練習試合に向けた、このストーリーによる
一部がオリジナル展開での話しになります
既に初勝利を上げている新越谷が
どのような士気で守谷欅台との
練習試合に意気込むのか
そして芳乃と希の会話の中ではアメリカでの
真深の過去を知ったときの希の心境や真深に
対する思いが語られますので読者の皆様にも
楽しんで頂ければ光栄です
それでは、ご覧下さい!
新越谷が初勝利を達成して数日が経過した
あれから新越谷野球部は週末に練習試合を
行いながら着実に実力と結果を重ねながら
同時に来る中間テストに備えるため部活と
勉強とバランス良く励みながら夏の大会と
中間テストに向けて励んでいた
そして中間テストが週末に迫ったある日の晩
ーー川口家ーー
「♪~~♪~~♪~~」
「芳乃、またデータ? 少しは勉強しなさいよ」
「私は授業ちゃんと聞いてるから大丈夫だよ」
中間テストを目前にした
川口家では芳乃が部屋でタブレットの
画面を見ながら上機嫌な様子を見せていた
「……機嫌良さそうね」
「うん! だって白菊ちゃん
ノックの捕球率がグンと上がってるんだ
内野陣は勿論、息吹ちゃんも良くなってる
やっぱり上達が数字に表れると嬉しいよね
先々週の試合でも2勝目を上げられたしね」
藤和高校との試合で初勝利を上げたことで
やる気を高めたメンバーはノックの練習を
積極的に行い数週間前より遥かに上達して
いたようである
それにより新越谷は先の練習試合で見事に
2つ目の白星を上げていたのだったが……
「でも……心配なのが希ちゃんなんだよね」
「希が、どうしたのよ?」
一転して心配そうな表情になった
芳乃に息吹が首を傾げて尋ねると
「実は、希ちゃん……
打率は5割を越えてるんだけど……」
そう言って芳乃はタブレットを息吹に渡す
「わあ! 凄~~い」
息吹はメンバー全員の成績を正確に
記録された芳乃のタブレット画面に
思わず感心した声を出す
「だけど得点圏で1本も打ててないんだ」
「へぇ~~、意外だわ」
「うん……気にしてないと良いんだけど」
息吹は高い打率と出塁率を記録している
希がチャンスで打てていないと知らされ
信じられなそうにするが確かに記録には
希の得点圏打率が"0割"と記されていた
(今度、藤井先生と会議しないと……)
芳乃は中間テストの直後に藤井先生と
会議で話し合うことを心に決めたのであった
そして数日後……
ーー中間テストーー
真深、詠深、息吹、芳乃のクラスでは
(あれ? きちんと勉強した筈なのに……)
息吹がテストの難問に少々苦戦していた
一方で真深と詠深と芳乃の3人は表情を
変えずスラスラと解答欄に答えを記入していた
そして全ての教科のテストが終了した翌週には
生徒全員に中間テストの成績表が配られると
「おーい、詠深! 中間テストどうだった?」
成績が公表されるや否や隣のクラスから
稜が"からかう気"満々の表情でやって来た
因みに稜と同じクラスの白菊も同行していた
「ふっふっふっ……来ると思ってたよ」
そんな稜に詠深は不適な笑みを浮かべると……
「じゃーーーん!」
詠深が意気揚々と成績表を見せる
なんと詠深の成績は9教科中2教科の
100点を含め他の教科も軒並み70点以上と
900点中762点という1年生401人中で
29位という高い成績だった
「ウソだろ……仲間だと思ってたのに……」
「文武両道……尊敬します」
稜と白菊は成績が悪かったのか
詠深の成績を見て衝撃を受けたのか
苦い表情を浮かべながら涙目になっていると
「稜ちゃん……まさか赤点取ってないよね?」
芳乃が稜に凍てつくような視線を向けてきた
はっきり言って…………怖い
「そっ……それは、大丈夫……」
そんな芳乃に稜だけでなく
白菊も冷や汗をかきながら挙動不審になった
どうやら2人とも赤点ギリギリだったようだ
「なーーんだ!
