詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

43 / 45
今回のストーリーは前半が白菊、中盤は理沙先輩。
後半は息吹と久保田さんが活躍する話しになります

特に白菊は攻守で原作より
ド派手なことをやってしまうのでお楽しみに(笑)

更に久しぶりに、あの2人も
新越谷の試合をテレビ観戦という形で登場します

それでは、ご覧くださいませ!


第41話 打てば、打つほど、打たれる

 

【夏の全国女子高校野球選手権・埼玉大会】

 

【市営大宮球場・5回戦・第1試合】

 

【新越谷 VS 熊谷実業】

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【新越谷・スタメン】

 

 

【1】川口(息) (左翼手)

 

【2】藤田 (二塁手)

 

【3】山崎 (捕手)

 

【4】中村 (一塁手)

 

【5】岡田 (中堅手)

 

【6】藤原 (投手)

 

【7】川崎 (遊撃手)

 

【8】大村 (右翼手)

 

【9】武田 (三塁手)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【熊谷実業・スタメン】

 

 

【1】平下 (中堅手)

 

【2】上坂 (二塁手)

 

【3】広沢 (一塁手)

 

【4】久保田 (投手)

 

【5】豊村 (左翼手)

 

【6】今関 (三塁手)

 

【7】早川 (右翼手)

 

【8】田中 (遊撃手)

 

【9】野口 (捕手)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

打撃戦となった新越谷と熊谷実業の試合は

スコアが"4-3"と新越谷が1点リードで

迎えた3回表の熊谷実業の攻撃は2番から

始まる攻撃だった

 

理沙は2番打者を空振り三振で打ち取り

幸先よくワンアウトを奪うが続く3番の

広沢にヒットを許し1回表に本塁打を

打たれた4番の久保田に打順が回ると

珠姫がタイムを取って理沙に駆け寄る

 

 

「理沙先輩、本塁打を

打たれたことは気にしないで

思いっきり投げてきてくださいね」

 

 

「ええ! リベンジしてやるんだから」

 

 

珠姫からの言葉に理沙は

勢いよく頷きリベンジに向け闘志を見せる

 

 

「フンッ!(残念だろうが

もう一度スタンドに叩き込んでやる!)」

 

 

久保田は久保田で返り討ちにしようと

理沙に向けてバットの先端を向けてくる

 

しかし理沙は内角にボールとなる直球を

投じると2球目に再び内角にボールを投げる

 

 

「フッ……貰ったーー!!」

 

 

理沙が同じコースに投げてきたので久保田は

内角直球へのボールをスタンドに飛ばそうと

フルスイングでバットを振ったが次の瞬間に

ボールが外角に向けてゆっくり変化した

 

 

「なっ!? ("カーブ"だと!?)」

 

 

ガキン

 

 

久保田は変化球を意識していなかったのか

理沙のカーブになんとかバットを当てたが

大きく三塁の真上に打ち上げてしまい

 

 

「オーライ!」

 

 

「アウト!」

 

 

今日は三塁手で先発の詠深が久保田の

打球をしっかりとキャッチして見事に

久保田にリベンジを果たす

 

 

「「よしっ!」」

 

 

それに理沙と珠姫は嬉しそうな表情になり

ツーアウト一塁と危機を抑えたと思ったが

久保田の後の5番の打者の豊村には四球を

出してしまいツーアウトから一塁・二塁と

再びピンチを迎えた状態で打席には6番で

三塁手の今関が立つ

 

1回裏の新越谷の攻撃の際に珠姫の

スクイズの処理に失敗してエラーを

記録してしまった選手だ

 

 

「今関! エラーのミスはバットで返せ!」

 

 

「おうっ! 任せろ!」

 

 

ベンチから久保田が打席の今関に

指示を出すと今関は気合い十分の

笑みを浮かべてバットを構える

 

 

一方……

 

 

(ツーアウトだし、ここは抑えるわ!)

 

 

ピンチではあるがツーアウトなので

理沙は走者は気にせず目の前にいる

打者に集中して打ち取ることだけを

考えて冷静になっていて珠姫も先程

久保田を打ち取ったようにカーブを

使うリードをしようとしたが

 

 

カキィィィィィィィン

 

 

「「!?」」

 

 

今関はカーブを狙っていたのか

若しくは山を張っていたのか理沙のカーブを

捉えると打球は右翼手の白菊の前に落ちると

二塁走者が三塁を周りホームに向かい初めた

 

 

「!!(二塁走者……本塁で刺します!)」

 

 

それを見た白菊は捕球して直ぐに

バックホームの体勢に入ろうとしたが

バックホームを意識しすぎてしまったらしい

 

 

「!?」

 

 

《あぁーーっと! 右翼手、後逸!?》

 

 

打球は白菊のグラブに擦ったものの白菊が

打球を掴み損ねてしまい後逸してしまった

 

その隙に二塁走者はホームを踏んで同点に

追い付かれてしまい打球は白菊のグラブを

擦った際に一塁線に転がってしまったので

中堅手の怜もフォローに駆けつけないので

白菊が慌てて打球を回収しようとする隙に

一塁走者も三塁を廻ってホームに向かって

全力疾走していた

 

 

「くっ!!(せめて一塁走者だけでも!!)」

 

 

自分のエラーで同点にされるだけでなく

逆転までされてはチームに申し訳ないと

白菊はグラブに打球が擦った際に打球が

一塁線を転がっていたので直ぐに打球に

追い付けた白菊は直ぐ様ボールを掴んで

ホームに向け送球しようとした次の瞬間

その場にいた誰もが予想していなかった

思わぬ出来事が起こった

 

 

「ハァッ!」

 

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

その瞬間、球場がどよめきに包まれた

 

 

「なっ!?」

 

 

「速い!?」

 

 

「嘘だろう!?」

 

 

「こんなの聞いてないぞ!?」

 

 

白菊が目の覚めるような……

それも真深のレーザービームにも全く

劣らない強肩を見せてきたので球場の

観客席だけでなく新越谷と熊谷実業の

メンバーまで驚愕すると走者が慌てて

スライディングでホームに滑り込んだ

 

 

「セーフ! セーフ!」

 

 

しかし走者の足が白菊の送球が珠姫の

ミットに収まるよりホンの僅かに早く

間に合い熊谷実業に"4-5"と逆転を

許してしまった

 

 

「うぅぅ……またやってしまいました」

 

 

主審のセーフのコールを聞いた白菊は

その場で落胆してしまい肩を落として

自身のエラーを悔やんだ

 

 

「やったーー!!」

 

 

「逆転だーー!!」

 

 

