桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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旅立ち編:怪奇! 港町に潜む奴!(前篇)

 桃太郎一行は大草原を進み、海に向かいます。目印はジャックの家の隣に生えている豆の木。道に迷うような事もありません。

 段々と磯の香りが鼻につくようになってきました。港が近いのでしょう。

「浦島は元気にしてるだろうか」

「いつだったか魚を買いに行った時はまだ元気だったが……今年の初め辺りから少し様子がおかしかったな」

「またあぐらで空中浮遊でもしてたのか」

「いや、それは昔からだろう。浦島が、というよりは港町の様子だ」

 ジャックが言うにはなんだか漁師たちの顔がのっぺりとしていたというのです。

「巷の港では整形がブームなんだろう」

 人食い狼がやけに静かです。心なしか顔色も悪いではありませんか。どうしたのでしょう。

「大丈夫か、人食いコロ」

「腹の調子でも悪いのか、コロ食いコロ」

「アンタら俺の名前をコロで定着させるな! コロコロうっさいよ!」

「じゃあどうしたんだよ人食い狼コロボックル」

「こんな妖精嫌すぎる」

 ジャックの素直な一言に人食い狼の心は傷つきました。すっかり弄られキャラが定着してしまっています。なんとかそのイメージを払拭しようと頑張ろうとしますが、やはり調子が悪いようでした。

「それでどうした」

「いや、磯の香りに混じって」

「すまん、屁をこいたのは俺だ」

「ジャックゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 人食い狼が白目を向いて泡を吹きながら倒れます。痙攣して動かない獣を二人は担いで港に向かいました。何はともあれ人食い狼は休息させなければなりません。

「まったく足手まといな」

「そう言うなジャック。俺が旅を始めて一日目で仲間になってくれたいい奴なんだから」

「お前がそういうなら悪くは言わないさ。俺も楽しませてもらってるからな」

「そうかそうか。それに、いざという時は非常食になりそうだし」

「ハッハッハ! 相変わらずお前のジョークは厳しいな桃太郎!」

「えっ」

「えっ」

「…………あ、あぁ。うん、悪い」

「お、おう……」

 港に到着した頃には微妙な気まずさを残して桃太郎は浦島を探し始めました。ジャックはその間に人食い狼と共に宿を探します。

「チョリーッス、今晩宿いいっすかー」

「勘弁」

 一件目は問答無用に断られました。

「チーッス、今晩宿空いてますかー」

「残念」

 二件目は都合がつかなかったようです。

「チャーッス、今晩どうですかー」

「あらいい男……」

 三件目で遂にジャックはナンパに目的がすり替わりました。──偶々同じ道で出会った桃太郎に腹パンされてデートを断念することになります。

「宿を探してくれないかジャック?」

「お、おうふ。分かったから俺のボデーにいい拳をくれるのはやめてくれ……浦島は見つかったか?」

「いやぁ、駄目だ。漁師を片っ端からちぎっては投げちぎっては投げ聞いたんだが」

「投げんな!」

「「あ、人コロ狼。起きたのか」」

「もう狼でいいです……だからコロだけはやめてください……! お願いします、お願いします……!」

 とうとう人食い狼の心が折れました。泣いて土下座しながら懇願します。さすがの二人もこれはやりすぎたな、と反省しました。

「そうだな、悪かったよ。……えーっと」

「俺も調子に乗って悪かったな。…………あー」

「「確か…………犬っコロ」」

「俺の心はそろそろ限界かもしれない……」

 旅立ち二日目にして人食い狼の心は複雑骨折を極めそうになってます。桃太郎とジャックは改めて謝罪して浦島を探しました。宿は後回しです。

「すいませーん、ちょっといいですかー」

「アーイ」

「コノヘンデー、浦島ー、ミカケマセンデシター?」

「シラナイネー、ワタシラ、ゼンゼンヨー」

「アリガトネー!」

「イイエー!」

「…………ふぅ、ここも駄目か」

「なぜ片言で聞いた桃太郎!」

 しかし聞けども聞けども一向に浦島の手掛かりは掴めませんでした。

 夕方になり、桃太郎はまた明日探すことにして宿を探します。しかし、どういうことでしょうか。行く宿は全て三人を門前払いするのです。これは怪しいと思い、桃太郎一行は原因を探りました。

