詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

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アメリカにいた頃の真深とライバルの
ユイ・ウィラードとのエピソードです

念のため説明しますがアメリカの中学と高校の
野球は日本のようなトーナメント方式ではなく
リーグ戦の方式なので負けたら終わりではなく
プロみたいに1位のチームが優勝校だそうです
それを頭にいれて読んでください

それではご覧下さい!


第9話 真深とユイ

 

※ 今回の話では

 

日本語=「」

 

英語=『』

 

実況=《》

 

の形で書きますので宜しくお願いします

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

新越谷のメンバーがウィラードの

情報のニュースを見つける数時間前

 

 

 

 

 

ーー埼玉県の、とある一戸建て住宅ーー

 

 

 

 

 

「ごちそうさまーー!」

 

 

「ふふふ……よく食べたわね、ユイちゃん」

 

 

「だってお婆ちゃんの唐揚げ美味しいんだもん」

 

 

「ユイちゃんに喜んでもらえて嬉しいわ」

 

 

「エヘヘ」

 

 

その家の食卓で咲桜高校に留学した

ウィラード・ユイが祖父母と一緒に

夕食を食べ終わったところであった

 

 

「ユイちゃん、学校の方はどうだった?」

 

 

「チームメイトからも快く迎えられたし

校内の雰囲気も凄く良かったし問題ないわよ」

 

 

「そう、それは良かったわ」

 

 

ユイの話を聞いた彼女の

祖母が安心した表情を見せる

 

 

「当たり前だろ、婆さん!

ユイは儂らの自慢の孫なんだからのぅ」

 

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

「もう、お爺ちゃんったら……」

 

 

祖父の言葉に恥ずかしそうに顔を赤くするユイ

 

 

「それにしてもユイちゃんが

日本に留学するって聞いた時は驚いたわ」

 

 

「そうだな……

しかも、あの咲桜に迎えられるとはのぅ」

 

 

ユイの祖父母は自分たちの孫が

県内の名門校に入学したことを

嬉しそうにしている

 

 

「因みにどうして咲桜を選んだんだい?

ユイが留学を表明してから咲桜の他にも

色々と名門校からスカウトが来たんだろ」

 

 

「そうね……確か、粱幽館とか美園学院や

大宮大付属に埼玉宗陣からも来てたわよね」

 

 

祖父母がユイに咲桜を選んだ理由を尋ねる

 

 

「咲桜が1番熱心に声を掛けてくれた上に

他の高校よりも良い条件を提示してくれたから」

 

 

「良い条件?」

 

 

「去年の夏の優勝に貢献した時のエースを

始めとした投手陣が軒並み卒業しちゃって

投手陣に不安があったから是非とも咲桜に

来て投手陣の一角になってほしいって言ってね」

 

 

「あらあら」

 

 

「それに調べてみたら他の高校には

絶対的なエースがいたけど咲桜には

これといったエースとかいないから

咲桜なら登板機会が多いと思ったの」

 

 

「そうかい……

なら期待に応えられるように頑張らないとな」

 

 

「勿論よ! 食べ終わったばかりだから

少し休んでから庭で自主トレしてもいいかな?」

 

 

「ええ、勿論よ

どうせだから庭で夕涼みでもしていたら?」

 

 

「うん、そうするわ」

 

 

祖母に夕涼みを進められたユイは

自主トレ用具を用意して庭に向かった

その日の夜は晴天で星空が美しかった

 

 

「真深……」

 

 

そんな満天の星空を庭で見上げながら

ユイは過去の出来事を思い返していた

 

 

 

ーー2年前、5月、アメリカ、カリフォルニア州ーー

 

 

 

その日は勝敗数で並ぶ真深が所属する

青いユニフォームの"サンノゼ・ガールズ"

そしてユイが所属する緑のユニフォームの

"バークリー・ガールズ"という2つのチームが

勝った方が優勝という大事な試合を行っていた

 

 

《7回表……スコアは"4-2"!

"バークリー・ガールズ"が2点リードして向かえた

最終回にツーアウト走者なしからジータパーラーが

二塁打を放ってツーアウト二塁で迎える打者は初回

2ラン本塁打を打っているサンノゼの4番ボストフ

マウンド上のエースのウィラードは抑えられるのか》

 

 

《ウィラード選手には

最後の最後で試練が訪れましたね》

 

 

放送席で実況と解説がコメントするなかで

マウンド上のウィラードの元に内野陣が集まる

 

 

『ユイ……大丈夫か?』

 

 

『問題ありません! あと1人で優勝ですし!』

 

 

チームの先輩に声をかけられた

ウィラードが臆することなく答える

 

 

『ボストフを敬遠して5番勝負で行くか?』

 

 

『けど……ボストフの次は"彼女"でしょ?』

 

 

そう言って"バークリー・ガールズ"内野陣が

相手のネクストバッターズサークルを見ると

そこにはバットを構えて打順が回るのを待つ

真深の姿があった

 

 

『ボストフは今日、ホームランを打っているし

マミ・ウエスギはユイに相性が良すぎる打者だ』

 

 

『まさか日本人の打者がここまでやるとはね』

 

 

ボストフと勝負するか真深と勝負をするかで

マウンドでユイの先輩の内野陣が頭を悩ませる

 

 

『私はどちらが相手だろうと抑えて見せます!』

 

 

そんな中でウィラードは力強く宣言する

 

 

『ユイはどうしたい?』

 

 

『そうだ! ここまで来たらユイに全て託す!』

 

 

内野陣はユイに絶大な信頼を寄せていたので

最後のアウトを取る打者をユイに託すことに

 

 

『私は……

ボストフを歩かせて真深と勝負します!』

 

 

ウィラードは真深と勝負する決断を下した

 

 

『それでいいのか、ユイ?』

 

 

『確か奴は1度も打ち取れてないんじゃ?』

 

 

『意外ね……今年はノーヒットノーランを2回も

成し遂げたユイが1度も打ち取れてないだなんて』

 

 

『だからこそです!

