ベル君が【アポロン・ファミリア】に入団するのは間違っているだろうか 作:七篠ロキ
更新が遅れに遅れて大変申し訳ございません。
その謝罪と反省込みで、今回から次回の投稿日を前書きに公表します。
次回は5月27日です。
…締め切りの気分になるな。守るの大事。
それと、今回の話から書き方を変えました。具体的には、普通の行間を1行開けたところを失くしたり、会話と行間の間を2行から1行に減らしたり。たまに空けた方が良いなと思った所は開いたままだったり。
要するに、行間を変えました。
wordで話作ってたからわからなかったけど、このssで投稿してたら何か空白が目立ち過ぎた。
スピート感が薄まると感じてしまったからこうなりました。
そしてこのssの【ソーマ・ファミリア】強い。
クロッゾの魔剣やら、リリやら、『呪道具』やら、『漆黒兜』やら…。
下手したら全ssの【ソーマ・ファミリア】の中で一番強いんじゃ…。
このssのベル君の運命過酷すぎ!?
実質オリキャラのアイツの正体もきちんと決めたのに。
筆が折れた。作者のメンタルが死んだ。そして今、復活を果たした。
あ、今回かなり話長いよー。多分過去最高に。1話で2万字超えって大変…。
戦争遊戯当日。
オラリオには尋常ではない程の熱気と興奮が貯めこまれ、賑わいを見せていた。
朝早くから全ての酒場が開いており、街の至る所で路上に出店が展開されている。神々が散々周囲に喧伝した結果だ。
今日ばかりはほとんどの冒険者が休業しており、酒場に詰めよせて観戦準備をしている。外には何とか休暇を申し込んだ労働者達、一般市民らも大通りに出て今か今かとその時が来るのを待ちわびていた。
『あー! あー! えー、皆さん、おはようございますこんにちは。今回、戦争遊戯の実況を務めさせて頂きます【ガネーシャ・ファミリア】所属、喋る火炎魔法ことイブリ・アチャーでございます。二つ名は【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】。以後、お見知りおきを』
ギルド本部の前庭では仰々しい舞台が勝手に設置され、目にゴーグルをしている実況を名乗る褐色の肌の青年が魔石製品の拡声器を片手に声を響かせていた。この前庭にも大勢の人々が詰めかけている。
『解説は我らが主神! ガネーシャ様です! ガネーシャ様、それでは一言を!』
『―――俺が、ガネーシャだ!!!』
『はい、ありがとうございましたー!』
実況者イブリの横で巨大な像の仮面を被った男神、ガネーシャが吠える。このコントに対して観衆は一斉に喝采を送った。
商人らと連携し都市を盛り上げる戦争遊戯は一種の興行だ。この催しを観戦するために他の地域の者達が足を運ぶことはさらにあり、そこで当然のように入場料が発生する。一方でギルドは世界へオラリオの実力を示す恣意行為にも利用し、また素質を秘めた有望な冒険者たちを都市に引き込むのだ。
ただし、オラリオに足を運ぶ者達が共通するのは、身の周りに神がいない事である。
当然、『戦争遊戯』の場所や日時の情報を持って、尚且つ神が近くにいる者は、入場料を払わなくてもその場で見える訳でお得である。
そんな神が二神もいる港町、メレンでは―――――。
「ニョルズ様、俺達も早く何か買いましょうよ。こんなに出店が開いていますから」
「ま、折角の休暇だからな。ロッド、何が買いたい? 今回は俺が自腹で払ってやるぞ」
「いやいや、もう余力はないんですから。無理をしなくても大丈夫です」
メレンでベル達と出会った神ニョルズと、その眷属の団長ロッド。
今回は休暇を使って、ベル達を応援するつもりである。
本来ならこんな簡単に休暇は摂れないのだが、つい最近入団した新参者がいるため、そいつの指導を行っている。今頃船の上で団員達にヒィヒィとしごかれて働いているだろう。
鬱憤を果たしている団員達のよそに、美味しい物を食べ、芸などを見て回って楽しんでいるロッドとニョルズ。
その二人の近くに、周囲の注目を集めるアマゾネスの集団。
その者たちは見た目とは裏腹に、屈強な者ばかりである。
その集団は仮面を付けたロリ娘の主神を先頭に頭領姉妹の片割れと続き、その後ろには地位的に低い者達が続いている。
つい先日メレンに来て、かなりの好き放題に暴れていたが、ベルやフィン達にやられた以降、現在約一名を除いて周囲にあまり迷惑をかけていない。
今はもう、ベル達の『戦争遊戯』を楽しみに待っている。
「かっかっか! まさかオラリオの方から闘争を見せてくれるとはのぉ。中々気が利く物じゃ。飽きさせることはないという噂は聞いておったが、まさにその通りじゃな!」
自らの信条である『闘争』そのものが観戦できるため、上機嫌で笑うカーリー。地面にシートを敷いて座っており、すぐ傍にはおつまみとして酒や果物などが多く並んでいる。ちなみにそれらは強奪した品物ではなく、イシュタルから前払いとして財宝を何点か受け取っていたため、それらを換金して買い取った物である。
カーリーの周囲にいる他のアマゾネス達もまだかまだかと既に興奮寸前であり、故郷である闘国を沸騰させるかのような熱気が漂っていた。
もはや完全に、宴の状態だ。
「テルスキュラにいる時でも見たかったんじゃが、流石に開催する時期までは伝わってこなかったからのう。そこに関しては惜しかったわ」
「カーリー様、早く……」
「そう急がなくても大丈夫じゃ、バーチェよ」
カーリーを急かそうとするバーチェ。他のアマゾネス達とは違って冷静に装うとしているが、ある少年が戦争遊戯の舞台に駆り出されているため、内心とても興奮している。つい先日、その本人の前で応援すると言ったため、見ないという選択肢はない。
そんなバーチェを嗜めつつ、カーリーは他のアマゾネス達が興奮しすぎて周囲に被害を及ぼしていないか見渡すと、誰かがいない事に気づいた。
よりにもよって、一番悩みの種である者が。
「……して、アルガナは何処に?」
「…オラリオに入ろうと外壁を登っています……」
「またか!? これで何度目じゃ!?」
悲鳴に近い声で頭を抱えるカーリー。最早日常茶飯事になりつつある。
つい最近フィンに負かされたアルガナは、己を打ち負かした強い男に惚れ込むというアマゾネスの性が発動してしまった。
その種族の性ですっかりフィンに惚れ込んでしまったアルガナは、下手したら以前より問題を起こしまくっているのだ。
ただし、問題を起こす場所はメレンにではなく、オラリオの都市の方に――――。
「侵入者だ!!」
「またあいつか!?」
「ちぃ! 見つかったか!」
アルガナがいない事に気づいた頃。
オラリオの外壁に張り付く褐色肌の女が一人いた。
壁を登って突破しようとした女―――アルガナだが、オラリオの憲兵たちに見つかってしまった。すぐに捕まえようと襲ってくる。
しかし、アルガナは止まらない。フィンをお持ち帰りするために。
よじ登るスピードが加速する。騒ぎが大きくなり始めた。
「うぉおおおおおおおおお!! フィィイイイイイン!! 今行くぞぉおおおおおお!!!」
「皆の衆、早くあの色ボケを止めるのじゃ!?」
アルガナの声がメレンの方にまで響き渡り、仮面によってカーリーの顔の一部が見えなくとも、非常に焦っている事が伝わってくる。
冷や汗を掻きながらカーリーはすぐに命令を下し、バーチェを含めた眷属達は大慌てでアルガナを捕まえに行くのだった。
ちなみに、当の【勇者】はこの時、どこからか寒気を感じたという……。
場面はオラリオに戻り、とある酒場。
そこには、オラリオの冒険者達がベル達の戦争遊戯に対して賭けを行っており、どちらが勝つか好き放題言い合い、賑やかであった。
そしてその賭けも、締め切られる頃。
「おーい、もういいか? 賭けを締め切るぞ!」
「待て!【アポロン・ファミリア】に10万ヴァリスだ!」
「おいおいモルド、そこは【ソーマ・ファミリア】に賭けろよ。手堅すぎだっつーの」
「10万ヴァリスも賭けるんだ! 別にいいだろ! あ、こっちにも酒をくれぇー!」
「これでオッズも下がっちまうなー」
滑り込みで賭けてきた者がいて、受付の者は金を受け取り、その分オッズを変動させる。
その場のノリでブーイングが飛び出るが、お構いなしと堂々と胸を張って酒を頼みながら席に座り込む。
冒険者達は酒を飲みながら冗談を言い合い、楽しもうとした所で、丁度賭けが締め切られた。最終的なオッズが神で貼り出され、結果を見ようと人がより密集し始める。
オッズ 【アポロン・ファミリア】1.06倍
【ソーマ・ファミリア】 16.3倍
「思っていたより差がないな…。何処の誰だ?【ソーマ・ファミリア】に賭けた馬鹿は?」
「どうせ、神連中だろ」
