詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

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大変、お待たせしました
熊谷実業との試合が漸く書き終わりました

リアルで忙しくて書く時間が
取れなかったことに加えて書きたいことが
上手く文章にできず苦戦してしまい更新が
遅れてしまったことをお詫び申し上げます

なんとか仕上げたので
少しでも楽しんでいただけると幸いです

それでは、熊谷実業との
試合の決着を、ご覧くださいませ!


第43話 それぞれの想い

 

息吹と交代で左翼手の守備に入った真深

それと同時に詠深もマウンドに上がると

詠深はマウンド上で投球練習を開始した

 

 

その頃……

 

 

【梁幽館高校・野球部の寮】

 

 

梁幽館の野球部の寮では3年生の

部員たちがテレビで試合を観戦していた

 

 

「ようやく、あの2人を出してきたわね」

 

 

「だね……スタメンを見た時は

正直言って新越谷は正気かと思ったけど

藤原の本塁打が出て5点差になった時は

2人を出さないで勝つのかと思ったけど」

 

 

「流石に、このまま終わるような

久保田じゃなかったね……意地を見せたね」

 

 

高代、白井、太田の3人が

テレビに目を向けながら感想を口にしていた

 

 

「これ……どっちが勝つと思う?」

 

 

「私としては新越谷に勝ってほしいかな?」

 

 

「だね……いつもなら奈緒のライバルの

久保田を応援してたと思うんだけど私たちに

勝った新越谷にこんなところ(ベスト16)で

負けてほしくないというのが本音なんだよね」

 

 

「あっ、私も……」

 

 

梁幽館の部員の殆どの部員が

新越谷を応援してくれていたようだが

 

 

「けど今の久保田の満塁本塁打で

同点になった直後にノーアウト一塁・二塁の

ピンチで完全に熊谷実業に流れが行ってるね」

 

 

「最悪このまま相手の勢いに

飲み込まれちゃう可能性もなくはないよね?」

 

 

やはり満塁本塁打で同点になった上に

尚もノーアウト一塁・二塁のピンチで

熊谷実業ナインのモチベーションまで

上がり流れが向いているので新越谷が

不利な状況だと見ていると

 

 

「やはり武田と上杉、次第だろうな?」

 

 

「同感……」

 

 

「奈緒? 秋?」

 

 

後ろから中田が声を発したので

高代たちが一斉に中田に目を向ける

そして中田の横には陽秋月の姿もあった

 

 

「この回の熊谷実業の攻撃が終われば

その裏の新越谷の攻撃は川口息吹と交代で

入った上杉からの打順だ……もしも武田が

ピンチを無失点で切り抜けたとして直後に

上杉がチャンスを作るか、それ以上の結果を

出せば再び新越谷に流れが向くかもしれない」

 

 

そう言いながら中田と横にいる陽秋月は

この後の試合の展開に期待を寄せながら

テレビ画面に目を向けていた

 

 

「確かに……」

 

 

「けど、いくら上杉と武田でも

この雰囲気と流れの中だと厳しいんじゃない?」

 

 

「なんだかんだで2人とも、まだ1年生だからね」

 

 

「上杉はアメリカで経験積んでて

多少は大丈夫かもしれないけど中学校時代は

実績の少なかった武田には少しキツいかもよ」

 

 

3年生である自分たちと比べて1年生の

真深と詠深には荷が重いと思ったことと

詠深が中学時代は公式戦で未勝利なのを

報道や新聞の記事を見て知っていたので

真深よりピンチの場面の経験が乏しいと

危惧して投球練習をしている詠深の姿を

テレビ画面越しに見ていた

 

 

「まあ……その経緯も含めて

2人の真のメンタルの強さが分かるだろう」

 

 

「見物……」

 

 

そう言って中田と陽秋月も

どのような結果になるだろうかと

期待しながら再びテレビ画面に目を向けた

 

 

《7番、右翼手、早川さん》

 

 

「オッシャーー! 来い!」

 

 

中田たちが会話をしている内に

詠深の投球練習が終わっていたらしく

試合が再開され熊谷実業は7番打者の

早川が気合い十分に打席に入ってきた

 

 

「投げるぞ~~♪♪♪」

 

 

対する詠深は相手の打者や回りの雰囲気など

どこ吹く風かのごとく楽しそうな様子だった

 

 

そして……

 

 

バンッ

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

「なっ!?」

 

 

詠深は初球に内角に強直球を投じると

今日の試合に登板した理沙や息吹より

球威のある直球に早川が驚いてる隙に

"あの球"を2球続けて空振りをさせて

いきなり三球三振に打ち取ってしまい

早くもワンアウトを奪ってしまうと

 

 

ガキィッ

 

 

「クッ……("ツーシーム"か!?)」

 

 

続く8番の田中には前の打者の早川に

2球続けて"あの球"を投げて三振を

奪ったので"あの球"を意識していると

予測し初球に"ツーシーム"を投じると

上手く打ち上げさせて"捕手フライ"に

打ち取りなんと4球で"ツーアウト"を

奪ってしまった

 

 

「詠深ちゃん、凄い……

(梁幽館の時より更に球が良くなってる!)」

 

 

そんな詠深の投球を珠姫は

内心、かなり興奮しながら捕っていた

 

 

ところが……

 

 

《9番、捕手、野口さん》

 

 

ここで打席には長年、久保田とバッテリーを

組んできた、捕手の野口に廻ってきたのだが

この野口が少し厄介だった

 

 

キィィィィィィン

 

 

「「!?」」

 

 

「ファールボール」

 

 

珠姫は初球に"あの球"を要求し詠深も

珠姫のサインに頷き"あの球"を投じたが

野口は"あの球"を当ててきたので危うく

ヒットになるかと思われたが幸い打球は

三塁線を切れてファールとなったことで

安堵したと同時に肝を冷やしてしまった

 

 

("あの球"に完璧に対応してきた……!?)

