無いように仕上がらず苦戦しました
なんとか書けたので少しでも
楽しんで読んで頂けると幸いです
今回は遂に真深の過去が……
それではご覧くたさい!
中田を満塁で敬遠するという大胆な作戦で
ワンアウト満塁の最大のピンチを脱した新越谷
そして球場も満塁敬遠に未だにザワついていた
「まさか満塁で中田さんを敬遠するとは
新越谷は思いきった作戦を選択してきましたね」
一塁側の観客席でユイの隣に座って
観戦する二宮は新越谷の満塁敬遠に驚いていた
「私も満塁敬遠を見るのは2度目だわ」
「おや? ウィラードさんは
満塁敬遠を見たことがあるのですか?」
「2年前にアメリカの
ガールズの試合でボストフが満塁で
敬遠されたのテレビで見たことがあるわよ」
「あぁ……上杉さんの名前と打力が
知られ始める切っ掛けになった試合ですか
私としたことがあの試合を忘れていました」
「本当によく知ってるわね、二宮さん……
日本ではアメリカのガールズの試合だなんて
プロの試合と違ってあまり知られてないのに」
「私の情報収集能力は甘くありませんよ
それにあの試合の結末はかなり衝撃でしたから」
ユイは二宮瑞希の情報収集能力に感心するが
二宮としてはユイが口にした試合の衝撃的な
結末が非常に印象に残っているらしい
「最終7回表……3点ビハインドながらも
ツーアウト二塁・三塁のチャンスの場面で
3番のジータパーラーが敬遠で歩かされて
4番のボストフと満塁で勝負かと思われた
直後にまさかの満塁敬遠を選択して1点を
献上し2点差にしてまで危険な打者である
2人との勝負を避けその試合で5番打者を
任された上杉さんと勝負するという選択を
したのでしたよね?」
「ええ、私もアレはテレビで見て驚いたわ」
二宮とユイが何気無く2年前にアメリカの
ガールズの試合であったという満塁敬遠の
話に盛り上がっていると
「えっ!? ランナー、二塁・三塁で
相手は二人連続で敬遠したって言うの!?」
二宮とユイの会話が聞こえたのか主将の
小関が驚くと副主将の田辺と久保までも
耳を疑っているような表情をしていた
「それだけジータパーラー選手と
ボストフ選手の打撃は2年前の時点で
既に他のチームから恐れられていたんです」
「そして、あの通り真深は一見すると
モデルみたいな容姿をしてるものですから
ジータパーラーとボストフを歩かせとけば
真深で打ち取って終わらせられると相手の
投手は高を括っていたみたいなんですけど」
「上杉さんは見事に場外に消える
満塁ホームランを打ってみせたのでしたよね?」
「えぇ……(そして、あれが切っ掛けで
真深は、あの"異名"で呼ばれるようになった)」
ユイは二宮の言葉に肯定すると心の中で
呟きながらアメリカで結果を出し続けた
真深が何時しか呼ばれるようになっていた
とある称号とも呼べる二つ名を思い出した
その頃……
「最後の直球……なんだったんだろう?」
そしてベンチ裏では好投した詠深が顔の汗を
洗い流しながら笠原を打ち取った時に投げた
強直球のことを振り返っていた
「まるで"あの球"を投げた時と
同じような気持ち良さがあったけど……」
「フフッ。自分でも驚いてるみたいね」
「あれが詠深ちゃんの本来の直球なんだよ」
「真深ちゃん、タマちゃん……本来の直球?」
物陰から顔を除かせながら現れた真深と
珠姫から本来の直球と言われても詠深は
いまいち意味が分からなそうに首を傾げる
「単刀直入に言うと詠深は
直球の投げ方をマスターしていないのよ」
「直球の投げ方をマスターしていない?」
付け加えてきた真深の言葉に
詠深は更に意味が分からなそうな反応を見せた
「本来なら直球は変化球より速い筈なの」
「だけど詠深ちゃんの場合は直球の球速が
"あの球"や他の変化球の球速と比べて見て
球速の差が殆ど無かったんだよ」
「それで私と珠姫は詠深が中学時代に
"あの球"以外の変化球を投げる練習を
していなかったみたいに直球を投げる
練習を殆どしてないんだと思ったのよ」
「だから影森戦が終わってから今日までの
練習の時に私がいつものポジションよりも
遠くに座ってミットを構えて詠深ちゃんに
本来の直球を投げる感覚を掴ませるための
投球練習を続けさせていたんだよ」
「そっ、そうだったんだ……
確かに直球の練習もしてなかったかも……」
「やっぱり……」
「思った通りだったわね、珠姫」
「だね……」
真深と珠姫から説明を聞いた詠深は確かに
"あの球"以外の変化球だけでなく直球の練習を
殆どしていなかった自分に気づいて呟いたので
珠姫と真深は予想通り過ぎて苦笑いを浮かべた
「ということは次からは
全部、本来の直球を投げれば良いんだ!!」
「ダメよ、詠深!」
「どうして?」
本来の直球を投げた時の快感を知り
意気揚々と今後の直球は全て本来の直球を
投げること希望し始めた詠深を真深が止める
「詠深の本来の直球は覚えたてで
お世辞でも、まだ完全なものとは言えないわ」
「真深ちゃんの言う通り!
