ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

42 / 47
副題 「『蠱毒の王』vs『偽る者』」

報告
言い忘れていましたけど、『偽る者』の方はオリキャラのつもりです。
また、「ソーマ」の回で「三日月と盃のエンブレムを持つ」という文を加えました。
そして今回も長いです。


テルスキュラが産んだ強さ!

 後発組として出発した僕達は道の途中で、かつて館を襲ったあの襲撃者の一人、自称エインと名乗る者と遭遇してしまった。

 

 相手の挑発もあって襲い掛かるが返り討ちにされ、僕達はピンチに陥ってしまう。

 

 もはやこれまで……という所で、バーチェさんが助けに来てくれた。

 

 相手は警戒して距離を取り、その間に僕はポーションで傷の回復をしている。

 

 

「…どうやらギリギリだったようだな。お前が無事でよかった」

 

「バーチェさん…」

 

 

 バーチェさんは僕に話しかけ、安堵の声が出ている。

 

 口元がベールマスクで覆われているけど、大分息が荒げている事が簡単にわかる。きっと全力で走ってきたのだろう。

 

 もしかしたら、最初は『戦争遊戯』の事で応援の言葉を送ろうと思っていたかもしれない。

 

 

「お前は私を倒したんだ。例え美味しい所だけ持って行ったとしても、そんな簡単にやられては私の立つ瀬がない」

 

「申し訳ございません!」

 

「待て、叱りに来たんじゃないんだ。そんなすぐに謝るな」

 

 

 慌てて訂正を求めるバーチェにベルはあたふたしているが、それも束の間で状況を簡潔に説明した。

 

 

「それで、あいつは何者なんだ?」

 

「名前は、自称エインです。『闇派閥』に属する者…、言うならばオラリオの敵です。そして今、僕とカサンドラさんを攫おうとしています」

 

「…成程な」

 

「どうにかしてあいつを…ぅ」

 

 

 バーチェさんは納得したことをよそに僕は立ち上がろうとした所で、体がフラついた。

 

 倒れる前にバーチェさんに抱き止められ、それと同時に「あうっ!?」と何か変な声が聞こえた気がする。

 

 バーチェさんの体が熱く、また鼓動が感じられ、そして早く聞こえた。

 

 見上げれば何故か顔が赤くなっている。…て、それどころじゃなくて!

 

 

「す、すみません。すぐにどきます」

 

「あっ……」

 

 

 ベルは心配しながらそこから離れ、バーチェは一瞬だけ名残惜しそうな顔をした。

 

 だが、すぐに顔色を変えて自称エインの方を見た。

 

 憎き相手を見るかのように。

 

 

「あいつの相手は私がやろう」

 

「…え!? あ、有り難いんですけど、バーチェさんは…」

 

「お前等はもう満足に戦える者はいないだろう? 戦争遊戯も3日後に控えているんだ、今は休んでおけ。大丈夫さ、お前がやられた借りは必ずあいつに返す!」

 

 

 どうやら何か戦闘のスイッチが入ったようである。

 

 確かにここはバーチェさんに任せた方が良い。Lv.6でとても強く、あいつを撃退してくれるだろう。

 

 そのため僕は感謝の言葉を告げながら、有益になりそうな情報をバーチェさんに教えた。

 

 

「バーチェさん。相手の手袋は特殊みたいなもので、その部分は魔法の効果が期待できません。それに、右手から詠唱無しで炎を出すような魔法らしきものを使ってきます。気を付けて下さい」

 

「忠告感謝する」

 

 

 そう言ってバーチェさんは相手の方に進もうとした所で、咄嗟に声が出た。

 

 

「頑張って下さい、バーチェさん!」

 

「ああ、任せろ…。……どうしてだろうな。お前に応援されたら、何故か負けたくないという気持ちが高まった」

 

 

 そう言ってバーチェさんは歩み始めて、自称エインの方に向かっていく。

 

 そして距離が少し縮まった所で足を止め、相手の事を睨み付けて対峙した。

 

 

「さて、待たせたな」

 

