詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

4 / 45
今回は怜と理沙が登場しますが
原作と違う場面が多々ありますので
何卒広い心で見ていただけると助かります

それではご覧下さいませ


第2話 先輩の思い

詠深、真深、珠姫、芳乃、息吹の5人が

新越谷野球部への入部を決意した翌朝

5人は揃って担任の教師に入部届けを

渡すと顧問が決まるまで預かると言い

5人の入部届けを受け取ってくれた

 

丁度、新しい顧問の先生への引き継ぎが

完了するそうなので引き継ぎが終わり次第

グラウンドに来てくれることになっている

 

こうして新越谷野球部は選手4人と

マネージャーの芳乃を加えた5人の

部員が加入した

 

 

ーーそしてーー

 

 

午後の授業が終わった5人は

早速練習をしようと野球部にやってきた

 

 

「3人とも練習着姿いいねえ」

 

 

「「「ありがとう」」」

 

 

川口姉妹が体操着なのに対して

真深、詠深、珠姫の3人は練習着を着ていた

 

 

「息吹ちゃんも買わないとね」

 

 

「そうね……」

 

 

芳乃に進められ息吹も練習着の

購入を前向きに検討したのであった

 

そんな些細な会話をしながら5人が

野球部に到着すると既にベンチ前に

二人の女子がストレッチをしていた

 

 

「誰だろう? 先輩かな?」

 

 

5人が二人に近づくと向こうも

近づいてくる真深たちに気づく

 

 

「こんにちは、先輩ですか?」

 

 

「ちわ~~っす!」

 

 

「こんにちは、二人とも1年よ」

 

 

詠深が声をかけると二人とも

気さくに返事をしてくれたが

二人とも真深たちと同じ1年であった

どうやら二人は真深たちと違う時間に

教師に入部届けを提出していたらしい

 

 

「どこの中学?」

 

 

「私たちは二人とも南相模よ」

 

 

「隣の学区じゃない、私たちは光陽台桜よ」

 

 

「おぉ~~、近いな」

 

 

詠深の質問にツインテールの女子が答えると

息吹がボーイッシュな女子と隣の学区だと

言うことで意気投合しそうになると

 

 

「ポジションは? それと名前!」

 

 

芳乃が凄い気迫で二人に迫りながら

質問したので二人は一瞬怯んだが

直ぐに笑顔で答えてくれた

 

 

「藤田菫、二塁手よ」

 

 

「川崎稜、遊撃手だ」

 

 

ツインテールの女子の後に

ボーイッシュな女子が自己紹介をする

 

 

「二遊間が」 「それは頼もしいわね」

 

 

南相模は中学の女子野球では強豪らしく

そこの二遊間だと聞けば野球経験者なら

誰でも頼りに思うのは当然であろう

 

その後、芳乃が菫と稜の足を触り初めて

息吹が慌てて止めさせると詠深たちも

二人に自己紹介を初めた

 

 

「マネージャーの川口芳乃だよ~~」

 

 

「姉の川口息吹……まだ初心者だけど」

 

 

「山崎珠姫、捕手をやってます」

 

 

「武田詠深、投手だよ~~」

 

 

「上杉真深、外野手です、宜しく」

 

 

「うっ、うん……」 「おっ、おう……」

 

 

真深に自己紹介をされた瞬間

菫と稜も川口姉妹の時のように

真深の容姿に惹かれ戸惑ってしまった

その後、芳乃を除いた7人で柔軟を始めると

真深、詠深、珠姫が今後の方針を討議し初めた

 

 

「芳乃ちゃんはマネージャーだし選手は6人か」

 

 

「廃部にならないように籍を

置いといてくれた先輩が二人いる筈だけど?」

 

 

「先輩方を入れても8人だから

まだ1人足りないし誰かが怪我をした

時の事を考えたら、もう2・3人ほしいわね」

 

 

「まだ1年生、来るかもしれないし大丈夫だよ」

 

 

「…………」

 

 

珠姫、詠深、真深、再び詠深の順に呟いていると

 

 

「お~~い、誰かノック打って~~!」

 

 

「コラッ、稜!