最後に真深を打ち取って

今までの借りを返して優勝を決めて見せます!』

 

 

『よし、分かった!

ユイがそう言うな私たちも信じるよ!』

 

 

『しっかり抑えて借りを返してやりな!』

 

 

『はい!』

 

 

内野陣の先輩たちにエールを送られ

ウィラードは力強い表情と声で返答すると

内野陣はそれぞれのポジションに散っていった

 

 

《さあ! バークリーの内野陣が散ります

果たしてどのような作戦にしたのでしょうか?》

 

 

放送席の実況と解説が成り行きを見守ると……

 

 

《捕手が立ち上がりました、敬遠です!

ボストフを敬遠して5番勝負のようです》

 

 

『チッ! 逃げたか……(マミ、後は任せたよ)』

 

 

敬遠されたボストフが一塁へ向かいながら

ネクストバッターズサークルの真深を見る

 

 

《5番、マミ・ウエスギ》

 

 

真深の名前がコールされると

真深が淡々と打席に向かった

 

 

『マミ! 落ち着いて行けば大丈夫だ!』

 

 

『頼みます!』

 

 

一塁からボストフが

二塁からはジータパーラーが

真深を信じて鼓舞していると

打席に立った真深が力強く頷いた

 

 

《さあ! 4番、ボストフを歩かせて

ツーアウト一塁・二塁となって迎える打者は

誰がここまでの活躍を予想したことでしょう

昨年の秋に突如レギュラーへと抜擢されると

打率はジータパーラーに次ぐ高打率を記録し

本塁打もボストフに次ぐリーグ2位の成績を

残しウィラードに対して10割という打率を

記録している日本人外野手のマミ・ウエスギ》

 

 

《今年度、最大のサプライズですね》

 

 

《さあ果たしてウィラードが

最後に打ち取ってチームに優勝をもたらすか

それともマミ・ウエスギが打って逆転するか

今日はここまで3打数で2安打1四球の成績》

 

 

放送席の実況と解説も固唾を飲んで戦況を見守る

 

 

『マミ……私も日本人の血が流れてるけど

純粋な日本人である貴女がここまでやるなんて』

 

 

ウィラードは呟きながら打席の真深を見る

 

 

『ここまで10割も打たれただなんて

屈辱だったけれど……チームのためにも

先輩たちのためにも何より私自身のためにも

最後に貴女を打ち取って今までの借りを返すわ』

 

 

意を決したウィラードが振りかぶって

1球目を真深に向かってストレートを投げる

 

 

スバン!

 

 

『ストライク!』

 

 

真深はストライクを空振りした

 

 

《マミ・ウエスギ

ストレートを完全に振り遅れました》

 

 

《流石に重圧が掛かっているようですね》

 

 

ストレートを振り遅れた真深の

スイングを見た実況と解説が

真深が重圧に負けていると見た

 

 

しかし……

 

 

『いや……いつものマミだ』

 

 

『貰いましたね』

 

 

塁上のボストフとジータパーラーは違い

逆に何かを確信したように笑みを浮かべていた

 

 

そして向かえた第2球にウィラードが

外角低めへの緩いカーブを投げると真深は

バットを振りそうになって慌てて止めたが

一塁の塁審が手を上げてスイングをコール

 

 

《マミ・ウエスギ

明らかなボール球に手をだし

バットを止めたもののスイングを取られ

あっという間に2ストライクと追い込まれました》

 

 

《これは決まったでしょうか?》

 

 

実況と解説は"バークリー・ガールズの"勝利を

確信したらしくマウンド上のウィラードを含めた

"バークリー・ガールズ"のメンバーも同じだった

 

 

『よし! 流石に重圧に負けたようね

最後は今までことごとく貴女に打たれた

私の1番の得意で決め球で決めてやるわ』

 

 

ウィラードは真深を三振に打ち取ろうと

自身の1番の決め球を投げることにした

それは真深に最も打たれている球であり

最後にその決め球で決めようとしたのだ

 

 

『さあ……これで三振しなさい!』

 

 

声を発しながらウィラードが投げた球は?

 

 

《ウィラード渾身の決め球"シュート"だ!》

 

 

ウィラードの決め球はシュートだった

真深が重圧に負けると判断した彼女は

今度こそ打ち取れたと思った

 

 

…………しかし!

 

 

ガキィィィィィィィィィィィィィィン

 

 

『!?』

 

 

《捉えたーーーーーーーー!!》

 

 

ウィラードが青ざめた表情で振り返って

打球の行方を追うと実況も真深の打球に

大きな声を発した

 

 

真深は前の2つ前のスイングとは

段違いのスイングでシュートを捉えると

真深の放った打球がスコアボードに直撃した

 

 

《入りました! 逆転3ラン本塁打ーーーー!!》

 

 

《おおっ……!?》

 

 

《やはりウィラードに……

そしてシュートに強かった、マミ・ウエスギ!

