変え、そのままベル達は夜まで話を続け、寝るまで談笑する――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――― 筈だった。

 

 ルアンに押しきられ、ベルもその料理店に行くことに合意しそうになった時。

 

 不意に、馬車が止まった。

 

 

「……あれ?」

 

「今馬車が止まったか? おい、どうかしたのか?」

 

 

 ルアンが馬車を引く御者の人に原因を尋ねると、その人もまた困った顔で返答する。

 

 

「いえ、単純に前が止まりまして。もしかしたら何か前の方で……下手すると列の先頭で詰まっているように思えますが…」

 

「列の先頭…?」

 

 

 ベル達は馬車の窓から顔を出し、横から列の前の方を見ると、何人かもまた、馬車から降りて前の方に確認しに行っていた。

 

 ただその現場に着いた途端、何故か皆が武器を取り出し始めてしまうが。

 

 その光景も相まって、気になる者達がぞくぞくと降り始め、着いたらやはり武器を取り出していく。もはや最後尾にいたベルとルアン以外の後方組が最前列に集結してしまう。

 

 ただし、一番前の馬車を引いていた御者は逆に後ろへ行き、他の御者の人達にも声をかけて避難していく。

 

 ベル達は何が起きているのか不思議に思っていると―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ドオンッ!! と、前の方で爆発音が聞こえた。

 

 そしてすぐ後、人が吹っ飛ばされる光景が目に映る事になった。

 

 

「…!? 何か前の方で揉め事が起きている!?」

 

「マジかよ!? リッソス達はどうしたんだ!?」

 

 

 そして僕らは発煙筒も含め、武器を取り出して馬車から降りて、ルアンと共に騒ぎ声が聞こえる列の先頭の方へ駆けこむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少しだけ遡り、後方組最前列。

 

 ルアンが欠伸を出しそうになった頃。

 

 リッソスが馬車を引く御者の人と話している間、カサンドラは深刻そうな顔で思い悩んでいた。

 

 昨日見た夢のお告げ。その内容は『敗北』と『死』の予言。

 

 それを回避するための方法も信託されているが…。

 

 

 

 

 

 

――― 傷ついた太陽の城が、泥棒の三日月によって落ちる。

 

――― 小人と一人の男によって翻弄され、最後は寵童が凶刃によって亡き者となる。

 

――― 倒れる者達の努力は報われない。

 

――― 動けない悲劇の預言者は決着を見れず、泣き崩れる。

 

――― 太陽達は全てを奪われ、光を失くして彷徨い続ける。

 

――― この結末を回避したくば、白き少年を犠牲にしろ。

 

 

 

 

 

 

(この『白き少年』って、まず間違いなくベルの事だよね…)

 

 

 でもそうしちゃったら、ベルが犠牲となって…。

 

 

(『この結末を回避したくば』という事は、このまま何もせずにやると、ベルは無事…という事になる…けど…)

 

 

 でもそうしないと、『太陽』――――エンブレムに太陽がある私達【アポロン・ファミリア】が、『三日月』―――――エンブレムに盃と三日月がある【ソーマ・ファミリア】に負けて、しかも『寵童』―――恐らく【太陽の光寵童】の二つ名を持つ団長さんが亡くなってしまう。

 

 

(……どうすればいいの、これ…!?)

 

 

 ベルを取るか、抗争の勝利を取るか。

 

 その二択が、カサンドラの前に突き付けられている。

 

 思い悩むカサンドラ。

 

 

(流石にあの最後の一節がある以上、ベルには相談できない…)

 

 

 カサンドラはこの事をベルに相談してしまったら、ベルが自ら本当に危険な目に合いにいくだろうと考えている。

 

 しかし、カサンドラは出発する前にダフネや、思い切って今同じ馬車にいるリッソスにも相談したが、夢のお告げを信じてもらえず、相手にされなかった。

 

 

(自力で、このお告げを覆すしかないの…!?)