 

 

思わず珠姫は動揺した表情で野口に目を向ける

 

 

(そういえば、この人……

今日は3打数3安打で2回表にはタイムリーも

打たれて思えばこの回の熊谷実業の先頭打者で

打席が廻った時にもヒットを打たれて結果的に

久保田さんの満塁本塁打に繋がったんだっけ?)

 

 

珠姫の言う通りで今日の野口は2回表に

熊谷実業のチーム3点目となるタイムリーを

打つなど今日の試合は当たっていたのである

 

 

(理沙先輩の速球や詠深ちゃんの投球を

コピーした息吹ちゃんの投球にも対応して

直球だけでなく変化球が苦手な熊谷実業の

打線の中で変化球への苦手意識もないなら

このチームで1番厄介な打者かもしれない)

 

 

久保田の打撃力を筆頭に大振りによる

チーム全体による長打力が売りの熊谷実業の

打線の中で野口はミート力も持っていたようだ

 

 

(詠深ちゃんの"あの球"に初見で

対応してくるなんて梁幽館で9番を打っていた

西浦さんの右打者バージョンみたいな感じだな)

 

 

野口の打撃に珠姫は梁幽館との試合で

9番打者ながら詠深の投球の"あの球"や

強直球に初見で対応してきて中田よりも

苦戦させられた西浦のことを思いだした

 

 

(そうと分かれば

他の打者より集中してリードないと……

次は"ツーシーム"を内角ギリギリに投げてきて)

 

 

(オッケー!)

 

 

珠姫のサインに詠深も

気を引き締めながらも笑顔で頷くと珠姫の

構えたミットに正確にツーシームを投じる

 

 

「ボール!」

 

 

少し外れてボールとなったが

ここで珠姫は思いきったリードをした

 

 

(今と同じコースに強直球!)

 

 

(うん!)

 

 

珠姫は敢えてツーシームを投げたのと

同じコースに今度は強直球を要求した

 

 

「!?(速い!? だが……)」

 

 

野口は先程のツーシームと同じコースに

直球が来たが明らかに球威のある直球に

驚き目を見開いたものの……

 

 

(県内最速の直球を

長年、捕ってきた私を舐めるなよ!!)

 

 

久保田とバッテリーを組んできたことから

強直球に怯まなかったらしく直ぐに体勢を

整えてバットを振り抜いた

 

 

ギィィィィィィン

 

 

野口は内角への強直球に対して

上手く腕を畳んでバットの芯で捉えた

 

 

しかし……

 

 

「クッ……(詰まらされた!?)」

 

 

野口の打球は芯で捉えたが詰まらされて

思いのほか伸びず三塁側に舞い上がると

三塁手の理沙が下がりながら落ちてきた

野口の打球をキャッチして三塁フライで

厄介な打者だった野口を打ち取った

 

 

(今の状態の詠深ちゃんの強直球なら

仮に当てられたとしても打ち取れるって

信じてたし同じコースに投げさせる事で

意表を突けると思ってリードしたんだよ)

 

 

どうやら珠姫は詠深の状態が良く

梁幽館との試合で西浦に打たれたような

不運なヒットにならないと信じていたらしい

 

こうして詠深の好投と珠姫の好リードにより

新越谷は"ノーアウト一塁・二塁"のピンチを

脱し相手に逆転を許すことはなかった

 

 

「ナイピ、詠深!」

 

 

「ナイスリリーフ!」

 

 

「流石、ウチのエース!」

 

 

そんな詠深にスリーアウトとなり

6回表の守備を終えベンチに戻ってきた

仲間たちが次々と詠深の好投を祝福する

 

 

「詠深ちゃん、ありがとう」

 

 

「助かったわ」

 

 

「エヘヘ……なんか照れちゃうな」(*´∀`*)

 

 

そして芳乃と息吹からは感謝の言葉を

贈られて照れながらも嬉しそうな表情を見せる

 

 

「よし! 相手に勢いはついたが

詠深のお陰で試合の流れまでは渡さなかった。

次の6回裏の攻撃で再び勝ち越して引き離すぞ!」

 

 

「「「「「「「「 はい!! 」」」」」」」」

 

 

久保田の満塁本塁打によって暗くなった新越谷の

雰囲気は詠深の好投でピンチを脱したことに加え

主将の怜がメンバーを鼓舞したことによって再び

活気づき明るくなりはじめた

 

 

「しかも、この回の攻撃は

真深ちゃんからの打順だから行けるよ!」

 

 

「頼んだよ、真深ちゃん!」

 

 

「えぇ! 行ってくるわ!」

 

 

芳乃と藤井先生の作戦に理解を示しながらも

久保田との対戦を楽しみにしていた真深は

熊谷実業との試合は途中出場となったので

漸く久保田と対戦できる機会が訪れたので

気合い十分にバットを手に取りヘルメットを

かぶって打席に向かう準備をする真深の姿に

真深の打撃に対する期待もあってか新越谷の

ベンチの暗い雰囲気は完全に消え失せていた

 

 

そして……

 

 

《1番、左翼手、上杉さん》

 

 

そして場内のアナウンスで真深の名前が

コールされると観客席から大歓声が響き始めた

 

 

「久保田と上杉の対決だ!」

 

 

「これが見たかったのよ!」

 

 