想定よりも賭けの対象に差がない事に不審に思う者もいたが、その原因となった者達を容易に特定できた。その者達―――神達は賭券を握り締めて祈るような形をしている。
「来い来ーい!」「当たれぇえええ!」「奇跡よ、起これ!」
基本的大穴狙いである神達。そのため、そう簡単には当たらず、その眷属達に大きな迷惑をかけるのが常である。
今もその神達を探しているかのように、外では必死に冒険者たちがあたりを見渡しているが、両者気づくには時間の問題であった。
冒険者達は普段そういう事に関わりたくないため、スルーして別に話題にしようとした時、ある一人がつい最近耳にした噂があった事を思い出す。
「あ、そういや聞いたか? 何か今回、【ソーマ・ファミリア】に多額の金を賭けた奴がいるらしいぜ? 「あれなら勝てる!」ってウン千万ヴァリスを勢い付けてきたとか」
「おいおい、流石にそれはガセネタだろ。いくら神でも、眷属達が自ら除団しかねない程の金を持ち込むわけないだろ」
「…まあ、それもそうか。悪い、今の話は忘れてくれ」
リーダー格と思しき者に簡単に論破されたため、笑いながら酒を飲み、すぐにこの事を忘れるのだった。
場所は変わり、オラリオのバベルの塔30階。
そこは『神会』などで会議室用に使われている広場であるが、今日はそれがないにも関わらず、神達が二十人ぐらい集まっていた。皆、主に神友と共に、及び一人で見ようとする者達である。
神の大半は『戦争遊戯』を眷属達と一緒に見ることが多いが、隠れて見ようとする者や、神友と見ようとする者も当然いる。
さらに眷属が一人もおらず、尚且つ寂しがり屋の者もいるため、そういう神は当然ここに来る。
ツインテールをしたロリ神は入場すると辺りを見渡し、神友と呼べる者を探す。そして、走りながら眼帯をした神友の元へ駆けつけるのだった。
「…あ、ヘスティア…」
「おー、ヘファイストス! もう大丈夫なのかい?」
「……ええ、何とか。………流石に、大量の盗難被害には堪えたわ…。私がロゴを押して認めた物もたくさんあったのよ」
そこにはヘスティア、そしてヘファイストスがおり、ヘスティアはヘファイストスの精神的なショックを心配していた。
先日大量盗難にあった【ヘファイストス・ファミリア】の武器には種類があり、中でも高級品の売り物として認めた物には、ヘファイストスのロゴが押されている。それが大半を占めており、さらにその中でも値段が付けられないものもあった。
一先ず二人ともここでアポロンとソーマの『戦争遊戯』の成り行きを見ようとしているが、見る限りヘファイストスは無理をしており、大分辛そうである。
ヘスティアは堂々と隣に座っているが、ヘスティアが見かけるまで誰もヘファイストスに近づいておらず、誰も言葉をかけようとしない程の気落ちしていたオーラを発していたのだ。
ヘファイストスにはヘスティアが来るまで周りの光景が非常に暗く見えており、虚ろの目をして呆然としていた。ここに来たのは、事前にヘスティアと見る事を約束していたからである。
ただ、今の精神状態では『戦争遊戯』を楽しく観戦できず、下手したらヘスティアも巻き添えになってしまう。
そうなっては元も子もなく、ヘファイストスはヘスティアに謝って帰ろうと動く。
「…ヘスティア、私は…」
「気にすることないさ! 僕は君と見るよ!」
が、陽気なヘスティアによってあっさり退路が塞がられた。
流石に申し訳ないような雰囲気が出ても、笑顔で元気つけてくれる。
天界にいた時も、そうだった。
今は眼帯によって隠れているが、顔にある火傷の痕で、皆から疎遠されていた。
気にしないようにしてはいたが、どうしても寂しいと思う時がある。
そんな時、ヘスティアが傍に来てくれていた。
最初は険しい態度で対応してしまったけれど、挫けずに話してくれて、今では一番の大親友である。
もしヘスティアがいなかったら、今頃どうなっていたかわからなかった。
下手したら地上にも降りず、天界にずっといたのかもしれない。
そんな生活から救ってくれたヘスティアには、返しきれない恩がある。
「折角の『戦争遊戯』さ! 君と見なかったら、僕は寂しいぜ!」
「ヘスティア……」
暗くなっていた気持ちが、晴れやかになっていく。
虚ろになっていた隻眼に、輝きが照らされている。
暗く見えていた周りの光景にも、灯りが宿り始めた。
「大丈夫だって! 何だったら、僕がすぐに犯人を見つけてやるよ! それで、万事解決さ!」
自信満々に胸を張ってヘファイストスを手助けしようとするヘスティア。
その誠意に、ヘファイストスの周りに漂っていた虚しさが消えつつある。
重いと感じていた空気が、ヘスティアが来てから数十秒で軽くなった。
「…ええ、そうね。それだったら、嬉しいわね。…ん?」
ヘスティアに励まされ、少しだけ元気が戻ったヘファイストス。
少しだけこそばゆくなって、一旦気を紛らわすために周囲を見渡すと、丁度今入場してきた糸目の神を見つけた。向こうもまたヘスティアたちを見つけ、手を振りながら近づいて来る。
「…あれ、ロキ?」
「おー、ファイたん! と……ありゃ、ドチビもここで見るんや?」
「げっ、ロキ!?」
ヘスティアの因縁の相手、糸目の顔をした貧乳の神――ロキは手をひらひらとやり、ヘスティア達の近くに座り込む。
主に両者の胸の関係でいがみ合うヘスティアとロキであるが、今回はヘスティアの驚きの方がそれを上回ってしまった。
「君は、何でここにいるんだよ!? 恋しい眷属達がいるんだろう!? その子達と一緒に見るんじゃないのか!?」
「ウチだってそうしたいんや! なのに、アポロンとソーマの二神が約束を反故しないか監視するという、貧乏くじを引かされたんや! クソォ、ウチじゃなくてもいいやろこの役! ドチビ、代わりにこの役引き受けろ!」
「お・こ・と・わ・り・だ! ソーマはまだしも、あの変態の監視を僕はやりたくないんでね!」
「なんやとー! あいつの自称妻やろ、自分!」
「だ・れ・が、あの変態の自称妻だぁああああ! 向こうの方が勝手に名乗ってくるだけじゃないか! 僕はアテナ、アルテミスに並ぶ三大処女神の一神だぞ、この胸無し!」
「だ・れ・が、胸無しじゃボケェエエエエ! こっちはオラリオ二大派閥の一つの主神じゃ、この貧乏人!」
「なんだとぉおおおおおおおおおおおお!」
「やんのかコラァ!」
「結局、こうなるのね…」
ただし、ヘスティアの驚きが上回ったのは最初だけで、オラリオ名物と化した二人の喧嘩は健在だった。
罵詈雑言の取っ組み合いが始まり、周りの神達も「また始まったぜ!」とウキウキしながら集い始める。
最終的に帰結する二人の関係に、ヘファイストスは頭を抱えながら溜息をこぼした。
だが、同時に笑みがこぼれかけてしまう。
(…いや、むしろ私がしっかりしないといけないわね。これを一番見てきたのは、もしかしたら私かもしれないし)
喧嘩する程元気な二神を見続けてきた鍛冶神。今落ち込んでいたら、ヘスティア達に気を使わせてしまい、静かになって元の良さの一つが失われてしまう。
天界にいた時と全く変わらないヘスティアとロキの仲を見ながら、残っていたモヤモヤ感が消え失せた。
今回の盗難事件に対して、気持ちが切り替わったのだ。
(…ありがとね。ヘスティア、ロキ)
内心二神に感謝する鍛冶神。ヘファイストスの気落ちしていた雰囲気が、完全に払拭されている。
…両者取っ組み合うロキとヘスティアには、その事に気づいてはいないが。
―――そんなヘスティアとロキの喧嘩に注目されていた頃に、翅付き帽子を被った男神と眼鏡をした女性―――――ヘルメスとアスフィが、広場に入場していた。
基本、神しかいないこの場に人間であるアスフィは目立たないように、罰が悪そうにしてヘルメスを背にしてひっそりと隠れている。
「あの、ヘルメス様。流石に私もここにいたら…」
「いやいや、別に構わないってアスフィ。固い事を言う奴はこの場にいないさ」
そんなアスフィを無理やり連れてきたヘルメスは笑い飛ばし、強張っている彼女の脇にする。
彼は服の懐に忍ばせた懐中時計の時間を確認し、そしてこの広場の中央にある二つの椅子を見た。
その椅子は未だ空席となっており、焦る気持ちで辺りを見渡し始めると、ようやく座るべき神々の声が聞こえ始めた。
「はぁ~、はっはっは! 主役という者は、遅れて来るべきなのだよ!」
「……その案に乗った俺もアレだが、流石に焦らし過ぎじゃないか?」
「…おっと、ようやく主役達が着たようだ」
聞いた事がある笑い声が聞こえ、思わず顔を上げ、聞こえてくる方角に目を向ける。
ヘスティア達も喧嘩をやめ、辺りは一斉に静まり返り、聞こえてきた方向―――――――扉の方に注目する神々。
そして豪快に、扉が開かれた。
「――――はっはっはぁ! さあ皆の衆、待たせたな! このアポロンがこの『戦争遊戯』を盛り上げ、勝利してやろうじゃないか!」
