ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか 作:七篠ロキ
そしてこちらからも報告。
『VIPルーム』回で、ある二文を書き加えました。
まあその文を要約すると……。
あの日の出来事が後世にまで伝わるよー!
よかったねリューさん!(ニッコリ)
となります。
そして今回の話も長いよー。
戦争遊戯開幕の前日に、ようやくシュリーム城に到着したベル達。
荷物の整備など大忙しとなっていたが、リッソスを含めたけが人達も密かに体を動かして外壁の補修などを行っていたため、逆に予定よりも早く終えてしまった。
皆、今は各々配置場所の確認などを行っている。
僕は今、西門近くの武器庫にいる。カサンドラさんやダフネさんも一緒だ。
ようやく荷物などを全て運び終え、穴埋めの方を手伝いにしに行ったら、そっちの方は少し前に終わっていた。一応念のため、当日にもその穴付近に見張りを置いておくらしいけど。
もう少し時間がかかってしまうかと思っていたけど、けが人の人達の半数以上が「足手纏いにはならん!」と手伝って来たため、結局日が暮れる前に一通りは終わる事になった。
その後、翌日から始まる『戦争遊戯』における僕の配置場所について、ダフネさんやカサンドラさんから教えられるのだった。
ただ、その配置場所は…。
「えっ、僕はリッソスさんのパーティーに配属なんですか!?」
「ええ。開始直後は城の中にある庭園に待機。まあ、まずないと思うけど、どこかの城門が突破されてそうになったら、そこをカバーしに行くパーティーの一つ…という所かしらね」
入団してから一番日が浅い僕は、てっきり見張り役になってしまうかと思っていたけど、まさかの地上戦のパーティーに組み込まれた。
最も、最初は僕がその内の一人だったらしいけど…。
「怪我で満足に動けない人が見張り役をやることになってね。ヒュアキントスは「あの仮面風情め…!」と言っていたわ」
「じゃあ、その補欠として僕が戦うという事ですか…」
「まあ理由はどうあれ、ウチやカサンドラは期待しているから。そんなに気落ちしなくていいわよ」
僕の肩をポンポンと叩いてダフネさんがフォローしてくれている。
その事で僕は少し照れそうになったけど、「そうよね、カサンドラ!」とダフネさんと共にカサンドラさんの顔色を見た時、一瞬で消え失せてしまった。
カサンドラさんがダフネさんと合流してからも顔色は全く変わっていない。それどころか顔色は昼間よりも青く、誰から見ても思い悩んでいる様であった。
ダフネさんは僕の方に顔を向け、「カサンドラに何かしたの?」と言わんばかりの表情を見せてくるが、特に心当たりはない。
僕が首を横に振ったため、ダフネさん自身も何か心当たりがあるかなと考え始めた時。
おもむろに、カサンドラさんが口を開いた。
ただ、その口から出てきた声は震えている。
「…………ねぇ、ベル。ダフネちゃん………」
「…あの、カサンドラさん」
「体調、大丈夫ですか?」と聞こうとした時、カサンドラさんは両手で自分の体を掻き抱きながら、僕の台詞を遮る形で続きを口にした。ただし、カサンドラさんが吐いた台詞は、僕らの想像の斜め上を超えてしまったけど。
「…駄目……ここから逃げよう」
「…え?」「はぁ?」
「城が……、城が滅ぼされる…」
突拍子もない事を言うカサンドラに、ベルは唖然としており、ダフネはうんざりとした表情を見せた。
「また夢の事? しかも行く前とあんまり変わらないじゃない。それに今更そんなこと出来る筈ないでしょう」
「お願い、お願いだからっ、信じて……!」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ウチらは負けないから」
カサンドラは必死に取り繕うとするが、ダフネは聞く耳を持たず、逆にカサンドラの事を諭している。
ベルは呆然としたままカサンドラとダフネのやり取りを見ているが、そんなすぐに会話からは外されることはなかった。
「ね、ねぇ、ベル! ベルの方からも何か言って!」
「カサンドラの話を間に受けなくてもいいよ、ベル」
カサンドラは絶望したのだ。夢のお告げの突破口が見つからない事に。
最早ここから逃げて、オラリオから離れるしか身を守れないと判断したのだ。
カサンドラはベルにダフネの説得を試みようとし、ダフネもまたカサンドラが逃げないようにとベルに説得を促している。
そしてベルはそんな二人の話を聞いて、―――――――ダフネ側の意見に傾いていた。
「えっと…。ごめんなさい、カサンドラさん。ここまで来て逃げるのは、僕にはできません」