今日1番の楽しみであった真深と久保田の勝負が

遂に見られるとあってかなりの盛り上りであった

 

 

「真深ちゃん、やっちゃえーー!!」

 

 

「頼むぞ、スラッガー!!」

 

 

そして打席に向かおうとする真深に稜と詠深が

エールを送ると他の仲間も続けて真深に向けて

声をかけて明るく送り出してくれた

 

 

「お願いします」

 

 

真深は打席に立つ前に主審と相手捕手の

野口にお辞儀をすると主審も真深に対し

首を縦に振って頷いてくれた

 

 

「待ってたぞ……この瞬間を!!」

 

 

そして真深が打席に立つと久保田は

挑戦的な笑みを浮かべると今までで

1番と言えるオーラを発してくると

対峙する真深の威圧感もあり球場は

異様な雰囲気に包まれはじめた

 

 

「プレイ!」

 

 

そして主審が6回裏の開始をコールすると

 

 

(藤原に本塁打を打たれたが

結果的に力を温存した甲斐があった……

中田の替わりに貴様にぶつけるつもりでいた

私の全力投球……打てるものなら打ってみせろ!)

 

 

久保田は間髪いれずに振りかぶると

5回裏に理沙に投げるか迷っていた

全力投球を初球から投じてきた

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォン

 

 

「!?」

 

 

そのあまりの早さに新越谷のベンチは勿論

チームメイトの熊谷実業のメンバーに加え

観客席からも"どよめき"が起こった

 

 

「はっ、速い!?」

 

 

「今までの直球とは

比べ物にならないくらい早かったわよ!?」

 

 

「あれこそが久保田さんが

ライバルと認めた選手か強大な相手の時に

ここぞの場面で使う切り札で久保田さんが

県内最速投手と誰もが認めさせた直球だよ」

 

 

「まだ奥の手を残していたのか……」

 

 

遂に披露された久保田の本気の直球に

珠姫と息吹が目を見開いて驚いている横で

芳乃は説明をしながらも興奮のあまり髪を

ピョコピョコさせ怜も思わず驚愕していた

 

 

「大丈夫! 真深ちゃんなら打てるよ!」

 

 

そんな中で詠深は相変わらず誰よりも

真深の打撃を信頼しながら久保田との

勝負を見届けていた

 

 

更に……

 

 

「始まった……」

 

 

「ああ……どんな結果になるか楽しみだ」

 

 

テレビで新越谷と熊谷実業の試合を

観戦していた陽秋月と中田の2人も

真深と久保田の対決を見届けている

 

 

「けど、流石に、あの久保田の

本気の豪速球は簡単には長打にできないでしょ?」

 

 

「バットに当たっても単打が精一杯かもね?」

 

 

「けど、奈緒の速球を場外に飛ばしたし……」

 

 

「結末が読めないね……」

 

 

他の梁幽館の面々も真深と久保田の勝負には

ワクワクするようで目が釘付けになっていた

 

 

そして場面は球場に戻り……

 

 

ギィィィィィィン!

 

 

ドンッ!

 

 

久保田から投げられた2球目の豪速球に対し

真深は臆せずにバットを振り抜くと打球は

バッターボックス後方のフェンスに激突し

球場に球がフェンスに激突した音が響くと

観客席の全体から"どよめき"が聞こえてきた

 

 

「後ろにカットした!」

 

 

「タイミングは合ってたんだ!」

 

 

ファールにはなったが打球が真後ろに

飛んだのを見て詠深と芳乃が笑みを見せる

 

 

…………が!!

 

 

「けど、直球に強い真深ちゃんが打ち損じた」

 

 

「確かに本気の真深ちゃんが

直球を打ち損じるのを始めてみたかも?」

 

 

「それだけ久保田の

本気の直球の球威が桁違いということか……」

 

 

珠姫の指摘に理沙と怜が共感すると

他のメンバーも息を飲むように真深の姿を見ると

真深は自分の右手の手の平を静かに見つめていた

今の直球をカットした際に手に痺れが来たらしい

 

 

「真深ちゃん、頑張れ……」

 

 

「お願い、真深……」

 

 

そんな真深の姿を見て詠深と

久保田に同点満塁本塁打を打たれた息吹は

両手を握りしめて祈るように真深を応援していた

 

逆に久保田は真深が自身の直球を打ち損じたので

自身の投げた直球に満足したのか真深を打ち取る

手応えを感じ笑みを浮かべていた

 

 

「……(この球は沢山は放れない)」

 

 

しかし久保田の全力の豪速球は

久保田のスタミナを多く消費する球でもあった

 

 

「よし!(最後はド真ん中への速球で決める!

中途半端は癪だから、前に飛ばすか空振りしろ!)」

 

 

2ストライクとカウントで真深を追い詰めると

自身のスタミナも考慮した久保田は次の一球に

全てを託して敢えて"ド真ん中"への真っ向勝負

つまり三振か本塁打という投手と打者の勝負で

白黒はっきりする結果で対戦が決まった時から

熱望した真深との勝負に決着をつけようとした

 

 

「ウオオオオオオッ!!」

 

 

そして気合いの声と共に久保田は真深に

渾身の豪速球を"ド真ん中"に目掛けて投じた

 

 

しかし……

 

 

アメリカで久保田より早い豪速球を投げる投手と

何度も対戦し経験を積んで来ていた上に選球眼の

良さもある真深には予め直球1本で来る投手だと

分かっていれば前の2球で久保田の直球に対して

適応することは容易であった

 

 

 

 

 

 

 

カキィィィィィィィィィン

 

 

 

 

 

 

