原作と同じように希が主役の話になります
それから後半ではこの物語のオリジナルの
高校が登場するので宜しくお願い致します
それではご覧下さい!
守谷欅台との試合方針が決まった翌日の練習日
その日の練習を終えた真深、詠深、珠姫の3人に
芳乃は藤井先生と話し合い決めた守谷欅平との
試合の方針を真深、詠深、珠姫に打ち明けていた
「……という訳で
次の試合は真深ちゃんと
詠深ちゃんの"あの球"抜きで
行きたいんだけど……良いかな?」
「分かったわ、芳乃ちゃん
当日、私は出番無しで良いのよね?」
「うん……ゴメンね、真深ちゃん」
「気にすること無いわ
芳乃ちゃんと藤井先生の二人が
チームの為を考えて決めたんだから」
「ありがとう、真深ちゃん
それで出来れば試合中は真深ちゃんに
三塁のベースコーチャーもして欲しいんだ」
「了解」
真深は芳乃からの要望に快く応じていた
「うぅぅ……
"あの球"無しで大丈夫かな?」
一方で詠深も芳乃の考えに納得しながらも
真深の打撃だけでなく"あの球"も封印して
投げて欲しいと頼まれ不安そうな様子でいる
「大丈夫だよ、詠深ちゃん
覚えたばかりの頃と比べたら
"ツーシーム"も良くなってきてるから」
「それに、芳乃ちゃんの言うように
詠深が"あの球"無しでどれだけの投球が
出来るかを確認する必要はあると思うし
詠深自身だって"あの球"以外の変化球に
自信を付ける必要があると私も思うわよ」
そんな詠深を相棒で捕手の珠姫が鼓舞すると
続けて真深も諭すように詠深を励ました
「二人の言うとおりだよ
それに"あの球"を封印するのは
もう1つ理由があるからなんだ」
「もう1つの理由?」
芳乃の言葉に詠深が首を傾げる
「次の試合では今までエラーが多かった
メンバーの守備のレベルも確かめたいんだ
"あの球"は三振が取れる反面打たせて取る
投球には向いていないから守備のレベルを
確認する為にも"ゴロ"や"フライ"が出安い
"ツーシーム"を主体に投げて欲しいんだよ」
「成る程……それは一理あるね」
芳乃の説明に珠姫も首を縦に振って同調する
「だから、詠深ちゃん……お願いできるかな?」
そう言って再び芳乃が詠深に
守谷欅平戦での"あの球"封印を依頼する
「うん、分かった!
"あの球"無しでも投げ抜いて見せるよ」
「ありがとう、詠深ちゃん!」
真深と珠姫に励まされ芳乃から事情を
聞かされた詠深が前向きに"あの球"の
封印に同意したので芳乃が再度詠深に
感謝の意を示した
「よ~~し!
それじゃあ明日も投球練習、頑張るぞ!」
そう言って明日の練習に気合いを入れた
詠深は真深と珠姫と一緒には意気揚々と
部室へと引き揚げたのだった
そして次の日の……
芳乃と藤井先生の口から守谷欅平との
試合は真深を休ませることが告げられ
同時に試合当日の打順も発表された
その打順は……
【1】 川口 息吹 (左翼手・10)
【2】 藤田 菫 (二塁手・4)
【3】 山崎 珠姫 (捕手・2)
【4】 中村 希 (一塁手・3)
【5】 岡田 怜 (中堅手・8)
【6】 川崎 稜 (遊撃手・6)
【7】 藤原 理沙 (三塁手・5)
【8】 武田 詠深 (投手・1)
【9】 大村 白菊 (右翼手・9)
……となっていた
いつも1番の希が4番に座る代わりに
1番には真深と希の次に選球眼が良く
足も早い息吹が抜擢されていた
息吹も最初に1番打者と告げられた時は
「なんで私が!?」と驚いていたものの
理由を話すと緊張しながらも前向きに応じた
因みに真深が完全に休みと告げられた際には
希、珠姫、怜、理沙の、4人を除いたメンバー達
特に1年生のメンバー達を中心に不安そうな
