―原典世界―
奏の世界にいたもう1人の”立花 響”。彼から話を聞いたクリスとマリアは、ギャラルホルンで自分達の世界に帰還した。
「随分と早く戻ってきたな。何かあったのか?」
「あまり元気がないようですが…」
2人の前に弦十郎とエルフナインがやって来た。
「…おっさん。あのバカは?」
「響君のことか?彼女なら…」
「私がどうしたのクリスちゃん?」
クリスの質問に弦十郎が答えようとすると、丁度響が中に入ってきた。それを見たクリスは血相を変えて響に駆け寄ると、彼女の両肩を掴む。
「お前大丈夫か!?どこも具合悪くないのか!?」
「ど、どうしたのいきなり!?」
クリスの反応に、響は戸惑うしかなかった。
「お、落ち着くんだクリス君!マリア君、向こうの世界で何があったのか話して貰えるか?」
「分かりました。クリス、手を離しなさい。響が困っているでしょう?」
「わ、悪いな…つい…」
マリアの言葉でクリスは落ち着いたのか、肩を掴んでいた手を離した。
◇◆◇◆◇
―S.O.N.G.司令室―
「…そうか。ノイズの短時間での消滅は、奏君の世界にいたもう1人の響君によって引き起こされていた。そして彼もまた、此方の響君のようにライブ後の迫害に苦しんでいた…」
「その男性の響さんが手に入れたのが、向こうの世界にしか存在しない”通信衛星アーク”の力…ですか」
マリア達の話を聞いて、弦十郎とエルフナインは内容を纏めていた。
「去り際に彼はこう言ってました。”これは俺の問題だから、首を突っ込むな”…と」
「そんなの、放っておけませんよ!」
マリアの言葉に、響が強く反応した。
「それはあたし等も思っている。だが今回出会ったアイツは、以前別の世界で会った無口なバカと同じか、それ以上に心が荒れているみたいなんだ…」
「君達の話を聞く限りでは、男の響君は1人で例のライブに行ったようだが…未来君のことについては何か話していなかったのか?」
弦十郎は、響の幼馴染であり陽だまりとも言える存在”小日向 未来”のことについて聞いた。
「いえ…彼女については何も話していませんでした。恐らくは前の世界と同じように引っ越してしまったのか、或いは存在自体がないのか…」
「今度アイツに会った時、確かめないとな」
クリスの言葉に、マリアは相槌を打つ。
「それで響君、今のところ君の身体に何か異常は?」
「いえ、普通に元気ですけど…」
「そうか…だとすると、精神的リンクはまだ起きていないのか…」
以前別の世界で彼女達がもう1人の響に接触した際、此方の響は悪夢にうなされネガティブな思考に囚われる等の、並行世界の同一人物の間に発生する”精神的リンク”が起こっていた。しかし今は、此方の響に何も異常が起きていない事に弦十郎は疑問を持っていた。
「今回は、性別が違うという相違点があるので一概には言えませんが…並行世界上の同一人物という点から、そう遠くない時期に何かしらの異常は発生すると思われます」
「そうなると、今回の件について此方の響君はあまり関わらない方がいいのかもしれないな。また以前のような不調が、いつ起こるか分からない。万が一の事態に備えてこうした方が懸命だろう」
エルフナインの考察を聞いて、弦十郎はそう言った。響はそれを聞くと悲しそうな表情をする。
「そんな…また別の世界の私が苦しんでいるのに、助けられないなんて…」
すると、響の右肩に手が置かれた。
「案ずるな。もう1人の立花を助けたいと思っているのは、何もお前だけじゃない。マリアや雪音、私や他の皆だって同じ事を考えている筈だ」
「そうデス!響さんは1人ぼっちじゃないデスよ!」
「もし何かあったら、私達も力になります!」
翼と切歌、調が口々に言う。それを聞いた響の表情には、光が戻ってきた。
「響、今はクリスやマリアさんを信じよう?」
「みんな…ありがとう!」
そして未来の言葉で、響は元気を取り戻した。
「さて、これからについて話すとしよう。まずは男響君の心を、どうやって開くかだが…」
「彼の居場所は既に分かっています。ですが、私達の話に耳を貸すかどうかは…」
「会えたところで、難しいだろうな…」
皆が頭を抱えていたが、ある人物が口を開いた。
「…雪音、少しいいか?」
「何すか?先輩」
クリスに話を振った翼である。
「あちらの世界の立花は、どれだけノイズを憎んでいるんだ?」
「”非常に”と言っても過言じゃないな。過去話をしてた時のアイツの顔…とんでもなく殺気が立っていた。それがどうかしたのか?」
「いや…あちらの立花の相談相手に相応しい人物に、心当たりがある。本人にとっては黒歴史かもしれないが…」
◇◆◇◆◇
―デイブレイクタウン、入口―
政府によって立ち入りが制限されている場所、デイブレイクタウン。入口には、”立入禁止”の看板と共にバリケードが並んでいる。しかしバリケードの外側で、景色を眺めている人物がいた。
「………」
アークの力を手にした、もう1人の立花響である。彼は何か思う事があるのか、無言で周辺を覆う巨大な柵の向こう側を見つめている。すると、響はいきなり口を開いた。
「わざわざここまで来て、俺に何の用だ?