 

そして久保田の豪速球のコースを把握した真深は

迷いのない豪快なスイングでバットを振り抜くと

ボールは破裂するのではないかと思うほど真深の

バットの真芯に張り付いたように深く食い込むと

次の瞬間には清々しいバットの快音が響き渡ると

真深の打球がレフトに高々と舞い上がっていった

 

その瞬間に真深はスイングをした姿勢のままで

そして久保田は振り返り真深の打球を苦笑いを

浮かべながらマウンドに片膝をついて見送った

 

 

『心地よい快音と共に

打球がレフトに舞って伸びていくーーーー!!』

 

 

それに興奮した実況のコメントと同時に観客の

歓声と"どよめき"が球場の彼方此方から起こり

久保田が息吹から打った満塁本塁打に負けない

勢いで真深の打球は場外へと消えていった

 

 

『入りましたーー!!

先程の久保田の満塁本塁打に続き

またも場外に消える勝ち越しソロ本塁打ーー!!』

 

 

真深が打った瞬間に新越谷のベンチの仲間たちと

真深を応援していた観客は本塁打を確信したらしく

打球が場外に消えるのを見送ると仲間たちと観客は

盛り上がりお祭り騒ぎの一方で熊谷実業のベンチと

応援席では久保田の本気の豪速球が場外に飛ばされ

衝撃のあまりに呆然としてしまい久保田の本塁打で

同点に追い付いた歓喜がまるで無かったかのように

吹き飛ばされてしまった静けさであった

 

 

更に……

 

 

「マジか……」

 

 

「圧倒的ね……」

 

 

「規格外だわ……」

 

 

「こんな娘がいるチームに

負けて敗退したのなら悔いはないかも?」

 

 

寮のテレビで真深と久保田の勝負を見届けていた

梁幽館の面々は呆れて苦笑いを浮かべるている者か

または唖然とした表情をした者に分かれていた中で

 

 

「フッ、流石だな上杉……

久保田……お前の自慢の直球も餌食になったな」

 

 

「楽しそうだね、奈緒」

 

 

「まあな」

 

 

中田だけは画面に映る真深と久保田を見て

笑みを浮かべていて中田の横にいた陽秋月が

そんな親友の中田の姿を微笑ましそうに見ていた

 

その間に真深はダイヤモンドを一週してホームを

踏んだことで新越谷がスコアを"11-10"とし

見事に勝ち越しに成功した

 

 

「真深ちゃん、ナイバッチ!」

 

 

「真深なら、やってくれると信じてたぜ!」

 

 

ホームを踏んで次の打者の菫と

ハイタッチをしてベンチに戻ってきた真深を

詠深と稜の2人が真っ先に出迎えると後から

他の仲間が次々と笑顔で真深を出迎えてくる

 

 

「ありがとう、真深ちゃん!」

 

 

「助かったわ!」

 

 

「フフッ……2人が元気になって良かったわ」

 

 

特に久保田に同点満塁本塁打を打たれた息吹と

満塁本塁打を打たれ落ち込んでしまった息吹を

心配していた芳乃は息吹に笑顔を戻してくれた

真深の勝ち越しの本塁打を喜んでくれていた

 

そして真深が本塁打を打てば勢いを増すのが

今の新越谷の打線の強さであり怖さであった

 

 

《2番、二塁手、藤田さん》

 

 

真深とハイタッチした菫が

この試合で4回目となる打席に立つと

 

 

「……(1点じゃ足りない!

できる限り長打を打ってチャンスを作るわ!)」

 

 

今回の夏大会の熊谷実業の打線の打撃力の怖さを

5点差を追い付かれたことで更に思い知った菫が

この回の攻撃で取れるだけ追加点を取ろうと考え

自分もヒットを打ち出塁しようと真深の本塁打で

モチベーションが上がってたこともあり気合いを

入れて打席に立つ

 

因みに今日の菫は1回表と2回表に久保田から

ヒットを打っていて2回表の新越谷の4点目は

菫のタイムリーによる得点だったのである

 

そんな菫に対し久保田も慎重に投げようとするが

真深との勝負で本気の豪速球を投げてスタミナを

消費したので仕方なく再び普段の速球を投じるが

 

 

 

キィィィィィィィン

 

 

 

ネクストサークルで久保田の本気の豪速球を

比較的間近で見たことでこの打席での普段の

速球が今の菫の目には今日これまでの試合で

投げてきた直球と比べ球威が低く見えたので

タイミングよく反応してバットを振り抜くと

完璧にミートさせた打球は左中間を抜けると

フェンスに直撃し菫は悠々と二塁に到達する

二塁打を放ち"ノーアウト二塁"とした

 

 

「ナイバッチ、菫ちゃん!」

 

 

「今日、3安打じゃねえか!」

 

 

菫の今日の試合3本目のヒットとなる二塁打に

詠深と稜が菫に声援を送ると真深の勝ち越しの

本塁打の余韻も残っていたこともあり新越谷の

ベンチは更に押せ押せムードになる

 

 

《3番、捕手、山崎さん》

 

 

そしてチャンスに3番の珠姫が打席に立つ

 

 

「よしっ!(私は無理しないで

確実にランナーを進める打撃を心掛けよう)」

 

 

ノーアウトなこともあり珠姫は

後続のクリーンナップに繋ぐ打撃を意識すると

珠姫も久保田の直球を弾くと惜しくも二塁手の

前に飛んで"二塁ゴロ"で凡退してワンアウトを

取られるがその隙に菫が三塁に進塁したことで

ワンアウト三塁でクリーンナップに打順が廻る

 

 