「――――それはこっちの台詞だ。勝つのは俺達だ」
同時に入場してきた草樹木の冠をした神と、ボサボサした長髪の神――――アポロンとソーマは、主役は俺達だと言わんばかりの立ち振る舞いを見せた。
ズカズカと中央を目指して歩いていき、主役らに用意されていた二つの椅子にそれぞれ座っていく。
「まさか、子供達はどこの【ファミリア】に入団しても、一年間は改宗する事はできないというルールの例外、『戦争遊戯』の特性を使おうと考えていたとはな! 負けると分かっていても盛り上げようとするとは、中々のエンターテイメンターだな、君は!」
「いや、こちらが勝つが…。まあ、あの白い少年との別れの挨拶ぐらいはさせてやってもいいぞ」
「ふははははは! 随分と楽しませてくれるじゃないか!」
お互い軽口を叩きながら睨み合う二神。片や太陽を象徴している社交的な神、片や月を象徴としている内気的な神。相容れないだろう。
火花を散らす二神に盛り上がりをみせる神々。『戦争遊戯』への期待が高まっていく。
「――――頃合いだ」
再び懐中時計を見て、ヘルメスはギルドの方向に体を向ける。
そして頭を少し下げて、許可をもらう。
「それじゃあ、ウラヌス。『力』の行使の許可を――――」
空間を震わせたヘルメスの言葉に、数秒置いて応える声があった。
【――――許可する】
ギルド本部の方角より、重く響き渡る神威の宣言が都市中に鳴り渡り、それを聞いた神々が一斉に『神の力』を出し、指を鳴らした。
その瞬間、酒場や街角などの虚空に浮かぶ『鏡』が続々と出現する。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぉおおお!!』
無数に現れた円形の窓――――『神の鏡』に、人々から歓声が湧き出た。
どの鏡の中も映っている光景は当然、太陽の旗を掲げた古城、平原、眷属達。ベル達が向かった『シュリーム城』及びその周辺であった。
『では、鏡が置かれましたので、改めて説明をしていただきます! 今回の戦争遊戯は【アポロン・ファミリア】対【ソーマ・ファミリア】、形式は攻城戦! 両陣営は既に戦場にて身を置いており、始まりの鐘の音が鳴るのを待ちわびております!』
一気に盛り上がっていく都市全体に対し、実況が拡声器を通し戦争遊戯の概要を話し始めた。
徐々に実況者の声が跳ね上がり、ギルド本部の前庭にざわめきが波状する。
「始まるね」
「うん…」
前庭の前に浮かぶ『鏡』を仰ぐミイシャは、隣にいるエイナの声に頷く。
神々が、冒険者達が、酒場の店員達が、港町の住民たちが、全ての者の視線がこの『鏡』に集まった。
そして。
『それでは、――――【アポロン・ファミリア】対【ソーマ・ファミリア】の戦争遊戯! 開幕です!!』
合図とも言える鐘の音が都市に、そしてシュリーム城周辺に鳴り響き、戦いの幕が開けた。
鐘の音が聞こえた同時刻、シュリーム城。
『戦争遊戯』が始まったが、盛り上がるオラリオとは裏腹に、素人丸出しのベルを除いたほとんどの士気は低めだった。
こちらの集中力が低下している最終日まで本格的な城攻めは引っ張ってくる、というのが大方の予想であるからだ。散発的な攻撃はあるが、それも見張りの目と堅牢な城壁の力が合わせれば問題ない、と。
そんな弛緩した空気が流れていた城内で、小人族のルアンは突如同僚に退屈しのぎで指図されてしまう。
「おい、ルアン。お前も見張りに行って来い」
「なっ……何でオイラが!?」
「お前、目だけはいいだろう。碌に戦えないんだ。昨日みたくちょろちょろ城を駆け巡って、今のうちに役に立っておけ」
この城砦は広く、規模から考えれば百人でも少ない程。地上戦も考慮しているため、自然と見張りの数も不足がちになっている。最初は反攻していたルアンも、不承不承に引き受けてしまう。
笑う彼らに送り出され、高い階段を通じて城壁へ上って行く。
「おっ、ルアン。何しに来た?」
「……見張りだよ」
事情を察した北側の見張りの獣人の青年二人は、全てを悟ったのか笑いを浮かべる。
雑用を押し付けられたルアンだが、一応形だけ忠告は送っておく。
「魔法の詠唱には注意しとけよ」
「何、心配ないさ。その時はこいつでお見舞いしてやるぜ」
獣人の見張りが長弓と特注の巨矢を取り出し、ポンと叩く。
『魔法』の威力及び射程は、通常詠唱分の長さに比例する。生半可な短文詠唱魔法では、何発撃ち込んでもこの分厚い城壁は崩せない。
警戒すべきは発散される魔力が探知されやすい長文詠唱魔法だが、自分らはそれなりの腕を持っている。相手が平行詠唱を身に付けていなければ遠方狙撃で簡単に倒せる自信があった。
また、北側と東側は荒野と僅かな緑が広がっており、所々岩の塊が存在するが、何人も隠せる大きさではない。
余裕だぜ、と得意げに交わす見張りの二人会話に、ルアンはケッ、とグレる。
その時だった。
遠くから、大勢で荒野を駆けるかのような足音が聞こえてきた。
3人が同じタイミングで見通しが良い外に注意を向けると、遠くに大勢に人影が見える。
「おい、もう来たぞ!?」
開始、わずか4分。
【ソーマ・ファミリア】の軍勢が、シュリーム城へと押し寄せてきた。
どう見ても散発的な攻撃を行う人数ではないため、長期決着ではなく短期決着が向こうの作戦だと予想できる。
「急いで団長様に連絡しろ! 北側から【ソーマ・ファミリア】が本格的に攻めてきたとな!」
「あ、ああ!」
すぐにルアンが伝令に走り、階段を駆け下りていく。見張りの二人はすぐに弓矢を構え、攻撃態勢を取りながら優先対処するべき魔法詠唱者を探す。
だが、【ソーマ・ファミリア】の軍勢は皆、鎧や盾、剣や斧や槍などを持っており、冒険者集団の前衛の武装で来ている。逆に、後衛の武装である杖持ちの冒険者が見当たらない。
それどころか、魔力の反応がない。
「……なるほどな、武人のやり方で突破してくる気か。だが弓矢はともかく、城壁はどうやって突破するつもりだ? それともどれかがカモフラージュで、まだ詠唱を開始していない魔法詠唱者か? 顔ごと隠している奴もいるし、分かんねぇな…」
前者だとしても、梯子なども見当たらず、この城壁を突破する手段がない。後者だとしても、流石に詠唱を開始しないと近づきすぎて矢の雨に晒されてしまう。
どうするべきか判断に迷う二人。もうすぐルアンが伝令から戻ってくるので、それを聞いてから攻撃してもいいが、このまま見ているだけでは流石にもどかしい。
汗を垂らす獣人二人であるが、さらに軍勢を一人一人よく見ると、妙に既視感があった。主に武器に対して。
「………なぁ、何か妙に向こうの装備が豪華じゃないか? 遠目でもわかる。【ヘファイストス・ファミリア】の装備とかあるぞ」
「ああ、店に出ていた奴だな。…向こうにそれ程の財があったのか? 下手すれば、見たことない物もそうなのか? 羨ましいな」
一人一人に高価な武器を渡せる程贅沢な使い方をした【ソーマ・ファミリア】に、向こうにも少し羨ましい点はあるんだなと、ちょっとだけ見直す獣人二人。だが、それはそれ。
丁度、ルアンが伝令から戻ってきた。
「思ったより早かったな。それで、団長様は何と?」
「近づけて矢の雨を降らせって。ゼェ…、他の奴にも声を掛けて、北門を中心に他の奴も集めているけど、陽動の可能性も捨てきれないからほどほどに、だとよ…」
伝言リレーとはいえ、猛ダッシュで走ってきたため少し息切れになっているルアンだが、しっかりヒュアキントスの指示通りに動いている。
その証拠に続々と北門の中で待ち構えており、役目はきちんと果たしていた。
それを確認するが、もう少し数は欲しいなと、見張り達は考えてしまう。そのため、一度向こうの行進スピードを遅らせて時間を稼ごうと、威嚇射撃のつもりで一人を狙撃した。
すると矢は鎧に当たり、よろけはしたものの、そこまで。
「! マジか!?」
鎧には傷はついておらず、矢は粉砕されてしまう。それを見たルアンから、冷や汗が出る。
誰一人として足は緩まず、ただ雄たけびを上げてこちらに向かってくる。
「ちっ、流石に硬いな」
「そっちがその気なら、こっちは弓矢ではなく、魔法でお見舞いしてやるぜ!」
見張りの一人が門の中で待機している者達に、詠唱準備の合図を送ろうとしたその時。
北門と、【ソーマ・ファミリア】の軍勢との距離の、その中間あたりにて。
誰もない所から、巨大な炎が出現した。
「は?」
ルアンが目を丸くし、目の前の光景が信じられず唖然としてしまうが、それも束の間。
その炎は凄まじい砲弾となって城砦へと猛スピードで向かい、着弾した―――――。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォン!
