機動戦士ガンダム -プリンセス・オーケストラ-   作:オリーブドラブ

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 皆様、お久しぶりでございます(´-ω-`)
 今回は久々に、リゼット達の日常に触れた小話をお送り致しますぞ(о´∀`о)



番外編 覚醒の乙姫 -リリア・ラチェーミロ-

 宇宙世紀を迎えて久しい現代においては、ワインの醸造は基本的に全て機械化されている。西暦と呼ばれていた過去の時代においては、人が素足で葡萄(ぶどう)等を踏んで潰す工程もあったのだが、今ではそういった手法は祭りの一環としての意味合いが強い。

 その行為が「文化」以外にも大きな役割を持つようになったのは、終戦を迎えて間もない頃。宇宙世紀0080、2月中旬に差し掛かった時期であった。

 

 毎年のように開催されている葡萄踏み祭り。そこへヴィヴィアンヌ・ル・ベーグをはじめとする「パリ防衛隊」の美女達が参加し、その内容を連邦軍が公表した結果――億単位の経済効果が生まれるという、前代未聞の事態が発生したのである。

 強く気高く、そして見目麗しい絶世の美女達が、その艶やかな脚で葡萄を踏み、潰していく姿は。そこから誕生していくワインへの期待を、飛躍的に高めていたのだ。この件を担当していた当時の広報官が、引くほどに。

 

 それほどの結果を目の当たりにした以上、連邦政府としても無視はできず。これに続くように、彼らは経済復興に向けた「次なる一手」へと踏み出したのである――。

 

 ◇

 

「やっぱり……恥ずか、しい」

「大丈夫ですよリリア、私も付いていますから」

「でも……」

 

 宇宙世紀0080、10月某日。第1回MS戦技会を終えて2ヶ月余りが過ぎた頃、リリア・ラチェーミロは窮地に立たされていた。

 彼女の傍らに寄り添うアーニャ・ザカエフは、親友の白くか細い手を握り、穏やかに励ましている。だが、その温もりを近くに感じていながらも――恥じらいに頬を染めるリリアは、最初の一歩を踏み出せずにいた。

 

 士官学校の裏庭に置かれた大きな桶と、そこに敷き詰められた大量の葡萄。その前に建つ彼女は、震えながらスカートの裾を握り締めるばかりで、動き出す気配は一向に見えない。

 

「あれ? リリアちゃんと……アーニャさん?」

「2人ともどうしたんだ、こんなところで」

「あ……リゼットにジャネット先輩。実はですね……」

 

 そこへ通り掛かったリゼット・クラルティとジャネット・ダルシアクに、アーニャが振り返った瞬間。リリアは申し訳なさそうに、小さな両肩をさらに縮ませていた。

 

 ――数日前。戦技会に出場していた美少女達全員に、来年の「葡萄踏み祭り」に参加するよう、軍の広報官から通達が来たのだ。

 8ヶ月前、パリ防衛隊の面々が祭りに参加したことで、数億もの大金が動いた件を受けてのことであり。出世の足掛かりになるのではないか、とも噂されている話なのだが。誰もがその内容に、手放しで喜んでいるわけではない。

 

 衆目に素足を晒すことを恥ずかしがっているリリアも、その1人なのだ。参加の要請が事実上の命令である以上、アーニャはどうにか慣れてもらおうと、自費で練習用の桶と葡萄を用意したのだが――やはり、難しいものがあるらしい。

 事情を聞いたジャネットも、気難しい表情で額に手を当てている。彼女としても、この件については思うところがあるのだ。

 

「……なるほどな。アシューカとマリアも、『我々に広告塔(アイドル)など務まらない』などと散々ゴネていたよ。あいつらを説得するのには苦労した。かく言う私も、経験はあるが、あまり、その……得意ではなくてな」

「私もサフィちゃんも楽しみにしてるし、皆もやってみたら結構面白いって分かってくれる……って思いたいんですけどね」

「地元だから慣れているリゼットはともかくとして、サフィーニャの奴ほど乗り気なのも考えものだがな。……自分の脚に興奮する男共の眼差しが堪らないだの、桶の上で踊りたいだの、全く度し難い……」