まだまだノーコンだから試合では暫く
今まで通りの遅い直球の方が良いから」
「うぅぅ……」
本来の直球を投げたいのか
詠深は少し不満そうに顔を膨らませたが……
「でも、ここぞの場面では使うから」
「本来の早い直球と遅い直球を
投げ分けられる上に詠深の"あの球"と
他の変化球を投げて来られるだけでも
相手打線にとっては十分に厄介な筈よ」
「うん! 分かった!!」
使う場面はまだあると珠姫と真深から
知らされた詠深は一転して嬉しそうになった
実を言うと真深と珠姫も詠深に本来の直球を
投げさせてあげたいと思ってたのだが焦って
フォームを崩すリスクを考えて先程のように
ここぞという場面の時だけに投げさせようと
相談して決めていたのだ
こうして詠深に本来の直球と使う場面の説明を
終えた真深と珠姫は詠深を連れて一緒にベンチに
戻ると丁度4回表の新越谷の攻撃が始まっていた
しかし先頭の6番の稜が吉川の直球に振り遅れて
三振に打ち取られると続く7番の理沙は吉川の
直球をバットの芯で捉えたが梁幽館の左翼手の
太田の好守備に防がれツーアウトとなってしまう
「うぅぅ……絶対に出たかったのに!」
好守備により凡退した理沙が
悔しい思いを言葉に発しながらベンチに戻る
「相手の守備が上手かっただけで
理沙先輩の打撃自体は良かったですよ」
「ありがとう、真深ちゃん
でも、当たりは良かったんだし出たかったわ」
真深のフォローにも当たりが良かっただけに
ヒットにならなかったことが理沙にとっては
悔しかったようだ
《8番、右翼手、大村さん》
そして8番の白菊に2打席目が回ってくる
「白菊ちゃん、ホームラン打てーー!!」
新越谷のメンバーの中でも真深に次いで
ホームランを打つ打撃力がある白菊には
詠深を始めとした仲間達がホームランを
期待する声援を送っていたのだが……
「……(内野が後ろに下がってますね)」
梁幽館の内野陣は白菊の第1打席で見せた
打撃力の強さを警戒したようで通常よりも
後ろの位置まで下がっていたのだ
(やってみますか……練習の成果を!)
ホームランを期待されていた白菊だったが
梁幽館の内野陣の位置を見た白菊は相手の
意表を突く作戦に出ることにすると吉川が
初球で直球を投げるとバントの構えになる
「なっ!?」
「セーフティ!?」
白菊の狙い通り梁幽館は白菊がバントを
してくることを想定してなかったらしく
吉川と笠原は完全に意表を突かれていた
そして白菊はボールを上手く三塁線へと
転がして影森との試合を終えてから菫に
指導をしてもらいながら練習をしてきた
成果を見事に見せる完璧なセーフティを
決めて内野安打で出塁した
「白菊ちゃん、ナイス!!」
白菊の意表を突くセーフティバントに
次の打者の詠深がネクストサークルで
称賛している一方……
「ホームラン狙いーよ! 何しよーと?」
「はぁ?」
いつもは白菊の長打に焼きもちを焼いていた
希も梁幽館に1点を勝ち越された直後なので
同点のホームランを期待していたらしく珍しく
バントを選択した白菊に疑問を投げ掛けていた
「よーし!!