「………えっ……………………」
ベルに反対されたことで、カサンドラは内心大きなショックを抱えてしまった。
思考が停止し、思わず涙が出そうになるほどである。
「そりゃ、そうでしょ。幹部二人を含めてウチらだけ逃げるのって、流石にそれは忍びないじゃない」
「カサンドラさん。ここで逃げてしまったら、僕達は自称エインを撃退しないと前に進めませんでしたのに、僕らをメレンから応援に来て、代わりに戦ってくれたバーチェさんに、顔向けできません……」
「…………」
「バーチェさんだけではありません。応援してくれたアミッドさんやアイズさん、レフィーヤさん、【ガネーシャ・ファミリア】の討伐隊の皆さんにも…」
「………………」
ベル達を応援してくれた者達の名が挙げられ、カサンドラは何も言えなかった。
だが、理由は他にもまだある。
「しかもここで逃げたら、ルアンやリッソスさん達【アポロン・ファミリア】の皆を見捨てることになってしまいます」
「…! …そ、それ、は…………」
カサンドラは一応その事も考えていた。逃げ出した結果による被害を。
だがカサンドラは心の中で大切なものは何なのか、天秤で測ってしまったのだ。
その結果、自分の予言を信じてもらったベルや、友であるダフネの方を優先したのだ。
カサンドラが出した結論だが、思わず自身の罪の意識に飲まれかけるが、振り払うよう力一杯口を開いた。
「ベル! 回避しても、あなた、が……!?」
「……えっ、僕?」
――――リッソスやダフネにも言っていない、第6節目の文の内容を言いそうになった。
思わず手で口を抑えるカサンドラ。
ベルはキョトン、と自分に指を指しており、ダフネは「それも夢?」と呆れている。
「あ、いや、何でもないの! その、夢の………あっ!?」
「…………」
そしてカサンドラはすぐに誤魔化そうと言い訳をするが、墓穴を掘ってしまう。
この夢のお告げは、ベルに相談してはいけないと決めていたのだ。
そのため、ベルにはこの夢のお告げを見てから一言も教えていない。
再び口を押えるカサンドラ。完全に動揺している。
夢のお告げを信じていないダフネは平常運転だが、ベルはカサンドラの様子を見て、察してしまった。
「あの、僕…。カサンドラさんがどんな夢を見たのか、全然知らないんですけど……」
「そ、その…」
言葉を詰まらせるカサンドラ。
もう完全にベルにばれてしまっている。誤魔化しきれない。
(いや、むしろここで言うべきなのかな…?)
どうあがいても、ベルの身に危険が訪れる、と。
でもそんな事を言ったら、ベルは益々ここに残って戦うんじゃ…。
初めて私の予言を信じてくれたベルには、どうか無事でいて欲しい…。
(ベルに聞いてみる…? 遠回しに…。それから夢のお告げを話すかどうか…)
「カサンドラさん、一体どんな「ね、ねぇ、ベル?」…え、はい、何でしょうか?」
「もしも……、もしもの事なんだけど……。何か大切なものが二つあって、両方危険な状況になっても、そのうちの一つしか守れない時、ベルはどうするの?」
「……あ、あの、質問の意図がよくわからないんですけど……」
「そ、それを聞いてから話すかどうか決めるから…」
「ええぇ!?」
傍でダフネが見守る中、カサンドラの質問の意図を理解していないベル。
だが、頭を悩ましたのはほんの数瞬だけだった。
真剣に考えて、すぐに結論が出た。
「両方です」
「……えっ?」
どのように判断するのか参考にしたかったカサンドラだったが、ベルが出した答えに唖然とするしかなかった。
「いや、あの、ベル? どちらか一方だけ「両方です」」
断固して譲らないベル。カサンドラは困り、ダフネは意外そうな顔でベルを見る。
「まずはその状況から変えて、両方守ります!」
「あのね、ベル。その…」
「僕が憧れた英雄は、誰か見捨てることなんかしません! 大切な者であったら、特に!」
「…!」
純粋な眼差しでカサンドラを見るベル。聞いているダフネも感心している。
悲劇の予言者は先程心の中の天秤を使って測っていたが、白い少年はまずその天秤から壊しにいった。
傍若無人と思える回答。
だが、カサンドラの心の中の憑き物が落ちたようだ。
「…ベルはこう見えて、結構ワガママなんだね~~~………」
「えっ!?」
「聞いているウチもそれに同意ね」
「ダフネさんまで!?」
先程の雰囲気とは打って変わり、唐突にいじられるベル。
あれ!? 何でこうなった!? と顔をしているベルだが、カサンドラは心の中でベルに感謝した。
(ありがとう、ベル。私は…、逃げずに、この夢のお告げに立ち向かうから! 諦めずに、運命を変えてみせるから!)