「………」

 

 

 その場に緊迫した空気が流れる。

 

 その間に僕は邪魔にならないよう急いでカサンドラさん達の所まで行き、治療の手伝いをしながらその様子を見ようとした。

 

 ルアンやカサンドラさんもまた僕と同じようにして、バーチェさんの戦いを見ようとしている。ただし、手は止めずにポーションやらタオルやら包帯やら着々とこなしていく。

 

 そんな中、カサンドラさんが小声で僕に質問してきた。

 

 

「ね、ねえベル…? どうして【カーリー・ファミリア】のバーチェ・カリフさんと、そんなに仲良くなっていたの…? 私が捕まった後に、何かあったの?」

 

「あ、えーと、あの時戦闘が終わった後、カサンドラさん達を探すときに一緒に行動したりして…。後は、別れ際に少し話したぐらいかな…?」

 

「そう、なの…? でも、どう考えても…?」

 

 

 ベルに聞いてもわからず、カサンドラは全く納得しない感じで首を傾げながらけが人に治癒魔法をかける。そして最低限の治療を済んだ者を次々とまだ無事である馬車の中に運んで、中にあった荷物をどかしてできた空いたスペースに寝かせた。そうしてまた次の人に取り掛かって繰り返していく。

 

 ただしそんな作業をしている中、ベル達の目線は常にバーチェ達の方を見て応援しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けが人の治療を進める白い少年達をよそに、バーチェは戦闘態勢に入っていた。

 

 先程ベルといた時に胸の奥からこみ上げていた熱は、本来の闘争心と混ざり合って強くなっている。

 

 やる気満々で相手を見据え、軽口を叩いた。

 

 

「随分と黒い格好をしているな、お前。オラリオの冒険者とはこうまで違うものなのか?」

 

「…対してお前は間違いなくオラリオの冒険者じゃないな。どこの【ファミリア】だ?」

 

 

 対峙する自称エインは首をコキッと少し鳴らして、邪魔をしてきたバーチェに殺気を放している。

 

 ベル達が見守る中、相手は口元を隠す女をオラリオの外から来た旅の者だと判断していた。

 

 

(オラリオの外はダンジョンがない分、Lv.も上がりにくい…。という事は、Lv.は2か3が大体目安か。さっきの不意打ちの蹴りで過大評価しすぎたな)

 

 

 それなら取るに足らない相手だと結論し、ぶちのめそうと仮面の者も戦闘態勢に入る。

 

 

「しかし、ここで邪魔をするという事は…。覚悟はできているだろうな?」

 

「そう言うお前もな。―――よくもあいつをいじめてくれたじゃないか!」

 

 

 そしてバーチェは掌が上になるよう右手を横に突き出して、詠唱を唱えた。

 

 

「【食い殺せ、―――ヴェルグス】!」

 

 

 右手に禍々しいオーラが包み込んでいく。

 

 そんな褐色の女をよそに、相手は集中力を高めた。

 

 

「…付与魔法か。そんなもんで私と戦うつもりか? そのマスクで隠している気かもしれないが、顔の良さが台無しになるぞ?」

 

「それはどうかな? 仮面で隠しているお前の方が危ないんじゃないか?」

 

 

 相手もまた先程のベル達と戦ったとは別の、かなり練度がある雰囲気を醸し出す。

 

 そして――――――――、両者一気に駆け出した。

 

 

「「はああああ!」」

 

 

 バーチェは殴りにかかり、自称エインは剣を取り出す。

 

 相手はその分のリーチ差で先制攻撃を仕掛けようとし、横に切り払った。

 

 バーチェは走りながら身を引くくしてそれを避け、今度は相手に向かって付与魔法を付けた右手で殴りつける。

 

 自称エインは顔面にむけた高速のパンチを、剣を横に切り払った流れに逆らわずそのまま体を回して何とか避けた。

 

 そのまま交差して、位置が入れ替わるようになる直前に回転しながら腕を精一杯伸ばしてバーチェの背中に斬りかかるが、テルスキュラで鍛えられた歴戦の勘でそれを察し、前回転にジャンプして避ける。