熊谷実業が逆転し2点のリードを

奪ったことに一塁側の熊谷実業の

応援席が大盛り上がりになる

 

因みに今のプレイで今関にヒット

そして白菊にはエラー記録されて

打った今関はエラーの隙を付いて

二塁に進みツーアウト二塁となり

尚も新越谷のピンチは継続中だが

理沙が続く7番の早川を辛うじて

内野フライで打ち取って追加点は

阻止しスリーアウトとする

 

 

「すみません、すみません……」

 

 

「大丈夫よ。気にしないで

それにセーフにはなったけど

最後の送球は凄かったじゃない」

 

 

「そうだぜ白菊! 凄い返球だったな!」

 

 

「えっ……?」

 

 

ベンチに戻る否や白菊は申し訳なさそうに

涙ぐみながら謝罪をすると理沙が優しく

白菊を慰め逆に直後の送球を褒められると

稜からも称賛の声を送られて白菊は不意を

突かれたようにキョトンとした表情となる

 

 

「いつの間に、あんな凄い

送球ができるようになったんだよ!?」

 

 

「思わず、目を疑ったわよ!?」

 

 

稜に続いて菫も白菊の送球に太鼓判を押す

 

 

「え~と……柳大川越との練習試合や

梁幽館との試合で見た真深さんの送球を

私なりに"見よう見まね"でやってみました」

 

 

「えっ、私?」

 

 

どうやら白菊は送球の際に咄嗟に真深の

レーザービームが頭の中に過ったらしく

一か八かで挑戦したようだ

 

 

「"見よう見まね"でやったの? 凄い!」

 

 

「アウトにはできなかったけど

正確に私のミットまで届いたんだけど!」

 

 

真深の真似をしてやったと聞いて詠深は

ぶつけ本番で成功させたことに興奮して

珠姫は初挑戦で剃らすことなくミットに

ボールをダイレクトで届かせたことには

驚きを隠せない様子だ

 

 

「最近は私や真深と一緒に守備練習に

積極的に取り組んでいた上に剣道をやって

元から肩が鍛えられていた成果だと思うぞ」

 

 

怜の指摘する通り最近の白菊は怜と真深の

2人から指導してもらいながら守備練習に

取り組んでいた上に既に剣道で鍛えられた

肩の強さによって正確に珠姫のミットまで

ボールを送球して見せたようだ

 

 

「白菊ちゃん、自信もってよかとよ」

 

 

「左翼手の真深ちゃんに加えて

右翼手の白菊ちゃんの肩まで強ければ、相手は

簡単に進塁できないし、それに加えて中堅手の

主将の守備力があれば、ウチの外野は鉄壁だね」

 

 

「そうよ、落ち込む必要なんてないわよ」

 

 

いつも打撃に関してのみだが白菊に対して

ライバル心を見せてくる希も白菊の送球を

絶賛すると芳乃と息吹も称賛してきた

 

 

「皆さん……はい! ありがとうございます」

 

 

仲間からのフォローもあり白菊は

直ぐに元気を取り戻すことができたようだ

 

 

すると……

 

 

「今関ちゃん! ナイスバッティング!」

 

 

「初めて、まともなヒット見たぞ!」

 

 

「守備についたら、エラーしてくれ」

 

 

「うるせーー!(笑)」

 

 

逆転打を放った今関に味方である筈の

熊谷実業の観客席からヤジが飛んだのだが

ヤジを飛ばした観客達も飛ばされた今関も

お互いに楽しそうに笑みを向けあっていた

 

 

「味方にヤジられてるぞ」

 

 

「なんだか、ガラ悪いわね」

 

 

そんな相手の様子に稜と菫が

思わずドン引きしてしまっていたが

 

 

「でも見ていて楽しそうだね……

野球が大好きだって思いが伝わってくるよ」

 

 

「そうね……多分、あれが

熊谷実業の応援のスタイルなんだと思うわ」

 

 

野球を楽しむことを1番に考えている

詠深と真深は熊谷実業の野球を楽しむ

応援のスタイルに親近感を感じていた

 

そして3回裏の新越谷の攻撃は4番の

希からの好打順だったので熊谷実業に

奪われた2点のリードを取り返そうと

新越谷のベンチではメンバーが士気を

高めていたのだが……

 

 

ガキィッ

 

 

「ぐっ!?」

 

 

希が久保田の直球に詰まらされて

投手ゴロで凡退させられてしまう

 

 

「希ちゃんが完全に打ち損じた!?」

 

 

直球に強い希が直球を詰まらされたことに

ベンチで詠深たちが戸惑いの声をあげると

 

 

ギィィィィィィン

 

 

「くっ!?」

 

 

続く5番の怜も直球を詰まらされ

三塁手への内野フライで凡退させられ

僅か2球でツーアウトを取られてしまった

 

 

「今の直球は1回裏にも投げてきた直球ね」

 

 

「アレが良いコースに決まると

希ちゃんや主将でも簡単には打てないか……」

 

 

久保田が稀に投げてくる球速も球威の両方が

高い直球が再び投じられ真深と芳乃の表情が

少し険しくなる

 

 

「最初の打席の時とは全然違ったけん」

 

 

「私に対して2打席連続で来るとはな」

 

 

「主将同士ですから久保田さんも

自然と力が入ったのがもしれませんね」

 

 

ランダムで投じられる久保田の球威と

球速の双方が抜群の直球の前に凡退し

ベンチに戻ってきた希と怜も久保田の

ベストな直球に思わず呆然とさせられ

2球でツーアウトにされたこともあり

3回裏の攻撃でチャンスは訪れないと

思われたのだが……

 

 

「ボールフォア!」

 

 

ツーアウトとなって6番の理沙に四球

 

 

「ボールフォア!」

 

 

続く7番の稜と2人続けて一球も

ストライクが取れず四球で歩かせたことで

ツーアウトから一塁・二塁のチャンスが訪れた

やはり久保田の投球のムラはかなり悪いようだ

 

 

《8番、右翼手、大村さん》

 

 

ここで先程の守備でエラーをしてしまった

白菊が気合いをいれた表現で打席に向かう

 

 

「白菊ちゃん! 決めちゃえーー!!」

 

 

「ミスはバットで取り返せーー!!」

 

 

「はい!!」

 

 

ベンチから詠深を初めとした仲間に加え

稜も一塁から白菊に向けエールを送ると

白菊はしっかり頷いて打席に立つ

 

因みに2回裏の第1打席で新越谷の

4点目に繋がるヒットを打っている

 

久保田は白菊に第1打席でヒットを

打たれた借りを返そうと思ったのか

第2打席でも真っ向勝負をしようと

直球勝負を挑んできた

 