「とりあえず、答えてくれたから…」
「あ、そうですよ! 夢のお告げは一体…」
「特別に、ダフネチャンから聞いたカジノの時の、アミッドさん流のご褒美をあげる!」
「「えっ…!?」」
まさかの台詞にベルとダフネの声が重なったが、二人はその数瞬、気を抜いてしまった。
その場の勢いである。
カサンドラが、ベルに抱き付き、押し倒した。
「やっぱりベルの頭はモフモフしてるぅ~~~~! 抱き心地もやっぱり良いぃ~~~~~!癒されるぅ~~~~~~~! はうぅ~~~~~~~~~!」
「えっ、ちょっ、カサンドラさん!?」
ダフネがいる目の前でベルを堪能するカサンドラ。どうやら相当ストレスが溜まっていたようである。
そのストレスから開放されたカサンドラの体が、癒しを求めまくっていた。
その癒しが目の前にあって、人目を省かることなく行動に移してしまったのだ。
「…まさかカサンドラがここまで悩んでいたとは……」
「あの、カサンドラさん、夢のお告げの事は!?」
「様子を見る限り、言わないみたいね。あ、ウチには気にしなくていいから。一応誰か近くにいないか見張っているから……あ、ホントにベルの頭ってモフモフしているわね」
「はうぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「見てないで助けてダフネさーん!?」
ダフネにも悪乗りされたベル。この場に味方がいないようだ。
相手はLv.2二人。満足されるまで抜け出せない。
この場の近くを通った団員曰く、ベルの情けない声が何度も聞こえてきたらしい。
……後に、この事を思い出したカサンドラが顔を赤くして悶えまくっていたのは、語るまでもない。
その後、ベルに抱き付いて堪能しまくったカサンドラは完全に気分が晴れていた。
解放されて疲れ切ったベルは、そのまま割り当てられた部屋にふらつく足取りで戻って行く。
ダフネもまた全体の下見などをするため離れ、一人残されたカサンドラは再び夢のお告げに向き合っていた。
(もう、あれこれ考えたんだけど…)
――― 傷ついた太陽の城が、泥棒の三日月によって落ちる。
――― 小人と一人の男によって翻弄され、最後は寵童が凶刃によって亡き者となる。
――― 倒れる者達の努力は報われない。
――― 動けない悲劇の預言者は決着を見れず、泣き崩れる。
――― 太陽達は全てを奪われ、光を失くして彷徨い続ける。
――― この結末を回避したくば、白き少年を犠牲にしろ。
(もしかしたら、もう最後の一文は関係ないかも…)
自称エインさんとの戦いで、相手は明らかにベルの事を切り刻もうとしていた。
間一髪でバーチェさんが来てくれたから何とかなったけど、非常に危うかった。
だが、相手はこう言っていた。『もし軍門に下れば、【ソーマ・ファミリア】の方は何とかしよう』と。
つまり、ベルがあの時本当に斬られて持ち帰されたなら、【ソーマ・ファミリア】は『戦争遊戯』に来なくなり、自動的に【アポロン・ファミリア】の勝利となっている。
ただし、あくまでこれは相手の言葉が本当に信用するならの話で、尚且つ私達がそれを見過ごすという事になる。
流石に、どうしてもそれは出来ない。
(これ…。事前にベルと相談しちゃったら、危なかったかも…)
あの時は既に3人を除いた後発組は壊滅していた。先発組はその時やられていたと思い込んでいたため、『戦争遊戯』は圧倒的に不利な状況に強いられる事になると予想していた。
しかも【アポロン・ファミリア】が負けたら何でも聞くという条件であったため、【ソーマ・ファミリア】の評判を考えると、余り想像したくない。
もしベルに相談してしまったら、もしかしたらあの場面で自ら犠牲になりに行ってしまった可能性があった。
ベルだけが、『闇派閥』に―――。
(『光を失くして彷徨い続ける』。まさに第5節のあの一文通りにベルが………ん? 待って)
『光を失くして』という事は、それはつまり光を失う――――闇になるという事。
そして、闇のキーワードが含む単語にすぐ思いついたのが……『闇派閥』。
つまり、そっくりそのまま『闇派閥』の軍門を下っていたという事に―――。
(いや、それだとベルの事で矛盾する!)
