詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

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ご無沙汰しております……

試合が終わった後のストーリーに
色々なパターンやシーンを考えていたので
文章に纏めるのに手間取って時間が掛かりました

書いたり書き直したりの連続で
妥協し掛けたりもしたので少しでも
楽しく読んで頂けますと凄く嬉しいです

今回は試合が終わってから
学校に戻った後までの話になります

それからユイが客席で"あの人"に会って
少しだけ会話を交わしますので、お楽しみに!

それでは、ご覧下さい!


第34話 東洋の打撃姫

試合開始前は誰もが梁幽館のコールド勝ちだと

予想して疑わなかった新越谷と梁幽館の試合は

真深の打撃や詠深の好投の活躍で大接戦の末に

新越谷が勝利する番狂わせが起こった

 

 

《試合終了ーー!!

思わぬ接戦となった試合は"6-4"!

新越谷が見事な勝利で4回戦に駒を進めました

そして優勝候補の梁幽館がまさかの3回戦敗退

あまりにも早すぎる敗退となってしまいました》

 

 

試合が終了し実況が驚きと興奮が

混ざったような声で試合の結果を

伝えるとグラウンドでは内野陣と

ベンチからは芳乃と息吹の2人が

喜びながら飛び出して来て一斉に

好投した詠深へと飛び付いてきて

まるで優勝したかのような様子で

喜び合い始めた

 

 

(本当に、勝ったんだ……)

 

 

マウンドで仲間から揉みくちゃにされる詠深と

一塁フライで打ち取られた中田が一塁上で空を

見上げながら小さな声で呟いていた

 

 

(本当に、負けたのか……)

 

 

そして歓喜に沸く新越谷のメンバーに対して

梁幽館のベンチでは梁幽館のメンバー全員が

悪い夢でも見ているように呆然としていたが

次第に敗れた現実を理解し初めたのか次々と

俯いたり無表情のまま涙を流す者が出始めて

三塁側の応援席の方も誰も居ないかのように

静まり返っていた

 

 

(本当に、楽しかった……)

 

 

そんな対照的な両者の様子を真深は左翼手の

ポジションから試合を終えて勝利した達成感を

感じながら昨年アメリカでチームを去ってから

1年2ヶ月ぶりとなる公式戦の試合に出場して

詠深や珠姫に加え信頼し合う仲間たちと一緒に

梁幽館という強豪校と接戦を繰り広げて最後の

1打席とはいえ中田という最高の選手を相手と

真っ向勝負を楽しめた喜びも感じながら勝利に

歓喜する仲間の姿を穏やかな表情で見つめた

 

 

「どうしたんだ、真深?」

 

 

そんな真深に怜が声をかけてきた

 

 

「いえ……本当に勝ったんだなと思いまして」

 

 

「そうだな……私も実感が沸かないが

間違いなく私達が、あの梁幽館に勝ったんだ!」

 

 

普段はクールな怜だが梁幽館に勝利して

感極まっている様子が表情に現れていた

 

 

「さあ! 私達も行こう」

 

 

「ですね……行きましょうか」

 

 

そして怜は歓喜に沸く仲間のもとに

行こうと真深を促すと真深は感傷に

浸りながらも返答すると怜と一緒に

仲間達の元へと走っていった

 

一方で中田は一塁上で空を見上げながら

呆然としていたが小さく溜め息を吹くと

すぐ側の一塁のコーチャーボックスにて

踞りながら涙を流すメンバーに近づいた

 

 

「行こう……整列だ」

 

 

そして涙にくれるメンバーを立ち上がらせて

優しく背中を撫でながら試合終了後の整列に

向かっていった

 

やがてホームベースの前に4人の審判団と

主将を先頭に両チームのメンバー全員が整列し

 

 

「礼っ!」

 

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 

主審の声を合図に両チームのメンバー全員が

互いに帽子を取って挨拶を終えるとお互いに

選手同士で握手をしながら健闘を称え合うが

新越谷の中で最も梁幽館のメンバーに握手を

求められたのは真深と詠深だった

 

 

「参ったわ、凄い投球だったね」

 

 

「1年生とは、思えなかったわ」

 

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 

詠深は白井と高代から投球を称賛されて

喜びと緊張が交ざったような声と表情で

2人と握手を交わしている

 

 

「…………」

 

 

「あっ、陽さん……」

 

 

そこへ陽秋月が無表情ながら負けた為か

いつもよりも険しさを感じさせる表情で

詠深の前へと歩み寄ってきたので詠深は

緊張しながら陽に声を発すると……

 

 

「……ナイスピッチ」

 

 

そう言った瞬間に柔らかく穏やかな

表情となり詠深の投球を称えながら

握手しようと右手を差し出した

 

 

「陽さん……ありがとうございます!