勝手に入ったら怒られるわよ」

 

 

「平気、平気~~!」

 

 

見ると稜が遊撃手の守備位置についており

ノックを要求していたので堪らず菫が稜を

叱ったが稜はお構い無しであった

 

 

「折角グラウンド綺麗にしてくれてるのに」

 

 

グラウンドに踏み入った稜の足跡が

付くのを見た芳乃が申し訳なさそうに呟くが

 

 

「そういえば入学式の日

私たちも勝手にグラウンド使ったわね」

 

 

「「「「あっ……」」」」

 

 

真深の一言に詠深、珠姫、息吹、芳乃の

四人が揃って固まってしまった

 

 

「一連の不祥事には暴力沙汰も

含まれてたらしいから改善されて

体罰はないだろうけど腕立てとか

スクワット100回は覚悟した方がいいかも?」

 

 

「ひっ!?」

 

 

珠姫の予測に息吹は思わず硬直しまった

そんな事は気付かずに稜が尚もノックを

催促しているので

 

 

「全く……しょうがないわね」

 

 

溜め息を吹きながら菫が

二塁手のポジションへと歩いていった

 

 

「菫ちゃんも結局行くんだ」

 

 

「こういうのって連帯責任でしょ?」

 

 

詠深の言葉に菫が返すと……

 

 

「じゃあ私が打ってあげるよ」

 

 

芳乃がバットを持ってグラウンドに向かう

 

 

「芳乃ちゃんってノック打てるんだ」

 

 

「遊びで、しょっちゅう打ってたから」

 

 

「へぇ~~」

 

 

「それは頼もしいわね」

 

 

代わりに答えてくれた息吹からの

言葉を聞いて感心する詠深と珠姫と真深

 

 

その後ノックが始まったのだが

菫と稜は互いのプレイにケチを

付けながらノックを受けていたので

 

 

「珠ちゃん、真深ちゃん……

あの二人って仲が悪いのかな、同じ中学なのに?」

 

 

「どうだろう?」

 

 

思わず口にした詠深の言葉に珠姫も首を傾げると

 

 

「フフフ、違うわ詠深」

 

 

「へ?」

 

 

「ほら、あれを見て」

 

 

真深に言われて見て見ると

ダイビングプレーを連発したことで

稜の膝にできていた擦り傷を菫が気遣っていた

 

 

「喧嘩するほど仲が良いとも言うでしょ

菫ちゃんと稜ちゃんのは正にその象徴ね」

 

 

「なるほど」

 

 

「仲の良さの現れかたは其々で違うわ

皆が詠深と珠姫みたいとは限らないのよ」

 

 

「そうだね……あっ!」

 

 

真深の説明に詠深が納得した直後に

詠深が真深の後ろの方を見て声を出した

 

 

「詠深? どうかしたの?」

 

 

詠深に釣られて真深と珠姫も視線を

詠深と同じ方に向けてみるとフェンスの前に

知らない学生二人がグラウンドを眺めていた

 

真深と詠深と珠姫の3人が2人を見ていると

向こうも真深たちの視線に気付いたらしく

銀色のロングヘアーの人が手を振っていた

 

 

「きっと先輩だよ、行こう真深ちゃん」

 

 

「あっ、ちょっと詠深!?」

 

 

先輩だと認識した詠深が二人の元へと

走っていくので真深と珠姫も後に続くと

フェンスの外にいた2人もグラウンドに

入ってきてくれるとそれに気付いた他の

チームメンバーもその場に集まってきた

 

 

「「「「「「 こんにちは 」」」」」」

 

 

「ちわっす!」

 

 

(「稜ちゃん……初対面なのに失礼よ」)

 

 

他の6人と違い稜だけが失礼な挨拶をしたので

真深が思わず心の中で突っ込んでしまっていた

 

 

「こんにちは、2年生の藤原理沙です」

 

 

「岡田怜……です」

 

 

真深たちが挨拶をすると理沙は優しく

怜は何故か気まずい様子で自己紹介を

してくれたが怜の雰囲気を見た真深は

その様子に何故か最近までの自分の姿を連想した

何故に連想したのだろうと真深は疑問に思ったが

その答えは直後の怜の行動を見て直ぐに分かった

 

 

「お待ちしてました先輩! 早速一緒に……」

 

 

言い差し出した詠深の手を怜が弾いたのだ

 

 

「私たちは別だから」

 

 

「えっ……」

 

 

「貴女たちのお遊びに付き合うつもりはないから」

 

 

怜は気まずそうにしながらも

はっきりと新入部員に言い放ったのだ

その言葉に相手が先輩であることも忘れて

今にも掴み掛かりそうになる稜と不機嫌な

表情になった菫を珠姫が必死に宥めていた

 

