傷だらけの守護者 〜全てをキミに〜   作:きつね雨

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最終話です。



流れ行く時のなかで


 

 

 

 

 

「成る程ねぇ」

 

「それから渚が白く消えて行って、無事に還る事を祈ったのは憶えてる。そのあと意識を失ったから」

 

「それで一緒に戻ったってこと?」

 

「実は私もよく分かってなくて。気付いたら近くにでっかいドラゴンが居るし、壊れたビルも見えたから……混乱から抜け出すのに時間が掛かった」

 

「まあ異世界からいきなりドラゴンじゃ、別世界だと思うわね、普通は」

 

「うん、怪我も治ってないから痛くてさ。アレは間違いなく致命傷だったんだけどな。不思議」

 

「……簡単に言わないでくれる? 陽咲(ひさ)なんて何年もアンタを探していたのよ? それに(なぎさ)なんてどれだけ痛々しかったか」

 

「そっか……叔母さんも心配してくれた?」

 

「当たり前でしょう!」

 

「ゴメンゴメン。でも大きな声出さないでよ。渚が起きちゃうから」

 

 千春(ちはる)はさっきから優しく撫でていた黒髪の方を見た。三葉(みつば)も思わず傍に横たわっている少女を見詰める。よく眠っているのだろう、緩やかな寝息に変化は無い。シーツに隠れているが、同じくベッドにいる姉に抱き着いているのは間違いなかった。その千春は上半身を起こしているから腰回りにくっついている筈だ。

 

「……渚ってこんなだった? 凄い違和感があるんだけど」

 

 三葉から見た渚は、氷の様に無感情で異常な能力を持つ狙撃手だ。異能も助けて超一流の兵士だと知っている。しかし目の前で眠るのは、姉が大好きな可愛らしい少女でしかなかった。

 

「マーザリグ帝国以外では"死の精霊"として恐れられてたらしいけど……私達はいつもこんな感じだった。ねえ、叔母さんは知ってるんだよね?」

 

「そうね。渚の三年間はカエリースタトスから聞いた。身体の傷や心も……もしマーザリグの奴等が居たらぶっ殺したいわね、今すぐ」

 

「……でもアイツらは長くないよ。異世界から異能者を集められなくなるし、私と同じで逆召喚される筈だから。それに、渚に酷いことした連中には罰を与えたよ」

 

 眩しい光を見る様に、三葉は思わず目を細めた。慈しむ様に渚の髪を撫で続ける指は綺麗なままだ。

 

 陽咲と違い、昔から利口で強い人間だった。将来は医者になると勉学に努め、奨学金すら手が届くほど。三葉は金の心配など必要ないと伝えていたが、それに甘える様な千春ではなかったのだ。今も変わらぬ美しき女性だが、更に強くなって帰って来た。

 

「貴女を診た医師だけど」

 

越野(こしの)先生?」

 

「そう。あんなだけど優秀な奴だから」

 

「分かってる。それで?」

 

 全てを理解している。千春の瞳はそう言っていた。だから三葉の口は勝手に話し始める。

 

「後で詳細は説明があるでしょうけど、千春の身体のこと。さっき聞いた召喚の間で受けた傷、完全には治らないわ。歩く事もスムーズには難しいって。脇腹も肩も100%には……残念だけど……」

 

「そっか……仕方無いね」

 

 やはり分かっていたのだろう。あっさりと認めた。

 

「千春……」

 

「後悔なんてしてないから安心してよ。あの時はアレしか思い浮かばなかったし、この子は自分の事なんて気にもしない娘だから……でも、今こうして渚がそばに居る。三葉叔母さんにもまた会えたし、陽咲の泣き顔を眺める時間も、ね」

 

 やはり少し痩せただろうか。艶が見事な長い黒髪も、知性の宿る瞳も変わってはいないが、千春も戦場で足掻いた一人の兵士なのだ。愛する姪を、可愛らしい渚を誘拐したマーザリグ帝国に、三葉は変わらぬ憎悪を覚えた。

 

「済まない……情け無い叔母だ、私は」

 

「んー、私からしたら三葉叔母さんも陽咲も変わってるから、そっちの方が吃驚だよ」

 

 暗い空気を感じて、千春は直ぐに話を切り替えた。三葉もそれを知り、顔を上げて答える。

 

「年齢のこと?」

 

「まあ陽咲が二十歳になってるのも驚いた。私と一つしか変わらないなんて」

 

 そうなのだ。千春は異世界で一年しか過ごしていない。しかし元の世界では五年が経過していた。何よりレヴリやPLなど存在していなかったし、国家警備軍など聞いた事もない。

 

「他にもあるの?」

 

 今や(あかなし)の姉妹は歳の離れた関係から双子の如くだ。

 

「陽咲は変わらず可愛いけど、叔母さんね、一番は」

 