「う、うわぁあああああ!?」
「な、何だ!? 北側で、何が起きた!?」
轟音がシュリーム城全体に伝わり、異常事態が知らされる。
城壁の正面から押し寄せてきた衝撃に、城内は一瞬で混乱に見舞われた。
北門内で待ち構えていた者達はその余波によって倒れ伏しており、何人かが何が起きたのか顔を上げると、その光景に言葉を失ってしまう。
膨大な土煙を上げ、城壁が大きく破られていた。
その横で、ルアンが階段から転げ落ちてくる。
「し、信じらんねぇ!? 魔力は全然感知してねぇのに、長文……いや、超長文詠唱級の魔法がでやがった!?」
聞いていても、何が起きたのか理解できない。
ルアンは少しだけ射線から逸れていたためどうにか無事であるが、一緒にいた獣人二人は見事に戦闘不能となった。
慌てふためくが、そんな余裕はない。軍勢が侵入して来るまで、残り十数秒。
遅れてきた者達に問い詰められ、すぐに起き上がる。
「敵の数は!?」
「36人! さっきの伝令と変わらねぇ! あと奴ら、防具メッチャ硬ぇ! 多分【ヘファイストス・ファミリア】製か、もしくは【ゴブニュ・ファミリア】製かも知んねぇ!」
耳を疑う仲間達に対し、先程特注の巨矢でも傷一つ付けられなかったと補足すると、苦々しい顔を見せてくる。
そこに、リッソス達がギリギリで辿り着いた。その中にはもちろん、ベルの姿も。
「おい、団長からの追加命令は!?」
「今使いを向かわせている!」
リッソスが先着した団員に指示があったか聞くが、すぐにまだないと返答が来る。
最早、現場判断で対処するしかない。
このため、この中で一番地位が高いリッソスが即時の小隊長となった。
それに慣れているのか、ベルを除いて皆すぐに対応に取り掛かる。
「皆、戦闘準備! 魔法の詠唱も開始しろ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「は、はい!」
遅れて返事をするベル。だが、しっかりと戦える顔つきだ。
そして丁度、【ソーマ・ファミリア】の軍勢が城内の敷地へと侵入してきた。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
「皆、掛かれぇ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げながら高価な武装の軍勢が襲ってくる。
ベル達もまたリッソスの命令の元、軍勢へ斬りかかる。
『戦争遊戯』開始早々、戦場は混戦へと突入するのだった。
一方、オラリオでは早くも驚愕と興奮が人々に伝播していた。
『おおっと、これはすごーい!? いきなり【ソーマ・ファミリア】が攻めてきたー! これはまさかの短期決着のつもりかー!?』
宙に浮かぶ『鏡』の中では煙を上げる北側の城壁、そこから侵入してくる【ソーマ・ファミリア】とそれを排除してくる【アポロン・ファミリア】の交戦。
武器と武器が衝突し合い、拮抗状態である。
今は【ソーマ・ファミリア】の方が数は多いが、【アポロン・ファミリア】はすぐ後に続々と参戦してくることが予想できる。
それまでに獅子奮迅の活躍を見せつける【アポロン・ファミリア】と、当初あまり期待していなかった【ソーマ・ファミリア】の健闘ぶりに対して、両陣営へ熱い声援が送られている。
『それにしてもガネーシャ様、突然現れたあの凄まじい炎の砲弾は一体何だったでしょう!?』
『あれは――――――――――ガネーシャか!?』
『解説する気がないなら帰ってくれませんかねぇガネーシャ様ァ!!』
ギルド前の実況と解説の熱気も絶好調に達し、拡声された声が都市獣に響き渡る。
都市に熱気が伝播して、より興奮が止まらない中。
バベルの中では、多くの神々が意気揚々と称賛が飛び交い、感嘆していた。
「結構せめぎ合っているなぁ」
「level差があっても、武器の性能差がかなりあるみたいだ」
「つーかあの武器らって、【ヘファイストス・ファミリア】の所じゃね? 【ゴブニュ・ファミリア】の所もあるようだけど」
「【アポロン・ファミリア】の対応も早そうだなぁ」
広間の一角で男神達が『鏡』の一つに固まる一方、何人かは【ソーマ・ファミリア】の武器に対して、少し察してしまった。
広間の別の一角では、ヘスティアは標的を見つけたかのように、鏡に向けて指を指しながら眼帯の友人に教えている。
「ヘファイストス、見つけたよ! 犯人は、あの子達の内の誰かだ!」
「ええ、そうね。どうしてやろうかしらね………」
「うおお!? ファイたん怖ぇ!?」
隣に並んで座っている女神3人。ヘスティアは興奮と驚愕の感情が入り混じり、ヘファイストスの肩を揺さぶっていた。
それに対し、早くも容疑者を見つけたヘファイストスは怨念が籠った声で、【ソーマ・ファミリア】に対する制裁内容を考える。そのすぐ傍にいたロキは思わず身を震わしてしまう。
そんな広場の一角が別の意味で騒がしくなっている時、中央にいたアポロンは事情を察してしまい、思わず対戦相手の顔をチラ見する。
見えたのは、驚愕と困惑が隠せていないかのように汗でびっしょりのソーマの顔だった。
更なる面倒事を抱えていた事が分かった酒神だが、少しでもそれを忘れるかのように『鏡』を凝視している。
アポロンもまた早くも攻められているため少し冷や汗を流しており、『鏡』の方に目線を戻すと丁度お気に入りの白髪の少年の姿が大きく映った。
「ベルきゅん!」
「あ、よくジャガ丸君を買ってくれる常連さん、ベル君だ!」
ヘスティアは見知った顔が『鏡』に映った事で、ヘファイストスにその事を教えながら戦いを見守るのだった。
場面はシュリーム城に戻り、その北側。
リッソスやベルを含めた【アポロン・ファミリア】の部隊と、【ソーマ・ファミリア】の大部隊が戦っている。
武器と武器が高い金属音を鳴り争っているが、不利なのはこちら側。
下手に攻撃したり、防御していたら、簡単に剣が折れそうである。
そのため基本的顔がむき出しである者を狙って、戦闘不能にしようと試みていた。
しかし…。
「オラァ!」
「!? 武器が……っ!?」
そう簡単には倒させてもらえず、それ所か団員の一人の武器が折られてしまう。
その人に更なる追い打ちが入りそうとなった時、僕が横から割り込んだ。
「フッ!!」
「グウォッ!?」
「サンキュー、ベル!」
相手が攻撃する前に横蹴りが顔面へ綺麗に入り、一人を戦闘不能にさせた。
当然他の人からにも狙われて一気に僕らに襲ってくるも、リッソスさん達が僕らの前に出てフォローをしてくれている。
「あんまり離れるな! 一斉に狙われるぞ!」
「は、はい!」
リッソスさんが指示を出しながら戦いに身を投じている。まだまだ元気であるように見えるけど、余裕はほとんど感じられない。しかもよく見ると、リッソスさんの武器が所々欠けている。武器の消耗が予想以上に激しい。
一応徐々に増援は来てはいるものの、向こうの戦力はあまり削れていない。一人一人倒してはいるが、こちらも何人か倒れていた。
僕自身も既に傷は浅くても少し負傷しており、部隊が徐々に後退されているけど、頑張れば何とか耐えられる。
冷や汗が流れているように感じるけど、まだ戦える。
僕に襲い掛かってきた敵を、攻撃を避けた後に後ろ回し蹴りを横顔に叩き込んでねじ伏せた。
次! と目線を正面に向けたら、小人族の友人の後ろ姿が見えた。
急いでここから離れるかのように走っており、その姿はすぐに見えなくなる。
「あれ、ルアン? 一体何処に…?」
