詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

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漸く梁幽館編が完結しました

自分の文章力が至らなかった為に
まさか半年も掛かるとは思いませんでした

ですが出来には満足していますので
少しでも楽しんで頂けたら幸いです

では梁幽館編の最終章……ご覧下さい


第33話 決着!

1点ビハインドで迎えた最終7回表の

攻撃で新越谷はツーアウトから希の

起死回生のタイムリー二塁打と真深の

2ラン本塁打で逆転することに成功し

いよいよ最後の守備に入ろうとしていた

 

 

「後続は抑えたけど……」

 

 

「あの4番、ヤバ過ぎだろう……?」

 

 

「中田の自己最速の球を場外に打つって……」

 

 

「負けるのか? 梁幽館が3回戦で……」

 

 

「そんな! ベスト16すら行けずに?」

 

 

「このまま終わるなんて、嫌っ!」

 

 

「けど、2点差は厳しい……」

 

 

「いや、1人出れば中田に回せる!」

 

 

「回せても、敬遠されんじゃない?」

 

 

しかし逆転された梁幽館を応援する

観客たちは暗い表情になってしまい

悲痛な会話が飛び交っていた

 

そんな中で新越谷が守備を前に

芳乃を中心に円陣を組んでいた

 

 

「最終回……遂に、ここまで来たね

最後まで何が起こるか分からないけど

足元ならして風向きチェックして

やれることをいつも通りやっていこう

最終回……守り抜いて、絶対に勝とう!」

 

 

「「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」」

 

 

新越谷が最終回の守備につく前に

芳乃がメンバーに注意点と激励の

言葉を送って送り出した

 

 

一方……

 

 

「ここまで、やるとはな……

彼女たちを実力を見誤っていたようだ」

 

 

梁幽館のベンチ前では中田も芳乃と同じく

攻撃の前にメンバーに言葉を掛けていたが

 

 

「いや……例え、見誤っていなくても

同じ結果になっていたのかも知れないな

新越谷は強い……特に武田と上杉は別格だ」

 

 

リードして7回を迎えたがツーアウトから

逆転を許したことと新越谷の予想以上の

強さと実力に苦い表情を浮かべていたが

それは中田の周りに集まったメンバーも

追い詰められた焦りもあるのか中田よりも

暗い表情になっているメンバーの姿もある

 

 

「だが試合は、まだ終わっていない!

諦めなければ必ずチャンスはやって来る!

ランナーを貯めて確実に点を取りに行くぞ

新越谷にできた事がウチにできない筈がない」

 

 

しかし中田は主将として瞬時に気持ちを

切り替えて普段よりも力強い声と表情で

メンバーを鼓舞し奮い立たせようとする

 

 

「逆転するぞ!!」

 

 

「「「「「「「「おおっ!!」」」」」」」」

 

 

そんな中田の姿にメンバーも

逆転勝利に向けて望みを持ったのか

声を揃えて中田の激励に答えて見せると

7回裏の先頭打者の陽秋月が打席に向かった

 

 

「意地、見せんかい梁幽館ーー!!」

 

 

「お願い! 頑張ってーー!!」

 

 

「逆転してくれーー!!」

 

 

球場にも陽秋月の名前がコールされて

梁幽館の7回の攻撃が始まると三塁側

観客席からは梁幽館の逆転勝利を願う

観客が必死に声援を送るとそれを見る

詠深が複雑そうな表情で見つめていた

 

 

「詠深ちゃん、どうかした?」

 

 

そこへ珠姫が詠深の元に駆け寄ってきた

 

 

「うん……私、今までリードして、最終回の

マウンドに立ったことなんて1度もないし

こんな雰囲気の中で投げたこともないから

少し……というか、かなり困惑しちゃって」

 

 

中学校の頃に1度も勝ったことのない

詠深にとって初めてリードして迎えた

最終回のマウンドは未開の地のような

感覚だったようだ

 

 

「そっか……緊張する?」

 

 

「ううん……初めてリードして

最終回のマウンドに立てて嬉しいよ。

タマちゃんと真深ちゃんが一緒にいるし」

 

 

珠姫としては5回裏に中田にホームランを

打たれてからの詠深の投球の調子が良いだけに

雰囲気に飲まれていないか心配だったようだが

詠深に緊張した様子は全く見受けられなかった

 

 

しかし……

 

 

「ただ、このまま私達が勝ったら

中田さんや陽さんを初め梁幽館の3年生の

高校野球が終わるんだって思ったら少し複雑で」

 