"5-4"と"サンノゼ・ガールズ"が優勝に逆王手!》

 

 

実況が興奮した大声を発し

解説は唖然としてしまっていた

 

実は最初のストレートを振り遅れたと

ユイが判断した時点で勝負は決まっていたのだ

 

真深はウィラードは最後はシュートで

決めたいだろうと予測しユイに確実に

シュートを投げさせるためにワザと

ストレートを振り遅れると2球目の

緩いカーブにもバットを食いついて

何とか止めたような素振りを見せて

相手が自分が重圧に負けて速球を

捨てたと思わせようと心理戦を仕掛け

ユイはそれにまんまと嵌まったのだ

 

 

『…………』

 

 

ユイは打たれた瞬間に

それを悟ったらしくマウンド上で項垂れた

 

 

『よくやった真深!』

 

 

『お見事です!』

 

 

真深のホームランで先にホームに帰っていた

ボストフとジータパーラーが真深を称える

 

 

『流石だね! 私も続くよ!』

 

 

次の打者のモウアーが意気揚々と打席に向かう

 

 

『相手はまんまと嵌まったみたいだね』

 

 

『気付いてたんですか?』

 

 

『フッ! 当然だ

やはりマミをレギュラーにするように

監督に頼んだ私とジータの判断は正しかった!』

 

 

ボストフが自分の作戦に気づいていたことに

真深が尋ねるとボストフは誇らしそうに返した

その後ボストフとジータパーラーとベンチに

戻ってきた真深はチームメイトに手洗い祝福で

出迎えられて揉みくちゃにされてしまっていると

 

 

カキィィィィィィィィィィィィン

 

 

ユイは動揺していたのかモウアーに

ストレートをド真ん中へ投じると

モウアーは失投を逃さずに捉えて

ライトに二者連続の本塁打となり

更に1点を加え6-4とリードを

広げた"サンノゼ・ガールズ"

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

『ストライク、バッターアウト!』

 

 

7回裏の"バークリー・ガールズ"の攻撃では

"サンノゼ・ガールズ"のクローザーが3人で

打ち取って優勝が決まったのだ

 

興奮した先輩たちがマウンド上で騒ぐなかで

真深は相手ベンチの中で悔し涙を流していた

ユイの様子に気づいてしまうと優勝を嬉しく

思いながらも先輩たちのように心の底からは

騒ぐ気になれなくなっていた

 

 

『どうかしましたか、真深?』

 

 

『ジータ先輩……』

 

 

そんな真深の様子に気づいたのか

ジータパーラーが真深に声をかけてきた

 

 

『優勝の立役者が浮かない顔ですね』

 

 

『いえ……勿論、嬉しいんですけど

相手のベンチを見たら騒ぐ気になれなくて……』

 

 

そう言って相手ベンチを見る真深に吊られて

ジータパーラーも相手のベンチに目を向ける

 

 

『真深は優しいんですね

ですが……それが勝負の世界というものです』

 

 

『はい……分かっています

相手に同情するのは失礼なことですし

私だって相手に同情されるのは嫌です

けど悔し涙を流す相手の前で騒ぐのは』

 

 

『その気持ちは私にも分かります

ですがウィラードの性格を考えて見ると

それすらも屈辱に受け取るかもしれませんよ』

 

 

『…………』

 

 

ジータパーラーが優しい声で真深を諭すと

 

 

『マミ! ジータ!

こんなところで突っ立ってないで此方に来な!』

 

 

ボストフと数人のチームメイトが

はしゃぎながら真深とジータパーラーを連れ出す

 

 

『ボス……少し落ち着いてください』

 

 

『いいじゃないか、優勝したんだ!

真深だって優勝の立役者なんだから

遠慮することなんてないんだからな』

 

 

『はっ、はい……』

 

 

ボストフのテンションの高さに真深と

ジータパーラーは若干、引いてしまっていた

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

『うぅぅ……』

 

 

"バークリー・ガールズ"のベンチではユイが

感情を押さえられず悔し涙を止めどなく流している

 

 

『ユイ……』

 

 

『先輩……ごめんなさい、私……』

 

 

『アンタはよくやったよ、胸を張りな』

 

 

『でも先輩たちを優勝させられなかった』

 

 

『しっかりしな、ユイ!

秋からはアンタが最上級生なんだからね』

 

 

『そうだよ! "バークリー・ガールズ"を頼んだよ』

 

 

そんなウィラードを主将を初め

"バークリー・ガールズ"の先輩たちが励ます

 

秋から高校に進学する為に今日の試合が

先輩たちにとって最後の試合だったのだ

 

 

『私たちの代わりに来年こそ優勝してくれ』

 

 

『……はい、必ず!』

 

 

涙を流しながらもウィラードは

先輩たちに心配まで掛けまいと

力強く頷いたのであった

 

 

しかし翌年……

 

 

"バークリー・ガールズ"の悲願は思わぬ形で

それも彼女には不本意な形で果たされたのだ

 

 

 

 

 

ーー翌年、4月ーー

 

 

 

 

 

ボストフ、ジータパーラー、モウアー

エースのラスターソンが高校進学でチームを

去ったことで真深は"サンノゼ・ガールズ"の4番と

主将を任されていたが真深にとって辛い年度となった

 

ボストフたちが抜けて空いたポジションには

真深と同世代のメンバーが起用されたものの

そのメンバーは昨年真深にレギュラーの座を

奪われたことを根に持つ上に差別意識の強い

捻くれた性格をした娘がリーダー格であった

 

その為に真深を主将と認めようとしなかった

 

その上自尊心も人一倍強かった為に監督にも

反抗することがあった為に纏まりもなかった

 

前年度の強さのまま優勝に突き進んでいる

"バークリー・ガールズ"とは対照的に順位こそ

辛うじて上の方に位置していたが最早優勝など

狙えるような位置の順位などではなかったのだ

 

そんな中でも真深は懸命にチームを牽引しようと

普段から自分で野球用具や練習場の整備をしたり

試合に出ると打率も本塁打もチーム1位の成績を

叩きだす上に守備でも無失策であった

 

順位がそこそこ良かったのはその為だ

 

そんな中でとある4月上旬に向かえた

"サンノゼ・ガールズ"と"バークリー・ガールズ"の

試合当日に真深は試合開始前に1人でベンチに向かう

 

 

そこへ……

 

 

「真深!」

 

 

「ユイ?」

 

 

