桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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来るなら来てみろ三蔵法師!

「いやーいい湯だった」

「ホッカホカだ」

「ふにゃ~」

「ジャック! 貴様に果し合いを申し込む!」

「望むところだ! 風呂上りといえばこの決闘に限る!」

『卓球!』

「ちょっと待ったぁー!」

『止めないでくれ親指姫!』

「お風呂上りにはしっかり水分補給ですよ!」

 桃太郎とジャックはラケットを持ってすっかりその気でしたが、親指姫の必死な牛乳アピールに一度ラケットを置きました。

「命拾いをしたな、ジャック」

「ハハハ、ぬかせ、桃太郎。お前の方こそ……」

 互いに指を指しながらテーブルを挟んで二人は親指姫が持ってきた牛乳ビンを手に取ります。

「宣誓ー、我々はー正々堂々スポーツマンシップに則りー」

「正面から眼前敵の粉砕を心に誓います」

「この契約内容を互いに合意の下として、乾杯!」

「乾杯!」

「かんぱーい!」

 グビグビグビ、プハー。ゴクゴクゴク、ゲフゥ……グイッ。

「ップハァ、ッシャーオラー! 行くぞ桃太郎!」

「ッサーいくぞー! 先攻は頂いた!」

「おう、望むところよ!」

「俺のターッ、サァッ!」

「ナイッサー! トゥラァー!」

 先攻は桃太郎です。手首のひねりを加えたカットから始まったサーブは華麗にネットの上を通り、ジャックは順当に返しました。それからしばらく二人は勘を取り戻すためにラリーを続けます。

「牛乳美味しいですわぁ。ぐびー」

 親指姫はそんな二人を観ながらストローで紙パックの牛乳(350ml)を飲んでいました。一リットルを飲み干した二人は激しい動きで浴衣が着崩れていきますが、そんなことはおかまいなしに半裸で卓球に熱中しています。

「…………ガタッ」

 これにはさすがの親指姫も立ち上がってしまいました。

「これは熱くなりますね」

 じゅるりとヨダレを拭います。

「ふふふ、ここらでいいか」

「おう、サーブはくれてやる桃太郎。俺たちの勝負はこれからだ」

 体が温まったところで桃太郎がピンポン玉を手に取りました。勢いの止まらないそれは煙をあげながらようやく止まります。

 左手の上に乗せ、ラケットを構える桃太郎の姿は真剣そのもの。対するジャックもまた肩を一度回してから腰を沈めました。

「行くぞぉおおおお!」

「ッシャーオラァアア!」

「貴様の心臓目掛けて灼熱豪華絢爛舞踏祭弾ッ!」

「なんのこれしきぃ、ふぉおおお唸れ右腕! 今必殺のダイナマイトクロスボンバー!」

(こいつ、あの剛速球にドライブをかけて返しやがった! おのれジャック、腕を上げたな!)

(どうだ、桃太郎。暇を見つけては手首のスナップを鍛えてきた俺のドライブは!)

「そんなお前に敬意を評して、ダイレクトアタァァァック!」

「ヴォ、ヴォンバァァァァァ!!」

「ああ! なんてこと、ジャックさんがピンポン玉の直撃を……んん~~、ジャッジは顔面セーフで!」

 

 ――桃太郎、お前って奴ぁ……! いい弾、打つじゃねえか

 ――どやぁ……。

 

 血と汗と迸る情熱。そして飛び交うピンポン玉。いつしか桃太郎とジャックの卓球勝負は拳で語り合ってました。

「はぁ!? 何言ってんのお前!? 今のは明らか俺のルールじゃノーだし!」

「何言ってんだお前!? ネットに引っかかって打ち返したじゃない!」

「そのネットに焦げ跡ついて貫通したんだが!?」

「おのれジャック、一点くらいいいじゃないか」

「いいや、良くないね。その一点が生死を別けるんだからな」

「なら仕方ないな。ここは公平にお互い一点追加でどうだ」

「…………うむ、そうしよう」

「すいませーん、牛乳おかわりー」

 

 

 ――そんな二人の決闘から一夜が明けた、翌朝。

 