 

 浮ついた催し物自体が苦手なアシューカやマリア。余りにも色々と奔放過ぎるサフィーニャ。そんな彼女達に手を焼いてきたジャネットからすれば、リリアの悩みも可愛らしいものなのだろう。

 彼女は年長者として、リリアの頭を優しく撫でている。リゼットも微笑を浮かべ、小柄な同期に寄り添っていた。

 

「……だが、まぁ、こうして向き合おうとしてくれている者がいるだけでも、励みになるというものだ。微力ながら、私も手伝うとしよう」

「私も一緒に頑張りますから、皆で楽しんじゃいましょうね、リリアちゃんっ!」

「あっ……あり、がと……」

 

 そんな2人に、リリアはカンペに頼らず精一杯の声で、感謝の思いを告げる。自分以外とも喋れるようになり始めていた彼女の成長に、アーニャも頬を緩めていた。

 

 ――その後、ジャネットの主導による様々なイメージトレーニングを経て。ようやくリリアは靴を脱ぎ、裸足で桶の前に立つところまで克服できたのだが。

 眼前に広がる葡萄の山へと伸ばされた白い爪先は、まだ未知の感触への恐怖に震えている。雪のように白い無垢な脚は、なかなか「最初の一歩」に辿り着けずにいた。

 

「も、もうちょっと、もうちょっと……」

「リリア、頑張りましょう……! もう葡萄は目と鼻の先ですっ……!」

「ここまで来れば、後は体重を前方に傾けるだけだ! 恐れるなリリア、相手はただの葡萄だ!」

 

 アーニャとジャネットも、真摯な面持ちでリリアの脚を見守っている。それでもやはり、最後の一押しが足りない。

 

「そうだ……リリアちゃんっ!」

「えっ……?」

 

 その光景を前に、あることを思い付いたリゼットは――意を決して、さらなる「イメージ」を与えようとする。

 

「こういう時は、大っ嫌いな人の顔を想像するんですよ! 思いっきり踏ん付けてやりたくなるような、すっごく大っ嫌いな人の顔っ!」

「……!」

 

 可憐な笑顔で物騒な案を持ち掛けるリゼットに、ジャネットとアーニャがなんとも言えない表情を浮かべる中。天啓を得たとばかりに眼を輝かせたリリアは、桶の奥へと視線を移した。

 

 思い浮かぶのは――舐めるような眼差しで自分達を一瞥していた、あの広報官。祭りの誘いに純真な喜びを咲かせていた、リゼット達を品定めするかのような、あの眼。

 

「……っ! 嫌い、嫌い、嫌い、大っ嫌いっ!」

 

 それを想像した瞬間。葡萄を見る眼は侮蔑と嫌悪の色へと変貌し――先ほどまで葡萄を怖がっていたリリアは、まるで別人が乗り移ったかのように、凄まじい勢いで葡萄の山を踏み付け始めていた。

 白い足指の股から、はみ出るように噴き上がる飛沫が、その一撃の重さと激しさを物語っている。「最初の一歩」から先の連撃は――もはや、マシンガンであった。

 

「おおっ!? 踏んだ……リリアが踏んだ!」

「いえ、その……踏むっていうより、これ……すり潰してるような……」

「わぁ……! リリアちゃん、すっごく楽しんでくれてますねっ! なんだか私も嬉しくなっちゃいます! 今度ミレちゃんとパールちゃんにも、それからウズメさんにも教えてあげましょうっ!」

「よ、よしリゼット、ちょっと待て! 何かもっとこう……他のアプローチも考えてみないか!?」

 

 その豹変ぶりにジャネットが瞠目し、アーニャが頬を痙攣らせている中。諸悪の根源(リゼット)は天真爛漫な笑顔で、リリアの猛攻を見守っていた。

 

「嫌い、嫌い、嫌い、嫌いぃっ!」

 