自称エインさんはまず間違いなく『闇派閥』に属する者だ。
そして、ベルがあの時点で自称エインさんに連れて行かれたら、強制的に『闇派閥』に下っている。向こうに何かしらの自信があった事から、恐らくそうなっていただろう。
そして、第一節の文脈から、戦争遊戯では敗北を予言していた。
第五節は文脈から、結末を示す予言の文だ。問題は『太陽達』――――、アポロン様含む【アポロン・ファミリア】の人達全員の事を指している筈。そこにはもちろん、同じ【アポロン・ファミリア】であるベルも含まれるという事だ。
ここで、第6節の文の初めに『この結末を回避したくば』ときている。
となると、結末を示す第5節の文が変わるという事となり、【アポロン・ファミリア】総員、つまり【アポロン・ファミリア】であるベルも『闇派閥』の軍門に下らなくなるという事なので…。
つまり、第6節の文にある『犠牲』の意味はなくなってしまって―――。
(もしかして…、あの場面で犠牲になったら、意味はなかった…!?)
この結論だと、あのまま自称エインさんがベルを連れ去ったとしても、【ソーマ・ファミリア】の事は止める気がなかったという事になる。
そうなるとそのまま戦争遊戯を迎える事になって、『白い少年』―――ベルが元々いないから、回避のしようがない。
そのまま、負けという事になっていた。
――――バーチェさんが自称エインを撃退してくれなかったら、何もかも終わっていた。
ありがとう、バーチェさん。
(自称エインさんが現れたせいで、回避できる場面はあれだったと思っていたけど……まだ何とか挽回出来るチャンスはある……かな?)
となれば、戦争遊戯の結果に至るまでの過程を示す文を覆せばいい。
第1節の文と第5節の文は、結果を示している。第3節の文は、もう既に自称エインにやられて意識が戻っていない団員が何人かいるため、どうしようもない。
そうなると、残るは第2節の文と、第4節の文。
特に第2節の文を覆さないと、戦争遊戯の試合形式的にこちらが負けてしまう。
(でも、『小人と一人の男』って誰の事なんだろう……?)
『小人』もしくは『一人の男』の動きを封じれば、ヒュアキントスは無事という事になる。
しかし、特徴が抽象的すぎて、誰を示しているのか判別がつかない。
そしてこれ以上にわからないのは、第4節の文。
(『悲劇の予言者』って、まず私の事だよね…)
とりあえず、すぐに解釈できる部分は出来るが、単語を並べると…こうなる。
動けないカサンドラが決着を見れず、泣き崩れる。
(『決着を見れず』っていう事は、団長様がやられる瞬間は私が近くにいないっていう事…?それとも、意識が飛んで見られないという事…?)
カサンドラが『戦争遊戯』で割れあてられた配置場所は、玉座の間。ヒュアキントスがいる所だ。
そこまで近いなら、前者の考えは無くなる。
となると、そこまで攻め込まれ、意識が飛んで動けなくなり、そのまま戦争遊戯が終了してしまった。そして決着を知らされて、負けた事に泣き崩れる……という事になる。
(回復魔法がメインの私はそこまで戦闘能力は高くないけど……う~ん?)
