機動戦士ガンダム -プリンセス・オーケストラ-   作:オリーブドラブ

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-第12話からの登場人物-

-ユリン・フロント-
 19歳。マイアミ出身。高いプライドに見合った実力を持つ、優勝候補筆頭格の士官候補生。搭乗するジムトレーナーの色は紺とクリームイエロー。
 ※原案はバッフロン先生。



第12話 鉄血の女王 -ユリン・フロント-

『面白い……面白いわ、アシューカ。まさかあなたが、これほど私を滾らせるなんてね』

 

 常に成績はトップ10。優れた操縦技術を持ち、体力も知力も抜群。そして、伝説の鬼教官と恐れられたゾネス・ゴルドー大尉も一目置くほどの才媛。

 そんな鉄血の女王は今、かつてない悦びに身を震わせている。

 

 MS戦技会3回戦、第2試合。その内容は、事実上の決勝戦なのではないかと周囲が囁くほどの激戦となっていた。

 

 この大会で他の追随を許さないほどの強さを見せ付けている、アシューカ・クトゥルナ・ジャンファール。そんな彼女でさえ、一度も勝ったことのない優勝候補筆頭格――ユリン・フロントのジムトレーナーは、初めてそのボディにペイント弾を浴びていた。

 紺とクリームイエローの機体を汚すその塗料は、急所から僅かに外れた位置に着弾している。あとほんの少し、アシューカの狙いが正確であれば。ユリンの反応が遅ければ。この試合は、すでに決着を迎えていた。

 

 かつては「温い」、あるいは「素人」と辛辣な評価を下していた後輩が、今は自分を脅かさんとするほどまでに成長している。それは負けず嫌いなユリンの性分を刺激しつつも、それ以上の「悦び」を誘うものとなっていた。

 

『……残念ですが。卒業を目前にしてあなたの時代は終わった、ということです。あなたの行動パターンはすでに解析済み……諦めて棄権した方が、余計な恥をかかずに済みますよ。ユリン殿』

『なるほど、随分と研究してきたようね。ここまで勝ち上がってきたことといい、昔のあなたとはまるで別人だわ。……ただ、口の利き方がなってないのは相変わらずのようねッ!』

 

 戦闘狂としての、愉悦に満ちた笑み。その表情を通信の向こう側から感じ取ったアシューカは、身の毛がよだつような殺気を本能的に感じ取り、咄嗟にバーニアを噴かして急上昇する。

 その足元をペイント弾が通り過ぎたのは、それから間もなくのことであった。機体の限界ギリギリまで出力を引き上げ、最高速度で接近しながら正確に射撃する。その迫力は、優勝候補筆頭格の底力を改めて証明していた。

 

 だが、条件反射によるジャンプでその猛攻をかわしたアシューカ機は、すでにユリン機の頭上を取っている。このまま有利な位置から弾幕を張れば、勝利は容易い。

 

『くッ!』

『甘いわね、それで避けたつもりッ!?』

 

 それでも、無敗の女王は「容易い勝利」の実現すら許さないのだ。アシューカ機が上空に避けることを見抜いていたユリンは、ペイント弾の連射を止めることなく、自機の照準を上に向けていた。

 狙いのブレを補正する間もなく撃ち続けているため、精度こそ落ちるが――無数のペイント弾は乱れ飛びながらも、アシューカ機を執拗に追い続けていく。空中で懸命に姿勢を逸らし、回避を試みるアシューカ機は、徐々にペイント弾を浴び始めていた。

 

『くぅうッ!』

『終わったのはあなたの方よ、アシューカッ!』

『……違う。私はまだ、終わってなどいないッ! いつまでも、あなただけの天下にはさせないッ!』

 

 それでも。越えるべき壁を破り、この大会に優勝して己の強さを確かめるために。アシューカ機も限界まで出力を高めながら、全速力でバーニアを噴かしていった。

 

『おぉおぉおぉおーッ!』

 

 上を向いているユリン機の視界から、外れるように。マシンガンを投げ捨てながら彼女の背後へと急降下していくアシューカ機は、脳天から地面に激突する寸前、ユリン機の両腰部にしがみつく。

 

『なん……ですってッ!?』

『はぁぁっ……あぁあぁああーッ!』

 

 天を衝くアシューカの絶叫と共に。両機はその体勢からバーニアの勢いで、急速に回転していった。

 やがて、低空で1回転しながら双方の位置が入れ替わった瞬間。ユリン機の頭部が地面に激突し、メインカメラが容赦なくひしゃげてしまう。

 

『くぁ……あぁあッ!?』

 

 逆さにの体勢で頭部を潰された彼女のジムトレーナーは、両腰部をアシューカ機に掴まれたまま、身動き一つ取れない状態に陥ってしまった。もはや勝敗の行方を論じる余地など、どこにもない。

 

『し、しっ……試合終了っ! アシューカ・クトゥルナ・ジャンファール候補生、4回戦進出!』

 

 勝利への苛烈な執念が生み出した荒技に、アナウンスは動揺を隠し切れないまま、試合の終わりを告げている。その結末の凄まじさは、全ての観客を絶句させていた。

 

「えっ、な、なに? なんなの、あれっ……!?」

「じょ、常識外れにも程がある……! バーニアの推力ありきとはいえ、まさかMSでパイルドライバーをやってのけるとは……!」

 

 辛うじて、眼前の中継映像で起きていることを言語化したジャネットも。理解できない、とばかりに身を震わせるミレイナと同様に、戦慄を覚えていた。

 勝利のためなら身の安全もセオリーも常識すらも投げ捨て、貪欲に頂点だけを渇望する闘争心の塊。その苛烈さは、パリ士官学校最強の女王すら穿つほどの、気迫と威力を生み出していたのである。

 

