この世界で唯一無二の絶対的な存在、それが“神”を名乗るケフカ。
彼の怒りに触れれば――もしくは気紛れで、今この瞬間にも滅びそうなこの世界。世界の命運は、彼の掌中にある。
その“神”の住まう“神の塔”。
世界崩壊……一年前に彼がもたらした世界大破壊。真っ先に破壊されたガストラ帝国の帝都ベクタを始めとして、世界中の残骸を使って彼の魔力で建てられた通称“瓦礫の塔”。
塔に仕掛けられたトラップを、種々様々な魔物を、魔獣を、伝説の竜を! あの時――復活した魔大陸に乗り込んだ時以上の死闘を乗り越えて、最奥を目指して進み続ける。
ケフカの仕掛けたギミックの関係上、パーティーを三つに分けての同時進行。
何故か敵に襲われる事もなく進んだパーティーが一つあったものの、ケフカの待つ本塔だけを目指し進んでいた。
そして、立ち塞がったのは、“神”を守る最後の番人――三闘神。この世界の魔法や幻獣を生み出した、正真正銘“真実の神”。
闘いは熾烈を極めた。
双方の魔法が飛び交う中、傷付く事を恐れず近寄って武器を振るう。その名に相応しい脅威的な力を、見たこともない技を使われ、戦闘不能に追い込まれる事も一度や二度では無い。
それでも、私達はこの先に――ケフカの元に行かねばならない。この世界の悲劇を終わらせる為に……。
――彼等の多くは、特別な力を持たない、ただのどこにでもいるような人間だった。違う所があるとすれば、それは本質である芯――“心”の在り方。
――出会い、喪失や裏切り、別離に世界の崩壊……様々な経験を重ねていくなかで、平和を願う心と“愛する心”が彼等をここまで育て、導いてきたのだから。
――そんな彼等の事を見抜いていたからこそ、幻獣達も認め、力を託して逝ったのだろう。
――背後にある存在を守るのは“あの時”と同じ。そう、永く続いた……続きすぎた戦を終わらせるため。ただあの時と違うのは、永久の終焉。
――これで最後。そして、この愚かしく永い悲劇の幕を引くのは、彼等にこそ相応しい。
――だからこそ……
瓦礫の塔の最上階で、奴は私達を待ち構えていた。一年前に苦渋を味わったあの時と同じ姿で、ただし最早狂気ですら無いものをその身に宿して。
私達が来るのを確信していたらしく、一生懸命考えたというこの最後の舞台に相応しい口上を述べながら、奴はゆっくりと私達を見渡す。
道中を無理矢理突破してきたらしいマッシュ、ロック、シャドウ、カイエン。
モグ、赤いの、ガウ、ストラゴスのパーティーは道中は何ごともなく進んでいたが、三闘神との闘いでは苦戦を強いられることとなった。
そして、私、ティナ、セリス、リルムのパーティー。
「いやー、それにしても皆さん。良くここまで来て下さいました。でも、変ですねー。出涸らしの三体を倒したら、全てのモンスターがここに集まるようにしてあったのですが。余興が始まりませんね?」
大袈裟な身振り手振りで話すケフカに、私は防塵用のマスクをはめ直す。
「仲間が戦ってくれてるよ。私達に願いを託して、命懸けでね」
一番この場に来たかったであろう、彼女が。
「つまらん! 滅ぶと分かっていてなぜ作る? 死ぬと分かっていてなぜ生きようとする? 死ねば全て無になってしまうとのに」
「大切なのは結果じゃないだろう?」
「今、何のために生きているのか、何を作り出すことが出来たのか、守るべきモノは何なのか」
「生きている間に、人がその答えを見つけることが出来れば、それで良いんじゃないのか?」
ケフカに対して私が肩を竦めながら答えると、その後にセリスとロックが続いた。
「あたしはまだまだ先は長いんだ! さっさと倒されろ、このうひょひょ野郎ー!」
「ちょっと……いや、かなりおいたが過ぎたな。痛い目を見てもらうぜ?」
「お前一人のせいで世界中の人が苦しんでるでござる! 許せんでござるよ!」
「お前は……このままにはしておけん」
リルムが、マッシュにカイエン、寡黙な暗殺者のシャドウまでが口を開いた。