意見が出ていたが藤井先生が理由を告げると
流石に反論できずに納得していたのであった
同時に芳乃からも守谷欅平との練習試合では
攻撃でも守備でもいつもよりもサインを多く
出すことが知らされると稜が露骨に嫌そうな
反応をしたが逆に気持ちを切り替え前向きに
なっていた菫に注意されたのだった
ーーそして迎えた守谷欅平との試合当日ーー
「「「ちわーー!」」」
「「「こんにちは!」」」
新越谷のメンバー達が試合が行われる
守谷欅平高校に到着すると守谷欅平の
野球部のメンバーから挨拶と交わして
ユニフォームに着替えてグラウンドに
入ると両チームがノックと守備練習を
行った後に試合が開始された
「「「「「お願いします!」」」」」
両チームのメンバーと審判の4人が
グラウンドの中心に集まって帽子を
取って挨拶をすると新越谷の先攻で
試合が開始された
「さあ! 夏の大会まで1ヶ月……
これまでの成果と問題点を確認できる
最後の練習試合……集中していきましょう」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
藤井先生からの激励の言葉にメンバー達も
勢い良く返事をすると1番の息吹が打席に入ると
「ボールフォア!」
息吹は守谷欅平のエース山田投手の投じる
球を持ち前の選球眼の良さで見送り微妙な
球をカットして凌ぐと最後は四球を選んで
出塁して見事に1番打者としての役目を果たした
「息吹ちゃん、ナイス選!」
四球を選んだ息吹を詠深がベンチから声援を送る
「思った通り!
エースの山田さんは立ち上がりが
極めて悪いから希ちゃんみたいな
強打者じゃなくても少し粘れれば
選球眼の良い息吹ちゃんだったら
四球を選んでくれると思ったんだ」
芳乃は試合行方を左右する大事な出だしの
作戦が上手くいって満足そうな笑みになる
「さあ! ランナーを貯めて希ちゃんに回すよ」
そして息吹の後の菫と珠姫も息吹のように
微妙な球は全てカットしボール球は確実に
見送り四球を選び三者連続の四球となって
ノーアウト満塁とチャンスを作った
「よっしゃ! ノーアウト満塁だ!」
「最高の形で希ちゃんに回ったわ」
満塁で希に回ったので稜と一塁の
ベースコーチャーに付いた理沙が
希に期待を寄せると希も気合いを
入れた表情で打席に向かっていく
「打って~~! 希ちゃん~~!」
ベンチから芳乃が希に声を送ると
希も力強く頷いてから打席に入る
(ここで打点が付けば自信も付く筈
リラックスして……そしていつも通りにね)
尚も芳乃が心の中で希を応援している一方で
希もこの間の夜の練習の時のことを思い出す
ーー芳乃が希に4番を依頼した夜ーー
「今度の試合で4番、お願いできるかな?」
「よっ、4番!?」
芳乃からの4番の依頼に希も思わず戸惑う
「4番は真深ちゃんやん!?」
すかさず本来の4番の真深の名前を出すが
「次の試合は真深ちゃん無しで
どれだけ点が取れるか確かめる
意味合いもあるから真深ちゃんは欠場だよ」
「そっ、そうなん……?」
芳乃の説明に戸惑いながらも納得する希
「相手投手の立ち上がりの悪さを付いて
ランナーを貯めるから希ちゃんの打撃で
一気に帰しちゃって欲しいんだ!」
「…………」
芳乃から作戦を伝えられるがチャンスで
打てていない心配からか希は不安そうな
表情になってしまう
「大丈夫! 自分を信じて!
希ちゃんなら大丈夫だって私は信じてるから」
「芳乃ちゃん…………うん!」
そう言って芳乃は希を鼓舞したのであった
ーーそして場面は試合に戻るーー
(期待して4番にしてくれた
芳乃ちゃんの為にも……絶対に打つけん!)