稜ちゃんが大丈夫なら、みんな大丈夫だね?」
「おーーーい!
それ、どういう意味ですか!?」
一転して明るい表情になって
口にした言葉に稜が盛大に突っ込む
すると丁度詠深たちのクラスの前を
通りがかった希が気付いて中に視線を向けた
「そう言えば真深が居ないな……?」
そんな希に誰も気づかないでいると
稜が窓側の真深の席に真深が居ないことに気づく
「真深ちゃんなら先生に呼ばれて職員室だよ」
「職員室?(はは~~ん……さては真深の奴)」
詠深の言葉を聞いた稜が不適な笑みを浮かべる
「稜ちゃん……どうかしたの?」
「いや! 何でもない、何でもない!」
詠深に聞き返された稜が嬉しそうに答えると
(あっ! さては稜ちゃん……真深ちゃんの成績を)
そんな稜の様子に詠深は稜の意図を
悟ったようだか敢えてその先を言葉にしなかった
すると稜は不意に芳乃のスマホの画面に気づいた
「おっ! それ今までの練習試合のスコアか?」
「うん! そうだよ~~」
稜に尋ねられた芳乃が意気揚々と画面を見せる
ーーーーーーーーーーーーーーーー
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
新越谷. 3000001 .4
柳大川越 0001300 .4
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
大鷲. 0230103 .9
新越谷, 2010012 .6
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
新越谷. 3020001 .6
藤和.. 0010110 .3
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
新越谷, 1010022 .6
松経大付 2020200 .6
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
総州.. 0001001 .2
新越谷. 202202X .8
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
新越谷. 2001002 .5
八竹学院 050032X .10
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
新越谷. 2010020 .5
竹の塚. 020402X .8
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここまで"2勝3敗2分"……」
「2連敗して負け越したね……」
「ですねぇ……」
「でも私は楽しいよ!
試合にも出られて、そこそこ勝ててるし」
「でも連敗は嫌だよ……」
芳乃のスマホに記録された柳大川越戦から
今までの練習試合の結果を見て息吹、詠深
白菊、稜が思い思いに感想を口にしていた
「しかし……
よく試合受けてくれるな
ほとんど1年のチームなのに」
「藤井先生が頑張ってくれてるし
負け越してるとはいえ格上相手に
いい試合をしてるから評価してるのかもね」
稜と芳乃の会話を詠深、息吹、白菊だけでなく
教室の出入口の前に立つ希も聞き入っている
「それにしても真深は凄いな!
7試合で本塁打9本で打点18だもんな」
「そうね……チャンスや
ここぞという場面で打ってくれるからね」
「真深さんが居れば恐いもの無しですね」
「!!」
稜と息吹と白菊が何気なく呟いた言葉に
クラスの前で様子を見ていた希が聞いて
思わず動揺してしまっていた
すると……
「希ちゃん?」
「ひゃっ!?」
後ろから突然声をかけられた希が
驚いて振り替えると声をかけたのは真深だった
「どうかしたの?」
「真深ちゃん!?」
希は相手が真深だと分かり慌てふためいてしまう
「なっ、何でもないけん……ゴメン」
「あっ、希ちゃん!」
そしてそのまま走り去ってしまった
「希ちゃん……」
そんな希の後ろ姿を真深が心配そうに見ていると
「おっ! 真深、戻ってきたな!」
