ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか   作:七篠ロキ

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ほ、報告…。
2ヶ月間、音沙汰無しで申し訳ありません。
ちょっと精神的に、その、ノイローゼに陥ってしまって…。
抜け毛がやばかった。ストレスって怖い。
解決策が見つからなかったら、どうなっていたのやら…。

そして今回めっちゃ文字数多いよー。
新しいオリキャラも出るよー。


到着

 ベル達がバーチェと別れた後。

 

 自称エインはバーチェから逃げるかのように闇派閥アジトに辿り着いた。

 

 だがバーチェの毒を貰っているため、今もなお苦しんでいる。

 

 体中が苦痛となっており、もはやいつ倒れてもおかしくない状態であった。

 

 そんな中、ようやく闇派閥のアジトに辿り着いたのは意地というべきか。

 

 一瞬だけ安堵の気持ちになるが、猛毒の痛みによってすぐに消え失せてしまう。

 

 

「グ…、ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!? クソッ、ストックが充分あれば…! あの女、覚えていろ……!」

 

 

 現実問題の方に目を向けられ、声を出さずにいられない自称エイン。

 

 バーチェに恨みを吐きながら毒の痛みに耐え、アジト内を必死に歩く。回復薬や解毒薬などが多くある武器庫を目指すが、道の途中で何度も倒れそうになる。

 

 ギリギリで踏ん張るが、もはや一刻の猶予もない。

 

 そんな状態まで追い詰められた面妖の仮面の者であったが、治しきれなかった場合の可能性が頭によぎった。

 

 

(もし治しきれなかったら…。最悪の場合、新しくこっち側に加入した本好きの手を借りないといけないのか…。いやまずはそいつを見つけるより、場所が分かっている解毒薬を使うのが先だな)

 

 

 時間が惜しい。そいつがここにいない可能性がある。それなら解毒薬で癒す方がまだ間に合う。

 

 自称エインはそんな事を考え、壁伝いしながら進んでいく。

 

 意識が飛びそうになりながらも地道に進んでいく。

 

 このまま終わる訳にはいかん!と踏ん張り、ようやく目的の場所に辿り着いた。

 

 そのまま中に入るが、種類はかなりある。どれが一番効果があるか、判別がつかない。

 

 周りを見渡し、とりあえず片っ端から解毒剤を一つずつ己の体に浴びた。

 

 浴びた所から、紫色だったフードも元の黒色へと戻っていく。

 

 治せないという事はならなかった。大丈夫だ。大量にある。

 

 次々と手に取って体に掻けた。液が何度も地面にこぼれるが、お構いなし。

 

 解毒はされていく。痛みも引いてきた。かなり治療薬を消費する事になるが、このままいけば完治するだろう。

 

 自称エインがそう思えて次の解毒薬に手をかけようとした時、不意に光の粒子に包まれた。――――治癒魔法だ。

 

 

「何をしているんだ? そんなに解毒薬を浴びて?」

 

 

 声を掛けられ、バッッ! と後ろを振り返る。

 

 そこには本を持った男が立っていた。微妙に赤が混じっている茶色の髪の持ち主で、年は20代前半ぐらい。目はドス黒く、復讐に燃えているかのような表情をしている。

 

 自称エインは声を出した主を見て、舌打ちした。

 

 

「チッ。お前か、新入り」

 

「……前に自己紹介はしたぞエイン……………、いや、確か…………………、自称エイン。己の名はライバーク・アスピオスだと」

 

 

 本を手に持っている男―――――ライバーク・アスピオスは仮面の者の名前に詰まらせながら、自分の名前を教える。そしてその姿を眺め、ため息を出した。

 

 

「はぁ、何やってんだが。己の詠唱すら聞こえない程、追い込まれていたとはなぁ。声を掛ければ一発で治してやるのに」

 

「ほお? 流石は元【ディアンケヒト・ファミリア】の一員だな。これを魔法一回で癒せたなら、さぞ人々に感謝されたのだろう?」

 

 

 自称エインの言葉を聞いた時、ライバークから殺気が飛び出した。このまま視線だけで、相手を殺せそうなほどである。

 

 

「…それは嫌味か? 治療以外の事が原因で脱退された、不条理に合ったこの己の?」

 

「そう怒るな新入り。これでも評価は高いぞ?」

 

 

 解毒薬を浴びながら、微塵も思っていない事を口にする自称エイン。

 

 ライバークはその事に気づいているのか、余計に相手を睨み付ける。

 