”天羽 奏”」
響が目を向けた先にいたのは、二課に所属するシンフォギア装者である奏だった。
「あんたと一対一で話がしたいと思っていたんだよ。弦十郎のダンナや了子さんの目の届かない場所でな」
「”話がしたい”…だと?話すべき事など何も無い。ましてや、あんた達の仲間になる気など微塵も無い」
「あたしは、あんたに二課の仲間になって欲しくてここに来たんじゃない。あの時話した”復讐”について、もっと詳しく聞きたいんだ」
「………」
2人はお互いに真剣な表情で見つめ合う。
「ノイズを倒して、その後はどうするつもりだ?復讐を終えたその先に、何がある?」
「…俺の家族を奪った奴等に、鉄槌を下す。奴等は俺から大切な物を、心の拠り所を奪った。だから今度は、俺が奴等から奪う番だ」
「人の命を奪うって言うのか?」
「ああ…そうだ」
それを聞いた奏は激怒した。
「お前なぁ…!そんな事をして、死んだ家族が喜ぶとでも思ってるのか!?命を奪って、死んでった家族に堂々と顔向け出来るのかよ!」
「顔向けなんて軽々しく言うな!死んだ人間はもう二度と戻って来ない!今更この手が血塗れになろうが、俺には関係ない!寧ろ今の俺は、地獄に行くに相応しい人間なんだよ!」
「…ああ、そうかよ」
奏は呆れたような表情で呟いた。
「話はそれだけか?用が無いなら帰るぞ」
響は背を向けて去ろうとしていた。
「…あんたを見てると、昔の自分を思い出すよ」
その言葉で、響は歩く足を止めた。
「あたし達ツヴァイウイングのファンだったなら、知ってるだろ?あたしの相方の事」
「…”風鳴 翼”の事だろ」
「あのライブ事件で、あたしは翼を失った。ノイズ共はあたしの家族だけじゃない、大切な相棒まで奪った。その日から、あたしはノイズを心の底から憎んだ。ノイズ殲滅に専念する為に、歌手も引退する程にな」
「………」
「だけどそんなある日、彼奴等が来たんだよ」
「…並行世界のシンフォギア装者達か」
「あんたはまだ見てないから知らないだろうけど、その中には翼もいたんだ。けどあたしは最初、その翼を受け入れる事が出来なかった。この心の中に、あたし達の世界の翼はいる。もし別の世界の翼を受け入れてしまえば、心の中にいる翼が消えてしまうかもしれない。それが怖くて仕方なかった」
奏は響に話を続ける。
「心の底では翼と一緒に歌いたいと思っていた。でもその時のあたしには、ノイズに復讐する為の歌しか無かった。翼と一緒に歌う素質なんて無かった…本当の歌を忘れたあたしには生きる意味なんて無い…ずっとそう思っていた」
「だけど、彼奴等に言われて思ったよ。あたしは、翼と歌う事を諦めたくなかった、”2人で一緒に心から歌いたい”っていう夢が出来たんだ。そしてあたしは本当の歌を思い出して、夢を叶える事が出来た」
「…ほう。それはめでたいな」
響は愛想の無い声でそう言った。
「お前には夢が無いのか!?いつまでもあの事件を引き摺ってて…未来へ進みたいって思わないのかよ!!」
「俺には夢なんて無い!夢を見る為の希望すらも、2年前のあの日…完全に枯れ果てたんだよ!」
「お前はそうやって、生きるのを諦めようとしている!そんなお前の心を…あたし達は少しでも救いたいんだ!」
「確かにあの時の俺は、生きる事を諦めてはいなかった。だが…生きたところで、希望は1つも無かった…!見渡す限りの悪意…どれだけ外側を取り繕っても、悪の心は誰にでも存在する…!だから俺は、あの日決意したんだ!周りに悪意しか無いのなら、俺自身が悪意の化身になればいい!!故に、俺はアークの力を喜んで受け入れた!」
響の言葉を聞いて奏は黙っていたが、少しした後に口を開いた。
「……あんたも、性別は違えど同じ”立花 響”なんだ。話せば少しでも分かり合えるかと思っていたが…どうやら今は無理らしいな…」
「俺の心に生まれた深い傷は、話して分かるものじゃない。話したとて、理解出来るものじゃない。この対話がどれだけ無意味だったのか…あんたも分かっただろう?」
「けど、あたし達は諦めない!話す事が無駄だったとしても、あんたの心を救って見せる!それにあんたが本当に命を奪おうとした時は、全力で止めに行く!もし1つでも命を奪ったら…あんたはもう後戻り出来なくなる!そうならない為に!」
「止めても無駄だ。俺はそれを望んでいるからな」
そう言うと響はバリケードを飛び越え、廃墟となった街の中に戻っていった。
(それがお前の本心なのか?響…)
奏は心の中でそっと響の背中に問いかけた。
所々に既存ライダーの名言オマージュがあるのは許して下さい…