 

詠深は三塁側の梁幽館のベンチの様子や

三塁側の観客席で応援するベンチ入りが

できなかった梁幽館の野球部員の声援や

雰囲気を見て1年生の自分と中田を初め

梁幽館の3年生の最後の大会である夏の

大会に賭ける思いを感じ取ったようだ

 

 

「…………」

 

 

そんな詠深の言葉を聞いた珠姫は詠深の

優しさを感じながらも詠深自身も中学で

1度も勝てなかったにも関わらず挫けず

重ねてきた詠深の努力は決して梁幽館の

3年の努力にも劣らないと確信していた

 

珠姫は、その思いを詠深に伝えようとしたが

直後に詠深が、この試合で何度も見せてきた

強い決意を抱いた表情となり、珠姫の予想を

遥かに越える言葉を口にしてきた

 

 

「でも、だからこそ私は全力で投げたい!」

 

 

「!?」

 

 

詠深が発してきた言葉に

案の定と言うべきか珠姫は息を飲んだ

 

 

「さっきの真深ちゃんと

中田さんの勝負……本当に凄かった……

真深ちゃんは中田さんに、自分の本気を打席で

ぶつけたのに私が、みっともない投球をしたら

真深ちゃんにも中田さんにも失礼だし、何より

私もマウンドから、自分の本気をぶつけたい!」

 

 

「詠深ちゃん……」

 

 

先程の真深と中田の勝負を見たことで

詠深は大きな影響を受けたらしく真深が打席で

自分の持てる力の全てをぶつけたように詠深も

真深のようにマウンド上から自分の持てる力の

全てをぶつけたいと強く願っていたのであった

 

そんな詠深の言葉に珠姫が感銘を受けたことは

言うまでもなく珠姫も詠深の気持ちの隠った

全力投球をミットで受けたいと強く思っていた

 

 

「大丈夫だよ、詠深ちゃん!

詠深ちゃんが気持ち良く全力を出せるように

どんな球だろうと必ず私が全部捕ってあげる

だから詠深ちゃんは思いっきり投げてきてね」

 

 

「ありがとう、タマちゃん! 宜しくね!」

 

 

「うん、任せて!」

 

 

最後に互いのグラブとミットを当て

ハイタッチをしてから珠姫は自分の

ポジションへ戻ると同時に7回裏の

梁幽館の攻撃が始まった

 

 

《1番、中堅手、陽さん》

 

 

そしてリードされた状況のためか

いつもは打席では表情を変えずに

ポーカーフェイスでいる陽秋月が

今は緊迫した表情で打席に立つと

なにがなんでも出塁しようという

気迫がヒシヒシと感じられた

 

 

しかし……

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

「……!?」

 

 

詠深は初球に強直球を引っ掻けさせて

ファールにさせると2球目は外角へと

逃げるツーシームを振らせて僅か2球で

陽秋月を追い込むと最後は外角高めから

内角低めに落ちる"あの球"を空振りさせ

陽秋月からこの試合2つ目の三振を奪う

 

 

《先頭の陽秋月、三球三振!?

なんと陽選手が公式戦では初めて

1試合に2つの三振を奪われました!》

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

高校通算6割の打率を記録しているだけに

滅多に三振しない陽秋月が詠深に2つ目の

三振を奪われ本人だけでなく逆転を信じて

ベンチで見守るチームメイトや観客席の

応援団や梁幽館を応援する観客は騒然とし

信じられなそうな表情を詠深に向けていた

 

 

更に……

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

《2番、白井も三振に倒れてツーアウト!

なんと武田投手、これで7連続三振に加えて

この試合で12個目となる三振を奪いました!》

 

 

詠深の勢いは止まらず続く白井も5回裏の

3打席目に続いて詠深に2つ目の三振を喫した

 

 

そして……

 

 

《さあ! 連続三振により

あっという間に"ツーアウト"!

いよいよ追い詰められました梁幽館!?》

 

 

連続三振で梁幽館は"アッという間に"

ツーアウトにされ追い詰められてしまった

それでも三塁側からは尚も声援が送られていた

 

 

《3番、遊撃手、高代さん》

 

 

球場に名前がコールされると

ネクストサークルから高代が

気を引き締めた表情で打席に

向かうと同時にベンチからは

中田がネクストサークルへと

向かっていった

 

 

「……(頼むぞ、高代!!)」

 

 

ネクストサークルでバットを構えながら

中田は高代が自分に打席を回してくれることを

信じながら心の中で高代を鼓舞し声援を送った

 

 

(高代……お前と白井は、この大会で

初めてレギュラーを取れたんじゃないか!