《4番、一塁手、中村さん》

 

 

そして4番の希に4回目の打席が廻る

 

 

「……(さっきは芯に当てたのに

詰まらされたけん……今度はしっかり捉えるよ)」

 

 

希は5回表の3打席で久保田の直球を結果的に

二塁打にはしたが芯で捉えながら詰まらされて

納得のいく打撃ができなかったのでリベンジを

兼ねての打席のようだ

 

そして先程の菫の打席の時と同じく真深に

本気の直球を投げた影響から今日の試合で

久保田が希に対し投げてきた直球の中では

球威の低い直球がストライクゾーンの少し

低めのコースに投じられると希は力まずに

バットを振り抜いた

 

 

キィィィィィィィン

 

 

ボールを捉えた金属バットの快音が響き

打球は熊谷実業の二塁手の頭上を抜けて

低い放物線を描きながら右中間に向かい

フェンスに直撃すると希の打球の行方を

確認した菫が悠々と三塁から生還すると

打った希も二塁まで進み二塁打を記録し

追加点でスコアが"12-10"となって

尚も"ワンアウト二塁"とチャンスが続く

 

 

「ナイバッチ、希ちゃん!」

 

 

「これで2点差!」

 

 

希のタイムリーによる追加点により

2点差となり詠深と芳乃がベンチで

嬉しそうに盛り上がっている

 

 

「……(スッキリしたけん)」

 

 

久保田の球威が落ちていたとは言えど

納得のいく打撃ができたことに加えて

ベンチで喜んでくれている芳乃の姿に

希も素直に嬉しそうに笑みを見せる

 

 

《5番、中堅手、岡田さん》

 

 

"ツーアウト二塁"で打席には

得点圏打率では真深にも匹敵する

新越谷の頼れる主将の怜に打席が廻る

 

 

「……(せめて、もう1点か2点は欲しい

さっきの打席では希を三塁に進めることを

意識して詰まらされないことを意識したが

久保田の球威が落ちた今なら長打を打って

私が希をホームに還してチャンスを繋げる)」

 

 

怜も菫と同じく1点でも多く取ろうと考え

久保田の球筋を見て長打が狙えると判断し

5回表の3打席目の時とは打って変わって

長打を打って二塁走者の希をホームに還し

自分も得点圏へ出塁することでチャンスで

次に繋ごうと気合いを入れて打席に立つと

 

 

キィィィィィィィィィン

 

 

怜は内角への直球を捉えると

打球は左中間を破りフェンスに直撃する

 

 

「やった! 二塁打!」

 

 

「更に1点追加!」

 

 

「流石、主将!」

 

 

それによって二塁から希が

ホームに生還して更に1点が入り

スコアが"13-10"と3点差となり

打った怜も二塁に進み希に続き二塁打とし

引き続き"ワンアウト二塁"の状況で新越谷の

チャンスは尚も継続すると次に打席に立つのは

 

 

《6番、三塁手、藤原さん》

 

 

1回裏ではチーム3点目のタイムリーを

そして先程の5回裏の打席で久保田から

3ラン本塁打など打つなど今日の試合は

大活躍の理沙だった

 

 

「藤原……」

 

 

試合開始直後の1回表で久保田も理沙から

先制の2ラン本塁打を打っていることもあり

久保田は理沙をかなり強く意識している様子だ

 

 

「……(さっきは上杉との勝負を

意識しすぎて過去最低の球を投げてしまった)」

 

 

どうやら久保田は理沙に本塁打を打たれた自身の

失投を強く悔やんでいたが久保田が先程の失投を

悔やんでいる1番の理由は本塁打を打たれた為に

失点したことではなかった

 

 

(私の理想とする投手像は目の前の打者に

全身全霊を込めたベストな球を投げる投手だ

しかしさっきの私は打席に立つ藤原ではなく

ベンチにいる上杉の事を考えてしまっていた)

 

 

久保田は目の前の相手との真っ向勝負を

楽しみながら試合に挑むことを全うする

真深や詠深にも劣らぬ野球好きであった

 

しかし先程の理沙の打席では打席に立つ

理沙ではなく試合に出てもいない真深を

意識しすぎてしまったばかりに目の前の

理沙との勝負に全く集中していなかった

 

そんな理沙に対して久保田は今度は

真剣な表情で打席に立つ理沙を見据える

 

 

(あれは私の義に反する行為だった上に

何より藤原に対しても失礼な行為だった。

だから、さっきの非礼に対する詫びと償い

そして失投とはいえ私から本塁打を打った

藤原の実力に対する、敬意とリベンジとして

上杉に投げた全力投球を……お前にも投げる)

 

 

ズドォォォォォォォォォォォォン

 

 

「えっ……!?」

 

 

理沙への謝罪を心の中で発しながら

久保田は真深に投げたのと全く同じ

全力の豪速球を投じたのだ

 

 

「真深ちゃんに投げてきた全力投球!?」

 

 

「理沙先輩にも投げてきた!?」

 

 

まさかの本気の豪速球が投じられて

当の本人の理沙は眼を見開いて驚き

ベンチで見守りながら応援していた

仲間たちも驚愕する

 

 

「己の実力を越えて

あれだけの球を続けて投げられるだなんて」

 

 

「流石、久保田さん……

球速だけでなくスタミナも全国屈指ですね」

 

 

久保田の実力を越えた投球を前に

芳乃と藤井先生も驚愕で目を見張るものの

僅かに笑みを浮かべ興奮した様子も見せる

 

 