希は芳乃の思いに答えようと
1球見逃した後の直球を振り抜くと
打球は一塁手の正面をついたものの
強く放たれた打球が一塁手のグラブを弾き
2点を先制するタイムリー二塁打になった
「出たよ! 希ちゃんのタイムリー!」
「ナイバッチ!」
希のタイムリーに芳乃と詠深が、いの1番に
ベンチから声援を送ると、他のメンバー達や
三塁のベースコーチャーをしている真深も
希に声援を送った
「今の希ちゃんの初打点だよ」
「えっ、本当!?」
「かなり意外!?」
「打ちまくってるイメージしか無いのに」
初打点だという芳乃の言葉に
ホームに生還してベンチに戻ってきた
息吹と菫……更に詠深が、かなり驚いていた
やはり希が得点圏打率が悪かったことなど
誰も気にしていなかった上に気づいてすら
いなかったのである
(ほら! やっぱり、誰も気にしてなかったよ)
そんなメンバー達の様子を見た芳乃は
2塁上の希の姿を見ながら希の心配が
取り越し苦労で良かったと思いながら
安心していたのであったが……
(良かった……
これで調子が上がっていきそうだな)
流石チームの主将というべきだろうか
怜は希がチャンスで打てていない事を
希が気にしていたのに気づいていたらしく
芳乃と同じく希が初打点を上げ喜んでいた
(さて……私は?)
怜は打席に立つ前に芳乃からのサインを確認する
(いつものように、思いっきり振ってください)
(だよな!)
やはり怜へのサインは初勝利を上げた
藤和高校との練習試合からパターンと
なっている強攻のサインだった
そして……
カキィィィィィン
怜は初球のストレートを振り抜き
注文通りに二塁打を放って三塁の
珠姫と二塁の希が生還した
「やった! 更に2点追加!」
スコアが4-0とリードが広がって
新越谷のベンチが盛り上がっている
「希ちゃん……やったね!」
「うん!」
珠姫とハイタッチをした後に
芳乃が希とこの上ない笑顔で
ハイタッチを交わしたのだった
(ありがとう、芳乃ちゃん……)
打席が回る理沙と交代して
一塁のベースコーチャーに付いた希が
心の中で改めて芳乃に感謝をしていた
そして新越谷は尚もノーアウト2塁と
チャンスが続き6番の稜に打席が回る
(このイケイケの雰囲気……
稜ちゃんなら絶対に乗っかってくれるはず)
チャンスの流れに乗りやすい稜に期待する
芳乃は迷わずに強攻のサインを出すと稜は
期待通りに怜に続いて二塁打を放って怜は
余裕でホームに生還した
「よっしゃ~~!」
「なんて分かりやすい……」
二塁上で喜びを表す稜に苦笑いを
浮かべる芳乃と藤井先生だったが
その表情には納得した様子も見受けられた
そして続く理沙は意表を突くセーフティで
内野安打としノーアウト一塁・三塁と尚も
チャンスで詠深に打順が回る
「よ~~し! 私も打つぞ~~!」
バットを振りながら気合い十分に
打席に立った詠深に出されたサインは……
(詠深ちゃん!
ここは思いきって……"スクイズ"で!)
(うぐっ!?……だよね、私の打率じゃ……)
スクイズのサインに詠深の表情が歪むが
打率が1割にも無ければ無理もないと
誰よりも自分自身が分かっていた詠深は
サインに頷いてバントの構えを見せるが
ポコン
「あっ!?」(゚Д゚υ)
「わぁ!? ちょ、ちょ、ちょ!?」(゚д゚;)
詠深はバントを打ち上げてしまったので
稜が慌てて三塁ベースに戻り併殺打には
ならなかったもののベンチで藤井先生が
特訓案件だと真っ赤なオーラを放っていると
芳乃も打順の見直しを検討してしまっていた
「詠深……御愁傷様」
そんな詠深とベンチを様子を見ていた
三塁ベースコーチャーを勤める真深が
苦笑いをしながら呟いていた
そうしている内に続く白菊が打席に向かう
(白菊ちゃん!
小細工なしで思いっきり振っちゃって!)
(了解です!)
