皆さんは、人間の悪意というものを知っているだろうか。
人間には誰でも心がある。しかしその心も、決して単純なものではないのだ。
ある時を境に人間の心の奥から湧き上がる負の感情。怒り、憎しみ、恐怖、絶望、闘争、殺意。一度でも心にそれが宿れば、その連鎖は止まることを知らない。
しかし、人間が持つのは悪意だけではない。その心に希望が残っていればそれは忽ち善意となり、未来へと踏み出す力を齎してくれる。
だが、全ての望みが絶たれ希望が無くなったその時、人の心は誰よりも悪意に染まり文字通りの絶望となってしまう。
それが本来あってはならない結末へと導かれてしまった場合、
貴方は、それを受け入れられるだろうか?
◇◆◇◆◇
俺は、呪われている。
いきなりこんなことを言われれば、誰もが”どうした”と聞いてくるであろうこの台詞。まずは順を追って説明しよう。
俺の名前は”立花 響”。どこにでもいるような普通の中学生だ。
そう、あの時までは…。
俺は昔からアイドルというものが大好きだった。特に好きだったのは、2人のボーカルアーティストで構成されたユニット”ツヴァイウィング”だ。俺が中1だった頃、親に勧められてそのユニットが登場するライブに行くことになった。
1人で会場に行った俺は、無我夢中でそのライブを楽しんだ。そして会場全体がヒートアップしたその時、
災いが降り注いだ。
突然として空から大量のノイズが現れた。ノイズはまるで幽霊のようにいきなり姿を見せ、触れた人間を自身もろとも炭素分解させて消滅させる。さらに現代兵器も通用せず、一度姿を現れせば逃げる以外に助かる手段がない、まさに”認定特異災害”と呼ぶべき怪物だ。
ノイズの襲来に俺だけではなく観客全員が混乱状態に陥り、逃げ惑う。しかしノイズ共はそれも見逃さず、大勢の人を消滅させた。
その大群の中で特に目立っていたのは、たった1体の黒いノイズだった。従来のノイズは人間に触れると同時に自身も消滅するのだが、そいつだけは例外。自身は一切消滅せずに連続で何人も消し去るその有り様を俺はその目で見ていた。
だが、それが命取りだった。黒いノイズの蹂躙を見るのに気を取られていた俺は、足場が崩れ去っているのに気づかなかった。
落下の衝撃で俺は足を負傷した。落ちた先でノイズがこちらに向かっているのを見て、こう思った。
(俺…これから死ぬんだな…)
目の前に蒼い人影が映ったのを最後に…
◇◆◇◆◇
次に俺が目を覚ました場所は病室のベッドだった。起き上がった俺は生きているのを感じた。足は怪我したままだったから動かせなかったが。
数分後、俺の父さん、母さんがお見舞いに来てくれた。一緒にいた医師の話では、リハビリを頑張れば今月中には退院できるという。
友達の皆に早く会いたい、心配をかけさせたくない。その一心で俺はリハビリに取り組んだ。そして努力の結果か、予定よりも早く退院することが出来た。
その翌日に学校を訪れた俺に待っていたのは…
この世の地獄だった。
ライブ会場で起こったあの事件。その生存者である俺は幾つもの罵声を受けた。ある時は人殺し、ある時は人でなし。家に帰れば石を投げられたり、塀にペンキで落書きされたり、悪口が書かれた紙を貼られる等、何処に行っても嫌がらせが絶えなかった。
そしてある日、父さんが突然家から姿を消した。この迫害に耐えられなくなっての行動だろうか。こうして家に残ったのは俺と母さん、婆ちゃんだけになってしまった。
だが俺に対する迫害は、それだけに留まらなかった。何故なら俺が学校から帰ってきた時…
俺の母さん、婆ちゃんが殺されていたからだ。
犯人は思った通り、俺に訳の分からない恨みを抱いていた奴らだった。けど犯人達は、悪びれる素振りなど全く見せなかった。
俺は2人の遺体の前で崩れるしかなかった。俺は何も悪いことなんてやっていない。ましてや人の命なんて奪ってもいない。それなのに…それなのに…
どうして…どうして俺だけが!こんな目に遭わなきゃいけないんだ!!