その様子を黙って見つめていたケフカ。やがて、大仰な仕草でやれやれとこぼした。
「気に食わないですねぇ。揃いも揃って口答えして。ま、世界の皆さんに知ってもらいましょう。お前達を始末して、希望を持つのは無駄だとね」
そう、最早この場での話などは無意味なのだよ。
生きるか、死ぬか……
否。勝って、未来を勝ち取る……! 世界中の、レディ達の為にもね。
※ ※ ※
あの後――かけがえのない場所で、目覚める筈の無い眠りについていた私が、意識を取り戻した後。
大事なあの部屋を破壊したことを認めた彼を断罪しようとした直前で、母様の像にかけられたコートが視界に入り思い止まる。事情を聞いてから、改めて対応することにして。
優しい笑みを浮かべながら、私をレディという変な名前で呼ぶ――頭におかしな物を付けた青年に名前……と言ってもライディナの方だけを教え、“今”起きていることの話を聞いた。
私にとっては少し前の出来事であるあの永い戦い――この時代では魔大戦と呼ばれているものが終わって、およそ1000年が経過していた。
その後の機械文明の発展と、魔法――魔導の再着目とそれに関わるある帝国の栄枯盛衰、そして一人の男の顛末を。
終わった筈のあの悲劇がまた起きていることに、正直ショックを隠せず……目覚めた時に流れ込み、覚えた言葉が間違っていたのではと……思いたかった。
しかし、私の元に集まってくるこの時代に死した多くの幻獣達の想いが、目の前の彼等と共に在った魔石が、それを真実だと教えてくれた。
それならば、私が取るべき手段はただ一つ。
私のことを訊ねてきた青年に、特に隠す事もないため説明をした。ところで、途中の質問にあったスリーサイズとはいったい? 幻獣達も知らないようで、何かの暗号かとも思うも、彼の仲間達から色々言われてその質問はうやむやで終わる。
私の話を聞いて特に反応したのは、青年のパーティーにいた二人。
一人は所縁あるドマ王国の戦士。あの国が今も続いていたことに驚き、また嬉しく思うも、一年前に滅ぼされたということを知らされた。
そのドマに代々伝わる秘中の口伝に、私の城や私らしき少女のことが、ぼやかされて伝わっていたという。ただ、語り継いでいた者も先の件で亡くなったため、最早確認が出来ないとも。
そして、もう一人は……幻獣と人間との間に産まれた子。あり得たかもしれない、私のもう一つの可能性。
あの大戦時だからこその出会い、大戦時だからこその許されぬ状況、大戦時だからこその……終焉。果たされなかった想い。
やはり、この悲劇を終わらせなくてはならない……! この瞬間にも、父様や母様達のような想いが育まれ、新たな命が産まれているのかもしれないのだから。
飛空挺という空飛ぶ船で仲間達を紹介され、私も簡単に自己紹介を行う。そこには子供や、人間以外の者も含まれていた。種族も年齢も性別も超えて、全員で掴む希望。
私も彼等と共に行く約束をするも、その前に自分の目で見に行く場所がありました。
幻獣界を。
帝国との争いで、幻獣達の多くがその命を散らしてしまった。大戦時に共に戦った巨人族――雪巨人だった彼も、幻獣界を護るために戦い……逝ったという。青年――エドガーの仲間に雪男と呼ばれる者がいたため、ふと思い出してしまった。顔などは全く似ていませんが。
飛空挺を飛び立ち、空から見た――あの時代と似た、荒れ果てた世界に胸を痛める。途中立ち寄ったドマで黙祷を捧げると、すぐにその地を後にし、複数存在していた幻獣界に繋がる道を確認していく。
ほとんどの道が塞がっていたものの、一本だけまだ繋がる道を見つけた。
ようやく辿り着いたそこには、何もなかった。幻獣達も、封印された筈の三闘神の像も。話にあった通りに。
確認を終えると、私はすぐにエドガー達の元へと急ぐ。
本当は、直接頂上に行くつもりでしたが、三闘神の力で張られた結界に阻まれて断念。
そう、三闘神。根源にして、元凶。
そして、その“先に待つもの”を、私は理解していた。彼女の方は、理解しているのでしょうか?