芳乃からのサインに頷いた白菊は
練習で培った基本的なスイングを
意識しながら打席に入ると初球は
際どい球を見逃してストライクに
なるが続く甘い球を逃さず捉えて
あと僅かでホームランかと思わす
外野フライを放って犠牲フライで
稜が三塁から生還をして新越谷は
1回だけで6点を取ったのだった
「ナイス、犠牲フライ!」
「もう少しでホームランだったな」
「はい! 次こそは」
ベンチに戻ってきた白菊を詠深と怜が
祝福すると白菊も次こそホームランを
打とうと笑顔を見せながら心の中では
闘志を燃やしていたのであった
こうして打者一巡して更なる追加点を
狙った新越谷だが守谷欅平のエースの
山田がこの回で2打席目となる息吹に
1打席目とは比べ物にならない投球で
息吹を、あっさり三振にしてしまった
「1打席目とは別人だっわよ!?」
「完全に立ち直っちゃったみたいだね……」
三振して戻ってきた息吹の話を聞いた芳乃は
相手のエースの山田が本来の調子に戻ったと
確信し追加点は厳しくなるだろうと予測した
なにはともあれ相手のエースの立ち上がりが
悪かったとはいえ真深なしで見事に新越谷は
初回は打者一巡の猛攻で6点を奪うことに
成功したのであった
「打者一巡……最高の攻撃だったね
さあ! 守備の方も、しっかり守っていこう!」
「「「「「「「「「おぉ!」」」」」」」」」
守備に向かう新越谷のメンバーが芳乃からの
掛け声に声をあげながら各々のポジションに
駆け足で散っていった
「芳乃ちゃん、お疲れ様」
「真深ちゃんも、ベースコーチャーお疲れ様」
そしてチームが守備に入ったので
三塁のベースコーチャーをしていた
真深が新越谷のベンチに戻ってきた
「やったよ、真深ちゃん!
真深ちゃんに頼らずに6点も取れたよ」
「えぇ……良い攻撃だったと思うし
希ちゃんも初のタイムリー打ったし
芳乃ちゃんの作戦通りで結果オーライね」
「うん!」
チームの主砲の真深からも
大量得点と希の初のタイムリーを
祝福されて芳乃も嬉しそうな表情になる
「あとは守備さえ上手くいけば!」
「大丈夫よ、芳乃ちゃん
皆も今日まで頑張って練習してきたんたから」
「上杉さんの言うとおりです
なので芳乃さんは皆さんを信じて
どんどんサインを出して行って下さいね」
「真深ちゃん、藤井先生…………はいっ!」
メンバーを信じる真深と藤井先生の言葉に
芳乃も迷わず同意して明るい笑顔で頷いた
「よ~~し! 投げるぞ~~!」
一方でマウンドに上がった詠深はその場で
何度か跳び跳ねながら気合いを入れていた
「詠深ちゃん」
そんな詠深に相棒の珠姫が歩み寄る
「今日は打ち合わせ通りに
"ツーシーム"と"カットボール"中心で行くよ」
「うん……」
前もって打ち合わせをしていたので
詠深も戸惑うことなく頷くが自分が
1番自信にする"あの球"が使えない
不安からか心配そうな表情になっている
「大丈夫だよ!
ちゃんと的確なリードをするし
芳乃ちゃんと先生もベンチから
相手の打者に応じたサインを出すから
詠深ちゃんは後ろの皆を信じて投げて」
「!!」
珠姫の言葉に詠深は"ハッ"とした
思えば初勝利を達成した藤和高校との
試合もピンチでも仲間を信じて投げて
その結果初勝利を上げることが出来て
チームも今より強くなろうと練習にも
力が入ったのであった
確かに2連敗してしまってはいるが
メンバー全体の守備力は間違いなく
藤和高校と練習試合をした時よりも
上がっている
そしてそれを悟った詠深の表情から
不安な様子は消え失せていった
「そうか……そうだよね!
私は珠ちゃんと皆を信じて投げれば大丈夫だ!」
「うん! その通りだよ、詠深ちゃん」
「エヘヘ……
それじゃあ勝てるようにリードしてね」
「勿論!」
そんな詠深に安堵した珠姫も嬉しそうに
笑みを浮かべながら戻っていった
「プレイ!」
珠姫が捕手のポジションに戻ると
主審から1回裏の攻撃の開始がコールされた
(それじゃあ、打ち合わせ通りに初球は"コレ"で)
(了解)
詠深は珠姫のサインに頷くと
厳しいコースではあったが内角に
打ち頃の直球を投げると守谷欅平の
1番打者は三遊間に抜けるヒットを放った
すると詠深と珠姫は揃ってベンチに目を向ける
それに芳乃が両腕で丸を作ってOKの意を示す
実は先頭打者を出すことは予め決めていたのだ
その理由は……
「さあ! ランナー出たよ!」
「嬉しそうですね」
「守備のフォーメーションを試せますから」
今日の練習試合のもう1つの目的でもある
詠深に"ツーシーム"と"カットボール"にも
自信を持たせレベルアップさせると同時に
守備で色々なフォーメーションを試したり
レベルアップをさせるたもにもランナーを
出して置きたかったのだ
そして芳乃は集めた守谷欅平のデータを
元に相手の打者に応じた的確なサインを
出して相手に1点を返されたが1回裏の
守備は芳乃の満足できる結果となった
芳乃のサインと藤井先生のノックの成果も
しっかり表れたといえる結果であろう
「ナイピーー、詠深ちゃん!