私は、もっと、お前達と一緒に野球がしたいぞ)

 

 

中田の脳裏には高代や白井を初め

今までの同学年の仲間との練習の

風景が過っていた

 

 

部員数が100人を越える名目の梁幽館で

レギュラーを取ることは一筋縄ではなく

1年の夏からレギュラーを取れた中田と

1年の秋になってからレギュラーを取れた

陽秋月と対照的に他の同世代のメンバーは

上級生の壁に阻まれたり同世代の中にも

他の実力者が集う中で高代と白井も実力が

ありながらレギュラーを取れずにいたが

諦めることなく練習時間以外にも素振りや

守備に練習を続けて着実に実力を伸ばし

この夏に遂にレギュラーを勝ち取ったのだ

 

そして中田は陽秋月と同じくらい高代や

白井と仲も良く二人が練習時間以外にも

練習する様子を陰から見守っていたのだ

 

 

(まだ公式戦、2試合目じゃないか!?

ここで終わるなんて、いくらなんでも早すぎる

一昨年の夏の全国の舞台に、この世代の中から

私だけがレギュラーに選ばれたが、あの場所に

立った瞬間から私はお前達、皆と一緒に全国に

行くことを夢見て、今日まで頑張って来たんだ

だから打ってくれ高代! 皆で全国に行こう!)

 

 

共に励まし合い切磋琢磨してきた仲間と

野球を続けて全国の舞台に立つことが

2年前からの夢であり目標だった中田は

高代の努力が報われるためにも彼女が

打って自分に繋ぐことを切に願っていた

 

 

一方の高代は……

 

 

(このままじゃ終われない!

でも奈緒に繋ぎさえすれば奈緒は打ってくれる

今日の試合は無安打で攻撃では貢献してないし

奈緒が自己最速の球を投げてまで全力を出した

試合を負け試合なんてしたくないし絶対に打つ)

 

 

中田が高代を初め同世代のメンバーのことを

思っているように高代を初めとした仲間達も

中田に対する思いは感謝を含めても多々あり

その中田が主将になって迎えた最後の大会を

ベスト16にすら行けずに過去最低の成績で

終わらせたくないと強く願っていると同時に

真深との勝負で持てる力の全てを出しきった

試合を負け試合にしたくはないと思いながら

マウンド上の詠深と対峙した

 

 

そんな高代に対し珠姫は……

 

 

(ツーアウトで後がないから

最後の打者になりたくないだろうし

中田さんに繋ごうと打ち気だろうし

強直球を狙ってる可能性が高いから

念のため"ツーシーム"から攻めよう)

 

 

(うん!)

 

 

ここまで詠深が決め球の"あの球"こと

ナックルスライダーと強直球を混ぜて

三振の山を築いているので今の高代も

強直球を意識している可能性が高いと

判断しタイミングを外しツーアウトで

追い込まれている今の状況で選択肢を

増やすことで焦りを誘い的を絞らせず

打ち取ろうという珠姫の作戦であった

 

そして珠姫のサインに頷いた詠深は

要求通りのコースに"ツーシーム"を

高代に投じた

 

 

…………がっ!!

 

 

(絶対に打つ!!)

 

 

高代の脳裏には寮でルームメイトで親友の

白井と共に寝る間も惜しんでまで素振りの

練習をしていた風景が過ると詠深が投じた

"ツーシーム"に怯まずバットを振り抜いた

 

 

カキィィィィィィィィン

 

 

「あっ!?」

 

 

《初球打ちーーー!?

打球は左中間に向かって延びていくーーー!!》

 

 

高代は"ツーシーム"をジャストミートされると

打球は勢い良く左中間へと放物線を描きながら

勢いよく飛んでいくと……

 

 

《抜けたーー!! 左中間、真っ二つーー!!》

 

 

打球は真深が守るレフトと怜が守るセンターの

間を抜ける長打になると何の因果か先程の希の

打球の時と同じように高代の打球もフェンスに

当たるとクッションボールとなって真深と怜が

打球の処理に手間取っている隙に二塁まで進み

二塁打となって先程の新越谷の時と同じように

梁幽館もツーアウトからチャンスを作った

 

 

(縮こまらずに、よく振り抜いた!)