 

「好球必打!!」

 

 

それに対して白菊も自身の持てる力の

全てをバットに乗せて捉えようとして

久保田の直球を捉えようと振り抜いた

 

 

ギィィィィィィィィン

 

 

「ぐっ!?」

 

 

久保田の直球に対して白菊は振り遅れず

バットを振り抜き芯に当てる事ができた

 

しかし白菊の打球は高く舞い上がったが

詰まらされ打球の速度に勢いが足りずに

熊谷実業の中堅手がフェンス際で捕球の

体勢になっていた

 

 

「うぅぅ……打ち上げてしまいました」

 

 

自身の打った打球が外野フライになると

察した白菊が無念そうにバットを置いて

一塁へ走っていき全員がチェンジとなり

4回の攻防に突入すると思った時だった

 

 

「待って! 中堅手が……」

 

 

「下がってるよ!」

 

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

真深と詠深の言葉に新越谷のベンチにいた

全員が目を向けると捕球体勢に入っていた

熊谷実業の中堅手が1歩ずつ後ろに向かい

下がっていたのだ

 

見るとバックスクリーンに掲げられている

大会旗が場外の方向へと大きく靡いていた

 

 

「風だ!?」

 

 

なんと、この時、偶然にも

球場の上空にバッターボックスから

スタンドに向かうような強風が吹いていた

 

そして高く舞い上がり外野フライになると

思われた白菊の打球は次第に風に流されて

奥へと延びていき……

 

 

ポトッ

 

 

そのまま左中間のフェンスを

ギリギリ越えてスタンドに入っていった

 

 

「はっ、入った!」

 

 

「逆転3ラン、本塁打だ!」

 

 

外野フライが一転して逆転3ラン本塁打になり

新越谷のベンチが一転して大盛り上がりになる

 

 

「えっ?…………えぇぇーーーーーっ!?」

 

 

「白菊、本塁打よ! 早く廻らないと!」

 

 

「はっ、はい!?」

 

 

逆に打った白菊は戸惑いと驚きの表情に

なってしまうが一塁ベースコーチャーに

立っていた菫に促されて我に返り慌てて

ダイヤモンドを廻り始めた

 

 

「しかし、久保田から本塁打とはな……」

 

 

風に助けられたとはいえ被本塁打の数が

少ない久保田から白菊が本塁打を打って

怜や他のメンバーも驚いた様子だ

 

 

「幸先良く、希ちゃんと怜先輩を

打ち取った直後に2人続けて四球を出して

久保田さんが投球のリズムを崩したことと

久保田さんの球数が50球を越えたことで

僅かに疲労が出て白菊ちゃんに投げた球が

甘く入ったことと白菊ちゃん自身も守備の

ミスを取り返そうと強い気持ちでバットを

振ったから本塁打に繋がったんでしょうね」

 

 

「でしょうね……

私も上杉さんの言う通りだと思いますね」

 

 

「何はともあれ、これで逆転!

試合の流れはウチに来たかもしれません」

 

 

対して真深と藤井先生と芳乃は

納得した様子で笑顔にもなっていた

 

 

「ナイバッチ、白菊ちゃん!」

 

 

「また本塁打でエラー取り返したな!」

 

 

「しかも2試合連続だし

真深ちゃんに並んで大会3本目だよ!」

 

 

「ありがとうございます! 凝縮です!」

 

 

ホームを踏んだ白菊を先にホームに

還っていた理沙と稜に加えて白菊の

次に打順が廻ってくる詠深が白菊を

出迎えると他の仲間たちもベンチで

白菊をハイタッチで迎えるが……

 

 

「痛っ!? 誰かに"頭突き"されました」

 

 

「アハハ……(白菊ちゃんが

本塁打を打つ度にやる気なのかしら?)」

 

 

白菊の背中に頭突きをお見舞いした

仲間がいたが真深は頭突きの瞬間と犯人を

しっかりと目撃して苦笑いを浮かべていた

 

 

一方……

 

 

「幸先良くツーアウトを

取った後に連続四球からの本塁打かよ……」

 

 

「かなり悪い流れだぞ……」

 

 

「というか久保田さんから本塁打だなんて」

 

 

「大村って確か野球は初心者だったよな?」

 

 

「はっ? 初心者で久保田さんから

本塁打を打つって……本当に初心者かよ?」

 

 

「さっきの送球と言い

あれで初心者だなんて、詐欺だろ、詐欺!?」

 

 

久保田が本塁打を打たれたことに加え

本塁打を打った白菊に対し熊谷実業の

応援席の観客は動揺を隠せない様子だ

 

 

「フンッ……(本塁打を打たれたのは

"奴"と大会で対戦して打たれて以来だな)」

 

 

そしてベンチで祝福される白菊の姿を

見ながら久保田はかつて自身から本塁打を

打った良きライバルの姿を思い出していた

 

 

その頃……

 

 

「フッ……中々、苦戦しているようだな

このままでは上杉と対戦できずに終わるぞ」

 

 

梁幽館高校の野球部の寮のテレビの前で

真深を温存させている新越谷打線を前に

苦戦している久保田の姿を見て久保田の

ライバルが挑戦的な笑みを浮かべていた

 

 

「まさか久保田さんから

私達がこんなにヒットを打てた上に

7点も取れるなんて思わなかったわ」

 

 

「私は本塁打を打てましたが

半分は風のお陰で打てたものですね」

 

 

「まあ、運も実力の内と言うし

固いことは、言いっこナシだぜ、白菊」

 

 

何はともあれ"7-5"と熊谷実業を相手に

というより久保田から7点を奪えたことに

理沙、白菊、稜が思い思いに気持ちを口にし

他の仲間たちも大会前と比べて自分たちの

打撃力のレベルアップを実感し始めたのか

嬉しそうな表情を見せていた

 

 

「2点のリードを奪えましたから

このまま6回まで理沙先輩と息吹ちゃんの

2人に頑張って貰って最終回はリリーフで

詠深ちゃんに繋げるように頑張りましょう」

 

 

リードを奪ったことで芳乃がベンチにいる

メンバーに今日の試合の方針を伝え始めた

 

 

すると……

 

 

「私のこと話してた?」

 

 

「詠深!? いつの間に……?」

 

 

たった今、打席に向かった筈の詠深が

落ち込みながら、戻ってきていたので

真深を初めとした仲間たちも、詠深に

声をかけられて驚いてしまった

 

 

「今さっき、打席に行った筈じゃ?」

 

 

「三球三振になりました……(;_;)」

 

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

 