というか、誰かを追い駆けている様に見えるような…。
いや、今はこっちを何とかしないと。
まだまだ敵はたくさんいる。下手をすればすぐに倒されてしまう。
雄叫びが木霊する戦場で、僕もまた喝を入れて声を出して立向かおうとした時。
相手の方から一斉に、色味を帯びた剣が取り出された。
「なっ、魔剣!? しかも、大量に!?」
魔剣だとすぐに気づき、対応しおうとするエルフの小隊長だが、その量に圧倒されて動きが止まってしまう。白い少年もまた、同じだった。
どうにか動けた時には、既にその魔剣らは振られてしまった。
「「「「うぉおおおおおおおおおおおお!?」」」」
「「「「がぁあああああああああああ!?」」」」
何人かが叫び声を上げながら必死に真横に飛んだ。喰らったら一溜まりもないと分かっている。
僕もリッソスさんも何とか攻撃から免れたけど、気づいたら中央にいた数人が被弾して倒れていた。その攻撃の軌道の痕が、くっきりと地面に残っている。
だが、まだ終わらない。
残った僕達に向けて、再び魔剣を振ろうとしている!
「「「「「「「「喰らいやがれぇ!!」」」」」」」」
「ぐぉおおおおおおお!?」
「うわぁあああああああ!?」
「マジか!? 奴ら、躊躇が無さすぎる!?」
すぐに僕達は必死に走り出して、魔剣の攻撃の射線からの逃れようと躍起になる。
僕らの背後に熱や電気、氷や風などが通り過ぎていき、城内の建造物や城壁にぶつかりまくっていた。
時折逃げ遅れて被弾した断末魔も後ろから聞こえてくる。
一か八かで突っ込むより、もういっその事このまま逃げだそう、と頭の中でよぎっていた。
「リ、リッソスさん! この後どうすれば!?」
「このまま走れ! すぐに終わる!」
「え!?」
リッソスさんの返答の言葉が予想できなく、「本当に!?」と思った矢先。
魔剣が砕け散るような音が聞こえた。それも大量に。
相手は混乱しており、僕も困惑している。だけどすぐに魔剣の特性について事を考えたら、納得した。
「あっ、そうか! 使用回数か!」
「そうだ。あれだけ連発していれば、ああなる!」
ベルに対して説明の手間が省け、リッソスはすぐに突撃する構えを取る。
むやみやたらと使った結果、十数秒で使用回数に達してしまった魔剣。持ち主から去るかのように、塵となって消えていく。
【ソーマ・ファミリア】の者達に、混乱が支配していた。
丁度何人か増援も来ている。
「今が好機だ! 斬りかかれ!」
「「「「了解!!」」」」
この好機を逃さず、小隊長はまだ無事である【アポロン・ファミリア】に突撃命令を出す。
僕達はすぐに斬りかかり、何人かを戦闘不能に陥らせた。だけど、優勢だったのは最初の二十秒程度であり、現実はそう甘くはない。
あっという間に向こうの混乱も収まってしまい、反撃にあってしまう。
「シャア!」
「ウッ!?」
人混みの死角からの斬撃に避けきれず、僕の左肩に掠った。
痛みをこらえてすぐに攻撃した者を確認して応戦しようとしたら、リッソスさんが横から顔面に膝蹴りをかましている。隣にいた顔も見えなかった人は、すぐにその場から離れていく。
「まだまだ油断するな! 後ろから来るぞ!」
「はい!」
リッソスさんの指摘に従い、どうにか敵に対処していく。
四方八方と敵が襲い掛かり、剣や槍にぶつかり合う音の数が増えていった。
それを、リッソスさん達との協力プレーで倒していく。前後左右同時攻撃や、死角からの攻撃を阻止したりする。そうしている内に、肌が露出している敵に関しては、もうほとんどいない。
多かった敵の数ももうすぐ十人を切ろうとしており、ようやく目途が付いて来た、と思いきや。
ここで、再び拮抗状態に戻ってしまった。
「攻撃【魔法】を持つ者は詠唱を開始しろ!」
リッソスは指示を出すが、従う者はいない。というより、序盤で魔法を使える者が軒並み戦闘不能になってしまったため、この場に従える者がいないと言った方が正しい。
小隊長は歯がゆい思いを抱き、敵たちを見据える。
意図的に後回しにしていたとはいえ、鎧どころかもう兜で顔すらも覆われた者しかおらず、有効打が打てない。
果敢に攻めたててはいるが、最後は【アポロン・ファミリア】の武器が折れるのが先であった。
増援は来てはいるものの、魔法を使える者が中心に狙われており、詠唱が唱えている間に阻止されてしまう。
ここから敵の人数が減らず、【アポロン・ファミリア】の団員のみが僅かに減っていく。
それどころか、何人かまだ余裕を見せつけるかのように、他の魔剣を取り出してきた。
「えっ!? まだ魔剣があるの!?」
あれで終わりではない事に僕の心労が積もるような思いをしたけど、それ所じゃない。
一斉に魔剣を振り下ろされた。その内の一人が何故か、端にいる僕に向けて。
炎が、僕の元へ迫ってくる。
「またか!? 懲りない奴らだな!」
「ッ!? 危ない!?」
魔法に対する防御手段がないため、どうにか真横に避けた。
ただ、飛んだ方向が悪かった。僕一人だけ、皆から少し離れてしまう。
そんな僕に、一直線で走り込む人がいた。
「お前の相手は俺だ、白髪野郎!」
「え?」
耳に入った方を向くと、そこにはガチャガチャと鎧で音を鳴らしながら走ってくる。
さっき狙って来た人が僕を目がけて、突っ込んできたのだ。
僕は他に仕掛けて来ないか確認し、その後すぐに相手を見据える。
(全身鎧。そして、顔ごと覆う円錐型に近い兜、いや、あれはバシネットという名前があるんだっけ? しかも打撃があんまり効かないとか。だけど今の声って……、この人は『怪物祭』の時に見た、【ソーマ・ファミリア】のカヌゥさん……)
ミイシャさんの座学で教わった基礎知識を思い出しながら、僕はすぐに応戦する構えを取った。もうすぐ僕の間合いに入りかける。
すると相手も奇妙な短剣を取り出し、どの部位から攻撃してくるかと思いきや。
いきなり、僕の喉仏を狙ってきた。
「うわぁ!?」
「チッ」
何とか僕の短刀で弾いて防御したけど、相手からは舌打ちの声が聞こえた。
というか、今狙ってきた部位。喰らったら、気絶じゃ済まない。…完全に、僕を殺す気だ。
兜の奥から殺意が感じると同時に、なんか欲望の目で僕を見ているのは気のせいだろうか。
再び構えを取ると、向こうから煩わしいかのように声を上げ始める。
「大人しく、ここで死んどけや!」
「……ッ!」
周りの事は気にせず、執拗に僕を狙ってくる。僕もまた応戦した。
彼の攻撃を掻い潜りながら短刀を突き刺したが、鎧によって弾かれてしまう。鎧には傷すらついていない。
続いて兜の方にも狙ってみたけど、そこも簡単に弾かれてしまう。
いくら何でも、性能の差が違いすぎる。
「やっぱり、硬い…!」
「テメェの攻撃なんか、効かねえんだよ!」
どんなに攻撃しようとなりふり構わず僕を袈裟斬りにしようとするが、しゃがみ込んだり後退したりして躱してみせる。
相手の動きは単調であり、冒険者歴が浅い僕でも何とか避けれる。
とりあえず隙を見て攻めまくるしかないと思い、一度距離を取って攻め方を変えようかと考えた矢先。
相手の手元からさらに別の短剣型の魔剣が出てきて、僕に向けて炎を出してきた。
「なっ!?」
すぐに横に身を投げ出して、射線から外した。真横から熱を感じながらも、炎が通り過ぎる。
思考回路が追い付けず、思わず炎が向かった方向を見たけど、誰にも当たらなかったのが不幸中の幸いだった。
いや、一体いくつ、というか、そもそも魔剣ってかなり高価な物だった気が。
【ソーマ・ファミリア】にここまでの財力があったとは、聞いていない!