 

 

(うん……)

 

 

そんな高代に中田がネクストサークルから

握りしめた右手の拳を向けて高代の打撃を

祝福すると高代も二塁上から目に少し涙を

浮かべながら答えていた

 

 

「いいぞ、高代ーー!!」

 

 

「流石、名門の意地!!」

 

 

すると、それと同時に三塁側の

観客席から割れんばかりの歓声が上がると……

 

 

《4番、投手、中田さん》

 

 

球場に中田の名前がコールされて三塁側の

観客席からの更に声援の声が大きくなった

 

 

「中田に繋いだぞ!!」

 

 

「もう一度、ホームランで同点だ!!」

 

 

1回表に真深に2ラン本塁打を打たれた直後の

1回裏に中田が同点2ラン本塁打を打った時と

殆ど同じ状況で中田に打順が回ったので中田や

梁幽館を応援する観客は先程の7回表に真深が

2ラン本塁打を打ったので今度も1回表の様に

中田が同点の本塁打を打つことを期待していた

 

そして三塁側から送られる大歓声を受けながら

状況が状況だけに普段より鋭い目付きになって

打席に向かっていく中田を詠深はマウンドから

真剣な表情で見つめていると珠姫から駆け足で

マウンドにやって来て詠深に声を掛ける

 

 

「詠深ちゃん! 次は中田さんだから……」

 

 

「嫌だ! 絶対に嫌だ!!」

 

 

「えっ?」

 

 

詠深に声を掛けようとした珠姫だったが

その前に詠深が首を何度も横に振りながら

珠姫の言葉を遮って阻止すると直後に詠深は

珠姫も見たことのない驚くような一面を見せた

 

 

「敬遠なんてしないよ!

絶対に中田さんと勝負するから!!」

 

 

珠姫が何か言う前に詠深は強い口調と

絶対に譲らないという気持ちを全面に

出しながらそう言って敬遠することを

強く拒否したことに加え……

 

 

「私、今ならユイさんの気持ち分かるよ」

 

 

「ユイさん……?」

 

 

詠深の口から今度はユイの名前が

出てきたので珠姫は詠深の意図を

聞きたいと思い静かに聞き返した

 

 

「うん……ユイさんは真深ちゃんに

1度も勝ったことがなくて真深ちゃんに

負けたままが悔しくから日本に留学してまで

真深ちゃんにリベンジをしに来たんだよね?」

 

 

「うん、そうだね……」

 

 

「私だって今日は中田さんと

勝負してまだ1度も勝ててないもん!

仮に試合には勝てたとしても中田さんに

負けたままで終わるだなんて絶対に嫌だよ!」

 

 

「詠深ちゃん……」

 

 

「真深ちゃんの言った通り

中田さんと勝負できる、最後のチャンスだから

私も、さっきの真深ちゃんと中田さんみたいに

正々堂々と、中田さんとの勝負を楽しみたいし

ホームランの、リベンジをしてから勝ちたいし

最後の夏の大会に掛ける、思いに応えたいから

敬遠したら勝っても負けても、後悔すると思う」

 

 

「…………」

 

 

負けたままでは嫌なことに加え

最後まで中田との勝負を楽しみたいと

主張してきた詠深の姿に珠姫は今までで

見たことのない詠深の一面に驚きながらも

梁幽館との試合を経て成長したのだと感じ

それにより今の詠深が居るのだと感じとり

そんな目の前の幼馴染みを誇らしく感じた

 

 

そして……

 

 

「安心して、詠深ちゃん

私は敬遠を提案しに来たんじゃないよ」

 

 

「えっ?」(・A・)?

 

 

宥めるように告げてきた珠姫の言葉に

詠深は一転して"キョトン"とした声と

表情で珠姫の顔を見る

 

 

「私は、ただ中田さんを打ち取るための

段取りとサインの確認をしようとしただけだよ」

 

 

「そっ、そうなの!?

