これで夏大会前までのメンバー全員が揃います
怜と理沙がチームに加わってくれた翌日
新生新越谷野球部は早速練習に励んでいた
「あら? そういえば藤井先生は?」
練習中、藤井先生が見当たらないことを
真深が気になり芳乃に尋ねると
「藤井先生は引き継ぎとかで
今日は来れないって言っていたよ
新任だし他にも色々と忙しいみたいだよ」
芳乃も残念そうな表情で教えてくれた
新任による手続きに加え野球部顧問の
引き継ぎの手続きも同時にするならば
忙しいのも無理はない
「ほら、もっと腰を落として」
「はい~~」
他の部員が各々、練習している中で
怜は息吹の基礎トレを指導していた
「息吹……怜先輩に随分、目を付けられてますね」
「怜ったら息吹ちゃんのこと気に入って
あんなに楽しそうにしてる怜は初めて見たわ」
「センスもいいですしね」
「そうね」
息吹を気にした菫が呟くと理沙が
実に微笑ましい事情を教えてくれると
珠姫と真深もそれに同調して息吹を見る
現に息吹は選球眼が良くフォームも様に
なっていて初心者とは思えないくらいの
野球センスの持ち主なのだ
「そこ、サボるな!」
そんな話をしていると怜はサボってると
思ったのか照れたのか注意をしてきたが
恐らく後者であろう
「沢山観戦してきたってのもあるけど
息吹ちゃんは野球選手のコピーが上手なんだよ」
「へ~~」
芳乃の解説に稜が興味深そうな反応を示した
「物心ついた時から芳乃の
"おもちゃ"にされてきましたからね……」
「成る程……
ファームや走り方がそれっぽいのはそのせいか」
怜も息吹から話を納得して聞いていた時だった
「みんな~~! 入部希望者だよ」
「「「「「「「「???」」」」」」」」
先程から姿が見えなかった詠深の声がして
振り返ってみると詠深が俯いた金髪の娘と
清楚な雰囲気の黒いロングヘアー髪の娘を
連れてグラウンドに戻ってきた
どうやら練習中にフェンス前に立っていた
二人に気付き声をかけに行っていたようだ
「なんと二人も来てくれました」
「これで9人揃った。歓迎するよ!」
待望の新しい入部希望者に芳乃は
髪をピョコピョコさせながら喜びを現している
取り敢えず自己紹介をしてもらうことになるが
「主将……あまり威圧しないでくださいよ」
「わかってるよ」
菫が怜に真深たちと初めて会った時のような
威圧をしないように伝えると言うと怜は固い
笑顔で自己紹介を始めた
「主将の岡田です……2年生
ポジションとか適当に自己紹介お願いします」
怜が固い笑顔で自己紹介を終えると
黒いロングヘアーの娘が真っ先に答える
「おっ、大村白菊です……
中学までは剣道部で野球は初心者ですので
ポジションとかはまだ……」
なんと白菊は剣道経験者であった
剣道をやっていたなら腕や足腰も
強いだろうし期待値はかなり高い
「剣道かぁ……なんでまた野球部に?」
「いえ……個人競技以外もやってみたくて」
詠深の問いに白菊が微笑みながら答えると……
「どこかで会ったことあるかしら?」
「いえ?」
息吹は白菊の名前と姿に覚えがあるらしく
尋ねるが白菊は息吹を全く知らないようだ
「剣道かあ……いいねえ、さすが鍛えてるね!」
芳乃がいつも通り白菊の脚を
触りながらそう言うと理沙が
もう1人の金髪の娘に自己紹介を促す
「中村希……一塁と外野してました
でもここの野球部に入部する気は……」
「中村さんってもしかして左打ち!?」
「えっ……うん」
希の言葉を遮り芳乃が興奮しながら
尋ねると希は戸惑いながら肯定した
「お手て見てもいい?」
「……うん」
「やったーー、新越谷には
左打者が1人もいなかったんだ
新しい豆、春休みもバット振ってたんだ」
そう言いながら芳乃は希の左手を触りまくると
それを詠深と息吹が苦笑いを浮かべて見ていた
一先ず体験入部ということで
マシン打撃をしてもらうことになったので
2人には体操着に着替えに行って貰うことになる