詠深と息吹も残念そうな表情でいる中で

芳乃だけは怜が自己紹介をした瞬間から

髪をピョコピョコと動かし興奮していた

 

すると直後に理沙が事情を話してくれた

かつての新越谷野球部は強豪だったばかりに

ここ数年結果が出なかった焦りがあったのか

練習やしごきや部員内での上下関係までもが

厳しくなってしまい遂に昨年それが度を超え

暴力沙汰にまで発展してしまい対外試合禁止

活動自粛処分となり暴力を働いたのであろう

3年生は自業自得とはいえ最後の夏は大会は

愚か試合も出来ずに終わることになったのだ

 

そして真深は怜の思いを瞬時に理解していた

真深も誰かから野球に誘われたりしていたら

今の怜のような態度を取ったかもしれないと

思ったからだ

 

高校では野球を辞めようと思っていた真深も

今にして思えば仲の良い詠深や珠姫の二人と

再会してその二人から一緒に野球をやろうと

誘われたから野球を続ける決意が出来た訳で

もしも赤の他人が相手ならば今の怜のように

突っ返そうと思っていたかもしれないのだ

 

それに考えてみれば昨年の不祥事は上級生の

下級生への暴行が原因なので当時は1年生の

二人は不祥事の被害者と言うことになるのだ

 

故にアメリカで同世代のメンバーから不当な

扱いを受けた真深は怜の思いが分かったのだ

 

寧ろ次の年の後輩……つまり自分たちの為に

野球部に籍を置いて部を存続してくれた事を

感謝して二人とも野球がしたいと思い始めた

 

だからこそ真深は二人は野球を続けるべきと

思いどう説得しようかと考えていた時だった

 

 

「先輩! 私の球、打ってみませんか?」

 

 

詠深がそう言って怜に勝負を申し出たのだ

 

 

「部存続のお礼の意味も込めて……

あっ、でも真剣勝負ですよ! ねっ、珠ちゃん」

 

 

「うっ……うん!」

 

 

詠深に話を降られ戸惑った様子を

見せた珠姫も直ぐに詠深に応じた

 

 

「……わかった、そういうことなら」

 

 

怜は少し悩んだ素振りを見せてから

詠深からの申し出を受け入れたので

全員がグラウンドに入って1打席の

勝負の準備を初めると真深が詠深に

近寄り声をかける

 

 

「詠深」

 

 

「真深ちゃん、どうしたの?」

 

 

「詠深も怜先輩や理沙先輩と野球したいのね?」

 

 

「うん……真深ちゃんも?」

 

 

「えぇ、だからね……」

 

 

「?」

 

 

そう言って真深は詠深の耳元に

何やらヒソヒソと小声で囁くと

 

 

「偶然だね、私もそうしようと思ってたんだよ」

 

 

「あら奇遇ね、じゃあ絶対に勝ってよ」

 

 

「任せてよ! 真深ちゃんも守備宜しくね」

 

 

「はい、任されました」

 

 

そう言うと詠深はマウンドへ向かっていった

どうやら真深と詠深は同じ事を考えていたようだ

 

 

「外野適当に入って! 理沙先輩も!」

 

 

「はーい」

 

 

芳乃がそう言うと理沙を含めた全員が

各々外野へと散っていったので真深も

慣れ親しんだレフトの守備位置に付く

 

 

「外野に強い当たりが飛んだら

私の勝ち……それ以外はそっちの勝ちでいいよ」

 

 

「サービスいいですね」

 

 

こうして詠深と怜による1打席限りの

勝負が始まったが怜の打席での構えを

見た真深は瞬時に怜が強打者だと悟った

先輩二人を仲間に誘うための勝負とはいえ

怜を抑えられれば詠深も自信を得るだろう

故に真深も詠深に勝てるよう応援していた

 

 

緊迫した空気の中で詠深が投じた

初球は外角へのストレートだった

 

 

簡単に手が出ないと思えるような

良いコースだったが怜は全く打つ素振りを

見せなかったし正直に言って今の球ならば

真深も打てると分かる球だったので恐らく

怜は詠深の"あの球"を知っていて直球など

感心がないのではないかと真深は推測した

もしくは他に狙い球が他にあるのかである

 

 

そして2球目……詠深が怜に

"あの球"を投げると怜は豪快に空振りした

流石に初見で"あの球"は打てないであろう

 

 