ごめん……勝手に勘違いして色々と言って……」

 

 

誤解していたことを知った詠深は

今度は慌てた口調と表情で珠姫に謝ってきた

 

 

「ううん、謝ることないよ

寧ろ詠深ちゃんの強い気持ちと

新しい一面が見られて嬉しかったよ」

 

 

「タマちゃん……」

 

 

何も言わずとも自分の気持ちや感情を理解し

受け入れてくれる珠姫のことを改めて詠深は

感謝すると同時に珠姫とバッテリーが組める

今の瞬間を心から嬉しく思っていた

 

 

「状況は1回裏と殆ど同じ状況……

リベンジするには、この上ないチャンスだね!」

 

 

「うん!」

 

 

珠姫も今の状況が1回の攻防の時と

同じだと気づいていたらしく詠深を

鼓舞してから中田に対しリベンジを

果たすプランを耳元で小声で伝える

 

 

「次に強直球のサインを出した時は

初めて練習した時みたいに私が後ろの

フェンスに居ることをイメージして投げて」

 

 

「それって梁幽館と埼玉宗陣の

春大会のビデオを見た後に真深ちゃんに

打席に立ってもらいながらやった練習だよね?」

 

 

「そう……1秒でも早く私のミットに

ボールを届ける気持ちで思いっきり投げて!」

 

 

「うん、わかった! でも、効果あるかな?」

 

 

「ダメだったら潔く散ろう」

 

 

「そうだね」

 

 

最後に二人で笑いあってから

珠姫はポジションへと戻っていき

詠深はしっかりとグラブを構えた

 

 

「おっ!」

 

 

「勝負するぞ!」

 

 

「いいぞ、武田ーー!!」

 

 

「見直したぞ、新越谷ーー!!」

 

 

試合開始前は昨年の不祥事のことをネタに

野次を飛ばす観客の姿もいたのだが今日の

試合の新越谷の健闘と先程の打席で敢えて

失投に手を出さず決め球での勝負に徹した

真深と逃げずに中田と正々堂々と勝負する

選択をした詠深の姿に感銘を受け新越谷に

対する観客の見方が変わっていたのだ

 

 

一方、打席に立った中田は……

 

 

(まさかウチの打線が

ここまで三振を奪われて抑えられるとはな)

 

 

逆転勝利のためにも、絶対に打とうと

詠深の、これまでの投球を思い返しながらも

梁幽館を相手に好投する詠深に敬意を感じていた

 

 

(今、思えば2本目のホームランを打った球も

1本目のホームランを打った時の球と比べて

球威があって詰まらされたが辛くもパワーで

スタンドまで持っていけたホームランだった

尻上がりに調子が上がるタイプなのだろうが

それ以上に、この試合で、どんどん成長してる

感じの方が強い……本当に末恐ろしい投手だ)

 

 

どうやら今日の試合で詠深から打った2本の

ホームランも理想通りに打てた1本目と違い

2本目は強直球の球威に押されそうになった

ギリギリのホームランだったようだ

 

 

《さあ! ツーアウトから3番、高代が

二塁打で出塁し武田の連続三振を止めて

打席には今日は武田から2本の本塁打を

打っている4番の中田が打席に立ちます

1回裏では上杉が先制の本塁打を打った後に

同点の本塁打を打った中田ですが1回に続き

再び本塁打で同点に追い付くか武田が中田に

リベンジを果たすのか全く目が離せません!》

 

 

そして、球場の熱気を表すかのように実況も

今までで1番、熱が入った声を出すと同時に

珠姫が詠深にサインを出す

 

 

(初球は内角一杯に直球を!!)

 

 

(うん!!)

 

 

珠姫からのサインに頷いた詠深は

インコースに普通の直球を投じた

 

 

グワキィィィィィィィィィィン

 

 

ドゴーーーッ

 

 

「!?」

 

 

中田は内角に来た直球を捉えると真深が中田の

失投をファールにした時のと同じ威力の打球が

三塁側ファールゾーンのフェンスを直撃する

 

 

「なんて、打球速度…………恐っ!?」

 

 

あまりの打球の速さに三塁手の理沙は

思わず冷や汗をかいてしまっていたが

 

 

(いやっ、力んでる!

流石の中田さんも重圧を感じてるんだ!)

 

 

珠姫は中田のスイングが力んでいることを

しっかり見抜いていて手応えを感じていた

 

 

(今の直球の残像が残っている内に"あの球"を!)

 

 

珠姫から"あの球"のサインが出ると

詠深はサイン通りに"あの球"を投じると

中田は辛くもカットするのが精一杯であった

 

 

「くっ……!(信じられん……

直球も変化球も、さっきより凄いぞ!