 

 仮面の者は回転した体を止めて体勢を戻し、口元を隠す女は着地してすぐに相手までの距離を詰めた。

 

 自称エインは剣で牽制しようとするが恐れなしで突っ込まれ、剣を躱したバーチェは左ストレートを放つ。

 

 

「…!」

 

「ッ!? 重い…!?」

 

 

 自称エインはそれを腕でガードするが、想定よりも重い一撃に思わず体がもつれるような形で後ろに下がってしまう。バーチェはそれを見逃さずに魔法を帯びた右ストレートを放つが、相手はギリギリ体勢が戻ってそこに合わせて黒手袋を嵌めた拳を放った。

 

 

「「おおお!」」

 

 

 拳と拳が衝突し、ドオンッ! と音が鳴り響く。

 

 ベル達は思わず耳を塞ぎたくなるが、なりふり構わずに必死にバーチェを応援している。

 

 そのまま両者後ろに飛ばされるが、お互い地面に滑りながら勢いを殺す。そしてすぐに自称エインは炎をバーチェに向かって放った。

 

 女はそれを避けて接近し、相手もまた駆けこんでいる。女は蹴りを放つが、相手は体勢を限界まで低くしてそれを避け、そのまま足払いを仕掛けた。

 

 バーチェはジャンプしてそれを躱し、そのまま上から下へ右ストレートを放つ。だが自称エインは横に転がってそれを避け、そのまま右ストレートがドンッッ! と爆発したかのような音を立てながら地面に打ち込まれた。

 

 そのまま転がってすぐに立ち上がった自称エイン。想定以上の相手だと内心驚いている。

 

 そして、バーチェが殴りつけた地面から、変色した煙が立っていた事に気づいた。

 

 

「な…!? まさか、毒だと!?」

 

 

 バーチェの付与魔法の属性が『猛毒』である事に驚愕する。仮面で顔は見えずとも、ベル達から見ればどこか気を引き締めたかのような雰囲気を感じ取った。

 

 逆にバーチェは冷静に相手を見ている事がわかる。その心の余裕に、仮面の者は納得を得た。

 

 

「…成程な。その強さの自信というのはそういう事か。だが切り札であろうその魔法に、この手袋は耐えられるようだが?」

 

「それがどうした? その仮面、魔法を使わなくてもすぐに破壊できるぞ?」

 

「……私の自分ルールにも例外はあってな。その該当となったお前は、どうやら本当に殺されたいようだな!」

 

 

 そう言い放つと、先程とは別次元の速さで再びバーチェに向かって行く。

 

 小手調べは済んだ。今度は――――本気だ。

 

 あと一歩で剣先が届くかという所で、まず右手を突き出して高速の炎雷を出した。女は右に避けるが、自称エインはそれを見越して剣で斜めに切り下げる。だがその剣先がギリギリ届いておらず、それをわかっていたバーチェは念のため後ろに避けようとした。

 

 

(届かない…ウッ!?)

 

 

 後ろに避けてから突っ込もうとした所で、左肩に激痛を感じた。自称エインは故意に剣を手から抜けて前に投げたような形で、攻撃を無理矢理届かせたのだ。もし後ろに下がってなかったら顔面に直撃しており、絶命していた。

 

 剣先が肩を貫通しており、思わず痛みで集中力が途切れかけた所で自称エインは一気に畳みかけるよう拳を振るう。

 

 

「フッ!」

 

「ウグッ!?」

 

 

 クリーンヒットをもらい、そのまま拳の連撃を浴びせられる。さらに一発一発が重い拳が左肩を中心に狙われるも、バーチェも負けじと意地を見せる。

 

 

「ガァ!? グウゥ!? この…舐めるな!」

 

「グァ!? …お前、一体何なんだ!?」

 

 