 両者険悪な雰囲気になるが、先に自称エインの方が視線を切った。

 

 何十本目かの解毒薬を浴びて、ようやく痛みが消えた事で腕を動かして確認する。

 

 そして手でシッ、シッ、と本を持つ男に向けて、ここから離れるようにジェスチャーするのだった。

 

 

「さっさとここから去れ。見世物じゃないぞ」

 

「…確かにな。この本の続きを読みたいし」

 

 

 ライバークも手に持っている本に視線を移して、同意する。

 

 自称エインはついでに剣の新調をしようかと見渡そうとした時、ライバークが持っていた本が視界に入った。

 

 

「ん? おい待て。何だその本は?」

 

 

 本に指を差し、男は「興味があるのか?」と表紙を見せる。

 

 

「これの事か? タイトルは「英雄伝戦闘狼人」。あの「アルゴノゥト」に登場する狼人、ユーリの物語だ」

 

「……著作者は誰だ?」

 

「さあな。タイトルと内容しか書かれていないという、珍しい本だ。たが読んでいると、嘘ではないかのように書かれているんだよ。まるで本当にそいつの事を見てきたかのように」

 

「…それは明らかに誰かがデタラメに書いたものだろ。お気楽な奴だ」

 

 

 すぐに興味を失くした自称エインはため息をついて、ライバークが再び睨み付ける中で考えをすぐに切り替える。

 

 

(こいつは放っておくとして…、やはりしばらくは動きにくくなるな。ラキア王国の予備として【ソーマ・ファミリア】を暴れさせ、そこを対処させている隙に【ディアンケヒト・ファミリア】をあの馬鹿達と一緒に襲うつもりだったんだが。そこがすぐに終わったなら【アポロン・ファミリア】にも襲う手筈とかはしていたが、こうも計画が空回りするのか)

 

 

 回復薬とかの補充もあって、あわよくば【戦場の聖女】を殺せば、オラリオ側は回復の大黒柱を失う事になる。そうなれば、オラリオ側は簡単に戦場へ復帰しにくくなる手筈だった。

 

 だがオラリオを留守にしていた間に、状況が大分変わってしまっている。

 

 【ソーマ・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】と『戦争遊戯』をする事となった。攻城戦で、団員数も質も【アポロン・ファミリア】側が上。順当にやればまず負ける。負けたら【ソーマ・ファミリア】は罪を償う、つまり罪を犯した奴は全員、下手したら幽閉される。

 

 一応【ソーマ・ファミリア】の重要度はそこまで高くないため、簡単に切り捨てられるが、少し勿体無い。

 

 

(それに、【アポロン・ファミリア】のあの二人をどうやってこっち側に来させるか考えないとな…)

 

 

 自称エインは、今度はお気に入りのベルとカサンドラを『闇派閥』に加入させるか考える。

 

 強引に連れ出すという一番現実的であった方法は、失敗した。

 

 二人の意思は固い。崩せる気がしない。

 

 

(もし『戦争遊戯』で【アポロン・ファミリア】が【ソーマ・ファミリア】に負ければ、【ソーマ・ファミリア】の悩みはなくなって、なおかつあの二人を引き抜けば大分楽になるんだがな…!?)

 

 

 と思った所で、不意に嫌な予感をした。

 

 未だに睨み付けているライバークの方を見て、質問をした。

 

 

「…そういえば、【ソーマ・ファミリア】の方の支援はどうなっているんだ? 誰が主導だ?」

 

「あ? …ああ。タナトス様が勝手にやった、と聞いているぞ」

 

「……………………タナトスか。………まだマシの方だが、あまり期待できないな………。ヴァレッタ辺りは何もしていないのか?」

 

「特にそういう話は聞いてないが。ただ、タナトス様はイシュタル様に紹介したり、武器を与えたりしていたと聞いている」

 

 

 神が話に絡むと少しだげ礼儀正しくなるライバークの発言に、仮面の者には引っかかった単語があった。

 

 

「待て。武器は何を渡したんだ? ………まさかだと思うが、『宝玉』とか何て言わないよな? ただでさえあの…」

 

「いや、どうだろうな。少なくとも己が見たのはナイフ2振りだ。それ以外は知らない」

 

 

 すぐに本を持つ男は仮面の者の言葉を被せ、それは流石に無いんじゃないかと訂正させる。

 

 対して仮面の者はナイフの事で少し考え、頭の中に思い当たるものが浮かんだ。

 

