グレネードランチャーを撃てども撃てども巨人は一向に倒れません。さすがにジャックも苛立って舌打ちをしました。
「やい巨人! 爆撃を一旦止めてやるから話し合おうじゃないか!」
「散々攻撃しておいてよく言う! 話し合いに応じるとでも思ったか小僧!」
「実は招待状を貰った! かの竜宮城に住むと言われる絶世の美女からだ! それでもか!」
「なに!」
「それでもか! 俺達はお前の実力を測る為の尖兵にすぎない! お前のタフネスは見上げたものだ! パワーも申し分ない! 太郎一族の一人、桃太郎ですら一撃であのざまだ!」
仮死状態に陥ってグッタリしている桃太郎と、それを抱える浦島がそこにいます。狼はどうしたらいいものやらうろたえていました。
「だからお前には竜宮城へ行ける権利をやろう! もちろん我々の独断だ! 悪くない話だとは思わないか! 俺たちへの苛立ちを腹に収めれば、乙姫と酒池肉林が待ってるぞ!」
巨人は考えました。撮るに足らない小人が四匹。家を失ってしまいましたが、それでも乙姫に一目会ってみたいという下心が捨てきれません。ジャックの言葉巧みな話術に巨人の心が揺れました。
「俺達に指一本触れてみろ! お前のごんぶとな指で俺の懐から乙姫からの招待状が無事に取り出せる自信があるならな!」
「グ、グググ……! よ、よし分かった! その招待状とやらを早く渡せ! そうしたら今すぐにでもこの場を去ってやろう!」
「よし、なら少し待っていろ」
ジャックが胸ポケットから取り出したのは一枚の封筒。それを見せつけ、差し出された巨人の掌に乗せました。
「竜宮城へはこの道をまっすぐ、その港から海に潜った先にある! 楽しんで来い!」
「おう! ガッハッハッハ!」
巨人は大笑いしながら焦げ付いた服のまま去っていきます。ジャックは冷や汗を拭いました。それもそのはず、オートマティック・グレネード・ランチャーの残弾数が底を尽きそうになっています。
「ふぅ、どうなることかと思ったがチョロかったな」
「ジャック、お前を軽蔑する」
「この腐れ外道」
「なんだとお前ら! 人が巨人をどうにか追い払ったのに!」
「大体なぜお前が竜宮城からの招待状を持っている!」
「あれは嘘だ」
堂々と言い放つジャックの顔に浦島の鉄拳が突き刺さりました。
「お前、なんて奴だ! その場を切り抜ける為とはいえ嘘を吐くとは! 見損なったぞ! 今まで馬の骨のような奴だと思っていたがこれからは馬糞のような奴だと誉め称えてやる!」
「なんだと浦島! 確かに俺は太郎一族じゃない、金太郎も罠に掛けてその大金を奪おうとしたこともある! だがお前には特にこれといって何もしてこなかったのにどうしてだ!」
「そんなことまでしてたのか!?」
「オハヨー」
「「桃太郎!」」
仮死状態に陥っていた桃太郎が起き上がります。言い争う二人もそれに驚いていました。浦島の予想ではあと一時間は目覚めないはずでしたが、秘孔を突くのが浅かったのでしょうか?