陽さんと真剣勝負ができて嬉しかったです」

 

 

中田と並ぶ名打者から投球を褒められ

握手を求められたことで詠深も感謝の

言葉を伝えると心の中で感動しながら

陽秋月と握手を交わした

 

 

「ありがとう、素晴らしい試合だったよ」

 

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 

その横では真深が中田と握手を交わしていた

 

 

「上杉さん……」

 

 

そこへ吉川が真深の元にやって来た

 

 

「次は……負けないから!!」

 

 

そして悔し涙を流しながらも力強い声で真深に

握手を求めながらリベンジを宣言したのだった

 

 

「望むところです!」

 

 

真深は吉川の手を握って応じると2人は

お互いに力を込めながら握手を交わした

 

そして真深との握手を終えると吉川は

同級生の小林と西浦に支えられながら

引き上げていった

 

 

(試合には負けてしまったが

この試合で和美は大きく成長したようだな

これなら私達も安心して引退できそうだし

エースの座も和美に託すことができそうだ)

 

 

真深にリベンジを誓った吉川の姿を見て

中田は安心したような表情になっていた

 

 

「では、失礼する」

 

 

そう言って中田もベンチへ引き上げていった

 

 

引き上げていく吉川と中田の背中を

真深と詠深が静かに見送っていると

珠姫も加わって2人と中田と吉川の

背中を見届けていたが

 

 

「行こうか」

 

 

「うん……」

 

 

「えぇ……」

 

 

自分たち以外のメンバーも全員ベンチに

引き上げていたので珠姫は詠深と真深に

自分たちも戻ろうと促したのだった

 

 

「ナイスゲーム!」

 

 

「これからも応援するよーー!」

 

 

「武田! 上杉! 後でサインくれーー!」

 

 

ベンチへと戻った新越谷のメンバーが

一塁側の観客席に向けて挨拶をすると

観客から称賛の声が次々と響いてきた

 

 

「いつの間に観客が増えてたのね……」

 

 

「試合に集中してて気づかなかったぜ

始まる前は"アンチ"しかいなかったのにな」

 

 

いつの間にか増えていた一塁側の観客の数と

その様子に稜と菫は思わず驚きながら呟いた

 

 

「まあ、良い試合ができたし

真深と詠深のインパクトが凄かったからな」

 

 

怜も一塁側の観客から送られる声援を

嬉しく思いながら菫と稜の呟きに肯定した

 

 

その時だった……

 

 

「!?」

 

 

観客席を見渡していた真深が

とある客席を見た瞬間に驚いた表情になった

 

 

「真深ちゃん、どうしたの?」

 

 

真深の横にいた詠深が真深の様子に

気づいて声を掛けて同じ方向を見る

 

 

「あっ!?」

 

 

そして真深と同じように驚いた表情になった

 

 

(ユイさん……)

 

 

詠深は従姉妹のライバルの姿を見て

心の中で名前を呟きながらユイの姿を

見ているとユイの方も、真深と詠深の視線に

気づいたらしく笑みを浮かべてから、二宮や

先輩たちと席を立ち、その場を去っていった

 

因みにユイにインタビューをしに観客席に

来ていた女性記者はユイから真深に関する

話を聞いたらしく既にその場にいなかった

 

 

「ねぇ、二宮さん」

 

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

球場を後にしようとする途中に

ユイが二宮の方を向いて声をかける

 

 

「後で少し投球練習に付き合ってくれる?

今の試合を見てたら無性に投げたくなったのよ」

 

 

「……今日は休むようにと言われましたよね?」

 

 

昨日の試合で5回コールドとはいえ

完全試合を達成するくらいに投げ込んだ上に

今日は監督からも休むように言われたことを

指摘して二宮はユイの申し出に異議を唱える

 

 

「20球くらいで良いから!」

 

 

「…………」

 

 

「お願い!」

 

 

そう言ってイタズラな笑みを浮かべながら

両手を会わせてユイは二宮に嘆願している

 

 

「10球よ」

 

 

「「えっ?」」

 

 

その横から小関に声をかけられ

ユイと二宮が揃って振り向いた

 

 

「10球までなら許してあげるわ

それ以上は後に響くだろうから諦めなさい」

 

 

ユイの気持ちを察した小関は

主将の権利を用いて10球だけ

投げることを許可してあげたのだ

 

 

「やった! ありがとうございます!」

 

 

「まあ、小関さんが良いと言うのでしたら」

 

 

自分の希望より10球少ないものの

小関から投球練習の許可を貰い嬉しそうに

お礼を言うユイに対して二宮は表情を変えず

主将である小関が許可したならば良いだろうと

後でユイの球を受けることに同意したのだった

 

 

すると……

 

 

ドンッ

 

 

「あっ、ごめんなさい!?」

 

 

不意に誰かの肩がユイの肩に当たってしまい

当たった相手が慌てながらユイに謝罪してきた

 

 

「いえ、私の方こそ不注意でした」

 

 

対するユイも向こうから当たったとは言え

投球練習の許可が貰えたことに嬉しくなり

周りを意識していなかったと反省したので

快く応対して相手の姿を見てみると相手は

小さな体格でポニーテールの髪をしていた

 

 

(この制服、新越谷の……?)

 

 

しかも相手は新越谷の制服を着ていたのだ

 

 

「しっ、失礼します!」

 

 

少女はお辞儀をしてから再び謝罪をすると

恥ずかしそうにその場を去って別の場所で

新越谷のメンバーの姿を静か見つめていた

 

 

「ウィラ、瑞希、行くわよーー!!」

 

 

「ユイさん、行きましょう」

 

 

「ええ、そうね」

 

 

そんな少女の姿が気になって見ていたユイと

それに付き添っていた二宮であったが小関に

呼ばれてその場を去っていった

 

 

一方で三塁側の梁幽館のベンチでは

梁幽館のメンバーも観客席に向けて

挨拶をしていた

 

 

「うぅぅ……」

 

 

「こんなところで終わるなんて……」

 

 

「もっと中田さん達のプレイが見たかった……」

 

 

応援席ではベンチ入りできなかった

梁幽館の野球部員が悔し涙を流しながらも

ベンチ前で挨拶をするメンバー拍手を送っていた

 

 

「良い試合だったぞーー!」

 

 

「よくやった! 胸を張ってくれーー!!」

 

 

「中田さん! 陽さん!