 

「ナイフ…。ふむ、成程な。いつも暗殺者たちに持たせているアレか」

 

 

 確かにそれなら可能性は生まれるな、と思った所で、今度はライバークの方が質問した。

 

 

「なあ、あのナイフって何なんだ? 不利な状況をひっくり返せる程の、特殊な効果があるようには思えないんだが?」

 

 

 その質問に自称エインは内心唖然としたが、すぐに納得する。

 

 あのナイフは実物どころか情報そのものが表に出回っていない。

 

 それなら、加入してから日の浅い新参者のライバークが知る由もなかった。

 

 

「……ああ、そうか。お前は知らないんだったな。あれはポーションがある今の世の中でも、深い傷をつけられたら本当に最期。血を流し続け、モンスターでも回復することが出来ない代物だ」

 

「…!? そんなナイフがあるのか!?」

 

「まあ、あくまで勝てる可能性が0ではなくなったというぐらいだがな」

 

 

 自称エインは鼻で笑うが、まさに殺害するために作り出したかのような武器の効果に、思わず新参者の男は戦慄を覚えてしまう。

 

 そして次に、震える男はナイフの事に恐る恐る別の質問をした。

 

 

「…せ、製作者は誰なんだ? いや、そもそもその武器に名前はあるのか?」

 

「製作者はバルカ・ペルディクスという、年取って白髪になった男。もう会っているかどうかは知らんが、前髪で目を隠していて、白くて不健康そうな奴がそれだ。後、そのナイフの名は――――――――――『呪道具(カースウェポン)』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 ベル達がオラリオから出発してから1日が過ぎた。

 

 オラリオは『戦争遊戯』が近くになり、鳴りを潜め始めている。

 

 ダンジョンに挑む冒険者の足取りも普段と少なく、外に出かけている者も若干少ない。

 

 神アポロンは、そんなオラリオに外出していた。

 

 眷属が皆『シュリーム城』へ出てしまっているため、暇つぶしとして散歩をしている。出かける直前に通り雨が降ったが、すぐに晴れてくれた。神にとって暇が天敵なのだ。

 

 

「むっ! あれは…!」

 

 

 その散歩道の途中で売店の売り子をしている、見覚えがあるツインテールにロリ巨乳の体型をする女神を見つけた。

 

 

「いらっしゃいませぇ! …、て!?」

 

「おお! やはり我が愛しのヘスティアじゃないか! なぜこんな所に売り子をやっているんだ?」

 

「げぇ!? アポロン!? 君もジャガ丸くんを食べるのかい!?」

 

 

 現在ジャガ丸くんの売店でバイト中のヘスティアに出くわしたアポロン。男神は喜んでいるが、女神は顔を青く染めて引いている。それでも頑張って笑顔を作り出すヘスティア。『バイトの神様』という異名は伊達ではない。

 

 

「いや、私は特にいらないさ! 何せ暇だったからな! 館に戻っても眷属が誰もいないという寂しさをなくすためにね!」

 

「そうなのかぁ。でも僕も眷属はまだいないから、気持ちはわからなくはないけど…」

 

「そうだ! ヘスティアも我々のホームに泊まらないか!? そうなれば数日間限定だが、誰もいない館に二人きりの屋根の下になるぞ!」

 

「ゼッッッッッッッタイに、お断りだぁああああ!」

 

 

 ヘスティアが怒声を鳴り響かせ、ゼェー、ゼェーと息を乱れる。対してアポロンは断られたことでショックを受けているが。

 

 ガッカリした様子でその場を去ろうとしたアポロンだが、ヘスティアが妙に疲れ切って突っ伏している様子を見て、思わず足を止めた。

 

 

「ん? 何か疲れている様じゃないか!? 一体何があったんだ!?」

 

「誰の、せいだぁあああ!! 昨日の件もあったのに、君が追い打ちをかけたからだぁあああ!」

 

 

 鬱憤がたまっているヘスティアはアポロンに、早くジャガ丸くんでも買って去れ!と思い始めるが、アポロンはヘスティアの発言に疑問を持ち始めてしまう。

 

 

「いや~、はっはっはっは! それはすまな……ん? 昨日の件?」

 

「昨日、ヘファイストスが珍しく荒れていてさ。僕がバイト中だったからすぐになだめさせたけど、大変だったんだよ!」

 

 

 他にもバイトを掛け持ちしているヘスティア。その内の一つが神友であるヘファイストスの所で売り子をやっているのだが、そこでトラブルが二日連続で発生していた。一昨日は武器商品の盗難だったが。

