傷だらけの守護者 〜全てをキミに〜   作:きつね雨

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三葉と花畑

 

 

 

 前方のスクリーンに画像が映る。

 

 陽咲(ひさ)からは正面に見えているが、三葉(みつば)をはじめとする者達は手元のモニターで確認しているのだろう。

 

 あの赤いレヴリの情報をイラスト等で補った資料だ。数枚は写真があるが、其れ等はフィルムによるものだろう。電子的機器で映せないレヴリは、こういった表し方になり易い。破壊された頭部、穴の開いた胸、それを開胸して調べた詳細を文字に起こしている。

 

 銃弾すら弾く肌や強固な骨をどうやって……そんな方法があるなら教えて欲しかったが、多分戦闘には使えないのだろう。隠す理由もないし……陽咲はそんな事をつい色々と考えてしまう。

 

「言うまでもないけど、回収したレヴリよ。まるで地獄に歩いてそうな赤鬼だけど、現実に現れたら困るわ」

 

 イラストとは言え、かなりグロテスクな絵と情報ではある。しかし、この程度で気持ち悪くなる者ならこの場所には居ないだろう。陽咲ですら特に思うことはない。

 

「似た様なレヴリなら過去に現れたけど、このサイズは最高記録になる。まだ正式ではないけど"カテゴリⅢ"に該当するかもしれない。今から陽咲の話を聞いて参考にさせて貰う事になるわ。唯一の生き残りだから」

 

「……はい」

 

 あの日、隊は全滅し一緒に死んでいた筈だった。もっと力があれば、もっと上手く戦えたら……陽咲は優しかった皆を思い出して俯く。何らかの責任を問われても反論は出来ない。希少な念動を持ちながらも戦力になれなかったのだ。

 

「日報は読んだけど、幾つか確認したいから……大丈夫?」

 

「すいません」

 

「じゃあ、順番に」

 

 彼女しか話さず、他の者は身動ぎすら殆どしない。三葉は手元と陽咲を交互に見ながら、ゆっくりと唇を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。次の質問だけど遭遇したのは中心部じゃないのね? 此処で間違いない?」

 

「はい。ショッピングモール跡が右手に見えたので間違いありません」

 

「他のレヴリはいなかった?」

 

「直ぐに戦闘になりましたので、はっきりと確認出来た訳では……しかし他の個体は見当たりませんでした」

 

「此処から約200m東に誘導したとあるけど、後退したのではないの?」

 

「そんな……後退なんて! 白石部隊長が瞬時の判断で作戦を提示しました。拙いですが私の念動を使い地下に落とすと。身動きが出来なくなったレヴリに集中攻撃を行う筈だったんです。でも、身体に似合わず奴は素早くて……作戦立案に間違いはありませんでした!」

 

「それを判断するのは陽咲じゃないわね」

 

「すっ、すいません」

 

「とりあえず誘導としましょう。実際に地下に落としたのは此処……念動で崩落させたと」

 

「はい。レヴリは油断していて時間がありました」

 

 そう、油断……あの赤いレヴリは仲間を一人一人喰らっていた。陽咲が生き残っているのを知っていただろうに、相手にもならないと食事を始めた。舐められていたのだ。事実、陽咲は皆に守られていただけだった。

 

「その時、残存兵力は0とあるけど」

 

「皆が私を守ってくれて……」

 

「そんな事は聞いてないの。事実として陽咲一人だったのね?」

 

「……その通りです」

 

 三葉の淡々とした言葉に陽咲の心は震えてしまう。司令として責任者としての振る舞いであろうと、普段なら個性的で優しい叔母なのだ。小さな身体と短い髪の所為で侮り易い人だが、やはり長年レヴリと戦って来た戦士だった。

 

「何故逃走を選択しなかったの? 勝てないと判断出来たでしょう」

 

「まだ念動に余力があったからです。元々その予定で温存していました」

 

「勝てると思った?」

 

 反発心、あるいは千春お姉ちゃんへの憧れ、嫌われたくない、そんな気持ちが無い混ぜになった子供と変わらない感情の発露だ。勝てるとか勝てないとか、考えただろうか……陽咲はそんな風に思い出していた。あの少女に言われたのだ、戦いには不向きだと。

 

「……はい」

 

「そう。まあ実際にレヴリは倒せたし、()()()で話を進めましょうか。念動で地下に落とし瓦礫を射出。露出した頭部を集中的に攻撃した。それで間違いない?」

 

「はい。ただ、それだけでは殺し切れずにもう一度戦う事になりました」

 

「崩落させた穴から出てきた訳ね?」

 

「そうです」

 

「うーん……此処からが曖昧ね。慌てた陽咲は念動で攻撃。気付いたらレヴリは倒れていた、と」

 

 陽咲の提出した報告を見ているのだろう。

 

「凄いわね。このレヴリの頭部がバラバラ、上手に当てたものだわ。かなりの大きさの瓦礫を?」

 

「申し訳無いことに、私は冷静ではありませんでした。無我夢中でしたし、隊の皆との戦いも蓄積していた筈です。それに最初の念動の攻撃でもダメージが入っていました」

 

「ところで陽咲」

 

「はい」

 