3年間ありがとう! お疲れさまーー!!」

 

 

そして梁幽館を応援していた観客も

梁幽館が敗れたことにショックのあまり

涙を流しながらも選手の健闘を称えていた

 

そして挨拶を終えると悔し涙を流しながら

自分たちの野球用具を鞄の中に入れていた

 

 

「……」

 

 

そんな中で中田は先程まで新越谷と

激闘を繰り広げていたグラウンドを

静かに見つめていた

 

その表情は、まるでグラウンドに

別れを告げているかのようであった

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

それからロッカールームに引き上げて

学生服に着替えた新越谷のメンバーは

球場前のアオダモの木が植えられている

岩場に腰を下ろし体を休めている合間に

詠深は芳乃と息吹からマッサージを受け

真深は白菊から肩を揉んでもらっていた

 

 

「詠深ちゃん、どこか変なところはない?」

 

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 

「凄く良い球、投げていたわね

ベンチから見てても分かるくらいだったわ」

 

 

「うん……ありがとう」

 

 

「詠深とはまた真剣勝負したいものだな」

 

 

「私も!」

 

 

「うん……」

 

 

芳乃と息吹は詠深の体を気遣いながらも

詠深の投球を称賛すると怜と希は普段の

練習で詠深との対戦を希望すると最後の

中田との勝負の余韻と整列後に梁幽館の

選手からも投球を称えられた事が頭から

離れていないのか生返事で答えていた

 

 

「真深さん、見事な打撃でした!」

 

 

「ありがとう、白菊ちゃん」

 

 

一方で白菊から肩を揉んでもらっていた真深は

微笑みながら白菊にお礼の返事を口にしていた

 

 

「今度、打撃練習をする時は

是非とも、ご一緒させてください!

中田さんとの対戦では三振しましたので」

 

 

「あら、じゃあ私もお願いしようかしら?

怜を三塁に進めることはできたけど結果的に

中田さんの直球には詰まらされちゃったから

もっと打撃力に磨きをつけたくなっちゃって」

 

 

「私もお願い! さっき約束したでしょう?」

 

 

「私も頼むぜ、真深」

 

 

「ええ、喜んで」

 

 

白菊が真深と一緒の打撃練習を希望すると

側にいた理沙も真深との打撃練習を希望し

7回表の攻撃で内野フライで凡退した菫と

稜も会話に加わると真深は快く応じた

 

 

すると……

 

 

「お疲れ様です」

 

 

背後から声を掛けられて振り替えると

中田がマネージャーの高橋を連れてやってきた

 

 

「「「「「「「お疲れ様です!」」」」」」」

 

 

声を掛けてきた相手が中田だと分かると

腰を下ろしていた全員が立ち上がって

中田にお辞儀をしながら返答した

 

 

「これ……、一緒に連れて行ってください」

 

 

「(鶴……)あっ、ありがとうございます!」

 

 

中田が怜に手渡したのは折り鶴だった

ベンチ入りできなかった梁幽館の部員全員か

若しくは野球部員以外の梁幽館に通っている

学生たちに送られた折り鶴なのかもしれない

 

それを悟ったのか怜も気を引き締めた表情で

中田から丁寧に折り鶴の入った紙袋を受け取る

 

 

「試合は完敗だったが武田との勝負は

2勝1敗で私の方に軍配が上がったかな?」

 

 

「はい……」

 

 

「しかし最後の打席での勝負球の直球は

文句の付けようのない素晴らしい球だった」

 

 

「あっ、ありがとうございます!

私も中田さんと真剣勝負することができて

楽しかったですし色々と勉強になりました

だから本当に……ありがとうございました」

 

 

「そうか……

君にそう言ってもらえるとは光栄だ」

 

 

中田から投球を褒められた詠深は改めて

自分の口で中田に感謝の言葉を伝えると

中田も嬉しそうな笑みを見せてくれた

 

 

「上杉とは互いに本塁打2本と敬遠1つで

引き分けと言いたいところだが3打席目の時に

見せたセーフティが勝負を分けたのを考えると

打撃は君に軍配が上がったと認めるしかないな」

 

 

「はい……あのセーフティは見事でした」

 

 

「ありがとうございます

私も今日は凄く楽しかったですし

中田さんの打撃は凄く参考になりました」

 

 

中田が真深との打席での対戦でも

新越谷に流れを引き寄せる結果となった

セーフティを指摘して真深を称賛すると

共にやってきた高橋も中田に賛同すると

真深も中田に対して感謝の言葉を送った

 

 

「その言葉……そっくり返させてもらうよ

君の打撃技術は勿論、投手を油断させ決め球を

確実に捉えるやり方は、非常に参考になったよ」

 

 

真深が中田の打撃に良い刺激を受けたと伝えると

中田も真深の打撃から色々と学べたことを伝えた

 

 

「だが、それ以上に今日の試合では

君達2人には大切なことを教えられたよ

結果も大事だが試合を楽しむ心も大切だとな」

 

 

「そっ、そんな……私達なんて!?」

 

 

その言葉を聞いた詠深は中田ほどの選手に

そう言われた事で畏れ多いと思ったらしく

慌てふためいてしまう

 

 

「確かに毎日、懸命に練習して

晴れてレギュラーを勝ち取ることができて

試合に出るからには勝つことは勿論ですし

結果を追い求めることは大切だと思います

ですが度を過ぎてしまったら大きなツケを

いつかは払うことになると私は思うんです

少なくとも去年の新越谷の不祥事の原因は

結果を求め過ぎた為に野球が好きだという

気持ちを忘れた結果だと私は考えています」

 