「ですが今の球は真深ちゃんに

少し投げただけで、その後の通常の直球の

球威が落ちていましたから、久保田さんの

スタミナを、かなり消費させている筈です

だから、真深ちゃんに投げていた時よりも

僅かながら球威が落ちてると思いますから

今の理沙先輩なら打てる可能性は高いです」

 

 

芳乃は真深に投げた本気の直球と

その後の本来の直球の球威を見て

久保田が本気の直球を投げた時の

弱点をしっかり見抜いていた

 

 

更に久保田の本気の直球の弱点に

気づいたメンバーがもう1人いた

 

 

「理沙……」

 

 

それは先程、久保田からヒットを

打って一塁に出塁していた主将の怜だった

 

 

「まだ、あんな力が残っていたのか……だが」

 

 

怜は二塁から理沙を応援しつつ

何やら久保田の隙を伺うような

様子を見せていたが理沙に対し

2球目を投じようとした瞬間

 

 

「隙だらけだ!」

 

 

怜は迷わず三塁に盗塁を仕掛けたのだ

 

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

 

これに相手は完全に意表を突かれて

味方も怜の盗塁に驚き眼を見開いた

 

そして捕手の野口は三塁に送球しようと

ボールを投げたが三塁手が送球を取った時には

怜の足は三塁に触れて見事に盗塁を成功させた

 

 

「ナイス、盗塁!」

 

 

チームの主将の好判断による

チャンス拡大に新越谷のベンチが更に賑わう

 

怜は久保田が本気の直球を投げる際は動作が

他の球を投げる時より少し長いことと相手の

打者に集中し過ぎていて走者に対する警戒が

疎かであることを真深の打席を見て気づいて

久保田が理沙に本気の直球を投げたと同時に

自分の走力なら三盗も狙えると理沙に対する

2球目で走ろうと決めていたのだ

 

結果的に久保田は理沙との勝負に集中し過ぎて

捕手の野口も久保田の本気の直球を取ることに

気を取られ過ぎるなどバッテリーは怜が盗塁を

仕掛けることを全く考えてなかったので盗塁に

瞬時に反応できず危なげない余裕のある盗塁を

決めることができたのだ

 

 

「フンッ! (好きにしろ!)」

 

 

しかし久保田に動揺した様子は全く見えず

怜の盗塁されたことを気にしていないほど

理沙との勝負に拘っていた

 

そしてカウントが"1ストライク1ボール"から

再び投じられた豪速球を理沙は辛くもバットに

当ててカットさせるものの……

 

 

「なんて球威……!?」

 

 

芳乃の予想とは裏腹に久保田のスタミナも

真深との勝負でかなり消耗した筈なのだが

久保田の本気の豪速球の球威は全くもって

落ちていなかったのだ

 

 

「これが"ベスト16"の世界……

(怜と出会って一緒に野球をしてなかったら

見られなかったし立てなかった世界で今私は

本気を出した県内最速投手と対戦している)」

 

 

理沙が中学3年生の時に偶然

ガールズでプレイする怜の姿を見たことが

切っ掛けで怜と知り合い親しくなり新越谷に

共に進学したものの上級生の暴行事件という

不祥事の被害者となってしまった為に野球が

できなくなってしまった上に理沙は不祥事の

被害者にも関わらず教師や他の生徒たちから

白い目で見られるという理不尽な思いをした

 

それでも怜と2人で野球部を守り続けると

誰も入部しないと思われた翌年の野球部に

まさかの投打で優れた2人の新入生を初め

複数の新入生が加入して部員数が夏大会に

出場できる人数に達して初めての公式戦に

出場すると大事な初戦の影森との試合では

先発投手を任され次の試合では優勝候補の

筆頭の1つであった梁幽館を真深と詠深の

活躍で破る快挙を成し遂げると次の試合の

馬宮との試合では初めての本塁打を打って

勝利に貢献することができた

 

実のところ怜も理沙も部員が揃い夏大会に

出場することは疎かチームが勝ち進めると

予想すらしていなかった

 

しかしチームは良い意味で予想を裏切る

快進撃を続け"ベスト16"まで勝ち進み

対戦する機会なんて夢にも思わなかった

県内最速投手という最強クラスの投手と

対戦することができた嬉しさもあってか

"2ストライク1ボール"とされ久保田に

追い込まれた理沙だったが不意に彼女の

心の中に今までに感じたことのなかった

高揚感のような感情が沸き上がってきた

 

 

「……(そんな凄い投手が

私との勝負に拘って全力を出してくれて

あの真深ちゃんと同じ扱いをしてくれた

凄く嬉しい……だからこそ負けたくない)」

 

 

久保田が本気の豪速球を投げるのは

久保田がライバルか若しくは強力な

相手と認めた打者に対してのみだと

理沙は先程の真深と久保田の勝負の

際にベンチで芳乃が言っていたのを

聞いていたので久保田が自分相手に

真深との勝負で投げた本気の直球を

投げてきてくれたので自分のことを

多少なりとも認めてくれた気がして

嬉しさが込み上げてきていたようだ

 

そして久保田との勝負に勝つことで

更に自信を付けたいと思ったことで

2ストライクと追い込まれていたが

気持ちは追い込まれているどころか

逆に高まっていたのだ

 

 

一方……

 

 

「くっ! (流石に投げすぎた

体力的にも、これ以上は無理かもな)」

 

 

既に6回裏まで1人で投げ続けて

疲労は貯まっていた上に真深との勝負で

本気の豪速球を投じた後なので久保田の

スタミナも流石に限界が近くなっていた

 

 

「……(だが悔いは残したくない

追い込んだことだし、さっきの上杉との

勝負の時と同じ最後は"ド真ん中"勝負だ!)」

 