 鈍い音が鳴る中、バーチェは拳や蹴りを入れた。相手は毒を纏う右手を必死に払うか手袋をした手で受ける。仮面に向かう攻撃は必死にガードをするが、他の部位には攻撃が入っていく。そんな状態でも両者共に近距離で戦い、もはやお互い鈍器で殴られているかのような感覚に陥るがお構いなしと攻撃を続ける。左肩から血が流れ続けるが、それでも左拳で相手を殴っていく。

 

 メレンでティオナと戦った時やテレスキュラでも経験していた殴り合いに身を投じ、これでもかというぐらい拳や蹴りを入れ続けた。相手もバーチェに拳を入れ、女は吐血を出しながらも相手を仕留めようと果敢に立ち向かっていく。次第にバーチェは防御をせずに攻撃のみにきり変わって、相手に襲い掛かった。

 

 その執念じみた攻撃は、相手の手数より多くなり始める。

 

 そして両者一歩も引かない中、致命的になりかねない攻撃を防御しようとする相手が少しずつ押され始めた。

 

 不利になりかけてきた流れを止めようと、自称エインは雄叫びを上げる。

 

 

「グゴォ!? ぐ、おおおおおおおお!? これならどうだ!」

 

「…!」

 

 

 殴りにいった右手から、炎雷が至近距離から飛び出す。

 

 褐色の女は左に避けるが、それを予測していた自称エインは左の裏拳を既に出しており、目の前まで迫っていた。

 

 

「ガハッ!?」

 

「…ガッ!?」

 

 

 バーチェはそのまま喰らうが、タダではやられない。

 

 その直前に毒の魔法を帯びた右拳を相手の左脇胸に叩き込んだ。

 

 お互い横に反対方向へ飛ばされるが、地面を滑らせながら勢いを殺して着地を果たす。

 

 

「……フッ…」

 

 

 あれだけのラッシュで一発も決められなかったが、ようやく毒を帯びた拳が相手に入った。

 

 裏拳によってバーチェのベールマスクが取れて口元が見えてしまうが不敵に笑っており、相手の方は悶絶していた。

 

 

「ガァアアアアア!? 何だこの毒…!? こんなに効くのか…!?」

 

 

 フードごと毒を打ち込まれた左脇胸を抑えてその場にのたうち回る自称エイン。黒フードに毒が染み込んで、その部分が変色している。

 

 相手が苦しんでいる間にバーチェは痛みをこらえながら左肩から刺さっている剣を抜き、取れたベールマスクを拾ってそれを傷口の部分に縛り、出血を抑える。

 

 そして仮面の者は毒の痛みをどうにかして和らげようと最小限にまで抑えた火力で熱消毒しようと試みる。

 

 いざ実行してみたが、全く痛みが引かない。結局あきらめ、必死に我慢する事にして立ち上がった。

 

 

「私の毒は骨まで染みる猛毒だ。そんな簡単には回復しないぞ?」

 

「フーッ、フーッ…!」

 

 

 息遣いが荒くなり、仮面の奥からバーチェを睨み付ける自称エイン。

 

 再び激突しようかという雰囲気の中、仮面の者は不意にベル達の方に面を向けた。

 

 

「…え、まさか…!?」

 

 

 観戦していたベル達が嫌な予感をする中、自称エインはバーチェの方に向き直す。そしてバーチェに向かって大きい炎を出した。

 

 

「…! まずい!?」

 

 

 バーチェもこの後の事態に察したか、炎を避けた後すぐにベル達の方に向かって走り出す。だが数瞬分、相手の方が先に駆け始めている。

 

 ベル達は慌てて逃げようとしても追いかける側の方が圧倒的に速く、手を伸ばせばギリギリ届くかという距離となった時。急に方向転換して、強敵の相手の方に突っ込んだ。

 

 

「えっ!?」

 

「…ッ!?」

 

 

 ベル達が驚愕とする中、バーチェは駆け足のまま反射的に右拳を相手に打ち込もうとするが避けられてしまう。

 

 そしてバーチェが伸ばした右腕を掴んで、お互いの勢いを利用して強烈な膝蹴りを放った。

 

 

「バーチェさん!?」

 

「ガ、フゥッ!?」

 

