原作:Fate/
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト 魔法使いの嫁 パロディ 言峰綺礼 クラウディア・オルテンシア 独自解釈 捏造設定 アンチ・ヘイトは一応 Fate/stay night HF ネタバレあり
わたしは、悪魔に恋をした。
“生まれながら欠落している――”
その事実を受け入れた所で、わたしにはどうすることもできなかった。
せめて何かを返そうと、あらゆる努力を惜しまなかったが、その試みもすべて徒労に終わった。
生まれつき体の弱かったわたしは、何ともないただの風邪で死にかけ、擦り傷1つでいくつもの合併症を併発する。
働く力もなく、わたしには、わたしが生きているだけで莫大に消費される治療費を1リラだって捻出することもできない。
ここまでわたしが生き永らえたのは、ひとえに教会の慈悲あってこそだ。
教会だけではないこの歳まで生きながらえるために、関わったあらゆる人に不幸を招いた。
親も。
親戚も。
知人も。
他人も。
皆、わたしから離れていった。
――生きているだけで害になる存在。
それがわたし、クラウディア・オルテンシアだ。
だから、これは天罰なのだと思った。
『こちらは今回の競売で出品された商品の中でも希少なものです!』
手枷をつけられた私は、ステージの真ん中で成す術もなく立ち尽くす。
ここは、おそらくどこかの裏オークション会場。
妙に明るいステージからは、客席を埋め尽くす騒々しい観客がよく見えた。司会者が興奮した様子でわたしを示しながら叫び、観客たちの目も呼応するかのようにギラギラ光っている。
『――では、10から!』
それを合図に、観客たちも口々に前の声よりも少し大きな数字を叫んだ。
病室育ちで世間知らずなわたしでも、自分の置かれた立場は一目瞭然だった。
――売られたのだ。
人身売買を行う怪しいオークション。売り手はこの前からお世話になっている施設の誰かだろうか?
きっとこの先碌な目には合わないだろうが、未来を悲嘆するほどの気力が、わたしにはすでにない。
そもそも、自分が病室以外の環境で生き抜けるとも思えない。
むしろ、わたしなんかが売られたお金で誰かの役に立てるなら本望だ。……買うことになる人には少し申し訳ないが。
「50!」
そんなことを考えている内に、気づけばオークションも終盤へ。10から始まった数字もいつの間にか50になっていた。
数字が刻まれ、叫ぶ声もまばらに。
ひと際大きな声と共に、会場は静寂に包まれた。
観客たちを見渡す司会。
そして、運命を決める木槌が振り下ろされ――ようとした、その時だった。
「――聖堂教会だ!」
叫び、スタッフらしき男が1人、慌てた様子で会場へ駆け込んだ。
それを合図にしたかのように、入り口の扉が吹き飛ばされる。
同時に、吹き飛ばされた扉の先から黒衣の集団が現れた。皆、黒いフードを羽織ったカソックを着て、胸には十字架をぶら下げている。そんな服装で出歩く職業などこの世でただ1つしかない。
「神……父さん?」
どうして神父さんがこんな所に?
