傷だらけの守護者 〜全てをキミに〜   作:きつね雨

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魔力の渦

 

 

 

 (なぎさ)を守るーーー

 

 陽咲(ひさ)自身で決めた事だが、三葉(みつば)が言葉にしたとき、何か不思議な高揚感を覚えた。まるで世界に認められ、自分の存在意義を確信した様な、そんな不思議な感覚だ。そして其れは嫌な事じゃない。

 

「誓う、絶対。どんな時も、嫌だって言っても」

 

 陽咲の無意識な念動(サイコキネシス)が働き、渚は自分の身体が優しく包まれた感触を覚えた。渚の異能であってもその力を見ることは出来ない。それでも、其処に恐怖は感じないのだ。何故か恥ずかしく感じて、言葉が溢れる。

 

「……陽咲、離して」

 

 漸く自身の念動が動いているのに気付き、慌てて解除する。

 

「あっ! ご、ごめん。痛かった?」

 

「大丈夫」

 

 ホッとする陽咲と、複雑な心境を綺麗な顔に映す渚を視界に収めながら、三葉も口を開いた。

 

「何だか暑いわ」

 

 態とらしく、パタパタと手で顔を扇ぐ。ジト目を姪に送りながら。陽咲が居るとシリアスが続かないなと思ったりしている。

 

「え? そうかな? 窓は開いてるけど」

 

 天然な返しを受ければ、これ以上冷やかす気も失せるのだ。

 

「渚、もう一つ話があるの。先に同行の了解を取っていながら卑怯なのは承知よ」

 

「気にしないで」

 

 千春の叔母。血の繋がり。その人柄を知れば、強く感じる。だから渚は彼女の願いを叶えると決めていた。そんな心の中を知らない三葉は、優しい娘ねと笑顔を浮かべる。陽咲と同じ様に、必ず護ると決意しているなど想像もしていなかった。

 

「カエリースタトス。貴女は此処に来て今まで一度もカエリーを返してと言わなかったわ。様子を聞く事も、勝手に触らないでと怒りを露にする事もない。何故なの?」

 

「別に……戦場でないから、一緒に居る理由もない。話したなら分かるだろうけど、融通の効かない面倒な奴。余り真面目に話さない方がいい、カエリーとは」

 

「そう、なの」

 

 三葉は心から安心して、身体の力を抜いた。あの真っ黒な銃が渚の自由を奪っているのではと心配していたからだ。カエリーに良心の呵責は存在せず、出来るなら二度と返却などしたく無かった。しかし同時に、渚が持てば常識外の力を発揮する。

 

 渚とカエリースタトス。

 

 二人は主と従者。そう言う事なのだろう。

 

「どうして?」

 

「ん、カエリーは……あの銃を渚の傍に置きたくないなって。アレの所為で無理矢理戦わせられるなんて、許せないでしょう? PLに誘いながら矛盾だらけで笑うしかないけれど」

 

「……そんな心配は要らない。カエリーにそんな力は無いし、望むなら好きなだけ調べていい。アイツが何て言おうと、私の命令だと伝えて」

 

「ふふ、りょーかい。出発は明後日の朝よ。準備しておいて。カエリーはその時でいい?」

 

 渚はコクリと首を縦に振った。

 

「陽咲、手伝ってあげて」

 

「はい!勿論!」

 

「でも、着替えとかは禁止よ。手を出しそうで不安だし」

 

「ええ⁉︎」

 

 叔母さん、酷いよ……そんな分かり易い顔色を見て、指摘は正しかったと三葉は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

「渚ちゃん、怖くない?」

 

「大丈夫」

 

 渚は警備軍と同じ灰色した迷彩服に包まれていた。決して着こなせてはいない。小さな身体に合う装備は軍内に一つとして無く、袖や裾を折り畳んでいるのがその証拠だ。全体的にブカブカで、細い少女らしい線も隠されていた。

 

 そして、まるで揺り籠に抱かれた様に、ユラユラフラフラと()に浮いている。

 