「油断したな……グゥッ!?」

 

 

 ベルの悲鳴が出る中、ゴォッ! と強烈な音が鳴り響く膝蹴りがバーチェの腹に入った所で、その膝から激痛が生じた。褐色の女は膝蹴りを喰らって吐血するも、お返しとばかりに至近距離から左フックを相手の腹に打ち込んだ。

 

 そこもまた、仮面の者に強打による痛みを含めた激痛が走った。

 

 

「グ、ゥウウウウ!? な、何だ!? 何が、起きたんだ…!?」

 

 

 打撃以外の痛みを感じる自称エインは思わず後ろに下がって距離を取ろうとする。

 

 だがそんな簡単に問屋は降ろさず、バーチェはどうせ離されるなら、と後ろに飛ばれる直前に強烈な蹴りを相手に叩き込んだ。

 

 

「ゴフッ!?」

 

 

 横に吹っ飛ばされ、着地が出来ずに転がり込む。毒に浸された部位の痛みにより、精神的に余裕が全く見られない。

 

 蹴られた部分もまた打撲以外の激痛が走る中、自称エインは必死に立ち上がってバーチェの方を見た。

 

 そして、考えたくなかった光景を目にする。

 

 

「…そんなのありか…!?」

 

 

 バーチェの付与魔法が右拳のみのならず、全身に魔法が包みんでいた。それは毒の鎧として見え、先程よりも毒をもらいやすくなった事実。こんな手が向こうに残っていたことに、怒号が出てしまう。

 

 

「全身にも可能だと!? 毒の付与魔法が!? 反則だろう!?」

 

「お前が言うな」

 

 

 詠唱無しで炎雷を出す自称エインへ、バーチェの鏡見ろ発言に「うんうん」と頷いて賛同する白い少年達。

 

 バーチェに怒りの炎雷を放つも、あっさり回避されてしまう。

 

 その隙に剣の所まで駆け足で行って拾い上げるが、先程とは打って変わって慎重になっていた。

 

 明らかに距離を詰まさないような立ち回りをしており、バーチェが突っ込んでも必死に右か左かに移動して、剣で斬りつけようとする。

 

 そうしている内に、ようやく動きを予測でき始めた褐色の女は、相手の隙をついて攻撃の間合いに入った。

 

 だが、相手はそれを想定済みで狙っていた。

 

 中々攻撃範囲に入れなかったバーチェだったが、相手に強烈な蹴りを叩き込もうとする。

 

 それを、自称エインはどうにか左拳で受け止めた。

 

 

「…!? 読まれていたか!」

 

「ッ…!? だがこれで!」

 

 

 蹴りの衝撃に耐え、そしてそのままバーチェの足を掴んで懐に入った。

 

 バーチェが拳を握って返り討ちにしようとする直前。

 

 自称エインが先にバーチェの腹に右拳が叩き込まれ、さらにそのゼロ距離から巨大な炎雷が放たれた。

 

 

「グ、ハァッ!?」

 

「あ…!?」

 

「私の勝ちだ!」

 

 

 バーチェがモロに炎雷を喰らい、遠くで青ざめるベル達。

 

 自称エインは勝利を確信し、ベル達が何か解毒薬でも持ってきてないかと馬車の方に向かおうとする。

 

 

(…! まだだ!)

 

 

 バーチェは吐血しながら後ろに飛ばされ、腹を焦がしながら煙を立てて地面に叩き付けられるかと思いきや、空中で身を捻って着地した。

 

 ベル達はその光景を見て顔色を戻し、倒れる音がしなかった事に不審に思って視線を戻した自称エインは、バーチェが意識を失わずに立っている事に驚愕する。

 

 

「な、何故だ!? 直撃したぞ!? そのダメージで耐えられるはずが…ガァア!?」

 

「そんな手袋なんかしている癖に、大分慎重だったな。だがすぐに終わらせてやろう!」

 

 

 相手の動揺を見逃さず、渾身の右拳を相手の腹に喰らわせた。

 