「はぁ? 私が?」

 

「うん。だって、私が知ってる三葉叔母さんは、結構有名なアパレル関連の企業で、かなり偉い人だったし」

 

「……」

 

「それが第三師団?だっけ? 軍の偉い人になってる。髪も随分短い。背は変わらなくて小さいままだけど」

 

「アンタね……!」

 

「シッ、渚が寝てる」

 

「くっ」

 

 気にしている身長の事を指摘され、イラっと来た。勿論雰囲気を明るくするための気遣いだと分かっているが、だからと言って許せるものでは無いのだ。千春は理想的な身長とスタイルを誇る。脚など冗談みたいに長くて細い。自由に動けなくなった姪を見て、つい悲しくなった。

 

「あのレヴリ? 化け物は世界中にいるの?」

 

「そうね」

 

「ふーん、じゃあ……」

 

 その時、軍病院の一室、千春が入院した部屋の扉が開いた。ノックも、許可もしていない。

 

「千春お姉ちゃん! まさかと思うけど、渚ちゃんが……あ、あぁーーー‼︎」

 

 シーツから少しだけ頭を出している渚を発見し、病室という事も忘れて大声で叫ぶ。バタバタとベッドに近寄り、ぐぬぬと唇を噛んだ様だ。

 

「お姉ちゃん、まさか変な事してないよね?」

 

「陽咲じゃないし、してないけど?」

 

 する訳ない。つまり、下心満載なのはどちらか明らかだった。シスコンだった陽咲だが、向かう愛情は姉から妹へと移った訳だ。まあ妹に向ける感情とは思えないが。

 

「じゃあ何でベッドで抱き着いてる……」

 

「ちょっと、陽咲」

 

「ひっ……!」

 

 世界で一二を争う恐怖の対象、叔母である三葉の声が背後から届いた。

 

「此処は病院よ。しかもノックもしないで……子供に戻って教育をし直す?」

 

 ブンブンと頭を振り、真っ青な顔色に変化した様だ。何やら昔を思い出しているのかもしれない。

 

「ごごごめんなさい……気を付けます……」

 

「ふん。自称だろうが渚の姉を自負するなら、アンタが大人になりなさいな。キスも当分はお預けね、きっと」

 

「ええ……⁉︎」

 

「ふふっ……二人の関係だけは変わってないわね。少し安心した」

 

 千春の笑顔と声が伝わったのか、静かだった渚がもぞもぞと起き出して来た。ポニーテールも解かれているから、いつも以上に儚い雰囲気を醸し出している。左手で目を擦る仕草も可愛らしい。

 

「……千春?」

 

「おはよ、渚」

 

「おはよ」

 

 短く返すと、渚は再びシーツの中へ帰って行く。三葉や陽咲の存在は意識の外なのか、異能や経験から気付かないのは不自然だろう。

 

「ちょ、ちょっと渚ちゃん! 私が、私がいるんですけど!」

 

「私もね」

 

「渚、もう起きなさい。それに余りくっつかれると暑いよ」

 

「……うん」

 

 短い返事と共に身体を起こすと、ググッと背伸びする。チラリと見えたお腹と下着に、陽咲の視線は釘付けとなった。その様子を呆れた風に見る三葉。益々ヤバい奴になってるなと思う。仕方無く気持ち悪い姪から視線を外し、肌けたパジャマを千春に整えられている渚に問うた。

 

「昨日から此処にいるの?」

 

「朝から」

 

「部屋の前とか廊下にウチの兵士が見張ってたでしょ? 報告がないんだけど」

 

「見つかってないから」

 

「……そう」

 

 一流どころを配置した筈だが、精霊には意味が無かったようだ。

 

「あのさ、お姉ちゃんも怪我してるし、渚ちゃんだって治療の途中なんだよ? 勝手に病室から居なくなったら駄目じゃない。越野先生なんて、また怒ってたからね?」

 

「……分かった」

 

 特に反論もなく、渚は素直に従う。

 

「そ、それに浮気は駄目だよ?」

 

「浮気?」

 

 姉と叔母である自分が居る場所で、この姪は何を言い出すんだと三葉は更に呆れた。

 

「渚ちゃんと私は姉妹以上、恋人以上なんだから。この間、話をしたでしょう? 手紙の返事も未だなんだからね」

 

 恋人未満じゃないのか……呆れがどんどん強化されて三葉は天を仰ぐ。と言うか、返事してないなら妹未満で恋人でも無いだろう。

 

「手紙……帰ったらキスしたいって」

 

「約束!」

 

 間違いなく約束などしていない。遂に三葉は拳を握り、頭をブン殴りたくなって来た。このまま行けば花畑(はなばたけ)以上の変態に育つだろう。千春に至っては楽しそうに観察している始末だ。

 