「おっ、凄い!」

 

 

「あんな球、投げられるなんて!」

 

 

詠深の投じた"あの球"に菫と稜も興味津々だ

 

 

そして3球目は"あの球"の残像が

残っていることを見越してか外一杯の

際どいコースにストレートが決まるが審判の

芳乃は少し間を開けてからボールをコールした

 

 

怜が詠深と珠姫のバッテリーの考えを

読んだのかと思ったが若干ではあるが

焦った表情をしていたので"あの球"を

意識しすぎて手が出なかっただけで

偶々ボールになり助かったのであろう

とにかくこれで怜を追い込む……後は

 

真深がそう思っているとマウンド上の

詠深が真深に悪戯っ子のような表情を

向けたので真深もそれに笑顔で頷いた

 

 

そして……

 

 

「先輩!」

 

 

「?」

 

 

「この勝負……負けた方が

なんでも言うこと聞くってどうですか?」

 

 

「は?」

 

 

突然の提案に怜が唖然としていると……

 

 

「まあ、あの子……

完全有利になってから賭けを持ち込むなんて……」

 

 

「せこい……」

 

 

理沙と息吹も唖然としているが

これは真深と詠深の作戦だった

 

真深と詠深は野球部に入部した時から

半年以上も放置されていたにも関わらず

グラウンドは綺麗にされていただけでなく

野球部の備品も新品の様に整えられていた

 

暴力沙汰という学校自体の評判ですら損なう

不祥事を起こしたのだから野球部に籍を残す

怜と理沙に対する校内での風当たりも恐らく

冷たかったはずなのに籍を残し備品を整えて

グラウンドを綺麗に整えるなど野球が好きで

なければ出来る筈がない

 

怜も素直になれなくてお遊びと言っただけで

本当は一緒に野球がやりたいと思っているに

違いないと思った真深と詠深はカウントが

投手有利になったら今の賭けを持ち込もうと

先程勝負の前に打ち合わせていたのだった

 

詠深が勝てばチームに入ってほしいと二人に

要求できるし仮に負けたとしても怜も野球が

やりたいなら良い機会を貰ったと見る筈だと

真深と詠深は確信していたのだ

 

 

「いいよ……でも、そう簡単にはいかないよ」

 

 

「やったーー!」

 

 

突拍子もない詠深(と真深)からの提案だったが

幸い怜が了承したのでこれで後は詠深が勝てば

怜や理沙の二人と野球が出来る

 

 

そして運命の4球目……

詠深は怜に"あの球"を投じると

 

 

カキィィィィィィィィィィン

 

 

怜はセンター方向に打ち返した

 

 

「えっ? 何で私の所に飛んで来るの!?」

 

 

そこには何故に自分がセンターなのかと

勝負が始まる前から動揺していた息吹が

焦りながらしながら飛んで来るボールを

補給しようと懸命に追っているが

 

 

バタッ

 

 

息吹は外野の芝に足をとられ転倒してしまい

怜の打球は落ちると思われた次の瞬間だった

 

 

「やぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

パシッ

 

 

ズシャァァァァァッ

 

 

落ちると思われた怜の打球が

ダイビングキャッチで誰かに補給された

 

 

「真深ちゃん、ナイスキャッチ!」

 

 

それはレフトを守っていた筈の真深だった

実は真深は前もってセンター寄りの位置に

付いてレフトの守備位置に付いていたのだ

 

 

理由は二つ……

 

 

1つは息吹が野球センスの塊の良い選手だが

やはり初心者ゆえに万が一に備えていたこと

 

もう1つは詠深の"あの球"の変化する方向を

考えるとセンターがライトの方へ飛んで行き

レフトに来る可能性は低いと予測したからだ

 

そして予測通り打球はセンターに飛び息吹が

転倒したのを確認した真深は俊足を生かして

勢いをつけてダイビングキャッチしたのだが

それでも怜の打球はかなり強く早かったので

ギリギリのタイミングであった

 

一方で詠深はボールを取った真深の

プレイに笑顔でマウンド上で飛び跳ねていた

そして何とか打球をグローブに納めた真深は

転倒した息吹に近づき手を差し出す

 

 

「息吹ちゃん、大丈夫?」

 

 

「えっ、えぇ、なんとかね……

それより真深もナイスキャッチ」

 

 

「えぇ、ありがとう」

 

 

優しい笑顔の真深に手を差し出され

息吹が緊張しながら立ち上がると

 