 自称エインはそれによって黒フードに毒がさらに染み込んでいき、体もまた毒で蝕んでいく。

 

 

「グガァアアアアアアア!? こ、のぉ…、化け物がぁああ!」

 

 

 毒で激痛に襲われ悲鳴をあげながらも剣で斬りつけようとするが、バーチェが着ていた服に掠ったのみに止まってしまう。

 

 対するバーチェはそしてカウンターとして仮面に叩き込もうとするも、相手は意地となってそこだけは死守する。ただし他ががら空となっており、そのまま勢いに乗った回し蹴りを放った。

 

 

「ッ!!」

 

「ガハァッ!?」

 

 

 自称エインはそれをモロに喰らって剣を落としてしまう。必死に反撃して何発か黒手袋を嵌めた拳を喰らわせるも、お返しとばかり何発も浴びせられ、その分毒も貰われてしまう。

 

 黒フードの頭部から下がほとんど毒によって変色して、黒い部分がほとんどない。もはや一つ一つの動作が毒によって激痛が走っていた。

 

 

「どうした!? 私がこの状態でも、素手で殴りにかかった馬鹿を知っているぞ!」

 

「それは本当にただの馬鹿だろ!?」

 

 

 どんな冗談だ! とばかり吠える自称エインだが、精神力と体力の限界が近くなりつつある。

 

 腕も上げるだけで精一杯だが、そんな相手をバーチェは容赦なく殴る。

 

 恐怖の二文字が仮面の者の頭の中によぎらせ、必死に距離を取ろうとするも、すぐに差を詰めてくる。

 

 こうなったらいっその事…! と自称エインは殴られた反動を利用して、後ろに大きく飛んだ。

 

 瀕死になりながらもどうにか大きく距離を取り、仮面の奥からバーチェを見据える。

 

 そんな中、バーチェが一度動きを止め、戦闘の最中で気になっていたことを質問した。

 

 

「お前……、一体何なんだ?」

 

「……何の事だ…?」

 

 

 右手を構える自称エイン。もはや虫の息であるが、とぼけた様子で返答する。

 

 

「……お前のその戦闘スタイル。昔見た事がある」

 

「……何だと? お前、本当に何処の【ファミリア】に所属しているんだ! お前とはここで初対面の筈…」

 

「それに殴った感触…。どうも違和感を感じる」

 

「…ッ!」

 

 

 そう聞かれた瞬間、炎雷を放った。

 

 バーチェは避けるがその一回分の動作が遅れるため、相手にその一回分だけ先に動かされてしまう。

 

 だが、ここで連戦した影響が出始めた。

 

 

「チィ! ここでツケが回ってきたか! ストックがもう…!?」

 

 

 バーチェの口を封じようとするがすぐに状況を顧みて、剣を拾いながら褐色の女までの距離をさらに広げる。

 

 そして葛藤の末、苦渋の決断かのようにこの場をどうするべきか結論を出した。

 

 撤退の意思が、心の中で強くなっている。

 

 

「ハァー、ハァー、ッ…。……クソッ、仕方ない。ここは引くか」

 

「何?」

 

「「「え?」」」

 

 

 殴りにかかろうとしたバーチェの足が思わず止まり、ベル達もまたその言葉を聞いて声が出てしまう。

 

 

「たちまちあの白髪少年の強運には驚かされるな。あの時の回避もそうだが、まさかラキアが財政難に陥るとは…。企てていた襲撃も中止となって、保険も掛けていた【ソーマ・ファミリア】がこうして『戦争遊戯』の相手となってしまうのか…。今もこの毒女が邪魔をする。頭を抱えたくなるな」

 

 

 自称エインは愚痴を吐いた後、毒の痛みにこらえながら仮面をベル達の方向に向けて歓迎の意思を見せる。

 

 

「こっちはまだお前等二人の事を諦めていないぞ。『闇派閥』側に来たかったら、いつでも歓迎してやる」

 

 

 自称エインは僕達にそう言い放ち、そのまま背を向けて逃げるように走り去って行った。

 