自分たちの打撃力のアップを実感した直後に

唯一大会前と変わらない詠深の打撃力に加え

いつの間にか"スリーアウト"になったことも

手伝って仲間たちが思わず苦笑いを浮かべる

 

 

「で? 私がどうかしたの?」

 

 

「うん。詠深ちゃんに

継投するタイミングの話を……」

 

 

「了解! 任せて!!」

 

 

「あっ! ちょっと、詠深!?」

 

 

"詠深に継投する"の部分を聞いて

出番がきたと早とちりをした詠深を

真深が呼び止めるも詠深は一目散に

マウンドへと走っていってしまった

 

 

「? まだよ……」

 

 

「あっ、はい……」

 

 

マウンドに走ってきた詠深に

理沙は困惑しながらも状況を

察したのか詠深を落ち着かせ

4回の守備に備えさせた

 

 

「詠深ったら最後まで話を聞かないで」

 

 

「アハハ……

まあ、詠深ちゃんらしくて良いかも?」

 

 

そんな詠深に真深は溜め息をしながら

右手で頭を抱え呆れた様子を見せると

その様子に芳乃が苦笑いをしていた

 

そして迎えた4回表の熊谷実業の攻撃で

理沙は2人のランナーを出してしまうが

なんとか凌いで無失点に押さえる

 

このまま4回裏の攻撃で更に追加点を

奪い点差を開こうと新越谷は久保田を

畳み掛けようと試みたが久保田の方も

ここで調子が上がってきたのか白菊に

不運な本塁打を打たれたことで闘志に

火が着いたのか4回裏の先頭の息吹を

三振にすると2番の菫と3番の珠姫と

立て続けに"外野フライ"で打ち取って

4回裏の新越谷の攻撃を5分もせずに

終わらせてしまう

 

 

「この回は全部の球が走ってましたね」

 

 

「ですね……もしかしたら

久保田さんも詠深みたいに尻上がりに

調子が良くなる投手なのかも知れませんね」

 

 

「それはどうかな?

過去のデータを見ると逆に前半は好投してて

後半に銚子を落として相手に点を取られてる

試合とかもあったからボールの球威や球速と

同じようにその時その時で違うんだと思うよ」

 

 

ベンチで藤井先生、真深、芳乃が久保田の

投球について分析をしながら会話をしていて

それをベンチにいる仲間が静かに聞いていた

 

 

「さて……2点リードして

5回に入りましたが、どうしますか?」

 

 

「はい! 予定どおりに投手は

理沙先輩から息吹ちゃんに交代します」

 

 

この試合も馬宮との試合の時と同様に

5回で投手を交代させるつもりでいた

芳乃が藤井先生に投手交代を知らせて

藤井先生はベンチを出て主審に投手と

一部の選手の守備位置の変更を伝える

 

だが真深はまだ出さないので影森との

試合の途中に交代で息吹がマウンドに

上がった時と同じように一塁手の希が

左翼手に行き三塁手の詠深が一塁手に

入り投手の理沙が本来のポジションの

三塁手に戻った

 

 

「息吹ちゃん、宜しくね」

 

 

「いっ、いよいよ出番ね」

 

 

藤井先生と芳乃から投手を息吹に代えると

聞いた息吹が一転して緊張した表現になる

 

 

「息吹ちゃん、投球フォームは、どうする?」

 

 

そこへ珠姫が息吹に声をかける

誰かのコピー投球で投げるのか

確かめるためだ

 

 

「一先ず、馬宮の時みたいに

詠深のコピーで行くわ。ウチのエースだし」

 

 

「わかった」

 

 

息吹から詠深のコピーで行くことを

確認すると最後に球種のサインの確認と

終えて珠姫はポジションに戻っていった

 

 

「ちっ! まだ武田を出さない気か?

ウチも"ずいぶん"と舐められたもんだな」

 

 

そんな新越谷(芳乃)の継投策に

この回の先頭で打席が廻ってくる久保田が

不満を口にし試合前より不機嫌になっていた

 

 

《4番、投手、久保田さん》

 

 

そして球場に久保田の名前がコールされる

 

 

「ひぃぃぃっ!?

(いきなり久保田さんと対戦なのね!?)」

 

 

対する息吹は真深や中田に匹敵する

強打者の久保田が最初の対戦相手で

少し萎縮しそうになっていた

 

 

しかし……

 

 

「でも考えてみたら

こんな打者と対戦できる機会なんて

滅多にないわよね……だったら楽しまないと」

 

 

双子の妹の芳乃……そして高校生になって

最初の友達であり新生新越谷野球部の最初の

5人の仲間である真深と詠深と珠姫のように

野球を楽しむことを1番に考えている息吹は

久保田のような強打者と対戦ができることを

楽しむべきだと考え直し気持ちを切り替えて

久保田との対戦を楽しむことを意識し始めた

 

 

その結果……

 

 

ギィィィィィィン

 

 

「チッ!? (詰まらされただと!?)」

 

 

馬宮との試合の時と同じく詠深のコピーで

"ツーシーム"を内角に投じて打ち気満々の

久保田の上手く意表を付けることができて

見事"三塁ゴロ"で打ち取ることに成功した

 

 

「今の投球フォーム……

武田の投げるフォームに良く似ていた

なるほど……アレが情報にあった川口の

武器の"ものまね"投球とかいうやつだな」

 

 

どうやら新越谷が快進撃を続けていることで

真深や詠深の2人以外の選手の情報も他校の

一部のチームが調べているらしく熊谷実業は

息吹のコピー投球の情報を掴んでいるようだ

 

その後の息吹は久保田を打ち取ると5番の

豊村に左翼フライに打ち取ってテンポ良く

ツーアウトとしたものの続く6番の今関と

7番の早川に連続でヒットにされてしまい

ツーアウトから一塁・二塁のピンチで続く

8番の田中に大きな当たりを飛ばされるが

中堅手の怜がランニングキャッチで田中の

打球を掴むファインプレイを見せ無失点で

5回表の熊谷実業の攻撃を凌いだ

 

 

「息吹、ナイスピッチ!」

 

 

「今日も調子が良さそうだな」

 

 

「アハハ……最後は

ちょっと、焦ったけど抑えられたわ……」

 

 

無失点に抑えた息吹をベンチで仲間たちが

称賛すると息吹も照れながらも嬉しそうに

笑みを浮かべているが

 

 

「……(気のせいか今日は球が

あまり走ってないような気がしたな?)」

 

 

しかし息吹の投球を受ける捕手の珠姫は

影森や馬宮との試合と比べて息吹の球に

球威を感じず少し不安を抱いると……

 