真深ちゃんみたいな"2ラン"打つぞ~~!!」
そしてツーアウトながら走者を置いた状況で
打席が回ってきた詠深は1回表の第1打席で
真深が打ったようなホームランを打とうと
意気揚々と打席に立ったのだが結果は……
「ストライク、バッターアウト!」
三振に打ち取られてスリーアウトとなり
白菊が一塁に残塁して4回表の新越谷の
攻撃も無得点に終った
「さあ! 次の回も、しっかり抑えよう!」
「う、うん……」
「そ、そうね……
(詠深のマイペースさが何故か羨ましい……)」
三振に打ち取られても全く気にしていない
詠深に珠姫と真深は呆気に取られてしまい
真深に至っては何故か羨ましくさえ思って
しまっていた
ーー そして迎えた4回裏の梁幽館の攻撃 ーー
《6番、左翼手、太田さん》
4回裏の梁幽館の攻撃は
6番の太田からの打順だった
(6、7、8番は今の詠深ちゃんなら
コントロールさえ、ミスならなければ
抑えられるから、ここは敢えて一巡目と
同じく"ツーシーム"主体に攻めていくよ)
(うん!)
珠姫のサインに頷いた詠深は
2回裏の時の感覚を思いだしながら
勢い良く"ツーシーム"を投げると
太田はレフトに……続く7番、吉川は
センターに"ツーシーム"を、バットの
芯で捉えたが、いずれも真深と怜の
好守備によって阻まわれてしまって
梁幽館は2球でツーアウトになった
すると梁幽館のベンチでは高橋と笠原が
疑問を抱きながら詠深の投球を見ていた
「笠原さんを打ち取った直球
この回は投げてこないみたいですね……」
「あれは球速も球質も段違いだった
ウチの打線を相手にして封印する必要も
理由もない筈なのに何で使わないんだろう?」
高橋と笠原も梁幽館の打線を相手に詠深が
本気の直球を多投して来ないことを疑問に
思っていたようである
「これまでの武田さんの直球は
あのエグい変化球と大差ない球速なんですよね
握りは見たところ"ナックルカーブ"系統ですね
本来ならば直球との緩急差で使う球種でしょう
逆に言うと武田さんは直球が遅すぎたんですよ
直球の投げ方を知らないまま変化球を覚えた?」
「つまり直球を投げる練習より
変化球を投げる練習を優先してきたってこと?」
「はい……だとすると
武田さんの直球は未完成なのかも知れませんね」
「あり得るの、そんな事……?」
「さあ? 今のは、あくまで私の憶測なので……」
なんと高橋は憶測ながらも詠深の直球の
謎を正確に言い当ててしまっていたのだ
(なるほどな……
あの変化球の球速から逆算すると
かなりの球速を秘めていることになる)
そんな高橋と笠原の会話を中田が
すぐ横で興味深そうに聞き入っていた
(見てみたい……打ってみたい)
そして詠深の本来の直球を打線で体感し
同時に打ってみたいと強く希望していた
その間に8番の小林は打席でファールで
粘って詠深の変化球に食らい付いていた
そして外角にきたストレートをバットの
芯で捉えてミートすると打球はレフトへ
飛んでいった
「依織、走れ~~!!」
「分かってるわよ~~!!」
すると3回裏の攻撃で真深がレフト前に
ヒットを打った陽秋月を外野から強肩を
使ってアウトにしようとしたシーンが
脳裏に焼き付いていたので小林の打球が
レフト前に飛ぶや否や吉川が全力疾走を
促すと小林も分かっていたらしく全速で
一塁に向け走っていたので流石に真深も
この場は無理せず遊撃手の稜に送球した
そして小林があまりに必死に走っていたので
真深本人と詠深と稜が苦笑いを浮かべていた
そんな中で珠姫は緊迫した表情を見せていた
その理由は……
《9番、右翼手、西浦さん》
(ツーアウトだから単打はいいんだけど
西浦さんには"あの球"を完璧に打たれている)
前の打席で詠深の"あの球"を完璧に打った
梁幽館の9番打者の西浦に打順が回ったからだ
(多分、中田さんの次と言って良いくらい
詠深ちゃんの球にタイミングが合ってると思う)
珠姫の思っている通り今日の詠深の球を
完璧に打ってるのは1回にツーシームを
ホームランにした中田の他は"あの球"を
しっかり捉えた西浦だったのだ
そして珠姫の見立て通りに西浦は詠深の
球をしっかり見極めていて見逃した球は
全てボールになった上に際どい球は全て
カットさせて詠深を精神的に追い詰めて
カウントは2ボール2ストライクとなる
(流石、下級生ながら梁幽館の
レギュラーを取っただけのことはあるな
このまま攻めても四球を取られてしまう)
西浦を出してしまうと再びトップに回り
チャンスで6割打者の陽秋月に回るので
是が非でも西浦を打ち取って3つ目の
アウトを取りたいと思っていた珠姫は
(強直球で行くよ!)