どうも納得できないカサンドラ。
その場所にはカサンドラやヒュアキントスの他にも、ダフネやリッソスを除いた精鋭達がいる。
それでも倒されるのなら、油断は全く出来ない。
(そもそもの話、向こうにそれだけの兵力があるの…? ……というより…)
「向こうは、どんな作戦で挑むんだろう…?」
頭を傾げるカサンドラ。
口から漏れたその声は、誰にも聞こえていなかった。
カサンドラがベルで癒しまくっていた一方、ルアンが他の団員達に配置場所などを伝達していた。
あちこちに人を見つけて教えに行くので、もしかしたら今日一番動いているのはルアンであるかもしれない。
ただし、その途中から不可解なやり取りが見舞われることがあった。
「ん? ルアン、お前ついさっき、俺に皆の配置場所とか教えて欲しいと頼まなかったか?」
「はぁ? 何を言っているんだ? オイラは逆にお前の配置場所を伝えに来たんだぞ? そんなもん頼んでいねぇぞ」
「そうか…。俺の記憶違いか…?」
「確かにルアンから尋ねられた筈なんだがな…?」と頭を掻きながら去って行く男団員。
そして他にも…。
「あれ? ルアン、向こうの方に行ったんじゃないのか? 何か隠し通路でも見つけたか?」
「そんなわけあるか! むしろ逆にオイラが教えて欲しいぞ!」
「はははっ。冗談だよ」
笑ながら別の男団員が去って行くが、「確かにルアンを見たんだよなぁ?」と小さく呟いた。
その声がギリギリ届いたルアンは「一体、何が起きてるんだよ…?」と首を傾げながら小さく呟き、そして次へと向かうのだった。
そんな行動をしている中、指定した時間が経ち、遂に東西南北全ての城門は閉じられる。
ベル達は『戦争遊戯』が開始するまで、城砦の中にいる事となった。
その日の夜。
シュリーム城から少し離れて、『戦争遊戯』攻城側のスタート地点として使っている、大きめの倉庫。
そこで約二名を除いた【ソーマ・ファミリア】の全員が集まっており、作戦会議を開こうとしていた。その場にいないのは、団長のザニスと一般団員のリリのみ。
その二人は今、外にいる。丁度ザニスが眠っているリリを起こしている所だ。
「おい、アーデ。起きろ」
「…ふぇ? ふわぁああ~~………」
ザニスに起こされて欠伸をするリリ。メレンの時に使った時に余った『眠りの香』を鼻に嗅がされて一瞬で眠らされ、場所を移動されて起こされる。
この動作は本日2度目であった。
「……一々眠らせないと一緒に透明化できないって、その兜結構不便ですね」
「何を言う。装備者の俺にとっては何の問題もない」
「リリには問題あります!」
「そんなものは知らん。それに、この兜の事は誰にも言うなよ?」
扱いについて抗議を唱えるリリ。だがその主張は当然通らず、スルーされてしまう。
さらに「この兜の事を誰かに言ったら、どうなるか分かっているよな?」と、念押しに口止めしてくるザニス。リリもまたその兜が公になったら簡単に想像がついてしまうため、黙るしかなかった。
「…それでいい。そのまま向こうの人員の配置を教えろ」
「…まさかリリの変身魔法を使ってルアン様に化けさせて、向こうの情報を直接聞き取るとは…」
リリの変身魔法、【シンダー・エラ】。
効果はリリと同じ体格なら、どんな姿にも変身できる変身魔法。
これを使って、ベル達とパーティーを組むまでは獣人やアマゾネスなどの種族として、サポーターを行っていたのである。
ただし同じ体格にしか変身できないため、必然的に変身できるのは、リリと同じ小人族や体格の小さいモンスター、他種族の子供が主である。
ルアンに化けたのは、【アポロン・ファミリア】の者の中でよく口調や性格などを知り、なおかつ魔法で変身できる体格であったからである。
本物のルアンと鉢合わせしなかったのは、運が良かったからだ。
「別に問題あるまい。直接戦っているわけではないしな」
『戦争遊戯』の準備期間中は、お互い戦う相手の【ファミリア】には不干渉という原則が基づかれている。これを破った場合、相応の罰が下されるが、これは直接的な被害が出て、尚且つ証拠が提示された場合に限る。