真深に気づいた稜が教室の中から真深を呼ぶ
「稜ちゃん……白菊ちゃんも来てたのね」
「はい! お邪魔しています」
そんな真深に白菊が、お辞儀をして挨拶すると
「ところで真深……
職員室に呼ばれてたんだって?」
「え? えぇ、ちょっとね……」
「ふふ~~ん」
稜が真深に中間テストの結果を聞くと真深が
困ったような表情をして返事をしたので稜が
イタズラな笑みを浮かべる
どうやら真深がテストの成績が悪かった為に
職員室に呼び出されたのだと見込んだようだ
「そう言えば真深は中間はどうだったんだ?」
そして期待を込めた様子で真深に尋ねる
「あっ! 稜ちゃん、やめた方が……」
しかしその様子を見た
詠深が慌てて稜を止めようとしたのだったが
「中間テスト?…………はい」
真深は何も疑わずにスカートの
ポケットから自分の成績表を見せてしまうと
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
現代語 = 100
古典 = 90
数学I = 96
数学A = 93
英語R = 100
英語G = 100
科学 = 92
物理 = 95
世界史 = 100
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
真深は成績は詠深を上回る9教科中
4教科が100点で他の教科も90点以上と
900点中866点で1年生401人中3位
全学年で見ても5位という圧倒的な成績だった
「ぐはぁ!?」
「りっ、稜ちゃん!?」
それを見た稜は真っ白になると
その場で膝から崩れ落ちながら両手を床に着いた
「あぁ~~、だから言ったのに……」
「真深ちゃんは成績が
良かったから職員室に呼ばれたのに」
「私も稜ちゃん程じゃないけど
真深の成績を見たときは驚いたわね」
崩れ落ちた稜を詠深、芳乃、息吹が
苦笑いをしながら気の毒そうに稜を見つめる
「真深さん! 師匠と呼んで良いですか?」
「……勘弁してください」
打撃と勉学の両方に優れた真深を尊敬して
発した白菊の言葉を真深は即座に却下した
「それで真深ちゃん……先生はなんて?」
「野球より勉学に励んで
良い大学を目指したらどうかって言われたわ」
「「「「「えっ!?」」」」」
詠深の質問に答えた真深の言葉に
詠深、息吹、芳乃、白菊だけでなく
先程まで崩れ落ちていた稜まで
立ち上がって動揺した声を出す
「そっ、それで!?」
「勿論、キッパリ断ったわ……
正直余計な、お世話って言ってやりかったけど」
「「「「「ホッ……」」」」」
今度は一転して安堵の溜め息をする詠深たち
「けど……何だってそんなことを?」
「多分……不祥事でイメージが悪くなっている
野球部で頑張るより成績の良い真深ちゃんには
勉強の方で活躍してもらいたいって先生たちに
思われたのかもしれないね」
「何だよソレ!? 腹立つな!」
芳乃の推測を聞いた稜が堪らず憤りを示す
「大丈夫よ、稜ちゃん
私の野球に対する熱意を先生方に
しっかり言い聞かせてやったから」
「おっ、マジか!? 」
「えぇ……不満そうな先生も居たけどね」
「アハハ! それは是非見てみたかったぜ」
最初は憤った稜だったが真深が先生からの
進めを拒否し、それに対して不満そうにした
教師がいたと聞くと一転して上機嫌になった
「とにかく夏の大会まで残り1ヶ月だし
来週の週末の練習試合が大会前の最後の
練習試合になるから気を引き締めていこうね」
「そうだね!
今、2勝3敗2分けで負け越してるから
最後の練習試合に勝って星を五分に戻そうよ」
「「そうね」」
「だな」
「はい」
芳乃と詠深の言葉に真深、息吹、稜、白菊が
明るい声と表情で答えると稜と白菊は
「また練習で」と言い残し自分たちの
クラスへと戻っていった
「ところで芳乃ちゃん」
「なに、真深ちゃん?」
「今さっきまで希ちゃんが教室の出入口の
前に立っていたんだけど……何かあったの?」
「えっ!?」
希が見聞きしていたという真深の
目撃証言に芳乃は驚きを隠せなくなる
(希ちゃん……
さっきの話を聞いて気にしたんじゃ?)