打たせて取る投球も悪くないでしょう?」
「だね」
"あの球"のように三振は狙えないが
詠深もそれなりに満足できる投球が
出来たようである
その後……試合は完全に本来の調子に立ち直った
守谷欅平のエースの山田と詠深の投手戦となった
山田は決め球のシンカーが面白いように決まり
三振を量産し詠深も"ツーシーム"を中心にして
打たせて取る投球でアウトを積み重ねていくと
3回裏と6回裏に1点を失い3失点するものの
本来は三振を取ってアウトを稼ぐ投球が得意な
スタイルであることを考えると慣れない投球で
6回で3失点は十分に合格点だと言えるだろう
そして試合はアッという間に最終の7回になる
スコアは6-3で新越谷が3点リードしていて
このまま逃げ切れば3勝目となり柳大川越から
続く練習試合の成績も3勝3負2分けの五分に
することができる
「あれ……今、何球だっけ?」
7回表の攻撃を前に
珠姫が芳乃に詠深の球数確認する
「75球だよ!
6回まで3失点! 素晴らしいね!」
芳乃のタブレットには今日の試合での詠深が
投げた球種と球数がしっかり記録されていた
ーーーーーーーーーーーー
ストレート=20
ツーシーム=28
カットボール=20
?=7
ーーーーーーーーーーーー
"?"となっているのは失投で
球種が判別出来なかった球であろう
やはり慣れない投球に本調子になれかったのか
コントロールが良い詠深にしては多い数である
「しかし、あの球使えば無失点だったのでは?」
現に6回裏を終えてベンチに戻ってきた詠深が
自分の投球に満足できていない発言を口にした
「練習だよ! 練習練習!」
「そうよ、詠深
今日はその為の投球だって言ったでしょ?」
「うん! いっぱい飛んできて楽しいわよ」
「そうそう! いつもこの調子で頼むぜ!」
そんな詠深に芳乃と真深が笑顔で悟し
菫と稜の2人も悪くない投球だったと
詠深の投球に太鼓判を押していた
「さて……最終回だし追加点ほしいね」
「そうだね」
7回表の攻撃の先頭打者である珠姫が
呟くと芳乃も珠姫に同調するように呟いた
1回表の攻撃で6点を取ってからは
調子の上がった相手の投手から点が
今日の試合のもう1つの目的である
真深なしでも点を取れるスタイルを
得るためにも珠姫と芳乃も出来れば
もう1点取りたいと考えていると
「ちょっと、良いかしら?」
「真深ちゃん……どうしたの?」
真深がベンチのメンバー全員に
声をかけたので芳乃が代表して返事をした
「ベースコーチャーしながら見ていて
気づいたけど山田さんは三球勝負はせずに
2ストライクに追い込んだ後に1球内角に
外してから決め球のシンカーを投げてるわ」
「本当!?」
三塁のベースコーチャーを務めていて山田の
癖に気づいた真深の発言に芳乃が食い付いた
「えぇ……だから勝負は
2ストライクに追い込まれた後の
シンカー狙いで行ったら良いと思うけど?」
「凄いね、真深ちゃん!