 お尻をベッドの上で滑らせて、ゆっくりと床に脚を下ろす。そのまま立ち上がり、自称姉兼恋人の前に渚は立った。まさか怒られるのかと陽咲は固まる。

 

「陽咲」

 

「な、なにかな?」

 

「かがんで」

 

「あ、はい」

 

「目を閉じて」

 

「うん」

 

 そして、柔らかな感触が陽咲の頬を撫でた。ほんの少しだけ冷たくて濡れている。

 

「……渚ちゃん。唇は?」

 

「調子に乗らないで」

 

「だって私達付き合ってるよね⁉︎」

 

「付き合ってない」

 

「嘘だ!」

 

「お前等……此処は病院だと言っただろうが……」

 

 地獄から響く様な三葉の声。

 

 震え出す陽咲。

 

 知らん顔の渚。

 

 花が咲く様に笑う千春。

 

 

 

 世界は未だレヴリとPLに脅かされていても……過ぎ去った時間は取り戻す事が出来るだろう。

 

 陽咲の頬を思い切り引っ張りながら、三葉はこの時を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 

 

 

 第三師団は''竜"との戦いで約半数の兵力を失い、三葉は責任を取って司令と軍を辞するつもりだった。

 

 しかし、他でも無い師団の皆が嘆願を提出して結果は翻る事になる。驚くべき事に第一、第二師団からも届いたのだ。

 

 これにより、戦力が減じた第三は形を変える。

 

 一度解体されると、新たな部隊へと再編成された。

 

「PL奪還特務部隊」

 

 PL解放に特化した特殊な部門だ。その力は日本国内に留まらず、世界の凡ゆるPLが対象となっていった。

 

 その象徴は、部隊長である三葉花奏ではない。

 

 代名詞と言える隊員は三名。その三人を支える為に、残る兵力は存在すると言っていいだろう。

 

 

 

 長女の(あかなし)千春(ちはる)

 

 彼女は本部隊の最高戦力にして、同時に世界最強の異能者だ。その殲滅力は"カテゴリⅠ"すら関係なく、()()としか思えない圧倒的な力を誇る。しかし反面、過去の戦いからか身体に障害を抱えて病弱でもあった。つまり、PL深部への侵入や連戦には注意が必要で、無制限に使える兵器とは違う。

 

 

 次女の(あかなし)陽咲(ひさ)

 

 念動(サイコキネシス)は汎用性、威力、継戦能力に長け、ある意味において部隊への貢献度は一番だろう。脚の不自由な長女を車椅子などを使わず運び、全ての戦場に踏み入る事が可能だ。また、解放後のPL跡地を復興する際に念動が大きな力を発揮する。瓦礫などの除去と運搬。その上負傷者までも運び出す事すら行うからだ。

 

 

 三女の遠藤(えんどう)(なぎさ)

 

 苗字の通り、長女や次女と血の繋がりはない。しかし、姉である二人が揃って話すのだ。渚が居ないなら私達は存在すらしていない。姉妹を強く結び付けてくれたのは彼女なのだ、と。真っ黒な銃を操り、特異な異能で世界を深く見詰める事が出来る。名高い三葉部隊長の"千里眼(クレヤボヤンス)"すら上回るとされる強力な視覚能力。PLの謎を解き明かした事でも有名となった。

 

 

 杠姉妹はメディアへの露出もそれなりにある事で、今や世界中の注目の的だ。理知的な姉と小動物の様な妹。彼女等はまさにアイドルと化し、美しい容姿も相まって凄まじい人気となっている。

 

 では、三女はそうでもないかと言うと全く逆だろう。

 

 頑なにメディアへ顔を出さない。パパラッチからも巧みに逃走し、とにかく謎多き少女だ。しかしそれが皆の興味を惹き、加熱して行く。数の力とは凄いもので、何枚かは静止画が出回っているようだ。二人の姉と同等、いやそれ以上の美貌が明かされると、もはや止まらない波へと変わった。

 

 だが、ある日から、それもパタリと止まる。

 

 世界最強の異能者、二人の姉の怒りが爆発したからだ。不埒を働く奴は一人残らず駆逐する。レヴリと同様に。そう宣言したのだ。慌てたのは各国の首脳だった。今やレヴリに対抗する最高戦力、その部隊がボイコットするかも……そうして、三女は不可侵の存在へと変貌したのだ。

 

 因みに、祖父であり日本有数の資産家である遠藤(えんどう)征士郎(せいしろう)の圧力と働き掛けがあったとされているが……噂の域を出ていない。

 

 一つだけはっきりしているのは……

 

 時に喧嘩をしながらも、日々を幸せに暮らしている事だろう。誰が見ても仲睦まじい姉と妹……そんな三姉妹なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 fin




此処までお付き合い頂いた読者の皆様、ありがとうございました。読み終えての感想など頂けたら嬉しいです。あと、もし良ければ評価も……それではまた何処かで。
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