 まだギブスも取れていないし、手術後の縫合の治癒も未だ途中だ。スライムの体内に突っ込んだ右手は指先まで白い包帯が巻かれていて、カエリースタトスはナイフ形態のまま腰のベルトに挟んである。

 

 念動(サイコキネシス)の力によって、渚は()()されているのだ。最初の頃は姿勢が整わず身動ぎを繰り返していた。結局は両膝を抱える様に丸くなるのが楽と知り、それ以降はずっとそうしている。因みに、陽咲はその可愛らしい体勢に内心悶絶していたりするが。

 

 すぐそばに居る陽咲が行使する異能は、物理的な影響を世界に与える。渚は其れに身を任せてゆっくりと前に進んでいた。高さは陽咲の視線に合うよう、調整されているようだ。

 

「違和感とか有ったら教えてね? まだ余り経験ないから」

 

「分かった」

 

 そんな二人を眺める三葉は、色々と驚きに襲われていた。

 

 念動は非常に希少で強力な異能だ。

 

 世界を見渡しても数は少なく、教師となる者は師団に居ない。いや、陽咲より遥かに弱い力ならば存在する。しかし教えを説く事は不可能だろう。そして今、行使している念動は訓練に良く使われる物体移動。一見単純だが、対象物を破壊せずに運ぶのは困難なのだ。人は生卵を割らずに持ち上げる事が出来るが、念動では簡単ではない。

 

 しかも人体を運びながら前に進む。崩壊した街中、PLへと変貌した此処では尚のこと難しい。整備された道など何処にもないのだから。

 

「もっとゆっくりと思ってたけど、此れは嬉しい誤算ね。秘めていた才能がいよいよ開花して来た……渚の存在が陽咲を強くした訳か」

 

 強く、速く、激しい。そんな風に異能を操るのは比較的容易だ。意志の力は激情に宿り易い。逆に優しく、ゆっくりで、そして穏やかな意志は戦闘と相反する。それをいとも簡単に……我が姪ながらと感嘆していた。

 

「確かに可愛らしい渚だけど、ベタ惚れの域を超えてるのが不安の種。困ったヤツ」

 

 苦笑を浮かべた台詞が僅かに届いたのか、陽咲が振り向き疑問をぶつけて来る。

 

「司令、何か言われました?」

 

「いや、気にするな」

 

「あ、はい」

 

 何か聞こえたんだけどなぁ。そんな風に首を傾げる陽咲から視線を外し、速度を上げて宙に浮く渚の横に並んだ。

 

「渚、どうだ? 何か気付いた事はあるか?」

 

「今のところは別に……一時の方向にレヴリ、距離は約二キロ。横切る様に歩いてる」

 

「おい」

 

「はっ!」

 

 渚が見つけたレヴリと遭遇しないよう中隊が動く。たったそれだけで、カテゴリⅢとなったPLで只の一度も隊はレヴリに出逢わない。其れが如何にとんでも無い事か、当の本人は涼やかな瞳のままだ。陽咲が氷に例えた美貌は決して崩れたりしなかった。

 

「陽咲、反動を抑えて」

 

「OK」

 

歪め(ディストー)

 

 更に呟くと、カエリースタトスが銃形態に変化し、数秒後には二時の方向へ魔弾を発射。本人以外誰にも見えないが、何処かに居るレヴリをまた駆除したのだろう。そして誇る事も無く、三葉へと話を続けた。

 

「敢えて言うなら数が少ない。今のはスライムだけど群れじゃないし。それくらいかな」

 

「……そうか」

 

 普通に聞けばこんな喜ばしい事は無い。PLの縮小は確定し、徘徊するレヴリすら減少したのだ。なのに、三葉の嫌な予感は消えたりしない。何かが有ると心が囁く。

 

「よし、このまま調査を続行する! 中心部へ入るぞ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター、撤退を。間違いありません』

 

 ーーー分かってる。

 

『貴女は走る事も出来ないのです。まだ時間は十分に有るでしょうが、早い方が良い』

 

 ーーーでも、何故()()()()()が? 此処は()()()()()()()()じゃないのに。

 

