世界大破壊。
訪れた地の生き残った人々はそう呼んでいた。伝説の魔大戦に続く二度目の……大きな悲劇。
森が、山が、海が、大地が、大陸が、世界が――“神”の放った裁きの光によって引き裂かれ、多くの生命ある存在が失われた。
“神”を自称する、心壊れ狂える魔導士……ケフカによって。
彼は1000年前――伝説の魔大戦終結時に失われた力、“魔法”を得るのと引き換えに心を……いや、限られた感情と、それに連なる興味以外を持てなくなった。
彼の、失われて虚無となった心を満たす唯一のモノ――破壊。
発端は……結局何から始まったのか?
南の大陸の大国――ガストラ帝国が建国された時?
野心持つガストラ皇帝が封印の地――幻獣界を見つけた時?
世界制服に憑かれた皇帝とガストラ帝国により、人造魔導士計画が持ち上がった時?
その計画の最初期――不安定だった魔導の力をケフカに注入した時?
それとも――あの魔大戦というコインが投じられた時だろうか?
……いや止そう。今更それらを挙げて言っても仕方無い。
至るまでの経過と、今ある結果が全てなのだから。
つまり、一年前ガストラ帝国が、我が国フィガロを含む北の大陸に攻め込み、私達――反帝国勢力“リターナー”との戦いになったこと。
必然や運命とも呼べる、“偶然”の中で出会った仲間達と……一部の者と密接な関わりが有った、伝説の魔導――魔法の力と幻獣達。
幻獣の怒りに触れた帝国の崩壊と、そこに至っても野心を捨てていない皇帝とケフカによる、禁忌の場所――三闘神の眠る地“魔大陸”の復活。
二人を止める為に、私達は空に浮かぶ魔大陸に乗り込んだ。危険を承知で乗り込んだ私達を待っていたのは、その地名に相応しい死闘に次ぐ死闘。
レディ達を守る――男としての当然を貫きつつ、魔獣を退け辿り着いた最奥の場所で、私達が見たもの――。
それは皇帝を殺し、三闘神の力を我が物にしようとするケフカ。彼が、三神の封印を無理矢理解こうとした結果、今にも暴走しようとする力を前に――私達は無力を噛み締めながら、撤退を余儀無くされた……。
崩壊が始まっていた古の浮遊大陸。ギリギリ近くまで仲間が寄せてくれた飛空挺に、私達の脱出時間を稼ぐため、直前までケフカを食い止めてくれていた寡黙な暗殺者と共に飛び乗った。
だが……。
崩壊の余波は天駆ける船を捕らえ、仲間達を分かつ様に、足掻く翼を引き裂いていった。
破壊による崩壊。そこから来る絶望が、生き残った生ある存在達に宿る一年だった。
しかし、生き残った私――エドガー・ロニ・フィガロは決して諦めず、希望を捨てず、また信じていた。
仲間達も生き残り、再会し、共にこの闇に閉ざされた世界に、希望の光を灯す事を……!
そう。出来る男は最後まで、決して諦めないモノなのだよ。もちろん、レディへの気配りは語る迄もなく、出来る男の必須条件だ。
そして、私の読みは外れていなかった。
地中潜行すら可能とする、我が砂漠の機械国家フィガロ。
そのフィガロが潜行中の事故で、地中に取り残されている事を知った私は、フィガロの牢から脱出したという盗賊達に、盗賊ジェフとして接触した。
彼等との間に信頼を築きリーダーとして迎えられると、表向きはフィガロの宝を狙って――真実は呼吸が出来無くなりつつある城内の人々を救う為に、彼等に先導させてフィガロに潜入することにした。
そんな矢先、訪れていたとある港町で、彼女達と“偶然”再会した。
元ガストラ帝国の女将軍にして凛々しきレディ――セリスと、幼き日の病弱だった頃の面影が欠片も残っていない、筋肉マッスルな格闘家にして我が双子の弟――マッシュ。
再会の言葉をかけてくる彼女を、しかし私は人違いだと冷たく突き放す。
喜びは勿論ある。信じていたが、生きていてくれた事に嬉しさも感じる。
だが、私の正体を知られる訳にはいかなかった。
今ここで、盗賊達と袂を分かつ事は出来ない。フィガロを救うには、彼等の協力が必要なのだ。万が一にも、私がフィガロ王だと知られて失敗する訳にはいかない。
私は彼女達の仲間であると同時に、民を救う王なのだから。