偶然、真深とユイが通路で遭遇した

 

 

「驚いたわ……日本語で話しかけられるなんて」

 

 

「いけない? 私だって半分、日本人なんだけど」

 

 

「そうね……ごめんなさい」

 

 

心外そうな表情になったユイに謝る真深

 

 

「ねぇ、真深……あなた、大丈夫?」

 

 

「何が?」

 

 

「"何が"って……最近の貴女、憂鬱そうな表情よ」

 

 

「あぁ……ごめんなさい」

 

 

真深が浮かない顔で返事をしたときだった

 

 

『あの……マミ先輩』

 

 

『マリンちゃん、マリナちゃん』

 

 

『え~と……お邪魔でしたか?』

 

 

『大丈夫よ。どうしたの?』

 

 

チームに所属する下級生2人が真深を呼びに来た

真深に憧れてチームに加わった控えながら双子で

三遊間を組んでいる実力者で来年には間違いなく

レギュラーに選ばれるだろうと言われている

 

 

『監督が探していました』

 

 

『今日の試合のことで話があるみたいです』

 

 

『分かったわ、知らせてくれてありがとう』

 

 

『『はい!』』

 

 

真深に優しい表情でお礼を言われ嬉しそうになる

 

 

……しかし

 

 

『こら! そこの下級生!!』

 

 

『『ヒッ!?』』

 

 

後ろから突然、怒鳴り付けられ怯えてしまう

 

 

『ソイツ(真深)と喋るなって言ったわよね!?』

 

 

『わっ、私達は監督が呼んでることを伝えに』

 

 

『下級生が上級生に口答えするの!?』

 

 

『ごっ、ごめんなさい……』

 

 

『うぅぅ……』

 

 

怒鳴られたことで縮こまってしまう

 

 

『この娘たちを怒鳴ることないでしょう

それに二人とも怖がっているじゃないの

貴女が気に入らないのは私だけのはずで

この娘たちは関係ないわよね!?』

 

 

真深が二人の前に庇うように立ちはだかった

 

 

『フンッ! 東洋人が生意気言うんじゃないよ

去年、私からレギュラーを奪っただけじゃなく

今年は主将の座を利用して好き勝手した奴め!』

 

 

真深と下級生二人を怒鳴り付けた

チームメイトの女が苛立ちながら立ち去った

 

 

『『…………』』

 

 

『ごめんね、二人とも……

私のせいで貴女たちにまで火の粉が飛んで』

 

 

『いいえ! マミ先輩は悪くありません!』

 

 

『そうです!

あの人なんかよりもマミ先輩の方が

プレイでも人柄でも上なんですから』

 

 

『フフッ、ありがとう』

 

 

『それにマミ先輩のお陰で私たちも

練習する時間ができて嬉しかったです』

 

 

『また色々と、ご指導してほしいです』

 

 

『えぇ、勿論よ』

 

 

そう言いながら真深は二人の頭を優しく撫でる

 

 

『それじゃ、私は監督の所に行ってくるから』

 

 

『はい! 今日もスタンドで応援しています』

 

 

『失礼します、マミ先輩!』

 

 

真深にお辞儀をして二人は去っていった

 

 

「ねぇ……何、今の?」

 

 

ユイが気に入らなそうな表情で聞いてきた

 

 

「チームの後輩の娘達よ

打撃も守備も上手いから来年度は

間違いなくレギュラーとして活躍する筈よ」

 

 

「そうじゃないわよ!

さっき訳のわからないことで怒鳴ってた奴よ!」

 

 

「あぁ……」

 

 

そんなユイからの指摘に

真深は苦笑いを浮かべることしかできずにいる

 

 

「東洋人のくせに生意気って何よ!?

前から真深のチームの雰囲気が悪いって

思ったし感じてたけどアレが原因なの?」

 

 

ユイは自分の母親が日本人であり自身も

日本人の血を持つために先程の発言には

強い憤りを感じていた

 

 

「仕方ないのよ……

何度か仲直りしようとしたことがあるし

監督やボストフが注意もしたけど絶対に

受け入れてくれなかったから私も監督も

手に負えないから下級生の娘も怖がって

チームの雰囲気はもう最悪な状態なのよ」

 

 

「そんな……

こんなこと言うのは何だけれど

実力では貴女が断然上じゃない

悔しいけど今年度も私は貴女を

撃ち取れてないのに対して他は

1割も打ててないじゃないのよ

第1さっきの奴は控えでしょう」

 

 

「さっきの娘が

私にレギュラーを奪われた娘よ

先輩たちがチームを去ったのに

私がいるから控えの外野として

登録されてるって余計嫌われて

周りの同世代の娘も同調してて

私を主将と認めてくれないのよ」

 

 

「最悪……」

 

 

ユイは完全に不愉快な気分になっていた

 

 

「チームメイトに主将と

認めてもらえないだなんて

チーム史上1番ダメな主将ね」

 

 

「…………」

 

 

「見苦しいところを見せて、ごめんなさい

監督が探してるみたいだし、私はもう行くわね」

 

 

「ちょっと、真深!?」

 

 

「今日の試合も宜しくね」

 

 

ユイが呼び止めようとしたが

真深は逃げるように立ち去っていってしまった

 

 

「真深……」

 

 

そんな真深をユイは見送ることしか出来なかった

 

 

 

 

 

ーーそれから数時間後ーー

 

 

 

 

 

《サンノゼ VS バークリーの試合は

スコアは"8-2"と"バークリー"がリード

"バークリー"のエースのウィラード投手は

ここまで6回を被安打と失点もソロ本塁打

2本による2失点だけという好投を見せて

打っても3ラン本塁打を含む5打点の大活躍》

 

 

試合はユイの独壇場と化していた

そして回は最終7回表を向かえていた

 

 

