詠深の従姉妹はホームラン打者   作:たかと

7 / 45
柳川大付属川越高校との試合になりますが
途中まで……というか終盤までは原作と
ほぼ同じ展開になりますのでご了承下さい

真深の打撃力に加え守備力が柳大川越の
メンバーの度肝卯抜くところを楽しんで
頂けると嬉しいです

それではご覧下さい!


第5話 初めての試合

柳川大付属川越高校との試合を

いよいよ明日に控えた金曜日の練習後

 

 

「芳乃ちゃん、藤井先生」

 

 

「真深ちゃん?」

 

 

「上杉さん、どうしましたか?」

 

 

真深は藤井先生と芳乃に相談を持ちかけた

 

 

「勝手な相談だろうと

分かっていることを承知でお願いがあるんです」

 

 

「構いませんよ……どうしたんですか?」

 

 

真深に勝手な相談だと告げられながらも

藤井先生は優しい笑顔で答えてくれると

 

 

「明日の試合……私を控えにしてくれませんか?」

 

 

「上杉さんを控えに……ですか?」

 

 

「はい」

 

 

真深からの申し出にキョトンとする藤井先生

 

 

「どうして? 真深ちゃんには

クリーンナップを任せようと思ってたんだけど?」

 

 

芳乃も不思議それに首を傾げて真深に尋ねる

 

 

「以前から感じていましたし実際にプレイして

分かったんですけど日本とアメリカでは野球の

試合の進め方や考え方が根本的に違ってました」

 

 

「成る程……それは私も同感ですね」

 

 

真深の話に藤井も同調する

 

 

「特に違うのは日本ではバントをしたり

小技を使ったりして堅実な野球をします

ですがアメリカはとにかく長打を狙えと

言われてバントは滅多にさせませんでした

小刻みなプレイをすると観客からも反感を

持たれたりすることもある程だったんです」

 

 

「アメリカの人は豪快な野球が好きだからね」

 

 

「えぇ……もっと言うと投手も

変化球より早いストレートを投げる

投手の方が比較的に受けが良かったから」

 

 

今度は芳乃が真深の言葉に頷く

 

 

「私はそんなアメリカの野球が

身に付いてしまっていることを

自分自身で懸念していたんです

けど明日の相手は強豪校だから

最初の方は味方と相手の攻撃や

守備を観察して目に焼き付けて

おきたいと思ったから……」

 

 

真深は自分が我が儘を言っていることが

分かっているので申し訳なく思いながら

藤井先生と芳乃にお願いすると

 

 

「分かりました

確かに上杉さんは日本に帰ったばかりですし

実際に高校野球の試合を見た方が良いですね」

 

 

「うん、そうですね

それじゃあ明日は真深ちゃんは控えにして

レフトの守備は息吹ちゃんに付いて貰うね」

 

 

「ゴメンね、芳乃ちゃん……」

 

 

「全然大丈夫だよ真深ちゃん

寧ろ気にかけてくれて、ありがとう

でも真深ちゃんも試合の勝負どころで

代打で出てもらう事になるだろうから

いつでも出れるようにはしておいてね」

 

 

「それは大丈夫、任せて!」

 

 

代打で出てもらうという芳乃に真深が頷く

こうして明日の試合は真深は本人の希望で

途中出場という形に決まった

 

 

 

 

 

ーーそして向かえた翌日(土曜日)ーー

 

 

 

 

 

試合当日……詠深と真深は学校に到着すると

近くの河川敷を軽くランニングをしていた

 

 

「そっか……真深ちゃんは控えなんだね」

 

 

「ゴメンね詠深……でも代打で出ると思うから」

 

 

「うん! 楽しみにしてるね」

 

 

真深はランニングをしながら今日の試合で

自分が控えであることと理由を話していた

そして詠深も真深が控えを申し出た理由を

納得しランニングを続けていると女の子が

一人で釣りをしているのを目撃した

 

 

「あの子……何処の学校の娘かしらね?」

 

 

「そうだね、私ちょっと声かけてみるよ」

 

 

「あっ! ちょっと詠深!?」

 

 

真深がそう言う前に詠深は釣りをしている

女の子のところへ近づいていくと女の子は

釣りに集中していた為か後ろから近づいた

詠深が小枝を踏む音に驚きながら振り返る

 

 

「釣れますか?」

 

 

「…………」

 

 

詠深から掛けられた言葉に釣り少女が

暫くキョトンとしながら詠深を見ると

後ろの方にいる真深の姿にも気付いた

 

 

「さっきニゴイが釣れました」

 

 

少し間を開けてから釣り少女は答えてくれた

 

 

「へえ、すごい! ここ釣れるんですね」

 

 

それに詠深も興味深そうに釣竿を見ると

釣り少女が詠深と真深の服装に目を止め

 

 

「野球ですか?」

 

 

「はい! 今日が初めての試合なんですよ」

 

 

「そう……頑張って」

 

 

二人が野球選手だと分かったらしく

そう尋ねると詠深が気合いの入った

表情と口調で答えると釣り少女も

詠深に静かな声でエールを送った

 

 

「詠深~~、早く行くわよ!」

 

 

「今、行くよーー!

そっちも釣りがんばってくださーーい」

 

 

真深に呼ばれ詠深も一言告げると

そのまま真深とランニングを続け

学校へと戻っていった

 

 

 

 

 

ーーそれから暫くしてーー

 

 

 

 

 

新越谷野球部のグラウンドでは対戦相手の

柳大川越の選手が守備練習を開始していた

 

 

「柳川大付属川越高校……通称"柳大川越"」

 

 

「以前は弱小だったけど去年の夏は

1年生エース朝倉さんを中心にした

1・2年生主体にしたメンバーで

ベスト16……秋大会はベスト8

今年の夏、一押しのチームだよ!」

 

 

「ひぃぃ……初心者の相手じゃないわよ」

 

 

テンションが上がり髪をピョコピョコさせる

芳乃から知らされた対戦相手の成績を聞いた

息吹が緊張しながら素振りをしている

 

 

「試合……よく受けてくれたわね」

 

 

「ホントね……1年生主体のチームなのに」

 

 

菫の呟きに真深も同調しながら藤井先生を見ると

 

 

「今日はお越し頂き、ありがとうございます」

 

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 

藤井先生は柳大川越の監督と握手をしていた

 

 

「ウチの大野はまだ経験が足りないから

夏までにできるだけ投げさせてやりたい」

 

 

会話からして藤井先生と柳大川越の監督は

顔見知りでよく知った仲なのかもしれない

それなら試合を受けてくれたのも納得いく

 

どちらにしろ試合を組んでくれた藤井先生と

試合を受けてくれた柳大川越に感謝したいと

真深は思っていた

 

 

やがて今日の柳大川越の先発投手が

マウンドで投球練習を開始した

左のサイドスローの投手であった

 

 

「あの人がエースの朝倉さん?」

 

 

「違うよ。あの人は大野さんだよ

朝倉さんは最近見ないね……怪我かな?