今回ザニスが行ったのは、リリを眠らせた後、ハデスヘッドを被ってリリを『シュリーム城』の中まで担いだ。その後、人目がないところでリリを起こし、姿が見えたリリを変身魔法でルアンに変身させ、情報収集に走らせた。ザニスもまた透明化を駆使して場所の確認など下見を行い、あらかじめ決めていた時間と場所に呼び出したリリを再び眠らして、再び担いで城を脱出。その後ハデスヘッドを脱ぎ、リリを起こして今に至る。
起きて早々手に入れた【アポロン・ファミリア】の配置予定の人数などを話すリリ。ザニスはその情報によって次々と設計図に書き込んでいくが、リリはそれを見て、不意に疑問に思っていたことを口にした。
「…というか、この設計図ってどこで手に入れたんですか? 確かにあの城の構造と一緒ですし、複雑でしたけど」
「フッ、些細な事だ。これでも私は顔が広い。私の伝手から譲ってもらったのさ」
リリの疑問に対して眼鏡をクイッとあげるザニス。思いの外ザニスの顔が広い事を知ったリリだが、どうにも腑が落ちない。
首を傾げるリリだが、そんなリリを放っておいて書き終えたザニスは立ち上がり、一人勝手に【ソーマ・ファミリア】の団員達が待つ倉庫へと向かって行く。
リリは慌ててザニスに付いて行き、ザニスが倉庫の扉を開けた時、一斉に視線を向けられた。
「団長ぉ。ささっ、こちらへ…。おいアーデ、役立たずのお前は作戦会議に「いや。よせ、カヌゥ」……へへっ、すいません」
ザニスに対しては腰を砕け、リリに対しては高圧的な態度をとるカヌゥだが、ザニスに自制されてしまう。
そんなカヌゥを放ったまま、作戦会議へと移るのだった。
先程書き込んだ城の設計図を広げ、突撃する場所を命令する。
「まあ大雑把にいえば、お前たちは指定した時間に、この城の北門に突っ込め。そこが一番、兵の質が薄い」
「…何故、そんなことが分かるんでしょうか?」
「そんなもん、下調べをしたからに決まっているのだろう。カヌゥ、ただ単に開幕するまで何もせずに待っていたお前とは違うぞ」
「そ…、それは、すいません」
出しゃばろうとするな、というザニスの拒絶によって委縮してしまうカヌゥ。ザニスの子分の中で一番になろうと地位的向上を目指そうとするが、裏目に出てしまった。
ただし、会議はまだまだ終わらない。
「ただしチャンドラ、お前は連れを数人連れて西門に行け。そこは開く予定になっている。突入したら、すぐ近くの城の砦に入れ。それと繋がっている橋を渡らないと、倒すべき目標には辿り着けないからな」
「……そうかよ」
「お前には特に頑張ってもらうぞ? 何せお前は向こうの団長の襲撃時は、私と同じく丁度いなかったらしいからな」
「…たまたまダンジョンから戻ってきた時間帯が遅かっただけだ。むしろ、帰ったらいきなり『戦争遊戯』の話になっていて驚いたぞ」
憮然としている態度を取り、ありのままの事実を述べるチャンドラ。
団長のザニス相手だと【ソーマ・ファミリア】の団員の中で一番口出しや反論する男である。最も、チャンドラはザニスが気に入らないという理由も兼ねているが。
「……まあいい。とにかく、お前等は出来る限り城の中で暴れろ。突破口は私が作ってやる」
そう言い、「どうやって?」と聞かれる前に、団員達に武器や防具を見せつける。それらは素人から見ても一級品の装備であり、冒険者なら喉彼手が出るほど欲しいものばかりであった。高級品である魔剣も数多くあり、思わず唸り声があちこちに出てしまうほどである。
皆、【ソーマ・ファミリア】にそこまでの財力はない事を承知しているはずだが、欲望が理性を邪魔してまともな判断が出来ずにいた。
そんな中、持って来た張本人のザニスや透明化になる『兜』の事を知ったリリを除き、理性を保てたのは一人だけいた。
やはり、チャンドラである。
「…おい、この武器やら防具やらは何処から入手した? 【ヘファイストス・ファミリア】の物どころか、【ゴブニュ・ファミリア】の物まであるぞ?」
「何、そこにあったから拾っただけだ。だれにも見られていないさ。さあ、好きな武器を取るがいい」
訝しげな眼でザニスを見るチャンドラ。ザニスは何の悪も見せない態度で取っているが、どう見ても怪しい。