わたしは首を傾げたが、答えはすぐに分かった。
「異端審問だ!」
再び、誰かが叫んだ。
一瞬の静寂の後、状況を掴めぬ私を置いて、会場中の観客が黒衣の男たちから逃げる様に駆け出す。
そして、
「逃げろ! 代行者が――ガッ!」
その内の1人が、神父の投擲した刃によって串刺しにされ、胸から血を流して倒れた。
「……えっ?」
わたしの口から間の抜けた声が漏れる。
しかし、神父たちの攻撃は止まらない。
地獄のような光景だった。
逃げ惑う人々を、次々に殺していく神父たち。
1人の容赦もなく。
機械的に、淡々と。
近づく者を殺し。
逃げる者を殺し。
蹲る者を殺していった。
それは、疑う余地のない虐殺だった。
わたしは成す術もなく、ステージの上からその光景をただ眺める。
その地獄の中で、偶然1人の男に目が留まった。
神父たちの中でもひと際背の高いその男は、眉ひとつ動かさず速やかに自分の仕事を果たしていく。
その男はまるで――
「悪魔……」
そして、呟くわたしの目の前にも、遂に神父が現れた。
それは偶然にも、先ほど目に留まった無表情で、悪魔のような男だった。
男は変わらず、無表情のまま剣を構える。
「ああ……そう言えば……」
オークションが失敗したということは、わたしを売った誰かにはお金が入らないということだ。この後、その誰かも彼らに裁かれることになるだろう。
結局“売られる”という行為でさえ、わたしは誰の役にも立てなかったらしい。
思えば、自分の体質を受け入れて以来のわたしの試みは、これで全て失敗したことになる。
――なら。結局、答えは決まっていたということだろう。
突きつけられた刃を見ながら、最期にそんなことをふと考えた。
わたしは欠落した存在として生まれた。
「……多分、何かの間違いだったのね」
わたしという存在が誕生したこと、そのものが。
間違いだから、ここで消えるだけ。
そう結論を下し、目の前の死を受け入れ瞳を閉じた。
……ああ、けれど。
ただ1つだけ。
1つだけ、最後にわがままが許されるのなら。
1度でいい。
一瞬でも構わないから。
誰でもいい。
――ただ誰かに愛されたかった。
誰かを愛して、家庭を持って、静かに生き絶える誰もが夢見るそんな平穏な暮らしが…………。
「…………」
と、考えていてふと気づく。
祈るように、静かにその時を待っていたが、肝心の終わりがいつまで待ってもやってこない。
なんとなくチラリと様子を伺うと、今まさにわたしへ刃を突き立てている男が、その姿勢のまま目を見開いていた。
「お前も…………」
「……?」
と、何かを呟く。
当然、何のことか、わたしにはさっぱりわからない。
しかし、それだけ呟くと男はわたしに向けていた刃をゆっくりと降ろす。
そして、
「女。――私の妻にならないか?」
そんなことを口にした。
「………………ハイ?」
――
――――
―――――――
こうして、わたしたちは出会った。
“生まれながら欠落している”
生まれつき、人として生きる身体機能の欠けたわたし。
生まれつき、人として幸福を感じる機能の欠けたあなた。
それからの2年間は、わたしにとって得難いものだった。
彼はわたしを愛そうとしてくれた。
わたしもまた、彼を愛そうと努力した。
歪な。
形だけの夫婦ではあったけど。
――ただ誰かに愛される。
それだけで私は十分だった。
だからこそ、名残惜しい。
わたしにとって、幸せだったという事実は。
あなたにとって、不幸だったという絶望だから。
結局また、わたしは与えられてばかりで、この人に何も返すことができなかった。
――けれど、今度こそは。
「私には――」
最早、立ち上がることすらできなくなったわたしに、男は思い詰めた顔で告げる。
「――おまえを愛せなかった」
予想できた言葉だった。
だから、わたしは笑う。
「――いいえ。貴方はわたしを愛しています」
そんなことはないと。
貴方は人を愛せるのだと。
生きる価値があるのだと証明するために。
だって。
――わたしは、そんなあなたにこんなにも救われたのだから。
あなたのためなら。
わたしは進んで地獄に落ちましょう。
「ほら。貴方、泣いているもの」
わたしは貴方を愛していた。
貴方もわたしを愛そうとしてくれた。
これはただ、それだけの話。
ただ、それだけで幸せでした。
正体不明のクラウディアさん。
何故、彼女は言峰のことを好きになり。
何故、信仰深いはずの彼女が最大のタブーまで犯して、彼を止めようとしたのか。
そんな『こんなだったらいいな』という妄想を煮詰めて煮詰めて、まほ嫁要素を足して、最終的にまほ嫁要素が消えたのがこの作品です。
初期の名残が、タイトルとギリギリ前半部分に残っていますが、まほ嫁を期待した方申し訳ない……。
お読みいただき、ありがとうございました。