(強直球! 私本来の直球!)
再び強直球を使い勝負に出ることにして
サインを出すと投げたがっていた詠深は
嬉しそうな表情をしながらも渾身の力で
珠姫のミットを目掛けて強直球を投げた
「速い!? (この直球か……だが打つ!!)」
しかし西浦は強直球すらもバットに当てると
打ち取ったあたりになった筈なのであったが
打球は中堅手の怜と遊撃手の稜の間に落ちる
ヒットにしてしまった上に怜と稜が打球の
処理に手間取ってる隙に一塁ランナー小林が
三塁まで進んでしまいツーアウトながらも
一塁・三塁と再びピンチを迎えてしまった
「くっ! (強直球まで打ってきた……
打ち取った当たりだったのに寄りによって
主将と稜ちゃんの間に落ちるなんて運が悪い)」
強直球を打たれたとはいえ、あたりとしては
打ち取ったあたりだったので、厄介な打者の
西浦を打ち取り、チェンジにできたと思った
打球が不運なヒットとなって、珠姫の表情も
苦いものとなっていた
《1番、中堅手、陽秋月さん》
そして打席には中田に次いで長打力を持つ
梁幽館の6割打者の陽秋月に回してしまう
(ここで陽さんか……
無理する必要もない場面だし
敬遠して満塁策をとった方がいいかな?)
この場面で"通算打率6割"を誇る陽秋月と
勝負するのはリスクが高いと考えたことに
加えて不運なヒットを打たれたことによる
詠深のメンタルを考慮した珠姫は陽秋月を
敬遠して満塁策をとることを考慮していた
……しかし
「タマちゃん!」
「?」
マウンドから詠深の声がしたので
球姫が目を向けると詠深は珠姫に対し
強い気持ちを込めた視線を向けていた
(私は大丈夫! やれるよ!)
(!!)
詠深は陽秋月と勝負をする意思を
視線で珠姫に訴えていたのである
どうやら詠深は珠姫の表情を見て
珠姫が敬遠を考慮していることに
気づいたようだ
それを見た珠姫は一瞬、驚いたが
詠深の強い意思を悟ると、直ぐに
敬遠を考えを放棄した
(詠深ちゃん……分かったよ!
カウントが悪くなるまでは勝負しよう!)
(うん!)
珠姫が詠深に頷いてミットを構えたので
自分の意思に気づいてくれた珠姫に対し
心の中で感謝しながら頷いた
そして勝負に出た珠姫は"ツーシーム"の
サインを出すと詠深は内角からゾーンに
入る"ツーシーム"を投じた
「ストライク!」
その"ツーシーム"を陽秋月は見送ってきた
("ツーシーム"を振って来なかったな……
ということは狙いは"あの球"か"強直球"かな?)