 

「息吹! ナイスファイト」

 

 

「見直したぜ!」

 

 

菫と稜も息吹のプレイを称賛すると

 

 

「転けただけだけど……」

 

 

息吹は恥ずかしそうに顔を赤くしていた

 

 

「真深もナイスキャッチ」

 

 

「真深って足が早いんだな」

 

 

「フフフ」

 

 

菫と稜の言葉に真深は笑顔で返した

とはいえこれで勝負は詠深の勝ちだ

そして守備に付いていた全員がベンチ前に集まる

 

 

「いい球だった……

悪かったよ、さっきは……お遊びなんて言って」

 

 

怜は敗けを認めると先程の発言を謝罪した

潔さといい後輩に頭を下げるところといい

やはり怜は相当な人格者であった

 

 

「さっきの打球も私なら捕れてたから

仮に落ちてたとしても君の勝ちだったよ」

 

 

詠深は怜に頭を下げられ恐縮していると

直ぐに真深の方を向いて笑みを浮かべたので

真深もそれに対して笑顔で頷いて見せた

 

 

勝負に勝ち、此方からの賭けに応じたなら

この後に詠深がすることはタダ1つである

 

 

「怜先輩」

 

 

「ん?」

 

 

「私たちの勝ちなので約束通り

私のお願いを聞いてほしいんですけど?」

 

 

「え!?」

 

 

詠深にそう言われて焦りの表情になる怜

まさか詠深が『出ていってくれ』とでも

言うと思ったのであろうか?

 

 

勿論、詠深がそんなことを言う訳がない

 

 

「一緒に野球をやりましょう

できればキャプテンもしてほしいです」

 

 

満面の依美で怜にお願いする詠深

 

 

そして……

 

 

「……いいよ。結構厳しくいくからね」

 

 

「はい」

 

 

「そうこなくっちゃ」

 

 

詠深が返事をすると稜も"望むところだ"と

言わんばかりの気合いを見せてきた

 

 

「理沙もそれでいい?」

 

 

「もちろん」

 

 

理沙も入部してくれることになり

これで選手は8人になりあと1人でチームになる

控えを考えると更に1人か2人来てほしいのだが

 

 

「今度こそ新生、新越谷野球部、本格始動だね」

 

 

「「「 うん! 」」」

 

 

芳乃の言葉に息吹、菫、稜も声をあげた

 

 

「やったね、詠深ちゃん」

 

 

「先輩方も入ってくれて結果オーライね」

 

 

「うん、ありがとう珠ちゃん、真深ちゃん」

 

 

珠姫と真深に言われ詠深も明るい声で答えたが

 

 

「……でも」

 

 

「どうしたの、詠深?」

 

 

何やら俯き始める詠深……そして

 

 

「打たれちゃったな……」

 

 

「「あっ」」

 

 

その言葉を聞いて真深と珠姫は焦った

 

 

「私の"あの球"本当は大した事ないんじゃ?」

 

 

詠深は何かあると直ぐに自信を無くす

悪い癖があり今それが現れたのである

そこで珠姫が慌ててフォローする

 

 

「そんなことないよ、誰か打ちたい人!」

 

 

「はい」

 

 

「はいはーい」

 

 

「私も打ちたい」

 

 

珠姫が呼び掛けると稜、菫、理沙の順に名乗り出た

そして怜の時と同様に1打席限りの勝負をすると

稜と菫は三振、理沙は内野ゴロという結果になる

 

 

「やった!」

 

 

"あの球"がチームメイトに通用し安堵する詠深

 

 

「だから言ったでしょ詠深」

 

 

「ねっ……怜さんがすごいんだよ」

 

 

何とか詠深の自信を無くさせずに

済んだので真深と珠姫が安堵していると

 

 

「あなたたち入学式の日に練習してたでしょ?」

 

 

理沙が3人に声をかけてきた

 

 

「怜ったら気になってずっと見てたのよ

本当は会えるのを楽しみにしてたんだから」

 

 

「余計なこと言わないで」

 

 

なんと入学式の日に詠深や真深たちを

見ていた二人の人影は怜と理沙だったのだ

 

 

「じゃあ、その時に詠深ちゃんの"あの球"を?」

 

 

「……少し、研究させてもらった」

 

 

怜は恥ずかしそうにしながらも話してくれた

 

 

「なんだ……初見で打たれたんじゃないんだ」

 