だから春は代わりに大野さんが投げてるよ

今年の春大会では28イニングを5失点で

惜しくもベスト16で惜敗……柳大川越の

今のエースは大野さんだよ。サインくれるかな?」

 

 

「流石、芳乃ちゃん……詳しいわね

私はアメリカでの生活が長かったから

咲桜や粱幽館に美園学院なら知ってるけど

それ以外の高校のことは、あまり知らないから」

 

 

「エヘヘ(^o^)

それじゃあ打順を発表するよ!」

 

 

「待ってました!」

 

 

真深に褒められ嬉しそうな表情になった

芳乃が打順の発表を告げると詠深を初め

全員が芳乃に視線を向ける

 

 

注目の今日の試合の打順は……

 

 

【新越谷】 (ポジションの後の数字は背番号)

 

 

【1】 中村 希 (一塁手、3)

 

【2】 藤田 菫 (二塁手、4)

 

【3】 山崎 珠姫 (捕手、2)

 

【4】 岡田 怜 (中堅手、8)

 

【5】 川崎 稜 (遊撃手、6)

 

【6】 藤原 理沙 (三塁手、5)

 

【7】 武田 詠深 (投手、1)

 

【8】 大村 白菊 (右翼手、9)

 

【9】 川口 息吹 (左翼手、10)

 

 

芳乃から発表された打順は以上だった

因みに真深が控えになっている理由は

既に藤井先生から説明がされたらしく

全員が納得していた

 

 

「練習したことは全部出せるようにしよう」

 

 

「きちんと声を出していきましょう」

 

 

最後に芳乃と藤井先生がメンバーを鼓舞する

 

 

「キャプテン! 最後に何か掛け声を」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

詠深に促され岡田が1つ間を開けると

 

 

「新越谷、絶対勝つぞ!!」

 

 

「おーー!!×9」

 

 

全員が揃って声を上げた

 

 

一方、マウンドでは……

 

 

「ふぅ~~(なんで、こんなチームと試合を?)」

 

 

マウンド上の柳大川越のエース大野は

投球練習を終えて一息付くと初めての

試合でハイテンションになる新越谷の

ベンチを見て首を傾げていた

 

人数もギリギリで怜と理沙の二人以外は

全員1年生のチームが相手ということで

大野は完全に油断していたが試合終了後

その考えを改めさせられる事になるとは

この時の彼女は想像すらしていなかった

 

 

「お願いします!」

 

 

大野が首を傾げていると試合が開始され

先攻の新越谷のトップバッターの希が

審判に一礼してバッターボックスに立つ

 

 

「まあ、いいわ! 堪能しなさい

(埼玉1の角度を誇る"クロスファイヤー"を)!」

 

 

大野は自信満々に第1球を投げ込んだが

 

 

カキィィィィィィィィィィン

 

 

「なにーーー!?」

 

 

プレート左隅から投げられたストレートを

希は右中間に弾き返し外野手の打球処理に

手間取っていたこともあり三塁打となった

決して大野の投球が甘かったわけではない

打った希がこの時は一枚上手だったのだ

 

 

そして続く打者の菫がベンチを見て

 

 

「(スクイズでもやる?)」

 

 

と言った表情で芳乃のサインを確認する

 

 

見ると内野の守備陣は定位置にいて

1点くれてやるという感じのようだ

 

すると芳乃は施しをウケるつもりは

ないと言わんばかりに浅いフライと

三振にならないようお願いしてから

強行のサインを出した

 

 

「来なさい!」

 

 

サインを確認した菫が自分に渇を入れるための

意味も含め大野に向け気合いの隠った声を出す

 

その結果、菫は1球目の外角ストレートの球

クロスファイヤーを見送るが2球目の球を

ライト方向に打ち上げると右翼手が捕球し

三塁ランナーの希が犠牲フライでホームに

帰って来て新越谷が僅かに3球で先制点を

掴むことに成功した

 

 

「希ちゃん、ナイスバッティング!」

 

 

「菫ちゃん、ナイス最低限!」

 

 

ベンチに戻ってきた希を芳乃が

菫を理沙が称えるが菫は微妙な

表情だった……恐らくヒットで

繋ぎたかったのだろう

 

 

「たった3球で1点……

こんな訳のわからないチームに……」

 

 

ワンアウトは取ったが僅か3球で

1失点を喫したことに動揺したか

続く珠姫にはお尻の辺りにボールを当てて

死球になって詠深と大野の表情が青ざめる

 

 

「タマちゃん!?」

 

 

詠深が心配してベンチから駆け寄ろうとするが

 

 

「大丈夫!」

 

 

珠姫は直ぐに立ち上がり詠深にそう告げると

一塁へと歩いていくので特に問題ないようだ

 

 

「「ホッ……」」

 

 

珠姫の様子を見た詠深と大野が安堵する

投手にとって死球は故意でもない限りは

ある意味で本塁打よりも動揺するものだ

 

大野は珠姫に帽子をとって謝罪を示すが

まだ動揺が収まってないのか続く4番で

主将の怜がセンターへの二塁打を放って

ワンアウト2・3塁のチャンスとなった

 

 

「よっしゃ! 私も続くぜ」

 

 

更に5番の稜がチームの勢い乗るように

勢いよくバットを振り抜くと打球はレフトへの

ポテンヒットとなり更に2点追加が追加された

 

すると芳乃がこの勢いに乗ろうと足の早い稜に

盗塁のサインを出すと稜は自信満々に頷いた

 

そして続く6番の理沙に大野が初球を投げる

投球動作に入った瞬間に稜は2塁へ走った

 

完璧なタイミングで走ったので稜の足ならば

行けると思ったが相手捕手の浅井は正確かつ

早い送球で稜を2塁でアウトにしてしまった

 

 

「なんて肩……」

 

 

「しまった!

浅井さんの肩を忘れてた」

 

 

浅井の強肩を見た同じ捕手である珠姫が

驚いた表情でいる横で芳乃は浅井の肩の

強さを忘れていたことを悔しそうにしていた

 

 

「目は覚めた?