陽秋月が"あの球"と"強直球"に狙いを
絞っていると見た珠姫は続く2球目に
内角に直球を投げさせることで相手を
仰け反らせて外角に強直球のサインを
出したのだが制球の良い詠深にしては
珍しく詠深の投じた強直球は外角へと
要求した珠姫のサインと違う真ん中の
あまいコースに行ってしまったのだが
真ん中が得意な筈の陽秋月が打ち損じ
ファールになった
(あの陽さんが完全に打ち損じた……
という事は、かなりのノビがあるんだ)
強直球があまいコースに行ったために
"ヒヤッ"とした珠姫だったが陽秋月が
得意とするコースを打ち損じたことで
驚いたと同時に詠深の強直球に対して
確かな手応えを掴んでいた
そして最後は強直球との緩急を付けようと
"あの球"を投げさせると完全に詰まらせて
一塁ゴロで打ち取り陽秋月に自分の打撃を
させずに打ち取ることができた
「よしっ!!」
「やった!!」
陽秋月を一塁ゴロに打ち取りスリーアウトで
ピンチを脱すると珠姫と詠深の二人は思わず
その場で喜びを露にしながらベンチに戻った
「タマちゃん!
勝負させてくれて、ありがとう」
「ううん! ナイピだったよ詠深ちゃん!」
「あの陽さんに自分の打撃を
させなかったのは、本当に凄いことだよ!」
「そうね! 私も陽さんが
直球を打ち損じるなんて、思わなかったわ」
「ありがとう、芳乃ちゃん!真深ちゃん!」
「学校に帰ったら、絶対に私と勝負して!」
珠姫だけでなく芳乃と真深からも
投球を褒められて3回裏に続いて
再び希から強直球による真剣勝負を
申し込まれた詠深は嬉しそうになる
「けど2球目の強直球が
"ド真ん中"に来たのには流石に焦ったよ」
「ゴメンゴメン……
力みすぎて少し制球ミスしちゃった……」
しかしまだ本来の直球に投げ慣れてないので
珍しく制球が乱れて陽秋月に投じた強直球が
ド真ん中に行ってしまったことを指摘されて
"テヘペロ"をして苦笑いを浮かべ始めた
すると……
「中田さんを敬遠した後の、笠原さんに
投げた直球といい、この回に西浦さんと
陽さんに投げて見せた、武田さんの直球
いつもの直球よりも早くなかった?」
「ですね……ここから見ても
かなりの球速と球威を感じられましたね」
観客席のユイと二宮が今度は
詠深の強直球に目を見張っていた
「もしかして新越谷は、梁幽館の意表を
付くためか、ピンチの場面で使うために
武田さんには、あの凄い変化球だけじゃなく
直球も、本気で投げさせてなかったのかしら」
咲桜の主将の小関は新越谷が詠深の
"あの球"だけでなく強直球も今日の
試合まで封印したのだと予想したが
「多分ですが、違うと思いますよ」
「「「「えっ?」」」」
二宮の言葉にユイ、小関、田辺、久保が
揃って意表を突かれたような声を出した
「これは、あくまで私の推測ですが
武田さんは直球は未完成なのかもしれません」
「未完成?」
「どうして、そう思うの?」
そしてユイと小関が詠深の直球が
未完成だと思った理由を尋ねてみると……
「まず封印する理由がありませんよ
武田さんの決め球……ナックルスライダー
あれだけの変化球なら、さっきの早い直球と
緩急差をつけて投げれば、かなり効果的です
態々、遅い直球を投げる必要は無い筈ですよ」
「たっ、確かに……」
二宮の言葉にユイが納得したように肯定する
「それに、これは映像を見なければ
確信をもって言えませんが武田さんが
早い直球を投げる動作が普通の直球や
他の変化球を投げる時とは若干ですが
微妙に違うように見えた気がしました」
「えっ、そうだった……?」
二宮が付け加えてきた言葉に再び
ユイが思い出そうとしながら呟いていた
「今も言いましたが、あくまで私が
違和感を感じた程度でしたし一瞬なので
もしかしたら私の思い過ごしかもしれません」
ユイの呟きに二宮も確証はないので
あくまで憶測だけだと付け加えた直後だった
「ううん……瑞樹の言うとおり
僅かだけど私も違和感を感じた気がしたわ」
「主将(小関さん)もですか?」
「うん……だから瑞希の指摘も
強ち間違っていないかもしれないわよ」
「…………」
主将である小関も詠深の強直球を見て
違和感を感じたと知るとユイも瑞希の
違和感は間違ってない可能性が高いと
思い始めていたのだった
梁幽館の高橋は詠深の強直球の真相に
気づいただけであったが小関と二宮の
2人は真相だけでなく何かしらの癖を
感じ取っていたようだ
《只今より、グラウンド整備に入ります》
試合は4回裏が終わりグラウンド整備の
時間になると観客たちは飲み物を買いに
行ったりトイレを済ませに行くなど席を
立つ姿が目立ち始めた
次の5回表の攻撃は1回表と3回表に続き
珠姫からの打順なので球姫は打席に備えて
水分補給を終えるとベンチの前で素振りを
しながらベンチで仲間と談笑をする詠深の
様子を静かに探っていた
(まだ60球くらいだけど
流石に疲れが見えてきたかな?)