この時、僅かにいぶかしむ様な表情を見せたものの、マッシュが何も喋らなかったのは私の正体を見破った上で、私を信じてくれたからだろう。
双子なのだ。お互いの事はよく分かる。
……一年前に、城から出たアイツと十年振りに再会した時は、最初はその変貌振りに目を疑ったが。
仲間の可憐なレディに、クマ呼ばわりされた弟のフォローが出来なかったのは、今では懐かしい思い出だ。
――フィガロに潜入し、地中に取り残された原因を突き止め、それを排除するために盗賊達を宝の元に向かわせ、後ろから追いかけてきていたセリス達と共に、フィガロを救う事に成功する。
宝を回収し戻ってきた盗賊達に、私が死んだように思わせてやり過ごした後は、再び二人と共に旅立つ。
私達の様に、どこかで生きている筈の仲間を求めて――。
ケフカを止め、悲劇を終わらせる為に。
それから幾ばくかの時が流れ。
私と三人の仲間達はフィガロを訪れていた。
セリスやマッシュ達との仲間を探す旅は、あの後とある街の酒場で酒に溺れていたギャンブラーを更生させ、彼の友人の形見という飛空挺を入手してからは、まぁスムーズと言って良いほど順調に事は運んだ。
自称“トレジャーハンター”な、“彼女のハートをトレジャーハント”な男など、若干の紆余曲折は有ったが。
かつての仲間達全てが揃い、新たな仲間も加わって、今は最後の決戦を前に皆休養を取っていた。
なに、急ぐ旅だが闇雲に突撃しても意味がないからね。力を出しきる為にも、戦士には休息が必要なのだ。
皆が休んでいる間に、私はフィガロを訪れる事にしていた。潜行時に違和感があると、担当の者から聞いていたからだ。
決戦後に戻ってきたら、国が無かった!……等という事は避けたいからね。もちろん、決戦に支障が出ないように、無理をしない範囲で調べるに止めるつもりだ。
ちょっと息抜きにと声をかけたメンバーが、何故かレディばかりだとしても、他意は無いんだ。
だと言うのに……!
「はぁ……」
潜行中に違和感があるという場所に向かった所、確かに何かが引っかかる様な感じがあった。
この間の事故が、おかしな触手だったこともあり、今回もその可能性は考えていた訳だが……。
そこはどこかの洞窟と繋がっており、仲間に声をかけておいた自分の先見の明を褒めたい所なのだが……。
「はぁ……」
共に来たメンバーを見て、溜め息が漏れる。
「溜め息なんか吐いてないで早く行こうぜ、アニキ!」
「うむ。決戦の前でござるからな、早目に終えて戻るでござるよ。しかし、思わぬ良い修行になりそうな気がするでござるな」
「未知の洞窟と繋がってるなんてな。何かお宝が有るかもしれないな!」
どうしてこうなった?
マッスルモンクな我が双子の弟――マッシュ。
崩壊前、ガストラ帝国……いや、ケフカが水源に流した毒により滅びたドマ国の、サムライオヤジ――カイエン。
そして、“彼女の……”な友人、額のバンダナがトレードマークのロック。
もう一度言おう。どうしてこうなった? レディとは程遠いじゃないか。
「あ……あの、大丈夫、エドガー? 気分が悪いなら、戻って休んだ方が……」
そう私を心配してくれたのは、結果的に紅一点となった心優しきレディ――ティナ。
人と幻獣の間に産まれ、長期に渡ってガストラ達に操られていた、悲運の少女。
懸命に、“人の心”を知り、学ぼうとしていた彼女も、この一年で成長を遂げていた。周りの者達とは違う自分に怯えていた、“呪縛”から解放されたばかりの彼女を知る私としては、非常に感慨深いものもある。
出生を知り、自分の力と向き合って、手探りでも少しずつ前に進んでいく――そんな彼女だが、優しい心根は今も昔も変わらない。
素直過ぎるのは少し心配ではあるが……。
「大丈夫だよ、ティナ。ただ、一番最初に君に話しておいて良かったと、思っていただけだから」
「そう? 良く分からないけど……」
首を傾げる姿もまた良い。持っている武器が、破壊の光の剣というのはあれだが。持たせたのは、セリスかリルムだろうか?