 

「息吹ちゃん……

(少し辛そうな気がするけど大丈夫かな?)」

 

 

芳乃も息吹の表情に疲れが見えたような

気がして心配ので少し心配しそうになるが

息吹が気にしてかえって調子を悪くすると

良くないと思ったので口には出さなかった

 

 

「試合が落ち着いてきたね……

試合も中盤まで来て久保田さんの投球が

少し良くなってきたから絶好球は絶対に

逃さない気持ちで……この5回の攻撃で

決める気持ちで積極的に打っていこうね」

 

 

そして試合は5回裏の新越谷の攻撃に

入る前に芳乃が改めて打撃力が好調な

メンバーを鼓舞する

 

 

《4番、左翼手、中村さん》

 

 

5回の新越谷の攻撃の先頭打者である

希の名前がコールされると希は打席に

向かう前に芳乃から鼓舞されたことで

期待に応えようと気合い十分な様子で

打席に向かっていく

 

 

「お願いします!」

 

 

そして審判に挨拶してから打席に立つと

マウンド上の久保田を睨み付けるような

視線を向けてバットを構えると得点圏に

出塁してチャンスを作るために3回裏の

白菊の本塁打に刺激を受けたこともあり

長打を狙おうと試みていた

 

そんな希に対して相変わらず直球勝負を

徹底してくる久保田の初球の直球に希は

振り遅れることなくバットを振り抜いた

 

 

バキャ!

 

 

すると鈍い打球音と響かせた希の打球は

調子が上がってきた久保田の直球を前に

詰まらされたのかフラフラと右中間へと

上がっていったが先程から球場に吹く

風に流された影響か二塁手と中堅手と

右翼手の中間の位置に落ちてていくと

二塁手も中堅手も右翼手も希の打球に

追い付けず落下すると落下した打球を

確認した希は透かさず二塁まで進んで

直球をジャストミート出来なかったが

ノーアウト二塁と追加点のチャンスを

チームにもたらしたが打った希本人と

ベンチの芳乃は違和感を感じていた

 

 

「……(詰まらされたとはいえ

芯に当てたのに打球が延びなかったけん)」

 

 

「……(希ちゃんが2打席連続で

直球を詰まらされた……打撃フォームを

変えたツケとかじゃなければいいけど?)」

 

 

梁幽館との試合で自身の今までの

打撃スタイルでは限界があると悟った希は

積極的に長打を狙う打撃フォームを練習し

取り組んできたために梁幽館との試合での

同点タイムリーや馬宮との試合で本塁打を

含め4安打を記録するなど調子は上向きに

なっていたこともあり違和感を抱いていた

 

しかし今は希が演出して作ったチャンスを

得点に繋げることを考えるのが重要である

 

 

《5番、中堅手、岡田さん》

 

 

そして打席には今日は2打席とも運悪く

久保田のベストな直球を投じられていた

新越谷の主将の怜が打席に立つ

 

 

「……(主将でありながら今日は

打撃ではチームに全く貢献できていない

ここはなんとしても打って繋がないとな)」

 

 

怜はいつもより集中力を更に高めると

マウンドに立つ久保田との対戦に挑む

 

 

(最低でも希を三塁に進めたいが

できることなら大量点を狙いたいから

ここは強く叩くことを意識しヒット狙いだ)

 

 

仮に前の2打席の時のような直球が

来たとしても是が非でも打つために

絶対にヒットで繋ごうと集中すると

怜に対して今日の試合で打ち頃とも

言える直球が投じられると躊躇なく

バットを振り抜くと打球は中堅手の

前に堕ちるヒットとなって新越谷は

ノーアウト一塁・三塁のチャンスを

作り追加点に期待が掛かる

 

 

《6番、三塁手、藤原さん》

 

 

ここで打席には2打数1安打1四球と

打撃で調子の良い理沙に打順が廻ると

芳乃が直ぐにサインを出した

 

 

「できれば真深ちゃんを

代打で出す前にここで決めたい

(本塁打、お願いします、理沙先輩!)」

 

 

(強攻ね……わかったわ!)

 

 

芳乃からのサインに理沙は

しっかり頷いて打席に立つ

 

 

「藤原か……」

 

 

対して久保田は打席に向かう理沙の姿を

なにやら複雑そうな表情で見届けていた

 

 

「……(大村に本塁打を打たれたが

今日の新越谷のスタメンの中で上杉に

次いでパワーがあると見たのが藤原だ

中田と対戦する時に投げる筈であった

全力投球を上杉に投げようと思ったが

万が一このまま上杉が出てこないなら

勝負どころであるここで使うべきか?)」

 

 

実は久保田には詠深の強直球のような

球威も球速も今日の試合で投げられた

どの球と比べても明らかに威力のある

直球を持っている

 

その球こそ久保田が県内最速投手の

称号を自他ともに認められることに

なった久保田の切り部だとも言える

奥の手でもあった

 

 

しかし……

 

 

(この球を投げれば流石の私も

スタミナを著しく消費してしまうから

1試合に何度も投げることはできない球だ)

 

 

久保田は県内最速投手であると同時に

今回の夏大会に出場している投手の中で特に

スタミナが豊富と評価される選手でもあった

 

夏は日本国内でも特に猛暑日の多い地域の

1つと言われる熊谷で練習を重ねたことで

培わられた賜物なのかもしれない久保田の

自慢のスタミナをもってしてもスタミナを

多く消費する諸刃の剣ともいえるリスクを

伴う球でもあった

 

久保田はその切り札を本来ならば梁幽館に

所属する自身のライバルである中田奈緒に

投じるつもりであったが梁幽館は新越谷に

敗れ最後の夏にライバルと全力投球による

勝負をする目標を失い意気消沈しかけたが

中田にも劣らない打撃力を持ちアメリカで

輝かしい実績も持ち実際に中田との対戦で

中田の全力投球を場外まで飛ばし馬宮との

試合を観戦した際には中田からも真深との

勝負を期待しておけと言われたこともあり

今日の新越谷との試合では勝負どころでの

真深との勝負で使おうとしていた

 

ところが新越谷が肝心の真深を出場させず

挙げ句に真深を出場させていない新越谷に

白菊に本塁打を打たれるなどリードを許し

芳乃も藤井先生も未だに真深を出してくる

気配すら見せず試合は中盤まで進み試合の

勝負どころで理沙に打順が廻ってきた

 

状況と理沙の打撃力を考慮すればピンチを

脱する為にもこの場で切り札の全力投球を

使うことも考慮し初めていたのだ

 

 

しかし……

 

 