ダンジョンで亡くなった死体から剥いだと言えば、その行為はグレーの所であるが、これはどう見ても新品だ。それどころか防具には傷一つなく、一度も使っていないであろう魔剣もかなりの数がある。
ザニスがどうやって盗み取ったのか見当もつかないチャンドラであったが、そんなチャンドラやリリを除いた団員達は次々と鎧や盾、魔剣などを手にしていった。
ただしその行為の内容は汚く、カヌゥなど多くの団員が興奮を爆発させ、他人を押したり引いたりして我先にと一級品装備を手にしようと醜い争いによってである。
ある意味、ここでも【ソーマ・ファミリア】の日常茶飯事であった。
チャンドラは忌々し気な顔で、リリは冷たい目でその光景を見るが、ザニスは歪んだ笑顔を見せる。
そんな光景を目にしたくなかったのか、チャンドラはザニスの元へ近づき、肝心な部分の話をし始めた。
「…で、あっちの団長をどう倒すんだ? Lv.2 は俺とお前だけだろ…」
一番の難関。いくら奇襲されたとはいえ、大多数の団員達を一人で蹂躙したヒュアキントスを打倒する。
まずそこまで何人辿り着けるかどうかであるが、魔剣があっても正直心許ない。さらにヒュアキントスもその場に精鋭を数人連れて待ち構えている筈だ。数の利は期待できない。
何より一番の気がかりは、やはり兵の質だ。
ソーマとザニスが作り上げた【ソーマ・ファミリア】内の制度の弊害がここに出てくる。
原案はソーマだが、ザニスがそれを改悪したルール。神酒の他にもステイタス更新などソーマの手を煩わせるのに献上金という金が必要という、団長であるザニス以外の眷属に課せられた制度。ザニスが設定した献上金の高く、Lv.1で達成するのが非常に厳しい。それ故、一回だけステイタス更新するにも一苦労であるため、なかなか強くなれず、ダンジョンの階層も浅くしか潜れなくなり、金も大きく稼げないという悪循環に陥っていた。
挙句の果てにはそれを脱却しようと悪事に手を染めるため、余計始末が悪い。それ故に【ファミリア】の評判を落とし、他派閥のパーティーから疎遠されるため、余計厳しい状況に陥ってしまう。まさに八方塞がりだ。
逆に言えば、その条件下でランクアップを果たしたチャンドラが凄いのである。
ただ現状、そんなチャンドラも上手い解決策が思いつかない中、ザニスは意外にもニヤリとした顔を見せた。
「何、そいつの相手は私の任せておけ。切り札もあるからな。もしかしたら、戦わずして終わらせてしまうかもしれないがな?」
ザニスの自信ありげな表情が不気味に思えてきたチャンドラ。
だがザニス自体、やはり何かおかしい。
「…随分とこの『戦争遊戯』で仕事をするじゃないか、ザニス。何か弱みでも握られたのか?」
この作戦を総括すると、ザニスは【ソーマ・ファミリア】の中で一番戦場を動かすという大役をする事になる。
ザニスの普段の行動から考えて、チャンドラがそう思えても無理のない話である。
「…いいや、奴らの提示してくれた勝利報酬が旨すぎるからな。欲を突っ張りたくなるさ」
だが、その事を否定するザニス。「当然だろう?」と言わんばかりの態度を見せつけたため、チャンドラはこれ以上言わなかった。
その後、見ないようにした周囲の醜い光景を目の当たりにしたチャンドラは、「流石にうるさいな」と周囲の騒動を治め始める。
「…お前等いい加減沈まれ。負けたらヤバい奴が、この中にはたくさんいるだろう? ここで争ってどうする?」
「「「ウッ……!」」」
「い、痛い所突きますね、チャンドラの旦那…」
【アポロン・ファミリア】の勝利報酬は、『罪を洗いざらい話し、償う』。
つまり、金に飢えて悪事を染めている者が【ソーマ・ファミリア】には数多くおり、中にはザニスもびっくりするほど仕出かした者もいる。
返す言葉がなく、意気消沈して一斉に静まるが、ザニスは士気を上げるためにある余興を見せた。
「まあ安心しろ。こちらに勝ちを拾ってやる。私の命令通りに聞ければな?」
ザニスはとっておきとして、奥からある武器を見せる。
こんな冒険者装備一級品の中でもさらに特別、と思われるほどの圧倒的な輝きを放つ、一振りの魔剣。