ビビって手投げになってるぞ」

 

 

「わかってる」

 

 

稜の盗塁を刺した浅井が

マウンド上の大野に声をかけていた

 

 

「しっかり踏み込んで投げてこい」

 

 

浅井の盗塁を阻止したプレイと声かけと

2アウトになってランナーがいなくなり

気持ちが落ち着いたらしく大野は理沙を

シュートで三振を取り3アウトになった

 

 

「いい球だ!

ちゃんと投げれば、そうは打たれない」

 

 

「…………」

 

 

浅井は大野を鼓舞しベンチに戻りながら

一塁の守備につく希を見て警戒感を

強めたが新越谷のベンチには更なる

強打者がいることを浅井は知らなかった

 

 

3アウトになり攻守交代になり詠深が

いよいよ新越谷で初めてのマウンドに上がる

 

 

「詠深……新越谷での初登板しっかりね」

 

 

「うん! 見ててね真深ちゃん」

 

 

真深が詠深に声をかけると詠深も

元気に返答してマウンドに向かって行くと

 

 

「詠深ちゃん……今日は宜しくね」

 

 

「こちらこそ」

 

 

マウンド上で珠姫とも声を掛け合っていた

 

 

「しまっていこーー!」

 

 

「「「「「「「「おーー!」」」」」」」」

 

 

珠姫が声を張り上げると柳大川越の

1番打者のセンターを守る1年生の

大島がバッターボックスに立つ

 

 

詠深は記念すべき第1球で大島を空振りさせて

次の球はカットさせて2球で大島を追い込むと

練習試合だし出し惜しみする意味はない

 

真深と珠姫も同じ考えだったらしく"あの球"を

要求すると大島はスッポ抜けたと思ったようで

堂々と見逃したが知っての通り大きくゾーンへ

曲がり見逃し三振に仕留めた

 

 

「よし!」

 

 

「ナイピー、ワンアウト!」

 

 

最初の打者を三振に仕留め声を上げる詠深と珠姫

 

 

「カーブ? えらく曲がったね」

 

 

「やばいッス

スッポ抜けたと思ったらド真ん中ッス」

 

 

一方で大島の次の打者である2番打者が

後輩の大島から"あの球"の感想を聞いて

バッターボックスに立つと"あの球"が

来る前に打とうと決めていたのか初球の

ストレートを三遊間へ打ち返した

 

抜けるかと思われた打球だったが理沙が

ダイビングキャッチして一塁へ送球して

見事に2アウトとなった

 

 

「ナイス理沙先輩!」

 

 

「気合い入ってるじゃないですか!」

 

 

詠深と稜が急かさず理沙に声を掛ける

 

 

「さっき三振したしね」

 

 

詠深と稜に答えると理沙は怜に向かって

小指と人差し指を立てて2アウトを示す

ジェスチャーをすると怜も理沙に返していた

 

考えてみれば理沙と怜は1年生の時には

野球部が不祥事で活動禁止になったので

詠深や真深たち新入生だけでなく二人に

とっても初めての試合ということになる

気合が入らないわけがない

 

続く3番打者も初球のストレートを打ち返し

打球が左中間に大きく上がるが急遽レフトで

先発出場した息吹はしっかり声を出しながら

打球を追い捕る直前にグラブを出し捕球する

 

 

「息吹、ナイスキャッチ……初フライだな」

 

 

「はい! ありがとうございます」

 

 

怜に褒められてホッとしながらも嬉しそうな息吹

こうして詠深は初回を見事に三者凡退に抑えた

 

 

「真深ちゃん! 私の投球見ててくれた?」

 

 

「勿論! "あの球"で三振が取れて良かったわね」

 

 

「うん!」

 

 

真深に褒められ嬉しそうな表情になる詠深

こうして一回裏の柳大川越の攻撃を三者凡退で

終わらせる上場の立ち上がりを見せた詠深は

二回表の先頭打者として打順が回ってきたので

 

 

「よ~~し! 自援護しちゃうぞ~~」

 

 

と意気込んで打席に立ち大野の初球を捉えた詠深の

打球は惜しくもファーストライナーとなり1アウト

 

 

「…………」

 

 

「……いっ、いいスイングだったわ詠深!

飛んだ方向に野手が居て運が悪かっただけよ」

 

 

ベンチに帰って来た詠深が落ち込んでいるのが

分かった真深が詠深のスイングを褒めて慰めた

 

続く白菊は持ち味とも言える大きなスイングで

大野のストレートを振り抜くが惜しくも三振に

 

しかし投手から見ればアレほど大振りされると

当たればホームランになる可能性があるので

警戒させるには十分なインパクトだっただろう

 

9番の息吹はカットしてファールを連発するが

大野の決め球のシュートの前に仰け反りながら

三振に仕留められてしまった

 

右打者から見れば左投げの大野のシュートは

詠深の"あの球"のように見えたかもしれない

初心者の息吹には難しい投球だったであろう

 

 

「なんだあの球は?」

 

 

「多分シュート……いやツーシームかな?」

 

 

ベンチに帰って来た怜が芳乃に球種を確認すると

芳乃は大野の球種はツーシームだと見たが真深は

自身の経験から多分だが違うと見た

 

 

「シュートだと思うわ

ツーシームじゃ、アレほど大きく曲がらないわ」

 

 

実は真深はストレートと同じくらい

得意としている球種がシュートだったので

大野の決め球がシュートだと見抜いたのだ

 

 

「私が三振した球ね……

一瞬、体に当たったと思ったらストライク」

 

 

「初回に珠姫ちゃんに

ぶつけたからあまり投げてなかったけど

立ち直りつつあるし次は手強いと思うよ」

 

 

真深の話を聞いた理沙と芳乃が大野の

シュートの曲がり方について分析する

 

 

「さあ! 気持ちを切り替えて守備守備」

 

 

シュートの分析を終えた芳乃に

促されメンバーは守備に向かう

 

 

二回裏の柳大の攻撃は4番の浅井からの攻撃だ

珠姫は2球続けて詠深に"あの球"を投げさせて

あっさりと2ストライクに追い込むと3球目も

インハイを要求したので3球続けて"あの球"を

要求したのかと思ったが詠深が投げたのは球は

ストレートだったので浅井バットを止めようと

したがスイングの判定で三振となった

 

浅井を三振に仕留めた詠深は勢いそのままに

続く二人も打ち取り一回に続いて三者凡退で

終わらせたのであった

 

 

「いい感じ?」

 

 

「うん、今日は直球のコントロールがいいからね」

 

 

「あら? 詠深は昔から

コントロールは抜群だったわよ」

 

 

ベンチに帰って来た珠姫が芳乃と詠深の調子に

ついて話しをしていたので真深もそれに加わる

 

 

「でも流石にいい当たりは

されてるから……2順目は注意しないとね」

 