「アニキー、結構深そうだぞー!」
「何故この様な場所に、拙者と同じサムライがいるのでござろう?」
「へへ、宝箱はっけ……ぅおっ!?」
動くときは四人単位で行動という“決まり”を、暇だの面白そうだのであっさり破って付いてきた彼等。
ティナに声をかけた後、続けて見付けたセリスとリルムに声をかけた途端、私は横から現れた彼等に半ば強引に連れ出された。他の常識外……理解が出来ないメンバーよりは良いが……。
決まりやルールがあるからこそ、それを守ることに意味が――自由が輝くのだというのに。
私のレディ達への配慮を、固いこと言うなよと規則を破ってまで妨害した彼等にやれやれと小さく呟いて、隣で光の刃を放つ剣を構えるティナを促した。
「助けに行こう、ティナ」
「うん!」
埃で顔が汚れない様に白い仮面を被りながら、左腕のオートボウガンで狙いを付ける。敵を貫け! と、兜代わりのドリルが唸りを上げる!
「あの、エドガー……?」
「チチチ、いつも言っているだろう?」
何か言いたそうな表情を浮かべるティナに、私はまだ武器を持っていない右手の指を左右に振って見せた。ウインクもオマケに付けよう。
「これが私の、正装だ!」
ボウガンの矢を放ち、右手に構えた別のドリルと共に、私は敵に躍りかかっていった。
雄叫びと共に振るわれる拳が、刀が、短剣と飛剣が、次々と襲いかかってくる敵を倒していく。
矢が射抜き、ドリルが貫き、太陽の光を冠した名の機械が洞窟内を照らし、光の刃が振り下ろされる。
そんな事を繰り返しながら、やがて洞窟を抜け――。
「ここは……それに、あそこに見えるのは城か?」
かなり旧い城だ。外観はまだその名残を留めているものの、争いでもあったのか、朽ち果てていると言っても過言では無い。
……いや、まさか……。
「これは、まさか1000年前の……」
「え、あの伝説の……魔大戦で滅びた都市でござるか!?」
私が言おうとした推測を、サムライオヤ……カイエンが驚きながら口にした。そういえば、彼の国――ドマ国は、魔大戦の時代よりも前に建国されたらしい。そのドマ城暮らしだった彼の事だ、何かの機会にこの城の事を聞いたことがあるのかもしれないな。
「俺も、古い言い伝えで聞いたことがある」
真剣な表情で言葉を継いだのは、ロック。
「どこかの地に、魔大戦で滅び、何者かに封じられた都市がある、と。しかし、もし見付けてもそのままその地に触れず、可能なら封印せよってな。何で封印するのかは分からずじまいだったが」
トレジャーハンターらしい情報力だ。
「封印せよ……か。しかし、この砂漠の下に1000年前の都市が埋まっていたとはな」
「アニキが知らねぇんじゃ、俺が知らなくても当然だな!」
清々しいまでの発言だ。だが、頭も良くないと武道にも勝てないぞ、マッシュよ。
「――呼んでる……」
「ティナ?」
キョロキョロと辺りを見渡していたティナが、不意に城の方に意識を傾け始めた。
ティナ自身が呼ばれているのか、誰かを呼ぶ声が聞こえているかまでは分からないが……、どちらにしても。
「幻獣……か?」
「多分……。お城の方から聞こえる」
「行こう。警戒は怠らないようにな」
皆が頷くと、私達は警戒しながら城の方へと歩き始めた。
「――石化した幻獣……」
城の大広間らしき場所で、石になった幻獣――大形な八本脚の馬に跨がった、こちらも大形な戦士の像を見つけた。
「1000年前に石になったのならば、それでも尚伝わってくるこの気配。さぞや、名のある武人だったのでござろうな」
「ああ、こうして立っていても、何か気迫の様なモノを感じるぜ」
カイエンとマッシュが話している通り、像からは私にも分かる位、威厳の様なモノが伝わってくる。
「だが、かなりの年数――本当に1000年位が経っているみたいだな。今にも砕けそうだぜ?」
像に手を触れない様に調べていたロックが、予測を口にした。
つと、私達の視線が一人に集まる。
視線を受けて、ティナが前に進み出た。
像の前で足を止め瞑目する彼女と、幻獣が淡く光を放ち始める。
私達はその光景を、固唾を飲んでただ見つめ――数分も経たずに光が収まる。
石像があった場所には、幻獣が死した時に遺す魔力の結晶――魔石が浮かんでいた。
ティナがそっと手を伸ばし、両手で包み込む様に手にした。
「オーディンさん、あなたの力をお借りします」