 

 

「あいつがか? 珍しいな、何があったんだ? 今更顔の事でとにかく言われるのは慣れていると思うが?」

 

 

 ヘスティアやヘファイストスと天界でも同郷であるアポロンは、ヘファイストスの眼帯の裏に隠されたアレに触れられたのだろうと思ったが、実際は違った。それも、斜め上の方向に。

 

 

「いや違うよ! 何でも丁度いなかった時に、ヘファイストスの部屋にまでコソ泥が入っていたらしくてさ。そこで作品が盗まれたって言っていたよ。時間的に考えれば一昨日ぐらいに」

 

「ヌオォ!? 大事ではないか!?」

 

 

 【ヘファイストス・ファミリア】が製作する武器は一級品が多い。特に神ヘファイストスの部屋にあるものは、眷属が神にささげる物であるから生半可な武器は絶対にない。金額で判断したら一品で10桁まで届くだろう。中には非売品も絶対にある。

 

 そこの物が盗まれたというなら、確かに大事だ。

 

 

「それで、その犯人は捕まったのか!?」

 

「それが分からないんだ。誰も怪しい者を見ていないらしくて。侵入そのものはできても、誰にも見られずヘファイストスの部屋まで行ける何て、到底無理だと思うんだけど…」

 

 

 首を傾げるヘスティアに、アポロンもまた「う~む」と考える素振りを見せる。「僕は透明人間の仕業だと思うよ!」と直観しているヘスティアは宣い、アポロンもすぐに方法が思いつかなかったため、ヘスティアが考える犯人像に同意しようとした時。

 

 そこでまた、予想外の神物に出会う事になった。

 

 引きこもりで有名な、前髪で相手から眼が見えない。しかも酒造りが好きな、今回『戦争遊戯』においてアポロンの対戦相手の男神。

 

 ソーマもまたアポロン同様に、散歩して外に出歩いていたのだ。

 

 

「なっ…!? あのソーマが、外を出歩いている…だと!?」

 

「……アポロンか」

 

 

 道中でばったり出くわしたアポロンとソーマ。バイト中のヘスティアも顔面で驚きを表していて、完全に疲れが吹っ飛んでいる。

 

 一瞬気まずいムードが流れたが、そこは神。そんなものはないとすぐに空気を読まずに世間話になった。

 

 

「い、いや~。ソーマが神酒を造っていないと思うと、何だか新鮮味を感じるな~」

 

「私も同意見だ!」

 

「どういう意味だ、お前等。俺は酒の材料を買いに来ただけだ」

 

「結局造酒につながるのかい!?」

 

 

 ヘスティアのツッコミが炸裂する中、アポロンはソーマに指を指して宣い始める。

 

 

「ふはははははは! だがなソーマ、ここであったが百年目! 今回の『戦争遊戯』は勝たしてもらうぞ!」

 

「それはどうかな? こっちの眷属達は妙にやる気を出しているから、勝つのはこっちになるかもしれないぞ?」

 

「いや、流石に戦力差があるからな。わが眷属達の団長であるヒュアキントスに勝てる見込みはあるのかね?」

 

「おーい、アポロン~。それはやってみなくちゃわからないという物だと思うよ~」

 

「ヘスティアの言う通り。そしてアポロン、それは敗北フラグだ」

 

「わが眷属達は、そんなフラグをへし折ってくれるさ!」

 

「お互いもの凄い勝つ自信を持っているね!?」

 

 

 アポロンとソーマの自信に満ちた声にヘスティアは意外だな~~と思っている。

 

 アポロンはともかく、ソーマには少々不利だと思っているこの『戦争遊戯』。バイト中で耳にした話だと、通常の【ソーマ・ファミリア】は統制ができているとは到底思えない。なのにこの自信というのは、もしかしたらソーマの眷属達は何かしらの切り札を手に入れたのだろう。

 

 まあ、それはそれとしてだが。

 

 

「いい加減営業の邪魔になるから、買うか場所を移動しておくれ~」

 

「ならば買おう!」

 

「ご注文は?」

 

 

 どうにか営業スマイルに戻ったヘスティア。アポロンも試しにおすすめか何かでも買うか! という所で、ソーマはアポロンに尋ねたいことがあった。

 

 

「おい、アポロン。話が変わって聞きたいことがあるんだが」

 

「ん? 何かな?」

 

