終焉を求めて   作:ショウマ

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終わりの終わり 中編

「……激しい、戦いであった――」

 

 少し広めの空間。城の住人の、避難先として造られたであろう部屋。

 

 一ヶ所だけ黒ずんでいた石床が砕ける! ……拳で。

 

 壁が横一線に切り裂かれる! ……刀で。

 

 飾られていた甲冑が次々と粉砕される! ……振り回された機械式ノコギリで。

 

 光の刃が、浅く鱗を斬り裂く。

 

 室内に刻まれていった戦いの経過。荒々しく暴力的な、青い竜の遺した爪痕。

 

「戦いとは、虚しいものだな……」

 

 そんな惨状を前にして、世の儚さを想い、私は白い仮面越しに溜め息を吐いた。

 

「エドガー! まだ終わってないからな!」

 

 私のアンニュイな気分を壊しながら、ロックがこちらを見て叫んだ。

 

 目の前の青い竜――ブルードラゴンは、その細長い体を巧みに使って、こちらを翻弄していた。

 

 床を、天井を、壁を、空中を這うように移動し、爪を牙を尾を振るう。

 

 何よりも、鍵爪の手で器用に持った剣が、私達の身に付けた鎧や盾を――熱したナイフがバターをカットするかの様に、易々と切り裂いていく。

 

「厄介でござるな。下手に打ち合えば、拙者の天のむら雲や正宗も保たないでござるよ」

 

 帰ったら刀を研ぐのが大変でござる、と私の隣に並びながらサムライが嘆いていた。

 

「床もボコボコで走りにくいぜ、アニキ!」

 

 ちなみに、主に砕いたのは、マッシュ。お前の技だ。

 

「どうするエドガー?」

 

 両手に持った短剣を構えながら訊ねてくるロックに、私は当然の様に答える。

 

「無論、あの二体のレディ達に傷を付けない様に戦うんだ」

 

 そう言ってティナの方に視線を向けると、竜の振るう剣と破壊の光剣で、一進一退の斬り合いを演じている所だった。

 

 不意を突くように振るわれる尻尾を、ホラー風味の盾から変化した盾で弾き返し、逆に尾に剣撃を浴びせる。

 

 気になるとすればあの竜。水の力を司るようだが、あの二体――女性像と水晶体に効果が及ばない様にしていた。それには、何か意味があるのかもしれない。

 

「カイエン、ロック。私とマッシュで仕掛けるから、念のために盾装備で身を守っていてくれ」

 

 私の言葉に二人は頷くと、ロックは左手のナイフと持ち換えながら――亀の甲羅に酷似した盾を構えた。

 

「承知!」

 

「俺達はエドガー達と違って、戦闘経験が少ないからな。ここは頼んだ!」

 

 調べによれば、ケフカの立て籠る場所はかなり広く、恐らく様々な仕掛けもあるだろう。

 よってパーティーを分担させて進む事になりそうなのだが……何故か私とティナ、そしてセリスとリルムというレディ達を除くと、弟のマッシュ以外は戦闘経験が多くない。実に不思議である。

 

 幻獣達の遺した、魔力の結晶たる魔石。そして、彼らが認め、力を託した者に与えられる様々な恩恵。その内の一つが“魔法”。

 

 幻獣と人間との間に生まれたティナや、人造魔導士のセリスとは違って、自力で魔法を習得出来ない私達にとっては大きな手助けとなってくれた。

 

「行くぞ、マッシュ!」

「おお!」

 

 石床を蹴って、私達兄弟が駆ける!