 

 

 「どうやって!?」と、結局振り出しに戻り、頭の中がぐるぐる回り続けるカサンドラ。

 

 「あー!」「う~!」と悩み続けており、同じ馬車にいるリッソスと馬車を引く御者の人は全力で見ないことにしていた。

 

 そうして悩み続け、ふとある考えが浮かび上がった。

 

 

(…いや、待って。もしかしたら夢のお告げの内容自体にヒントがあるかも!)

 

 

 夢のお告げが一節でも外れば、結末は変わる。

 

 そうすれば、ベルが犠牲にならずに『戦争遊戯』にも勝てる…かもしれない。

 

 確証はないが、それでも一筋の考えに縋るしかないカサンドラは、お告げの内容そのものを深く考え始めるのだった。

 

 とりあえずまずは一節目から。

 

 

――― 傷ついた太陽の城が、泥棒の三日月によって落ちる。

 

 

(普通に考えれば、『太陽』はエンブレムに太陽がある私達【アポロン・ファミリア】の事で、『城』は戦争遊戯の決戦場のシュリーム城の事になって…。『三日月』という事は、エンブレムに盃と三日月がある【ソーマ・ファミリア】の事になるけど…。ここは深く考えなかったけど、『泥棒』…?)

 

 

 深く考えなかった部分に引っかかるカサンドラ。

 

 だが少しでも最悪の二択から外れるためには、自信がない推測でも考えるしかなかった。

 

 

(何か盗んだ【ソーマ・ファミリア】が私達の城を攻め落とすっていう事…かな…? その盗んだものをどうにかすればいいのかな…?何だろう…? 情報が足りない~…!)

 

 

 だけどそう考えれば、『泥棒の三日月によって落ちる』という一節目の後半の分は完成する。完成したくないけど。

 

 そして、一節目の残りの前半の分。

 

 

(残った『傷ついた』っていう部分は、きっと『戦争遊戯』で傷を受けた『私達』の事と拠点にしている『シュリーム城』が壊されるという二つの意味を指して…あれ…?)

 

 

 いや、ちょっと待って。

 

 傷ついた太陽の城…?

 

 そしてカサンドラは、最悪の推測に辿り着く。

 

 

(いや、待って。『「傷ついた太陽」の城』とも読めたら…他の意味が…!?)

 

 

 しかもこれが一節目に来るという事は…!?

 

 

 

 

 

 

 

――― 『傷ついた太陽』の城が、泥棒の三日月によって落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

(これって、別に『戦争遊戯』の時じゃなくて、その前に私達は戦力を削られる事も意味できるんじゃ…!?)

 

 

 カサンドラにそんな考えがよぎった矢先。

 

 もうすぐ入ろうとする森林の中の道から草原の方に出た、黒いフードを被った者が一人、こちらに歩いて来るのが見えた。

 

 ただ、その黒フードの格好に既視感を覚えた。じっと見て、距離が近づくと、見たことある仮面がフードの中から覗かしている。

 

 そう、まるで館が壊された時の…。

 

 

「…あれって、まさか…!?」

 

 

 カサンドラが悲鳴に近い声を出し、顔が絶望に染まる。

 

 同じ先頭の馬車にいたリッソスもまた、その者を見て唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここまで堂々としていたら気づくか、【アポロン・ファミリア】」

 

 

 かつて、ベルが入団してから2週間ぐらいの頃。

 

 館が破壊された時の襲撃者の一人が、再びカサンドラ達の前に現れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リッソスが慌てて馬車を止めるように御者の人に指示を出し、馬車は停止した。

 

 そして武器を取り出して馬車から降り、対峙するのだった。

 

 

「全く……。帰り道にこうも鉢合わせになるとはな」

 

 

 ため息をつくかのような素振りを見せる黒フードの者。

 

 険しい顔で相手に睨み付けるリッソス。カサンドラもまた馬車から降りる。

 

 そして先頭の馬車が急に止まったため、「何だ何だ?」と続々と前方に様子を見に来る【アポロン・ファミリア】の者達。

 

 そして見た事があるソレに、多数の人が武器を前に出すのだった。

 

 緊張が場に走るが、リッソスはこの者の情報を少しでも取りだすため、一先ず名前から質問した。それでも叫び声として出てしまうが。

 