 

ベンチ前で先程の守備でフライを取った怜と

話をしている詠深を見ながら珠姫は2順目に

備えようと考えながらも

 

 

「……まあ、真深ちゃんの言うとおり

詠深ちゃんコントロールが良いから

こんなものじゃないと思うけど」

 

 

何だかんだで詠深を信頼している珠姫であった

その後ゲームは四回表を終えて向かえた四回裏

柳大川越は1番の大島の打順となって2順目を

向かえると珠姫の予感が的中した

 

大島は初球のストレートをレフトへ打ち返して

詠深はこの試合で初めてのランナーを出した

 

 

「ゴメン……出しちゃった」

 

 

初めての被安打を打たれ珠姫に謝る詠深だが

どんな一流の投手でも1試合で1本も安打を

許さない即ちノーヒットノーランの達成など

アメリカでさえも1年に1人出るか出ないか

という低確率の話なので気にする必要はない

寧ろ大事なのは後続をしっかり押さえるかだ

幸い点差もあるし楽に投げられる筈であった

 

現に初のランナーを出し詠深が動揺してると

見た一塁ランナーの大島が盗塁をする気配を

見せると危うくアウトになったかもしれない

絶妙なタイミングで牽制を投げたかと思えば

次の打者に投げたストレートは今日の試合で

投げたどのストレートより早いストレートを

投じると相手のバッターは打ち損じてしまい

上手く内野ゴロに打ち取ったと思われた

 

しかし打球は飛んだ位置が悪くノーアウト

1・2塁のピンチを招いてしまった直後に

真深は詠深の表情と様子を見て異変を察知した

 

それは緊張というよりは不安と恐れを感じさせる

厳密に言うとトラウマが過ったような表情だった

 

そして次の3番打者の場面で珠姫が"あの球"を

要求したが詠深が投じた"あの球"が甘く入って

ライト前ヒットを打たれ1点を返されてしまう

 

 

「ごめん……点、取られちゃった」

 

 

それを見た真深は直ぐに詠深の心の内を察した

 

 

詠深は1人で何とかしようと焦っているのだ

中学生時代に"あの球"を捕ってくれる捕手が

居なかったために"あの球"を投げると捕手が

剃らしてしまうのではというトラウマに加え

勝つ気の無いチームでプレイしていたために

自分の作ったピンチは自分で何とかしようと

してしまっているのだと

 

 

「いけない、詠深……」

 

 

堪らず真深が詠深を落ち着かせる為にベンチから

声を掛けようと思って身を乗り出した時だった

 

 

「真深ちゃん!」

 

 

「?」

 

 

バッターボックスから声をかけられて

見てみると珠姫が真深を制するように

手の平を前に出して『任せてくれ』と

言うような表情になるとタイムを取り

マウンド上の詠深のもとへ歩いて行く

 

真深と同じ詠深の中学生時代の事情を

知っている珠姫に任せれば大丈夫だと

真深はこの場は珠姫に任せることにすると

 

 

「逸らさないよ……私は」

 

 

「!!」

 

 

「みんなで抑えよ……1人で背負わないでね」

 

 

「…………」

 

 

珠姫のその言葉で"ハッ"とした表情になる詠深

 

 

「詠深! さっきから、なんか怖いぞ」

 

 

「そうよ! リラックス、リラックス!」

 

 

更に菫と稜からも声をかけられて

詠深は安心と自信を取り戻した表情になり

それを見た真深も安心して胸を撫で下ろしていた

 

 

「良かった……何とか立ち直ったみたいね」

 

 

「真深ちゃん……詠深ちゃんに何が起きたの?」

 

 

「中学校の時のトラウマを思い出したのよ」

 

 

「トラウマ?」

 

 

「入学式の時にも言ったでしょ?

詠深の中学校のチームは勝つ気がなかった上に

詠深の"あの球"を捕ってくれる捕手もいなかった

だから詠深は自分で招いたピンチは自分1人で

何とかしなくちゃいけないと思うようになったの

だから初めてのランナーを出したことで中学校の

時のトラウマが甦って気が焦ってしまったのよ」

 

 

「そうだったんだ……詠深ちゃん」

 

 

真深の話を聞いて芳乃も詠深の

心境を察してか悲しそうな表情を見せたが

 

 

「ですが……今の武田さんには

上杉さんや山崎さんを始め頼もしい仲間がいます

もう1人で全て背負おう必要ないと思いますよ」

 

 

藤井先生が優しい表情でマウンド上の詠深を見る

 

 

「はい! 詠深も珠姫の言葉で気付けたようです」

 

 

「そうか! それならもう大丈夫だね」

 

 

藤井先生の言葉に真深と芳乃も肯定する

現に次の打者の4番浅井に3球続けて

"あの球"を投じて三振に切って取った

 

更に捕手の珠姫は"あの球"を捕るのに

精一杯だと見たのか重盗を仕掛けたが

3塁に盗塁した2塁ランナーを見事に

アウトにして見せた

 

 

「すっ、すごい……知ってたけど」

 

 

珠姫のプレイに芳乃が目を輝かせて言うが

珠姫は"あの球"を捕ってから送球までの

流れを何度も練習していたのだ

 

 

続く6番打者の1・2塁間を抜けようとした

打球を希がキャッチし一塁のベースカバーに

付いた詠深に"トス"して3アウトに仕留めた

 

 

「みんな、予想以上だよ」

 

 

「芳乃ちゃん制服汚れるって」

 

 

ベンチに戻ってきた詠深と珠姫に抱き付いた

 

 

「浅井を三振に取った球ヤバかったな」

 

 

「あとで私にも投げて!」

 

 

稜が詠深に声を掛けた後に

希が"あの球"と勝負したいと迫っていた

そんな希をなんとか宥めた詠深がベンチに座ると

 

 

「お疲れ、詠深……はい"お水"」

 

 

「ありがとう、真深ちゃん!」

 

 

真深が詠深に水の入ったペットボトルを渡すと

詠深は豪快に、そして一気に中身を飲み干した

 

 

「ふぅ~~」

 

 

「調子はいいみたいね」

 

 

「うん! みんなのお陰だよ」

 

 

「フフフ、トラウマも克服できたようね」

 

 

「トラウマ?」

 

 

「最初のランナー出した時に

中学の時のことを思い出したんでしょ?」

 

 

「あっ……分かっちゃった?」

 

 

「当たり前でしょ

物心が付いた頃からアメリカに引っ越すまで

珠姫よりも、ずっと長い付き合いなんだから」

 

 

「そうだね」

 

 

真深の言葉に詠深も嬉しそうな表情になる

 

 

「今の詠深には私や珠姫に

皆がいるんだから、それを忘れないようにね」

 

 

「ありがとう!