白菊と希が戻ってきて経験者の希から打席に立つ
「おねがいします……」
「じゃあ、お手並み拝見といくかぁ」
稜が打撃マシンにボールを挿入するが
何やら悪巧みをしているような笑みを
浮かべながら挿入するとボールは
かなりの球速でマシンから放たれたが
カキィィィィィィィィィィン
ガシャ
「ひっ」
希はそれをネットに直撃させる投手返しの
鋭い打球を打ってきたので堪らず稜は怯んだ
「凄いじゃない中村さん!」
「別に……バッセンでマシンは慣れとーけん」
理沙が希の打撃を褒めるが希には
経験の範囲内の球速だったようだ
その後も希の打球は全て芯で捉えられた上に
全て投手返しで打ってきたので打撃マシンに
ボールを挿入する稜は完全に動揺していた
「中村さん! 中学はどこのチームだったの!?」
急かさず芳乃が希の中学時代の
所属チームを尋ねると思わぬ答えが返ってきた
「箱崎松陽……福岡の」
「福岡……野球王国!」
「道理でチェックリストにいないわけだよ」
希が野球王国と言われている福岡県の
出身だと聞いた詠深と芳乃は大興奮していると
「もしかして野球留学生?」
「驚いたな……ウチがまだ
県外から選手を取っていたとはな」
芳乃と怜は希はそう言うが希の様子を見た
真深はそれが間違っていると直ぐに見抜く
「違うと思いますよ」
「「「「えっ?」」」」
真深の指摘に詠深、芳乃、怜、希が声を揃え反応した
「野球留学生なら入学式の翌日には
入部届けを出してくる筈だと思いますよ」
「「「あっ……」」」
途端に"言われてみれば"という
表現になる詠深と芳乃と怜の3人
「それに……どことなく
希ちゃんは入部に前向きには見えませんし」
「あっ……」
真深に指摘され言葉が詰まった希が
少し間を置くと事情を打ち明けてきた
「埼玉に来たのは親の仕事とかで偶々で
本当は全国目指せる所で野球したかったちゃけど
でも此処の野球部のことよく調べんで入ったけん
だから入部する気は……」
そう言うと希は目に涙を浮かべ再び話し始めた
「中学のみんなと約束したのに
……全国大会で会おうって……」
「全国か……」
「このチームじゃ現実感がないわね」
希の言葉に理沙と菫が小さく呟いた
確かに選手は少ないし今の状況を見れば
全国大会出場なんて無理だと思うだろう
「ガールズで全国経験のある珠姫はどう思う?」
「えっ? 私に振らないでくださいよ……」
(えっ? この子が全国!?)
怜に話を降られた珠姫が慌てて拒否するが
希は新越谷に珠姫のような選手がいるとは
思っていなかったので大きく反応した
「ここは参謀の芳乃ちゃんが」
チームのことを1番知っていて
尚且つ他校の選手にも詳しい芳乃に判断を委ねる
「う~~ん……ベスト4くらいじゃないかな?」
「えっ……そんなに!?」
芳乃の予測にかなり驚いている希
「またまたぁ」
「それは舐めすぎじゃないかしら」
詠深と菫が芳乃の発言を冗談と見たが
「なめてないよ?
そっちこそ自分を過小評価するの良くないよ」
「そっ……そうね」
芳乃の冷たい威圧に菫が怯んでしまった
「ところで稜ちゃん?」
「理沙先輩、何ですか?」
「さっきマシンのボール
かなりの球速だったけど何㌔出てたの?
「あっ……」
稜と二人で投手マシンの前にいた
理沙に聞かれた稜が苦笑いを浮かべると
「あ~~、その……
県内最速投手の久保田さんに合わせました」
「「えっ!?」」
稜の答えを聞いた理沙と菫が驚きの声を出す
「稜、あなたね……
いきなり県内最速の球なんて
普通の打者だったら打てるわけないでしょ?」
「いや~~経験者だって言うから
ちょっと脅かそうと思っただけで
空振りしたら低くし直すつもりだったんだけど
まさか全部完璧に打ち返されるとは思わなくて
それにウチには超高校級スラッガーがいるから」
「全く……」
菫が今度は盛大に溜め息をすると
(えっ!? 超高校級スラッガー?)