珠姫が気にしていたのは詠深のスタミナだった
すると珠姫は参考までに詠深が中学時代に1日
どれくらいの球数を投げていたのか気になって
素振りをしながら、さりげなく尋ねてみた
「詠深ちゃんって、中学時代は
1日で最高、何球くらい投げたことある?」
そして詠深に、さりげなく尋ねると
直後に詠深の口から、とんでもない
数字が飛び出してきた
「え~と……?
ダブルヘッダーとかもあったから
……250球くらいだったかな?」
「ゴフッ!? ゲホッ! ゲホッ!」
「はっ? ちょっ、勘弁してよ!?」
250球も投げたと聞かされた真深は
飲んでいた水を喉に詰まらせてしまい
珠姫に至っては衝撃のあまり耳を疑い
詠深に迫りながら聞き返してきた
「あっ、250球と言っても全力で
投げたことはなかったし大丈夫だったよ」
「……いくらスタミナがあって
全力でなくても250球は投げ過ぎだわ」
「真深ちゃんの言うとおりだよ……
それで、よく今まで肩、壊さなかったね?」
詠深は見た目に反してスタミナがあることは
長い付き合いである真深と珠姫も知ってたが
250球という球数を聞かされて唖然とする
それは仲間も思っていたそうだが……
「でも今日はタマちゃんが
一生懸命考えてリードしてくれて全力が
出せているから120球くらいでバテるかも?」
「詠深……」
中学を卒業し新越谷に来るまで気持ちよく
思う存分に投げることができなかった故に
大好きな野球を楽しむことができなかった
詠深の過去を知っていた真深を始めとした
新越谷の仲間はその言葉の重みが痛いほど
分かったので嬉しく楽しそうに話す詠深に
真深や珠姫も思わず笑顔になる
…………が!!
「でも調子良いし
決め球でゴリ押ししても
耐えられると思うから遠慮なく!」
「しないよ! すぐ調子に乗る!!」
「それに120球も十分、投げ過ぎよ!」
「ひっ!? "げんこつ"は勘弁して!?」
つい調子に乗ってしまった詠深が
梁幽館の打線を相手に120球も
投げられると爆弾発言をした途端に
珠姫からすかさず注意されてしまい
真深はペットボトルを持っていない
右手を"グー"にしてたので詠深は思わず
"げんこつ"を警戒して両手で頭を覆った
「とっ、ということで……
私がバテたら後は、宜しく息吹ちゃん」
「プッ、プレッシャーかけないで……」
詠深から後を託された息吹は梁幽館を
相手に自分が投球することなど考えて
いなかったこともあり緊張したらしく
冷や汗を描きそうになっていた
しかし…………
グラウンドの整備が行われている間に
新越谷のベンチでは束の間の和やかな
雰囲気に包まれていたがカメラマンや
報道陣が陣取っている取材エリアでは
あるデータに衝撃と戸惑いの雰囲気に
支配されていた
「こっ、これって……」
「嘘、でしょう……?」
それは2年前にアメリカの
スポーツ紙がガールズの試合について
書かれていた一部の記事の内容であった
その記事を見た記者たちは目の前の
記事の内容を直ぐには信じられずにいた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【"東洋の打撃姫" 2試合連続サイクル達成!】
【"女王"、"豪打の黒豹"、"東洋の打撃姫"
女子野球史上最強クリーンナップ3人による
アメリカガールズ史上初の3者連続本塁打に
スタンドではホームランボールの取り合いに】
【"東洋の打撃姫" 逆転決勝3ラン本塁打!