『ストライク、バッターアウト!』

 

 

7回表の"サンノゼ・ガールズ"は先頭の3番が

三振であっさり打ち取られてワンアウトとなり

そして次に向かえた打者は……

 

 

《4番、マミ・ウエスギ》

 

 

スタジアムに真深の名前がコールされた

 

 

《さあ、今日はここまでの2打席で

2安打2本塁打の、マミ・ウエスギ

2回の第1打席と4回の第2打席で

いずれもソロ本塁打を打っています》

 

 

他の打者が三振か内野ゴロという中で

真深だけは相変わらず結果を出していた

 

 

「ふぅ……今日も打たれた

けど試合も、ほぼ決まったし最後に抑えるわ」

 

 

チームの最年長のエースとなったことで

精神的に成長したユイはそれまで真深に

打たれたことを忘れてこの打席に集中し

今度こそ抑えようと意気込んでいた

 

 

しかし……

 

 

《打ちました! 大きい!》

 

 

「!?」

 

 

2ストライクと追い込まれてから

粘られた後の直球を捉えられると

 

 

《入りました!

今日3本目となるソロ本塁打

これで"8-3"となりましたが

点差は未だ5点差と厳しい状況です!》

 

 

真深以外の打者の調子を考えると

実況の言うことは的を得ていたが

ユイは打たれたこと以上に気になる事があった

前の2打席で打った本塁打の時もそうだったが

ベンチに戻った真深を誰も歓迎していなかった

今までにも違和感を感じたことがあったユイは

試合前の出来事を見て漸く理解したのであった

 

その後の打者を三振で打ち取り"バークリー"が

8-3と終始試合を有利に進めて勝利をしたが

真深の事情を知ったユイにとっては後味の悪い

不愉快な試合になってしまったのであった

 

 

そして翌月5月……思わぬ事態が起こった

 

 

その日は"サンノゼ"と"バークリー"の

今年度の最後の試合の日だったのでユイは

今度こそ真深に勝とうと意気込んでいたが

スコアボードに真深の名前がなかったのだ

 

 

「真深が控え?」

 

 

スコアボードを見たユイは

真深の姿を探したが何処にも見当たらなかった

 

 

すると……

 

 

『あら、ウィラードさん♪』

 

 

『貴女は!』

 

 

ユイに声を掛けたのはあの時

真深と真深の後輩を怒鳴り付けた

真深のことを目の敵にしていた少女だった

後ろに取り巻きらしき娘を数人連れている

 

 

『今日の試合……よろしくお願いしますね』

 

 

そしてユイに挑発的な口調と目付きで言い放った

 

 

『えっ? えぇ……(何よ、その見下げた目付き)』

 

 

当然ユイは相手の表情や目付きを不快に感じた

 

 

『そういえば……真深、知らない?

スタメンじゃないし姿も見当たらないんだけど』

 

 

ダメ元で真深の居場所を尋ねると

信じられないような答えが帰ってきた

 

 

『あぁ……あの東洋人なら消えたわよ』

 

 

『きっ、消えたって?』

 

 

『チームを辞めたのよ

お陰で漸くチームに平穏が戻ったわ』

 

 

 

 

 

 

 

『……………………はっ?』

 

 

 

 

 

 

 

返された答えにユイは頭が真っ白になった

 

 

『辞めたって……なんでよ!?

まさかアンタが何かしたんじゃないわよね?』

 

 

以前のやり取りを思い出したユイが問い詰める

 

 

『あら失礼ね……

高校入学に備えて受験勉強とか言ってたわよ』

 

 

『じゅ、受験勉強?』

 

 

『えぇ、来年の春に日本の

高校に進学する基準を満たすために

日本人学校に編入して勉強ですって』

 

 

『真深が日本に帰る!?』

 

 

『来年の3月みたいね……

だけど大方、怖じ気づいたに決まってるわ』

 

 

少女がそう言うと取り巻きの娘たちも

ニヤニヤと声を出さずに笑っていた

 

 

『怖じ気づいたって……どういうこと?』

 

 

『知らないの? あの女……

国内の名門校から幾つもスカウトが

あったにも関わらず日本の高校なんかに

進学するからって全て断ったらしいのよ』

 

 

『!?』

 

 

その言葉にユイは愕然とした

実は真深は日本人であるにも

関わらずにこれまでの実績を

高く評価され野球の名門高校から

幾つかのスカウトが来ていたのだ

 

因みにユイにも幾つもスカウトが

来ていたのでユイは真深とは違う

高校に進学してリベンジしようと

意気込んでいたので真深が日本に

帰ってしまうという話を直ぐには

受け入れられなかったのである

 

 

『そんな、真深……』

 

 

『所詮東洋人ね……怖じ気づいたのよ』

 

 

『怖じ気づいたですって……!?』

 

 

相手の発言にユイがギロリと睨み返す

 

 

『だってそうじゃない?

自信があったらスカウトを受けた筈よ

受けずに日本に帰る道を選んだってことは

無理だって怖じ気づいたってことじゃない』

 

 

『…………』

 

 

真深は怖じ気づいたりしないと

対戦相手ながら真深の性格を理解してたので

ユイが更に少女と取り巻きを強く睨み付ける

 

 

『ほんと目障りな娘だったわ

私からレギュラーを奪っただけでは

飽きたらずに主将の権利を行使して

週に1度を下級生の練習日にしたり』

 

 

『下級生の練習日?』

 

 

『えぇ、そうよ!