 

理沙を追い込んだ久保田は

先程の真深との勝負で2ストライクに

追い込んだ後に"ド真ん中に"豪速球を投げ

決着を付けようとした時のように理沙にも

"ド真ん中に"投げて決着を付けようと考え

今の持てる力を振り絞って豪速球を投げた

 

 

「前に飛ばすか三振しろ!!」

 

 

久保田の渾身の一球に対して

 

 

「勝ちたい!!」

 

 

理沙も負けじと渾身の力でバットを振った

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィィン

 

 

 

 

 

 

 

金属バットの大きく鈍い音が響くと

理沙の打球はゆっくりとした速度で

放物線を描きながら右中間に向かい

延びていくと……

 

 

ガシャーーーン

 

 

理沙の打球はあと少しでスタンドに

入っていたかもと思わせるくらいの

位置に飛んでフェンスに直撃すると

三塁走者の怜がホームを踏み理沙も

二塁まで進み二塁打を記録した

 

 

(痛ったーー!? 真深ちゃんは

こんな豪速球を場外まで飛ばしたの!?)

 

 

それでも打った瞬間に理沙の手には

かなりの衝撃があったらしく両手が

今までに経験したことのない激しい

痺れに襲われていた

 

 

しかし……

 

 

「理沙!」

 

 

「???」

 

 

新越谷のベンチから怜の声が聞こえ

眼を向けると怜と後輩たちが理沙に

ナイバッチと声を送ってくれる姿に

嬉しさもあり満面の笑みで答えると

スコアも"14-10"となり点差も

4点差に広がった

 

 

すると……

 

 

《熊谷実業……

シフトの交代をお知らせします》

 

 

場内アナウンスが響いた瞬間に

マウンドに熊谷実業の内野陣が集まり

熊谷実業の監督が出て来ると久保田は

一塁手の広沢にボールを渡して自身は

そのまま一塁に向かって歩いて行った

 

 

《投手の久保田さんが一塁手に

一塁手の広沢さんが投手……以上に変わります》

 

 

久保田のスタミナの限界を悟ったのか

滅多なことで久保田を降板させない熊谷実業の

監督が久保田を下げる苦渋の決断を下したのだ

 

 

「久保田さんが……」

 

 

「初めてノックアウトされた……」

 

 

久保田の降板に熊谷実業の応援席からも

動揺と戸惑いのような声が聞こえてきた

 

どうやら久保田は今まで相手打線に攻略され

マウンドを下ろされたことがなかったようだ

 

それだけ久保田はチームメイトにも監督にも

そして観客からも絶大な信頼を得ていたのだ

 

因みに久保田と交代で一塁手からマウンドに

上がった広沢は左利きながら左投げ右打ちと

変わった選手だった(学年は2年生)

 

というのも打者というものは左打者の方が

右打者より一塁に近いので右利きの選手が

左打ちを極める例は多いが左利きの選手が

敢えて右打ちをするのは希少なのである

 

しかしマウンドを任されるだけのことはあり

久保田とは一転して直球だけでなく変化球も

交えた投球をすると今日の試合では久保田が

ほぼ直球一本で勝負して来ていたこともあり

対応できず7番の稜が内野ゴロで凡退すると

続く8番の白菊も変化球を引っ掻けさせられ

内野ゴロで凡退してスリーアウトとなったが

息吹からマウンドを引き継いだ詠深の好投と

その直後に出た真深の勝ち越しソロ本塁打で

再び新越谷の打線が活気づき"14-10"と

再び点差を広げて7回表を迎えた

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

【梁幽館高校・野球部の寮】

 

 

 

「奈緒の言った通りになったね……

武田の好リリーフでピンチを凌いだ直後に

上杉が打ったことで新越谷は完全に流れを

取り戻して息を吹き替えしたし活気づいた」

 

 

「試合した時から思ってたけど2人とも

1年生と思えないくらいメンタル強いわね」

 

 

「途中まで久保田を相手に

新越谷の他の選手たちも実力を見せたけど

やっぱり"エース"と"スラッガー"が試合に

出て活躍すればチームが勢いに乗るんだね」

 

 

「ウチの後輩たちは同じ世代に

武田と上杉に加えて咲桜の二宮とウィラードの

バッテリーを相手にしなくちゃいけないのよね」

 

 

「美園学院の園川と福澤の2人を忘れてるわよ」

 

 

「だね……それに加えて椿峰にも去年の

新人戦で園川クラスの投手が出て来たし今年の

新入部員に三つ子のヤバい奴らが入ったみたい

その前テレビで椿峰の試合見たけど足の早さが

半端じゃなくて守備と走塁が異常な奴らだった」

 

 

「ちょっと同情するわね……」

 

 

野球部の寮で新越谷と熊谷実業の試合を

テレビ観戦していた梁幽館の部員たちは

真深と詠深の2人次第だと言った中田の

言うとおりの展開になったことを真剣な

表情になって次々と感想を口にしながら

後輩たちの驚異になる可能性の高い他の

強豪校の選手の会話を口にしていた

 

 

「いや……心配しなくても大丈夫さ」

 

 

そんな会話を聞いていた中田が静かに

そして後輩たちを信頼しているように

微笑んだ表情で会話に入ってくる

 

 

「ウチの後輩たちも実力もメンタルも

他校のチームに劣ってはいないし新越谷に

破れてから以前にも増して練習に気合いが

入っているし何より優秀な打者が復帰して

主将としてチームを引っ張ってくれている」

 

 

「んっ……きっと私たちが

叶えられなかった夢を叶えてくれると思う」

 