 

「ほら、言った通りでしょ。通用するって」

 

 

詠深は"あの球"を怜のような実力者に

きちんと研究をされて打たれたのだと

分かり逆に自信をつけることが出来たようだ

 

 

「善かったじゃない詠深

実力のある先輩から評価されてたってことよ」

 

 

「うん!」

 

 

真深にもそう言われ詠深が

嬉しそうに満面の笑顔を見せると

 

 

「それに、あなた」

 

 

「はい?」

 

 

理沙が今度は真深に声をかけてきた

 

 

「あなたの打撃も見たわ」

 

 

「あぁ、見たことのない凄い打球だったな」

 

 

「あっ……」

 

 

理沙と怜に言われて言葉がつまる真深

詠深の"あの球"を見てたということは

真深の打撃も怜と理沙は見ていたことになる

 

 

「真深ちゃんはアメリカの中学の

野球チームでレギュラーだったんですよ」

 

 

「ちょっと、詠深」

 

 

詠深が勝手に真深の経歴を打ち明けてしまう

 

 

「アメリカ!?」

 

 

「スゲー、帰国子女ってことか?」

 

 

詠深の言葉に菫と稜も食い付いた

 

 

「なんと通算本塁打30本越えなんです」

 

 

「アメリカでホームラン30本越え!?」

 

 

「マジかよ!?」

 

 

「まぁ、凄いわね!」

 

 

「成る程……道理で」

 

 

再度、詠深から聞かされた真深の経歴に

菫と稜は興奮し理沙と怜は感心した様子だ

すると芳乃が真深に思わぬ質問をしてきた

 

 

「そういえば……

真深ちゃんは"あの球"を打てるの?」

 

 

「「えっ?」」

 

 

思わず詠深と真深が拍子抜けした声を出すと

 

 

「言われてみれば見てみたいかも?」

 

 

珠姫も二人の真剣勝負を見たいと言い出した

 

 

「そうね……私たちも真深の打撃を見たいわ」

 

 

「おう! 見せてくれよ」

 

 

菫と稜も珠姫に賛同すると怜と理沙も

二人の対決を見てみたいと希望してくると

 

 

「いいね、やろうよ真深ちゃん」

 

 

その提案に詠深は乗り気になるが

 

 

「えぇ~~……嫌よ」

 

 

真深は逆に拒否してきたのだ

 

 

「えっ……どうして?」

 

 

「だって万が一、打ったら

また詠深が自信無くしそうなんだもの」

 

 

「うっ!?」

 

 

先程のことを指摘され苦い表情になる詠深

 

 

「だっ、大丈夫だよ!

真深ちゃんは"あの球"を何回も見てるし

アメリカでホームランを30本も打った

真深ちゃんに打たれたなら仕方無いって

ちゃんと気持ちも前向きに切り替えるよ」

 

 

「本当に~~?」( ̄ヘ ̄)

 

 

「うんうん」(*゚∀゚)*。_。)*゚∀゚)*。_。)*゚∀゚)

 

 

真深に疑いの目で見られ必死に頷く詠深

 

 

「ハァ~~、分かったわ、約束よ」

 

 

「やったーー!」

 

 

真深から了承してもらい喜ぶ詠深

どうやら真深と"あの球"で勝負して

みたいと以前から思っていたようだ

 

そして詠深がマウンドに立つと真深は

バッターボックスに立ち他のメンバーが

それぞれ適当な場所の守備についていく

勿論、捕手は珠姫で審判は芳乃が務めている

 

しかし実際に真深がバッターボックスに立つと

詠深だけでなくグラウンド全体に緊張感が走る

 

真深は普段は穏やかで淑やかだが打者として

バッターボックスに立った途端に一転して

強者のオーラを発してきたからである

 

 

(真深ちゃん……凄い威圧感

これがアメリカで30本もホームランを

打ってきた打者……"あの球"通用するかな?)