 

「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

 

中田の言葉に答えた真深の言葉に

その場にいた全員が"ハッ"とした

表情になるが怜と理沙の2年生の

2人は共感したような表情となり

真深の呟きに小さく頷いていると

10秒もしない内に他の新越谷の

仲間たちも納得した様子を見せた

 

 

「なるほど……そうかもしれないな」

 

 

中田も真深の言葉を肯定して頷くと

真剣な表情になって話を続けてくる

 

 

「私も7回のマウンドで君と対峙した時は

今までに対戦してきたどの打者との勝負より

気持ちも高まって楽しめてたと思っていたが

敢えて失投をファールにした君の打撃技術と

その心構えを持つ君に萎縮してしまっていた

その結果が本塁打として出たのだと私は思う

現に君に打たれた直球は私や秋を含めた3年

全員の思い全てを乗せて投げたつもりだった」

 

 

真深としては中田と高校での最初で最後となる

対戦を楽しみたくてやった打撃であったのだが

結果的に中田の心境の中に僅かばかりの重圧を

与えていたのだ

 

 

「そして最後の打席の武田との勝負でも

彼女は私との勝負を心から楽しんでいたのに

対して私は重圧で体が硬くなってしまっていた」

 

 

そう言って中田は最後の打席の時の

自分と詠深との気持ちの持ち方の違いを

指摘して詠深が優れていたことを称賛した

 

 

「梁幽館や美園に咲桜のような伝統校で

プレイする以上は教員やOGから常に結果を

求められる上に部員が100人を越える中で

レギュラーを勝ち取るために必死になるから

普段の練習の時には苦しい時間が多くなるし

楽しむ気持ちだけではどうしても無理がある」

 

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 

 

中田の言葉に新越谷のメンバー全員

特に真深以外の1年のメンバーが大事なことに

気づいて意表を突かれたかのような表情となる

 

本来なら1年生が夏の大会にレギュラーに

選ばれる可能性は余程の実力や実績などが

無ければ大抵の場合はレギュラーどころか

ベンチ入りすらも厳しく強豪校ともなれば

その可能性は更に低くなる

 

不祥事が起こって部員がギリギリであった

今の新越谷だったからこそ自分たちは夏の

大会でプレイすることができ今日の試合に

勝利する場に立ち会うことができたのだと

中田の言葉で気づかされたのだ

 

一方で真深はアメリカのガールズに加入し

1年でレギュラーを勝ち取るまでの経緯を

思い出しながら中田の言葉の重みを改めて

感じてレギュラーを勝ち取った時の喜びを

思いだして当時の事を懐かしく思っていた

 

 

「だが大事な場面で失投に手を出さず

決め球での勝負を挑んできてくれた上杉や

ホームランを打たれれば同点という場面で

私を歩かせず真っ向勝負をしてきてくれた

武田のお陰で勝ち負け以上に大切なことが

試合にはあることに気づくことができたよ」

 

 

それでも7回の攻防で自分たちに真っ向から

向かってきた真深と詠深に対戦できたことで

レギュラーを勝ち取り試合に出れたからには

楽しむ心も大切なことを学べたことを心から

喜んでいると伝えてくる

 

 

「そんな君達2人のような相手と

真っ向勝負ができて敗れたのならば

全く悔いはない……寧ろ誇るべきことだ」

 

 

(うぅぅ、中田さん……)

 

 

そして中田は清々しそうな表情で真深と詠深に

感謝の言葉と送り2人の精神を称えてくれると

詠深は中田から送られた言葉に感極まったのか

目が潤い始めて涙脆さを露呈したが幸いなのか

中田と高橋がその様子に気づくことはなかった

 

 

(本当に立派な人だな……

私は自分の最後の夏が終わった時に

果たして、こんな態度がとれるだろうか?)

 

 

怜は中田の器の大きさを目の当たりにすると

同じ主将として中田に尊敬の念を抱いていた

 

 

「だが和美を初め後輩たちが君たちに

かなりのライバル意識を持ったようだからな

ウチの後輩たちは負けず嫌いな奴が多いから

君たち新越谷に今日のリベンジを果たす為に

今まで以上に練習に気合いが入るだろうから

今のチームより強くなっているかもしれんぞ」

 

 

それでも吉川や小林を初めとする自身の

後輩たちの闘志に火が付いたことを告げると

一転して挑戦的な笑みを真深と詠深に向けてきた

 

 

「その時には私達も今日より

レベルアップしているつもりですから

簡単にやられるつもりはありませんよ

負けず嫌いなのは私達も同じですので」

 

 

「フッ、そうか……

なら次にウチと新越谷が当たる時が楽しみだよ

その時は是非ともウチに勝ってほしいものだな」

 

 

リベンジはさせないと宣言する真深に

中田は面白そうな表情を真深に向けた

 

 

「あの……」

 

 

真深と中田の会話が終わると

今度は高橋が近づいて来て声をかけた

 

 

「サインを出していたのは貴女ですね?

奈緒さんの2打席目の満塁敬遠は見事でした」

 

 

高橋は芳乃に采配を称賛しながら近づいてきた

 

 

「これを、お収めください」

 

 

そう言って"マル秘"と書かれた

2冊の分厚いノートを芳乃に手渡した

 

 

(今後、当たりそうなチームのデータ!?)