 

「ああ……それにウチの後輩たちは

相手が強ければ強いほど燃えるタイプだから

いざ対戦することになってもきっと大丈夫だ」

 

 

中田奈緒の言葉に陽秋月も共感しながら

後輩たちへの思いと信頼を口にしながら

2人は寮の窓の外に見えるグラウンドに

眼を向け元気に練習している後輩たちの

姿を眺めていた

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

そして試合は新越谷が4点のリードを得て

遂に最後の回となった7回表の熊谷実業の

攻撃を迎えていた

 

詠深は珠姫の好リードもあり四球を1つ出し

1人のランナーを出したものの好投を見せて

ツーアウトにまで漕ぎ着けていた

 

そして"ツーアウト走塁一塁"で

あとアウト1つで勝利の場面で迎える打者は

 

 

《4番、一塁手、久保田さん》

 

 

久保田は気合いと共に期待と

嬉しさを感じさせる笑みを浮かべて

打席に立つとマウンド上の詠深と対峙する

 

 

「漸く勝負できたな」

 

 

投手の時は真深と……

そして打者の時は詠深と勝負することを

楽しみにしていた久保田は真深に続いて

詠深と対戦できる喜びに満ち溢れていた

 

既にツーアウトで自身が打ち取られれば

敗退が決まるという場面であったのだが

 

 

「こんな大きな場面で

やりあえるとは運が向いてきたようだ」

 

 

そんな状況に久保田の方も

モチベーションを高めている様子である

 

 

「中田さんに雰囲気が似てるな

あの時みたいに武者震いしてきたかも」

 

 

詠深も詠深で久保田が

エースで4番ということあってか中田と

対戦をした時のことを思い出したらしく

久保田との対戦にワクワクし始めている

 

そんな興奮状態の詠深と久保田に対して

捕手は最後まで冷静にリードすることを

考えながらも久保田を打ち取って決着を

着けたいと考えて気合いを入れて詠深を

リードをしようとしていた

 

 

(試合を見て分かってると思うけど

久保田さんは直球に強いから変化球を

中心で行くよ……まずは"ツーシーム"で)

 

 

(うん!)

 

 

珠姫は久保田が直球に強いことを警戒して

いきなり直球を投げない方が良いと判断し

打ち損じ狙いで"ツーシーム"を投げるよう

詠深にサインを出すと詠深は注文どおりの

キレの良い"ツーシーム"を内角に投じた

 

 

…………がっ!!

 

 

グワキィィィィィィィィン

 

 

「「!?」」

 

 

「ファールボール!!」

 

 

豪快な金属バットの快音が響き詠深と

珠姫が打球を見送ると打球は勢い良く

ファールゾーンのスタンドに飛び込む

 

 

「打たれたかと思った……」

 

 

「怖……(なんて打球!?)」

 

 

ファールになったとはいえ今日の試合で

理沙や息吹から打った本塁打にも劣らぬ

打球の強さと勢いに詠深も珠姫も思わず

冷や汗をかきそうになっていた

 

 

「私を舐めるなよ……

中田を打ち取った時の球と

例のエグい変化球を投げて来い!」

 

 

「……(やっぱり小細工は効かないか)」

 

 

久保田の挑発の言葉を間近で聞かされて

投球では新越谷打線の調子の良さもあり

14失点を喫したが打撃の方は絶好調で

生き生きした表情の久保田に対し珠姫は

詠深の方も見ると詠深の方も強い打球を

打たれながら生き生きした表情であった

 

 

「……(4点差あるし詠深ちゃんも

調子良いし正々堂々と勝負したいよね)」

 

 

それを見た珠姫は梁幽館との試合の時の

詠深のことを思い出し小細工などせずに

久保田と真っ向勝負をさせてあげようと

自分のリードを考え直した

 

 

(受けて立とう、詠深ちゃん!!)

 

 

(うん!!)

 

 

強直球のサインを出した珠姫に

詠深は嬉しそうに笑顔で頷いた

 

 

(来る!)

 

 

そんな詠深と珠姫の様子に久保田も

自分の望む球が来ると察したようだ

 

 

そして……

 

 

ドォォォォォォォン

 

 

「ストライク、ツー!!」

 

 

詠深は久保田から強直球で

空振りを取り2ストライクに追い込むと

自分が直球を空振りしたことに久保田も

驚いたらしく眼を見開いて驚いた様子だ

 

 

「……(ラスト! "あの球"で決めるよ!)」

 

 

そして最後は詠深の努力の結晶である

"あの球"こと"ナックルスライダー"で

決着を付けようとサインを出す

 

 

そして……

 

 

「行っけーーーーー!!」

 

 

ドォォォォォォォン

 

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

詠深は渾身の力で思いきり良く

"あの球"で久保田から空振りを

奪い三振に打ち取った

 

 

「ゲームセット!!」

 

 

こうして激しい打撃戦の末に

新越谷が"14-10"で熊谷実業を敗り

見事"ベスト8"進出を決めたのであった

 

 




こんな感じになりましたが、如何だったでしょうか?
物語の都合上、久保田さんが最後の打者となりました

さて次回から新たなキャラが大量に登場します
そして前回の後書きに書いた通りに次の投稿で
クロスオーバーのタグを追加します

他の球詠の物語の作者さんとの
新たなコラボキャラと、とあるゲームの
キャラが椿峰の選手として登場するのでお楽しみに

そしてお手数ですが活動報告に大事なお知らせを
書いておいたので時間がある時で大丈夫ですので
活動報告を読んでいただけると幸いです!

それでは、次回まで失礼致します!
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