全員がその武器に目を丸くした。
「なあ、団長ぉ、それって…!?」
「何、偶然見つけてな。まさか【ヘファイストス・ファミリア】が持っていた…いや、譲ってもらった物だ」
口を完全に滑らしているが、最早開き直りつつある。
その輝く剣を手に持つと、思わず顔がにやけてしまう。
早く使ってみたい、と。
「…ここで使うのは少々もったいないが、止むを得まい。何せ勝ったら、何でもいう事を聞くといったからな! 思う存分に支払ってもらおうじゃないか!」
欲望が増長するザニス。勝った後の妄想が頭に浮かび、思わず涎も出そうになるも、どうにか口の中で飲み込む。
そして、高らかに声を上げた。
「ラキア王国全盛期に大量生産されていたという、対軍、対城戦最強の魔剣! 『クロッゾの魔剣』だ! これでもう、こちら側の勝利は確定したものだ!」
ザニスの手に掲げられる、クロッゾの魔剣。
それに応えるかのように、魔剣が薄暗い空間で赤い光を輝かしていた。
その後、【ソーマ・ファミリア】の作戦会議が終了し、各自各々眠りついた頃。
倉庫の外でザニスとカヌゥ、二人だけいた。
「どうしたのですか団長ぉ。俺一人、こんな時間に外へ呼び出して…」
「何、個人的に少しな。カヌゥ。お前に特別、頼みたいことがあったからだ」
「無駄話は無しだ」と、すぐにザニス個人が持ってきていた箱から、短剣を取り出した。
一見、普通の短剣に見えるが…。
「この短剣は…?」
「『呪道具(カースウェポン)』という名だ。さっきクロッゾの魔剣を見せただろ? それをある神にも見せたら、譲ってもらった品だ」
ある神に見せたら興奮と同時に驚きの声を出していた。「これ、見せたお詫びね」と『呪道具(カースウェポン)』をくれた事を鮮明に思い出すザニス。
カヌゥは何度見ても普通の短剣にしか見えないと思い、そして先程の一級品装備を手にしたためか、全く興味を示さなかった。
―――次のザニスの台詞を聞くまでは。
「そして、聞いて驚け。これで傷つけられたら、モンスターでも回復できない品物だ。取り扱いには注意しろよ?」
「……こいつを、俺にどうさせようと?」
短刀の効果を聞いた時、今度は思わずカヌゥは欲しいとばかり思ってしまう。
その事を暗い外でもはっきりと顔に出ており、ザニスは呆れてしまうが、それはそれ。
条件を、カヌゥに突き出した。
「これで、『神酒(ソーマ)』に耐えたという白髪の小僧を殺せ。これは戦争遊戯だ。このくらいな些細な事は問題あるまい」
ザニスにとって、ベルの存在は目障りであった。
何故なら、ザニスの横暴な制度が引ける理由の一つが、神酒だ。
神酒を飲ませれば、飲んで酔っている相手は何もできない。また、神酒を餌にすれば、そいつは死に物狂いで命令を聞いてくれるのだから。
実際、不機嫌だったイシュタルも神酒を飲ませたら、すぐに機嫌が良くなった。また、結果的には【ロキ・ファミリア】の主神に妨害されたが、更に神酒が欲しくて戦争遊戯が有利になるよう進言もしてくれた。
だが、ベルはそんな神酒に酔わない。
ザニスにとって、そんなのが【ファミリア】に来たら、制度を崩壊させる不穏分子になりかねないと考えている。
「良いんですかぁ。ソーマ様はソイツの事、欲しがっていましたよぉ」
ソーマの命令を聞いていたのか、ザニスに確認するカヌゥ。渋ってはいるが、欲望丸出しのカヌゥの内心はザニスの方に傾いている。
ザニスは「もう一押しだな」と判断し、渋るカヌゥがよりやる気が出せるよう、報酬の話も持ち出した。
「人間誰しも間違いはよくある事だ。主神様がどう言おうが後の祭りというもの。何なら、私が言い訳を考えてやってもいい。報酬は『神酒(ソーマ)』4杯だ。上手く殺れ。そうすれば、その短刀はお前の物だ」
「…へへっ、団長ぉ。その言葉、忘れないで下さいよぉ」
カヌゥは合意とばかり勢いよく頷く。どうやら、やる気満々のようだ。
ザニスから『呪道具(カースウェポン)』を受け取り、ニヤつくカヌゥ。
両者それを確認し、下衆の笑いを見せた。
―――――明確な悪意が、ベル達の元へ迫っている。
翌日。
遂に、『戦争遊戯』が開幕する―――――。