 相手を心底見下したような、筆舌に尽くし難いほどの「嫌な顔」。その貌を露わに、白く優美な足裏で葡萄を踏み潰していくリリアは――己の足元を、飛び散る汁の色で染め上げていく。

 もはや、全ての葡萄をジュースにするほどの勢い。羅刹と化したリリアの脚は、飛び散る汁を絶え間なく浴び続けていた。

 

 ――恐れなど、とうに消し飛び。この祭りを持ちかけて来た広報官への怒りだけが、残されている。

 そんなリリアなら、素足を晒すことに躊躇うこともないだろう。ついに彼女は、葡萄踏み祭りへの恐怖を克服したのだ。

 

 だが、リゼット達は気付いていなかった。

 

「な……何が起きているの……!? 私は今一体、何を見せられてるのっ……!?」

 

 自分達を見つけ、「こんなところで何をしているの!」と注意しようとしていたアナイス・ルヴェリエが。この異様な状況とリリアの貌に、腰を抜かして涙目になりながら、慄いていたことを――。

 

 ◇

 

 ――そして。翌年の宇宙世紀0081、2月中旬。

 パリ防衛隊と共に、葡萄踏み祭りに参加した戦技会出場メンバー達は。その美貌をさらに輝かせる可憐なドレスを纏い、桶に敷き詰められた葡萄を次々と素足で踏み潰し、(主に男性からの)爆発的な歓声を浴びていた。

 「士官候補生である彼女達の存在を、より身近に感じられた」。「彼女達が普段乗っている、無骨なMSとのギャップがたまらない」。そんな好意的な声が、パリを席巻したのである。

 

 しかし。その祭りで作られたワインが、再び歴史的な大ヒットを記録する中で。

 計画を成功に導いた功労者であるはずの、当時の広報官が突然辞任するという珍事が起きていたことは、あまり知られていない。

 

 彼は、確かに見ていたのだ。

 

 はにかみながらも、楽しげに葡萄を踏む少女達の中で、ただ1人。

 

 自分の名を呟きながら、冷酷な貌で葡萄をすり潰している、小さな修羅の存在を――。

 

 ◇

 

「ボ、ボトル1本でこれだけ取るのか……!? アホだ、アホの売り方だ……!」

「ていうかなんでこの値段で完売寸前なんだよ……!?」

「……な、なぁケンジロー、ちょっとだけ金借りてもいい? 俺ちょっと持ち合わせが……」

「やだよ! 絶対やだ! だいたいお前がカッコ付けて『ヴィヴィアンヌ達のために1本ぐらい買って行こう』なんて言い出すから……!」

「こんなに高いだなんて思わなかったんだよ! な、なぁ頼むよ。士官学校の時、いっぱいノート見せてあげたろ?」

「そんな話持ち出したって無い袖は振れねーんだよ! 俺の金の無さナメんじゃねーぞ!」

「ヴィヴィーのお酒? ねぇリュータ、セフィラも飲むー!」

「セ、セフィラにはまだ早いの! めっ! セフィラ、めっ!」

 




 今回はリリアが中心のお話でした(о´∀`о)
 カンペやモールス信号でしかほとんどコミュニケーションを取ることができなかった彼女が、姉代わりのアーニャだけでなく、リゼット達とも徐々に喋れるようになっていく。そんなお話を一度やってみたかったものでして。……なんだか当初の想定とはちょっと違う感じに着地した気もしますが(゚ω゚)
 ちなみにヴィヴィアンヌ達が踏んで造った葡萄ワインがめちゃくちゃ売れた、という話は前作「烈火のジャブロー」の第1部番外編でもちょびっとだけ触れておりました。実はちょっとした原点回帰でもあったりするのですよ(*´ω`*)
 そして次週にはさらにもう一つ、本作及び前作の総括としての「後日談」をお届けしたいなーと思います。どうぞ最後までお楽しみに! ではではっ!٩( 'ω' )و


Ps
 嫌な顔されながらお葡萄踏んでもらいたい(゚∀゚)
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