 

「……前から思っていたが、貴様、名は何だ!?」

 

「ん? ああ…。…エインだ。名乗ったのはこちらの方が先なんだが、偽名のせいか、あいつらに自称エインと言われているがな」

 

 

 やれやれと名前に関して愚痴をこぼす黒フードの者―――自称エイン。

 

 何だそのふざけた回答は? と何人かが口からこぼすが、リッソスはそのまま質問を続ける。

 

 

「貴様、何処からここまで来たんだ!?」

 

「……『シュリーム城』からだが?」

 

「…!? 何だと!?」

 

 

 まさかの目的地の名前が言われ、動揺する【アポロン・ファミリア】の者達。

 

 リッソスは必死に心を落ち着かせるように自分に言い聞かせた。

 

 そうこうしている内に、カサンドラはある事に気づく。

 

 

「ねえ、私達の前の方から来たっていう事は…!? ダフネちゃんは…、先発組の皆は…、どうしたんですか!?」

 

 

 カサンドラの疑念に、【ガネーシャ・ファミリア】の方の心配をしていた皆もハッ!? として相手を見る。

 

 だが、自称エインは興味がないかのような素振りを見せた。

 

 

「……自分で確かめに行ったらどうだ?」

 

 

 首をクイッ、と後ろの方に動かす。

 

 その挑発に、皆が乗っかってしまう。

 

 

「…! 上等だ! ここで雪辱を果たしてやる!」

 

 

 リッソスが飛び出したのを皮切りに、次々と襲い掛かる。

 

 だが相手は、余裕を見せつけてくる。

 

 

「…前の戦いで学ばなかったのか?」

 

 

 自称エインは右手を前に突き出す。

 

 そして――――炎の塊が高速で飛び出す。

 

 

(それは想定済み……何!?)

 

 

 リッソスはタイミングに合わせて、突き出された方向から横に避けようとしていた。

 

 だが、撃った方向はリッソスがいた少し手前の地面。

 

 そこに着弾し、土埃が舞う。

 

 

「視界が……ガァ!?」

 

 

 相手が見えなくなった瞬間に距離を向こうから詰められ、土埃の中から、リッソスの顔面に強烈な拳が炸裂した。

 

 後方に吹っ飛ばされるリッソスは後ろにいた者の一人にぶつかり、そのまま一緒に転がり込む。

 

 

「こいつ、前から思ってたが、いくら何でもその攻撃は反則だろ!?」

 

「だったら自力でどうにかするんだな」

 

 

 一瞬で移動して、愚痴を叩いた者に至近距離で炎雷を打ち込み、そのまま黒い手袋をした右手を握りしめ、後ろに襲い掛かってきた者にカウンターを叩き込ませる。

 

 横から襲い掛かってきた者に左手で隠し持っている剣を抜刀してそのまま斬り払う。時にはその剣を投げつけて突っ込み、投げた剣を避けるか防御したところを蹴りでねじ伏せた。

 

 剣を回収したら、右手から打ち出す炎雷で【アポロン・ファミリア】の連携に隙を作らせ、そこを修復させる前に一気に倒していく。

 

 一か八かの攻撃も圧倒的な体術の技量によって簡単にあしらわれ、むしろ痛烈なカウンターを送りこまれる。

 

 攻撃をもらうも意地となって立ち上がる者もいるが、すぐに対処されてそのまま倒される。

 

 何人かは停車している馬車の方に衝突され、車輪やロープ、中にあった食料は台無しに、木材などは壊されてしまう。

 

 頑張って詠唱を完済させようにも相手の炎雷の方が圧倒的に早いため、平行詠唱が出来る者がいない【アポロン・ファミリア】はなすすべなくそれをもらい、時には魔力暴発を引き起こされてしまう。

 

 それでもカサンドラに回復してもらって再び立ち上がったリッソスは、襲い掛かる人混みを死角として、斬り払いをした。

 

 

「…!」

 

「なっ!? 防がれた!?」

 

 

 だが、決まったと思っていた斬り払いを咄嗟に剣で止められ、かすり傷すらつけられていない。

 