 

 

心の中で呟きながら緊張する詠深に対して

 

 

(近くで見るのとバッターボックスに

立って見るのでは全然違うかもしれない

念のために初球は見逃した方がいいわね)

 

 

真深も心の中で呟きながら"あの球"を初めて

バッターボックスで見るので集中力を高めた

 

 

……そして

 

 

「いくよ真深ちゃん」

 

 

そう言って詠深は振りかぶって"あの球"を投じた

 

 

パァン

 

 

詠深の投じた最初の1球は珠姫のミットに収まる

真深は予定通りに1球目を見逃し球筋を確かめた

 

 

(本当に信じられないキレと変化ね

中学で一度も勝てなくても挫けずに

詠深は一生懸命に頑張ってきたんだね)

 

 

再び心の中で呟き微笑みながらマウンド上の

詠深の姿を見ると直ぐに2球目を投じてきた

 

 

(……でも、ゴメンね詠深

アメリカでは投手が相手の打者を

仰け反らせるために打者の顔の近くに

ボールを投げることがよくあったから

私は顔面へと向かってくるボールには

慣れてるから"あの球"が来ると分かれば)

 

 

真深は左足を踏み込むと……

 

 

(打てるわ!)

 

 

心の中で呟きながらバットを振り抜いた

 

 

カキィィィィィィィィィィン

 

 

「「あっ!?」」

 

 

真深が"あの球"を捉えると詠深と珠姫が

揃って声を出し打球の行方を見送った

そして打球は凄まじい早さで右中間へ

抜けて外野のネットに直撃していった

 

二塁打は確実であり真深の足の早さを

考えると三塁打になった可能性もある

当たりであった

 

真深も自分の打ったボールの行方を

見送ると詠深の様子を確認してみたが

以外にも詠深はスッキリしたような表情だった

 

 

「やっぱり真深ちゃんには敵わないな~~」

 

 

「ううん、偶々よ……」

 

 

「偶々?」

 

 

「えぇ……私はアメリカで打者の顔面の近くに

ボールを投げる投手と何度も対戦してきたから

顔面の近くに来るボールに慣れてたし最初から

"あの球"が来ると解ってないと打てなかったわ」

 

 

「本当に!?」

 

 

「えぇ! 直球や他の変化球と織り混ぜて

投げられていたら"三振"しちゃってたと思うわ」

 

 

「やったーー! 私の"あの球"通じるって」

 

 

「でしょ! 詠深ちゃんの球は通用するんだよ」

 

 

「うん!」

 

 

真深は決して御世辞ではなく思った通りの感想を

話すと詠深は嬉しそうな表情でマウンド上から

珠姫に喜びを表現をしていたので真深も詠深が

自信を失わなくて良かったと思い安堵していると

外野の守備についていたメンバーが集まってきた

 

 

「ホント凄い打球だったわ」

 

 

「アタシも一度はあんな打球、打ってみたいぜ」

 

 

菫と稜は初めて見た真深の打撃に興奮していた

 

 

「ホント実際にグラウンドで見ると凄い打球ね」

 

 

「悔しいが打者としては私より君の方が上だな」

 

 

理沙と怜も真深の打力を称賛してくれた

そして"あの球"を完璧に打った真深の打球を見て

他のメンバーも自分も打てるようになりたいと

思ったらしく先程の勝負で"あの球"で三振した

菫と稜と理沙が詠深にリベンジを申し込んでると

 

 

「あの~~」

 

 

「「「「「「「「「???」」」」」」」」」

 

 

バッターボックスに集まるメンバーの後ろから

女性の声が聞こえて9人が振り替えって見ると

 

 

「野球部の皆さん、ですよね」

 

 

「はい……?」

 

 

そこにいたのは眼鏡をした

優しそうな女性の先生だった

すると芳乃が直ぐに気付いた

 

 

「あっ……もしかして顧問の?」

 

 

「藤井です」

 

 

「やっぱり」

 

 

「顧問の先生も来た」

 

 

野球部の新しい顧問の先生に会え

嬉しそうな笑顔になる詠深と芳乃

 

 

「皆さん、こんにちは

自主的に練習されていたなんて

素晴らしいです……私、感動しました」

 

 

藤井先生は部員の熱意を高く評価してくれた

 

 

「これからは、私も協力します

皆さん、一緒に頑張りましょう」

 

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 

 

藤井先生の激励に9人の野球部員は力強く

返事をして本格的に新越谷野球部の活動が

スタートしたのであった

 

 




原作と違い真深が怜の打球を捕っちゃったので
純粋に詠深の勝ちという展開にしちゃいました

因みにセンターの守備に付いて戸惑ったり
打球が飛んできた時の焦っていた息吹が
可愛いく珠詠の中でもお気に入りの場面で

何だかんだで夏大会で失点が一番少ないのが
息吹だったので息吹を投手に抜擢した芳乃の
人選は凄いなと思いました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。