崩れていた最中、俺の耳に民間人達の声が聞こえた。
「いい気味だなあのガキ」
「ああ、あれだけ大勢の命を奪ったんだ。これは相応の報いってもんだ」
「これであいつの傍には誰もいない。きっと今にも自殺するに違いないわ」
「もししぶとく生きてたなら、その時は皆で家もろとも壊してやればいいのよ」
『ハハハハハ…』
もしこの世界に神という存在がいるならば、俺は間違いなくそいつを恨んでいたに違いない。
人間ってのはなんて醜い生き物なんだ…。ありもしないデマをもろに受け止めて、何の躊躇いもなく命を奪って…。
この世の…全てが…憎い…!
気がつけば俺は路地裏にいた。家族を失った俺には…家はあっても居場所なんてなかった。いっその事あいつらが言ってたように俺もこの世から消えればいいのかもしれない…そう考えていた。
その時だった、あの女が現れたのは…
「あなたが…新しい器ね?」
「…誰だ」
俺の目の前に立っていたのは1人の女だった。白と黒、緑色を基調にした服を身に付け、胸の辺りまで届く程の長い黒髪に赤い目と口紅、頭には赤く光る白いヘッドホンのようなものを装着していた。
「感じる。あなたの心から、湧き上がる”悪意”を」
「…何が言いたい」
「今のあなたは世界に対して大きな憎しみを抱いている。違う?」
「ああ、その通りだ…」
「もしあなたが望むなら…私が力を与えてあげるわ。この腐った世界に復讐できる程に大きな力をね…」
そう言うと女は、俺に2つの物を差し出した。1つは赤いラインが入った白と黒の長方形の物体、もう1つは中央が赤く光る黒と灰色、赤を基調にしたベルトのバックルのようなもの。俺は無意識にその2つを受け取った。
「あっ…あぁぁぁぁ…!!」
すると長方形の物体が赤く光ると同時に、バックルが自動的に俺の腰に装着される。そして俺の身体が禍々しいオーラに包まれると、身体中から力が湧き上がってきた。
「今日からあなたが、新しいアーク様よ」
俺はふと謎の女の方を向いた。そして俺は…
「フフフ……ガァ!?」
女の首を鷲掴みにした。
「何をするのですか…?アーク様…!」
「成程…この力があれば…世界に復讐することが出来る…何処の誰かは知らないが…感謝するぜ…そして…お前はもう用済みだ…消えろ」
「正気ですか…!あなたに力を与えたのは、他でもない私なのですよ…!?」
「勿論分かってるさ…お礼と言ってはなんだが…お前を殺してやるよ…」
「そんな…アーク様が…私を裏切るなんて…」
「俺は”アーク様”なんて名前じゃない…俺の名前は…
立花 響だ」
その時、甲高い金属音が夜空に鳴り響いた。
この世界の響は完全に悪意に染まっているという設定で、最後の行動もそれが理由です。
そしてこの世界のアークワンにアサルトウルフのような副作用はありません!(迫真)
以下、補足です。
※世界観
大まかな内容はシンフォギアXDのオリジナルストーリー”片翼の奏者”と同じ。奏の代わりに翼が絶唱を唄い、奏が生き残ったIFの世界。”アルケミック・オーダー”とも繋がっているため錬金術師協会も存在しており、サンジェルマンやアダム、キャロルといった面々もいる。
本来の”片翼の奏者”の世界に響や未来、クリスが存在しているかは不明なため、この小説では男性響はいるが未来やクリスはいない設定になっている。
※この世界のアズ
この世界でも衛星アークは存在していたが、デイブレイクで跡形もなく消え去ったためヒューマギアも存在していない。しかしアークは消える前に予め別の素体ヒューマギアに自身の意思をバックアップさせており、そのヒューマギアがアズとなって起動。新たなるアークの器を探すべく様々な場所を巡っている最中で、響と遭遇。響にアークの力を渡すが、予期せぬ響の反逆により破壊されてしまった。
※この世界の響
ライブ後の迫害を受けて完全に悪意に染まっており、性格も人助けが好きでは無くなっている。しかし人間として最低限のマナーは守っており、流石に泥や蜥蜴を食べたりなんの理由も無しにそこら辺にいる民間人を殺したりはしない。
容姿はウェーブがかかった長めの茶髪に赤い目、私服は黒と白、赤や灰色を基調にしている。
イメージCVは変身前:宮野真守、変身時:速水奨