 顔を顰めるリッソスに、武器を弾かせて、煩わしいかのように左アッパーを繰り出した。

 

 

「フンッ!」

 

「ガッ!?」

 

 

 きれいな形で顎に決められてそのまま吹き飛ばされ、意識を失ってしまう。

 

 残った者達も果敢に攻めるが、襲撃の時の再現かのように数を減らし、そして遂に、後ろで回復魔法をかけているカサンドラの所まで来た。

 

 最後の一人が後ろから襲い掛かるが、裏拳で吹き飛ばされてしまう。

 

 呻き声が多く聞こえるが、もはや立っている者はいない。

 

 

「さて……」

 

「だ、誰か…!?」

 

 

 フードの中から仮面を覗かせる者は、カサンドラに手を伸ばそうとする。

 

 顔を青く染めるカサンドラ。

 

 そしてカサンドラを掴もうとした所で――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえてきた少年の声に反応して、動きが止まった。

 

 

「カサンドラさん、大丈夫ですか!? …って、あいつは…!」

 

「騒ぎを聞きに来たら、どうなっているんだこれ!?」

 

「…どうやら、お前もここにいるという私の勘は当たったようだな」

 

 

 駆け込んできたベル達が現場に到着した後、自称エインはカサンドラの元から少し離れる。

 

 この状況に怯えているルアンを無視するかのように、ベルとカサンドラの方にそれぞれ仮面の面を向けた後、腕を少し広げた。

 

 その行為に思わず身構えるベル達だが、それを無視して話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

「二人揃ったようだな。それでは、改めて勧誘しよう。私は自称エインだ。そこのLv.1の白髪の少年。今の【ファミリア】を捨てて、そこの女と共に『闇派閥』側に来ないか?」

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

「何、前回の事は水に流そうじゃないか。それに『闇派閥』側もすぐに慣れるさ。出来るだけそうなるように仕事はさせてもらうが」

 

 

 唐突な『闇派閥』からの勧誘に、ルアンも含めた3人は唖然とした。「この状況で何を言ってるんだ?」という顔で。

 

 

「勿論、タダとは言わん。もし『闇派閥』側に来たら、戦争遊戯が始まる前に【ソーマ・ファミリア】の事は何とかしておこう」

 

「…え…?」

 

 

 その発言に、カサンドラさんは思わず声を出してしまうけど、すぐに首を横に振っている。

 

 その間に、僕は小声でルアンに指示を出した。

 

 

『ルアン。僕が時間を稼ぐから、カサンドラさんの所でけが人を運び込んで。出来たらすぐにこの場から逃げよう』

 

「え、いや、相手の方が明らかに速いんじゃ…」

 

『森林がすぐ目の前にある! そこに逃げ込んで、木の死角でどうにか凌ぐしかないよ!』

 

「…わかった!」

 

 

 ルアンはそのままベルの元から離れ、けが人の一人の元へ行く。

 

 そして自称エインはベル達に返答を求めた。

 

 

「それで、どうだ? 返答は?」

 

「「お断りします!」」

 

 

 僕とカサンドラは強く拒否した。

 

 動かない自称エインをよそに、カサンドラさんはすぐにその場から離れ、馬車の裏に行って【魔法】で治療しにかかった。

 

 ルアンはせっせとその場所にけが人を引きづりながら運び、そこでカサンドラに【魔法】で癒させている。

 

 その間に、僕がなんとか時間を稼いで見せる。

 

 ベルはそんな意気込みをしている時、相手の顔の向きが明らかにベルに向いていなかった。

 

 

「…?」

 

 

 その仮面を向ける先にあるのは、カサンドラさん達がいる方向。

 

 そちらの方を、眺めているかのように見えた。

 

 

(僕を無視してそっちを攻撃するつもりなのか!?)