「あの勝利報酬はどういう意味だ?」

 

「話そこまで変わってなくない!?」

 

 

 話を聞いていたヘスティアは営業スマイルがなくなりながらツッコミを入れ、アポロンはジャガ丸くんを買おうとする手を止めてしまう。2神はソーマの方を向き、ソーマは自力で考えていた事を続けて口にした。

 

 

「これは勘だが、お前の【ファミリア】、ザニスだけが目的じゃないだろ。むしろ、それを足掛かりにして何かを探そうとしている。それは何だ?」

 

 

 そう聞かれてアポロンは一瞬だけ真顔になるが、すぐに高笑いする。ソーマから「何だこいつ…」という目線を向けられるが、お構いなしであった。

 

 

「はっはっは! そこを聞かれては仕方がない。だが、くれぐれも内密にお願いしようか! 何せこれに関しては、ヒュアキントスとリッソスしか知らないからね!」

 

「ああ、いいぞ。それで何だ?」

 

 

 勿体ぶるアポロンにソーマは少しイラッとしたが、我慢する。ヘスティアは最早話について行けず、蚊帳の外に置かれていた。

 

 

「ソーマ。知らないかもしれないが、君の団長は『闇派閥』の連中と繋がっている!」

 

「……何だと?」

 

「だが、我々にとってそれは好都合だ! 私達は奴らに館を襲撃された借りがあるからな! 仕返しを考えていたが、奴らのアジトを探すのに難航していた。しかし、君の団長は奴らと繋がっているのなら、そこを知っている可能性が高いと踏んでいる!」

 

 

 ズイッ、とソーマの正面に立つアポロン。長らく引きこもり生活をしていたせいで色々と事情を知らなかったソーマから見て、アポロンの顔は覚悟を決めている様子である。

 

 

「あの勝利報酬にした理由。確定したなら遠慮はない。罪の償いとして、外から入ってきた侵入経路、及び内側からそこに繋がっている闇派閥のアジトの場所について吐いてもらうじゃないか!」

 

 アポロンが考えた、ザニスを戦場へ誘き寄せるための餌。

 

 このまま雲隠れされたら【アポロン・ファミリア】にとって、この『戦争遊戯』で戦う意味は無くなってしまう。

 

 アポロンにとって本当の勝利は、ザニスを倒し、終わったらその場で捕縛して、オラリオに連れかえって尋問、もとい『闇派閥』のアジトの場所を自白させる事である。

 

 

 神は子が嘘をついているかすぐに判別つくまでしかできない。たとえザニスを捉えても2者択一以上の回答を要求するので、まったく口を開かせないという可能性も生まれる。しかし、『戦争遊戯』なら事前に決めた勝利報酬に敗者は従わなければならない。

 

 つまりアポロンの主張に添えば、ザニスは『闇派閥』のアジトを知っていたら、詳しい場所を正直に話さなければならない。

 

 

「…成程な。そういう目的だったのか」

 

 

 決まった! という顔を見せるアポロンに、ソーマもまた言い分に納得する…筈だった。

 

 

「だが、それは『戦争遊戯』に勝ってからの話だ。こちらが勝った場合、何でも聞いてもらうぞ」

 

「酒造りを手伝え…とでも言いたいのか?」

 

 

 勢いで負けたら何でも聞くと言ってしまったアポロンだが、負ける気なんか全くない。ザニスを引っ張り出すにはそれ相応の報酬を餌にしたつもりだが、ソーマ自身は危うい命令はしないだろうと高を括っていたが、見込みが甘かった。

 

 

「いや、まずはあの子を所望しよう」

 

「あの子…?」

 

「俺の造った酒に酔わなかった、白髪の少年だ」

 

「…何ィ!?」

 

 

 まさかの要求に、思わずアポロンは驚いてしまう。ソーマがベルを要求する理由に心当たりは………アポロンには一つだけあった。

 

 

「まさか…!? 私と同じく守備範囲が広いのか!?」

 

「そういう意味ではない。お前と一緒にするな。その子が初めて俺の酒に酔わなかったという意味で、貴重だからだ」

 

「渡さん! 絶対に渡さんぞ!!」

 

「聞け。耳が遠いのか」

 

「そういうのはいいから、いい加減ジャガ丸くんを買うなら注文を早く決めてくれ~~~~~!」

 

 

 店の前で(片方が一方的に)睨み合う男神二人。そのすぐ傍にバイト中の女神の情けない声が飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに翌日。シュリーム城への道。