(いや! この場は全力投球を使わずに

乗り切れれば次の向こうの勝負どころで

上杉を出してくる可能性だってあり得る

やはり今は全力投球は使わないで行こう)

 

 

この時の久保田は真深を意識しすぎて

投手(エース)として……そして主将として

やってはいけないことを考えやってしまった

 

後に来るか分からない真深との勝負のことを

考え過ぎ目の前で打席に立つ理沙との対戦に

集中できていなかったのだ

 

投手(エース)として……そして主将として

チームの勝利を優先するべき場面で自身の

願望を優先してしまったのだ

 

そのような精神状態で投じられる投球など

どうなるかは素人でも予測できただろうし

結果も、たかが知れていた

 

案の定、理沙への初球は……

 

 

「!? (しまった!?)」

 

 

ベンチや観客席から見ても球威も球速も

並の投手の直球と変わらぬ上に明らかに

失投と言える球だった

 

 

「!?(甘い! 明らかに失投だわ!!)」

 

 

そして理沙も今日は何度も久保田の球を

見てきたことから自身に投じられた球が

失投だと瞬時に悟り目を見開いた

 

 

(悪いけど……私には

真深ちゃんみたいに失投を態とカットする

技術もなければ相手と真っ向勝負を楽しむ

余裕もないから遠慮なく打たせてもらうわ)

 

 

久保田が自身に失投を投じた瞬間に

理沙は真深が梁幽館との試合で中田と

真っ向勝負を挑むために敢えて失投を

カットすると最後は中田の全力投球を

本塁打で決着を着けた時の姿が脳裏に

浮かんだが本来なら失投を逃す義理も

ルールもなく失投という相手の投手の

ミスを付くのは実に当然なことなので

理沙は躊躇なくバットを振り抜いた

 

 

グワキィィィィィィィィィィン

 

 

「「「「「 行ったーーー!! 」」」」」

 

 

打った瞬間それと確信できる打球だった

理沙が失投を捉えるのと同時に新越谷の

ベンチで仲間たちが興奮しながら打球を

指差しながら見送り理沙の打球は美しい

放物線を描きながらスタンドに向かって

勢いよく飛んで行き……

 

 

《入った、本塁打ーー!!》

 

 

打球は左翼手スタンドの最も奥に飛び込む

3ラン本塁打となりスコアは"10-5"と

新越谷がリードを5点差にまで広げた

 

 

「チクショ!! 私としたことが!!」

 

 

理沙の打球がスタンドに飛び込んだ瞬間に

久保田は片膝を付き心に雑念を抱えながら

中途半端な球を投げた自身に対して憤りを

抱きながら地面を殴り付けた

 

 

「なにやってんだ、久保田ーー!?」

 

 

「もう10失点じゃないか!?」

 

 

「しっかりしろーー!!」

 

 

そこへ観客席からブーイングが鳴り響くが

自身に対して憤りを抱いている今の状況では

自身への戒めと捉え甘んじて受け入れていた

 

 

一方……

 

 

「スゲー! 久保田から10点も取ったぞ!」

 

 

「主砲(上杉)すら出してないのに凄い!」

 

 

「やっぱ、今年の"新越谷"強いぞ!?」

 

 

真深なしで久保田から10点を奪った

新越谷の打線を見て度肝抜かれていた

 

 

「やったな、理沙!」

 

 

「ナイバッチです、理沙先輩!」

 

 

「1回表に久保田さんに

打たれた本塁打の借りを返せましたね」

 

 

「ええ! 素直に嬉しいわ!」

 

 

そしてホームを踏んでベンチに

戻った理沙を仲間たちが出迎え

点差も5点差に広がったことで

明るい雰囲気に包まれていた

 

 

「さあ、皆さん

嬉しい気持ちは分かりますけれど

まだ試合は終わってはいませんよ

野球は最後までなにが起こるのか

分かりませんから最後のアウトを

取るまで気を緩めずに行きますよ」

 

 

そんな教え子たちの様子に藤井先生も

笑顔を見せながらも油断しないように

メンバー全員に促しているのに対して

マウンドでは久保田の元にベンチから

伝令役と内野陣が守備のタイムを取り

集まっていた

 

 

「みんな済まない!

今のは完全に私のミスだ!?」

 

 

集まってきた仲間たちに対して久保田は

憤った表情のまま仲間たちに謝罪すると

今までどんな状況でも堂々と振る舞う

久保田が本気で悔しがり憤る姿を前に

今まで見たことない姿なのであろうか

やや驚きの様子を見せていたが1人の

仲間の言葉が久保田の闘士を甦らせる

 

 

「らしくないぞ、キャプテン!」

 

 

「なに?」

 

 

「こういう時こそ

いつもみたいに【ミスは必ず取り返すから

私を信じて付いてこい】って言ってくれよ」

 

 

ここ数年の熊谷実業は打撃力が強力な一報で

守備ではエラーが多く失点の1番の要因にも

なっていたが久保田はエラーを犯した仲間を

攻めるようなことは一度もなく自分の投球や

打撃で必ず取り返すから自分を信じて付いて

来るよう仲間たちを励まし鼓舞し続けていた

 

なので仲間たちは今度は自分たちが久保田を

励まして鼓舞しようと自然と考えが一致して

誰も久保田を攻める気もなければ誰も試合を

諦めてなどいなかった

 

 

「そうだぜ、キャプテン!」

 

 

「まだ試合は終わってないッスよ!」

 

 

そして1人が声をあげたことで

他のメンバーも次々に久保田に声をあげる

 

 

「お前たち……」

 

 

そんな仲間たちからの言葉に久保田の

憤りの感情が薄れていき逆に仲間たちと

試合ができる今を楽しもうという本来の

自分を思いだして再び闘士に火が着いた

 

 

「おうっ、任せろ!

今のミスは必ず次の打席で取り返す!