もう大丈夫だから見ててね真深ちゃん!」

 

 

「えぇ、頑張って」

 

 

すっかり立ち直った詠深に真深も笑顔になる

 

 

「さあ、点取ろ!」

 

 

「行ってまいります」

 

 

芳乃が髪をピョコピョコさせて言うと

白菊が気合いの入った様子でバットを

豪快に振りながら打席に向かっていく

 

対峙するマウンド上の大野は嫌そうな

表情で白菊を睨んでいた

 

やはり前の打席での大振りに警戒感を

抱いたようである

 

 

そして大野に長打を警戒されているなかで

白菊は初球を豪快なスイングで振り抜くと

ボールは高いバウンドの打球になると漸く

落ちてきた球を二塁手が一塁に投げた時は

白菊は既に一塁に到達し内野安打になった

 

 

「初ヒットですか? やりました!」

 

 

白菊は試合で初めての安打に嬉しそうだ

そして次の打者の息吹がバントで送って

1アウト2塁と得点圏にランナーを置き

今日の試合で2安打を打ってる希に回る

 

すると柳大川越の捕手の浅井が大野に

仕草で何かの確認をしていたが大野は

それに強く首を横に振って拒否していた

 

もしかすると敬遠をするかしないかの

確認だったのかもしれない

 

首を横に振った大野がストレートを

投げると希は今までの2打席と同じ

初球を打つと三塁線に抜けたかと

思われた打球は惜しくも三塁手への

ライナーとなり希は凡退してしまう

 

希がアウトとなり次の打者の菫は四球を選び

2アウトながらも1・2塁となって3番の

珠姫に回ると初球を捉えた打球が抜けたと

思われのだが惜しくも遊撃手に捕球されて

3アウトになり追加点は奪えなかった

 

 

そして向かえた5回裏

 

 

詠深は先頭打者に"あの球"を投じるが

四球となってランナーを出してしまう

 

 

「まずいわね……

相手が詠深の"あの球"を捨ててきたみたいね」

 

 

「うん……ストライクも取ってもらえないね」

 

 

「"あの球"の見極め自体は難しくもないし

変化が大きすぎるからストライクゾーンに

通っても球審によってはボールに見えるし

待球は妥当な作戦と言えるわね」

 

 

「ですが……だからと言って

ストレートでカウントを稼ごうとすると……」

 

 

カキィィィィィン

 

 

真深と芳乃と藤井先生が話していると

続く7番打者に"あの球"を1球投げた後に投じた

ストレートを打たれてノーアウト1・2塁になる

 

続く8番打者は送りバントをしようとしたが

緊張してたのか高めのストレートを打ち上げ

捕球フライとなって1アウトを取る

 

そして次の9番打者の大野の

場面で真深は違和感を抱いた

 

大野は"心ここにあらず"という言葉が

妥当だと言えるくらいにボンヤリしていた

 

現に外にストレートを1球外した後"あの球"を

無表情で2球続けて見逃し打つ気が無いのかと

思われたが真深だけはそうは思えなかった

 

すると珠姫は"あの球"を2球見せた後なので

カウントを取りに比較的安全だと見たのか

3球目を内角へストレートを投じた直後に

大野は意識を取り戻したかの様に目付きが

変わると鋭いスイングで詠深の球を芯で捉え

外野へ大きく飛ばすと右翼手の白菊が追うが

打球はフェンスのホームランゾーンに当たり

逆転3ランとなってしまった

 

 

「私が勝ち投手! 私がエース!」

 

 

何やら大野は喜び叫びながら塁を回っている

そして詠深と珠姫を見てみると項垂れている

詠深に珠姫が焦りながら詠深に謝っていたが

確かに今のはバッテリーである二人のミスだ

 

明らかに大野は打席で集中してなかったので

少なくとも"あの球"を投げればホームランは

打たれなかった筈だと真深は厳しい見方をした

 

その後、後続には安打と送りバントでピンチを

作ったが追加点は許さずスコアは3対4となった

 

 

「逆転されちゃったか」

 

 

「でもまだ2回あるし……諦めるのは早いわ」

 

 

逆転されて気落ちしているメンバーを理沙が

持ち前の穏やかな表情と優しい声で鼓舞する

 

 

「けど、ホームランなんて初めて打たれたよ」

 

 

「ドンマイ!

自滅やないけん、気にせんでいいよ」

 

 

「この回は私に回るし直ぐに逆転してやるよ」

 

 

ホームランを打たれて苦笑いを浮かべている

詠深を希と稜が励ましていた

 

確かに相手の状況を読み違えたミスによる

ホームランであったが初めての練習試合だ

気持ちを切り替えてほしい

 

 

「さあ! 点取ろう」

 

 

「よっしゃ! キャプテン、頼みますよ」

 

 

「よしっ!」

 

 

芳乃もメンバーを鼓舞すると

この回に打順が回る怜と稜が気合いをいれる

しかしその直後に芳乃がマウンドを見て目を

輝かせながら興奮のあまり小刻みに震えていた

 

 

「!! あ…あ…あの人は……」

 

 

「?……ああ、投手交代するのか」

 

 

見ると柳大川越の投手が変わっていて

先発投手の大野はセンターの守備についていた

しかし変わった投手を見て真深も思わず驚いた

 

 

「ねえ、詠深……あの娘!」

 

 

「え?……あっ!?」

 

 

真深に言われて交代した投手を見た詠深も

真深のように驚いたらしく目を丸くしていた

マウンドにいたのは今朝ランニングした時に

川で釣りをしていた釣り少女だったのである

すると芳乃が大いに興奮しながら喋り始めた

 

 

「去年の夏……1年生ながら

4試合で僅か3失点の速球派右腕

柳大川越の真のエース朝倉智景さん!」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

芳乃の話を聞いた真深と詠深は思わず

驚きの声を上げてしまった

 

あの釣り少女こそが試合開始前に芳乃が

話していた柳大川越のエースの朝倉投手だった

すると真深と詠深の視線に気付いた朝倉投手も

帽子を取って真深と詠深にお辞儀をしていた

 

そして朝倉投手は評判通りの圧巻の投球を見せる

 

4番の怜が手も足も出ずに三球三振に打ち取られ

続く稜と理沙も三球三振と9球で新越谷の攻撃は

あっさりと終わってしまった

 

 

「三者連続三球三振……」

 

 

ベンチでは芳乃が涙ぐんでいた

 

 

「何だ芳乃、感動したのか?