 

 

 ならこっちから仕掛けるしかない! とベルは相手に駆けだす。

 

 そんなベルに、自称エインはようやくベルの方向を見た。

 

 

「遊んでやるが……あまりがっかりさせるなよ? これでもお前はお気に入りだからな」

 

 

 そして、本当に遊び気分で待ち構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああ!」

 

 

 短刀で斬りつけようとするベル。

 

 斬り払い、斬り上げ、回し蹴り、斬り下ろし、水月蹴り……。

 

 ラッシュを繰り出すが相手はひらりと躱し続け、黒フードにすら傷がついていない。

 

 しかし、そんな余裕がありながらベルに一切攻撃を仕掛けて来ない。

 

 

(完全に、遊ばれている…!)

 

 

 いっその事フードを掴もうとしても、簡単にあしらわれてしまう。

 

 触れることすら許されない。それ程実力差がある。

 

 そんな事実が、僕の中で沸々と大きくなり始める。―――逃げろ、と。

 

 だが、今回はあくまで時間稼ぎ。その事が、今こうして立向かっている理由であった。

 

 相手が攻める気がないのなら好都合とばかりに、体力切れにならないよう、攻撃し続ける。

 

 だが、そんなベルを自称エインは退屈そうにしている。

 

 

「何だか味気ないな。この程度か…」

 

「…!」

 

 

(いや待て、相手の挑発に乗るな。時間を少しでも稼ぐんだ!)

 

 

 攻撃のペースを上げてしまったら、体力がすぐに無くなり、時間稼ぎの意味がなくなってしまう。

 

 ベルはそう自制して、攻撃のペースを上げないようにする。

 

 だが相手はそんな悠長な事を簡単に待ってはくれなかった。

 

 そして怒気が混じった声で、ベルを本気で脅迫した。

 

 

「本気でやった方が良いぞ? さもないと……そこの女を除き、全員殺すぞ。お前も含めてな」

 

「…!?」

 

「一応これでも自分ルールというのがあってな。これのせいであいつらに問題児として見られているが…。お前がお気に入りから外れば、手加減なんか一切しないぞ?」

 

 

 僕とカサンドラさんをお気に入りとして見ている。

 

 それが今、お前達が助かっている理由だ、と言わんばかりの雰囲気に僕は思わず気弱になりかけてしまう。

 

 相手の雰囲気が先程とは一転して冷たくなり始め、まずいことになりかねないと判断して、僕は、攻撃のギアを上げた。

 

 

「フッ!!」

 

「おっ?」

 

 

 攻撃のスピードが上がるが、相手は躱し続けている。

 

 だが、その回避方法が少しずつその余裕がなくなっていく。

 

 先程とは一味が違う攻撃のラッシュに、刃がフードに届きそうにもなった。

 

 

「ほう…」

 

 

 相手から感心の声が上がるが、このままではすぐに体力切れとなってしまう。

 

 まだカサンドラによる【魔法】の治療は重傷者の傷が軽傷へと変えさせることに専念している。

 

 そのため、ベルは時間稼ぎではなく勝とうとして、勝負に出た。

 

 持っていた発煙筒に煙をつけ、それを前に投げつけた。

 

 

「…? 何を…!」

 

 

 煙で見えなくなった隙に、距離を一気に縮めた。

 

 至近距離に近づくベル。

 

 そこから、電光石火の一撃。

 

 相手の黒フードの裾の分によって見えない、側面の死角から切り払う。

 

 ベルはこの一撃は入ると思っていた。

 

 だが、それを――――――片手で受け止められてしまう。

 

 

「え!?」

 

 

 ベルは衝撃を受ける。

 

 腕や手首をつかんだ、もしくは短刀を摘まんで止めたわけじゃなく、掌の面で短刀を止めた事に。

 

 刃が全く通っておらず、黒い手袋すら切れていない。

 

 

「ど、どうして…!?」

 

 

 押しても全く動かない。

 

 むしろ短刀が折れなかっただけ幸運だったかもしれない。

 

 信じられないという表情をするベルに、自称エインは自慢げに話した。

 

 

「この手袋は特注品でな。よっぽどの切れ味を持たなければ刃物の攻撃に傷が一切つかず、尚且つ【魔法】にもある程度耐性がある品物だ」

 

 

 黒い手袋を見せつけながら解説する自称エイン。

 