たった1試合で相手投手の
癖まで見抜いちゃうなんて」
そんな真深に詠深が興奮しているが
詠深の発言は他のメンバーも同感であった
同時にそれこそが真深が打撃で高い成績を
重ねてきた結果だと感じていたのであった
「それじゃあ追い込まれてからが勝負だね」
「うん! 頼んだよ、珠ちゃん!」
真深のアドバイスを聞いて打席に
向かう珠姫を詠深が元気な声で送り出す
そして珠姫は2ストライクに追い込まれると
相手は真深の読み通りに内角に外れる直球を
投げた後に決め球のシンカーを投げてくると
見事にライトへと弾き返して二塁打となった
「おぉ! シンカー完璧に打ったな!」
「凄い! 真深ちゃんの読み通りだよ」
狙い通りの展開に稜と芳乃が興奮している
「うん! 実際に打てる珠ちゃんも凄い」
「当然! 県代表の正捕手だった人だよ」
来ると予測していたとはいえ実際に
打って見せた珠姫を詠深と芳乃が称賛する
「さあ! ここで希ちゃんに1本出れば!」
ノーアウト二塁のチャンスで希に打席が回り
芳乃が1回表の2点タイムリー二塁打以来の
タイムリーを期待している
そんな中で希は……
(ノーアウトで最終回やし
相手の決め球の球種も分かってる……なら!)
希は心の中で呟きながら守谷欅平との
練習試合の内容が告げられた日の練習の
最中にした真深との会話を思い出していた
ーー守谷欅平戦の打順が発表された練習日ーー
「真深ちゃん……ちょっとよか?」
「希ちゃん……どうしたの?」
次の試合は休みとはいえ打撃練習を
怠る気など無い真深が打撃練習に
向かおうとすると緊張した表情で
希が真深に声をかけたのだ
「ちょっと聞きたいことがあってん」
「えぇ、いいわよ」
希に相談されたのが珍しかったのか
真深は戸惑いながらも希の申し出に応じる
「真深ちゃんは打席に立つ時
いつも何を考えて立ってるか知りたいけん」
「私が打席に立つ時?……どうしたの急に」
「うん……次の試合は
芳乃ちゃんと先生から4番を任されたけん
だから4番を打ってる真深ちゃんに4番の
心構えとかあったら教えて欲しいっちゃけ」
真深に、そう尋ねると芳乃に話した内容と
同じ中学校の時の話を真深にも打ち明けた
「そうだったのね……」
「うん……チャンスで1度も打ててない
私に4番を任せてくれた芳乃ちゃんや先生の
期待に答えたいから次の試合は絶対に打ちたい
そげん真深の心構えとかを参考にしたいっちゃ」
そう言うと希は緊張した表情から一転して
両手の拳を握りしめ気合いの入った表情で
改めて真深に打席に立つ時の心境を尋ねた
「参考になるか分からないけど?」
「大丈夫やけん!」
「そう……分かったわ」
希の熱い思いを悟った真深は快く応じる
「そうね……強いて言うなら
自分を信じて楽しんでるくらいかしら?」
「自分を信じて……楽しむ?」
真深の答えが意外だったのか
希は目を丸くしてしまっている
「うん……変かもしれないけれど
私は試合を発表会の場だと思っているの」
「発表会?」
希は、ますます分からなそうな表情になる
「文化系の部活……
例えば演劇部とか吹奏楽部とかは
年に1回のコンクールや発表会で
最高の演技や演奏を見て貰おうと
練習して頑張っているでしょう?」
「うん……」
「運動部だって同じよ!