芳乃は希が得点圏で打ててないことを
気にしていないか気がかりだったので
先程の稜と息吹が真深の打撃に関する
話を聞いたのではと危惧した
ーーそして、その日の放課後ーー
芳乃はメンバーに、いつも時間に
練習を上がるように告げてから
藤井先生と二人で会議をしていた
「ここまで2勝3敗2分けですね
幾つか問題点もありますが中々の成績ですね」
「はい! 八竹学院との試合では
課題だった守備でのサインが合わずに
大量失点したイニングもありましたけど
次の竹の塚との試合では4回に投手陣が
打ちこまれはしましたけど八竹学院との
試合の時よりも改善されていましたから
今度の練習試合は無失策も狙えると思います」
「そうですね……
守備の向上は何より明るい材料ですね
次の守谷欅台との試合は私も期待しています」
2連敗を喫しているとは言え
藤井先生と芳乃もチームの守備の
レベルアップの手応えを感じているようだ
「ただ……心配なのが希ちゃんで」
そして同時に芳乃はこの場で藤井先生に
希の得点圏打率のことを相談を持ち掛けると……
「得点圏打率ですね?」
「先生も気がついていたんですか!?」
希の相談したと同時に藤井先生が相談の内容を
言い当てたので芳乃は思わず驚いてしまったが
「私は新越谷の監督ですよ」
「先生……」
笑顔でウィンクをする藤井先生に芳乃は
彼女が新越谷野球部の監督で良かったと
心から思ったのであった
「それで芳乃さんの考えは?」
「はい! 次の守谷欅台との試合では
希ちゃんに自信を着けてもらうためにも
チャンスで回りやすいクリーンナップを
お願いしようと思っているんですけど?」
「いいと思います!
中村さんならクリーンナップでも
実力を発揮してくれるでしょうし
今度の試合で自信を付けて貰いましょう」
「はい!」
藤井先生にも賛成してもらって
芳乃が嬉しそうな声を上げると
「僭越ながら私も次の試合で
試してみたいことが2つほどあります」
今度は藤井先生が芳乃に提案をしてきた
「次の試合……
上杉さんを、出さずに挑もうと思っています」
「えっ、真深ちゃんを出さないんですか!?」
藤井先生の提案に芳乃が思わず声を上げる
真深は相変わらず打撃が絶好調で守備でも
無失点と安定していたからだ
「真深ちゃんはチームの主砲ですよ」
「だからこそです」
「だからこそ?」
「はい」
意味が分からなそうに首を傾げる芳乃に
藤井先生は一転して真剣な表情で説明し始める
「私も選手時代も含めて今まで
数々の優れた打者を見ては来ましたが
上杉さんの打撃力とセンスは飛び抜けています
ですが最近……主に1年生のメンバーを中心に
上杉さんの打撃を頼りすぎる傾向が見られます」
「!!」
藤井先生の説明に芳乃も"ハッ"とする
「そう言えば……」
そして昼休みでのメンバーの会話を思い出す
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それにしても真深は凄いな!
7試合で本塁打9本で打点18だもんな」
「そうね……チャンスや
ここぞという場面で打ってくれるからね」
「真深さんが居れば恐いもの無しですね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「確かに……さっき昼休みに
真深ちゃんが居ないときに教室で
息吹ちゃんたちが、そんな話をしていました」
「やはり、そうでしたか……」
芳乃の証言を聞いて確信したのか
藤井先生が再び真剣な表情になって両腕を組む
「……いざとなったら
真深ちゃんが打ってくれるという期待が
逆に悪影響になってるということですね」
「はい……新越谷は停部明けなので夏の大会も
相手の警戒が薄い序盤こそは上杉さんの打撃で
勝ち上がれたとしても勝ち続ければ必ず警戒され
歩かされてしまう機会だって増えることでしょう
梁幽館のエースで4番の中田さんが良い例です」
「…………」
「そうなれば幾ら上杉さんの後ろに
岡田さんが控えてるとは言えチームの
得点力が落ちてしまう可能性はあります
だからこそ次の試合では上杉さん無しでも
点を取れる形を掴むのと同時にチーム内にも