『……ふふっ。これほど徹底的にやられたら……却って清々しちゃうわね。こんな無茶をしてまで、私の時代を終わらせたかったわけ?』

『あなたの時代なら、卒業後の配属先で築いてください。私がここにいる以上、今は私の時代です』

『全く……とことん可愛くないわね、あなた』

『……可愛げがあるようでは、あなたを越えられるはずもありませんから』

 

 そして。何度もその背を追い、追わせてきた者達なりの、奇妙な友情を固めていく中で。

 アシューカは操縦桿を握る手に、力を込めながら――この試合を映しているカメラを一瞥していた。

 

『それに、私にはもう1人……是が非でも勝ちたい相手がいるのです』

 

 そこから決着を見届けていたであろう、リゼット・クラルティ。彼女の存在に、想いを馳せて。

 

「アシューカさん、ほんとに凄い……! 私も、負けられないっ!」

 

 そんな彼女の視線を感じていた、リゼット本人も。ただ1人、アシューカの強さに飲まれることなく――勇ましい笑みを浮かべ、拳を震わせていた。

 

 ◇

 

 ――それからも、激闘は続き。4回戦の修羅場を潜り抜けた猛者達は5回戦へと進み、優勝を目指して激突していった。

 

『……ウズメ。勝ったら、友達になってくれる?』

『ええ、もちろんです。ただし……私も手加減は致しませんッ!』

 

 パール・L・レムリアン。ウズメ・トリシャ。

 

『さぁリリアん、どこからでも掛かってきていいよ〜! お姉さんに遠慮なく甘えちゃいなさ〜いっ!』

『……いいの、かな……?』

 

 サフィーニャ・ヒゴ。リリア・ラチェーミロ。

 

『そろそろ私も本気になっちゃうけど……覚悟はいい? リオッ!』

『なんくるないさ……! アタシはまだまだここからだよ、ナタリアさんッ!』

 

 ナタリア・ランパート。リオ・ランドール・ウエシロ。

 

『……決着を付けるぞ、リゼット』

「もっちろん! 全力で行くよー、リンちゃんッ!」

 

 リン・ヤトガミ。リゼット・クラルティ。

 

 彼女達が織り成す激闘の物語は、勝者と敗者を生み、連綿と紡がれていく。それは5回戦、準々決勝、そして準決勝を経て――この戦技会の最後を締め括る、決勝戦に辿り着こうとしていた。

 

 その大舞台へと駒を進めたリゼット・クラルティとアシューカ・クトゥルナ・ジャンファール。彼女達の試合開始の瞬間は、刻一刻と迫りつつある。

 

「リゼットの奴、大丈夫でしょうか……。入校当時は、自己紹介でも頻繁に噛むくらい緊張しがちだったのに」

「ふふっ……そこまで思いやってくれる方がそばにいらっしゃるなんて、あの子も幸せ者ですわね」

「い、いえ、私なんてそんな……恐れ多いです。リゼットと共に勝ち抜いてこられたヴィヴィアンヌ少尉に比べれば、私の支えなど些末なものです」

 

 格納庫で出撃を待っている、黄色と白のリゼット機。その足元にいるパイロット本人は、ミレイナの手作りお菓子を満面の笑みで頬張っていた。

 

「リゼちゃん、私も精一杯応援してるから……決勝戦、頑張ってね!」

「ふぁふぁふぇふぇほ、ひへふぁん! ふぁふぁひ、へっはいひはふはは!」

 

 絶え間なく男子達の目を引く、Dカップのプロポーション。プロのパティシエに匹敵する料理の腕前。そんなミレイナお手製のお菓子を味わうリゼットは、周囲から羨望の眼差しを集めている。

 

「ちょっとリゼット、食べるか喋るかどっちかにしなさい!」

「ていうか今なんて言ったんだよ」

「……任せてよミレちゃん。私絶対勝つから。だって」

「よく分かったなリリア……」

「わ、私もそれ食べたーいっ!」

「私も〜」

「あっ、ちょっ、ちょっと皆ぁ!」

「お菓子はもちろんだけど、私はミレも食べたいなぁ〜?」

「サフィーニャぁああ!」

 

 やがて、共に競い合ってきた仲間達が続々と集まり――リゼット機の足元は、お菓子パーティー状態になってしまった。

 到底、決勝戦を目前にしているようなムードではない。が、全く緊張感というものが感じられないこの光景こそが、最も自然な彼女達の姿であるとも言える。

 

「……私など、ただ彼女が出場するためだけの数合わせに過ぎませんわ。あの友情の輪は、リゼット自身が勝ち取ったもの。そうでしょう?」

「ですが……その礎を築いたのは、紛れもなくあなたです。彼女の先輩として、深く御礼申し上げます。ありがとうございました、ヴィヴィアンヌ少尉」

「ふふっ、どういたしまして。……なら私もパートナーとして、最後の務めを果たさねばなりませんね。それでは、ご機嫌よう」

「はい。……どうか、リゼットをよろしくお願いします」

 

 そんな彼女と共に、決勝戦の舞台へと上がっていくヴィヴィアンヌの背を。ジャネットは整然とした敬礼で、見送るのだった。

 

『これより、決勝戦を行います。リゼット・クラルティ候補生、及びアシューカ・クトゥルナ・ジャンファール候補生は出撃準備を!』

「はーいっ!」

「……了解」

 

 そして、決戦の幕開けを告げるアナウンスが響き渡り。姫君達のオーケストラは、フィナーレへと向かう――。

 




 本作のキャラ募集企画にご参加頂いた皆様、ご協力誠にありがとうございました! 本編も次でいよいよ最終話。最後までどうぞお楽しみに!(*≧∀≦*)


Ps
 ※彼女達のジムトレーナーは特殊な訓練(?)を受けています。
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