 

 頭と右手に持ったドリルが激しく回転。そのまま速度を落とすことなく、私はティナと刃を交わす竜へと突き込んだ。

 

 タイミングを見計らったティナが刃を受け流したおかげで、バランスを崩したブルードラゴンの身体に吸い込まれる様に、右手のドリルが突き刺さった。

 

 ドリルの身体を抉る一撃に、苦悶の声を上げる竜。

 

 そこに、鋭い風切り音がするや否や、竜の顔にめり込む――拳。

 

 その衝撃で、刺さったドリルが竜の身体から離れ、私もバックステップで距離を取る。慣れているもので、ティナもその場から離れている。

 

「うおおぉっ! 究極奥義! 夢幻……闘舞っ!」

 

 暑苦し……勇ましい雄叫びを上げて、竜の周りを高速で――両手を高く上げた状態で回る弟。

 

 余りにも速すぎる拳打と蹴撃の動き、小技と小技の繋ぎがあの構えの関係で起こる現象である。

 

 その証拠に、辺りには短く断続的な重低音が響き渡っている。

 

 最後に一発、大きな音を響かせて、マッシュが竜の身体を蹴り宙に弧を描きながら離れる。

 

 竜はそのままバランスを崩し――たお……吼えた!?

 

 完全に理性が飛んだらしい竜の周囲に、無数の魔力で出来た水泡が浮かぶ。

 

 灰色の雲が天井すれすれに発生し、そこから水滴――雨が降り始める。

 

 雨?……いや、これは……。

 

「酸性雨か!? みんな、魔法防御を!」

 

 私の警告を聞くや否や、各自が魔法防御を高める魔法――〈シェル〉を唱える。

 

 カイエン達も覚えていた事に安心して、私も同じ魔法を唱える。

 

 そして……。

 

「え、エドガー……!?」

 

「アニキ!? どうして石造を庇ってるんだっ!?」

 

 ドリルを投げ捨て、着ていたシェルの効果があるコートを脱ぎ、レディの石造に被せる私に、ティナとマッシュからは驚きの声が。

 

「何を言ってるんだ。これは当然の事だろう? 抵抗力の無いレディの像が、酸性雨で傷付いたらどうするんだ」

 

 本当ならティナも庇いたいが……悲しいかな、この私の身体は一つ。

 

 まあ、彼女は盾とシェルで防いでいる為、大丈夫だろう。

 

 もちろん、酸性雨で衣服が傷付いているようなことがあれば、後からコートを着せてあげるのは紳士として当然の事だが。

 

 それと、竜と私達(私とレディの像)の間にある水晶体は、大丈夫だよな?

 

 チラッと視線を向けると、ぼんやりとだが、どこかで見たり感じた様な不思議な輝きを放つ水晶体の中身が、少しだけ見えた。

 

 レディの像と向かい合う形で、黒いマントを膝にかけて座っている黒いドレス状の服を着た……セリスやティナよりはやや年下に見える、少女。

 

 マントの端からは、剣の柄が……見たようなこしらえな気がするが、水晶越しでは良く分からない。

 

 そんな少女の表情は、思わず引き込まれそうになるほど――優しい微笑みを浮かべていた。

 

「アニキ、んなこと言っている場合じゃ……ぶわっ!?」

 

「マッシュ!? ……きゃっ!」

 

 二人の叫びに意識が引き戻される。

 

 ブルードラゴンが解き放った水泡が滝の様な水撃となり、壁の華と化していた二人の方へと、マッシュを吹き飛ばした。

 

 ティナの方にも向かっていたが、盾と光剣を使い水圧に圧されつつも、何とか防いでいた。

 

 そして、私の方には――。

 

「え、エドガー!? 避けてぇ--っ!」

 

「エドガー、何やってんだ!」

 

「エドガー殿!」

 

「アニキー-!!」「ぐふ!」「ぬわ!」

 

 竜の右手が……それに握られた剣が、振り上げられていた。

 

 こちらへ真っ直ぐに振り下ろされる剣を、残った唯一の武器である頭上のドリルで受け止めようと、頭を振りかざす。

 

 ……いくら何でも無理だな。回転していないドリルは、ただの棒に過ぎないのだから。

 

 せめてレイズ……いや、アレイズで生き返れる程度の損傷で済めば良いが。

 

 そんな私の意識を断ち切るように、何か(恐らくドリルだろう)が砕け散る音が響き渡った。

 

 剣で切り裂いているのに、砕け散るというのも凄いな。

 

 そうだ、さっきの水晶体の光。あれは、幻獣達のものと同じものだ。

 

 ……って、おや?