 

 

なんとそれは埼玉県内の他校のデータや

選手の特徴が詳細に記されたノートであった

 

 

「すっ、凄い……良いんですか!?」

 

 

「はい! 趣味で集めた物ですから

今後の試合の、お役に立てば私も幸いです」

 

 

自分が入手していないデータが記された

ノートに芳乃は驚き戸惑ってしまったが

高橋に役立ててほしいと言われたことで

ありがたく受け取った

 

 

「勝ってくださいね……1つでも多く」

 

 

芳乃にノートを手渡した高橋が

今後の新越谷の健闘を願う言葉を送った

 

 

「勿論です! 目標は全国なので」

 

 

「はい! 私達、本気ですから」

 

 

高橋から健闘を願う言葉を聞いた真深が

答えると先程まで泣きそうになっていた

詠深も真剣な表情で答える

 

 

「「……」」

 

 

「?」

 

 

「あの……まだ何か?」

 

 

すると中田と高橋が、まだ真深に何かを

聞きたそうな表情を向けたまま黙り混んだので

気になった芳乃が中田にどうしたのか尋ねると

 

 

「その……最後に、もう1つだけ

上杉さんにお尋ねさせて貰ってもいいですか?」

 

 

「はい、良いですけど?」

 

 

高橋が少し遠慮した感じになり尋ねてきたので

真深も何だろうと首を傾げると高橋は一転して

真剣な表情で尋ねてきた

 

 

「上杉さんは何処の中学に通ってたのですか?」

 

 

「!?」

 

 

高橋から尋ねられた瞬間に真深だけではなく

詠深を含め新越谷の面々も驚いた表情となる

 

 

「……」

 

 

そして尋ねられた真深は教えて良いだろうかと

考えていたが真面目に尋ねてきた相手に対して

誤魔化すのは失礼だと思い何より試合を終えた

梁幽館になら良いだろうと判断した

 

 

そして……

 

 

「私は小学6年から中学3年まで

父の仕事の都合でアメリカに住んでいて

日本には今年の3月に帰ってきたばかりでして

野球はアメリカのガールズでプレイしてました」

 

 

「「……」」

 

 

真深が落ち着いて棲んだ表情で答えると

それを聞いた瞬間に中田と高橋は全てを

悟ったのか目を閉じて笑みを浮かべると

他の新越谷の面々も真深と中田と高橋の

様子を固唾を飲んで見届けていた

 

 

「そうですか……教えてくださり感謝します」

 

 

「ああ……今の答えを聞いて

尚更、君と対戦ができて良かったと思ったよ」

 

 

そして2人はスッキリした表情になると

高橋は答えてくれた真深に対して感謝し

中田は改めて真深と対戦できたことを

嬉しく思った事を伝えてきた

 

 

「では、さらばだ」

 

 

「失礼します」

 

 

そして中田と高橋は、その場を去って行った

 

 

「なあ……今のって?」

 

 

中田と高橋の背中を見送った新越谷の

メンバーの中で最初に稜が口を開いた

 

 

「うん……実は抽選会の時に会場に

ユイさんが姿を見せた時に他校の選手たちが

ユイさんがリベンジしたい相手が誰だろうって

話していたんだけど今日の試合で真深ちゃんの

プレイを見てユイさんがリベンジしたい相手が

真深ちゃんだと悟って聞いて来たんだと思うよ」

 

 

「抽選会で、そんなことがあったのね」

 

 

稜の呟きに答えた芳乃の言葉に

菫が反応すると他のメンバーも

興味深そうに聞き入っていた

 

 

「教えちゃって良かったの、真深ちゃん?」

 

 

そして高橋と中田に答えて良かったのかと

詠深が心配そうな様子で真深に聞いてくる

 

 

「4月に柳大川越と練習試合をした時の

大野さんと浅井さんみたいに中田さんも

高橋さんも真面目な表情で聞いて来たし

今日の試合で全力を出し会った相手には

ちゃんと話しておきたいって思ったから」

 

 

「そっか……うん、そうだよね」

 

 

清々しそうに答えた真深の表情を見て詠深も

安心したのか笑顔を見せると他のメンバーも

真深に笑顔を向けていた

 

 

「皆さん、揃ってますね」

 

 

そこへ藤井先生がメンバーに合流して

新越谷野球部関係者の全員が集まった

 

 

「素晴らしい試合でした……感動しました」

 

 

そして誇らしそうな表情で

大金星を惜しみ無く祝福してくれた

 

 

「この後は学校に集合してその後は……」

 

 

「焼肉がいいです!」

 

 

稜は梁幽館に勝利したご褒美が貰えると

思ったのか食べたい物をリクエストしたのだが

 

 

「なに言ってるのよ、稜!?

帰ったら早速、打撃練習するんでしょう!」

 

 

「それに今日の試合に勝っただけで

喜んでいては中田さん達に申し訳ないです」

 

 

「そっ、そうだった……」

 

 

菫と白菊に指摘され真深に打撃練習に

付き合ってもらうことを思いだした稜は

ご褒美のリクエストを取り消したのだった

 

 

「フフッ……良い心掛けですね

でも折角ですから目標であるベスト4に

進めたら、お祝いに皆で何か食べに行きましょう」

 

 

藤井先生は、そんな面々の様子を見て

増々、誇りに思いベスト4に進出した際に

面々に、ご馳走することを約束してくれた

 

 

「では私は先に車で学校に

戻っていますので皆さんも学校に着いたら……」

 

 

「あっ! いました!!」

 

 

「「「「「「「「「???」」」」」」」」」

 

 

藤井先生が言葉を続けている途中に何処からか

女性の声がすると観客席でユイに真深のことを

尋ねに来ていた女性記者に加えて複数の記者が

新越谷のメンバーの姿を見つけて厳密に言うと

真深と詠深の姿を見つけて近づいてきた

 

 

「ハァ、ハァ、良かった……やっと見つけました」

 

 

しかし、どういう訳かやってきた記者たちは

息が上がっていて、少し疲れた様子であった

 

 

「ナイスゲームでした!