 

僕達はバーチェさんの活躍によって遭遇した自称エインを撃退し、どうにか『シュリーム城』へと進めることができた。

 

 そのまま2日が経って前へ進んでいるが、予定より進むスピードは遅くなっており、なおかつ未だに倒れていると予想している先発隊の人達は見えてこない。

 

 運んでいた物資は減ってしまい、自称エインにやられた皆もまた完全には回復しきれていなかった。

 

 一応ほとんど皆意識は回復しているけど、現状安静のため横になってもらっている。カサンドラさん曰く、恐らく戦争遊戯開始直前までに半数以上が回復しきって間に合うらしい。以前とは異なり、すぐに応急処置などをした事がこの回復スピードに繋がっていると推測している。

 

 ただし、カサンドラさんは一昨日から顔色が青い。僕から見て、何か思い悩んでいる様子にも見えるけど、何処か疲れているようにも見えた。そのため、カサンドラさんを無理矢理休ませて、僕とルアンでその人達を看病している。

 

 とりあえず、『戦争遊戯』を僕ら3人だけで挑む、という最悪の事態は避けられた。

 

 そして今、僕が看病の方を担当で、ルアンが周囲の見張りの方を担当していた。

 

 

「しっかし、先発隊の皆が見えねえな。これ以上進むスピードを上げたら横になっているリッソス達が安静になれねえけど、このままだと昼過ぎぐらいにシュリーム城に着いちまうぞ」

 

「…もしかしたら、僕達と同じように自力で進んだんじゃ…」

 

「あ、それもあるか。シュリーム城に着いて、【ガネーシャ・ファミリア】と一緒に回復しているかもな……って、ん?」

 

 

 ルアンが周囲を見渡していると、前方から人影の集団が見えた。

 

 その人達は旗を掲げており、まるで仕事を終わらせたかのような雰囲気をしている。

 

 その人達をよくよく見ていると、シャクティさんを先頭に、イルタさんやハシャーナさんなど、見知った顔の人達がたくさんいた。その後ろには、気絶している盗賊らしき者達を鎖などで縛って連行している様である。

 

 

「あれ? もしかして先に盗賊を捕まえに行った、【ガネーシャ・ファミリア】の皆さん?」

 

「何か、全員元気じゃねえか? あの仮面をつけた奴と戦ったら、流石に無傷じゃねぇと思ったんだが…?」

 

 

 ルアンと共に疑問を感じたけど、とりあえず向こうとすれ違う前に話だけでも聞いてみよう。

 

 僕はそう思っていたけど、【ガネーシャ・ファミリア】の人たちもまた僕らに気が付いたらしく、お互いの距離が近くなると向こうから話しかけてきた。

 

 

「お前達は【アポロン・ファミリア】の者達か。もう既に最初の集団は到着したぞ。私達は役目を終えたから、オラリオに戻るところだが…」

 

 

 シャクティさんが僕らに近づいて様子をうかがっていたけど、いくつかの馬車の中の様子を目にして、少し顔が険しくなった。

 

 

「何かあったのか? 見る限り戦闘を終えて傷を癒しているかのように見えるんだが………、もしかして盗賊の残党とでも闘ったのか?」

 

「…あれ? え、えーと、実は……」

 

 

 何か思っていたのと違う話を聞いた気がしたけど、とりあえず先に僕らの現状を伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!? 二日前にあの仮面をした奴と戦っただと!? 何処でだ!?」

 

「オラリオからシュリーム城に行く途中に、草原から森に入る道があるだろ。その少し手前くらいだ」

 

「そうか…。流石にそいつの行方は掴みそうにないな」

 

「昨日通り雨が降ったせいで、獣人の鼻で追跡しようにも臭いが消されているからなぁ。向こうに運がツイてるな。姉者、どうする?」

 

「…一応、手掛かりらしきものは残ってないか調査しよう。期待は出来ないが…」

 

 

使者に対応してきたベルとルアンの説明を聞き、シャクティやイルタを含めた【ガネーシャ・ファミリア】の者達は自称エインに逃げられた事に少し悔しがる。特にシャクティはカジノに引き続き、連続で大物を捕まえられるチャンスだったが、今回は向こうに軍配が上がってしまった。

 

そんな残念な雰囲気がその場に流れるが、ベル達には腑に落ちない所があったため、シャクティに質問する。

 

 

「あ、あの…。シャクティさん達は自称エイン……あいつとは戦っていないのですか? シュリーム城から来た、と言っていたのですけど…」

 