私たちが打ち取られる様を見て」

 

 

「それはないでしょ稜ちゃん

味方打線が3人とも三球三振にされたからよ」

 

 

稜の指摘に真深が反論したが

芳乃が涙ぐんでいた理由はどちらでもなかった

 

 

「ううん……瞬きをするの忘れてたんだよ」

 

 

どうやら朝倉投手の投球に目が釘付けになり

目が痛くなってしまった為に涙ぐんだようだ

 

 

「実際とんでもないぞあれは

……正直全国レベルかも知れん」

 

 

「次の回、下位打線だし終わったかもな」

 

 

三球三振に打ち取られた怜と稜が

唖然としながら呟いたが

 

 

「ダメダメ!

私も打ちたいっちゃけど! 次の回絶対回してよ」

 

 

希は朝倉投手と対戦したいらしくメンバーに

自分に回すように言うが確かに次は7番から

攻撃なので詠深か白菊か息吹の誰か1人が

塁に出なければ希には回って来ないのである

 

それに先ずは6回裏の柳大川越の攻撃を

無失点で押さえるかに懸かっているのだ

つまり詠深次第ということになるのだが

 

 

すると芳乃がすがるように真深に声を掛けた

 

 

「真深ちゃん! 代打の用意お願い!」

 

 

「そうか! ウチには切り札があったんだ!」

 

 

芳乃の言葉を聞いて稜も興奮しながら真深を見る

 

 

「誰の代打で行くの?」

 

 

「それは一先ずこの回の守備が終わってからで」

 

 

「了解!」

 

 

そう言って芳乃からの代打要請に応じる真深

 

 

「あれ? 詠深は?」

 

 

「詠深ちゃんならもうマウンドにおるよ」

 

 

見ると詠深は既にマウンドに上がっていた

そして詠深は朝倉投手の投球に良い刺激を

受けたらしく6回の詠深の投球は完璧だった

 

"あの球"が面白いように決まりストレートも

キレが良くあっさりと相手の4番5番6番を

三者凡退に仕留めてしまった

 

 

そして向かえた最終回となる7回表の攻撃

 

 

「最終回、しまっていくわよ!」

 

 

「「「「「「「「「ハイ!」」」」」」」」」

 

 

大野の掛け声に柳大川越のメンバーが

最終回の守備に向かっていった

 

 

「へ? 最終回……? ということは守備は……」

 

 

「この回点取れなかったらさっきので終わりね」

 

 

「せっかく調子が上がってきたのに!」

 

 

「私もまだ受け足りない……」

 

 

詠深はまだまだ投げたいらしく

珠姫はまだまだ受けたいらしい

その為には何としても点を取らなくてはならない

 

 

「芳乃ちゃん、何とかして!」

 

 

そして詠深が急かさず芳乃に迫ると

 

 

「ここで真深ちゃんを使うよ」

 

 

「真深なら朝倉の球も打てるぜ!」

 

 

「それで誰の打順で真深を出すのよ?」

 

 

芳乃と稜が言うと菫が真深を

誰の代打で出すのかを尋ねる

次の回に打順が回るのは詠深、白菊、息吹だ

 

 

「もしも同点に追い付くか逆転できたりしたら

詠深ちゃんしか投手がいないから詠深ちゃんに

代打を送るわけにはいかないから白菊ちゃんか

息吹ちゃんのどちらかってことになるんだけど」

 

 

「私は打ちたいです!」

 

 

白菊が真っ先に代打拒否の意思を示した

 

 

「それじゃあ息吹ちゃんの

打順で真深ちゃんを代打ってことで良いかな?」

 

 

「どうぞ、どうぞ!

私じゃ、あんなの打てないもん!」

 

 

息吹は逆に二つ返事で代打を了承したので

最終回の攻撃で息吹の打順で真深が代打で

出ることになった

 

 

そして七回表の攻撃の先頭打者の詠深に対して

朝倉は2球続けてストレートを投げあっさりと

追い込むと3球目は速く速度から落ちる変化球

スプリットで詠深を三振に仕留めた

 

 

「ドンマイ、詠深」

 

 

三振してベンチに戻ろうとする詠深に逆に

ベンチから"ネクストバッターサークル"に

向かう真深が声をかける

 

 

「朝倉さん……ストレートだけで

打ち取れるって分かっていて私に

スプリットを見せてくれたみたい」

 

 

そう言う詠深の表情は嬉しそうなものだった

きっと全国レベルの選手に認められたようで

嬉しかったのだろう

 

 

そして白菊も三球三振に打ち取られて

遂にあと1人で柳大川越の勝利となる

 

 

『9番、川口息吹さんに代わりまして

背番号、7番……代打、上杉真深さん』

 

 

代打がコールされて遂に真深が

新越谷の試合で初めての打席に立った

 

 

「真深、頼むぞーーー!」

 

 

「真深ちゃん! お願ーーーい!」

 

 

「打て! 真深ーーーっ!」

 

 

「回してーー!」

 

 

新越谷のベンチから仲間が真深を応援している

最終回で自分が打ち取られれば負けてしまう

重圧が掛かる場面であったが真深は重圧より

嬉しい気持ちの方が圧倒的に上回っていたのだ

 

昨年の今ごろはチャンスなどの大事な場面で

打順が回るとベンチの味方から応援どころか

打つなと言うような空気が出ていたのである

 

しかし今の真深には詠深や珠姫を初めとする

真深を応援してくれる仲間がいて状況は違う

 

 

 

 

 

応援してくれる仲間のためにも打ちたい!

 

好投した詠深の頑張りに答えて上げたい!

 

 

 

 

 

真深の思いはそれだけだった

 

何より新生新越谷野球部の初陣となる

初めての試合を負け試合にしたくない

 

仲間のためにも打ちたいと思う今の真深の

感情に重圧が入れる隙など無かったのだ

 

 

「宜しくお願いします」

 

 

真深はヘルメットを取ってお辞儀をすると

打席に立ちマウンド上の朝倉を睨み付けた

 

 

「「!?」」

 

 

その瞬間、朝倉と捕手の浅井は息を飲んだ

バッターボックスから放たれている真深の

威圧に圧倒されそうになってしまったからだ

 

 

「(なんだコイツは!?

明らかに他の奴とは雰囲気が違うぞ)」

 

 

浅井は心の中で呟きながら警戒する

一方で朝倉も警戒して浅井のサインを待っていた

 

 

「(一先ず外角低めにストレートだ

厳しいコースに投げればお前(朝倉)の

球威なら押せるはずだから大丈夫だ!)」

 

 

「……」コクッ

 

 

浅井のサインに頷いた朝倉は浅井が

要求したコースに完璧に投げ込んだ

 

 

……しかし!