打撃力の向上の意識を持たせるべきでしょう」
藤井先生の説明を聞いた芳乃も納得すると同時に
自分自身も最近の練習試合の作戦を考える際には
真深や希の打撃を過剰に頼っていたこと自覚した
「そうですね……分かりました
次の試合は真深ちゃん無しで行きましょう」
頷きながら決心した表情で宣言する芳乃に
藤井先生も安心したように優しい表情で頷いた
「上杉さんには私から事情を話しておきますね」
「いいえ! チームの参謀として
私から真深ちゃんに話をさせてください!」
「そうですか? では、お任せします」
「はい!」
真深に次の試合を休みにする事情を話す役目を
芳乃が藤井先生から譲り受けると続けて先生に
質問を投げ掛けた
「そう言えば次の試合では
試してみたいことが2つあるって
言ってましたけど……もう1つは何ですか?」
「あぁ……もう1つは武田さんのことです」
「詠深ちゃんですか?」
4番の次にエースの話が出たので
コレも大事な話だと察して芳乃は耳を向ける
「あらかじめ山崎さんとも
話をしておきますが次の試合では"あの球"を
完全に封印して投げて貰おうと思っています」
「"あの球"を1球も使わないんですか?」
「はい……新しく習得した
"ツーシーム"と"カットボール"を主体にして
どれだけの投球が出来るが確かめたいのです」
「あっ! それは私も考えていました」
藤井先生の考えに今度は芳乃も大いに賛同した
「"ツーシーム"や"カットボール"は
"あの球"より内野ゴロや外野フライに
なりやすいですから内野陣と外野陣の
守備力を確認が出来ますし武田さんも
"あの球"だけでなく他の球種に対する
自信も着けてほしいと考えています」
「そうですね……確かに"あの球"は
詠深ちゃんの最大の武器ですけれど
詠深ちゃんには"あの球"が無くても
投げれる力がある投手だと思います」
詠深に対する藤井先生の期待は芳乃も
抱いていたらしく直ぐに先生の言葉に賛同した
「それでは守谷欅台との試合は
上杉さんの打撃と武田さんの"あの球"に
頼らず挑むということで作戦を立てましょう」
「はい!」
藤井先生の言葉に再度、芳乃が頷くと
2人は芳乃の集めた、対戦相手である
守谷欅台高校のデータを分析しながら
打順を含め守備陣に出すサインなどの作戦を
時間を忘れて念入りに考えて話し続けていた
ーーそれから暫くしてーー
芳乃と藤井先生が守谷欅台との試合の
メンバーと作戦などを考え終えた時には
太陽が沈んでおり夜になってしまっていた
「すっかり遅くなっちゃった」
苦笑いを浮かべながらも藤井先生と
有意義な時間を過ごせた満足さからか
芳乃は上機嫌で家に帰ろうとしていた
「皆も帰っちゃったよね……」
そう言って芳乃が野球部の
グラウンドの方に目を向けた時だった
キィン キィン キィン
「?」
グラウンドの方からトス打撃の音が聞こえた
「希ちゃん?」
芳乃がグラウンドに入るとトス打撃で
打撃練習をしていたのは希だったのだ
しかし……
(酷いスイング……)
希のスイングは本来のスイングではない
雑でどこか無理をしているように感じる
スイングでそれを表すかのように表情も
焦りを感じさせるような張り詰めた表情だった
「希ちゃん!」
「ひゃ!?」
芳乃が嬉しそうな表情と声で希に
背中から飛び付くと誰も居ないと
思っていた希は飛び上がって驚いてしまう
「芳乃ちゃん……何!? あぶないやん」
「みんな帰ったと思ったから嬉しくて」
戸惑いながら返事をする希に芳乃が答えると
芳乃は、そのまま希に話しをしようと言って
ベンチに連れていった
「二人でこんな風に
ゆっくり、お話しするのって初めてだね」
「うん……」
「いつも1人で残ってたの?」
「たまに……家、狭いけん……
素振りもできんし公園とかも恥ずいし……」
なんと希は時々、1人で
自主的に居残り打撃練習をしていたらしい
「そっか……
ところで前から聞いてみたかったんだけど
希ちゃんの中学ってどんな感じだったの?」
「どんなって……新越谷と同じで
みんな野球が好きで楽しかったよ」
希は芳乃の質問に答えると
静かに自身の中学の話しを始めた
「だいぶ強いチームやったけど