「ああ。というより、そもそもそいつは見なかったぞ?」

 

「「…えっ!?」」

 

 

 思わぬ回答に僕とルアンの素っ頓狂な声が重なってしまう。

 

 そういえば、さっき「もう既に最初の集団は到着した」とか言っていた気が…。という事は、これって…。

 

 

「そいつが嘘をついている、というより、こちらと入れ違いになった可能性が高いな。道も一つだけ、というわけではない。もしかしたら、お前達にも当初やり過ごす気だったんじゃないのか? 聞けば草原と森の境目ぐらいで鉢合わせになったらしいから、向こうからすれば草原だと隠れにくいから出てくるしかないと思うが…」

 

「「…確かに!」」

 

 

 言われてみれば確かに思い当たる節がある。いくら強いとはいえ、疲弊している様子が全く見られなかったし…あれ? そうなるとあのいかにも倒してここまで来たかのようなあのジェスチャーは…………僕らを焦らせさせるため!?

 

 

「あいつ、わざとだったんだな…!」

 

「僕達、まんまと敵の策略に嵌められていたんだ…」

 

 

 今頃になって気づき、開いた口が塞がらない僕達。呆然として言葉を失っていたけど、ハシャーナさんが少し頭を掻きながら僕達に助言をしてくれた。

 

 

「ま、まあ、お前達は今、そっちを気にする場合じゃないな。『戦争遊戯』があるだろ。そっちに集中するべきだ。そういう油断が命取りになるぞ」

 

「そ…、そうですね……」

 

 

 確かに今は自称エインの事を忘れて、戦争遊戯の方に集中した方が良い。

 

 多少有利でも、勝負事に絶対というのはない。じゃないと、番狂わせという言葉は生まれない。

 

 僕達どうにか気を引き締め直し、現状の方に目を向けるのだった。

 

 

「お。いい眼つきになったじゃないか。その気持ちを当日にも忘れるなよ。それに、ちゃんと神々達の要望に応えて、城そのものには傷つけていないから」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「ハシャーナ。 私達の立場上、あまり肩入れするのは褒められたものじゃ「いいじゃないかイルタ。ここはオラリオではないから、そこまで周囲の目を気にする所ではないぞ」あ、姉者…」

 

 

 ハシャーナの肩入れに、イルタはオラリオの立場上憲兵として比較的公平な立場に位置する【ガネーシャ・ファミリア】として自覚を持てと責めるが、団長のシャクティに諫められる。

 

 僕らはそれを見て少し苦笑いするが、『戦争遊戯』への意気込みは消えていない。

 

 その後、詳しい情報を提供して【ガネーシャ・ファミリア】と別れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュリーム城。正式名称は、シュリーム古城跡地。

 

 それは、森も丘も存在しない平原の真ん中に堂々と建つ城砦。

 

 一説には、1000年以上前に当たる『古代』に築き上げられた防衛拠点の一つだとも言われている。

 

 ダンジョンの『蓋』に当たるバベルやオラリオの巨大市壁が完成する以前、ダンジョンの大穴から出現するモンスターの進撃を都市や街から遠ざけるため、あるいは食い止めるために、こういった砦がオラリオの比較的近隣に造られていた。今日ではほとんどが廃墟化しているが。

 

 このシュリーム古城跡地では、ラキア王国が一世紀以上前まで要衝として長く使用していたため、寂れてはいるものの城壁をはじめとした機能がまだ生きている。

 

 城壁には崩れた跡がいくつもあるが、その石作りの壁の高さが10 mを超えている。これに加えて幅も十二分にあるため、この外壁を突破するには、上級冒険者をもってしても一筋縄ではいかない。

 

 攻められやすい平原にあるこの城が今も原型を残しているのは、この城壁によるところが大きかった。

 

 

「物資を運べ。補修できる所は可能な限り進めろ」

 

 

 部隊長の指示の元、それぞれの団員が城壁の修繕作業や予備の武器、道具、食糧の保管や団員の配置決めなどに勤しんでいる。

 

 

「ふん、くだらん。意味のない事を」

 

 

 そんな中、城砦の中でも一際高い塔にある玉座の間にて、ヒュアキントスは鼻を鳴らしていた。団員達が散らばる城内を窓から眺め、様子をうかがっている。

 

 城を守る立場とあって籠城の準備を行っているが、徹底せずとも勝利は固い。それどころか、自分一人で戦う事になっても、負ける気は一切してこない。

 

