ポッケ村に住む齢3の少年がいた。
彼は武器に憧れた。両親共々ハンターだったことによる影響は少なからずあっただろう。ただ何より、磨き込まれた武器の逞しさに惹かれた。あわよくば一振りしたいと思った。
ある日、少年はその願望から武器をじっくり見せるよう、必死に父親にせがんだ。やがて許可が下りると、すぐさま一瞬の隙をついて力いっぱい持ち上げようとしたのだが――
置かれた長い太刀は、びくともしなかった。少年は心底絶望した。
現実が見えていなかったゆえの結果だ。幼子にその視点を求めるのは酷な話ではあるが、どう足掻いても当時では武器を持ち上げるに足る腕力がなかったのである。
さらにいうなら、少年は一直線というか、ある種馬鹿と言われがちな気質な持ち主であった。
勝手に解釈し、思い込んだのである。
――そっか。おれはぶきがもてないんだ。
太刀の一件をもって、少年は武器に見向きしなくなった。次の日にはギルドの酒場へ出掛けるなり、余った木材とマットをもらってきて、打ち台を組み立てた。
そして――作った標的めがけて、拳を振るうようになった。
気が狂ったように打ち込む彼を心配した母親が声をかけると、彼は死んだ目で応えた。
「おれは
☆
「早めに出てきてよかったぜ」
吐いた息が頂上に積もる雪みたいに白く空へと抜けていくのを感じながら、本物を見やる。雪山は晴れている。今日はラッキーだ、俺は冷たくも澄んだ空気をいっぱい吸い込んだ。
「っしゃい!」
気合い入れ、駆ける。今日もやることは山積みなのだ。だらだらなんてしていられない。腕と脚を覆う
雪解け残る草原をがつがつ踏んでいくたび、草食モンスターポポとすれ違う。一瞬、生肉を補充すべきか迷ったけど――いいや。今日はすこぶる調子が良いから。
段差を強引に越えて、雪山頂上近辺への近道となるほら穴へと突っ込んでいく。
「……おっと!」
危うく忘れるところだった、足元の影に用事を思い出してしゃがむ。道を往く途中で、やらなくてはならないことその1。
「薬草薬草……」
採取。回復というより、今日の晩御飯のサラダのため。苦いけど健康にいいから。慣れた手順だからって忘れるところだった。気を付けなくては。
環境を壊さない程度に一通り小ポーチに薬草をぶち込んだ俺は、鉱石の掘り口を無視してほら穴を進む。手に入れるのは石ころだけで十分だ。
さっきより急な段差に手をかけよじ登り、また走ること1分弱。
ほら穴の出口の前で、俺は足を止めた。向こうから差し込む光は、開けた雪山からのもの。だけどそこにはまだ行かない。どっちかといえば本命はここにある。
「やっぱりいんね、じゃあやろうか」
俺が呟くと、刃物と刃物を擦り合わせたような、甲高くも乾いた鳴き声で彼らは応じてくれた。
――肉食小型モンスター、ギアノス。
尖った稲荷みたいなトサカに、夜と冬空をミックスしたみたいな鱗肌。発達し、五つに枝分かれした黒爪。
しなやかで強靭な、細脚。一番怖いのはそこから生まれるバネを使った容赦のない飛びかかり。
(2匹、ね)
考える間もなく、奴らは距離を詰めてきた。対して俺は構えることで戦闘モードに入る。ただし
肉薄した奴らが飛びかかってきた。相変わらず速い。
が。
「すんげーわかりやすいんだよお前ら。特に初動とか」
俺は斜め左にダックインし、二匹の迫撃をかわす。そのまま残った勢いでターンしつつ、腕を後ろに引く。
即行で肩か頭部を狙ってくるのは、だいたい皆同じ。昔こそ動揺したものだが、わかってしまえば怖くない。
振り返らんとしてモーションが雑になった一匹の嘴を狙って、俺は溜めを解き放った。グシャア、と潰れるような音とともに、ギアノスの口内から派手に血が吹き出す。
「ゲァァァアッ」
「手応えアリ……」
シャドウ。酒場に集うハンターたちがおふざけでやっていた、ネタじみた……仕草。これこそ武器持たぬ俺の
もっとも、ダメージが入ったのは奴だけじゃない。いくら小型で柔めの肉質とはいえ、モンスターをぶん殴ったのだ。俺の拳もじんじんしている。それに。
「ギャオァァァッッ!!」
残念ながら、もう一匹への対応が間に合っていない。知覚はできても針山のようなギアノスの牙はもう腰に迫っている。
「ぐっ……あっ……!!」
退けるだけ後ろに退く、それでもヒット。あっという間にコートの下から紅が漏れだしてきた。こればかりは仕方ない。俺がまだ弱いだけの話。
飛びそうになる意識を唇噛むことで耐え、返す刀でフルスイング。刀はないけど。頬に一発もらった二匹目はなんとかのけぞってくれた。直ちにバックステップして、俺は距離を取る。
「……やってくれんねぇ」
やっぱりまだ二匹同時は早かったかもしれない。痛みと別の感情から流れる冷や汗を拭って、俺はポーチの薬草を取り出し咥えた。
更なる深手を追わそうと詰め寄ってくるギアノス共。上等だ、ぶちのめしてやる。改めて迎撃体制に入って、奴らの呼吸を観察する。
これが俺の日常、追う者の日常だ。
そういえば村のハンターに、揶揄されたことがあったかな。
確か――『シャドウのやつ』、だとか。