「狼、お前のせいかもしれないな」

「なぜにそうなりますか桃太郎さん」

「普通に考えてみろ。二足歩行する破れたジーンズ穿いた狼を連れた一行を誰が泊めると思う」

「ついでに言うならお前の名前、人食い狼だもんな」

「そ、それならアンタ等もだろう! 木刀と刀を持った男と弓矢と猟銃持った男を誰が泊めようと言うんだ!」

「猟師とか」

「ハンターかな」

「俺が狩られる側だった……!」

 次の宿では物は試し。狼を宿の前に番犬として置き、二人は宿の主と交渉を始めました。それからしばらく中では口論が起きていたようですが、やがて二人が出てきます。

「ああ、どうでしたか桃太郎さん、ジャック」

「ふぅ、中々いい拳持ったおっちゃんだった……あれは効いたな。ワカメサーベル」

「あの美人の奥さんの使う昆布ウィップも強敵だった」

「話し合いはどうしたぁああああああ!!」

「肉体言語!」

「駄目だった」

「あの山に帰りたい……」

 ぺっぺっ、と二人は口から塩を吐いていました。

「ところで狼。もう体調は大丈夫か」

「まさか俺の屁であそこまでダメージ食らうとは心外だったぞ」

「あれはジャックの屁がトドメでしたが、実は港から変わった臭いがしていたのです。例えるなら……頭に直接響くような甘い香り、というか名状しがたい香りというか」

「分からん」

「さっぱりだ。狩猟民族の体臭は鼻が曲がるほど臭かったが」

「懐かしいな、宇宙から成人式に来た狩猟民族。あの日の修学旅行はスリリングだったな……」

「思い出話に華を咲かせるのはまた後にしようぜ、桃太郎。とにかく今は宿を探さないと」

 そう言って気を取り直した三人は、物陰から呼び止められます。すっかり日が暮れてしまい、誰がそこに居るのかなど分かりません。ですが名前を呼ぶと言うことは……。

「まさか、そこにいるのは浦島か!」

『……桃太郎、こっちだ。早く来い』

「いや、まだお前が浦島だと決まったわけじゃない。本当に浦島なら証拠を見せてくれ」

『証拠? 証拠と言われても、お前の名前を呼んでるのが何よりの──』

「どうした桃太郎。向こうの通りに向かって声を出して」

「どうかしましたか桃太郎さん」

『…………なにをすればいい……!』

 心なしか人影の声が悔しそうに震えていました。桃太郎は本当に旧友、浦島であるかどうかの為に得意技をリクエストしました。

「もし、お前が本当に浦島ならばジャックの放つ矢を受け止めてそれを同じ速度で俺に投げ返し、それを更に投げ返した矢を掴み取って上空高くに飛んでからへし折り、地面に瞬間移動できるはずだ!」

「よし来た、任せろ桃太郎! 行くぞ浦島! 懐かしの技を見せてくれ!」

『ちょ、ちょっと待っ……!』

 ヒュン! ──ギャアアアアアア!

 通りの向こうから悲鳴があがります。暗闇の中では流石に浦島も失敗したのでしょうか、桃太郎とジャックは慌てて駆け寄りました。

「ジャック、お前どこを狙った!」

「野暮なこと聞くなよ桃太郎! 勿論眉間を狙ってやったぜ!」

「殺す気満々じゃねーか!?」

 ですが、三人がそこで見たのは浦島ではありません。月明かりに照らされるその人影はまるで半漁人のような化け物だったのです。

「コ、コイツは……!」

「桃太郎さん、ジャック。どうやらこの港には」

「なんて不味そうな魚だ……どら猫も食わないだろうなこんな不細工な魚」

「アンタ等ちったぁ危機感持てよオイィ!」


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