「ハァイハイ、起きるヨー! 朝ごはん出来てるヨー、食べないとワタシ困っちゃうねー」

 女将が起こしに来て、三人と一匹は眠気を引きずりながら食堂に降りました。

「はぁーいお待たせよー」

「…………えー、今朝のメニューは」

「フフン、ご覧の通り。超濃厚ドロリチャーシュー豚骨ラーメン! 出来たてホカホカ超新鮮、新メニュー!」

「さすが女将の粋な計らい。いただきます」

「いいのかそれで桃太郎。ツッコミはなしか」

「はいそっちのワンちゃんにはほねっこマシマシドッグフード」

「うまうまモグモグ」

 静かな朝食を食べていると、街中に響く警笛。誰かが叫びます。

「大変だー大変だー! 思ったより早く三蔵法師と思わしきハゲとその妖怪達が近づいてきてるぞーーー!」

「なんだってズルズル大変だモグモグ、想像以上に、濃いっ……!」

「なら俺たちも早くモグモグ行かないとだな。チャーシューうめぇ」

「そうですねぇモキュモキュ。ああ、ダシが聞いていて骨の旨みが堪らないです」

「ガツガツハグハグモグモグペロペロ」

「すいませーん、女将さん。ちょっと食器持って行ってきていいですか?」

「いいヨー。食べ終わったらちゃんと持ってきてねー。気をつけてー」

 旅館を後に、桃太郎たちは超濃厚ドロリチャーシュー豚骨ラーメンをすすりながら様子を見に行きました。

「ズルズルー。三蔵法師が来たそうですね」

「ラーメン臭ッ! ああ、桃太郎さん達でしたか。ええ、予想以上に三蔵法師たちの到着が早くて……」

「もっちゃもっちゃ。おい桃太郎あの方角なら俺たちが遊びながら作ったトラップの……」

「ああ、そういやそうだ。どれぐらい効果があるかはわからないけどな。ズズズー……ん、このスープはなかなかイケるな」

(ラーメン片手になんて余裕だ。これが太郎一族の貫禄! でも朝からラーメンってどうなんだその食生活……!)

 

 

 

「ふふふ、あれが天竺。見えてきましたね」

「そっすねー」

「というか豚が遅くないっすか」

「とうですね、まぁ豚ですし」

「やっぱ河童が行けばよかったっすねー」

「そやな」

「お黙りなさい、孫悟空、沙悟浄。元はと言えばお前たちがあそこまで拡散したのが旅のきっかけなんですから」

 三蔵法師は白馬に跨りながら妖怪たちの軍勢を率いて進軍しています。そして城壁を見上げ、足を止めました。

「あれ、私の知ってる天竺と違う。どういうことですか孫悟空!」

「俺っすか!? えー、なんでも最近大掛かりな改修があって景観ぶち壊しって話を聞いたことが」

「つか、その原因俺たちじゃねーんすかね?」

「…………進軍! 目的地はもうすぐそこです! 行きなさい貴方たち、一番乗りは譲りましょう!」

『ヒャッハァー! 温泉だー!』

 地鳴りのような響きと共に勢いよく駆け込む妖怪たちでしたが、その先陣を切っていた部隊が突如として消えました。

「落とし穴だと! なんて前時代的なトラップを……! おのれ小癪な!」

「助けてくれー! 助けてくれー!」

「ぎゃあああー! なんだこの虫の群れ! イタイ痒いンギモヂイイイイイイイ!!」

「ええい、何を怯んでいるのですか! 早く行きなさい!」

『一番乗りは、この俺だぁああああ!! あああああ――――……!!』

「ああ、今度は落石に巻き込まれた!?」

 まさに阿鼻叫喚。次々と妖怪たちが仕掛けられた罠にはまっていきます。

 思いつく限りの虫を入れた落とし穴。爆薬を巻いた大岩。続いて地雷原。

「ぎゃーーーー!!」

「ぐわーーーー!」

「助けてくれー!」

「なんだこりゃあ! うわーー!」

「逃げろー、スカラベの大群だーー!!」

「ああ、まさかあれは! あれは!」

 地獄絵図。いえ、地獄でも早々見られないような、鬼も泣き出す光景が今、三蔵法師たちの前に広がっていました。


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