下級生や控えのメンバーが週に1日くらいは

グラウンドで練習が出来る様にって週に1日

レギュラーメンバーが野球用具やグラウンド

整備なんかをする日を取り決めたりしたのよ

アタシ達があの娘を主将と認めなかったから

自分の言うことを聞く下級生や控えの連中が

レギュラーになれるようにしようとしたのよ』

 

 

『!?』

 

 

真深を目の敵にしていた少女が

苛立ちながら真深を罵っていたがユイは

真深を慕っていた双子の事を思い出した

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『それにマミ先輩のお陰で私たちも

練習する時間ができて嬉しかったです』

 

 

『また色々と、ご指導してほしいです』

 

 

『えぇ、勿論よ』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あれは、そういう意味だったのね……」

 

 

ユイは全てを悟った

真深が純粋にレギュラーより練習できる

機会の少ない下級生や控えメンバー達に

練習ができる機会を用意してあげたいと

思ったのと同時に自分たちの世代がチームを

去った後もチームが強さを維持できるように

後の世代のメンバー達を育てようとしたこと

更にレギュラーメンバーが初心や野球用具を

大切にする気持ちを忘れないようにする機会を

設けようとしたのであろうと直ぐに悟ったのだ

 

そして自分も是非とも真深のような主将がいる

チームでプレイがしてみたいとも感じていると

不意にこの前の真深の言葉を思いだした

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「チームメイトに主将と

認めてもらえないだなんて

チーム史上1番ダメな主将ね」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

(真深……貴女は立派な主将よ)

 

 

ユイは心の中で真深のようなライバルに

出会えたことを嬉しく思った瞬間だった

 

 

『とにかく……

今までは自分勝手でチームの和を乱す目障りな

奴がいたから貴女なんかに手こずっていたけど

晴れて解放された今日は私たちが打ちまくって

貴女を早々にマウンドから下ろしてあげことで

私たちの実力を証明してあげるから宜しくね♥️』

 

 

真深を目の敵にしていた少女は

派手に投げキッスをして見せたのだが

それによってユイの中で何かがブチ切れた

 

 

『……アンタ達なんか』

 

 

『ん? なぁ~に?』

 

 

『アンタ達なんか私が全員三振にしてやるわ!』

 

 

『『『『『!!!?』』』』』

 

 

『今日はアンタ達には二塁すら

踏ませてやらないから覚悟していなさい!』

 

 

ユイは凶悪犯すらも腰を抜かすような

凄まじい覇気を放ちながら立ち去った

 

 

そして……

 

 

『ストライク・バッターアウト!』

 

『ストライク・バッターアウト!』

 

『ストライク・バッターアウト!』

 

 

《ウィラード投手、圧巻の投球!

相手打線から次々に三振を取っていきます!》

 

 

ユイは今までにない圧巻の投球を披露し

次から次へと三振の山を築いてしまうと

 

 

ガキィィィィィィィィィン

 

 

《これも行ったーーー!

今日3本目の本塁打となる3ラン!!》

 

 

打者としたも3本塁打と打ちまくったのだ

ユイのあまりの気迫を前に相手だけでなく

観客も実況も味方も言葉を失ってしまった

試合は完全にユイの為の試合になっていた

 

 

 

 

 

ーーそしてーー

 

 

 

 

 

《試合終了ーー! "24-0"

"バークリー"が"サンノゼに対し大勝!

ウィラード投手が圧巻の投球で完全試合達成

なんと奪った三振は実に17奪三振に加えて

打つ方でも4打数4安打3本塁打の固め打ち》

 

 

あまりの試合に実況が興奮しながら声をあげる

ユイは宣言通り相手に2塁を踏ませるどころか

1塁すら内野ゴロで4回しか踏ませない投球を

披露して完全試合を達成してしまったのである

更にユイの投球に後押しされる様に味方打線も

勢いに乗ったらしく大差のついた試合になった

 

 

『そっ、そんな……

あの東洋人が打てる投手を

どうして私たちが打てないのよ!?』

 

 

あまりの惨敗に真深を目の敵にしていた

少女と少女の取り巻きたちが愕然としていた

中には屈辱からか涙を流している娘すらいた

 

 

『アンタは野球を辞めなさい!

自分と相手の実力差が分からない様な

アンタなんかが野球を続けても無駄よ

球場の客席でビールでも売ってなさい』

 

 

そんな惨めに項垂れる相手に

ユイは厳しい言葉を残して去っていった

 

 

 

 

 

 

 

ーーそして場面はユイの祖父母の家にーー

 

 

 

 

 

 

 

「真深……やっと、また貴女と対戦できるわ」

 

 

夕涼みをしながら回想を終えた

ユイは星空を見上げ微笑みながら呟いた

 

 

「さあ! 自主トレ、頑張らないと!」

 

 

夕涼みを終えたユイは

意気揚々と自主トレを始めたのだった

 

 

 

 

 

その頃……

 

 

 

 

 

ーー新越谷高校の合宿場ーー

 

 

 

 

 

「そうですね……

折角だし皆には話しておきますね」

 

 

ユイとの関係を知られた真深は

ユイが留学してきた真相を話していた

 

 

「覚えてない詠深?

去年の5月の終わり頃に詠深と

新越谷高校を受験する電話をした時のこと」

 

 

「うん、覚えているよ

あれからもう1年経つんだよね」

 

 

「そうね……

実はあの電話の直後だったんだけど」

 

 

そう言って真深は経緯を話し始めた

それはユイが完全試合を達成した

翌日の夕方近くの時間であった

 

 

 

 

 

ーーユイが完全試合を達成した翌日ーー

 

 

 

 

 

「そう……詠深は新越谷高校を受けるのね」

 

 

真深は自宅で従姉妹の詠深と電話をしていた

 

 

「うん……うん……大丈夫よ

来月から日本人学校に編入して3月に卒業して

学校教育課程を終わらせられるから帰国したら

私も春から新越谷に通えるから楽しみにしてね」

 

 

真深は詠深と日本の高校受験の話しをしていた

 

 

「お互い受験勉強頑張りましょう……じゃあね」

 

