狩人シャドウ   作:AQUA BLUE

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第4話

 晴れ間は拝めないけれど、白いのは足元だけ。近くにはマンモスっぽい草食獣のポポがまったり歩いている。今日の雪山はたいして荒れていない、むしろとても平和だ。おかげでゆっくり採取できてありがたい。

 

 

 持参した生肉を焼いて食い、ギアノスとの戦いで消耗した体力を多少なりとも戻した俺は、壊れかけのピッケルで鉱石ポイントを漁っていた。

 

 少し困っているのは、石ころがあまり出てこないことだ。不足している時に限って大地の結晶など、マカライト鉱石だのが出てくる。俺にとって、鉱物(強化素材)などあっても使い道は売却くらいしかない。対して、石は礫や牽制にもってこい。つまり武器を握らない俺にとっちゃあ重要な要素なのだ。

 

 

「ここはダメだな」

 

 もっと奥――山頂へとポイントを移すしかない。他はもう回りきってしまった、また発掘しやすくなるまで待とうにもかなりの時間がかかってしまうからな。

 

 

 まだ帰れないのかとぼやき、重くなってきた腰を上げたときだった。ズドンと大きな衝撃、次いで後方から土埃ならぬ雪埃が舞った。

 洞窟を抜けたばかりのこの雪地で、崩落が起きたケースはほとんどない。つまり今のは十中八九、大型のモンスターが飛来した証左。

 

 

 慌てても遅いので、普通に振り返る。

 幸か不幸か、俺の見知ったよーく顔だった。

 

 

 普段は寒さ厳しいポッケ地方近辺には現れないものの、ありつきたい獲物さえいれば関係なくやって来てしまう豪傑。

 

 そいつは虎と恐竜の良い所をハイブリッドしたような、攻撃的な風貌を堂々と野にさらしながら、首だけで左右を見回す。

 

「よう――ティガレックス」

 

 吹雪の中、俺は声をかける。

 偶然こちらを向いたそいつは、

 

「グオアアアアアアアアア!!」

 

 応えるように、否。獲物を見つけたと言わんばかりに、吼えた。

 

「っ!!」

 

 

 一帯が、震える。ティガレックスの周りに積もった雪地は束の間禿げ、距離を取るべくすでに逃走を開始していたポポは大きくのけぞった。10数m程度開いた場所にいるこちらすら、鼓膜がビリつく程度の弊害がある。

 

 反射的につい耳を塞いでしまう。

 しまったって、自分の注意不足を戒めようとする頃――

 

 

 絶望は雪を掻き分け、眼前まで迫り来ていた。

 

 

「あ……っぶねぇ!!」

 

 横へ転がり、辛うじて突進をかわす。弾かれた雪の波がぶち当たってかなり冷たい、呑気にそう考えられたらどれだけ良いものか。

 攻撃をスカしたことなんて気に留めた様子なくティガレックスが滑り駆ける勢いを利用し反転、軌道を無理矢理修正してきたのだ。

 

 

 さっきとは違いある程度詰まった距離。直撃するまでの猶予は短い。浅く前後転したのでは間に合わないので、一か八か体まるごと射程外であろう方向目掛けて飛ぶ。

 

 低空で、獣性溢れた竜玉と俺の(まなこ)が交差した。

 

 

 コンマうん秒して、手と腹から雪地に着する。……衝撃はあれど、走るような痛みはない。なんとかなったようだ。

 

「ったく、ド派手な挨拶だぜ」

 

 付いた白粉を払って立ち上がる。ティガレックスもブレーキ代わりに爪を振るったところだった。

 

 

 ――再び、奴の轟音が山を揺らす。

 

 

 今度は威嚇じゃない。おそらく、やっと俺という存在を認めやがった(思い出した)

 

「こちとら丸腰だっての。お前をとって食う気はさらさらねーぞ……?」

 

 ティガレックスが腕を地面に叩きつけることで飛んできた一頭身の氷塊を避けながら、一人ごちる。こんな凍えそうなのに、冷や汗が額に浮かんでくるぜ。

 

 

 ――ただし。

 

 

「そりゃあくまで『全身丸ごと』じゃねーってこった!」

 

 

 ずぶずぶの地面を蹴って、ティガレックスへ向かっていく。寸前に放ったのはたんかじゃない。俺と奴における因縁からくる宣言だ。

 

 

 文字通り一直線に突っ込んでくる俺を絶好の的と思ったか、ティガレックスもまた距離を詰めてきた。吼えてもいないのに耳に悪い大きな唸りは、次こそぶち殺してやろうという奴の気概を感じる。