 

「アポロン様は『戦争遊戯』を決める神々のくじでは、『一騎打ち』と書いていたらしいが…。当たらなかったのは残念だ」

 

 

 一番早く準備ができ、尚且つ決着も一番速そうであるが、当たらなかったのなら仕方がない。自分たちは信用されていると、ヒュアキントスは主神に感謝を抱く思いだった。

 

 間の奥にある玉座に腰を下ろし、その背後の壁には弓矢と太陽を刻んだ【アポロン・ファミリア】の旗。潔癖な彼が団員達に、部屋を掃除して相応に美しく飾れ、と命じたのだ。

 

 数人の精鋭たちもその場にいる中、少しだけ気分が上がるヒュアキントス。

 

 だがそれも束の間。ダフネが玉座の間に入り、ずかずかと歩み寄って来た。

 

 

「ヒュアキントス、報告よ。カサンドラ達がようやく来たみたい」

 

「ようやくか! 奴らめ、何処をほっつき歩いていたんだ!」

 

 

 気分を害した要因。人員が足りなくて予定よりも作業が進めなかった。

 

 ヒュアキントスはその原因の者達へ説教をしに、玉座の間から駆け下りるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ガネーシャ・ファミリア】と別れ、昼を過ぎた頃。

 

 後発組の僕達はようやくシュリーム城に辿り着いた。

 

 到着したら、そこにはやっぱり見慣れた人達がたくさんいる。

 

 そう、先発組の【アポロン・ファミリア】の人達だ。全員無傷である。

 

 

「やっぱ、全員無事だな!」

 

「とりあえず、けが人を安静する場所に…」

 

「貴様ら、予定よりずいぶんと遅いぞ! 何処で油を食っていたんだ!」

 

 

 僕らがほっとしている内に、ヒュアキントスさんが近づいていた。その第一声が怒号だった。

 

 その声で思わず僕らは体を硬直させてしまう。すでに到着していた人達は「ようやく来たか」「遅いぞお前等!」など軽口を叩けるほど元気である。どういうわけかヘルメットを被っており、また手にスコップを握って、少し泥まみれになっている人がちらほら見かけるけど。

 

 

「貴様ら直ちに……おい、他の者はどうした!? 何故出て来ない!」

 

「ああ、実はなヒュアキントス……」

 

 

 ヒュアキントスさんは僕ら以外の者も含めて指示を出そうとした時、僕らの状況に気付いて説明を求める。僕らは体の硬直が解け、ルアンが改めてヒュアキントスさん達に説明するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!? あの仮面風情に襲われただと!? そいつはどうした!?」

 

「バーチェさん……助っ人が来てくれて、撃退してくれました」

 

「…誰だ、それは…?」

 

 

 心当たりのない名前に首を傾げるヒュアキントスだが、『強制任務』の時に知り合ったと聞くと納得した。

 

 しかし、けが人達の回復や自称エインの方はもう既に行方が分からなくなったと話を聞くと、「この話はもうしなくていい」とすぐに興味を失くしてしまう。

 

 そして、すぐに作業を再開させるよう周りの者達に指示を出し、ベル達にもまた指示を出した。

 

 

「お前達はけが人や荷物を運び終えた後、穴埋めや外壁の補修に協力しろ! 【ガネーシャ・ファミリア】が城を傷つけずに盗賊を討伐する際に掘った穴があるからな! そこから侵入されたら元も子もない! 何かあったら私の所まで連絡しろ! 台座の所にいる!」

 

 

 そう言い、すぐにベル達を残してヒュアキントスは去って行った。城の中にあった台座にふんぞり返っているために。一応そこで誰をどこの配置にするかなど作戦自体は考えているが。

 

 

(やっぱり、ヒュアキントスはそうだろうな…)

 

 

 団長が雑用の仕事に全く手を出さない事をわかっていたため、ルアンは団長の命令通り、直ちにけが人たちの肩を貸しながら歩かせようと動かしていく。

 

 

「あ、ベル、そっちの足を持ってくれ。オイラは肩を持つから。オイラ達も早くこっちを終わらせて、仕事の手伝いに行かないとな」

 

「あ、うん、わかった」

 

 

 ベルは【アポロン・ファミリア】に入団してから日が浅いため、流石にルアンよりも動くのは遅かったが、着実にこなしていく。

 

 けが人や荷物などを急いで運び、時間が過ぎていくのだった。

 


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