宜しければ……と言うか是非とも

インタビューを、お願いできますでしょうか?」

 

 

「イッ、インタビュー!?」

 

 

気を取り直した記者から

インタビューを頼まれた詠深は

戸惑いのあまり目を回しそうにしていた

 

今まで注目されたことなどなかった詠深には

インタビューを受ける経験をしたことは疎か

想像すらしたこと無いので無理はないだろう

 

 

一方……

 

 

「はい。少しでしたら」

 

 

真深は馴れた様子で受け答えをしていた

やはりアメリカで何度かインタビューを

受けていたので馴れていたのだろう

 

そして真深が返事をすると同時に真深や

詠深だけでなく他のメンバーにも記者が

やって来て質問などを受けていた

 

新越谷には真深と詠深だけでなく珠姫や

怜などガールズ時代に注目された選手や

福岡で活躍して注目された希も7回表に

ツーアウトから同点タイムリーを打って

活躍したことで記者からインタビューを

受けて少し緊張した表情になっていた

 

因みに記事たちは直ぐにでも新越谷の面々に

インタビューをしたかったのだが本来ならば

試合を終えた選手は送迎用バスに集まる筈が

新越谷は不祥事により学校から送迎用バスを

用意して貰えていないので探すのに思いの外

時間が掛かってしまい見つけるのがもう少し

遅かったら全員帰ってしまっていたであろう

 

記者たちが息が上がった状態で現れたのは

新越谷のメンバーが見つからず焦りながら

探していた為であった

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「やっぱり彼女に間違いなさそうですね」

 

 

「だな……まさか新越谷に居たとは驚いたな」

 

 

新越谷の面々と別れてチームメイトの元に

戻ろうとしていた中田と高橋は歩きながら

真深の話をしていた

 

 

「ウィラードほどの投手が

1度も勝てなかったことにも驚きだが

今日の試合を見てしまったら納得だな」

 

 

「ですね……影森との試合の打撃を見たのと

和美さんと衣織ちゃんの話を聞いた瞬間から

私も奈緒さんみたいにまさかと思いましたが

それでも正直に言って半信半疑でしたからね」

 

 

やはり真深に通ってた中学を尋ねたのは

芳乃の読み通りにユイのリベンジしたい

相手が真深だと悟り最後に確かめたいと

思ったからだったようだ

 

 

「奈緒さん……」

 

 

「どうした、友理?」

 

 

すると高橋は何やら決意したような表情になった

 

 

「私……新チーム発足と同時に

マネージャーをやめて選手に戻ろうと思います」

 

 

「!!」

 

 

高橋の宣言を聞いた中田は一瞬だけ

驚いた表情になるが直ぐに笑顔を変わった

 

 

「そうか……その言葉が聞けて嬉しいよ。

友理が戻るとなれば栗田監督や部員の皆も

喜ぶだろうし新チームの打線も安定するよ

何せ友理は私に劣らぬスラッガーだからな」

 

 

「かっ、買いかぶりです……」

 

 

「私は、お世辞は言わない主義なんだがな」

 

 

中田からの惜しみ無い称賛の言葉に

高橋は恥ずかしいそうに顔を真っ赤にしている

どうやら高橋はかなりの実力の持ち主のようだ

 

 

「しかし、突然どうしたんだ?」

 

 

中田は高橋が選手に復帰してくれることを

嬉しく思いながらも突然の復帰を決断した

高橋に笑みを向けたまま尋ねた

 

 

「今日の試合を見ていたら私も同じ舞台に

立ちたいと思わずにはいられなくなったんです」

 

 

「そうか……」

 

 

両手に握り拳を見せながら

楽しそうに語る高橋の姿に中田も嬉しそうだ

 

 

(やはり敗れてはしまったが

今日の試合では失ったものよりも

得たものの方が遥かに多かったようだ)

 

 

そして心の中で満足しながら呟いていた

 

 

 

 

 

 

 

ーー それから数時間後 ーー

 

 

 

 

 

 

 

大宮から電車を乗り継ぎ学校に戻った

野球部のメンバーは早速打撃練習を開始すると

藤井先生と怜の提案で守備練習も行った他にも

各々が反省点を補う練習なども行っている内に

気がつけば日も暮れて夜になってしまっていた

 

 

「それでは、ここまでにしましょう

皆さん、今日は早めに上がってくださいね」

 

 

「「「「「 ありがとうございました 」」」」」

 

 

藤井先生がバットで体を支えながら告げると

息が上がりながらも全員が大きな声を出して

揃って挨拶をしたのだが……

 

 

「もう動けません~~!」

 

 

「昼の試合が遠い昔のようだぜ……」

 

 

梁幽館と激闘を繰り広げた後に

学校に帰って後に直ぐに練習もしたので

白菊と稜は疲れから、その場に座り込んでいた

 

 

「流石に少し張り切りすぎたかしら……?」

 

 

出番のなかった息吹も他のメンバーより

体力が残っていたことに加えて梁幽館に

勝利した興奮から普段の練習の時よりも

気合いが入っていた故に張り切り過ぎて

他のメンバーと共に息が上がっていた

 

 

「それにしても……よく梁幽館に勝てたわね」

 

 

「まぁ、今日の勝ちは

詠深の好投と真深のホームランのお陰だろ?」

 