 

 

 

(この死地に挑むのは4回目、か)

 

 

 当然、今の俺の勝機はゼロ。しかし狙うのは大金星ではないのだから、関係ない。

 

 

 触れあうのにちょうどティガレックスの体二つ分といったところまで接近、俺は走るのをやめた。代わりに、ついた勢いで斜め上に跳躍した。

 

 欲しかったのは――場所。

 

 

「お前に乗っかるためのな!」

 

 

 おかげさんで届いてくれた。直立状態からでは到達不可能な、少し高めの段差に。

 もう片方の足がついてすぐ切り返し、そして白く染まる天へ身体を任せた。

 

 間もなく固い雪と衝突したであろう鈍い音がたつ。あと僅かでも遅れていたらお陀仏だったかもしれない。ティガレックスは既に、視線のみではあるが上にいる俺を捉えていた。ほんとにまあ恐るべき反応速度だ。

 

 

「だがよう、もう遅ぇのさ!!」

 

 

 もう俺は特等席(ヤツの背中)に股がりにかかる段階なのだ。すべすべながら、強く鋭く発達した筋肉質のそこへ。

 

 

さて、無事乗れたならやることは決まっている。奴が怯んだ一瞬でポーチを空けてと……。

 

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 

 肉切り抜き用ナイフで、奴の肉を抉ることだ。

 

 

「グオオオオオオッ!! グゴアァァァァッッツ!」

 

 痛みと、獲物に背中を支配されている不快感にティガレックスはもがく。俺はというと、採取した肉をポーチに素早く投げ込んではまた抉る。取ったらポーチへ。

 

 奴がのたうちまわったり、咆哮したりする場合はポーチから溢れないようにしつつしっかり耐え忍び、少し落ち着けばなお抉る。

 

 

「うるせー! てめぇどんだけ俺のこんがり肉食ったと思ってやがるバカヤローっ!」

 

 俺と、ティガレックスというモンスターの因縁。それは……ッ! 1年前、まさに食べようとしていたこんがり肉を襲撃で台無しにされたことだ!!

 

「オォォッ、グアッ! ガッッ!」

「ぐへへ……! お前が俺を蹴散らした後に食ったこんがり肉のg分に届くまでッ! てめぇにはこれからも! 少しずつ! きっちり! 剥ぎ取らせてもらうぜぇ……!!」

 

 ――村で噂なシャドウのやつは、誰よりも器の小さい男であった。

 

 

「そろそろ振り落とされるかな……」

 

 実際なっては困るので、適当に切り上げてティガレックスの背中から降りる。

 

 奴は息を荒くしながらも崩れた体勢を立て直すと、俺を睨み付けた。

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァッ!」

「お、キレた」

 

 

 とはいえ、本日のところは命の駆け引きを続ける意味はなくなってしまった。少なくとも俺の方は。肉は奴が忘れた頃に剥ぎにいくし。

 

 うーむ。ティガレックスさん、めちゃくちゃ血滾って蒼かった紋様が赤黒くなっているぞ。フーッ、フーッって過去最高に鼻息荒くお乱しになっているぞ。

 

 

「さらばっ」

 

 次の瞬間、俺は猛ダッシュした。ティガレックスめっちゃ叫んでるけど大丈夫かなこれ。

 

「クギャゴァァァァァ!!」

 

 答えはノー。すこぶる快速で追いかけてきますねー。

 

 

「オアアアアアア!! 死ぬ!! 死ぬゥ!!!」

 

 想像した以上にヤツが速い。たぶん死んだふりしても気付かずに轢き殺すレベルでクレイジーなさっている。

 

 山頂側のエリアへ避難しようにもわりと遠い。避けようにも多少の方向転換では補足されかねない。どうすれば――

 

 

「おいアンタ、こっちだ!」

「え」

 

 冷水がぶっかかったように、パニックしていた頭がピシャリとクリアになる。声がした方へ反応した直後、世界がまっさらな光に包まれた。

 

 

「っ……!?」

「閃光玉だよ! あまり見えないだろうけど、そのまま真っ直ぐ走ってきて! 早く!」

 

 ……真後ろがどうなっているか把握しきれないし、不安がないかといえば嘘になる。が、今は信じるしかない。

 

 ちかちかする視界に逆らって、俺は人影のいる洞窟入口へ駆け抜けた。

 

 

 

 




前回は3話目で終わりとしていましたが、つい最近ティガレックスのくだりだけは書きたいなと改めて思ったのでここの追加も兼ね再投稿致しました。

今度こそ続きませぬ、ありがとうございやした
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