 こうして、僕らと自称エインとの戦争遊戯前の遭遇戦は幕を下ろす事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーチェは走り去った相手を追わず、見えなくなるまで確認してからようやく魔法を解いた。

 

 

「フウ……」

 

 

 ため息をついて、ベル達の方へ向き直す。

 

 まだまだ余裕の態度を見せていたが実は見かけ倒しで、余裕など全く残ってなかった。

 

 カサンドラ達は【アポロン・ファミリア】の後発組のけが人全員分の最低限の治療を終え、尚且つ全員無事だった馬車に運んで寝かしている。今まで隠れていた御者の者達も出てきて、その人達の対応に当たったルアンを残してベルとカサンドラはバーチェの所に向かった。

 

 そしてカサンドラの治癒魔法でバーチェの傷が癒えていき、何回も魔法をかけてようやく動けるようになった。腕を回して自分の動きを確認する。

 

 カサンドラさんが魔力切れ寸前となってマジック・ポーションを飲もうとしている傍ら、僕はバーチェさんに感謝の言葉を告げた。

 

 

「バーチェさん、本当にありがとうございます! ここまで来てくれて、しかも僕達を助けてくれて…!」

 

「気にするな…!?」

 

 

 ベルに感謝されて、バーチェは突然胸の高まりを感じ始めた。

 

 口元をすぐに肩の傷口を包帯代わりで塞いでいたベールマスクで隠すが、緩みが止まらない。むしろとても喜んで感激しているような気がする。

 

 必死に冷静になろうとしているが、全く収まらない。

 

 

「くっ…!? お前は私の天敵なのか!?」

 

「ええ!? どうしたんですか突然!?」

 

 

 ベルがいた時に再び発生した体の異常状態の原因が、バーチェには分からない。

 

 それどころか顔が赤くなっていき、これは一体何なんだ!? と混乱する精神。

 

 情緒不安定になりかけるバーチェに、ベルは逆に心配になり始めてしまう。

 

 

「だ、大丈夫ですかバーチェさん!?」

 

「これは駄目かもしれん…」

 

「そ、そんな…!?」

 

 

 バーチェさんが手で胸を抑えている。

 

 それを見た僕は、もしかして何かが詰まってしまったのでは!? と思ってバーチェさんの肌がむき出しの背中をさすった。すると…。

 

 

「はうっ!?」

 

 

 バーチェさんの口から黄色い声が出た。どうやら何かしらの効果があったようだ。

 

 このままやり続ければよくなるのでは? と思ったけど、すぐにバーチェさんから止められてしまう。

 

 

「ま、待て!? 何故か逆に熱い何かが大きくなり始めたぞ!? 何をやったんだ!?」

 

「え!? いや僕は体内に何かつまっているのかと思って、バーチェさんの背中をさすっただけで…」

 

「背中をさすっただけで…!? …いや待て。ステイタスか!? 私のステイタスに何か妙な【スキル】でも付いたのか!? それがお前と何かしらの効果が働いているのか!? クッ、カーリー様に確認してもらわねば…」

 

「いや、でも更新しないと新しい【スキル】とかは発現しないんじゃ…?」

 

「そ、そういえばそうだな…。なら、この原因は何だ!?」

 

 

 バーチェは己の体が起きている異常症状の原因を追究しようにも、ベル関連以外の条件に心当たりがない。

 

 バーチェは顔を赤くしながら頭を抱え、ベルはとりあえずポーションを与えるのだった。

 

 そんな中、魔力切れ寸前だったためマジック・ポーションを飲んで回復したカサンドラは、ジト目でベルとバーチェのやり取りを見ていた。

 

 

(…やっぱりそれって、そういう事だよねぇ~~~……)

 

 

 カサンドラはバーチェの異常現象の正体を察している。そしてその正体はカサンドラも一緒のもので…。

 

 

(と、いう事は……! こ、こんな強くて顔も美しくてスタイルも良い人が、私の競争相手に加わるの!? アミッドさんもいるのに、勝ち目がないよ~~~~~~……)