 

真深は最後に詠深にエールを送って電源を切った

 

 

「さて、頑張りますか!」

 

 

電話を終えた真深は机に向かって勉強を始めた

小学生6年にアメリカに引っ越す時に詠深とは

高校は一緒に通おうと約束していたので真深も

気合いが入っていた……その時だった

 

 

「真深ーー!」

 

 

真深の部屋の外から母親の呼ぶ声が聞こえた

 

 

「なに、お母さん?」

 

 

「お客さんよ」

 

 

「お客さん?……誰かしら?」

 

 

来客の予定はないはずだと思いながら

真深が部屋を出て玄関に向かって見ると

 

 

「真深……」

 

 

「ユイ!?」

 

 

玄関にいたのはユイだった

 

 

「急にどうしたの?」

 

 

「話があるの……ちょっと付き合ってくれる?」

 

 

「えっ?……えぇ、ちょっと出掛けるね」

 

 

「あまり遅くならないようにね」

 

 

母親に一言告げてから

真深は言われるがままユイに付いていった

ユイに連れて来られたのは近所の公園だった

 

 

「単刀直入に言うわ

日本に帰るって本当なのよね?」

 

 

「……誰に聞いたの?」

 

 

「昨日の試合の前に

あの嫌みったらしい女から聞いたわ」

 

 

「そういえば昨日は完全試合を達成したのよね」

 

 

「あんな素人以下の奴らを相手に

達成できたって別に嬉しくもないわよ」

 

 

ユイは真深を目の敵にしていた

少女とその取り巻きたちをバッサリ切り捨てた

 

 

「私の話なんて今はどうでもいいわ

それより何でアメリカの高校に行かないのよ?

真深にはスカウトが沢山来てたって聞いたわよ」

 

 

「父の転勤の期間が来年の3月で終わるのよ

これは前から決まっていたことだから高校は

日本の高校を受けようって前から決めてたの」

 

 

「だから日本人学校に編入する訳?」

 

 

「えぇ……私が来年の4月に

日本の高校に進学するためには

日本の教育機関が定められてる

学校教育課程9カ年に私は半年

足りないから日本人学校で来年

3月まで在学して卒業できれば

問題なく4月から通えるからね」

 

 

真深の話は帰国子女ならではの話だった

9月から新年度を迎えるアメリカに対し

4月から新年度を迎える日本の高校へと

入学する為には9カ年の学校教育課程を

修了しなくてはならず6月にアメリカの

中学を卒業しても半年分の課程が足りず

4月に日本の高校に1年生から通うには

アメリカの全日制日本人学校に編入して

3月末日まで在学して修了する必要があるのだ

 

 

「アメリカで私の通っていた中学は

日本が3年間なのに対して2年間だからね

アメリカの中学を卒業しただけじゃ日本の

高校に進学する条件を私は満たせないのよ」

 

 

「そうだったわね……よく分かったわ

だけどアメリカの高校に入れば言い話じゃ?」

 

 

「両親が日本に帰るのに私だけ残れと?」

 

 

「名門校ならそれなりのバックアップや

生活のサポートを保証してくれる筈だけど?」

 

 

「えぇ、確かにそんな話もあったわ」

 

 

「だったら!」

 

 

「けどダメよ……それでも」

 

 

「どうして?」

 

 

「約束したのよ

アメリカに引っ越すときに

高校は一緒に通おうって約束した娘がいるの」

 

 

真深は詠深との約束をユイに打ち明けた

 

 

「それに流石に一人でアメリカに

残ってまで野球をする気なんて無いわ」

 

 

「!?」

 

 

未だに打ち取れていない事を置いても

真深と高校でも真剣勝負をしたかった

ユイにとって真深の言葉は癪に触った

 

 

「何よ、それ!?

勝ち逃げしようって言うわけ?

私はまだ1度も真深に勝っていないのよ

それがなくても高校で真深と真剣勝負を

することを私は楽しみにしていたのに!」

 

 

声を張り上げながら真深に

自分の気持ちと憤りをぶつけるユイだったが

 

 

「……ごめんなさい

ユイの気持ちは嬉しいけど

日本に帰る私の気持ちは変わらないわ

ユイはこれからもアメリカで頑張って

ユイなら高校でも成功してプロに行けるわ」

 

 

「クッ……」

 

 

その言葉にユイは両手を強く握りしめた

真深の表情からは日本に帰ることにより

野球に対する情熱まで無くなったような

感じさえしてしまっていた

 

実際に真深は日本人学校への編入を機に

受験勉強に励むために野球を辞めようと

考えてしまっていたのだ

 

 

「因みに真深は何処の高校を受験するの?」

 

 

ユイは俯きながら真深に

受験する予定の高校の名前を尋ねた

 

 

「埼玉県の新越谷高校よ

私は実家が埼玉県だし帰国子女も

受け付けてる学校だから成績さえ

基準を満たしていれば問題ないわ」

 

 

「埼玉県……」

 

 

埼玉県と聞いてユイは目を見開いた

埼玉県はユイの母親の実家でもあり

母方の祖父母の家もありユイも夏に

毎年家族で帰省していたのであった

そしてユイは思わぬ宣言をした

 

 

「だったら……」

 

 

「えっ?」

 

 

「だったら私が日本に行くまでよ!」

 

 

「ちょっ! 何を言ってるのよ!?」

 

 

「何を言ってるですって!?

真深がアメリカに残らないって言うなら

私が日本に留学すればいい話しだってことよ!」

 

 

「無茶言うんじゃないわよ!

ユイはもう進学する高校も決まってるし

将来はアメリカ女子野球を背負う選手に

なるって期待されているんだから日本へ

留学することなんて認められる訳ないわ」

 

 

「そんなの私の知ったことじゃないわ!

