おかしな審神者と刀剣男士《ライドウ×刀剣乱舞》 作:アズマケイ
うちの本丸の部隊は基本的に週単位でスケジュールが組まれている。週の終わりに部隊の中で話をまとめて、週の初めに部隊長会議があり、そこで情報共有や主からなにかしら話があればみんなが集められて話をすることになる。
短刀部隊に池田屋の攻略が任されているあいだ、僕達は演武か短刀部隊撤退後に主に余裕があればさらなる強さを求めて共に時代を飛ぶことになるため、初めよりは余裕ができたが変動的なスケジュールとなっていた。最終局面では、おそらく大太刀の誰かと僕が短刀部隊の誰かと入れ替わりで合流することになるだろう、と初めから告知がされていたし、前の本丸でもそうだった。
部隊編成の変更という一大イベントがまだ起きていないことからして、主は軽傷撤退を繰り返し命じながら歴史修正主義者の槍部隊が出てこないタイミングを狙っているのかもしれない。
今日の僕といえば、演武のあとは新入り2振りの打刀育成がまだ終わっていないために、他部隊の遠征に投入されてようやく帰ってきたところだった。僕と次郎太刀が呼ばれていたから、もしかしたら池田屋の最終局面には2振りがそのまま呼ばれるかもしれないと思っている。
2時間半とはいえ、そのあいだ近衛の役目を解かれて、代わりの刀剣男士が任命されることになるんだから、あんまり気持ちのいい時間じゃないのはたしかだ。いつもの面々とは違う部隊を動かすことになるのはいい経験になるとはいえだ。はやいとこ和泉守兼定と大倶利伽羅には強くなってもらわなくては困っていけない。
「おや?」
主の部屋に声をかけたが返事がない。襖がないから開けようがないが、今日の近衛の太郎太刀の返事もないとなると主が別の用事で席を外していると考えてよさそうだ。まだ日は高いから、また遠征を命じられるのか、近衛にまた任命し直されて畑仕事にいかされるのか聞きたかったんだが参ったな。
前の本丸なら主の霊力が低すぎて本丸内で居場所がどこかすぐわかるくらいだったが、今は時の政府の手厚い支援があるせいで霊力だけで主の場所を特定するのは不可能に近い。
ただでさえ、48振りを迎えるにあたって、手当部屋や鍛刀部屋、それぞれに与えらるであろう部屋の増築が急ピッチで進められているために、本丸全体の広さが前の本丸の倍になっている。これはこんのすけを見つけた方が早いかもしれない。
僕は元来た道をひきかえし、手当部屋に入った。
どうやら短刀部隊の治療がまだ残っているようで、妖精たちが忙しく飛び回っている。主への戦況報告をしなければならないはずの物吉貞宗が一番中傷を負っているようで、こんのすけが代わりに聞き取りを行い主に報告するつもりのようだ。
「物吉貞宗、少しこんのすけを借りたいんだがいいかい?」
「わわっ、歌仙さん!?ごめんなさい、僕は大丈夫ですっ!」
「急に動くと傷に触るよ、大丈夫だから落ち着いたらどうだい「 」
「あ、あはははは......ほんとに大丈夫......あいたたた......」
「ほら言わんこっちゃない。君は部隊を任されているんだから、しっかり治療を終えた方がいい。それが今の君の仕事だろう」
「歌仙さん、ありがとうございます。えへへ、戦に出られないと、みなさんのお手伝い出来ませんもんね!」
「その意気だ。最終局面になったら、僕と大太刀の誰かが助太刀に入ることになるけど、おそらく隊長は君になるだろうからしっかりね」
「えっ、あ、ええっ!?そんな、僕、今回の任務が初めての部隊長なのに、そんなことありえるんですか!?」
「池田屋攻略において、一番戦況を熟知しているのは君だろうからね」
「そうなんですか......が、頑張らなきゃ!」
「極のお守りをわざと破壊して蘇生だけは考えちゃいけないよ。お守りの加護で復活できるとはいえ、1度は本当に破壊されるわけだからね」