 今年40歳になった筈だが、まったくそう見えない童顔の顎を重ねた両手に乗せた三葉は真顔になる。あの胡散臭い笑みも消えた。

 

「虚偽の報告は度合いによっては重罪よ。異能者は少し特殊な立場だけど、だからこそ特別扱いはしないわ。この私が預かる師団では尚更、ね」

 

 背中がじっとりと汗で濡れたのを陽咲は自覚した。当然と言っていいのだろう、嘘など簡単に見抜かれている。しかし何故かその存在を隠してしまった。

 

 いや、理由なら理解している。

 

 不法に所持していた変わった銃、あの拒絶感、氷のような冷たさ、なのにどこか優しい。そして一筋流れた涙……哀しくて綺麗だった。

 

 何より姉を、千春を知っている。気付いたら日報に彼女の存在を記す事が出来なかった。

 

「そ、それは……」

 

 言葉が出なくなる。三葉は黙ったままだ。

 

「三葉司令、それぐらいで良いのでは?」

 

 今まで唯の一言も喋らなかった者達の一人、三葉の右隣に座っていた男が閉じていた目を開いた。

 

「あん? お花畑(おはなばたけ)、頭の中までお花畑になったのか?」

 

 この三葉を見れば、先程迄の陽咲に対する態度が如何に優しかったか分かる。言葉遣いは勿論だが、何より視線が違う。刺す様にとはこの事だろう。

 

 しかし、三葉の鋭い反応にも全く動揺していない。薄く染めたソフトモヒカン、黒縁眼鏡、中々整った容姿をしている。歳の頃は三十前半か、少なくとも兵士ではない。助かった? そう考えて陽咲は男を眺めた。

 

「僕の名前は花畑(はなばたけ)です、三葉司令。本題に入った様なので、口出ししました。自己紹介させて貰っても?」

 

「けっ……どうせ断っても煩いだけだ。好きにしろ」

 

「三葉司令から許可を頂きましたので……(あかなし)さん、僕は兵装科特務技術情報官の花畑(はなばたけ)多九郎(たくろう)と言います。残りの彼らも同じ兵装科の者ですが……少し特殊な人達なので紹介は割愛させて貰います。どうしても知りたい場合には三葉司令へ正式に申請して下さい」

 

「は、はい」

 

「兵装科をご存知ですか? まあ名前の通り警備軍の兵装を調査開発、そして管理している部門と思って結構です。大きく分けて3つに分かれていますが、お上のように縦割りにはなっておらず、風通しの良い組織です。例えば……」

 

 立て板に水とはこの事かと陽咲は呆れてしまう。長くなりそうと椅子に座り直して姿勢を変えたが、その心配はあっさりと霧散した。

 

「お花畑、黙れ。貴様の長話に用はない。帰って壁にでも話してろ」

 

 やっぱり花畑も三葉が怖いのか、直ぐに口を噤む。それでも酷い言い草には慣れているのか、溜息一つで済ました様だ。そうして陽咲に向いた三葉に笑みは浮かんでないのに、何故か視線が柔らかくなったと感じる。

 

「陽咲、貴女も大体は知っているでしょう。異能者の育成、レヴリの調査、そして兵器開発ね。この男は部門を跨って動く情報士官……まあ、能力は認めていいわ、能力だけなら」

 

 ついさっき預かる師団では特別扱いしないと三葉は言ったが、明らかに陽咲と花畑に差があるのは笑うところだろうか。

 

「はあ……」

 

 何の話をしてたんだっけ? 陽咲の頭に疑問が浮かぶ。

 

「三葉司令、気のせいか僕に辛辣……」

 

「気のせいな訳ないだろう。このペド野郎が」

 

「ぺッ⁉︎ それは違うと言ったでしょう!」

 

「三年前を忘れたのか? やっぱり頭はお花畑だな、蝶じゃなくて蝿が大量に飛んでる」

 

「アレはちょっとした勘違いですから! 誤解を生むような話はやめて下さい!」

 

「はあ? 街中で私に声を掛けて来たよな? どうしましたお嬢さんって、キモい顔で。事案だからな?」

 

「あああ、あれ、あれは」

 

「けっ」

 

 なんなのこれ……そもそも小さいとか言われるのが嫌な筈の三葉だが、この論理なら自らが幼く見えると認めている事になるし。そう思わず注意したくなった陽咲だったが、藪蛇になりそうと自重した。

 

「それにお前が必死に追っている奴だって見た目だけは少女だろ? 何だよコードネームが天使(エンジェル)って。キモい、吐きそう、ほんと」

 

「……くっ」

 

 否定しないんだ……もう帰っていいかな?

 

 内心呟いた陽咲は思わず腰を上げ掛けたが、三葉の言葉を反芻して我慢する。今日の意味が分かったからだ。見た目だけは少女、そう言った。

 

 三葉は冷めたコーヒーをズズズと飲み、勝手にしろと黙った。ミルクたっぷりで砂糖はスプーン山盛り三杯がお決まりのお子様コーヒーだ。ブラックは苦くて飲めないらしい。

 

「と、とにかく。杠さん、今度は僕から話をさせて貰います。よろしくお願いします」

 

「はい」

 

 陽咲は花畑を真っ直ぐに見て、背筋を伸ばした……一応だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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