 

「確かに先発は予定通り

吉川さんだったけど今日の梁幽館は

普段とは違う野球をしてきたからね」

 

 

菫が梁幽館に勝てたことに未だに

嬉しい戸惑いの様子を見せながら

呟いた一言に座り込んでいた稜が

笑みを浮かべながら返すと珠姫も

吉川の先発以外は予想外な展開が

多かったことを思い返していた

 

 

「そうだね……

いつもの梁幽館なら点差が付いた時以外は

バントを多用したりランナーを自重させる

慎重な野球をする筈なのに今回は序盤から

強攻したりランナーにこっちの意表を突く

走塁をさせてきたからヒヤヒヤする場面が

多くて私もサインを出すのが難しかったよ」

 

 

芳乃も菫と稜と珠姫の指摘に共感すると

今日の梁幽館が普段と違う野球をしてきた事を

振り替えると仮に影森との試合で息吹の死球が

なかったとしても梁幽館の出方が読めなかった

今日の試合では采配に苦労させられた可能性が

頭の中に浮かぶと7回の攻防だけでも前向きに

采配できて良かったとポジティブに考えていた

 

 

「それだけ梁幽館が真深の打撃と

詠深の投球を見て焦ったということだろう」

 

 

そう言いながら怜は自身の横に立つ

真深の顔を見ながら真深と詠深を称賛してくれた

 

 

「いいえ……

私と詠深だけの力じゃありません」

 

 

しかし真深は静かに首を横に振る

 

 

「サッカーやバスケなら1人の選手が

個の力で試合を有利な展開にすることもあります

けど野球は守備では投手だけの力ではなく捕手や

内野手に外野手の助けが必要ですし攻撃も1人の

打者が打っているだけでは点は取れませんから」

 

 

「そうですね……

確かに今日の試合の6回と7回の得点は

チーム全体で協力した結果だと私は思いますよ」

 

 

「真深ちゃんと先生の言う通り!

皆が自分のできる全力のプレイをして

皆で助け合ったからこその勝利だから

今日の勝利は間違いなく皆の勝利だよ

現に今日はエラーが1つも無かったし」

 

 

「それと芳乃ちゃんの

采配が良かったお陰でもあるけんね」

 

 

「ありがとう、希ちゃん」

 

 

真深の指摘に藤井先生が肯定すると

芳乃も2人の意見に元気の良く声で共感し

希が改めて芳乃の采配に対して太鼓判を押した

 

 

「でも今日の試合でウチの野球は

完全に露見したし梁幽館に勝ったからには

次から対戦相手にも警戒されるだろうから

これからも気を引き締めて頑張っていこう」

 

 

付け加えてきた芳乃の言葉に

全員が気合いの入った表情で頷いたのだが……

 

 

「露見したと言えば……」

 

 

直後に息吹が言いずらそうな

声と表情になって真深を見る

 

 

「真深がアメリカのガールズで

プレイしていたことも完全にバレたわね」

 

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

 

息吹が指摘すると他の面々も

苦い笑みになって真深に視線を向けた

 

あの後、記者たちにインタビューを受けた際に

真深はアメリカでプレイしていた経歴に関係する

インタビューも受けてしまい4月に入学してから

隠し続けていた秘密が遂に公に知られてしまった

 

新越谷の面々も真深が相手に警戒されないように

今日まで真深の経歴を誰にも話さないでいたのだ

 

加えてアメリカで注目され続けていた真深は

自分の経歴が知られていない日本では暫くは

回りに注目されない静かな環境でのんびりと

プレイしたいと思っていたので真深を心配し

微妙な表情になっていたのだ

 

 

「気にしなくて大丈夫よ

私はこれからも自分の打撃をして

大好きな野球を皆と楽しむだけだし

これからは私のプレイを大勢の人に

見てもらう楽しみができたんだから」

 

 

そんな仲間たちに真深は

満面の笑みを見せながら答えると

仲間たちも安心して笑みを返してくれた

 

 

「それにしても……」

 

 

すると稜が思い出し笑いをしながら呟いた

 

 

「真深の二つ名にはマジで驚いたな」(^o^)

 

 

「キャーーー!?

その話だけは勘弁してーーー!?」Σ(>Д<)

 

 

真深はアメリカで"東洋の打撃姫"と

呼ばれていたことは新越谷の仲間にも

話していなかったので真深の経歴を知った

記者たちが真深の二つ名の話をした時には

初めて真深の二つ名を知って驚いたのだが

稜に二つ名の事を指摘された途端に普段は

冷静で淑やかな真深と思えない程の勢いで

恥ずかしそうにして稜の言葉を遮ってきた

 

 

「あら、どうして?」

 

 

「カッコいいじゃない!」

 

 

「真深さんにピッタリだと思います!」

 

 

恥ずかしがる真深に対して理沙、菫、白菊は

真深に良く似合っていると太鼓判を押すが

 

 

「私は恥ずかしいの!