並みの努力では習得できないレベルの球を

初めてボールを貰った子供が投げるように

楽しそうに投げてくる……こんな状況下で

一体どんなメンタルをしてるというのだ?)」

 

 

新越谷が逃げ切って勝つか

梁幽館が同点に追い付けるかという

先程の真深と中田が対戦した時と同じくらいに

重要な局面でプレイを楽しんでいる詠深の姿に

流石の中田も詠深の精神力の強さに驚いていた

 

 

(残念だが私には、この状況を

楽しめるほどのメンタルはないようだ……

さっきの上杉のように打つのは無理だろう

とにかく2本目のホームランの時のように

詰まらされないようにスイングをすること

そして私なりの最高の打撃で決めてみせる)

 

 

中田は真深と詠深のメンタルの高さを認めつつ

それでも自分と仲間たちの夢を叶えるためにも

"2ストライク"で追い詰めれられたが集中力を

高めて必死に食らいつこうとしていた

 

 

(タイミングは合ってたけど追い込んだし

辛くもカットしたスイングだった……行ける!)

 

 

一方で珠姫は"あの球"をカットされても中田が

辛くもカットしていた事にも気づいていたので

余裕をもって詠深に決め球のサインを出した

 

 

(ここで強直球……三球勝負で決めちゃおう!)

 

 

(強直球……敢えて2本目のホームランを

打たれた時と同じ球と同じコースに要求して

私にリベンジさせるリードをしてくれるなんて)

 

 

詠深が中田の4打席目を迎える前に中田と

勝負する気持ちを聞いた珠姫による詠深の

思いを尊重するリードを見て詠深が珠姫に

感謝の思いを感じていると……

 

 

「詠深! 楽に投げてね」

 

 

「ピッチャー勝っとーよ!」

 

 

「サード打たせていいわよ!」

 

 

「ホームラン以外なら守ってやるぜ」

 

 

詠深の後ろから内野陣の

菫、希、理沙、稜の順に詠深を鼓舞すると

距離があることと、観客の歓声によって

声は聞き取れなかったがセンターの怜と

ライトの白菊も詠深を鼓舞する様子が見え

レフトの真深も優しい表情で見守っていた

 

 

(みんな……ありがとう)

 

 

そんな仲間に対して詠深は感謝の気持ちで

一杯になったのだが詠深が感謝の気持ちを

抱いたのは仲間だけではなかった

 

 

(中田さん……中田さんや梁幽館のお蔭で

私は昨日より、もっと野球が好きになれました

そして昨日よりも、強くなれました……だから

次の球は今の私の気持ち全てを込めて投げます

もしこれを打たれたとしても私は後悔しません)

 

 

それは今日の試合で自分に強い選手やチームと

全力でぶつかり合える楽しさを学ばせてくれた

中田に対しても感謝の気持ちを抱いていて球に

自分の思いを込めるために先程の真深と中田の

勝負で二人が互いに全てをぶつけ合ったように

自分も今までで1番の強直球を投げたいと思い

両腕を大きくふりかぶった

 

 

(中田さんや梁幽館の打者と勝負できて

楽しかったです……嬉しかったです……本当に)

 

 

詠深は全ての思いを込めて渾身の強直球を投げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ありがとうございました!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の中で中田への思いを叫ぶと同時に

詠深は渾身の力と思いを込めて全力の

強直球を5回裏に中田にホームランを

打たれた時と同じコースに投げた

 

 

「なっ!? (更に早くなった!?)」

 

 

詠深の投げた球は明らかに今まででの打席や

ベンチから見た球よりも遥かに早かった為に

流石の中田も反応が遅れてしまった

 

 

そして……

 

 

ギィィィィィン

 

 

それでも食らいついた中田のバットは

辛くも詠深の強直球を捉えたが打球は

勢いなく内野の上空に高く舞い上がり

 

 

「…………(見事だ)」

 

 

両腕に強い痺れを感じながら中田は

小さな声で詠深を称賛すると打球を

見上げることなく力なく一塁線上を

俯きながら歩き出すと同時に中田の

打球を希が、しっかりキャッチした

 

 

「アウト! ゲームセット!!」

 

 

主審が3つ目のアウトをコールしたと同時に

新越谷はチーム一丸となって見事に下馬評を

覆し梁幽館を破るという大番狂わせを演じて

4回戦進出を決めたのであった

 

 




梁幽館編……漸く完結しました!

前回の真深と中田の勝負に詠深が
感化された設定にしたので原作よりキャラが
少し変わっていて読んで違和感を感じる人も
居るかもしれませんね……申し訳ありません

ですが、この設定に後悔はありません!

この小説では梁幽館から三振を
倍近く取っていますし原作より
詠深も注目される展開になると
思いますので何卒ご了承下さい

それでは次回も宜しくお願い致します
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