あったとしたら、リリはお金になんか困っていない筈だ!
…これってまさか、譲ってもらったとか、最悪、盗んできた物なんじゃ……。
邪推するかのようにカヌゥさんの武装を見ようとした時、既に目の前に来ていた。
「うわっ!?」
すぐに現実を認識し、横から首元を狙った短剣を咄嗟に跪みながら躱して、後ろに跳ねる。
相手は蹴ろうとしていたけど、ギリギリ僕の離脱の方が早く、当たらなかった。
魔剣で追い打ちをかけてきたが、それも左に跳ねて避けてみせる。
だけど、これが迂闊だった。
飛んだ方向の先に、もう一個放った魔剣の攻撃が来ていたのだ。
「馬鹿め!!」
「あ、しまっ!?」
気づいた時には、目の前に別の炎が迫っていた。まだ地面に着地していない。
咄嗟に腕で防御しても意味がない。面積が足りない。そのまま喰らう。
これで僕は戦闘不能になってしまう。
(いや、それはまずい!?)
明らかに敵が僕を殺そうとしていた。身動きが取れなくなったら、確実にトドメを刺される。顔が見えなくても、ニヤリと笑っている気がした。
背筋が凍りそうだ。でも、この状況からどうすれば!?
地面に足がつく方は先。だが、そこからまた跳ねるには少し間に合わない。屈んでも大きく当たってしまう。
もう足が地面に着きそう。どうする!? どうする!? どうすれば!?
すると頭を悩ませて焦る僕に、何故か突拍子もない事が思いついた。
(……いや、だったらいっその事、わざと着地を失敗して、最短時間で倒れ伏す!)
即座に足を動かし、地面に着かない。そして、地面に直接背中から落ちた。
ドンッ!と、背中から感じる痛みにこらえながら、上手く仰向けの体勢となる。
そしてすぐ目の前に、炎が通り過ぎた。
「アッツゥ!?」
ギリギリ当たらなかったけど、熱の余波をモロに食らった。
少し涙目になりかけたけど、命が危ういのですぐに立ち上がってみせる。
結果はどうあれ、何とか躱しきった。
「ちぃ! ちょこまかと避けやがって! いい加減、俺のために死にやがれ!」
中々攻撃が当たらず、ベルに苛立つカヌゥ。地団太を踏んでおり、『呪道具』を握る力も強く、非常にストレスが溜まっていた。
対して白い少年は体がまだまだ動けるものの、余裕など全くない。
(せ、戦場で気を緩んだら危険すぎる! 今助かったのは、偶然だ!)
幸運に助けられ、しっかりしろと僕自身に言い聞かせる。
辺りを見たらさらに何人か倒れ伏しているけど、リッソスさんは奮闘している。援軍もさらに追加されている。向こうも必死だ。
向こうの方はまだ大丈夫そうだ。後は僕自身の方。
…考えるんだ。確か鎧って、全て完全に守られている訳じゃない。
関節部とか、体をかなり動かす部分は薄いって話はミィシャさんの同僚、あのスパルタのエイナさんから聞いている!
だったらそこを狙って、この拮抗状態から僕らの優位に近づくんだ!
一度深呼吸した僕は覚悟を決め、一気に相手に近づいた。
「! 死ねぇ!」
「ここぉっ!」
正面から刺そうとした不気味な短剣を、僕の短刀に滑らせて左にそらす。
そして伸びきった彼の腕の関節部を、切り払った。
「…!」
だが、そこもキィンと空しく弾かれてしまう。傷すら付いていない。
僕の動揺が隠しきれないけれど、すぐにその場を離れて距離を取った。
「アブネェな、おい! この【ヘファイストス・ファミリア】製に傷つけてみろ! てめぇが一生かけても買えない品物だぜ! 俺と違ってな!」
苛立ちを隠さずにベルを挑発するカヌゥ。唯一の不安要素だった関節部も丈夫に守られていた事に嬉しさがあり、最早何の憂いもない。
白い少年も内心【ヘファイストス・ファミリア】製の凄さを実感していた。敵として登場すれば、嫌でもわかる。
(流石にこのままじゃ、こっちが押し負ける! どうすれば…)
こういう場合、大抵は『魔法』で攻撃すると聞いているけど、僕は発現していない。
関節技みたいな武術も、会得していない。
たとえ持っていたとしても、今みたいな集団戦ではむしろ他の人に隙だらけとなってしまう。
有効手段が思いつかず、ジリ貧になりつつあるベル。
どうにか果敢に攻めているが、全て鎧によって弾かれてしまう。
恐れを忘れたカヌゥの攻撃に激しさが増し、ベルも苦しくなる。体力も先程の戦闘で奪われており、カヌゥはこのタイミングを狙っていたのだ。
だがベルも修行した効果は出ており、どうにか魔剣の攻撃にも喰らわずに凌いでいる。
特にあの短剣を喰らったら何かまずい、と本能が危険信号を送っており、集中力は切れていない。
何度も距離を取ったり攻めたり避けたりして、時間が少し過ぎていく。
そしてようやく、魔剣が使用回数に達して砕け散った。
「なっ、クソッ!?」
「どうにか最低限はできた…、………ん?」
位置が入れ替わる形で再び距離を取ろうとした時だった。
振り返り際、カヌゥの兜の後頭部の、ある一点が目に入った。
(…! あれは…?)
ベルが目に入ったのは、小さなピン。
それは、兜のサイズ調整用に造られた部品である。
これはベルやカヌゥにも予想していなかった事だが、実はカヌゥが着ている鎧と兜は、売り物として売れない、欠陥品だった。
今ではオラリオ外の兵士が主に着ているが、それを参考にして一部を改造してつくられたものである。
かなりの硬度を持つ鎧や兜に仕上がったが、気づいた時は兜のサイズの調整ができないという欠陥を抱えてしまった。そのため、結局ピンで嵌めたりして着れるように誤魔化されている。
処分しようにもかなり金をつぎ込んでしまった手前、非売品として扱い倉庫にしまっていたが、盗難にあって持ち出されたのが真相である。その証拠に、兜の方にはヘファイストスのロゴがない。
カヌゥは鎧と兜のセットと考えていたため、鎧の方にあったヘファイストスのロゴで、これも売り物だと判断してしまったのだ。
要するに、それが壊されたり外れたりすれば、兜が簡単に緩む事になる。
与り知らぬベルであるが、少しでもこの状況を打破できないかと狙うべき目標として見定め、構えを取った。
(あれを壊せれば、もしかしたら………だけど……)
問題は、それがどれくらい硬いのか。
向こうが着ている鎧は、関節部でも傷一つ点けさせない、通常第一級冒険者が着る鎧。
対して僕が持っている短刀は【ヘファイストス・ファミリア】製ではあるものの、未だ無名の鍛冶師が打ったもの。
材料費で見れば、文字通り桁違いである。
ピン一つの硬度が、ベルの持つ短刀の耐久性を上回ったら、勝機は完全に消え失せる。
その事に理解しながら、今度は周りの状況を見る。
当初は【ソーマ・ファミリア】の速攻攻撃及び武器の質の差に翻弄されながらも、培って来たチームプレーを使って勢いを押し返している。
今は拮抗状態と言える所ではあるが、何か一つきっかけがあれば、この拮抗は崩れるだろう。
未だ僕の所に支援が来る気配はない。
つまり、ここは僕一人で切り抜けるしかない。
(…これはもう、この鍛冶師の腕を信じるしかない!)