 「造らせるのに苦労したけどな」と一言加えるが、ベルにとっては最悪な状況である。

 

 

「それにしても……前の時より格段と動きがいいな、お前。何かを経験したのか?」

 

「…!」

 

 

 ここ数日、非常に濃い生活を過ごしたベルは、どれが一番だったのかすぐに言葉が出なかった。

 

 短刀を手で止められた状態のまま硬直する二人だが、ベルが次の攻撃を仕掛けようとして、蹴りを出そうとした瞬間。

 

 

「やはりここで逃すのは惜しいな。お前だけでも無理矢理連れて行く」

 

 

 そう呟いた瞬間右手を向けて、ベルに至近距離で炎を打ち込んできた。

 

 

「グッ!?」

 

「何?」

 

 

 それを、僕は膝を曲げて背中から倒れ込む形でギリギリ躱した。

 

 昨日の朝の修行が活きている。

 

 必死に避けられたとしても、クロエさんの隠し持ってた武器でやられていたけど、その経験がなかったらいきなり終わっていた。

 

 あの理不尽すぎる攻撃はこれをどうにかするためだったんですね! と内心クロエに感謝するベル。それと同時に何故かクロエが目線を逸らす様子が幻視するが。

 

 避けた後、その体勢から僕は地面に手を付けて右脚で回し蹴りを仕掛けたが、相手はジャンプしてそれを余裕で避けられてしまう。

 

 だが、その回転をしたまま立ち上がり、そのまま上段への回転蹴りを仕掛ける。

 

 が、相手が着地した方が先で、蹴りが届く前に近づけられ、僕の腹に強烈な拳が入った。

 

 

「ガハァ!?」

 

 

 鈍い音が鳴り、ベルの体がくの字となったまま後方へと吹き飛ばされる。

 

 ガアンッ! と馬車にぶつかり、馬車が横に倒れ、そこからベルも地面に叩き付けられる形で倒れ込む。

 

 ベルの意識は朦朧としており、すぐに立ち上がる事ができなかった。

 

 ただ、自称エインはベルの事で少し驚いている。

 

 

「…ふむ。かなり手加減していたとはいえ、今回は偶然ではない形で攻撃をかわしたか。よくもまあLv.1で」

 

 

 そして剣を抜き、そのまま吹き飛んだベルの元に近づく自称エイン。

 

 

「ベルー!?」

 

「やべえ!? すぐに逃げろ、ベル!?」

 

 

 カサンドラやルアンはベルが馬車に衝突した音でそちらを見て、顔を青ざめる。

 

 ルアンやカサンドラが駆け込んでも間に合う距離ではなく、先に向こうの方がベルの元に辿り着いてしまった。

 

 意識を朦朧としながらも、腰にある小荷物から回復薬を取り出そうとしているベルに、剣を向ける。

 

 

「やはり意識を回復しようとしているな。目が覚めて暴れても困るから、ここで四肢でも斬っておくか。何、ちゃんと持って帰って回復させるさ」

 

 

 剣を振り上げ、まずはベルの右腕を切り裂こうとした瞬間。

 

 思わぬ方向から、蹴りが飛んできた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 間一髪で躱す自称エイン。

 

 ベルの元から離れ、今攻撃した者に警戒しようと視線を向けた時。

 

 

「……誰だ、お前は?」

 

 

 見かけない顔だったので、仮面を付けた黒フードの者は声をかけた。

 

 対峙するのは、褐色の肌を持つ女性。

 

 ベルもまた、腰からいくつかポーションを飲んで意識が元に戻った所で、その女性を見て驚愕する。

 

 

「え…!? どうしてここに…!?」

 

「お前がここを通ると聞いてな。お前からの手紙も読んで、様子を見に来たつもりだったが…。少し道に迷った所で、煙が立ったのが見えたからここまで来れたが、こうなっているとは思っていなかったぞ」

 

 

 そこにはメレンでベル達と戦った、【カーリー・ファミリア】のLv.6の頭領姉妹の一人、強敵のアマゾネス。

 

 バーチェ・カリフが、ベル達の助太刀として参上した。

 

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