私が見渡すと、柱や天井、床に至るまで深い傷跡が遺されていた。それは、この場で激しい闘いが行われた事を物語っていた。
「あ……」
「どうした、ティナ?」
魔石を持ったまま、ティナが大広間から繋がる一本の通路の方を見ていた。
「オーディンさんの魔石が、奥に進んで欲しいって言っているの」
「奥に?」
私がロックの方を見ると、彼は頷いて先頭を歩き始めた。
念の為に罠を警戒するロックの後をティナが歩き、私が続いて、マッシュとカイエンが後方を並んで歩いている。
火でも放たれたのだろう、所々黒ずんだ通路、破壊された扉やそこから確認出来る荒れ果てた部屋をいくつか通り過ぎて――。
私達がオーディンの魔石に導かれたのは、他のとは趣が異なる一室だった。
「立場ある女性の……恐らく王女の部屋……か?」
「よく分かるなアニキ」
「入ってすぐ分かるのはさすがと言うか何と言うか……」
一歩足を踏み入れての私の言葉に、弟からは尊敬混じりの、友人からは呆れ混じりの声。
これ位、誰でも出来ると思うんだが……。
「じょ、女性……!? しししかも、その様なご身分の方の部屋に、みだりに足を踏み入れるなど!?」
けしからんでござる! と言っているサムライを部屋の入口に残し、私達は部屋の探索を始めた。
見渡すだけのマッシュは放置し、この様な作業は私達の役目だからとティナには待ってもらいながら、ロックと私で手分けして部屋を調べ始める。
「これは……日記かな?」
私が手にしているのは、表紙に宝石が煌めいている一冊の本。
当然、随分痛んでいるそれを慎重に開く。
最初の方は既に読めない状態だったために、逆に最後のページから見てみる。
お主ら姫の日記を読むとは! とか誰かが言っているが、気にせずロックと共に古の文字を解読していく。
分かる部分だけではあるが、そこから読み取れたモノは……。
「人と幻獣の恋……」
手にしている魔石に視線を落とし、ティナがしんみりと呟いた。自身がそうであるために、人一倍その想いは強いだろう。
「何と、ろまんてぃっくでござるな」
「昔にも、ティナみたいな話があったんだな」
マッシュはともかくとして、サムライオヤジも何だかんだで話は聞いていたらしい。
「だが、ティナの時みたいにはいかなかった……んだろうな。だとしたら、切ない話だ」
「そうだな……」
この城の状態と、石化していた幻獣。そして、ここで終わっている日記。そこから導き出される答えを思い、私はロックに頷きを返した。
「オーディン……さん?」
ティナが手にしていた魔石を前後左右に向け始めた。やがて、床の一点に向けられる。
それを見て、壁に背を預けて話を聞いていたロックが、その場所を調べ始める。
「――ん? 何か、変だな……っと」
現れたのは地下に続く階段。
「行くぜ?」
「気を付けろよ、ロック」
ロック、マッシュ、ティナ、私、オヤジの順に下りていく。
そこは広目の部屋になっていた。
上に良く似た趣のある部屋。綺麗に両断された水瓶が階段脇に転がっていたが、そんなものはどうでも良い。
それよりも大事なことが三つもある。
一つは、祈りを捧げているかの様な女性の石像。先程の幻獣の時と同様なら、かなりの年数が経過している筈だ。そして、その女性が誰なのかも……。
二つ目。女性の像よりも目立つ――何だろうな? 祈りを捧げる女性像の正面にある、正四面体の青い水晶の様な何かと――その中で眠るかの様な誰か。
だが、私の直感がレディだと告げていた。
水晶が邪魔で見難い為に、近くで良く見ようとした私。
その時、あえて無視していた三つ目がノソリと身体を起こした。
それは細長い体つきをした青い竜。
威嚇するようにこちらに向かって唸る竜に、それぞれが得物を構える。
争い事が嫌いなティナは、威嚇するだけの竜に迷っていたようだが、護身の為にも破壊の光剣を構えた。
そして、私も――。
「すまないが、レディの為なんでね」
埃避けの白いマスクを被ると、頭のドリルが回り始める。
右手に構えた機械式ノコギリのスイッチを入れると、頭上のドリルと合わせて回転音が室内を満たしていく。
「邪魔しないなら良し。邪魔をするなら、容赦しないよ」
何故か、私に向かって竜が襲いかかってきた。
やれやれ。私みたいな一目で分かる平和主義者に襲いかかってくるとは、理解しにくい生き物だ。