テレビとかでは戦いみたいな感じに
表現する人もいるけど野球に限らず
スポーツはプレイする人も見る人も
皆が楽しむためのゲームだと思うの
そして全国大会という発表会の場で
日頃の練習の成果を対戦相手の選手や
観客の人達に披露したい思っているの」
「…………」
「そう思うと余程追い詰められた
場面でもなければ大概の場面では
楽しんでプレイが出来ちゃうのよ」
「…………」
真深の話を聞いていた希は
意表を突かれたような表情になっていた
「ねっ? 参考にならなかったでしょう?」
そう言うと真深は恥ずかしそうな笑みを見せる
「ううん……真深ちゃんほど
試合で楽しめるかは分からんけど
そう思えるように努力してみるけん」
「そう? それは良かったわ
あとは自分を信じてバットを振るだけよ」
「自分を信じて……?」
真深が先程とは一転して真面目な声で
話し始めたので希も真剣に耳を傾けた
「そうよ……いくら周りの皆が
私を信じてくれていても私自身が
私を信じていないと他人の期待に
答えるだなんて絶対に出来ないわ」
「あっ……」
真深の言葉に希は最近は自分の
打撃に自信を無くしていた事に気づかされた
「逆にどんな状況でも
自分自身を信じていられれば
いつもという訳にいかないけど
必ず結果もついてきてくれるわ」
「!!」
真深のその言葉は昨年アメリカで
同世代の仲間に嫌がらせをされて
孤立するという辛い思いをしても
新越谷の仲間の応援を打撃の力に
変えて打ってる事実もあったので
この上なく説得力のある言葉だった
「だから希ちゃんも自分が今までに
積み重ねてきた経験や練習に努力を
信じて強い気持ちで振れば大丈夫よ」
真深に最後のアドバイスを送られた瞬間
希は今まで自分の心の中にあった葛藤が
綺麗に無くなったことを感じ取った
「ありがとう、真深ちゃん
凄く気持ちが楽になった気がするけん!」
そう言うと希は意気揚々と
打撃練習へと向かっていったのであった
ーーそして場面は試合に戻るーー
(試合を楽しむなんて
考えたこともなかったけん……
でも真深ちゃんと詠深ちゃんは
いつも試合で楽しそうにしていて
それで結果を出してるけん……なら私も!)
希は心の中で呟きながらバットを構えると
無意識にリラックスした表現になっていた
そして希も先程の珠姫の打席の時のように
2ストライクで追い詰められると相手は
希が左打者なので外角に1球外してから
左打者には内角一杯となるコースに向けて
決め球のシンカーを投げてきた
(自分を信じて……)
カキィィィィィィィィィィン
(思いっきり、バットを振る!)
希はシンカーを思いっきり振り抜くと
打球はライトへ大きく舞い上がっていく
「ライト大きい!」
「まさか!?」
希の打球に新越谷のベンチから
メンバー全員が身を乗り出すと
打球はライトフェンスを越える
2ラン本塁打となった
「ホームラン!?」
「やったーー!!」
「2点追加だ!!」
希のホームランに稜、詠深、芳乃が声を上げて喜び
芳乃は髪をピョコピョコさせて喜びを表現するが
しかし打った本人は驚いた表現になっていた
(何も考えずに自分を信じて気持ちよく
振ったら思った以上に打球が飛んだけん)
希は自分がホームランを打てたことと
自分の予想以上に打球が飛んだことに
戸惑いながらベースを回っていたが
三塁ベースコーチャーについている
真深と目が合うと真深が笑顔で希に
拍手をしていたのでそれを見た希も
自然と笑顔になりながら三塁を回り
ホームを踏んで新越谷が8-3と
リードを5点に広げたのであった
「希ちゃん! ナイバッチ!」
ベンチから真っ先に詠深が希を祝福すると……
「希ちゃん……やったね!」
希の立ち直りを誰よりも願っていた
芳乃が嬉しそうに微笑みながら希に
両手を差し出してきたので希の方も
微笑みながら芳乃とハイタッチした
「今までで1番良いスイングだったぞ」
「表現も"リラックス"してたわね」
「何かあったのか?」
「うん……ちょっと」
怜、菫、稜の3人からの問いに
希は微笑みながら誤魔化していたが……
(フフフ……上杉さんの
アドバイスの効果があったみたいですね)
(真深ちゃん……ありがとう)
なんと藤井先生と芳乃は真深が希に
アドバイスをしている場面を見ていたらしく
希がスランプを脱せたと見て笑顔になっていた
見るところは見ていてくれてる監督として
藤井先生の人柄はかなりの優秀さであろう
その後は怜も追い込まれてからのシンカーを
捉えて出塁するが新越谷が追い込まれた後の
シンカーに狙いを絞っていることに気づいた
捕手が投手に駆け寄って配球を見直すように
助言したので続く稜、理沙、詠深の3人が続けて
打ち取られて7回表の新越谷の攻撃は終了した
ーーそして7回裏ーー
「最終回! 油断せずいこうね」
最終回の守備に向かうメンバーを
芳乃が掛け声をかけて送りだすと
調子の上がった詠深は相手打線を
次々と打ち取っていくと最後は
ここまで慣れない投球で投げ抜き
チームに貢献してくれたご褒美に
最後の打者にだけ"あの球"を使い
三振に仕留め8-3で新越谷が
3勝目をあげたのであった
ーーそれから1時間後ーー
「ありがとうございました!」
新越谷のメンバーは守谷欅平のメンバーと
挨拶をした後に少し会話を交わしたのちに
守谷欅平高校を後にして新越谷への帰路につく
「みんなお疲れ様!