向こうのファンの人が言い初めたのが

切っ掛けで私の知らない内に広まってたのよ」

 

 

どうやら真深の異名は現地の真深のファンが

真深の容姿やスイングを見て呼び初めたのが

切っ掛けのようだが真深本人は気恥ずかしく

思っていたようだ

 

 

「真深ちゃんのもカッコいいけど

ジータパーラーとボストフは貫禄を感じるわね」

 

 

「そうですね、私もそう思ってました!」

 

 

「あの2人の異名は相手投手が

打席に立った時の2人の威圧感の凄さと

実力を恐れて呼ばれるようになったのよ」

 

 

理沙がジータパーラーとボストフの異名

つまり"女王"と"豪打の黒豹"の二つ名の

話題を口にすると芳乃も食い入るように

共感すると真深が2人に二つ名がついた

経緯を芳乃に話した

 

 

「2人は自分たちが二つ名で

呼ばれるのを真深みたいに嫌がっていたのか?」

 

 

「いえ……逆に堂々としてました」

 

 

怜に聞かれた真深は気まずそうに答える

 

 

「なら真深も堂々としていれば良いじゃないか」

 

 

「だな! 私も真深に似合っていると思うぜ!」

 

 

「他人事だからって簡単に言わないでよ……

私には、あの2人みたいに振る舞う度胸ないわ」

 

 

堂々とすれば良いと笑みを向けながら指摘する

怜と稜に真深は項垂れ溜め息をしながら答えた

 

こうして梁幽館との試合の反省点やアメリカで

呼ばれていた異名の話題に盛り上がっていると

 

 

「あれ? そういえば詠深はどうしたんだ?」

 

 

怜が先程から姿が見えない詠深を心配する

 

 

「詠深ちゃんなら部室で

1人で今日の試合の録画を見てますよ

もしかしたら、そのまま寝ちゃってるのかも」

 

 

「120球以上、投げられるって言って

本当に120球を、越えて投げちゃったから

流石の詠深も疲れてる筈だし無理ないと思うわ」

 

 

珠姫と真深が苦笑いを浮かべながら

録画を見たまま寝ている詠深の姿を想像した

 

 

「様子を見に行って

寝てたら起こしてあげようか?」

 

 

「そうね」

 

 

珠姫と真深が折角だから

詠深を呼びに行こうとしたのだが

結局、全員で部室に向かうことになった

 

 

「詠深ちゃん、起きてる?」

 

 

「入るわよ」

 

 

珠姫が部室のドアをノックし真深が部室の中の

詠深に呼び掛けてからドアを開けた瞬間だった

 

 

「タマちゃ~~ん!! 真深ちゃ~~ん!!」

 

 

「「!?」」

 

 

ドアを開けたと同時に詠深が

大量の涙を流しながら真深と珠姫に抱きついた

 

 

「えっ!? なっ、なに?」

 

 

突然抱きつかれた珠姫は困惑してしまうが

 

 

「試合が終わってから上の空だったからね

今になって漸く初勝利の実感が沸いたみたいね」

 

 

対して真深は詠深の心境を瞬時に察していた

それを聞いた珠姫は少し間を開けてから再び

詠深に視線を向ける

 

 

「詠深ちゃん……」

 

 

「?」

 

 

「公式戦初勝利、おめでとう」

 

 

「おめでとう、詠深」

 

 

「!!」

 

 

珠姫は真剣な表情で

真深は優しく微笑みながら詠深を祝福すると

詠深の目から更なる大量の涙が溢れ出てきた

 

その光景に息吹は貰い泣きしてしまい詠深が

気が済むまでは真深も珠姫も抱きつくことを

許し頭を撫でてあげていたのであった

 

 

 

 

 

ーー 翌日 ーー

 

 

 

 

 

【梁幽館、まさかの3回戦敗退!?】

 

 

【今年のドラフトの目玉

中田の早すぎる最後の夏の終結……

本塁打2本を含む全得点を叩き出すも及ばず】

 

 

【1年生エース武田、圧巻の投球!

梁幽館打線から7連続を含む12奪三振!!】

 

 

【無名の1年生投手が圧巻の投球!

中田と陽秋月を擁する梁幽館打席を相手に

陽秋月から2つの奪三振を含める12奪三振】

 

 

【4番上杉、衝撃の一撃!!

吉川から先制2ラン、中田から逆転2ラン!】

 

 

【本当に1年生!?

先制のバックスクリーン直撃弾と

レフトへの逆転場外弾と梁幽館投手陣を粉砕!】

 

 

翌日のスポーツ誌には梁幽館のまさかの敗退と

その立役者である詠深と真深の記事一色だった

 

球を投げた瞬間の詠深とスイングをした直後の

姿勢の真深の姿が堂々と1面に掲載されたのだ

 

こうして上杉真深と武田詠深の名前は日本中の

野球関係者に知られることになったのであった

 

 

 

更に……

 

 

 

【新越谷の4番は

アメリカのスーパースター!?

ボストフとジータパーラーが認めた秀才

2年間で通算打率6割、通算本塁打数、42本】

 

 

【謎のウィラードの宿敵は新越谷の4番!?】

 

 

【上杉 VS ウィラード

通算対戦成績は驚異の10割と上杉の無敗!】

 

 

真深のアメリカでの活躍や成績に加えて

ユイとのライバル関係も世間に明かされて

埼玉大会の注目度が跳ね上がったのであった

 

 




ユイが観客席で出会った娘が
誰かは球詠ファンの人なら分かる筈です(^o^)

そしてこの物語の中田さんは
真深と詠深との勝負で全力を出しきり
悔いなくプレイできたので新越谷に折り鶴を
託した後はトイレに行かずに仲間と合流しました

中田さんが涙を流すシーンが
お気に入りだった方には、お詫び申し上げます

そして真深の二つ名がチームメイトにも
知られましたが真深本人は他人から二つ名で
呼ばれるのを恥ずかしく思ってるので宜しくです

次回は翌日の真深や詠深を含めた
新越谷周辺の様子と真深の過去が
明かされたことによる咲桜を除く
他校の様子も書けたらと思います

それでは次回まで失礼致します!
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