 

 

「フフッ」

 

 

「「!?」」

 

 

投げた瞬間、浅井と朝倉の背筋に寒気が走ると

 

 

 

 

 

 

 

グワキィィィィィィィィィィン

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」

 

 

「「「「「いったーーーーー!!」」」」」

 

 

真深の放った打球に柳大川越のメンバーは驚愕

新越谷のメンバーは同点を確信した声を上げる

 

そして打球は左中間へ舞い上がるとフェンスを

越えて校舎へと消える特大のホームランになり

新越谷が4対4の同点に追い付いた

 

 

「朝倉の球が……」

 

 

「ピンポン球みたいに……」

 

 

「軽々と場外まで飛ばされた……」

 

 

長打どころか安打すら滅多に打たれない

朝倉のストレートを場外まで飛ばされて

呆然としている柳大川越のメンバー

 

 

「私の勝ち投手の権利が……」

 

 

大野だけは同点になったことで自身の勝ち投手の

権利が無くなったことを、ぼやいていた

そんな中で真深は淡々と塁を回ってホームを踏む

 

 

「真深ちゃん、回してくれてありがとう」

 

 

「希ちゃんも、頑張って」

 

 

「うん」

 

 

朝倉と対戦したがっていた希が回してくれた

真深と嬉しそうにハイタッチをすると打席に

向かっていった

 

 

「真深ちゃん、ナイバッチ!」

 

 

「マジで打ったな真深!」

 

 

「よくやった真深!」

 

 

ベンチに戻ってきた真深を詠深と稜と怜が

真っ先に出迎えると他のメンバーも次々と

真深を手荒く祝福した

 

 

「…………」

 

 

一方でマウンド上の朝倉は呆然とした表情で

ベンチで仲間の祝福を受ける真深を見ていた

 

 

「大丈夫か朝倉?」

 

 

急かさず捕手の浅井がマウンドに駆け寄る

 

 

「正直……投げた瞬間打たれたと分かりました」

 

 

「私もだ……中村の他にあんな奴が居たとはな」

 

 

そう言いながら浅井もベンチにいる真深を見る

 

 

「兎に角、今は中村を打ち取ることに集中しよう」

 

 

「そうですね」

 

 

「球威もコントロールも悪くなかったんだ

外角低めという難しい球を完璧に打った奴を

褒めるしかないと思って気持ちを切り替えよう」

 

 

「はい」

 

 

浅井の言葉に表情を引き締めて頷く朝倉

そして希に打順が回り打席に立った

 

 

「希ちゃん打ってーーー!」

 

 

「二者連続ホームランだ!」

 

 

「逆転するぞーーー!」

 

 

打席に立った希に芳乃と稜と怜が声を上げる

 

 

「(ここまでの3打席……中村には

いずれも初球を打たれてる……慎重にいくぞ)」

 

 

「……」コクッ

 

 

浅井のサインに頷いた朝倉は先程の真深の

ホームランの影響もあってか交代してから

相手の打者への初球はストレートだったが

今回はスプリットを投げて希は空振りした

 

続いて外角高めのストレートを空振りさせ

あっという間に希を追い込んだ

 

 

「希ちゃんがあっさり追い込まれた」

 

 

「真深にホームランを打たれて

動揺してるかと思ったが……精神力も凄いな」

 

 

本塁打を打たれた後の投手は動揺して球威や

制球が乱れることもあるが朝倉には動揺した

様子は見られず詠深と怜は精神力の高さにも

驚かされていた

 

 

「現に今のストレートさっきより速い」

 

 

「私たちの時は手を抜いてやがったな」

 

 

「若しくはホームランを打たれて

逆に刺激を受けたのかもしれないわね」

 

 

菫と稜と理沙が更にギアを上げた朝倉の

ストレートを見て感想を口にしているが

そこから希は粘りに粘ってスプリットを

カットしボール球は確実に見送っていた

 

しかしストレートで勝負をしてほしいと

思っていた希の表情はどこか不満そうだ

 

すると希は自分の意思を伝えるかように

バットを通常より前に構えストレートを

要求する意思表示を示した

 

 

「(直球勝負して!)」

 

 

「(!!)」

 

 

そして朝倉も希の意思を察した表情になる

 

 

「(追い込まれてから何て集中力……

次の打者は確実に打ち取れるだろうし

振ってくれたらラッキーくらいの気で

スプリットのボール球を続けようか?)」

 

 

捕手の浅井が希を打ち取る為に変化球を

続ける考えを思い巡らしたが希と朝倉の

意思に気付いたかは分からないが直ぐに

その考えを放棄した

 

 

「(いや……逃げていては何も得られない

それに2球目では空振りも取っているしな

先程のリベンジも兼ねて最高の直球を頼む)」

 

 

浅井がストレートのサインを出すと

朝倉も笑顔で頷き真深に投げたのと

同じように内角へ渾身のストレートを投じると

希が嬉しそうな表情になってフルスイングした

 

 

ガキィィィィィィィィィィン

 

 

「「!!」」

 

 

希がストレートを捉えると打球は

右中間へ大きく飛んで行った

 

 

「ジャストミート!」

 

 

「右中間大きい!」

 

 

「二者連続か!?」

 

 

急かさず新越谷のメンバーがベンチから

身を乗り出し希の打球の行方を見送るが

センターの守備につく大野の足が止まり

 

 

「なに二人続けて外野まで飛ばされてんのよ」

 

 

不満そうな表情で呟きながらフライを捕球した

 

 

「3アウト! チェンジ」

 

 

希は打ち取られ七回裏の柳大川越の攻撃に移った

 

 

「あ~~、惜しい!」

 

 

「もう、ちょっとだったな……」

 

 

長打かと期待した芳乃と稜が天を仰ぐ

 

 

「これでこの試合でウチの勝ちは無くなったな」

 

 

その直後に呟いた怜の一言を聞いて

苦笑いを浮かべる新越谷のメンバー

今日の練習試合は延長戦はないので

7回が終わった時点で同点だったら

引き分けで終わることになっている

 

 

「せめて引き分けにして終わらせよう」

 

 

「「「「「「「「おーー!」」」」」」」」

 

 

芳乃の声かけに全員が守備に向かっていった

因みに真深はそのままレフトの守備に付いた

一方で柳大川越のベンチは……

 

 

「スミマセン……打たれちゃいました」

 

 

「全くだわ……

私の勝ち投手の権利が無くなったじゃない」

 

 

「アハハ……」

 

 

大野に嫌みっぽく言われて苦い表情になる朝倉

 

 

「だけど、それ以上に気に食わないのが

私が投げてる間、主砲を温存した向こうの采配ね」

 

 

一転して大野はレフトの守備に付いた真深を見る

 

 

「やっぱり、あの人が

新越谷のレフトの主力なんスかね?」

 

 

「当たり前でしょ!