希が稜の言葉に激しく反応すると……
「でも真深なら今の球も打てるだろ?」
「えっ……どうかしら?
確かに速球は割りと得意だけど……
というか超高校級スラッガーって私のこと?」
(えっ? この子が!?)
心の中で呟きながら真深を見る希
「ちょっと、打ってみてくれよ」
「稜ちゃん、今は希ちゃんと白菊ちゃんの
打撃を見ている訳で私の打撃は関係ないでしょ」
「いいじゃん! 2・3球で良いからさ~~!」
真深が注意するが諦めずに稜がリクエストすると
「あっ! 待ってますから大丈夫です
それに私も、どんな打撃か見てみたいです」
白菊からも催促されてしまった
「真深ちゃん、折角だし打ってみれば?」
成り行きを楽しそうに見ていた詠深が進めると
「ハァ~~、本当に2・3球だけよ」
真深は仕方なく応じることにした
「ゴメンね白菊ちゃん。直ぐ終わらせるから」
「はい、大丈夫です」
白菊に謝罪して真深はバッターボックスに立った
「いいわよ」
「いくぞーー!」
真深がバットを構えたのを確認した稜が
久保田の投げる球と同じ球速に設定した
マシンにボールを挿入しボールが放たれると
グワキィィィィィィィィィィン
「えっ!?」
「わぁーーーーー!!」
マシンの球を真深はアッサリと打ち返すと
打球は入学式の日に打った時と同じように
フェンスの最上部に当たって地面に落ちた
今度も完璧なホームランの当たりであった
真深の打撃を見た希は驚きの声を上げて
白菊は憧れの目線で打球を見上げていた
そして希の脳内の新越谷野球部に対する
強さを予測するメーターが少しアップした
その後もう2球マシンから放たれた球を
真深は全てフェンスの高い場所へ打ち返した
「はい、おしまい!」
真深はそう言ってバッターボックスから離れた
「アハハ……全部、難なく打ったし」
「フフフ、でも試合では頼もしいわ」
3球ともホームラン級の当たりを飛ばした
真深に苦笑いを浮かべる稜に対して試合で
頼りになると微笑む理沙
「やっぱり凄いよ、真深ちゃんの打撃!」
「流石だな真深! 試合でも頼むぞ」
「ありがとうございます。怜先輩」
バッティングを終えた真深が
詠深と怜の二人と会話をしていると
「ねっ! 凄かったでしょ」
「うっ、うん……
(こんな凄い打者がなして此処(新越谷)に?)」
急かさず満面の笑みで迫ってきた芳乃に
戸惑いながらも希は不思議そうな表情で
真深の姿を見ていた
「これで希ちゃんと白菊ちゃんが
入部してくれて3ヶ月みっちりと
練習すれば絶対いいところまで行くよ」
そう言って芳乃が髪をピョコピョコさせると
(なんでかいな……
この子は信用できる気がする)
希は心の中で呟きながら芳乃を見つめると
「じゃ……じゃあ
1年後は、どうなるかいな!?」
「そんなに先のことはわかんないよ」
「優勝できるっちゃないと?」
「他の学校の事情も変わるし」
希が更に先のことまで聞いてきたので
流石の芳乃も戸惑いながら答えていた
「あの~~、そろそろ
大村さんを打たせてあげたら?」
「「あっ……」」
理沙に指摘され申し訳なさそうな
表情になって芳乃と希が退いていった
「大村さんは初心者よね、スイングとか大丈夫?」
「はい、一応……」
理沙が白菊にバットとヘルメットを渡す
「お願いします……」
漸く白菊によるマシン打撃が始まると
カキィィィィィィィィィィン
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
白菊は初心者なので希や真深よりも遅い球速に
設定された投球マシンからボールが放たれると
白菊は初心者とは思えない、豪快なスイングで
先程、真深の放った打球と同じようにレフトの
フェンスの高い場所まで飛ばしてしまったのだ
「バットに当たりました! すごく良い感触……」
「嘘……」
「当たったってもんじゃないわよ!?」
白菊の放った打球を見て珠姫と菫が唖然とする
他のメンバー達も真深に並ぶホームラン打者が
もう一人現れたのかと思った
「次、お願いします!」
白菊は先程の感触を忘れないうちにと
次のボールを要求し再びフルスイングをしたが
スカッ スカッ スカッ
「あれ? 全然当たらない……」
その後の球は全て空振りしてしまい
「なんだ、さっきのはマグレか……」
「そのようです……」
最後は稜がトスしたボールすら打てず
どうやら先程の打撃はマグレであった
しかしマグレだとしても剣道で鍛えた
パワーは間違いなく本物で打撃の基礎さえ
体に覚えさせれば真深に並ぶ強打者になるだろう
すると直後に息吹が白菊を見て大きな声をあげた
「思い出した! 大村白菊さん! 道場の娘!