 

「……生きてる?」

 

 頭上の重みも変わっていない。

 

 逃避していた意識がはっきりと戻ってきた私が見たのは、目の前にある白銀の刀身。

 

 それは下から振り上げられた剣の。

 

「この部屋での狼藉は許しません」

 

 

 宙を舞う、鍵爪の付いた竜の手。

 

「それに、父様の剣まで使うとは」

 

 構えられる、良く似た作りの二振りの――雷を纏わせた剣。

 

「この後、貴方が知るのはただ一つ」

 

 それは静かな怒りの込められた、目の前に立つ少女からの宣告。

 

「私の剣の軌跡のみ!」

 

 優雅に、華麗に。ダンスでステップを踏むかの様に。

 

 残った鍵爪を、尾を掻い潜り、懐へと入り込んだ少女。その見た目からは想像も出来ない、幾筋もの剣閃が竜の身体を走る。

 

 それは竜というキャンバスに雷光で描く、芸術。

 

「その魂に焼き付けて、霊界に逝きなさい」

 

 剣を止めてそう言うと、竜に背を向ける。

 

 一見、竜の身には傷一つ無いように見えるが、良く見れば先程までの剣閃が示した通りの、無数の跡が残っていた。

 

 やがて息絶えていた竜は、そこから発生した空間の裂け目――次元の狭間へと飲み込まれていった。

 

「ただし、貴方の身体は次元の狭間に放逐しますが。母様の前に、死骸を晒す訳にはいきませんので」

 

 彼女からはそんな一言があったが、目の前で滅多斬りは良いのだろうか?

 

「エドガー、大丈夫?」

 

「勿論だよ。レディ達を残して、私が死ぬわけにはいかないからね」

 

 刃を消した光剣を、ベルト部分に戻しながら駆け寄るティナに、私は笑いながらそう告げる。

 

「うん、いつもの変なエドガーのまま。良かった。じゃあ、私は三人の方を見てくるね」

 

 あの三人なら大丈夫と思ったが、マッシュが吹っ飛んだ際に直撃を受けた二人は心配だな。

 

 しかし、ティナの看護を受けるとは……。夕食を一品ずつ抜いて、気が付いたら飛空挺に居た雪男にでもあげようか。

 

「いくつか質問があるのですが、構いませんか?」

 

 やや低めだが澄んだ声に気が付けば、私の前に立ちこちらを見上げている、勇ましきレディが居た。

 

 背はティナより高く、セリスよりは低いな。

 

 暗赤色――黒に程近い赤色をした、サラサラと揺れる腰までストレートに伸ばされた髪と……何故か剣呑な光が宿っている、同じ色をした瞳を持つ強気そうな眼。

 

 それにしても、今にも斬りかかってきそうなこの雰囲気は一体……?

 

「言葉は……通じていますよね?」

 

 言葉使いは丁寧な確認だというのに、剣呑な光を宿す目が細められている。

 

「あ、ああ。大丈夫、通じていますよ、レディ」

 

 いかんいかん、美しきレディを前にして。この私が恐怖なんか感じる筈が――。

 

「レディ……? 良く分かりませんが、私の事でしょうか? ですが、それは後です。いくつか質問があります」

 

「何なりと、勇ましきレディ? 私で答えられる事なら何でも」

 

 

 随分と大人びている感じだが、疑問を浮かべた時に僅かに首を傾げた姿も美しい。

 

 変に殺気だっていなければ、なお良かったのだが。

 

「ありがとうございます。最優先事項なのですが、この部屋の惨状は貴方方も関与している……で、合っていますか?」

 

 レディ用のスマイルを浮かべる私に返されてきたのは――その身体から発せられる殺気と、剣呑な光を放つ眼と、水晶越しとは別の印象を抱かせる彼女の微笑。

 

 両手に持つ、たった今伝説の七竜を斬り刻んだ二振りの剣で、部屋を指し示しながら……。

 

 物語に出てくる戦乙女を思わせる彼女は、口許だけの微笑みを私に見せた。

 

 ……さて、どうしようか。

 

 




 
 
 
(注)

 闘舞の説明については、作者のせめてこういう理由で……という願望です。

 レベルに関しては、当時の育成であり決して差別でh
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