背番号も7番だし、あれだけの長打力を持った

打者を控えにしておく理由が何処にあるのよ?」

 

 

「確かにあの打力は粱幽館の中田と同格か

もしかすると、それ以上の打者かもしれないぞ」

 

 

大島の呟きに大野と浅井が

真深を見ながら受け答えをする

 

 

「まあ、考えても仕方ないわ!

気持ちを切り替えてサヨナラ勝ちを狙うわよ

7番からの打順だからチャンスで私に回すのよ」

 

 

「さっき、ホームラン打ったッスもんね」

 

 

「そうよ! さあ行きなさい」

 

 

「行ってくるわ」

 

 

大野の言葉を受け気合いを入れた

7番打者が打席に向かっていった

 

 

「投げるぞーー!」

 

 

7番打者が打席に立つと詠深は

自らを鼓舞するように声を出す

そして1球目は珠姫のサインを

確認し"あの球"を投げ込んだが

やはり見送られてしまう

 

 

(だったら外一杯に直球を)

 

 

(うん!)

 

 

2球目は外角へ直球を投げると

打者はバットの先で引っ掻けて

三塁線に転がるだけの打球と

なったが勢いが無かった為に

詠深がボールを取りに走った

 

 

「詠深ちゃん! 取ったら直ぐ一塁に投げて」

 

 

「オッケー!」

 

 

詠深はボールを掴むと直ぐに一塁に送球する

 

 

 

 

 

 

 

…………が!!

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

体勢が悪かった上に打者が一塁に

到達しそうになっていたこともあり

焦ったのか詠深の送球は悪送球となり

一塁手の希のグラブから逸れてしまい

打った打者を二塁へ進めてしまった

 

それに柳大川越のベンチが盛り上がる

一方で詠深は自分のエラーでピンチを

作ってしまい表情が青ざめてしまう

 

これでノーアウト二塁

ヒット1本でサヨナラのピンチとなる

 

 

「ドンマイ、詠深ちゃん

今のは確かに難しい打球だったし仕方ないよ!」

 

 

「取れなかった私にも責任あるけん……ゴメン」

 

 

「気をしっかり持って」

 

 

「しっかり守っていこうぜ」

 

 

「詠深ちゃんなら大丈夫よ」

 

 

直ぐに詠深の元に捕手の珠姫に加え

内野陣の希、菫、稜、理沙が集まり詠深を励ます

 

 

「う、うん……大丈夫」

 

 

仲間に励まされ少しは落ち着いたが

場面が場面なだけに完全に動揺は無くならない

 

 

「詠深……」

 

 

レフトを守る真深も心配そうに詠深を見る

 

 

「う~~、ここに来てエラー?」

 

 

「確かに難しい打球ではありましたけどね」

 

 

「詠深……大丈夫かしら?」

 

 

ベンチの方でも芳乃と藤井と息吹が

心配そうに詠深を見て呟いていると

柳大川越はエラーで出たランナーに

足の速い選手を代走に出して来た

そして続く打者は先程送りバントを

失敗した8番打者の阿部だった

 

 

「(今度はちゃんと送る!)」

 

 

阿部は心の中で自分を鼓舞すると

きっちりランナーを三塁に進めて

今度は詠深が冷静に一塁に送球し

ワンアウト三塁と一打サヨナラの

場面で先程ホームランの大野に回る

 

 

「阿部……ナイスバント!」

 

 

「決めてよ、彩優美(大野)」

 

 

バントを決めてベンチに戻る

阿部とハイタッチをして大野は打席に立つ

 

 

「私のバットで朝倉を勝ち投手にするのは

癪だけど勝つためにも私が決めてやるわよ」

 

 

気合い十分にバットを構える大野

 

 

「大野さん、決めるッスーーー!」

 

 

「大野さん!」

 

 

ベンチから大島と朝倉も声を上げる

ワンアウトだから内野ゴロでも点が入る上に

暴投でもすれば目も当てられない状況となり

詠深は緊張のあまり心臓が激しく動いていた

 

 

「(内野ゴロも許されない

大野さんに揺さぶりを描けるためにも

ボールになって良いから外ギリギリに直球を)」

 

 

珠姫は外角にミットを構えストレートを要求する

 

 

「…………」コクッ

 

 

詠深は気を引き締めた表情で頷いた

 

 

「(絶対に……抑える!)」

 

 

心の中で自分に言い聞かせ

詠深はストレートを投げた

 

 

しかし!

 

 

「(甘い!?)」

 

 

まだ完全に動揺が収まってはいなかった詠深の

ストレートが外角の甘いコースに行ってしまい

大野がそれを逃さずバットを振り抜いた

 

 

カキィィィィィィィィィィン

 

 

「「あっ!?」」

 

 

大野の打球はレフトへの大きな当たりになった

 

 

「やったわ! 犠牲フライは確実ね」

 

 

三塁ランナーは足の速い選手に変わっており

柳大川越のベンチもサヨナラ勝ちを確信して

歓声を上げている選手もいて新越谷の仲間も

サヨナラ負けを覚悟した

 

 

そしてレフトの真深が打球を捕球して

 

 

「もらったーーー!」

 

 

三塁ランナーがスタートしホームへ走ったが

ボールを取った真深が振りかぶったと同時に

 

 

「(!?……来る!)」

 

 

何かを察した捕手の珠姫がミットを構えた瞬間

 

 

 

 

 

 

 

ドギュュュュュュュュュュュュュュュュン

 

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

今度は柳大川越の選手だけでなく

新越谷のメンバーも驚かされてしまった

真深は取ると同時に朝倉のストレートも

顔負けの凄まじい送球をホームに投げた

 

 

バシッ

 

ズシャーーーッ

 

 

真深からの送球がランナーを追い越し

珠姫のミットに収まると同時に珠姫は

走ってきたランナーの足にタッチした

 

 

「アウト! ゲームセット!!」

 

 

フライを捕球したことによるアウトと

ランナーをホームで刺したアウトによって

ダブルプレイとなりスリーアウトが成立し

試合は4対4の引き分けに終わったのだった

 

 




1話で柳大川越との試合を書き終えようと
思ったらこんなに長くなってしまいました

スミマセン……

今回はそれなりに自身のある出来になりましたが
もしご意見がありましたらご鞭撻お願い致します

それではまた次回まで失礼致します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。