「桃太郎、大丈夫か」
「なんだか今はとても身体が軽い。こんな気持ちなのは始めてだ。まずは風呂だな、うん。一張羅が台無しだ」
「ならすぐにでも沸かそう。おい狼、手を貸してくれ」
「しょうがないにゃあ」
「おい狼。狼!」
「ワフン! きゃうんきゃうん!」
狼がジャックに追い掛け回されながら風呂を沸かしにいきました。
「桃太郎、ジャックのことなんだが」
「なぁに、汚れ役なのは知っている。だがアイツが頼りになるのも間違いない。少なくとも俺達太郎一族よりも頭は回る。舌も回る。小手先の器用な男だ」
「だがアイツは金太郎を!」
「罠にかけたというなら、実は俺もだ」
「なにぃ!?」
「金太郎は俺の楽しみに取って置いたシュークリームを一人で食べたからな。その腹いせに罠に掛けてやったんだ、ジャックと一緒に」
「なら仕方ないな……」
掟に従った罰なら浦島からは何も言う事はありません。
「しかし、桃太郎。秘孔を突いてから一時間も経過していないのに快復したのか」
「うん? 絶好調だぞ。それがどうかしたのか浦島」
「…………いや。さすが太郎一族の名前を継ぐだけはあるなと思っただけだ」
「はっはっは、俺は桃から生まれた桃太郎だからな。太郎一族当主、初代桃太郎様と同じ出生だ」
「かつて同じように日本一を目指した御方。今となっては隠居生活で嘆かわしい……俺とて浦島の一人だ。なんとしても竜宮城を攻略して見せるとも。俺の代でこの長い戦いも終わらせてみせる」
「俺も全力を尽くそう、浦島」
「風呂が沸いたぞー」
「おお、ありがとうジャック。狼はどうした?」
「にんにくとたまねぎのダブルコンボで発狂中だ」
「何をしているんだお前は!?」
翌朝、白目をむいて痙攣している狼が屋根の上で逆立ちしてるのを発見した浦島が桃太郎と同じ秘孔を突いてやりました。仮死状態の狼を背負い、一行は再び港へ向けて歩き出します。
港に到着すると、そこはかつて美しい港町の景観を失っていました。霧が立ち込め、黒く大きな影と巨人が死闘を繰り広げています。その足元には半漁人たちが群れて闊歩していました。これは一体どういうことでしょうか。
「くそ、俺達が別な街に立ち寄って換金してる間に一体何があったんだ!」
「ギャンブルでボロ儲けしたから遊んでたのがいけなかったのか?」
「やはりさっさと来るべきだったな。あれは乙姫の親衛隊だ」
浦島に言われて目を凝らしてみれば、確かに装備が整っているようでした。ですが巨人の家から死ぬまで拝借した新装備の前ではゴミクズ同然。四人の進行を阻めるはずもありませんでした。
そんな桃太郎達に気付いたのか、巨人が触手で首を絞められながら睨んできます。
「き、貴様ら……話が、違うではないかぁぁ……!」
「ふっ、竜宮城からの尖兵というのは仮の姿。そいつは門番、いわばゲートキーパー!」
「意味同じだろう」
「つまりそいつを倒さなければ竜宮城へと入る事は出来ないのさ!」
「よくもまぁそんな口から出まかせがスラスラと出てくるなジャック」
「さぁ巨人よ、俺達の手を借りれば難なく行けると思うがどうする!」
外道ここに極まれり、巨人は遠のく意識の中で自分のプライドと乙姫に会いたい下心とを天秤にかけます。まだ見ぬ美女を目の前にここで挫折するのか、否。男にはやらねばならぬ時があります。
「た、頼む! 俺に手を貸してくれぇ! こんな所で倒れる訳にはいかんあのだぁ……!」
「だそうだ。どうする桃太郎」
「とりあえず半漁人を片づけよう。デカイのは任せたぞジャック、浦島。狼と俺は雑魚を掃除する」
「心得た。往くぞ馬糞野郎」
「オーケー。派手にやろうか浦島! あとで殴らせろよお前!!」
「仲良いなぁ、あの二人」
「どこからどう見ても浦島さんがジャックからの機関銃を避けながら敵を蹴散らしているように見えるんですが」
「あれは連携ぷれぇという“ちぃむわぁく”だ。ちぇえええええけえええ!」
「アチョー!」
桃太郎もチェーンソーを振り回して半漁人を
目指すは竜宮城です。桃太郎達は巨人を美味く利用しながら占領された港町を奪還する為に戦い続けました。