──閃光が、闇夜を斬り裂いた。
「はっ…はっ…はぁっ……!」
そこは、遥か昔に滅びた古代都市。今はもう誰もいないはずの街の住宅地を、青年は疾走する。自身の目の前を走る標的──鞄を抱えた男を追って。
「くそっ!なんだよお前ぇっ!?」
男は全力疾走しながら振り返り、青年に向かって左手を向ける。
「『駆けよ雷獣・怒りのままに』──サンダースピアァッ!!」
ルーン語──魔力を行使するための特殊な言葉──で早口に魔術の起句を唱え、魔術【サンダースピア】を発動。突き出した掌から魔法陣が展開し、次の瞬間、男の手から青色の閃光が背後を疾駆する青年に向かって放たれた。そのスピードばおよそ時速にして100mを越す。並の人間には到底避けることも叶わないが…。
ぐん!と、青年は一気に加速し、迫りくる閃光に向かい…必要最小限、半身を逸らすだけで避ける。
その身のこなし、胆力は一般人のそれを遥かに凌駕している。
闇に紛れるような黒のローブを翻しながら、左右に軸をずらし、標準を定めさせない。
「くそっ!くそ!くそっ!とまれぇぇ!!」
男はヤケクソで魔術を放つが、青年にはかすりもしない。徐々に距離を詰められ……とうとう、追いつかれる。
服の襟を掴まれ、ぐい!と引かれる。首が締まると思った次の瞬間には、浮遊感に襲われ、その身を地面に力強く叩きつけられていた。
「かはっ…!」
肺の空気が抜けていく。衝撃でぐらぐらと揺れる視界の中で捉えた、無情に突き出される手。
「おまえ…いったい何者だ…!?」
「俺か?あんまり名乗りたくはないが…」
突き出して掌から魔法陣が展開…パチパチと青い雷が音を立てる。
「レイン──しがない魔術師だ」
閃光が、男を貫いた──。
──世界最大大陸であるここ、アリシア大陸。そのほぼ中央に位置するヴィクトアル帝国の魔術都市ブランは、常に魔術の最先端を行く、まさに魔術師の街。あらゆる施設──国営施設も娯楽施設も問わず、そこへ自然と集結している。
当然そこには、帝国王家の城──アリシア城がそびえ立ち、その権威を表している。
魔術の街であるが、もちろん魔術師以外の一般人も生活している。むしろ、魔術師は世界的に見ても少数であり、人数比はおよそ2:3。それでも、魔術師が世界的に権力を握っているのは、魔術という技術が強大であるということだろう。
「あーくっそ…めっちゃ疲れた……。さっさと報告済ませて休みてぇ……」
──そんなことをぼやきながら、黒ローブの青年は、魔術都市ヴィクトリアの門を潜ったのだった。
たぶん続くだろう…