全国出場を掛けた大事な試合で私がチャンスで
打てんかったせいで全国大会行けんかったけん
……4回もチャンスで回してくれたのに……」
そう言って希は自身の両手を握り締める
「この前の練習試合でも
チャンスで打てんかったせいで負けたけん」
どうやら希はチームが2連敗を喫した
原因が自分にあると責任を感じていたようだ
「私も、もっと頑張らんと……
幾ら塁に出てチャンスを作っても
自分がチャンスで打てなかったら意味ない」
「…………」
やっぱり希がチャンスで打ててないことを
気にしていたと知った芳乃も掛ける言葉が
思い浮かばないでいると
「それに……私も真深ちゃんみたいに
皆のために打てる打者になりたいんやけん!」
「!?……それは、どういうこと?」」
希の口から真深の名前が出たので
芳乃は内心で驚きながらも静かに希に尋ねる
「真深ちゃんがアメリカで同世代の仲間に
嫌がらせをされたって聞いてショックだった、
けどそれ以上に真深ちゃんは凄いと思ったけん」
「凄いって……打撃とか
ボストフ選手やジータパーラー選手と
同じチームでプレイをしていたこと?」
「ううん……それもあるけど
そんな辛い思いをしてきたのに
いつも真深ちゃんはチームの皆の
応援を打撃の力に変えて打ってるけん
そんな真深ちゃんがホンマに凄いと思って」
「うん……そうだね」
希の話を聞いた芳乃も確かにそうだと思った
大抵の人はそんな体験をしたら他人のことを
思いやる気持ちなど無くしてしまうだろうと
思ったからだった
ーーその頃の真深と詠深ーー
「くしゅん!☆≡(>。<)」
「あれ、真深ちゃん……風邪?」
「変ねぇ……もう夏になるのに?」
一緒に家に帰ろうと駅に向けて歩く中で
"くしゃみ"をした真深を詠深が心配していた
ーー場面は新越谷高校に戻るーー
「それなのに私は仲良くしてくれた
中学の皆の気持ちに答えられなかったけん
そやから真深ちゃんを見てると皆の思いに
答えられない自分のことが情けなくなって」
「そうだったんだ……」
「練習試合で藤和と総州に勝てたのも
真深ちゃんの打撃と詠深ちゃんの投球のお陰けん」
「希ちゃん……」
そう呟いて芳乃は新越谷が見事に
2勝目を上げた総州高校との練習試合を思い出す
:::: 1234567 .計
ーーーー ーーーーーーー ーー
総州.. 0001001 .2
新越谷. 202202X .8
試合は初回に希が出塁して続く菫がバンドで
二塁に進めると続く珠姫もヒットで繋げると
4番の真深と5番の怜のタイムリーで2点を
先制すると3回に真深が2ラン本塁打を打ち
続く4回には先頭打者として出塁した珠姫と
敬遠された真深を塁に置き怜と理沙の2人の
タイムリーで更に2点を加えると6回には
真深がその試合2本目となる2ラン本塁打で
再度2点を加え守備でも先発のエース詠深が
5回まで失点は相手の4番の本塁打による
1失点に抑えると6回から詠深と交代して
息吹も被安打2で1失点と好投をした上に
課題の守備も無失策という新越谷が完勝を
納めた試合だったのだ
総州高校との試合の回想を終えた芳乃は
まさか希がそんなことを考えていたと知り
なんとか希に立ち直って欲しいと強く願う
「勝ちたいって気持ちは一緒だけど
それに……誰も連敗したのが希ちゃんの
"せい"だなんて誰も思っている筈がないよ」
「…………」
「打てなかった人……守れなかった人
皆が反省して、もっと頑張ろうって思ってる
希ちゃん1人が責任、感じることじゃないよ
現に、藤和高校との試合で初勝利をしたのに
帰った後に皆が各々、練習試合でダメだった
プレイを中心に、練習に励んでいたでしょう」
「あっ……」
芳乃の励ましを聞いた希は大鷲高校と藤和高校と
練習試合を終えて学校に戻ったメンバーの全員が
試合でミスをしたプレイや自分に足りないと思う
練習に励んでいたことを思い出した
「前のチームも、きっとそうだよ……
全国で会おうって見送ってくれたんでしょう?」
「!?」
その言葉で希の頭に埼玉に引っ越す前日に
見送ってくれた箱崎松陽の仲間の姿が過る
その表情は希との別れを心から惜しむ表情だった
「私ね!