『不明です。何にしても近付くのは危険と判断します。至急の撤退を……』

 

 ーーーそれしか無い、か。

 

 

 

「三葉司令」

 

「ん? なんだ? 中心部は未だ遠いが、今夜は早めに夜営に入って……」

 

「急いで離れよう。此処から」

 

 今まで余り緊張感を感じなかった渚だったが、遥か先を睨む瞳は兵士の色を纏っている。其れを確認した三葉も、隣で渚の横顔をチラチラ見ていた陽咲も其れが分かった。

 

「中隊、止まれ」

 

「はっ」

 

 命令は即座に実行され、行軍も物音すらも止まる。だから、渚と三葉の会話がかなりの隊員達に届くのだろう。

 

「何があった? 渚」

 

 前から視線を動かす事も無く、そのまま渚は返す。

 

「まだ随分先だけど、多分拙いと思う」

 

「随分先……」

 

 そろそろ夕闇に包まれそうな風景に一見の変化は見えない。レヴリとの遭遇も無かった事から何処か長閑な感覚すら覚える景色だ。しかし、渚には別の世界が見えるのか。

 

「魔力渦……かなり大きい」

 

魔力渦(まりょくか)? 何だ其れは?」

 

 その疑問に、渚は漸く視線を合わせた。

 

「魔力の(うず)。こっちの世界だから、全く同じじゃないかもしれないけど……魔力が一点に収束する現象を指す。PLが縮まったのはきっとアレが原因だと思う」

 

「何だと? 魔力の収束……縮小の原因か」

 

「マーザリグ帝国の在る世界なら珍しくも無い。でも、還って来てからは初めて見る。危険性は不明だけど」

 

「ふむ……」

 

 三葉は右手を顎に当ててゆっくりと擦る。よくする仕草だ。

 

「渚、もし此処がマーザリグ帝国の戦場ならば何を想定するんだ? 参考に教えてくれ」

 

「別に特別な事じゃないけど……魔力を集めて放つだけ。広範囲を殲滅したり、強固な城壁を破壊する時に感じる。強大な魔法を放つ前兆、其れが魔力渦」

 

「やはりな。ならば当然に妨害などの方法もあるはずだろう」

 

「勿論ある。でも私には無理。カエリーから聞いたと思うけど魔力が足りない。同じレベルの魔法をぶつけるか、行使者を殺せば消えるけど……あんなのを操る奴は、当たり前に魔力障壁を張ってるからカエリーじゃ突破出来ないよ」

 

「分かった。一つだけ聞かせて欲しい。その行使者は見えるのか?」

 

「ううん、不思議だけど行使者は存在しない。目立つから見逃さないし、何度も経験があるから。発見して報告、撹乱と妨害。マーザリグでの私の主な任務だった」

 

 カエリースタトスから聞いた渚は、絶えず単独行動だったらしい。敵陣深く一人で潜り込む恐怖は如何程だっただろう。いや、もしかした死ぬ事を望んでいたのかもしれない。地獄すら生温いマーザリグ帝国の呪縛からの解放は、死が運ぶのだから……そんな事を三葉は思ったが、それを言及しなかった。

 

「つまり、PLが産み出す現象だな。人為的なものじゃない」

 

「そうだと思う。収束も酷く不安定で遅い」

 

「時間は?」

 

「多分、まだ数日は」

 

「よし、どれくらいの距離を取る必要があるか判断出来るのか?」

 

「うん、出来る」

 

「分かった。皆、聞いたな? 直ぐに後退する! その上で監視班を置くぞ、準備しろ!」

 

 指示を出しながら、三葉は姉妹の元から離れて行った。

 

 

 

 

 そして数日後。

 

 渚の予言通り、カテゴリⅢだったPLは爆散し一度消滅する。しかし朗報では無い。何故ならば、そのあと直ぐに大量のレヴリが発生したからーーー

 

 [out of control]

 

 [stampede]

 

 つまり、

 

 暴走だ。

 

 

 

 

 

 

 




第五章終わりです
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