「そ、そうなんですか!?お守りってそんな効果が」
「おっと、余計なことをいってしまったかな。主は基本軽傷撤退だ、池田屋は槍部隊のせいで傷がつかないで攻略は事実上不可能なのにすぐ撤退を命じる。イライラするだろうけど、運が良ければ遭遇せずに奥までいけるからね、焦らないことだ」
「歌仙さんも池田屋攻略したことあるんですか?」
「前に少しね、極のお守りをわざと発動させた咎でひとりで畑仕事をやる羽目になったけれど」
「歌仙さんがですか!?」
「急いては事を仕損じるっていうだろう?まあ僕は今でも巧遅は拙速に如かずの方が好きなんだけどね。それだって仕事を疎かにしていい理由ってわけじゃない」
「なるほど......急がば回れってことですね」
「そうだね、それもある」
「ありがとうございます。僕がんばります」
僕は笑ってうなずいた。僕達の会話を前に様子をうかがっていたこんのすけが僕を見上げてくる。
「歌仙さま、どうなされましたか?主さまに遠征の報告にいかれたのでは?」
「それがだね、肝心の主と近衛の太郎太刀の姿が執務室にないんだよ。どこにいったかしらないかい?」
「おや、そうでしたか。こんのすけが手当部屋にみなさんをご案内する前は執務室にいらしたのですが......どこかに移動されたようですね。行きましょう」
こんのすけはそういって手当部屋を出ていく。僕もうなずいて手当部屋をあとにした。てとてと歩いていくこんのすけはまだ着任したばかりのころの体型を維持しているようだ。前の本丸だと最初こそ体型を気にしていたが、主が気にせず油揚げを給料がわりにあげまくるものだから、そのうち丸々としたこんのすけになっていたことを思い出す。主が行方不明になってからはだんだん痩せていったが、解体後は別の本丸にうつったんだろうか。このこんのすけはあまりがっつかないし、グルメじゃないようだから、こんのすけにも個体差があるのかもしれない。
「ええと、こちらですね」
「さすがはこんのすけ、主の居場所がもうわかったのかい」
「はい、私のお役目は主さまのサポートをすることでございますから」
「ところで、きみはこの本丸が初めて?」
「はい!こんのすけはこちらの本丸が初めてございます!主さまは審神者家業と本丸運営が2度目ということもあり、こんのすけも時の政府への報告がスムーズで助かっております。むしろやることがなさすぎて寂しいです」
しっぽがしょんぼりしてしまった。主が仕事を的確にこなすために手間がはぶけてありがたいが、なにかしていないと落ち着かないあたり新入りの刀剣男士みたいなことをいうこんのすけだ。
「まあ、そのうち48振りも迎えることになるんだ。今の本丸は主が運営したことがある24振り以下だからこうだが、64振りになったらこうもいかない。きっときみの仕事も今より増えるよ、心配しなくても」
しっぽが揺れ始めた。わかりやすいな、このこんのすけは。
「そうですね!そうでございますね!今の本丸の運営は、そもそも62振りの刀剣男士のみなさまをお迎えするための準備でございましたね!こんのすけとしたことが忘れておりました。歌仙さま、ありがとうございます」
「あまりにも忙しくなったら、ほかの本丸みたいにこんのすけを新しく派遣してもらうのもありじゃないかな」
「それはそうでございますが......今はこんのすけだけで大丈夫でございます。管狐は増えすぎると75まで増えて本丸を食いつぶしてしまいますからね」
このこんのすけは管狐の自覚があるから基本体型を維持しているのかもしれないとふと思う。そもそも今の体型でも管に入れるかといえば怪しいものだが。
「どうなされましたか?」
笑う僕に不思議そうにこんのすけは首を傾げたのだった。