希ちゃんがホームインして
ハイタッチするのが一番の楽しみなんだ
もちろん得点圏でも期待してる……けど」
芳乃は一度、間を置いてから
希の顔を真っ直ぐに見ながら話を続ける
「勝っても負けても皆が自分の課題を見つけて
練習をして今よりも強くなろうと頑張っている
……だから全部1人で背負わないで欲しいんだ」
「芳乃ちゃん……」
芳乃の励ましの言葉に話し始めた時は
暗かった希の表情が落ち着いた表情に
徐々に戻っていく
「1人で頑張って孤立して1度は
大好きな野球を辞めようとした人、知ってるから」
ーーその頃の真深と詠深ーー
「くしゅん☆≡(>。<)」
「……詠深も人のことを言えないじゃないの」
「あれ、可笑しいな?」
今度は詠深が"くしゃみ"をしたので
真深も呆れながらも詠深の心配をしていた
ーー場面は再び新越谷高校に戻るーー
「まあ……希ちゃんが
そうなるとは思ってないけど
自主トレする時は誘って欲しいな
いつかみたいに家に来てもいいし」
そう言って芳乃は希の自主トレに
協力することを満面の笑みで志願する
「それに……希ちゃんが言い出したことだよ」
「えっ?」
「一緒に全国に行くんでしょ?……みんなで!」
「!?」
そう言って芳乃が笑顔で希の両手を握ると
希は芳乃の手が新しい豆だらけである事に気づく
(新しい豆がいっばい……
ノックはために毎日バット振ったとったい)
そんな芳乃の励ましの言葉と
豆だらけの手に気づいた希は
重荷から解放されたような
清々しい気持ちに満たされて
焦る必要は無いと悟り芳乃の
手を掴んだまま立ち上がると
「うん!」
先程までの焦りを感じさせる
張り詰めた表情はなくなっていて
いつもの明るく可愛らしい笑顔に戻っていた
「じゃあ、さっそく!
ダメダメなスイングを直さないとね!」
「そげん、はっきり言わんでも……」
焦りながら振っていた時のスイングの
悪さをストレートに指摘されて思わず
希も拗ねた表情になるが不意に芳乃が
こんな遅くまで学校に残っていた事が
気になり出して芳乃に尋ねる
「そういえば……
芳乃ちゃんは今日は遅くまで何しよったと?」
「藤井先生と次の試合の会議だよ
練習試合じゃ普通はここまでしないけど
今度の試合は色々と試してみたい事があるから」
希の質問に答えながら芳乃は鞄から表紙に
"マル秘"と書かれてるノートを取り出して
希に中身を見せて上げる
「これって……
今度、試合する相手チームのデータ……?」
ノートには次の練習試合で
ゲームをする守谷欅台のデータが書かれていた
「今度の試合で3勝目を目指そうね」
「うん!」
迷いがなくなった希が芳乃の言葉に
頷くと次の瞬間……芳乃から思わぬ依頼を受けた
「それでね……考えたんだけど
今度の試合で4番を、お願いできるかな?」
「よっ、4番!?」
芳乃からの4番の依頼に
流石の希も驚いてしまっていたのであった
次回 ……【vs守谷欅台……新たな可能性】
如何でしたか?
守谷欅台までの新越谷の成績と
真深の中間テストの成績と学力
真深に対する希の思いなど色々ありましたが
楽しんで頂けましたでしょうか?
因みに既に新越谷が2勝をしてるので詠深の
"あの球"も仲間から死神と呼ばれない展開に
なったので中間テスト後の練習風景は入れず
藤井先生と芳乃の会議のシーンを入れてみました
何か至らない点や思うことがありましたら
お気軽にコメントやメッセージで教えて下さい
次回は夏の大会の前の最後の練習試合
守谷欅台との試合となりますが原作と
ほぼ同じ展開になる予定なので内容も
短いものになると思うので割りと早く
次の話を投稿できると思います
それでは次回まで失礼致します!