夏に向けてひとついい試合ができたね!」
「新変化球も増えたし、これから楽しみだよ」
「課題の守備も無失策だったし上場の結果ね」
試合を終えて芳乃、珠姫、真深の3人が
それぞれ試合を見た感想などを口にすると
「芳乃ちゃん!
練習試合で3勝できたし
全国に行ける確率上がったっちゃないと?」
藤和高校に勝って初勝利した時は守備の
レベルの低さから全国大会出場は微妙だったが
真深の打撃と詠深の"あの球"頼らずに勝利して
課題であった無失策を記録できたので再び希が
芳乃に新越谷の全国出場の可能性を尋ねてくる
「うーん……そうだねぇ
今年のシード校はこんな感じになってるよ」
そう言って芳乃はタブレットを
操作してS〜Dランクの学校の
一覧をメンバーに見せた
「優勝するにはAランク以上に
2勝はしなきゃいけないからねぇ……」
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【Sランク】
咲桜
梁幽館
美園学院
【Aランク】
大宮大附設
県立浅間台
※聖大狭山
村神
秋津
椿峰
【Bランク~Dランク】
県立川口青木
県立南栗橋
県立越谷二
県立草加一
柳大川越
熊谷実業
深谷東方
朝霞武蔵野
(※=オリジナル高校)
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「Aランク以上は
見たことある学校ばっかだな……
勝つどころか試合するイメージも浮かばないな」
「無理ね……全国は」
「やってみらんとわからんめーもん!」
強豪校のリストを見て感想を口にした
稜と菫に希が急かさず異議を唱えている
「それに、私たちの目標は打倒咲桜だろう?」
「そうよ。そんな弱気だと咲桜には勝てないわ」
「そっ、そうだった!」
「もっと志を高くしなくちゃ!」
怜と理沙の2年生コンビが
弱気な発言をした稜と菫を立ち直らせる
「咲桜か……本当に当たれたら
真深ちゃんとユイさんの直接対決が見れるね」
詠深は真深が最大のライバルである
ユイとの対戦が見たくて仕方がない様子である
「あら? 詠深も他人事じゃないわよ
だってユイは打撃も一流だから詠深には
しっかり押さえてもらわないと勝てないわよ」
「あっ……そうだよね
よ~~し! ユイさんに投げ勝って見せるぞ」
詠深はユイと投げ合い勝利するという
高い目標ができて気合いが入ったようだ
「私だって勝負したいけん!」
「あぁ、私もだ!
それに咲桜のような強豪校に勝つには
打撃は勿論だが守備も今日の試合のように
無失策にできるようにしないと勝てないぞ」
今日の試合で自身を取り戻した希が
自分もユイと勝負したいと闘志を燃やすと
怜も希に同調しながらも主将として冷静に
強豪校に勝つための必要事項を言葉にする
「そうですね……でも!
今日みたいに準備があれば良い勝負ができるよ」
「当たるの楽しみ〜~!」
「大会までに出来ることを、しっかりやろうね」
怜の言葉に珠姫、希、芳乃の士気が上がる
「それじゃあ、帰ったら早速練習しよう!」
「「「「「「「「おぉーー!」」」」」」」」
こうして夏の大会前の最後の練習試合を
白星で飾った新越谷は夏の大会へ思いを
強めていくのであった
次回……
【"日米女子高校野球親善試合"開催決定!】
守谷欅平との試合でした
ほぼ原作と同じ展開で書くと言いながら
かなりオリジナル要素を入れてしまいました
それで投稿も遅くなってちゃ本末転倒ですね
因みにオリジナル高校の聖大狭山とは
この物語の読者の"コンスタンチノープル"さんに
提供してもらったオリジナル高校となっています
ご提供ありがとうございます!
次回は抽選会の数日前に行われる
日米野球開催が知らされる話になります
多分短い内容だと思うので
今度こそ直ぐに投稿できると思います
それでは次回まで失礼致します!