だからお前たちも信じて付いてきてくれ!」

 

 

「「「「「「うおぉぉぉぉっ!!」」」」」」

 

 

闘士を取り戻した久保田の掛け声に

マウンドに集まっていた仲間たちも

気合いを入れながら声をあげた

 

 

「この試合……まだ何か起きそうですね」

 

 

「はい……5点リードしたからって

一瞬も気が抜けませんし油断できません」

 

 

そんな熊谷実業のナインの様子に

藤井先生と芳乃も挑戦的な笑みを

浮かべながら見つめていた

 

 

《7番、遊撃手、川崎さん》

 

 

そして理沙の本塁打が切っ掛けで

盛り上がりながらも異様な雰囲気にも

なっている中で稜が打席に立つと稜は

目の前の久保田の表情を見て驚愕する

 

 

「マジかよ……もう立ち直ってるのかよ」

 

 

てっきり理沙の本塁打で精神的なダメージを

受けているだろうから稜は自分の3打席目で

一気に畳み掛けようと考えていたが久保田の

表情から闘士が全くなくなってないどころか

増している様子になっていたからだ

 

 

「けど流れはウチに来ている……

この流れに乗って、またチャンスを作るぜ!」

 

 

チームが勢いに乗っている時の稜は

普段よりもモチベーションが上がり

プレイに良くなる傾向がある

 

 

しかし……

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

「ちっ!?」

 

 

稜はボール球に手を出すなどで

三球三振でアッサリ凡退すると

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

「くっ!?」

 

 

今日は2打数2安打1本塁打と

絶好調だった白菊もファールで粘ったが

最後は空振り三振で打ち取られてしまい

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

「うぅぅ……」

 

 

今日は全打席で三振の詠深は言わずもがな

この打席も三振となり理沙の本塁打により

精神的ダメージを受けるどころか逆に息を

吹き替えした久保田の前に連続三振にされ

試合の流れを物にできなかった

 

 

「いいぞ、久保田ーー!!」

 

 

「まだまだ、これからだーー!!」

 

 

すると理沙に本塁打を打たれた直後に

ブーイングをした観客も久保田に声援を

送り熊谷実業のベンチも活気づいていた

 

 

「致命的になりかねない本塁打を

打たれても精神的に崩れないなんて……」

 

 

「流石、強豪校のエースにして

県内最速投手と呼ばれるだけありますね」

 

 

久保田のメンタルを目の当たりにして

芳乃と藤井先生は苦い笑みを浮かべる

 

 

「一先ず、5点のリードがありますし

当初の予定通りに6回表は息吹ちゃんに

最後まで投げてもらって6回裏のウチの

攻撃は1番の息吹ちゃんからの打順なので

そこで真深ちゃんを代打で出して最終回の

7回表で詠深ちゃんに投げて貰いましょう」

 

 

「そうですね。それでいきましょう」

 

 

残り2イニングとなり芳乃が6回と7回の

プランを口にすると藤井先生も芳乃の案に

賛同して首を縦に振った

 

 

「やった! やっと投げられる!」

 

 

「漸く出番ね!」

 

 

芳乃の言葉を聞いた詠深は漸く試合で

投げられることを喜ぶと真深も代打で

出られると聞いて笑みを浮かべる

 

 

「息吹ちゃん、行ける?」

 

 

「任せて! しっかり抑えて、詠深に繋ぐわ」

 

 

「うん……熊谷実業の勢いと

打者の迫力に飲まれないように気をつけて」

 

 

「分かったわ!」

 

 

5回表のイニングを投げ終えた際に息吹が

辛そうな表情をしていたように見えたので

念のために息吹の調子を確認すると息吹は

芳乃に笑顔で頷いて見せたのでそれを見た

芳乃は安心して息吹に6回表のマウンドを

託してマウンドに向かう息吹を見送った

 

 

ところが……

 

 

キィィィィィン

 

 

息吹は6回表の熊谷実業の攻撃の先頭の

9番の野口にヒットを打たれてしまうと

1番の平下にもヒットを許し更に2番の

上坂に対しては四球で出してしてしまい

ノーアウト満塁のピンチを迎えると続く

3番で今日は2安打の広沢を迎えると

 

 

「にゃっ!?」

 

 

「「「「「「「あっ!?」」」」」」」

 

 

「デッドボール」

 

 

広沢への初球の直球がすっぽぬけて

死球となってしまい押し出しにより

1点を返され"10-6"となる

 

 

「息吹ちゃん……(やっぱり球が走ってない)」

 

 

珠姫は5回表で感じた

息吹の投球に対する違和感を完全に確信した

 

 

「うおーい! 何してくれてんの!?」

 

 

「川口、コラ! かわいいな、オイッ!」

 

 

「"にゃっ!?"じゃねえだろ!

そんなに痛くないだろうが、広沢(笑)」

 

 

「うるせーー!!(笑)」

 

 

対して息吹が広沢に死球を出し熊谷実業の

応援席からは息吹に向かってヤジのようで

ヤジではない声を飛ばし押し出しとは言え

1点を返すと尚も満塁で追い上げムードで

死球を受けた広沢に観客がからかうような

ヤジを飛ばすと広沢も楽しそうに観客席に

笑顔を向けて楽しそうに言い返していたが

逆に新越谷にとってはそれどころではない

 

1点を返された上に尚もノーアウト満塁で

一発(本塁打)が出れば一気に同点にされる

大ピンチを迎えてしまったのだ

 

 

「タッ、タイム!」

 

 

そして熊谷実業に1点を返されるや否や

慌てて芳乃が審判に守備のタイムを取り

マウンドへ向かうと捕手の珠姫に加えて

内野陣(詠深、菫、稜、理沙)も駆け寄る

 

 

「息吹ちゃん、大丈夫?」

 

 

「ゴメン……私が警戒しすぎて

少し慎重なリードをし過ぎたのが悪かった」

 

 

芳乃と珠姫がそう言って息吹を労うと

息吹は息を整えながら首を横に振った

 

 

「珠姫だけの"せい"じゃないわ

私も5点もリードしているからって

少し油断しちゃってたんだと思うし」

 

 

そう言って息を整え終えた息吹は

一転して気を引き締めた表情に変わる

 

 

「どう? まだ、いける?」

 

 

「大丈夫よ! 投げさせて!」

 

 

息吹を心配する芳乃に息吹は

気を引き締めた表情のまま続投を志願する

 

 

「せめて任された仕事は果たしたいの

だから、この回だけは最後まで投げさせて!」

 

 

「わかった! 息吹ちゃんに、任せるよ!」

 

 

「私も、今度は、しっかりリードするから」

 

 

「「「「「 うん! 」」」」」

 

 

息吹の強い決意に芳乃と珠姫

そして集まった内野陣も笑顔で頷くと

芳乃はベンチに戻り内野陣も散っていく

 

 

「まだリードは4点あるから慌てず

冷静に1つずつアウトを取っていこうね」

 

 

「わかったわ」

 

 

再び珠姫が息吹を励まして息吹が頷くと

2人は念のためにサインの確認を始める

 

 

「投球フォームは

詠深ちゃんのコピーのままで大丈夫?」

 

 

そして5回表の時のように詠深の

コピー投球で行くのか確認をしてみると

 

 

「ちょっと考えたんだけど……

ここは中山さんのコピーで行こうかと思う」

 

 