 

 

 カサンドラが悲観している傍ら、ベルからくれたポーションを一気に飲むバーチェだが、全く効果がないどころか余計に体が熱くなってしまった。

 

 自分の身に何が起きているのか全くわからず、困惑を繰り返している。

 

 ベルもまた何が起きているのかわからず、カサンドラに助けを求めた。

 

 

「カ、カサンドラさん!? バーチェさんの様子が何か…!?」

 

「あ、大丈夫。状況はわかっているから。これは病かな、うん。私じゃ治せないよ。アミッドさんも無理だと思うよ~~~?」

 

「ええ!? そんなに深刻そうな病なんですか!?」

 

「いや、待て。それにしてはものすごく遠い目をしていないか?」

 

 

 さらっと重い(想い)病気判定をされて戸惑いを隠せないベルだったが、当の本人のバーチェはカサンドラの対応に疑問を覚える。

 

 

「とりあえずそれは置いといて、バーチェさんに聞きたいことがあるのですけど…」

 

「ん、何だ?」

 

「え、ちょっ、そんなに簡単に置いて良いんですか!?」

 

 

 謎の病の話が置かれてベルは焦るが、質問の内容でベルもまたそちらに切り替わった。

 

 

「あの、さっきの戦闘の終盤のやり取りで気になったんですけど、カリフさんってあの自称エインとどこかで会っているのですか?」

 

「…あ、そういえば!」

 

 

 カサンドラさんの質問で、僕もまたバーチェさんと自称エインのやり取りを聞いて疑問に思っていた。

 

 戦闘スタイルを見た事があるという事は、自称エインの正体に心当たりがあるって事…?

 

 僕らはそれに期待して、オラリオに戻ったらそれを中心としてギルドに調査してもらおうと思ったけど、そんな簡単ではなかった。

 

 

「いや、わからない。正体までは見当もつかない。ただ、何か既視感を覚えたというか…」

 

「そう、ですか…」

 

 

 カサンドラさんは少し気落ちしたような雰囲気を見せる。

 

 でも、よくよく思い出したら相手は初対面だと言っていた。

 

 戦闘方法を知っていたとしても、必ずしもそれをやる人が同一人物とは限らない。

 

 僕はそう思っていると、ルアンがこっちの方に来ているのが視界に入った。

 

 

「おーい、話はつけたぞ! どうにか無事だった馬車で、このまま『シュリーム城』まで行ってくれる事になったぞ!」

 

「ほ、ほんとに!?」

 

「良かった…! 先発組として出発した皆や、それより先に行った【ガネーシャ・ファミリア】の人達が心配ですから、早く行きましょう!」

 

「おう! そうだな!」

 

 

 僕達は馬車の方に行こうとした所で、僕はバーチェさんの方を見た。

 

 すると、少し名残惜しそうな顔で僕の方を見ている。

 

 

「どうやら、私が出来るのはここまでのようだな」

 

「バーチェさん……」

 

「いや、元々様子を見るだけだったんだ。会話までできたのは僥倖なのだろう」

 

「いえ、そんな事はないです! バーチェさんが来なかったら、僕達は危なかったです!」

 

 

 自称エインを撃退するという、僕達にとっては十分すぎるほどの仕事をしてくれたバーチェさんに、改めて感謝の言葉を送る。

 

 どうにか顔色を戻してくれたバーチェさんは、僕らに応援の言葉を送ってもらった。

 

 

「戦争遊戯、頑張れよ」

 

「はい! 必ず勝ちます!」

 

「その気概を、戦争遊戯の時にも見せてくれ」

 

「わかりました! しっかり見て下さい!」

 

「うっ…!? あ、ああ。楽しみにしている」

 

 

 バーチェさんは顔を赤くして胸を抑えるけど、僕達から顔を背かなかった。

 

 そのまま僕達は馬車に乗って、見送ってくれるバーチェさんに手を振りながら笑顔で応える。

 

 そうして僕らはバーチェさんと別れ、再び『シュリーム城』へ進んでいくのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。