"ドルフィンズ"が接戦の末"エアリーズ"に
勝利し、ガールズ州大会を制覇!!】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それは正に真深の2年前からの活躍を
記載した記事と試合中の真深を写した
写真だったのだ
他にもアメリカの野球雑誌の表紙に
ボストフやジータパーラーと一緒に
女子野球史上最強クリーンナップと
掲載されていたりアメリカの記者に
"インタビュー"を受けた時に答えた
コメント等が記されていたのだ
「こっ、この記事の内容は本当なの!?」
「はっ、はい……
いくら調べても彼女の中学時代の
データが見つからなかったのですが
彼女の経歴を調べてみたところ彼女は
小学6年から中学3年までアメリカに
居たことが分かったのでアメリカ人の
知り合いの記者に連絡をして、ダメ元で
聞いてみたら、これを送ってくれまして」
1回表の先制2ラン本塁打や守備の際の
レーザービームを見たことで真深が只の
選手ではないと思っていたらしいのだが
予想以上の経歴に直ぐには信じられずに
いたが写真や記事と一緒に送られてきた
真深が僅か2年の間に積み重ねた記録が
記されたデータがそれを許さなかった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【通算打率6割、本塁打42、打点123】
【首位打者1回、打点王1回】
【1年目、24本塁打】
【2年目、18本塁打】
【1年目の成績】
【打率】リーグ2位 (1位、ジータパーラー)
【本塁打】リーグ2位 (1位、ボストフ[33本])
【打点】リーグ1位 (打点王、獲得!)
【2年目の成績】※シーズン途中に退団
【打率】1位 (首位打者獲得!)
【本塁打】3位 (1位、#E.シルエスカ[22本])
...............(2位、※ウィラード[20本])
【打点】2位 (1位、※ウィラード)
※【エアリーズ】
#【キューピッツ】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今やアメリカでプロの選手以上に注目され
それに見合う成績や記録を叩き出している
ジータパーラーやボストフを始めモウラーに
ラスターソンと黄金世代が一同に介していた
ガールズチームに彗星のごとく現れた真深の
実績がこれでもかと細かく記されていたのだ
さらに記録の他に真深が現地(アメリカ)で
ファンから呼ばれていた二つ名もデータと
共に記されていた
"女王"という二つ名を持つ、ジータパーラーと
"豪打の黒豹"という二つ名を持つ、ボストフと
クリーンナップを組んでいることや、本塁打を
量産できるような打者に、見えない容姿ながら
スイングをした時の、姿勢の良さと美しさから
いつの間にか、こう呼ばれるようになっていた
【東洋の打撃姫】……と
「あのジータパーラーやボストフを
始めとした黄金世代と呼ばれているメンバーと
チームメイトだったというだけでも衝撃なのに」
「しかもクリーンナップを打ってたなんて!?」
「そんな選手が、どうして新越谷に!?」
「それは本人に聞くしなかないんじゃ?」
真深のアメリカでの記録や二つ名に
驚愕している取材エリアの記者たち
そして数秒後に彼女たちは遂にユイの
あの時の言葉の意味を知ることとなる
真深がアメリカで対戦してきた、名前の知られる
主な好投手、数人との対戦成績が記された項目に
書かれていた、とある一人の投手との対戦成績を
見ることによって……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【対ウィラード……通算打率"1,000"】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん? なんだか視線を感じるような……?」
そして真深は自分の経歴を
突き止められていることに気づいていなかった
いつか書こうと思っていましたが
今回、ようやく真深のアメリカでの成績と
記録と、異名を公開することができました
色々と、やり過ぎた気もしなくはありませんが
後悔はしてないので何卒、多目に見てください
そして咲桜の主力メンバーなら詠深の強直球の
癖を違和感として感じ取れるかもと思ったので
小関も二宮の2人は確信まではしていませんが
強直球に違和感を持たせましたが大丈夫かな?
因みに、この物語では真深の影響で詠深が
原作より、気持ちを強く持っている設定に
なっているので、陽さんとの勝負も詠深が
自ら志願する設定にしましたが、違和感が
あったらゴメンナサイ……
次回はどこまで書けるかな……?(遠い目)
なるべく早く更新がしたいな……(遠い目)
それでは次回まで失礼致します