「中山さんって……影森の?」

 

 

「うん」

 

 

息吹から中山の名前が出てきて

予想外だったのか珠姫は目を丸くする

 

 

「詠深のコピー投球に

慣れてきたところに詠深とはタイプの違う

フォームな上に例のクイックモーションで

投げたら相手を翻弄できるかもと思ったの」

 

 

「なるほど……可能性は高いけど

影森との試合から1度も投げてないけど?」

 

 

「大丈夫……ちゃんと体が覚えてるわ」

 

 

「わかった! じゃあ、それで行こう」

 

 

「ありがとう」

 

 

息吹と珠姫は影森のエースの中山の

コピー投球で行くことを確認すると

最後に球種のサインを確認を終えて

珠姫も自身のポジションに戻った

 

 

《4番、投手、久保田さん》

 

 

そして満塁で久保田に打順が廻ってきたが

この場面でも新越谷が投手を詠深に代えず

息吹を続投させたことに対して遂に憤りが

頂点に達してしまいそうになるが……

 

 

「ちっ!(冗談じゃない!

主力を温存させたままの相手に

このまま負けてたまるか! 藤原に

打たれた本塁打のミスを取り返す為にも

何より不甲斐ない投球をした私に力をくれた

チームの為にも、ここは死んでも打ってやるぞ)」

 

 

登録メンバーが10人ギリギリでありながら

主力を温存しているチームに負けられないと

憤りながらも先程の理沙の本塁打で仲間に

励まされた為か打席に立つと冷静になれた

 

 

一方……

 

 

「……(ピンチを招いた私を信じて

この回のマウンドを任せてくれた皆の為にも

このリードだけは絶対に私が守って見せるわ)」

 

 

息吹も自分を信じてくれた仲間の思いに

答えようと久保田にも臆していなかった

 

互いに仲間の思いに答えようという

思いと思いのぶつかり合いであった

 

 

そして……

 

 

「んっ!?」

 

 

息吹が投球モーションに入ると

先程の詠深のコピーとは違うフォームに

流石の久保田も思わず驚き目を見開いた

 

 

「ストライク!」

 

 

「「よしっ!」」

 

 

久保田の不意を突けた上に

ストライクも取れて息吹と珠姫は

上手く打ち取る手応えを掴んだと思った

 

 

その頃……

 

 

「見た、中山ちゃん?」

 

 

「うん……また、私の真似してるね」

 

 

埼玉県西部にある、とある一軒家で

新越谷と熊谷実業の試合を見ている

2人の少女の姿があった

 

その家は新越谷が初戦で対戦した

影森のエースの中山の自宅であり

中山と共にテレビを見ているのは

バッテリーを組む田西だった

 

 

「5回表とフォームのタイプが

全然違う上に私のクイックモーションで

行けば相手を翻弄できると思ったのかもね」

 

 

「また、真似されて不愉快?」

 

 

中山が息吹の投球を見て静かに呟くと

新越谷と試合をした時は中山は息吹が

コピー投球をしてきたことに対して

腹を立てたことがあったので中山が

また怒ってないか心配して尋ねると

 

 

「別に……あの時は腹が立ったけど

こうしてピンチの場合で使ってくれるのを

見てたら何故か嬉しい気もしなくもないし」

 

 

「そっか」

 

 

怒っていない様子の中山に田西は安堵した

 

 

しかし……

 

 

「でも、相手が悪かったね……」

 

 

「だね……残念だけど、熊谷実業には」

 

 

「うん……多分、通用しないだろうね」

 

 

熊谷実業に中山のコピー投球で挑む

息吹を見てオリジナルである中山と

田西の口から不穏な会話が出てきた

 

 

「何せ、熊谷実業は……久保田さんは……」

 

 

「去年の夏の大会でウチを

完膚なく打ちまくって"5回コールド"で

勝って私たちに試合時間を短縮させられる

プレイを目指す切っ掛けを作った人だから」

 

 

そう言いながら中山と田西は昨年の

夏の大会で熊谷実業と当たり"11-1"で

5回コールド敗けを喰らった試合を思い出した

なんと久保田は中山と対戦した経験があったのだ

 

 

すると……

 

 

グワキィィィィィィィン

 

 

《打ったーー!! 大きいーー!!》

 

 

テレビ画面から豪快な打撃音と共に実況の

興奮した声が響き画面には青ざめた様子の

息吹と珠姫の表情が映されていた

 

 

 

 

 

ーー 場面は試合会場に戻る ーー

 

 

 

 

 

「今の投球フォームは確か影森の投手の

フォームだったな……悪いが私は去年の大会で

あの投手から2本の本塁打を打っているんでな」

 

 

「…………」

 

 

自身の打った打球の行方を満足そうに

見送りながら説明する久保田の言葉に

珠姫は愕然とすることしかできなかった

 

 

そして……

 

 

《入ったーー!!

久保田の場外に消える同点、満塁本塁打!!》

 

 

久保田は中山のコピー投球による

クイックモーションに惑わされず

内角に食い込んできたシュートを

場外に飛ばしたのだ

 

 

《なんとこれで"10-10"!?

稀に見ぬ、凄まじい打撃戦となりました!?》

 

 

「うおぉぉぉぉっ!!」(*≧∇≦)

 

 

「満塁本塁打!?」(*≧∇≦)

 

 

「やったーー!!」(*≧∇≦)

 

 

「久保田さーん!」(*≧∇≦)

 

 

5点差からの劇的な同点満塁本塁打に

熊谷実業はベンチも観客席も興奮の渦に包まれ

逆に新越谷のメンバーはベンチも含めて全員が

呆然とするか厳しい表情になり静まり返っていた

 

 

「さあ! このまま一気に逆転だ!」

 

 

「「「「「「うおぉぉぉぉっ!!」」」」」」

 

 

そしてダイヤモンドを廻りホームを踏んで

先にホームを踏んだ仲間とベンチに戻った

久保田がそう言って仲間に向けて激を飛ばすと

熊谷実業のベンチの熱が急上昇したのであった

 

 




実は原作漫画では息吹って
まだ本塁打を打たれてないんですよね……凄い!

まあ練習試合や新人戦の翔栄との試合では
打たれてる可能性はありますが少なくとも
自分は打たれてないと思います

それから今回は影森の
中山さんと田西さんに再び登場して頂きました

コミック3巻の中山さんたちの回想シーンに
影森と熊谷実業が対戦した後の様子が書いて
あるのですが覚えていらっしゃるでしょうか

今回はあの場面を引用した次第です

多分ですが、熊谷実業との試合の話は
次で終了する予定なので宜しくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。