食人花や自称エインと戦った時でも折れなかった短刀。
僕の持っている短刀の……その耐久性に賭けてみせる。
ここが勝負所として、全力で駆け抜けろ!
「はぁあああああああああああ!!」
僕は意を決して、走り出した。
「な、何だ!? 急に雰囲気が変わりやがった!?」
ベルの圧力にビビるカヌゥ。困惑し、動きが鈍くなる。
一気にカヌゥに近づいたベルは、遅く突き出した『呪道具』を難なく躱す。
そしてそのまま、何もせずにすれ違う。
「は? 何だよビビらせやがっ…」
と、彼が後ろを向こうとした直前。
僕は急ブレーキをかけ、回転した。
「ここだぁああああああああああああああ!」
「!!?」
足に大きく負担がかかり、激痛が走るもお構いなし。
狙うは、兜の後頭部のピンの一点のみ。
短刀を横一閃させ、勢いが乗る。
相手が気づいた時はもう遅く。
見事に命中し、そして破壊した。
甲高い音が鳴り、破片が飛び散った。
「なっ、てめぇ!?」
折角手に入れた上級冒険者の鎧に破損が生じしてしまい、先程まであった殺意に憤怒の感情が混じり込む。
完全に頭に血が上ったカヌゥは振り向いて、ベルを刺そうとした時。
その振り向いた勢いにより、被っていた兜が、横に回った。
「うっ…!?」
視界が暗闇となり、一瞬カヌゥの動きが遅くなる。だが勢いが失いつつも『呪道具』を目の前に刺した。
口元をニヤリとし、何も持っていない方の手で兜を向き直そうとする。
ただし、その間で不審に思う事が頭の中でよぎった。
(武器はちゃんとガキがいた方向に向けていた。暗闇になる直前の距離でも、余裕で届く。……なのに、手応えが全くなかった? どういう事だ?)
すぐに確認したいとばかりに兜を向き直す。
いざ視界に光が差し込むと、――――そこにはベルがいなかった。
ただしその光景は少し暗く見え、何が起きたと言わんばかりに左右を見ようとした時。
見えていた視界が急に明るくなり、それと同時に、兜が何かに掴まされた気がした。
反射的に手で兜を抑えようとし、そしてその正体を見ようと顔を上げるが、時既に遅し。
緩くなった兜がそのまま上後に引っ張られ、脱がされた。
「―――はっ?」
呆けた声を出すカヌゥ。
顔が露わとなり、信じられないという表情をしている。
少し後ろに仰け反るその背後に、白い少年が兜を手に持ったまま、着地した。
(――――成功、した!)
僕は内心ガッツポーズを取った。
やった事は割と単純。ジャンプで避けて、その際カヌゥの兜を取った。結果的に体が前に一回転したけど、綺麗に着地できた。
何はともあれ、これでようやく有効打を入れるが出来る。
そして兜を持ったまま振り向く。
「コンノォ、クソガキィイイイイイ!!」
ベルを『呪道具』で刺そうとするカヌゥ。憤怒の顔で憎悪の声を上げているが、動きは遅い。
白い少年は簡単に右に跳ねて躱し、そして兜を宙に放り上げた。
憎悪の男の視線はそちらの方へ誘導され、宙に浮いた兜を取り返そうと手を伸ばしかけている。
(よし、これで!!)
その間に僕は右拳を握り、突進した。
向こうの短所は明白だ。
それは、武器を使い慣れていないことだった。単調な動きをしていたため、戦闘経験がそれ程ない。攻撃を予測しやすく、僕はここまで避けられたんだ。
ハッ! と、僕に気づいて短剣で横払いしてきたけど、左手で持っている僕の短刀で弾く。短剣を手放させ、誰もいない所へ宙に舞った。
そして足を踏み込んで、硬直したカヌゥさんの鎧に守られていない部分に。
むき出しの顔面に全力で、ルノアさんやバーチェさんの見様見真似で、右ストレートを叩き込んだ。
「ハァッッ!」
「ボアァ!?」
拳が頬に入り、悲鳴をあげるカヌゥ。
そのままちょっとだけ宙に舞って白目をむき、気絶して倒れ込む。
ベルの見事な一撃で、カヌゥを下すのだった。
「なっ、おい、カヌゥ!?」
視界の端でベル達の戦いの結果を見てしまい、【ソーマ・ファミリア】の軍勢――もはや残党に近い者達に、悲鳴に近い叫び声が出ていた。
『戦争遊戯』直前、ザニスを除けば一番豪華そうな装備をしていたカヌゥ。他の者達にその事を滅茶苦茶自慢していたため、この場の中では一番戦力が高いと印象付けられていたのだ。
そのカヌゥがやられてしまったため、軍勢全体に動揺が走ってしまう。
それでも諦め悪く何人か抗うつもりだったが、北門に更なる強力な援軍が到着した。
「ダフネさんの部隊から3人、魔法士の援軍が来ました!」
「ようやくか!」
重要な橋の防衛を任されていた者達だ。ダフネも考えて、その戦力を割けてまで援軍を送ってきたのだろう。
すでに詠唱を完成しており、合図があればすぐに放てる状態となっている。
次々と相手の援軍が到着され、軍勢の士気が大いに下がりつつあった。
それをわざわざ見逃すほど、【アポロン・ファミリア】は甘くはない。
敵陣営を集団で取り囲み、なるべく一塊にさせる。そして。
「今だ! 放て!!」
リッソスの掛け声の元、魔法が放たれた。
そしてそのまま【ソーマ・ファミリア】の者達の方へ向かい、兜の中で顔面が蒼白する中、着弾した。
「「「「ぎにゃあああああああああああ!?」」」」
鎧の防御も意味をなさず、そのまま電撃や炎を喰らって悲鳴声で叫び出す。
そしてそのまま力尽き、直撃を喰らった者達は全員倒れ伏した。残りは最早、戦意喪失寸前の者達である。【アポロン・ファミリア】側には次の援軍が来た。
流石にもう、余程の魔剣や【魔法】がない限りはこの状況を覆せない。全滅するのはもう目に見えている。【ソーマ・ファミリア】の者達は投降しようとする寸前だ。
―――シュリーム城・北門の戦いは、【アポロン・ファミリア】に軍配が上がったようだ。
「ぼ、僕、何とか生きているぞ…!」
膝に手をつき、大きく息を吸ったり吐いたりと呼吸を整える。
城の敷地に侵入されてからずっと戦っていたため、流石にヘトヘトだ。
もしかしたら、ここに来てから一番戦闘時間が長かったのは、僕とリッソスさんぐらいだろう。
敵は戦意喪失している。味方もよく見たら、鈍器などが主軸の武器の人達が援軍に来ている。その攻撃による衝撃によって、何人か既に敵を倒していた。
(今の内に、傷を回復しておこう。その後リッソスさんにここを離れる事を伝えて、ルアンを探さないと…)
何かを追って何処かに行ってしまった小人族の友人を、探しに行こうとする少年。
もしかしたら、敵が他にも潜入してしまったのかもしれない。
取り合えず北門が一段落になるため、ポーションを取り出して回復を図った。
(……何だろう。胸騒ぎがする)
特に致命的な傷はついていない。こうして立っていられる。なのに、妙に気持ち悪い。
ポーションを浴びて、これまで受けた傷を癒そうと試みる。
だが、ここでようやく胸騒ぎの正体に気づいた。
傷を癒せた。だから、効力はないわけではなかった。
それなのに、浅く掠った左肩の斬り傷だけが、塞がらない。
「…!? 傷が、治らない!? 何で!?」
もう一個ポーションを取り出して左肩の傷に掻けてみたけど、全く変化がない。
傷が塞がらず、血が少しずつ流れている。
一方、オラリオでは――――。
『おお! これはすごい! 【アポロン・ファミリア】、武器の優劣を技術や連携で押し返しています!』
熱が入る実況。
人々が最初の勢いのまま【ソーマ・ファミリア】が攻めまくるかと思いきや、【アポロン・ファミリア】の守りの堅実さに感嘆の声が飛び出る。
【アポロン・ファミリア】を応援していた方は「よぉーし!」と盛り返し、【ソーマ・ファミリア】を応援していた方は「マジかぁー!?」と落胆していた。