飛行したまま近くの入り口から突入し、魔物を斬り捨てながら奥へ。
途中から飛行速度が落ちたものの、趣味の良くない塔の内部を時に駆けて、最奥――本塔への扉を抜ける。そこでは傷付いた異色のパーティーが三闘神の一柱、『魔神』と戦っていた。
迷うことなく、そのまま突進した私は魔神へと両手に持った剣を突き立てた。あの時の様な威圧感も迫力もない、まるで中身がない抜け殻の神に。
他二体もそうであれば、それの意味するものは一つ。ケフカという者に、奪われたのだろうと結論付ける。
魔神が消滅した後、倒れていた者を甦生して、助かったことにだろう――喜ぶご老人と、その異色のパーティーと共に奥に進もうとした所で、急速に高まりつつある殺気に気が付く。
本塔から出ると、他の通路からエドガーのパーティーも外に飛び出してきた。
通ってきた道から迫ってくる、数え切れない気配と……並の戦士なら立っていられない程の殺気。
「ライディナ! 君も奥へ!」
「ダメです、エドガー。それをすれば、奥で待つものと挟み撃ちされます。幸い、パーティーのいる両端の通路は段差で塞がれているため、真ん中の通路に集中できます。念のために、その入り口も塞ぎます。ですので、早く奥へ!」
エドガーに答えながら、飛行と言うよりは滑空で、斜め下の主通路へ降りる。
「駄目だ! マッシュのパーティーがいる場所は、外と直接繋がっているんだ! 奥で合流した方が良い!」
小型の機械で、他のパーティーとやりとりしているエドガー。
それなら……。
「そのパーティーに魔石があれば、その繋がっている所に向けて下さい」
「それをして……」
「早く! 時間がありません」
既に、敵はこの主通路に繋がる扉の前まで迫ってきている。
「したそうだ!」
気配を探る……。離れた所に居る幻獣達と繋がり――視覚をリンクさせる。そして、見える穴。
「カーバンクル、ゴーレム。力を貸して下さい――封結晶」
頭上の穴を青いクリスタルが覆う。私が眠る時に使ったものと同じもの。ただし、私の力はこの後使うため、大部分をカーバンクルやゴーレム達の力で補う。
「ライディナさん!」
「ライディナ、あなたも早くこっちに!」
「急ぐゾイ!」
「ティナ、セリス、ご老じ「わしゃ、まだ若いゾイ!」……ストラゴス。あなた達は、倒すべき者を倒して下さい。それが、世界の人々が望んでいることです」
再深部に通じる最後の大扉を背に、私は主通路の真ん中で待ち構える。
「13人で全てと戦うよりも、12人で早くあれを……終わらせて下さい、この悲劇を」
「それであんただけ犠牲になってどうすんのさ!」
「リルム、私は死にませんから大丈夫ですよ。それに問答の暇があれば、早く倒してきて下さい。その分、私も楽になりますから。……楽に――」
「ライディナ。あなたも、もしかして……」
セリスが気付いたようですが、続きを遮る轟音と共に扉が破られる。乱入してくる魔物達。
「行こう、みんな! ケフカを軽く倒して、戻ってくればいい!」
「ここは私に任せて行きなさい、希望の戦士達! 私の願いも、託します……!」
大型のキマイラを斬り裂き、炎に包まれたモルボルが後続を巻き込んで燃え上がる。
「後で、必ず会おう」
乱闘の中で、叫ぶ訳でもないその声が確かに聞こえた。
一瞬だけ振り返れば、心配そうなティナにエドガーが何か言いながら扉の中へと消えていく所だった。
飛行する機械兵を雷撃で攻撃し、墜ちてきたものをそのまま両断すると、段上の扉もクリスタルで塞いでおく。
中からも開かないが、彼等が終えて下りて来る頃には消えている筈。何も、問題はない。
私の力は幻獣達の遺した力。結界に阻まれ断念したものの、懸念事項が一つ。それは、幻獣達を生み出した三闘神の力を奪ったケフカと戦えば、私がどうなるか分からないということ。
消滅させられるなら……もちろん無念ではありますが、まだ良い。問題は、操られて彼等の敵となること。
それだけは避けたかった。
何よりも、この舞台に幕を下ろすのは、私よりも彼等の方が相応しい。
「――だからこそ……」
空飛ぶ目玉の悪魔を切り裂きながら。
あの時と同じ――
「ここから先へ進ませる訳にはいきません!」
剣の汚れを振り払い、魔物の返り血を聖火で浄化させながら――。
通路を埋め尽くしながら迫る魔物達を前に、両手の剣を構え直す。
「貴方達が知るのはただ一つ。私の剣の軌跡のみ! 私より少し先に、逝きなさい」
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