私の人生なんだから、どうするか私が決めるわ」

 

 

「高校はどうするのよ!?」

 

 

「辞めて日本の高校に留学する試験を受けるわ

若しくは日本の高校野球に私の成績を公表して

スカウトが来るのを待ってみることにするわ!」

 

 

「生活はどうするのよ!?」

 

 

「生憎と母さんの実家が埼玉県で

祖父母も住んでるからホームステイするわ

日本語だって問題なく話せるし毎年夏には

家族と帰省していたんだから日本の生活に

慣れているしその時にテレビで高校野球の

試合を見て出てみたいなって思っていたし」

 

 

「留学生として高校野球に出るには

3年間日本の高校に在籍する必要が

あるから途中でアメリカに帰れない

そうなればアメリカでプロデビュー

する道が無くなるかもしれないのよ」

 

 

「日本だって世界ランクでは

アメリカと対して差がないから

高校野球で結果を残して日本で

プロデビューすれば良いだけよ

初めて日本でプロデビューする

外国人として話題になるかもね」

 

 

「…………」

 

 

ユイの決意がこもった

口調に真深は唖然としてしまった

 

 

「真深の受験勉強の邪魔になると悪いし

私は来年まで真深と会わないようにするわ」

 

 

「えっ?」

 

 

「次に会うのは来年の夏……埼玉県大会の時よ」

 

 

そう言うとユイは真深に

背を向けて立ち去ろうとする

 

 

「私は真深と勝負できればいいの

勿論1度も勝ったことがないのも

理由の1つだけど私にとって真深との

真剣勝負ほど楽しかった勝負はなかったわ」

 

 

「…………」

 

 

「来年の夏……グラウンドで会いましょう」

 

 

ユイは1度振り替えって

真深に言い残すと走り去っていった

 

 

「ユイ……無理よ

貴女ほどの実力者が日本に

留学だなんて認められないわよ」

 

 

真深はユイが日本への留学は

無理だと思いながら走り去る

ユイの背中を静かに見送った

 

 

 

 

 

ーーそして場面は合宿場に戻るーー

 

 

 

 

 

「あの時の私は野球に対する

熱意を無くしていたこともあって

ユイの話を聞いても到底無理だと

決めつけてたんですけど……本当に来たのね」

 

 

話を終えた真深はあり得ないと思っていた

ユイの留学に戸惑い呟きながら顔をあげると

 

 

「「「…………」」」(;_;)/~~~

 

 

詠深と白菊と息吹が目を

大きくして光らせながら目から滝を流していた

 

 

「どっ、どうしたの、詠深?」

 

 

3人のあまりの様子に真深が

冷や汗を流しながら尋ねると

 

 

「真深ちゃ~~~ん!!」

 

 

「いい話じゃないの~~!!」

 

 

「わたくし感動しました~~!!」

 

 

「ヒィィィィィ!?」

 

 

その勢いのまま飛び付かれ混乱する

 

 

「真深ちゃんが私との約束を

守ろうとしてくれたことも嬉しいけど

ユイさんとの話も凄く感動したよ~~」

 

 

「真深もユイも格好良すぎるわ~~」

 

 

「このような話は

野球漫画でも見たことありません~~」

 

 

「わっ、分かったから落ち着いて」

 

 

「びぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

詠深と息吹と白菊の反応に真深は戸惑ってしまう

 

 

「珠姫! なんとかして!」

 

 

堪らず珠姫に助けを求めたが……

 

 

「いっ、今は良いんじゃない?……グスッ」

 

 

「ちょっと珠姫!?」

 

 

詠深ほどではなかったが

珠姫の目にも光るものがあった

見ると菫と稜も珠姫と同じような状態に

 

 

「そうよ……今みたいな

話を聞かされて泣くなって言うほうが無理よ」

 

 

「ウィラードって良い奴なんだな……

ある意味、真深の仇をとってくれたんだろ?」

 

 

「素晴らしいライバル関係だねーー!」

 

 

芳乃は逆に興奮しながら

いつものように髪をピョコピョコさせていた

 

 

「これは咲桜と当たるまでは

意地でも負けるわけにはいかないな」

 

 

「そうね……私も

ウィラード投手と対戦してみたいわ」

 

 

「私だって勝負したいけん!」

 

 

怜と理沙と希は真深の話と

ユイの実績を聞いて闘志に火が付いたようだ

 

 

「よーーーし! 明日も練習頑張ろう!!」

 

 

「「「「「「「「「おーー!」」」」」」」」」

 

 

芳乃の声に真深以外の全員が

気合い十分に声をあげたのであった

 

 

そして……

 

 

「フフフ、チームの結束力が更に高まりましたね」

 

 

先程まで芳乃のマッサージを受けていた

藤井先生が部屋の扉の前で微笑んでいた

 

 




自分で書いてて何ですが……
球詠っぽくない内容になっちゃいましたね

なんかスミマセン……

何はともあれ次回からは球詠本編に戻ります
そして次回からは影森戦以外はオリジナルの
内容で進んで行きますので宜しくお願いします

下にユイのデータを掲載したのでご覧下さい
それでは次回まで失礼致します



【ウィラード・ユイ(優衣)】


アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフ

ポジションは投手だが打撃力があるために
登板するとき以外は三塁手に就くこともある

容姿のモデルは金髪でスカイブルーの
瞳をして髪飾りは普通のヘアゴムをした
【エヴァンゲリオン】の【アスカ】

名前とプレイスタイルのモデルは
【横浜ベイスターズ】で投手ながら
打者としても活躍した【ウィーランド】

アメリカの中学時代では真深のチームの
ライバルチームのエースでボストフや
ジータパーラーですらも手こずらせて
ノーヒットノーランを三度も記録した
好投手な上に打撃力もあり本塁打も打つ
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