しかし、まだ熱は衰えない。
まだ、これで決着という訳ではないのだ。
「よーしっ! よくやったリッソス、ベルきゅん! これでもう、流れはこっちのモノだ!」
ベルを起点に拮抗状態が崩れ、一気に【アポロン・ファミリア】の優勢へ傾いた事を見ていたアポロン。立ち上がりガッツポーズを取って、その白い少年やエルフ達を褒め称えた。
ソーマはがっくりとしており、頭を抱えている。
他の神々は、称賛と興奮の嵐であった。
「アポロン側の方が、抑えきったぞ! 初日でいきなり山場を迎えたとはな!」
「特にあの白髪少年! かなり魅せる連続回避をしたなぁ!」
「ああ! 途中打つ手なしと思ったけど、倒して驚いたぞ!」
「…ん? あの子、どこかで見たな? しかもつい最近、カジノかどこかで……」
「奇遇だな。俺もだ」
一方で、ベルに対して妙に既視感を覚える神々。
例のカジノの噂のとある一団の一人に似ているようなと、首を傾げながら成り行きを見ていた。
その一団の正体を知っている、豊饒の女主人では―――。
「いけー、少年ーッ! その調子でぶっ飛ばすニャー!!」
「こいつ、また懲りずに賭博を…!」
「白髪頭の方に賭けていただけ、まだマシニャ」
手を上げて、『鏡』に向かって声援を送るクロエ。その理由に察したルノアとアーニャはため息をつく。だが、全員心の中ではベルに拍手を送っていた。
リューも『鏡』を見ており、ベルの一連の行動に感心している。
「それにしても…。あの白髪頭、修行の成果出てるっぽいニャ! まだ1日しかクロエ達が教えていニャいのにニャ!」
「ルノアが無理矢理アレ一本にやらせたからニャ! あの時は「むしろ何でそれだけニャ?」と思っていたけど、こういう事だったんだニャ!?」
「まあ、ウチから見たらまだ物足りないなと思ったけど、倒せるもんだね」
「相手もLv.1ですから。耐久値も低そうですね」
思いっきり『鏡』の映像に夢中になっているクロエ達。ルノアが(勝手に)教えた踏み込みの右ストレートが早速出され、盛り上がりを見せている。
そこに、同じく『鏡』を見ていたシルも加わる。
「フフッ。皆、私がいない間に弟子ができたんだね」
「ミャーはできてないニャ」
「シル。主にそうなったのはクロエが原因ですから」
「わ、私は悪くないニャ! 少年の強運が凄すぎるだけニャ!」
「最初に提案したの、アンタだろ!」
「違うのニャ~。あれはいくら何でも想定外過ぎるのニャ~。お尻はどうにかキープできそうだけどニャ~」
「やっぱりクロエが原因だね♪」
ルノアに責められ、グテーッと猫背になるクロエ。さらっと問題発言しているが、聞かなかった事にしていた。
一連のカジノの話を聞いていたシルは面白がっており、非常にニコニコと笑っている。
しかも、その時の衣装の事まで知っていたため、それを見逃したことに残念がっていた。
「あーあ。私もリュー達の衣装、見たかったなー。特にリューの衣装! 女子のときめきを掻っ攫った男装姿って、どんなだったの?」
「シル。あれはもう二度とやらないですので…」
「何言ってるのニャ! またあの少年連れて行くのニャ! 目指せ、オラリオカジノ制覇ニャ!」
「クロエ、貴方はいい加減にしなさい」
「今度はミャーも連れて行くニャー!」
「アーニャ。話がややこしくなるから混ざらないで下さい」
『戦争遊戯』とは別に騒がしくなる店員達。
誰かにこの会話を聞かれたら卒倒物だが、生憎客は『戦争遊戯』に夢中だ。
席もまた満員となっており、大繁盛である。
一方、メレンでは。
「ほほう。やるじゃないか、あの白髪少年。まあ、妾の【ファミリア】の頭領姉妹の一人にトドメを刺したから、あれぐらいは倒してもらわんとな!」
果物を齧りながら『戦争遊戯』を見ているカーリー。初日でいきなり面白い戦闘が見られたため、ニヤニヤと笑っている。
仮面を付けたロリ神はあのままベルが体力切れになって負けると予想していたが、結果は違った。ベルが勝負所を間違えず、相手の弱点を突いたからだ。
これだから闘いというのは面白い! と、非常に『戦争遊戯』を楽しんでいる。
その神の周囲にいるアマゾネス達もまた、『戦争遊戯』を見て熱狂し、興奮をまき散らしている。
その中でも特に顕著なのは、バーチェである。
体を横に揺らしては手を振り上げようとしており、滅茶苦茶興奮していた。
「カ、カーリー様!!! あいつが……、あいつが、とても輝いて見える!!!」
「…そんな物凄い嬉しそうな声で言わなくとも……。…というか、バーチェ。お主の顔が赤いのは興奮しているからだが、胸を抑えているのは…?」
「あ、あいつを見てたら、自然と胸が苦しくなって…」
バーチェがカーリーを巻き込んで騒ぎまくる。ベルが『鏡』に映し出される度に目を輝かし、「クゥッ!?」と胸を抑えて鼓動が治まるよう体に言いかけていた。
カーリーはそんな頭領姉妹の妹を見て、「あの白髪少年に負けた事が相当ショックだったのか?」と、頭を少し悩ませている。
そんな見当違いを考えている神だが、ある意味正解に近いのは、妹と血を分けた姉の方であった。
「わかるぞバーチェ!! ワタシもフィンの事を想像したら、胸が苦しくなる!!」
「お主は黙っておれ!」
カーリーは、鎖で縛られて身動きが取れないアルガナの頭をペシッ! と叩く。
アルガナの捕獲に時間がかかり、危うく『戦争遊戯』の開始の鐘が鳴りそうだった。
「少しは大人しくせんか!」と文句を言うが、当のアルガナは全く反省しておらず、再びオラリオの潜入方法を考えている。
バーチェもバーチェで、今みたいに急にどこか不自然になる素振りを見せていた。
そんな訳あるか! とアルガナの同意を一蹴しようとした所で、何かピースが嵌まったような感じがした。姉妹とか、バーチェの反応とか、アマゾネスの性とかで。
「………いや、気のせいじゃ! うん。名前で呼んでいないし! アルガナはああなってしまい、バーチェまでもそうなっては、もう手の打ちようがないじゃからな! うん。気のせい気のせい!」
再びベルが映像に映し出され、「…ぉ!」と喜びまくるバーチェ。
そんなバーチェの現状にカーリーは現実逃避するため、再び『鏡』に映し出される映像を見るのだった。
そんな思いで見ていたら、鏡の一つに北門へ突撃していない【ソーマ・ファミリア】が6人ほど映し出されていている。流石にアレで終わりではないか、と興味を示したところで、何か既視感を感じた。
「…ん? いや待て。これは、陽動だったのか? まるで妾が聞いた、イシュタルが対フレイヤ戦に考えていたような作戦じゃな」
それはメレンでイシュタルと密会していた時に、教えられたモノ。
【イシュタル・ファミリア】が【フレイヤ・ファミリア】を正面で戦っている最中に、背後から【フレイヤ・ファミリア】を襲うという、陽動作戦。
「確か、【ソーマ・ファミリア】の団長やらもあの場にいたなぁ」と、【ソーマ・ファミリア】の思惑に気づいたカーリー。
それのデモンストレーションかのような【ソーマ・ファミリア】の攻め方であるが、一つ疑念が浮かんだ。
「しかし、どうやって砦を開くつもりなのだ? 元々内側に密偵とかがいないと成り立たん筈じゃが…、別動隊も、ん?」
そう思っていた矢先。
小人族の男性が何やら急いでいるかのように、西門に辿り着いた。
(…? あ奴は【アポロン・ファミリア】の、確かルアンとか言っていたな。何故そこに…?)
鏡に打ちしだされる光景をじっと見て、考える。神は顎に手をやり、見守っていた。
人々を熱狂させる『戦争遊戯』は、まだまだ終わらない。