剣道の全国優勝ってテレビで見たことあるわ」
なんと白菊は中学生女子剣道大会で
全国優勝を成し遂げた実力者だった
「スゲー!」
白菊の実績を聞いて稜は、かなり興奮している
「でも、そんなに強いのに続けなくていいの?」
「高校でも剣道で全国優勝を目指せたのに……」
詠深と真深がこの場にいた全員が
思ったであろう疑問を質問すると
「私、元々は野球がしてみたかったんですよ」
「そうだったんだ」
「はい、いつか見た高校野球の試合で
すごく感動して……あと野球漫画も好きです」
そう言って野球に対する熱い思いを話す白菊
「でも厳しい家でしたから……
親に野球がしたいと伝えましたら
剣道で1位になったらと言われまして
なので去年までは剣道に尽くしました」
「つまり去年中学で全国優勝したことで
晴れて野球をすることが認められたのね」
「はい」
真深の言葉に笑顔で頷く白菊
「というわけで……
野球は高校からですけど、よろしくお願いします」
「よろしく、白菊ちゃん」
真深は白菊と握手を交わすと
息吹を筆頭に他のメンバーも
白菊と握手を交わしていると
「白菊ちゃん、希ちゃん」
「「?」」
後ろから呼び掛けられ白菊と希が振り替えると
「わたし、ピッチャーなんだ!」
いつの間にマウンドに立っていた詠深が二人に
そう言うとバッターボックスの的に向かって
"あの球"を披露して見せた
「2人の打撃力でガンガン私を援護してね」
希も"あの球"の変化に驚きの表情になると
先程の真深の長打力を見たこともあってか
希の脳内の新越谷野球部に対する強さを示す
メーターが更に上がり最大値近くまで上昇した
「でっ? 希ちゃんは? 入部してくれるの?」
芳乃が目を光らせながら希に入部を願い出る
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全国大会出場経験のある珠姫
超高校級スラッガー並の長打力を持つ真深
凄まじい変化球を投げる詠深
更に何故か信用できるマネージャーの芳乃
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
思わぬ実力者と信用できるマネージャーが
所属していることを目の当たりにした希は
「いいよ……」
「やったーー!」
そう言って遂に入部を決断したので
芳乃がその場で喜びを爆発させるが
「でも、入るからには……
一緒に目指して欲しいっちゃけど……全国を」
中学生時代の野球仲間との約束を果たしたい希は
他のメンバーに全国を目指してほしいと願い出る
「それから! 白菊ちゃんには負けんからね!」
「えっ!?」
いきなり希にライバル宣言をされて
白菊は訳が分からないらしく激しく
動揺してしまっていた
どうやら初心者なのに長打力を見せた
白菊に嫉妬してしまったようである
「人数も揃ったし!」
「チームの目標も決まったな!」
「よ〜し! 全国目指そ〜~!」
「おーー!」
こうして希が入部したことにより
チームに明確な目標も出来たので
更に士気を高める新越谷野球部の
仲間たちだったのであるが……
「…………」
一人、珠姫だけが何故か俯いた様子だった
「珠姫……どうかしたの?」
「ううん、何でもないよ!」
「…………?」
真深に尋ねられて答える珠姫だが
明らかに何でもなくはない様子だ
というか全国の話題になってから
珠姫の様子がおかしくなったのだ
なんとか今回で詠深の"あの球"と真深の打撃力を
チームメンバー全員に披露することが出来ました
次回は珠姫の悩みに詠深だけでなく真深も
加わる形で進めるので原作と違った展開に
なると思いますが宜しくお願い致します